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高CO2 と光合成の生化学 - J-Stage

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はじめに

CO2の濃度変化は,光強度,温度,水と並んで植物の 光合成に大きな影響を与える環境要因である.しかし,

CO2濃度は,ほかの環境要因とは異なり,気象の変化な どによって本質的には大きく変動するものではない.人 為的な原因による場合を除き,通常自然界で起こりうる CO2濃度変化は,極めて小さい.ただし,干ばつや乾 燥,あるいは温度ストレスなど環境変化により気孔が閉 じ,結果として葉の内部へのCO2供給が低下し,植物 にとってCO2が枯渇する場合はある.一方,植物が高 CO2環境にさらされるのは,本来は起こりえない環境で ある.しかしながら現実には,産業革命以後人類の活動 激化に伴い大気中のCO2濃度が急激に上昇している.

この60万年ぐらいは,おおよそ200〜280 ppm (μL/L) 

で変動していた大気のCO2濃度が,2013年には400 ppm を超えようとしている.植物にとっては,想定外の劇的 な環境変化が進行していると言える.

CO2の濃度上昇は,短期的(秒から時間の単位)には 光合成速度を増加させる.しかし,長期的(週から月の 単位)には,初期の促進効果は失われ,抑制的に働く場 合が多い.高いCO2環境に,長期間さらされたときの 植物の応答は多様である.基本的に同じシステムで成り 立っている植物の光合成の装置が長期間異なるCO2環 境にさらされると,どうしてさまざまな応答を示すの

か? ここでは,CO2の濃度変化の影響が大きいC3型 光合成を行う植物の高CO2環境への応答の多様性に見 る,光合成の生化学について考えてみたい.

CO2濃度変化に対する光合成の短期的な応答 1.  CO2の拡散とRuBisCOのキネティックス

CO2ガスは,気孔を通して葉内に拡散し,細胞間隙→

葉肉細胞の細胞壁→細胞膜→細胞質→葉緑体胞膜→葉緑 体ストロマの順に拡散する.葉の内部へのCO2の取込 みの度合いは,気孔の開閉の程度によって調節されてい る.CO2固定が行われる葉緑体ストロマでのCO2濃度が もっとも低くなるので,CO2の分圧差に応じて,外気か らストロマに取り込まれることになる.したがって,植 物は,厳密にはCO2濃度ではなくCO2の分圧差に変化 に応答していることになる.一般に,植物は葉の内部の CO2分圧が下がると気孔を積極的に開き,逆にCO2分圧 が上がると気孔を閉じる方向にある.葉内の細胞間隙か ら葉緑体までのCO2の流れにも,葉緑体運動が関与し ているらしい.たとえば,光合成活性が高い葉では,と くに細胞間隙の空間に面した葉肉細胞の原形質膜に葉緑 体が効率よくびっしり付着していることが観察されてい る(1)

ストロマまで拡散したCO2は,酵素RuBisCOによっ て固定される.固定されるのは,HCO3ではなく,葉

セミナー室

植物の高CO2応答-2

高CO 2 と光合成の生化学

牧野 周

東北大学大学院農学研究科,科学技術振興機構 CREST

(2)

緑体ストロマ中の溶存CO2ガスである.このRuBisCO は光合成のCO2固定のみならずO2をも基質として光呼 吸の最初の代謝産物であるホスホグリコール酸の生成反 応も触媒する.この2つの反応は,RuBisCOの同一部位 で互いに拮抗的に触媒され,2つの反応の活性比は,触 媒部位でのCO2とO2の濃度比で決まる.さらに,両反 応のKm値は,高等植物の場合,それぞれ現在の大気の CO2分圧とO2分圧に近く,そのためCO2の濃度変化す なわちCO2の分圧変化は,RuBisCOが触媒する2つの反 応の速度に大きな影響を及ぼす.つまり,葉緑体のCO2

分圧が下がるとCO2固定反応は抑制され,光呼吸側の 反応であるホスホグリコール酸の生成速度が増加する.

逆にCO2分圧が上がるとCO2固定反応が促進され,O2

の取込み反応は拮抗的に阻害される.それらの結果とし て低CO2環境では光合成は抑えられ,高CO2環境では 光合成は促進される.ここで注意してほしいことは,

RuBisCOは単純にCO2分圧とO2分圧のバランスのみ で,カルボキシラーゼ反応とオキシゲナーゼ反応を触媒 しているので,植物自身は光合成と光呼吸の分配比を調 節する機能はもっていないことである.ちなみに,高等 植物のカルボキシラーゼの 値はオキシゲナーゼの 値の3倍から4倍であるので,現在の大気分圧条件 下での両反応の活性比も3 : 1から4 : 1である.そして,

現在の大気CO2分圧からCO2分圧が低下したときの光 合成の速度低下は,単純にこのRuBisCOのキネティッ クスから見積られる値に等しくなる.しかし,現在の CO2分圧からCO2が上昇したときの光合成速度の増加割 合は,このRuBisCOのキネティックスから見積もられ る上昇分より小さい.このことは,高CO2環境下では,

酵素RuBisCO以外の光合成の律速因子が複雑に関与し てくることを意味している.

2.  CO2と光合成の律速因子

CO2分圧変化に対する光合成の生化学的な応答は,

オーストラリアのFarquharらのグループ(2) によって理 論的にモデル化され,後にSharkey(3)  によって一部改 変された(図1.彼らの理論によれば,低CO2分圧下 の光合成は葉内のCO2拡散の伝導度と酵素RuBisCOの CO2固定能力によって律速されるが,大気CO2分圧を超 える高CO2分圧下では光化学系電子伝達活性により律 速される,とある.この領域では,光合成は電子伝達活 性に律速されるのでCO2の受容体であるリブロースビ スリン酸 (RuBP) の再生産速度はCO2分圧が上昇して もほぼ一定である.しかし,一定速度で供給される RuBPをRuBisCOがCO2分圧の増加分だけカルボキシ

ラーゼ側に反応を触媒するので,その分だけ光合成速度 は増加する.そして,さらに,CO2分圧が上昇すると光 合成は,葉緑体内のデンプン合成や細胞質でのショ糖合 成に伴う無機リン酸の供給と葉緑体内でのその無機リン 酸の再利用速度によって律速される.この反応はCO2

やO2分圧には依存せず,光合成の最終産物生産過程の 反応によって律速されるため,結果として光合成はCO2

飽和の状態になると解釈されている.これらの光合成の 各律速段階の関係を図2に示した.モデルにおける光合 成のCO2に対する応答については,その後数多くの実験 によって検証された.すなわち,低CO2分圧下の光合 成速度は,RuBisCOの酵素反応としての能力によって 律速され,そして,高CO2分圧下の光合成速度は,電子 伝達活性かリン酸の再利用速度に律速され,RuBisCO の能力には律速されないことを意味する.そのため,現 在のCO2分圧からCO2が上昇したときの光合成速度の 増加割合は,RuBisCOのキネティックスから見積もら れる上昇分より小さいことになる.

低CO2分圧で,RuBisCOのCO2固定反応が光合成の 律速となっているとき,RuBisCOのほぼ100%が活性化 状態にあることは古くから知られている.しかし,イン 図1葉内のCO2分圧の変化に対する光合成速度の応答のモデ ル(2, 3)

正味の光合成速度のCO2応答.測定条件は,光飽和,葉温25℃ 

(イネの測定データ(21)  から).RuBisCO活性のCO2応答 (●),  電 子伝達活性により律速されるリブロースビスリン酸 (RuBP) の再 生産速度のCO2応答 (▲) およびデンプン・ショ糖合成に伴うリ ン酸の再利用に律速されるRuBPの再生産速度のCO2応答 (■). 

このCO2分圧変化に応答する光合成モデルでは葉の外部のCO2分 圧の変化ではなく,葉の内部におけるCO2分圧の変化に対する光 合成速度の応答として表すことによって,気孔の開閉に伴う光合 成速度の影響を除外しモデルを簡略化している.

(3)

ゲン,シロザ,トマトなどを材料に,高CO2分圧下では 約半分量のRuBisCOが不活性化してしまうことが指摘 された(4).この現象は,先に述べたように高CO2分圧下 では光合成の律速が電子伝達活性あるいは無機リン酸の 供給速度に移ることにより,それらの能力に対し過剰と なったRuBisCOの能力アンバランスを解消するため,

RuBisCO活性が抑制される現象であると解釈された(4). しかし,その後,ダイズ,タバコ,イネなどではCO2飽 和の高CO2領域においても,80%以上のRuBisCO酵素 は依然活性化状態にあることが報告された(5).しかし,

このことは,それらの種では高CO2分圧条件においても RuBisCOによる光合成の律速性が強いことを意味する ものではない.たとえば,イネの場合,RuBisCOのキ ネティックスから100 Paの高CO2分圧下で働きうるポ テンシャルのRuBisCO活性を算出すると,その値は実 測される光合成速度より常に1.5倍から2倍ほど大き い(6).このことは,高CO2分圧下のRuBisCO酵素の光 合成に対する実効割合が50 〜 70%ぐらいであることを 意味し,その割合はインゲンなどの場合と変わらない.

すなわち,高CO2環境下では,  たとえRuBisCOが高い 活性化状態を維持している種でも,光合成全体のバラン スから考えると明らかに過剰となっており,いわゆる,

RuBisCO余りの光合成になっていると結論される(7)

3.  CO2ストレス

低CO2分圧は,植物にとってストレスを受けやすい 条件であることが指摘されている(8).低CO2分圧条件で いくら光呼吸が増加するといっても,上でも述べたよう に,オキシゲナーゼ活性はカルボキシラーゼ活性より低 いので,電子伝達活性も抑えられることになる.した がって,強光下では利用されない過剰光エネルギーに よってストレスを受けやすくなっている.事実,CO2分 圧を変化させクロロフィル蛍光を測定した実験からも,

低CO2分圧条件では,吸収した光エネルギーを熱に変 換消去する系が著しく促進されることが観察されている し(9),長時間低CO2,強光処理した葉は,光傷害を受 け,光合成機能が回復しないことも報告されている(10). それに対して,極端な高CO2分圧条件を除き,高CO2

下では,1次的にも2次的にも植物がストレスを受ける 症状は,現在の段階ではまだ見つかっていない.CO2分 圧を変えた選抜実験において,低CO2分圧は植物の形 質発現に対して選択圧として働いたのに対して,高CO2

分圧は選択圧になりえなかった報告もそのことを裏づけ ている(8)

長期間のCO2の環境変化と個葉光合成

長期にわたって(週から月単位)植物が高CO2環境下 で生育すると,その乾物生産量(バイオマス量)は一般 に増加する.しかし,高CO2下で促進的であった光合 成の初期段階の応答も,日時の経過とともにその程度は 減少し,ポテンシャルとしての光合成能力は低下する.

植物種によっては光合成活性そのものが著しく抑制され る場合も見られる.このことは,植物が長期間高CO2

環境にさらされると,光合成器官あるいはそれに関与す る因子に,短期的な応答現象とは異なる変化が生じてい ることを示している.それは個体としての成長速度を上 回る光合成が高CO2環境下で一時的に行われるため,

光合成器官やその周りに光合成産物が蓄積し,それらが 何らかのメカニズムによって光合成速度を減少させると 議論されている.しかし,その一方で,長期間高CO2環 境にさらされても一切光合成抑制を示さない植物も存在 し,応答は必ずしも普遍化できない.ここでは,それら の議論を整理し,高CO2環境に対して,植物が示す多 様な応答について考えてみたい.

1.  糖とデンプンの蓄積

高CO2環境下で生育した植物では,光合成の産物で ある糖やデンプンなどの炭水化物が蓄積する.それゆえ 図2C3光合成の律速因子間の概略図

葉緑体に拡散してきたCO2はRuBisCOにより固定される.CO2の 受容体はRuBPである.初期産物はホスホグリセリン酸 (PGA) 

である.RuBPの再生産速度は,電子伝達により生産されるATP のカルビン回路への供給速度によって決定されている.そのATP 生産のためのリン酸源は光合成最終生産物であるデンプンとショ 糖合成の際に脱リン酸されたものに由来する(リン酸の再利用) ただし,ショ糖合成の経路において,ジヒドロキシアセトンリン 酸 (DHAP) とリン酸 (Pi) は,葉緑体胞膜上のリン酸トランスロ ケーターを経て,同モル比で交換される.―はRuBisCO活性に よって律速される反応を,- - - - は電子伝達活性よって律速される 反応を,- ‒ - はリン酸再利用活性によって律速される反応を示め す.

(4)

に,炭水化物の蓄積が高CO2下による光合成速度の促 進を抑える要因であるとの考えが多くの研究者によって 提唱された.糖の蓄積と光合成の制御に関しては,かつ てはショ糖合成のフィードバック阻害が注目された(11). 葉内に多量のショ糖が蓄積すると,ショ糖合成のフィー ドバック阻害が生じ,無機リン酸の再利用速度が低下 し,それによって光合成が一時的に抑制されるという考 え 方 で あ る(図1, 2参 照).し か し,シ ョ 糖 合 成 の フィードバック阻害は,デンプン合成を促進し,その際 のデンプン合成は光合成を抑制することなく進む(12). そのため,現在では無機リン酸の再利用の過程は長期高 CO2処理による光合成抑制に関与する因子ではないと理 解されている.

一 方,多 く の 報 告 に お い て,高CO2環 境 下 で は RuBisCOタンパク質量の減少が認められている.ヘキ ソースやショ糖などの糖蓄積とRuBisCOの小サブユ ニットの遺伝子 をはじめ,いくつかの光合成関連 遺伝子の発現との関係が注目された.実際,いくつかの 植物において,高CO2下で,それらのmRNAの発現量 が減少していることも観察された(13).しかしながら,

高CO2環境下で蓄積する糖と光合成タンパク質の減少 やそれらのmRNA量の減少との間には,必ずしも定量 的な相関関係が認められていない.このことから,キー となる糖の蓄積する細胞内でのコンパートメンテーショ ンの問題(14),糖と遊離のアミノ酸比からの考察(15),お よび,昼夜の遺伝子発現制御など,さまざまな角度から 解析がなされた.とくに,ヘキソキナーゼによるヘキ ソースのリン酸化が,光合成関連遺伝子の発現のセン サーとなって働いていることを指摘した論文(16) が注目 されると,ショ糖分解によるヘキソースのリン酸化代謝 が鍵となる光合成遺伝子発現を制御するモデルも提案さ れた(17).しかしながら,いずれの研究例も現在の段階 では,まだ高CO2による光合成抑制を説明するものとは なっていない.光合成関連の遺伝子の多くが,葉の緑化 を伴う展開過程で強く発現し,同時に光合成タンパク質 が生成されているのに対して,糖の蓄積や糖代謝が活発 になる時期はその時期に遅れて,葉はすでに完全展開 し,光合成タンパク質がすでに十分合成された後になる ことが,糖代謝と光合成関連遺伝子発現との因果関係が 単純でないことを物語っている(18)

一方,デンプンの蓄積と光合成速度の低下との間にも 明確な相関関係があることは古くから知られている.し かし,その因果関係も解明されていない.原因として は,高CO2下で蓄積した巨大なデンプン粒が,葉緑体 の膜構造を物理的に破壊しているような様子が観察され

たり,グラナチラコイド膜の数を大きく減少させること も報告されている(19).また,葉緑体内でのCO2拡散を 妨害する可能性のほうも指摘されている(20).植物には 光合成産物としてデンプンを優先的に蓄積する種と可溶 性糖を優先的に蓄積する種が存在し,後者に属する種で も,高CO2環境下ではデンプンを蓄積する割合が高い ことが見いだされている(5).そして,デンプンを優先的 の蓄積する種,たとえば,インゲン,コットン,ダイズ などでは,高CO2下で比較的大きな光合成抑制が見ら れ,可溶性糖を優先的に蓄積するイネやコムギなどで は,高CO2における光合成抑制は比較的小さいようで もある.両者の間には,蓄積するデンプン量の絶対値に 大きな差があるので,その違いが理由の一つかもしれな い(21)

2.  RuBisCO量の減少と葉の窒素含量の減少

多くの報告が,高CO2環境下において存在量が過剰 となるRuBisCO量の減少や部分的な不活性化を指摘し ている.このRuBisCO量の減少や不活性化こそが,高 CO2下における光合成抑制の原因であるとの指摘がある が,これは誤りである.なぜなら,先にも述べたよう に,RuBisCOは高CO2の光合成の律速因子ではなく,

理論的には,高CO2条件下でのRuBisCO量の減少や不 活性化は光合成低下に結びつかないからである.事実,

RuBisCO量を特異的に減少させた アンチセンス イネは,高CO2では野生イネと同等の生育を示してい る(22).したがって,もし,高CO2下での光合成抑制が 高CO2下で生じる現象であるならば,高CO2下の光合 成の律速因子である電子伝達活性やリン酸の再生産活性 が減少するはずである.しかし,多くの報告を厳密に検 討すると,むしろ、 逆の傾向を見いだすことができる.

つまり,高CO2におけるRuBisCOの量や活性の減少は,

対クロロフィル量や電子伝達活性,または,対可溶性タ ンパク質量や葉の全窒素含量に対しても認められる場合 が多い.すなわち,そこに認められるRuBisCO量の減 少は,かなり選択的なものであると言うことができる.

しかし,ここで注意しなければならないのは,RuBisCO 量の減少が認められる場合は常に葉の全窒素含量も減少 しているという点である(21)

一般に,葉の窒素の供給量が減少すると,RuBisCO 量はほかの光合成系タンパク質と比較しても特に大きく 減少する.この現象は,C3植物にかなり普遍的に見ら れている.したがって,高CO2によるRuBisCO量の減 少は,高CO2によるものなのか,高CO2により葉へ供 給される窒素量が減少し,それに伴い2次的に生じてい

(5)

る結果であるのかを明らかにしなければならない.Na- kanoら(5)  は,イネを材料に,異なる窒素栄養条件下 で,普通大気CO2 (36 Pa) と高 CO2 (100 Pa) で栽培 し,RuBisCO量と葉の窒素含量との関係について調べ た(図3, 左パネル).結果は,高CO2ではRuBisCOの絶 対量は確かに減少していたが,生育CO2分圧の違いに 関係なく,葉の全窒素含量に占めるRuBisCO量の窒素 割合は一定であった.すなわち,このことは,長期間の 高CO2処理で認められたRuBisCO量の減少は,生育し たCO2分圧の違いにかかわらず単純に葉身窒素含量の 減少で説明ができることを意味している.同様の結果 は,イギリスのTheobaldらのグループ(23)  によって,

コムギにおいても認められた.そして,これらの報告で は,高CO2による光合成速度の減少も葉の窒素含量の 減少で定量的に説明がつくことが明かにされた.このよ うに,イネやコムギなどでは,高CO2による光合成の抑 制は,特定の酵素やタンパク質の発現制御や活性抑制と いった生化学的な調節によるものではなく,単純に葉へ の窒素供給量の減少によるものであることが示され た(5, 23)

しかし,これらの現象も必ずしも普遍化できるもので はなかった.Nakanoら(24)  は,インゲンを材料にイネ の場合と全く同じ実験を行ったところ,インゲンの場合 は葉の窒素含量の減少に対して高CO2ではとくにRubis- coの選択的な減少が認められた(図3, 右パネル).類似 な結果は,カナダのSageら(4) によって,シロザ,キャ ベツなどでも見いだされている.これらの種ではいずれ

も高CO2条件下でRuBisCOが部分的に不活性化するこ とも認められている.しかし,その不活性化状態が長期 間の高CO2処理によりRuBisCO量が減少しても回復し ないことから,高CO2環境下でのRuBisCO量の大きな 減少は,植物が高CO2環境に積極的に馴化し,過剰に 存在するRuBisCOを選択的に減少させた応答ではない ことを指摘している(4)

以上まとめると,個葉レベルで見いだされる植物の高 CO2環境への応答は,CO2に対する直接的な応答という よりは,むしろ,蓄積する炭水化物あるいは減少する葉 への窒素分配量による2次的な応答と考えるべきもので あることがわかる.そして,それらの応答は,実は植物 の多様な成長の戦略と密接に関係し,結果として,個葉 レベルでは普遍化できないさまざまな応答として現れて いるのである.最後に,高CO2環境下におけるこの光 合成器官の多様な応答を,植物の個体としての成長と結 びつけて考察する.

CO2環境下における個体の成長と光合成

高CO2による光合成の抑制は,個体の成長を上回る 光合成産物が生産されるときに生ずる現象であることは すでに述べた.しかし,たとえそのような条件でも,光 合成器官とは別に光合成産物の貯蔵する器官を有してい るような植物では,光合成抑制が現れにくいケースが多 い.たとえば,ジャガイモ(4) やハツカダイコン(25) など の植物ではデンプン蓄積型の植物であるにもかかわら ず,光合成の抑制は観測されていない.これらの種にお いては,高CO2環境下では地下茎が著しく発達し,それ が光合成の大きなシンクとなっているとされている.結 果として,葉には炭水化物がさほど蓄積されず,光合成 は抑制されないことが示された(25).また,イネやコム ギなどでは,葉鞘が大きな光合成産物の蓄積器官とな り,高CO2環境では,葉鞘に多くのデンプンを蓄積す る(図4.そして,光合成器官である葉における光合 成産物の蓄積は比較的小さい(26, 27).そのため,葉の光 合成の抑制も比較的小さいことが推定される.それに対 して,インゲン,コットン,ダイズなどでは,光合成器 官である葉,しかもその葉緑体に多くのデンプンを蓄積 してしまうので,結果として,大きな光合成の低下に差 を生じているのかもしれない(21)

もう一つ個体レベルでの応答で重要な点は,多くの植 物で葉の窒素含量が減少するということである.この現 象は,バイオマスの増加に伴い体内窒素含量が相対的に 希釈されることによるものではない.イネの例では,高 図336 Pa CO100 Pa CO2分圧下で生育したイネとインゲ

ンの個葉の葉のRuBisCO量と窒素含量あたりのRuBisCO量の 窒素割合と葉身全窒素含量の関係(21)

イネは水耕栽培法により,異なる窒素濃度条件下,0.5 mM (△, 

▲), 2.0 mM (○, ●) および8.0 mM (□, ■) で栽培され(5),イン ゲンは同じ環境条件で4.0 mM (○, ●) および8.0 mM (□, ■) で 栽培された(24).それぞれの植物の最上位完全展開葉について調べ た.

(6)

CO2処理によりバイオマスは増加しても,葉面積は逆に 減少する場合もあり,さらに,個体レベルで評価すると 葉身への窒素分配量は低下している代わりに葉鞘や根へ の 窒 素 分 配 量 が 逆 に 増 加 し て い る こ と が 認 め ら れ

(22, 28).これらのことは,イネは高CO2環境下では明

らかに個体レベルでの植物の形と窒素分配を変えること により,個体としての光合成の調節を試みていることを 示唆する.

しかし,これらの応答はイネに絞ってもみても必ずし も一様ではない.生育ステージの違いにより異なる応答 が見られる.幼植物段階での高CO2処理では,窒素の

吸収が促進され,葉面積の減少や葉の窒素含量の低下は 観察されず,分けつ数(茎数)は増加し,光合成の抑制 は観測されない(28).イネに限らず,幼植物段階では,

高CO2が光合成に促進的に働くことが,ダイズ,コット ン,トマトなどでも報告されている(29, 30)

また,高CO2は葉の発達速度にも影響する.高CO2

で植物のエイジィングが先行し,葉の老化が促進される ことが普遍的に報告されている(31).タバコの例では見 かけ上の観測された光合成の抑制は,葉の発達速度の差 による老化促進の結果であるとも報告された(32).しか しながら,糖やデンプンの蓄積が,生育CO2分圧とは 関係なく,葉の老化を促進させる要因であることも明ら かになっている(33, 34).また,ヘキソキナーゼ欠損体の シロイヌナズナの変異体では,逆に葉の老化がCO2分 圧に関係なく遅れる現象も確認された(35).このように,

高CO2環境下で観察される光合成の応答には,植物の 炭水化物の利用の結果として,見られる現象もある.

おわりに

植物には,積極的に高CO2環境に馴化応答し効率良 く光合成を行う姿を見せていない.それは,一つには高 CO2環境が決して植物にとってストレス条件ではないた め,その環境に積極的に順化する必然性がなかったから かもしれない.また,人類活動の激化さえなければ,植 物の世代をはるかに超えて,大気CO2濃度は安定して いたはずなので,潜在能力としてCO2の濃度変化に対 応するプログラムをもっていないのかもしれない.植物 体内にCO2濃度を直接感知するセンサーはないとされ ている.おそらく,個葉レベルで認められるさまざまな 応答は,地球上の植物の多様な生き様の一部分を反映し ているのであろう.とくに,植物の窒素と糖の利用戦略 と光合成器官の発達を解析することが鍵になりそうであ る.

長期間の高CO2環境が植物の光合成に抑制的に働く ことが問題視されることが多い.しかしながら,何度も 繰り返して述べるが,高CO2が植物にとってストレス を与える環境ではないので,決して光合成を抑制させる 因子が直接働いているわけではない.あくまで,個体成 長の結果で現れてくる現象である.この20年近く,世 界中の優秀な研究者によって,野外の開放系高CO2処 理 (free air CO2 enrichment ; FACE) 実験がいろいろ な植物を対象に行われてきた.いずれの結果も,植物の バイオマスを増産させ,作物ならば10 〜 30%程度の収 量増が確認されている(36).日本ではイネを中心に岩手 図436 Pa CO2 100 Pa CO2分圧下で70日間栽培されたイ

ネの主稈1本あたりの部位別デンプン蓄積量

イネは水耕栽培法により,70日間栽培された.データは文献22か ら再計算して一部抜粋.

(7)

県雫石町とつくばみらい市でRice-FACE実験が行われ ている.その結果も,10 〜 20%のコメの増産が認めら れ,特にシンク能大きい多収品種ほど,増収効果大きい ことがわかった(37).超多収品性を示す近代品種は粒数 増や大粒改良などシンク能改善に重点が置かれてきたの で,光合成の促進効果のある高CO2処理は,さらなる収 量アップにつながったと考察される(38).作物生産に関 しても新しい育種ターゲットを考えなくてはならないの かもしれない.

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プロフィル

牧野 周(Amane MAKINO)   

<略歴>1980年東北大学農学部農芸化学 科卒業/同大学大学院農学研究科博士課程 後期修了 (農芸化学専攻)/同大学農学部助 手,助教授,同大学院助教授を経て,現在 同大学院教授<研究テーマと抱負>全人類 の食糧の80%以上が植物由来.そのうち,

半分以上はイネとコムギ.主要作物の安定 的な生産を目指して,意味のある研究をし たい

Referensi

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定的に重要なことであった︒それをとおして︑フランク王国のすべての部分においてヘルシャフト原則がより高い 範囲に関して完全な勝利に到達した︒より低い生活範囲においては︑これとは反対に︑ローマ的となった地方にお いてのみ︑諸ゲノッセンシャフトの破壊が徹底的なものであった︒