セミナー室
天然化合物の探索と創製-2第一部:天然化合物の探索と活性評価
NPPlot (Natural Products Plot) を活用した天然化合物の探索
野川俊彦,長田裕之
理化学研究所環境資源科学研究センター
はじめに
天然化合物は,その多種多様な構造と生理活性から創 薬資源として重要である(1〜3).なかでも放線菌や糸状菌 の生産する二次代謝産物は医薬品や農薬,またはケミカ ルバイオロジー研究における生物機能解明のためのツー ル,すなわちバイオプローブとして利用されているもの
が多い(4〜9).しかし,近年天然物からの新規化合物の発
見は減少傾向にある.特に新しい骨格を有する化合物の 報告は減っている.一方で,ゲノム解読などの進展から 放線菌などの微生物は単離が報告されている以上の多種 多様な未知の代謝産物を生産する能力を有していること が明らかになってきている(10, 11).それら未知の代謝産 物は実際には生産されていない可能性も高いが,生産量 が非常に微量であるために従来の分析・探索方法では見 いだされていない可能性もある.従来から行われている 一般的な化合物探索方法として生物活性を指標としたも のがある.この方法ではある特定の活性を指標に抽出物 を評価し,活性を示したものを分画し再度活性評価を行 うという行程を繰り返すことで目的の活性物質の探索を 行う.これは目的の活性物質を見つけ出すという点にお いてはとても有効であるが,その過程においてほかの活 性物質や抽出物の段階では濃度や夾雑物の影響から十分 な活性を示さない化合物を見落としている可能性が考え られる.また最近のハイスループットスクリーニングに
対して抽出物そのものでは十分な数や質のサンプルを供 給することは困難である(12, 13).一方で研究室などの限 られたスクリーニング設備では化合物がもっている活性 をすべて評価することは難しく,新規性の高い構造で あっても見落とされている可能性がある.このような問 題点を克服する手段の一つとしてフラクションライブラ リーを用いる方法が挙げられる(14〜16).われわれの研究 室でも微生物抽出物をそのままスクリーニングに用いる のではなく,簡易的に分離を行うことで粗精製物,すな わちフラクションを作製しそれを用いる方法を行ってい
る(17, 18).フラクションは分画物として保管するだけで
はなく,各種活性評価に容易に供給できるようにライブ ラリーとしてフォーマットを整え保管している.また,
既存の活性評価に頼ることなく新規性の高い構造を優位 に探索するために,フラクションをDAD-LC/MSを用 いて各フラクションに含まれる代謝産物のUV吸収およ びマススペクトルの測定を行い,得られたデータをもと にスペクトルデータベースの構築を行っている.データ ベースは,一般的なものに加えてオリジナルのデータ ベース:Natural Products Plot (NPPlot)を構築してい
る(19, 20).これは,LC/MS分析より得られた各化合物の
物性(分子量と極性)情報をもとにそれらを二次元プ ロットしたものである.化合物は二次元上の分布として 表示され,その分布パターンは菌株ごとに固有のもので ある.この分布の中で特徴的なパターンを示した領域や
菌株間で大きく異なるパターンを示した領域は,その菌 株に固有の化合物群であり,新規化合物である可能性が 高い.また,菌株間で同じような分布を示す領域は,一 次代謝産物のような共通の化合物である可能性が高い.
これを利用し効果的に新規二次代謝産物の探索を行って いる.さらに,これは類縁体の探索も優位に行うことが 可能である.本稿では,微生物代謝産物フラクションラ イブラリーの作製とNPPlotの構築,そしてこの方法を 利用した新規代謝産物の探索について最近の成果を交え て紹介する.
フラクションライブラリー
フラクションライブラリーの作製において重要なこと は,再現性がありかつ多種多様な物性を有する代謝産物 をできるだけ幅広く抽出・分離できることである.その ために特殊な装置や条件などを用いた複雑な系を利用す るのではなく,広く一般に用いられる分離方法に基づい たできるだけ単純な系を利用することとした.フラク ションライブラリー作製には,約20 〜30 Lの培養液を 用いることとし,これにアセトンを加え菌体の破砕およ び菌体内に含まれる代謝産物の抽出を行った.減圧ろ過 により菌体を除去し,得られた含水アセトン抽出液より エバポレータを用いてアセトンを留去した.残った水懸
濁液に酢酸エチルを加え分配することで,有機溶媒可溶 性画分と水溶性画分をそれぞれ調製した.酢酸エチル可 溶性画分は,始めにシリカゲルを用いた順相中圧液体ク ロマトグラフィー(MPLC)により,移動相にクロロホ ルム/メタノールの混液を用いて分画を行った.その際 の溶媒比率はステップワイズグラジエントを用い(クロ ロホルム/メタノール=100 : 0,99 : 1,98 : 2,95 : 5,
90 : 10,80 : 20,50 : 50,0 : 100の8段 階),分 画 は 各 溶 媒比率で行った.つづいて各MPLC画分を逆相HPLC により分離した.移動相にはメタノール/ギ酸水溶液の 混液を用い,リニアグラジエントにより溶出し,一定時 間で分画した.以上の順相と逆相クロマトグラフィーに よる連続的な2段階の分離により精製度の高い分画を含 むフラクションを作製することができた.水溶性画分に ついては,濃縮時間や取り扱いの簡便さを考慮し,
DIAION HP-20を用いてメタノールに可溶なものを抽出 することとし,得られたメタノール可溶性画分を逆相 MPLCにより分画した.移動相にメタノール/水の混 液を用いたグラジエント溶出により一定時間で分画を 行った.以上の分画操作により,1種類の菌株より約 400フラクションを作製した.フラクションは一部を活 性評価用およびLC/MS分析用にそれぞれ溶液化し,活 性評価用は96穴プレートフォーマット,LC/MS分析用 は専用バイアルにて保管している.残りのフラクション LC/MS
図1■フラクションライブラリー概要 LC/MS
は,活性の再評価や再精製時の評品および化合物精製用 として乾燥状態で保管している.以上の方法により,放 線菌および糸状菌30株程度を用いて10,000を超えるフ ラクションライブラリーを作製した.
NPPlot
天然化合物探索において大きな問題の一つに既知化合 物の再単離がある.これを防ぐことは,時間,手間,費 用などの面でたいへん重要であり,少しでも早い段階で の化合物の同定または推定が鍵である.そのためにはス ペクトルデータベースの構築が有効な手段の一つであ る.通常データベース構築には既知化合物のデータが用 いられる.しかし,天然化合物は非常に貴重であり,市 販されているものは少なく入手困難なものが多い.その ため既知物質であってもそのデータを収集するためには 独自でこれらを単離・構造確認し,登録を行う必要があ る.これではデータベース構築のために膨大な手間がか かってしまう.そこでわれわれは,未知化合物であって も複数の菌株から微量成分までを含む代謝産物のスペク トルデータを登録することができれば既知化合物の推定 は可能ではないかと考えた.データを菌株間で比較する ことにより同様のUV吸収スペクトル,すなわち類似の 骨格を有する化合物を見いだすことは可能である.そし てそれらのマススペクトルが一致する場合は同一化合物 である可能性が高く,フラグメントパターンからは類縁 体であることが推定できる.また複数の菌株にわたり多
くの類縁体や同一化合物が見いだされる場合は,それら 化合物は既知化合物である可能性が高いと考えられる.
逆にある菌株のみに特定の類縁体と推定される化合物群 が検出された場合には,それらが菌株特有の化合物群で あり,新規化合物である可能性が高いと考えられる.し かし,通常の抽出物を用いての分析では主成分のみしか 検出することができず,菌株間での代謝産物の比較や固 有の化合物群の探索などに利用するにはデータが不十分 である.そこでわれわれはフラクションライブラリーを 利用してDAD-LC/MSにより各フラクションに含まれ る成分のUV吸収およびマススペクトルの収集を行うこ ととした.フラクションはすでに複数回分画されている ものであり,微量成分が濃縮されているので微量成分ま でを含む代謝産物の検出が可能である.LC/MS分析は,
三連四重極型質量分析装置を用い,イオン化にはエレク トロスプレーイオン化法を用いた.得られたスペクトル データを上記の方法で有効利用するために,われわれは 代謝産物群の物性が視覚的に表現されるデータベースの 構築を行った.これがNPPlotである.NPPlotは,LC/
MS分析から得られた化合物の保持時間(極性)と
(分子量情報)をそれぞれ横軸と縦軸に取り,二次元プ ロットしたものである.各代謝産物は二次元上にドット して表示され,それぞれの座標は物性を反映している.
NPPlotは一般的なウェブブラウザで表示可能な形式で 作成されており,特別なソフトウェアなどを用いること なく,またOSに関係なく表示・閲覧することが可能で ある.プロットエリアはマウスを用いて自由に拡大・縮 培養液
含水アセトン抽出液 菌体
菌体残渣 アセトン抽出液
酢酸エチル可溶性画分 水溶性画分 アセトンによる菌体破砕 フィルターろ過
アセトン抽出
減圧下でのアセトン留去 酢酸エチルによる分配
MPLC分画
SiO2(CHCl3/MeOH系)
HPLC分画
ODS(MeOH/H2O系)
カラムクロマトグラフィー分画 DIAION HP-20(MeOH/H2O系)
MPLC分画
ODS(MeOH/H2O系)
フラクション フラクション
図2■フラクションライブラリー作 製方法概要
小が可能である.表示したい菌株を選ぶこともでき,菌 株ごとにドットの表示色を変更することもできる.これ はNPPlotを用いる化合物探索の一つの手段である菌株 間での分布パターンの比較の際にたいへん有効である.
さらに一つのドットの中に類似また同じ物性をもつ化合 物がどのくらい含まれるか(重なっているか)を表現す るために各ドットに濃淡をつけている.これにより類似 の化合物が多くある場合には濃いドットとなり,一つの 化合物しかない場合には薄いドットとなる.また,
DADデータを有効利用するために各ドットにUV吸収 スペクトルの情報をもたせている.これにより,極大吸 収値による検索そして表示の絞り込みも可能であり,類 似骨格を有する化合物を有効に探索することができる.
さらに,複数のドットを選択し,それらのサンプル情 報,UV吸収スペクトルおよびマススペクトルを一斉に 表示し比較することができる.サンプル情報には菌株や 活性評価結果,LC分析時のフラクションのUVクロマ トグラム(純度情報),そしてサンプル量などの次の段 階すなわち化合物精製のために必要な情報がまとめられ ている.これらのスペクトル情報を数値としてではな く,図として直接比較することにより,より明確にそれ ら化合物が類縁体であるかどうかを確認することができ る.次にこのNPPlotを用いてフラクションライブラリー より新規化合物の探索を行った例をいくつか紹介する.
NPPlotを利用した特徴的化合物の探索
放 線 菌 よ り 作 成 し た NPPlotの分布を詳細に検討した結果,そのプロットに 同じ分子量を有する化合物が3ドット特徴的に並んでい ることを見いだした.それらのUV吸収およびマススペ クトルは類似しており,それらが類縁体であることがわ
かった.また同時にわれわれの研究室では未同定の代謝 産物であることもわかった.サンプル情報からは,これ ら化合物を含むフラクションの一つは,比較的高純度の UVクロマトグラムを示し単離・精製を行うために十分 なサンプル量があることがわかった.以上のことからこ の化合物を単離・構造確認することとした.精製はすで に粗精製されていたことから1回のHPLC分離により簡 単に行うことができた.得られた化合物の構造をNMR や高分解能質量分析装置を用いて確認した.その結果,
β
-ケトアミド構造を有する16員環マクロラクタム骨格 を有する新規化合物であると決定し,verticilactamと命 名した(21).マクロラクタム骨格はデカリン骨格と縮合 しており,さらにエーテル結合を通してフラン環を形成 しているという非常に特徴的な骨格を有しており,この ような骨格の化合物が単離されたことは,合成化合物も 含めて初めてのことであった.残念なことに3つのドッ トのうち,2つはサンプル量が十分ではなかったために 単離・構造確認には至らなかったが,物性や分離方法は すでに確立されているので,再培養により比較的容易に 見いだすことが可能であると考えられる.Verticilac- tamはその特徴的な骨格から生合成機構にも興味がもた れる.その骨格は,比較的類似の20員環マクロラクタ ムvicenistatin(22)同 様 タ イ プIポ リ ケ チ ド 合 成 酵 素(type I PKS)により,3-メチルアスパラギン酸をス ターターユニットとして9つのマロニルCoAと一つのメ チルマロニルCoAにより生合成されると考えられる.
ポリケチド鎖より24員環マクロラクタムが形成され,
それに続く分子内Diels‒Alder反応,そしてP450による 酸化反応を経て最終的にverticilactamが生合成される と考えられる.
同様に のNPPlotに同じ分子量 を有する4つのドットが並んでいることを見いだした.
UV UV
NPPlot 図3■NPPlot (Natural Products
Plot)
UV UV
NPPlot
これらのUV吸収スペクトルもまた類似しており,これ らが類縁体であることが示唆された.これら4つのうち フラクションの量が十分であった2つに着目し,それら の単離・構造決定を行った.精製はverticilactam同様,
フラクションより1回のHPLC精製により容易に行うこ とができた.NMRや質量分析などの分光学的手法を用 いて構造を確認した結果,これらが6,6-スピロアセター ル構造を有し,また末端にカルボキサミド基をもつ特徴 的な化合物群であり新規化合物であることがわかった.
2つの化合物の違いは,側鎖ヒドロキシル基の置換位置 の違いのみであり,それぞれをspirotoamide AおよびB と命名した(23).Spirotoamide類もまたverticilactam同 様タイプIポリケチド合成酵素により生合成されると考
えられる.特徴的な6,6-スピロアセタール構造は,同様 の構造を有するtautomycin(24)やavermectin(25)の生合成 と同じようにジヒドロキケトン体を中間体として形成さ れると考えられる.一方,われわれの研究室では最近,
同様の6,6-スピロアセタール構造を有するポリケチド化 合物reveromycin Aの環構造の形成に特定の酵素が関 与し,立体選択的に環形成を行っていることを見いだし た(26).そこで,spirotoamide類にも同様の酵素が関与 しているか検討したが,類似の酵素を見いだすことはで きなかった.このことから,spirotoamide類のスピロア セタール骨格は,ジヒドロキシケトン体を中間体とし て,非酵素的に形成されると考えられる.
上記の2種の化合物については,特定の菌株における
B m/z: 1157 [M+H]+
A m/z: 1143 [M+H]+
菌株1
菌株2 菌株3 菌株4 菌株5
A B
RK-1355A RK-1355B
保持時間(分)
m/z
50.0 0.00.0
1500.0
図5■5種 の 放 線 菌 よ り 作 成 し た
NPPlotの比較と菌株特異的な分布
を示した化合物群
図4■ および
のNPPlot と特徴的分布を示した化合物群
B m/z: 1157 [M+H]+
A m/z: 1143 [M+H]+
菌株1
菌株2 菌株3 菌株4 菌株5
A B
RK-1355A RK-1355B
保持時間(分)
m/z
50.0 0.00.0
1500.0
m/z
特徴的な分布をもとに化合物の探索を行った.次に,複 数の菌株間で分布の比較を行った例を紹介する.5種の 放線菌より作成したNPPlotを比較した結果,菌株1(
sp. RK88‒1355)のNPPlotの保持時間25分前後,
1150付近に特徴的な分布を見いだした.それらのUVス ペクトルは類似しておりそれらが類縁体であることがわ かった.さらにUVスペクトルの特徴から,これら化合 物が3-ヒドロキシキナルジン骨格をクロモフォアとして 有していることが推定された(27〜30).このことと の 値から考え,これら化合物はキノリンタイプのquino- mycin類縁体であると推定された.しかし,分子量が完 全に一致する化合物の報告例はなく,これらが新規類縁 体であることが推定されたため,これらの単離・構造決 定を行うこととした.やはり精製はフラクションより HPLCによる1回の精製で簡単に行うことができた.各 種分光学的手法に基づき構造を確認した結果,その構造 をスルホキシドを通して分子内で架橋構造を有する新規 quinomycin類縁体であると決定した(31).スルホキシド の存在は赤外吸収スペクトルからも確認した.今までに 多くのquinomycin類縁体の単離が報告されているが,
スルホキシドによる架橋構造を有するキノリンタイプの quinomycin類縁体の報告はなく,これが天然から単離 された初めての例である.
以上,3種の新規化合物群について,フラクションラ イブラリーよりNPPlotを用いてどのようにして探索・
発見したかということについて紹介してきた.vertici-
lactamおよびspirotoamide類を発見した菌株は,それ ぞれtoutomycin(32〜34)およびtoutomycetin(35, 36)の生産 菌としてすでに報告されているものである.これら2つ の化合物はどちらもポリケチドではあるが,verticilac- tamおよびspirotoamide類とは全く異なる化合物群であ り,従来このような化合物群を含むほかの化合物群が見 いだされたという報告はない.今回,このフラクション ライブラリーとNPPlotを組み合わせて用いる方法に よって見いだされた化合物群である.
活性評価
最後にフラクションライブラリーの活性評価について 簡単に報告する.約6,500フラクションについて基本的 な生物活性としてHL-60細胞に対する細胞毒性,大腸菌 およびいもち病菌に対する抗菌活性を評価した.その結 果,約4分の1のフラクションが何らかの活性を示した.
フラクションライブラリーには抽出物やMPLC分画な ども含まれ,それらもフラクション同様に評価を行っ た.その結果,活性を示さなかった抽出物やMPLC分 画から作製したフラクションの中に活性を示すものが あった.これは,フラクションライブラリーを活性評価 に利用する一番有利な点であり,従来の抽出物を用いた 活性評価では検出することのできない活性を,フラク ションライブラリーを用いることによって見いだすこと ができることが示された.
32 169 42
104 982 253 140
: 1,722/6,480 検討濃度: 100 μg/mL Escherichia coli HO-141
24
24 Magnaporthe oryzae
図6■フラクションライブラリーの活性評価結果 32
169 42
104 982 253 140
: 1,722/6,480 検討濃度: 100 μg/mL Escherichia coli HO-141
24
24 Magnaporthe oryzae
まとめ
われわれの研究室で行っている天然物,特に微生物の 生産する二次代謝産物の探索方法について紹介してき た.これは,従来の抽出物を特定の活性評価に従って分 離と活性評価を繰り返し行う方法とは異なり,あらかじ め抽出物をMPLCやHPLCを用いてある一定の方法で 分離することでフラクションライブラリーを作製し,こ れを用いて化合物探索を行う方法である.さらにフラク ションライブラリーを有効利用するために,DAD-LC/
MSの分析データを利用してオリジナルのデータベース NPPlotを構築した.これは,化合物をその物性をもと に二次元プロットしたもので,それらの分布パターンは 菌株に固有のものである.この分布パターンの特徴から 菌株固有の化合物群を探索することができることがわ かった.そして複数の菌株間で比較することによって,
より明確に菌株特異的な化合物群を簡単に発見すること ができることがわかってきた.また,フラクションライ ブラリーを活性評価に用いることで,抽出物の段階では 検出することができなかった活性を検出できることがわ かった.以上のように,フラクションライブラリーと NPPlotを組み合わせて用いることにより,従来すでに 検討されていたような菌株からでもまだまだ新しい骨格 を有する代謝産物を発見できることがわかった.新しい 化合物の発見のためには,新しい活性評価方法の構築と いう生物学的なアプローチが取られることが多いが,分 離方法を変えるという化学的なアプローチでもまだ十分 に新規骨格を有する化合物を探索・発見できるというこ とを今回のフラクションライブラリーとNPPlotにより 示すことができたのではないかと思う.今後,さらにラ イブラリーおよびデータベースの拡張を行うとともに,
これを利用して新規二次代謝産物の探索を継続していき たい.それが微生物の機能解明の一助や新規活性の発見 につながることを期待する.
謝辞:本研究を行うに当たり,理化学研究所環境資源科学研究センター ケミカルバイオロジー研究グループの岡野亜紀子技術員と長田抗生物質 研究室の多くのメンバーにご協力いただいたことに深く感謝いたします.
また,本研究の遂行に当たり,生研センターイノベーション創出事業,
厚労科研費および日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究Aにご支援 を賜りましたことを感謝いたします.
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プロフィル
野川 俊彦(Toshihiko NOGAWA)
<略歴>1995年神奈川大学大学院理学研 究科生物科学専攻修士課程修了/同年小林 製薬工業株式会社(現アイロム製薬株式会 社)研究員/ 2001年神奈川大学大学院理 学研究科生物科学専攻博士後期課程修了,
理学博士/同年アリゾナ州立大学がん研 究所博士研究員/2003年同研究所助手/
2006年理化学研究所長田抗生物質研究室 技術員/2007年同研究所長田抗生物質研 究室協力研究員/2011年同研究所基幹研 究所技師/2013年同研究所環境資源科学 研究センター研究員,現在に至る<研究 テーマと抱負>天然物化学(低分子化合物 の単離と構造決定)
長田 裕之(Hiroyuki OSADA)
<略歴>1980年東京大学大学院農学系研 究科博士課程修了/1983年理化学研究所 抗生物質研究室/1985年米国NIH(NCI)
博士研究員/1992年理化学研究所主任研 究員(長田抗生物質研究室)/1999年埼玉 大学大学院理工学研究科客員教授併任/
2008年理化学研究所基幹研究所ケミカル バイオロジー研究領域領域長/2009年同 研究所基幹研究所ケミカルバイオロジー研 究基盤施設施設長/2012年同研究所基幹 研究所副所長/2013年同研究所環境資源 科学研究センター副センター長<研究テー マと抱負>ケミカルバイオロジー,生理活 性天然物化学<趣味>サイクリング,飲酒 談笑