経済と環境07春学期試験
全体的な講評
まず、試験はそれまで行われた講義の内容についての理解を基にして行われるものであ るということに注意して欲しい。当然、試験問題は、講義内容に基づいて出されている。
したがって、講義に全くあるいはほとんど出席せず、あるいは講義内容を理解せずに問題 の意図を汲み取り、解答することは困難である。
残念ながら、明らかに講義に出席せずに試験に臨んだと思われる答案が多数見出された。
こうした答案の多くは題意を理解せずに回答している。また、講義で言及した内容を浅く しか理解していないため、回答も全く常識的なものになっている。
次に注意したいのが、事実の誤認、あるいは時代や地名の取り違えである。多くの答案 が「大量のCO2排出による大気汚染」と書いていたが、これは具体的に何を示すのだろう か。仮にこれが地球温暖化(気候変動)問題を指すのだとしたら、産業革命の脈絡で答え るべき内容ではない。さらに、いわゆる「ロンドンスモッグ」は1952年の事件を指し、こ れも産業革命時代の事象とは異なる。
いずれにせよ、講義に出席しないで回答しようとするのが無理なのである。それを十分 注意して欲しい。
なお、あまりにも字が汚いため判読できない答案があった。もちろん、そのような答案 は採点の対象にならない。
解答例と解説 問1
(1) 産業革命以前の初期工業化において、製鉄・製塩・醸造・染色などの工業が発展し、
燃料としての木材需要が増加した。また海運業の発展に伴って造船業も栄え、この ため造船原料としての木材需要も増加した。加えて農耕地拡大のため森林は伐採さ れ、エネルギー源として利用しやすい薪炭財が枯渇した。一方、18世紀半ばダービ ーが石炭を用いた製鉄法を開発し、ワットが蒸気機関を改良・実用化するなど、需 要の面からも薪炭材以外のエネルギー源を求める技術が開発された。
(2) 1800年ブリテン島でみると、1500万トンの石炭が生産されたが、これは610万ヘク タールの森林面積、ブリテン島の 1/4 の面積に相当する。既にこの頃英国では森林 が枯渇していたので、これだけのエネルギーは石炭でなければまかなえず、産業革 命は不可能であった。19世紀の初め、英国全体の石炭生産は 2000万トンに及び、
これは光合成で作られた有機物から利用できるエネルギーを超えていた。このよう なエネルギー源である石炭を利用したからこそ、当時の英国の鉄道の発展が可能に なったのである。しかし、工場における石炭燃焼は亜硫酸ガスなどによる都市の大 気汚染や酸性雨をもたらし、また鉄道は沿線での煙害をもたらし、大きな環境の犠
牲を強いた。
解説
(1) エネルギー革命、すなわち畜力・水力・薪炭材などから石炭にエネルギー源が変化 した理由が問われている。エネルギー革命の内容を問うているのではないことに注 意。なお、問題で問われている産業革命においては、石油は利用されていない。ま た、「海外から輸入された石炭」と書いた答案があったが、実に驚きである。石炭は 18世紀以前から既に利用されていた点にも注意。
(2) 多くの答案が、都市の人口集中化を効果として挙げているが、これは極めて間接的 な影響であって、より直接的な効果を解答すべきである。また、オオシモフリエダ シャクの色の変化も本質的な解答とはならない。さらに、この時期に地球温暖化問 題が起きたとする答案が多数見受けられたが、これも不可。上の解答例では、石炭 利用の経済効果を強調しているが、逆に環境破壊の効果を強調してもよい(ただし 具体的に!)。なお、ジョン・イブリンの活躍は17世紀末。
問2 豊かさのなかでも貧しさのなかでも、環境破壊は起きる。人間の経済活動は多かれ少
なかれ環境に負荷をかける。たとえば、貧しさのなかでも森林の過伐採による森林破壊は 起きるが、豊かさのなかでも不適切な保全による森林の破壊が起きる。無垢の自然でない 限り、人間が適度に手を入れないと自然環境の劣化するのである。農業も同じで、豊かさ のなかでも貧しさのなかでも、不適切な土地管理によって土壌浸食や地味の低下が起きる。
河川や地下水の汚染も同様である。しかし、一方、豊かさによる特徴的な環境破壊もある。
大量のエネルギー使用に伴う地球温暖化がその例である。また、高度な科学技術を駆使し た有害物質の過剰利用、不適正管理も別の例である。貧しさのなかでの環境破壊の特徴の1 つは、人々が環境の質に留意する余裕や技術・資本がないために起きてしまうということ である。熱帯林伐採によって植民して土地を破壊すること、ごみを適切に処理せず排出す ること、工場廃水を未処理のまま放出することなどがその例である。
解説
豊かさと貧しさに共通な環境破壊と相違する環境破壊を整理するのには自分の考えを大い に用いてよい。しかし、それは説得的でなければならない。上の例のように、現象面が同 じもので整理する方法もある。また、人間の動機に基づいて整理する方法もある。ただし 具体的な例がない場合、あるいは不適当である場合得点はできない。
問3 かつて旧ソ連は、アラル海に注ぐ2つの川、シルダリア川とアムダリア川を灌漑し、
穀物や綿花を生産した。この生産においては、多くの農薬や化学物質を使った。灌漑によ ってアラル海は干上がり、海の生態系が破壊されるとともに、周辺環境は悪化した。一方、
大量の化学物質使用による汚染によって、肝炎や貧血症あるいは胎児の異常が起きるなど 近隣住民の健康は悪化した。また、塩害によって農業生産も悪影響を受けるようになった。
解説
「具体例をもって答えよ」とあるのだから、単に「旧ソ連で大気汚染があった」と言って も不可である。国や地名を出し、具体的な内容を示さないと点はつかない。多くの答案が この条件を満たしていなかった。