会計の制度性
1
補助教材
Intro Quiz What’s this?
456,316 人 vs.976 人 456,316 人 vs.976 人
2
公認会計士 税理士 日商簿記 大学入試センター簿記・会計 ERE
平成28年度受験者数の比較
3
8,644 49,245 456,316 1,249 976
短答式試験の 受験者数
全科目の延受 験者数
1~4級の合計 平成26年度 EREとEREミク
ロ・マクロの合 計
この章で学ぶこと
■Learning Objective
What is “Institution” in
4
Accounting?
制度の2つの意味
慣 習 Institution 慣 習 Institution 法制度
Legal System
法的強制力 にもとづくルール
制度会計
自生的に形成 されたルール
GAAP
ポイント整理
■Points
1. 法制度上のルールで,慣習となっていない ものがあります。決算公告(テキスト55頁)。
ものがあります。決算公告(テキスト55頁)。
2. 慣習上のルールで,法制度となっていない ものがあります。減価償却,CSR。
慣習としての制度
■Definition and Cases 文例
Giving presents at Christmas is an institution.
institution.
『新英和大辞典』研究社,1094頁。
第3章で学んだこと
1. エスカレータの乗り方・東西 2. GAAP
7
練習問題 1
■Quiz 1
慣習としての制度と法制度は,どのような関係 にあるでしょうか。
にあるでしょうか。
8
2つの制度の関係
慣 習 規範の実態の形成 法制度
慣習の制度化を促進/
阻害する外生要因
9
制度の安定性 法制度
強制力(罰則)の付与
本日のアプローチ
■Approach to Today’s Discussion
法制度と慣習の両側面から,会計の制度性を 考察します。
考察します。
制度会計legal/institutional Accounting
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トライアングル体制
会社法会計
金商法会計 税務会計
3つ法制度と会計
■3 Types of Accounting-Related Laws
1. 会社法 →会社法会計
2. →
2. 金融商品取引法 →金商法会計
3. 法人税法 →税務会計
3 つの制度会計
基本理念 機 能 特 徴
会社法会計 債権者保護 利害調整 配当規制
13
会社法会計
金商法会計 投資者保護 情報提供 企業内容開示
税務会計 課税の公平性 課税所得計算 確定決算主義
会社法
■Company Law 1. 企業統治の仕組み 2. 株主と債権者の利害調整 2. 株主と債権者の利害調整
(1)株主=現在の株主
(2)資本維持を通じた債権者保護
→配当可能利益の計算
第12章参照(会社法第461条等)
14
剰余金の配当(再掲)
■Distributable Surplus Fund
剰余金の配当を行う場合には,当該配当により 減少する剰余金の額の10分の1を,準備金の 減少する剰余金の額の10分の1を,準備金の 額が資本金の4分の1に達するまで,資本準 備金または利益準備金に計上しなければな らない。会社法第445条④
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練習問題2
■Quiz 2
左京商事は,株主総会で,繰越利益剰余金を,次 の通り,配当することを決議した。利益準備金は,
会社法規定の額を計上する。( )の金額を答 会社法規定の額を計上する。( )の金額を答 えなさい。
ただし,資本金は8,000,準備金は1,900である。
配当金 3,000
利益準備金 ( )
16
資本金
差額
x x,y
小さい方
x,y
小さい方 資本金
差額
x x,y
小さい方
利益準備金の計上額(再掲)
資本金
×1/4 準備金
資本準備金 利益準備金
配当金
×1/10
y
資本金
×1/4 準備金
資本準備金 利益準備金
配当金
×1/10
y
金融商品取引法
■Financial Instruments and Exchange Law 1. 資本市場における金融商品の公正な取引 2.
2. ディスクロージャーを通じた投資者保護
(1)投資者=現在・将来の投資者(不特定多数)
(2)企業会計基準は金商法系列の会計ルール
(3)会計基準の国際統合
法人税法
■Corporate Tax Law
(1)法人税の取扱い全般に関する事項
(2)課税の公平性
(2)課税の公平性
(3)確定決算主義
決算後に行われる株主総会で承認された決算 にもとづいて課税所得を計算すること。法人税 法第74条。
19
練習問題 3
■Quiz 3
確定決算主義の意義と,その実務における適 用の実態について,説明しなさい。
用の実態について,説明しなさい。
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確定決算主義
■Grundsatz der Maßgeblichkeit der Handelsbilanz für die Steuerbilanz
会計処理において表明された法人の意思を 会計処理において表明された法人の意思を 尊重して課税額を決定するという趣旨により ます。
企業会計>税務会計
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逆基準性
■Grundsatz der umgekehrten Maßgeblichkeit 企業は,最も節税効果の高い決算を行う傾向
を持ちます。法人税法上の諸規定が,逆に決 を持ちます。法人税法上の諸規定が,逆に決 算における会計処理の選択基準として利用さ れることになります。これを税法の逆基準性と いいます。
税務会計>企業会計
22
制度会計と企業会計基準
■Legal Accounting System and Accounting Standards 制度会計は,「企業会計の慣行」+「各法律の目的を
達成するのに必要な必要最低限の会計関連規定」で 構成されています。
構成されています。
「企業会計の慣行」に従う。テキスト51頁。
会社法第431条 金商法第193条 法人税法第22条
会社法第431条
■Case in Company Law
「株式会社の会計は,一般に公正妥当と認め られる企業会計の慣行に従うものとする」。
られる企業会計の慣行に従うものとする」。
立法法の建前としては,旧商法第32条の立場 を継承していると考えられます。
旧商法の立場
■Standpoint of Old Commercial Law
第32条「商業帳簿ノ作成ニ関スル規定ノ解釈 ニ付イテハ公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」。
ニ付イテハ公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」。
「公正ナル会計慣行」とは,わが国の会計慣 行であって,それには複数のものが存在し,
企業会計原則はその一部をなす(可能性が ある)。
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背景事情
■Legal Background
「公正ナル会計慣行」=企業会計原則とする と,大蔵省企業会計審議会に,「公正ナル会 と,大蔵省企業会計審議会に,「公正ナル会 計慣行」の形成を白紙委任することになる。
法律上容認しがたい。
※商法=法務省法制審議会の管轄。
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法律による支持
■Substantial Authoritative Support
金商法:IFRSのアドプション(国内適用)
内閣府令第73号(2009年),金融庁告示第69号
2009 73 2009 69
(2009年)。
IASBが設定するIFRS(国際会計基準)と,ASBJが 設定する企業会計基準(国内基準)は,連結財務諸 表規則にいう「一般に公正妥当と認められる企業会計 の基準」に該当するものとみなされるようになりました。
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慣習としての会計ルール
■Accounting Rule as Institution
法的強制力だけで,社会的なルールを長期・安 定的に機能させることはできません。会計ルー 定的に機能させることはできません。会計ルー ルがGAAPとしての成立。
あるルールが実務に受容されるということは,多 数の経済主体がそのルールを採用することに,
(経済的)合理性を見出しているということです。
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制度分析の必要性
練習問題 4
■Quiz 4
初めて訪れた Aix-en-Provence。
どのお店に?
解 説
■2つの均衡解
①よく知っている系列のファスト・フード店に入る。
②客がたくさん入っている店に入る。
①は自分の過去の経験を外挿(extrapolate)。
②は他者の暗黙知を利用。ガイドブック。
※繰り返された経験を通してルーティン化された行 動。限定合理性の補完。制度。
経験の繰返しが制度をより強固にする。
Pause-Café
■Why so?
Fe Ag
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Ag
Fe fer
chemin de fer, SNCFAg argent Argentine
32
ダース
dozen
Douze, douzaine Je ne suis jamais seul(e) avec ma solitude.KYOTOUNIVERSITY
試験情報
■会計学入門
1. 7月25日(火) 1限(8:45~10:05)
2. 七番教室 1回生 下4桁0001~6000 五番教室 1回生 下4桁6001~
2・3・4回生 3. 試験範囲
テキスト第1章~第7章(予定)
4. 持込み可
(1)テキスト
(2)電卓(電卓機能のみの機種)
※PPT教材,ノートは不可。
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制 度
■Institution
社会的に定着した慣習(暗黙知)。
制度とは,「人々が政治・経済・社会・組織などの 領域(ドメイン)でゲーム的な(戦略的な)相互作 用をするうちに浮かび上がり,当たり前とだれ にでも受け取られるようになった自己拘束的な ルール」(青木[2002])。
※法制度は「外生的与件」
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直感による説明
Habits Routines KnowledgeTacit
Lowest-level Habitual Culture, economy, Lowest-level
component of an institution
Habitual (rules-based) behavior
Culture, economy, institution
Routines comprise programmatic (rules-based) behavior that is grounded in the repetition of such rules over time. In time, routines become infused with tacit knowledgeーacquired through reflexive monitoring of past behavior. By J. Burns[2000].
制度理論の応用
■代表的な制度理論 1.内部組織の経済学
今井賢一他[1982]『内部組織の経済学』東 洋経済新報社。
洋経済新報社。
2.比較制度分析
青木昌彦[2008]『比較制度分析序説―経済 システムの進化と多元性―』講談社。
内部組織の経済学
代替可能な 資源配分システム
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市 場 組 織
資源配分の特徴
市 場 組 織
定 義
需要と供給の交点で決まる価 格に依拠して取引を行う場
(p.48)
2人以上の人々の協働システ ム(p.52)。内部規律に依拠して 取引を行う。
38
意思決定 分権的 集権的
取引相手 その都度異なる 固定的
経済効果 個別取引の最適化 取引の長期安定化
取引価格 最小 組織の維持費用を含む
取引コスト 多額の情報コストを含む 僅少
選択の理論
■取引コスト
不完全競争下の,複雑な性質を持った財の 市場取引。取引コスト。
1.市場→組織:資本提携,M&A 2.組織→市場:分社化,事業売却 3.中間組織:系列,サプライチェーン
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市場
M&A,資本提携
市場と組織の選択
40
組織
分社化,事業売却 中間組織
系列,サプライチェーン
■取引コストを基準にした市場・組織の選択
日本型では,中間組織がうまく活用 されている。日本企業の強さ。
比較制度分析
■基礎概念
1. 制度の自己拘束性 2. 制度的補完性 3.
3. 歴史的経路依存性
制度の自己拘束性
■Self-enforcing Power
制度化されたルールは当該領域における均衡状態を表し ます。それから離れて行動することは期待利得の点で,
個々の経済主体にとって不利な選択となります。
人々は,自分たちが自生的に作り上げたルールに拘束さ れた行動を選択するインセンティブを持ちます。自己拘束 性の作用によって制度の頑健性がもたらされます。
エスカレータの事例。
43
制度的補完性
■Institutional Complementarity
ある制度の存在や機能によって他の制度がより強固なもの になっているという関係が見られます。このような関係を
「制度的補完性」と言います。
隣接する諸種の経済社会システム(経済システム,企業シ ステム,法システム等)との制度的補完性。
※その作用をつうじて,隣接する経済社会システムもより強 固なものになります。
秋学期入学、2トラックのGWは失敗例。
44
歴史的経路依存性
■Historical Path Dependance
領域の初期状態や発展の歴史的経路が異なれば,多くの場合,各 領域で自生的に形成される制度も異なってきます。
制度の具体的なあり方は多くの場合,その歴史的経路に依存して 制度の具体的なあり方は多くの場合,その歴史的経路に依存して 決まります。制度のこのような性質を,「歴史的経路依存性」と言 います。
※異なる制度的補完性に支えられた複数の安定的システム(複数 均衡)の成立の可能性が積極的に議論されることになります。
日本の間接金融。資本蓄積の退嬰性。メインバンク制。
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経済社会システムの類型分析
類 型 経済システム 企業システム 法システム 会計の主要機能
英米型 システム
市場原理重視型 (民間規制主導)
直接金融 (株主主権)
慣習法 (投資者保護)
情報提供
(実態開示)
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システム (民間規制主導) (株主主権) (投資者保護) (実態開示)
大陸型 システム
組織原理重視型 (政府規制主導)
間接金融 (経営者主権)
成文法 (債権者保護)
利害調整 (分配可能利益計算)
英米型システム
■Anglo-Saxon System
市場原理(市場メカニズム)を重視した経済シ ステム。会計規制を含む諸種の経済規制は ステム。会計規制を含む諸種の経済規制は 民間のイニシアティブに依拠した形で実施さ れています。
主要な特徴
1. 直接金融が主流。株主主権型のコーポレート・
ガバナンスが支配的となります。
2. 慣習法主義(判例法主義)が採用され,会計関 連法制においては情報開示をつうじた投資者 連法制においては情報開示をつうじた投資者 保護が基本理念として謳われています。
3. 会計に期待される主要機能は情報提供であり,
とりわけ企業の経済的実態(キャッシュ・フロー の創出能力の基礎となる資産・負債の実態等)
の開示が要求されます。
大陸型システム
■Franco-German System
組織原理(経済主体間の長期安定的関係)を 重視した経済システム。会計規制を含む諸種 重視した経済システム。会計規制を含む諸種 の経済規制は政府の主導によって実施され ています。
※わが国の経済社会システムもこの類型に 属します。
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主要な特徴
1. 間接金融が主流。企業においては株主の発言 権が相対的に弱く,そのかぎりで経営者主権型 のコーポレート・ガバナンスが支配的となります。
2. 成文法主義が採用され,会計関連法制におい 2. 成文法主義が採用され,会計関連法制におい ては保守的経理をつうじた債権者保護が基本 理念として謳われています。
3. 会計に期待される主要機能は利害調整であり,
とりわけ分配可能利益の計算が要求されます。
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類型分析のまとめ
■ Wrapping Up the Discussion
1. 制度の全体状況をグローバルな見地からス ケッチ。単純化(概念化)。
ケッチ。単純化(概念化)。
2. 日本での制度変化は,大陸型から英米型へ のシステム移行を本質とする。
3. 会計システムと隣接システムの制度的補完 性。ある均衡から他の均衡への同時的かつ 整合的な移行。テキスト62頁。
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まとめ
■Key Takeaways
1. 制度には,①法制度(regal system)と,②慣習
(institution)という,2つの意味があります。
2. わが国には,3系統の制度会計が存在します。それ 2. わが国には,3系統の制度会計が存在します。それ ぞれの特徴と機能を,正確に理解しておきましょう。
3. 慣習としての制度には,自己拘束性,歴史的経路依 存性,制度的補完性といった特徴があります。
4. 制度派理論を適用することで,会計のダイナミックな 姿を観察することが可能になります。
52
Appendix
ゲーム理論の応用
参考文献
藤井秀樹[2007]『制度変化の会計学』中央経済社,
53
藤井秀樹[2007]『制度変化の会計学』中央経済社,
第7章。
制度の形成プロセス
■Formation Process of Institution
考察の前提
1. 複数のルールが存在する。
54
1. 複数のルールが存在する。
2. ルールの優劣は先験的に決まらない。
3. 経済主体が共有しなければルールの価値はな い。情報の比較可能性。
逢引のジレンマ Battle of Sexes
A B サッカー オペラ
55
サッカー 2.1 0.0
オペラ 0.0 1.2
55
会計学への応用
56
A B ルールx ルールy
ルールx 2.1 0.0
56
ルールx 2.1 0.0
ルールy 0.0 1.2
プレーヤー x,y の最適反応曲線
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pはAがルールxを選択する確率 qはBがルールxを選択する確率
事前の調整をしない場合の均衡
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■Equilibrium of Mixed Strategy
Aがルールxを2/3の確率で選択し,ルールyを1/3の 確率で選択し,かつ
Bがルールxを1/3の確率で選択し,ルールyを2/3の 確率でするとき
AとBは,ともに期待利得2/3を得る。
ナッシュ均衡
ナッシュ均衡
59
■Nash Equilibrium
他のプレーヤーの戦略を所与とした場合、どのプ レーヤーも自分の戦略を変更することによって,
レーヤーも自分の戦略を変更することによって,
より高い利得を得ることができない戦略の組み合 わせ。
ナッシュ均衡の下では、どのプレーヤーも戦略を 変更する誘因を持たない。
事前の調整をする場合の均衡
60
■Equilibrium of Correlated Strategy
偶然機構(たとえばサイコロ/国際機関)に選択をゆだ ねる場合,AとBはともに,1/2の確率でルールxまたは ルールyを選択する。
ルールyを選択する。
AとBは,ともに期待利得3/2を得る。
ナッシュ均衡
「戦わず」に「事前に調整する」方が,A・B双方にとっ て期待利得は高くなる。