会計学1
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第1講 現金預金と有価証券
今日の学習項目
1.運用資金の種類と分類 2.現金預金
3.有価証券
2
4.デリバティブとヘッジ会計 5.まとめ
1. 運用資金の種類と分類
• 営業活動から生じる余裕資金の運用 資金 → 営業活動 → 資金 → 営業活動 → ・・・
(本業) 営業外活動 →・・・
3
営業外活動への資金の代表的な運用形態 (1) 現金預金
(2)有価証券 (3) 貸付金
貸借対照表での区分 流動性配列法
流動資産 1年以内に 満期 (1年基準)
当座資産 現金,短期預金,有価証券
(
手元流動性)
棚卸資産
その他の流動資産 短期貸付金
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(1年基準) その他の流動資産 短期貸付金
固定資産 満期まで 1年超 (1年基準)
有形固定資産 無形固定資産
投資その他の資産 長期預金,投資有価証券,
長期貸付金
損益計算書での損益の表示
営業外損益 (継続的な損益)
預金・貸付金の受取利息 有価証券
(
株式)
の受取配当金 有価証券(債券)の受取利息(income gain)
有価証券の売却損益と評価損益
(capital gain)
特別損益 (臨時的な損益)
投資有価証券の売却損益と評価損
(capital gain)
2. 現金預金
(1)現金
紙幣,通貨,送金小切手,送金為替手形,預金手形,
郵便為替証書,振替貯金払出証書など。
(2) 預金 (2) 預金
預金・貯金,掛金,郵便貯金,郵便振替貯金,金銭 信託など。
※ 1 年を超える預金であっても, 1 年以内に期限が到
来するものは,固定資産から流動資産に振り替えま
す。e.g.,1年以内に満期を迎える定期預金。
3. 有価証券
•
金融証券取引法(2条①)に列挙された証券(1)持分証券:株式,新株予約権証書など (2)
負債性証券:国債,地方債,社債など7
※自己株式
(
金庫株)
は,資産ではなく,株主資本の控除項目と して表示します。期末評価と評価差額の会計処理は,保有目的で異なります。
Cf.全面公正価値(時価)評価(FASB/IASB)
有価証券の期末評価 日本基準
種 類 評価基準 評価差額の処理 強制評価減 売買目的有価証券 時 価 P/Lに計上し,利益に
算入する。 強制前に損失計上 満期保有目的の債
券 償却原価 ①市場性あるもの:
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券 償却原価
①取得原価による場合,
評価差額は生じない。
②償却原価による場合,
増減額はP/Lに計上し,
利益に算入する。
時価まで評価減
②市場性ないもの:
実質価額まで評価 減。債券は貸倒引 当金。
子会社株式・関連
会社株式 取得原価
その他有価証券 (市場性なし)
取得原価 または 償却原価 その他有価証券
(市場性あり) 時 価
①純資産に直入,②差 損はP/Lに計上し,利 益に算入する。
時価まで評価減
保有目的別アプローチ
•
有価証券の経済的機能に着目(1)
利殖目的随時売却を予定:売買目的→時価 満期保有を予定:満期保有→償却原価
(2)
支配目的9
子会社・関連会社:外形は有価証券だが,実質は事業投資 という理解→取得原価
(3)
その他目的持ち合い,資本提携等→売却可能だが,売買目的ではない
→時価。しかし評価差額は原則として利益に算入しない。
•
主眼=純利益の測定。利益測定からのウインドフォール(そ の他の包括利益)の排除。金融資産と金融投資
• 金融資産
外形的な性質。現金預金,有価証券等。
• 金融投資
実質的な性質(保有目的) 売買(利殖)目的で保有さ
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実質的な性質(保有目的)。売買(利殖)目的で保有さ れた金融資産。売買目的有価証券が代表例。
子会社株式・関連会社株式は,金融資産ではあるが 事業投資。子会社・関連会社の支配が目的。
cf. ,投資不動産は,外形は事業資産であるが,実質 は金融投資。
資産の外形と実質
実質(保有目的) 金融投資 事業投資
金 資産
売買目的有価証券
(B/S
の有価証券)
子会社株式・関連会 社株式
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外 形
金融資産 (B/S
の有価証券)
社株式事業資産
投資不動産 機械・設備等
(B/Sの有形固定資
産)
全面時価会計の考え方 FASB/IASB
• すべての有価証券を時価(公正価値)で評価する。 Full Fair Value Accounting.
(1)資産負債アプローチ。すべての資産・負債の実在性を認識・測定する。経 済的資源の実在性に基礎づけられた会計情報が投資意思決定に有用。
(2)会計から経営者の意図を排除する。目的別アプローチは,経営者の意図
に依拠 (1)の裏返し 収益費用アプローチは 「利益管理」(earnings
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に依拠。(1)の裏返し。収益費用アプロ チは,「利益管理」(earnings management;US),「創造的会計」(creative accounting;UK)の温床。
会計不正。
(3)金融商品の報告における複雑性の縮小。目的別アプローチ(混合属性会 計)は複雑。
※全面時価会計では,包括利益が基本的な(唯一の)利益となる。ウインド フォールも含む。 包括利益=純利益+その他の包括利益
評価の考え方 (1)
• 売買目的有価証券
(1) どの企業にも時価に等しい価値を持つ。
(2) 事業遂行上の制約がなく,いつでも売却・換金でき る。
(3)利殖目的で保有 時価の変動が 期待の実現を意
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(3)利殖目的で保有。時価の変動が,期待の実現を意 味する。
【ポイント】実現原則の例外。実現可能性基準または
「投資のリスクからの解放」基準の適用。国際的調 和化への対応,情報の有用性,企業のリスク管理 にも有用。
投資のリスクからの解放
• ASBJ[2006]『財務会計の概念フレームワーク』より。
(1)純利益は,リスクから解放された投資の成果。(第3章9項) (2)
「投資のリスクからの解放」とは,投資にあたって期待された成果が事実として確定することをいう。
(
第4
章57
項)
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成果が事実として確定することをいう。
(
第4
章57
項) cf.
事業投資の場合は,事業のリスクに拘束されない独立の 資産を獲得したとき。(同上)(3)金融投資の場合は,価値が変動したとき。事業目的に拘束
されず,値上がりを期待して保有されるため。(同上)【ポイント】実現との違い。実現は,換金可能性・処分可能性
(
実 現の第2
条件-第4
回)
を相対的に重視。リスクからの解放は,成果性(実現の第1条件)を相対的に重視。
洗い替え方式と切り離し方式
• 時価評価差額の会計処理 (1) 洗い替え方式
前期末に計上した評価差額を翌期首に戻し入れて,
当該有価証券をいったんもとの帳簿価額に復元し たうえで,翌期末の新たな時価との比較が行われる。
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たうえで,翌期末の新たな時価との比較が行われる。
(2)切り離し方式
前期末の時価評価額が翌期首に修正されることなく,
そのまま帳簿価額として引き継がれる。
※原則は切り離し方式。
評価の考え方 (2)
•
満期保有目的の債券(1)
満期に至るまでの期間に時価が変動しても,企業はその時 点での売却を予定していないので,時価が意味を持たない。満期時点では,帳簿価額と時価は一致する。満期保有とな るのは債券のみで,株式は該当せず。
(2)保有目的を変更した場合は 変更後の目的に従った処理を
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(2)保有目的を変更した場合は,変更後の目的に従った処理を
行う。【ポイント】償却原価法。債券等を額面金額と異なる価格で取得 した場合に,その差額を償還期まで毎期一定の方法で逐次,
貸借対照表価額に加算または減算する方法。安く取得した 場合
(
割引発行)
はアキュムレーション,高く取得した場合(
打 歩発行)はアモチゼーションと呼ぶこともある。利息法または 定額法で調整処理します。評価の考え方 (3)
• 子会社株式・関連会社株式
(1)これらの会社を支配する目的で保有。市場価格が あっても自由に処分できない。
(2) 外形的に金融資産であっても,実質的には事業用 資産。株式保有を通じて,子会社・関連会社の事業 資産。株式保有を通じて,子会社 関連会社の事業 用資産に投資している。他の事業用資産を取得原 価で評価するのと同様。
【ポイント】子会社・関連会社。持株基準では,子会社:
過半数所有,関連会社: 20 ~ 50% 所有。連結財務 諸表で関連情報を開示。
評価の考え方 (4)
• その他有価証券 ■例外処理
(1)以上以外の目的で保有する有価証券。持ち合い,資本提携等。
(2)市場性のあるものは,時価で評価し,貸借対照表価額とする。ただし売 却は事業遂行上制約があるので,評価差額は投資の成果とは見なされ ず,純資産の部に直入(損益計算書に計上しない)。
①全部純資産直入法:銘柄別に相殺。残額を直入。
②部分純資産直入法 評価益は純資産直入 評価 損は損益計算書
②部分純資産直入法:評価益は純資産直入。評価 損は損益計算書 に計上(利益計算に算入)。保守主義の適用。
(3)市場性のないものは,取得原価または償却原価。
【ポイント】純資産直入の意味。その他有価証券の時価は投資情報としては 有用であるが(資産負債アプローチ),投資のリスクからの解放を表すも のではない(収益費用アプローチ)。したがって,時価で評価するが,時価 評価差額は原則として利益計算に算入しない。2つの会計観の混在。保 守主義も勘案。
強制評価減
•
貸借対照表価額を時価(市場性ある有価証券の場合)または 実質価額(市場性のない有価証券の場合)まで引き下げて,評価差額を当期の損失として処理する。
(1)
市場性のある有価証券:時価が著しく下落し,回復する見込 みがあると認められない場合に,時価まで引き下げる。19
(2)市場性のない有価証券:発行会社の財政状態の悪化により
実質価額が著しく低下した場合,実質価額まで引き下げる。【ポイント】「著しさ」の基準。帳簿価額の約50%の下落をもって
「著しい」と判断する税法基準が準用されています。
平成 25 年度 会計学 1
現行の会計基準では,売買目的有価証券とその他有価証券は ともに期末に時価評価するものとされていますが,①前者の時 価評価差額は純利益に算入するのに対して,②後者の時価評 価差額はその他の包括利益に算入(または純資産に直入)す るとされています。
現行の会計基準が,有価証券の時価評価差額について,①② のような異なる会計処理を要求している理由を,230字程度で 説明しなさい。
配点20点
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解答例
売買目的有価証券は,①どの企業にも時価に等しい価値 を持つ,②事業遂行上の制約がなく,いつでも売却・換金 できる,③利殖目的で保有しているため,時価の変動が期 待の実現を意味するという条件を満たすため,その時価評 価差額は純利益を構成するもの(投資のリスクから解放さ れたもの)と見なされる。【S13より】
れたもの)と見なされる。【S13より】
これに対し,その他有価証券は,上記①②③の条件を満 たさないので,その時価評価差額は,投資情報としては開 示するが,純利益を構成するものとは見なされない。
211字
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4. デリバティブとヘッジ会計
• デリバティブ(derivative)
派生商品。←原資産=本体商品(株式,債券,金利,外国通貨,商品等)か ら派生した権利・義務を証券化したもの。独立した金融商品ではない。基 本的なデリバティブは以下の3つです。
(1)先物
特定の商品を 将来に受け渡しするときの価格を前もって現時点で契約し
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特定の商品を,将来に受け渡しするときの価格を前もって現時点で契約し たもの。
(2)オプション
将来に一定の価格で特定の商品を買う権利または売る権利を現時点で契 約したもの。コール(買う権利)とプット(売る権利)がある。
(3)スワップ
複数の当事者が商品の元本や金利を受け取る権利(支払う義務)を将来に 交換することを契約したもの。
デリバティブの会計と利用
•
【会計】金融商品に関する会計基準25
項(1)
契約に伴って生じる債権と債務については,契約の決済時 点ではなく,締結時点でその発生を認識する。(2)時価で評価した正味の債権または債務の金額を,貸借対照
表に資産または負債として計上する。23
(3)時価変動による評価差額を当期の損益として処理する。
•
【利用】通常はヘッジ目的で保有されます。資金運用目的で 保有するのは金融機関など一部の企業にかぎられます。→ヘッジ会計
デリバティブの取引例 (1)
国債先物
国債先物を
@¥98で売り建てる。
t時点 1時点
国債先物の価格が@¥94に 低下。先物を決済。
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t時点 t+1時点
差額の@¥4が,「先物利益」
となる。
デリバティブの取引例 (2)
ドルのコールオプション
t+1時点での権利行使価格¥110の ドルのコールオプションを買い建てる。
t時点 1時点
1ドルが¥120に上昇。
権利行使。
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t時点 t+1時点
差額の¥10が,「オプション利益」
となる。
デリバティブの取引例 (3)
金利スワップ
固定金利6%の借入金100万円。変動 金利にする金利スワップ契約を締結。
t時点 1時点
約定の変動金利 が4%となる。
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t時点 t+1時点
実質的な支払利息は4万円 (4%)となる。2万円が「スワップ 利益」。
ヘッジ会計
• デリバティブの代表的な利用。
ある財貨の価格変動等による損失の可能性を,デリ バティブ取引によって減殺することを目的とした取引 をヘッジ取引といい,それに対応した会計をヘッジ 会計といいます。
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ヘッジ対象の時価評価差額の認識時点と,ヘッジ手 段の時価評価差額の認識時点が異なると,ヘッジ 取引の効果が会計情報に反映されません。そのた めに,ヘッジ会計が必要になります。
ヘッジ会計には,①繰延ヘッジ会計と,②時価ヘッジ 会計の 2 つがあります。
繰延ヘッジ会計
時価評価されているデリバティブ等のヘッジ手段の損益を,ヘッジ対象の損 益が認識される期間まで,貸借対照表に繰延べる方法。
【設例】その他有価証券の社債(取得原価¥960で計上)が,t+1時点(決算日) で¥915に値下がり。取引例(1)の先物10単位をヘッジ手段として利用。
社債の評価損を純資産直入
28
社債の評価損を純資産直入。
国債先物を
@¥98で売り建てる。
t時点 t+1時点(決算日) 国債先物の価格が
@¥94に低下
先物利益¥40(@¥4×10)を「繰延先物利益」
としてB/Sに計上する。P/Lに利益として計上 しない。ヘッジ対象の社債を売却したときに,
売却時点の損益を取り崩す。
社債を売却。社債と国債先 物の時価はt+1時点と同じ
t+1+α時点
社債の売却損¥45 と先物の売却益¥40 を相殺する。
繰延ヘッジ会計の効果 t+1期 ヘッジ会計非適用 ヘッジ会計適用
B/S
その他有価証券時価評価差額 -45その他有価証券 時価評価差額 -45 繰延先物利益 40 時価評価差額 -45 繰延先物利益 40
P/L
有価証券運用損益 40 (ヘッジ手段の評価差額のみ がP/Lに反映)
-
(ヘッジの効果がP/Lに反映)
繰延ヘッジ取引の仕訳
先物購入時
(借)売建債券先物未集金 差入証拠金 決算時
(借)有価証券評価差額(B/S) 980
30
45
(貸)売建債券先物
現 金
(貸)有価証券
980 30
45 (借)売建債券先物
売却時
(借)現 金
有価証券評価差額(P/L) (借)売建債券先物
現 金
40
915 45 940 70
(貸)繰延先物利益(B/S)
(貸)有価証券
有価証券評価差額(B/S) (貸)売建債券先物未集金
差入証拠金
40
915 45 980 30
時価ヘッジ会計
ヘッジ対象に係る相場変動等を損益として当期に繰り上げて,ヘッジ手段に 係る損益と,同一の会計期間に認識する方法。
【設例】前頁の例で,社債の評価損¥45をP/Lに計上する場合。
31 国債先物を
@¥98で売り建てる。
t時点 t+1時点(決算日) 国債先物の価格が
@¥94に低下
先物利益¥40(@¥4×10)を「先物利益」として P/Lに計上し,社債の評価損¥45と相殺する。
社債を売却。社債と国債先 物の時価はt+1時点と同じ
t+1+α時点
社債の売却損¥45 と先物の売却益¥40 を相殺する。
時価ヘッジ会計の効果 t +1 期 ヘッジ会計非適用 ヘッジ会計適用
B/S
その他有価証券時価評価差額 -45 -32
時価評価差額 -45 -
P/L
有価証券運用損益 40 (ヘッジ手段の評価差額のみ がP/Lに反映)
その他有価証券 時価評価差額 -45 有価証券運用損益 40 (ヘッジの効果がP/Lに反映)
時価ヘッジ取引の仕訳
先物購入時
(借)売建債券先物未集金 差入証拠金 決算時
(借)有価証券評価差額(P/L) 980
30
45
(貸)売建債券先物
現 金
(貸)有価証券
980 30
45
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(借)売建債券先物 売却時
(借)現 金
(借)売建債券先物
現 金
40
915 940
70
(貸)先物利益(P/L)
(貸)有価証券
(貸)売建債券先物未集金 差入証拠金
40
915 980 30
5. まとめ
(1)有価証券の期末評価方法とその考え方を,正確に 理解しておきましょう。
(2) 日本基準は,資産負債アプローチと収益費用アプ ローチが混合した基準となっています。
(3) 目的別アプロ チと全面公正価値アプロ チの考
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