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shoryo kassei sanso ni yoru kagakuteki seitai bogyo kiko no kasseika to seitainai sanka shogai no kan\u27wa ni kansuru kenkyu

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lnches −F Cm 一 い稲川大学審査学位論文(原土) M 一 ω 4 N C n ( 刀 N ω ∽ C

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少量活性酸素による化学的生体防御機構の活性化と

    生体内酸化傷害の緩和に関する研究

1996年2月

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第1章 緒 論    1.1 研究の背景と目的    1.2 生体内酸化傷害と化学的生体防御機構の概要    1.3 研究の構成 第2章 化学的生体防御機構の特性  第1節 各種活性酸素種によるDNA損傷と各種抗酸化物質によるその阻害    1.1 要 約    1.2 はじめに    1.3 材料と方法    1.3.1 試料調製法    1.3,2 試料測定法    1.4 結 果    l.4.1 各種活性酸素種によるDNA損傷    1.4.2 各種抗酸化物質によるDNA損傷の阻害    1.5 考 察    1.5.1 活性酸素と発癌との関係    1.5.2 活性酸素によるDNA損傷と抗酸化物質によるその阻害  第2節 生体膜の脂質過酸化反応とSODによるその阻害    2.1 要 約    2.2 はじめに 1 7 7 19 2.3 材料と方法  2.3.1 実験材料の選定と調製法  2.3.2 実験方法 2.4 結 果 2.4.1 赤血球ゴーストにおける脂質過酸化反応とSODによるその阻害 2.4.2 肝ミトコンドリアにおける脂質過酸化反応とSODによるその阻害 jI

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  2.5 考 察   2.5.1 生体腔における膠質過酸化反応   2.5.2 SODによる脂質過酸化反応の阻害 第3節 HB-SODによる高血圧症の改善   3』 要 約   3.2 はじめに   3.3 材料と方法   3.3.1  自然発症高血圧ラット(SHR)   3.3.2 HB-SODの投与と血圧の測定   3.3.3 組織化学的解析  3.4 結 果   3.4.1 HB-SOD投与後の血圧変化   3.4,2 HB-SOD投与後の組織化学的変化  3.5 考 察 第3章 少量活性酸素による化学的生体防御機構の活性化  第1節 低線量X線照射によるSODの誘導    1.1 要 釣    1,2 はじめに    1.3 材料と方法    1.3.1 試料調製法    1.3.2 SOD活性の測定    1.3.3 SODmRNAの解析    1.4 結 果    1.4.1 成熟ラット牌のSODの誘導    1.4.2 胎児ラット肝のSODの誘導    1.5 考 察  第2節 低線量X線照射によるHSP70およびHOXの誘導    2.1 要 約    2.2 はじめに │ │ 25 32 32 41 2.3 材料と方法  2.3.1 試料調製法  2.3.2 mRNAの解析 2.4 結 果 2.4.1 RT-PCR法の改良 2.4.2 HSP70の誘導 2.4.3 HOXの誘導   2.5 第3節   3.1   3.2 考 察 水浸拘束およびパラコート投与によるHSP70,SODおよびHOXの誘導50 要 約 はじめに 3.3 材料と方法  3.3.1 試料調製法  3.3.2 mRNAの解析 3.4 結 果  3.4.1 水浸拘束による誘導  3.4.2 パラコート投与による誘導 3.5 考 察 第4章 少量活性酸素による生体膜の構造変化と機能活性      51  第1節 低線量X線照射による特異的フミノ酸残基およびNa゛ ,K゛-ATPase 51      活性の変化    1.1 要 約    1.2 はじめに    1.3 材料と方法    1.3.1 試料調製法    1.3.2 試料測定法    1.4 結 果    1.4.1  リン脂質およびコレステロールの変化    1.4.2 特異的フミノ酸残基の変化        │11

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第2 h 察 3. 考 △に 節 2 2 2 1 2 3 ATPase活性の変化 培養細胞における脂質過酸化反応に対する低線量X線照射および 引 vit.Eの影響 要 約 はじめに 材料と方法 2.3.1 試料調製法 2.3.2 試料測定法 2.4 結 果  2.4.1  2.4.2 2.5 考 脂質過酸化反応に対する低線量X線照射の影響 脂質過酸化反応に対するvit.Eの影響 察 第5章 少量活性酸素による生体内酸化傷害の緩和  第1節 低線量7線胸部照射によるS囲血圧の降圧    1.1 要 約    1.2 はじめに    1.3 材料と方法    1.3,1 試料調製法    1.3.2 試料測定法    1.4 結 果    1.4.1 照射によるSHR血圧の変化    1.4.2 SHR胸部大動脈SODの特性    1.4.3 照射によるSHR胸部大動脈SOD活性の変化    1.5 考 察  第2節 低線量7線事前照射によるフロキサン糖尿病症状の緩和    2.1 要 約    2.2 はじめに IV 2.3 材料と方法  2.3.1 実験動物と臓器 2.3.2 2.3.3 2.4 結  2.4.1  2.4.2 実験条件と試料調製法 試料測定法 果 弊臓中のSOD活性と過酸化脂質量の変化 ラングルハンス島β細胞の障害の変化 2.4.3 血糖値の変化   2.5 第3節 3 3 3 1 2 3 考 察 ラドン吸入による高血圧、糖尿病および疼痛の緩和に関する 関連血液成分の変化 要 約 はじめに 材料と方法 70 70 75 3.3.1  ラドン泉の放射能 3.3.2 試料調製法 3.3.3 試料測定法 3.4 結 果  3.4.1 高血圧関連血液成分の変化  3.zl.2 糖尿病関連血液成分の変化  3.4.3 疼痛関連血液成分の変化   3.5 第4節   4.1   4.2 86 考 察 低線量X線照射と水浸拘束の過剰酸化ストレスによる胃潰腐の変化92 要 約 はじめに 4.3 材料と方法  4.3.1 試料調製法  4.3.2 mRNAの解析 V

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4.4 結  4.4.1  4.4.2 4.5 考 果 HSP70およびHOXのmRNA発現量の変化 胃潰瘍の変化 察 第6章 結論と将来の課題  第1節 結 論  第2節 将来の課題 謝 辞 参考文献 研究業績 VI 囲 96 99 101 102 107

第1章緒論

1.1 研究の背景と目的  生体にとって酸素と水はともに必要不可欠なものであるが、その半面、生体内 に生成した過剰な活性酸素は毒性を有し、これが生体内酸化傷害の蓄積プロセス を経て細胞や組織障害につながり、動脈硬化などの成人病、老化および発癌など 生体に種々の病的状態を生み出しているとの報告が、近年多くなされてきた。例 えば、老化は過剰のストレスなどに由来するフリーラジカルが原因となって生成 される過酸化脂質の蓄積に依存するとしたフリーラジカル(大半が活性酸素であ るので、以下、便宜的に活性酸素として扱う)老化説l)。2)  が提唱されている。 この老化説によれば、過剰の運動などに伴い代謝活性が促進されると生体の各組 織の酸素消費量が増加し、ミトコンドリアで発生する活性酸素が増える。これに より生体膜への脂質過酸化反応物の蓄積や組織・臓器の障害が起こり、これらの 連続的な有害反応が集積された結果、老化などを促進するとされている。  これに対し、生体は酸素を利用する過程で生成される活性酸素による障害を防 御するために様々な化学的防御機構をもっている。この防御機構は適度な酸化ス トレス、即ち少量の活性酸素を生体内に発生させる環境下では活性化する可能性 かあり、注目されている。例えば、適度な運動はストレス解消や呼吸器、循環器 系の機能を高め、抗酸化作用を示すvitamin E(vit.E)を有意に増加させ、疾患 や老化の原因物質である過酸化脂質量を減少させるなど生体にとって有益である との報告例3)がある。また、“若返りの湯”とも言われる放射能温泉であるラド ン温泉の適応症には、活性酸素病と言われる脳疾患や糖尿病などがあり、組織循 環や脈管作動物質などに着目した研究により、この機構の解明に資する報告がな されている4)。5)  ○

 化学的防御機構のーつとして、superoxide dismutase (SOD)かある。このSOD は、過剰なsuperoxide anion (02-)を特異的に02とH202に不均化分解して消去 する酵素であり、1969年にMCCordとFridovichらにより発見された6)。抗酸化物 質であるSODをマウスに投与すると疾患などが抑制される報告7)が多く、反響を 呼んでいる。他方、生体内に少量の活性酸素を生じさせる低線量放射線によりこ のSODの酵素活性が増加し、過酸化脂質量が減少し、膜流動性が増加するとの基 1

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礎的な知見は、我々の研究により既に明らかにしている6-lo)。  このように、活性酸素に対する生体内防御機構が生命維持に極めて重要である ことが認識されてきている。しかし、生体に及ぼす適度な運動などによる作用や ラドン温泉の適応症などの機構を解明する上で、活性酸素代謝系物質などの指標 に着目した詳細な研究は十分でなく、対応が期待されている。このため、本研究 ては、まず化学的生体防御機構の特性と少量活性酸素による活性化の有無につい て検討する。次に重要な生命活動を司る生体膜の構造と機能に及ぼす少量の活性 酸素の作用について検討する。さらに老化や疾患の原因と言われる生体内酸化傷 害に及ぼす少量活性酸素の作用について検討する。これにより、生体内に少量の 活性酸素を生じさせる適度の物理的酸化ストレスなどが、化学的生体防御機構お よび生体内酸化傷害に及ぼす作用について系統的に定量化できるとともに、その 機構解明に役立つことができる。 1.2 生体内酸化傷害と化学的生体防御機構の概斐 川生体内における活性酸素の発生  日常生活において、02-、H202、・OH、OC1 − などの活性酸素は、体内に摂取 した飲食物をエネルギーに変換する時、食品添加物などを摂取した時、ウイルス や細菌が体内に侵入した時、ストレスを感じた時などにより形成される。これら

の活性酸素の主な生成系としては、xanthine-xanthine oxidase (X-XOD)系、( reduced)nicotinamide adenine dinucleotide phosphate (NAD(P)H)系、ミトコ ンドリア電子伝達系およびミクロソーム電子伝達系の4つがあると一般的に考え られている。これらのいずれかの方法で生成された02-やH202は、比較的安定な 活性酸素種で、それぞれ単独では生体膜の脂質過酸化反応を開始する因子になら ないと言われている。しかし、通常、生体内あるいは生体膜を取り巻く環境には Feイオンやその他の遷移金属イオンが存在することから02-やH202はそれらの金 属イオンの触媒下に鉄一酸素錯体を生成し、これが脂質過酸化反応の開始となる と考えられている11)-13)  。なお、活性酸素にはラジカル(・OHなど)、非ラジ カル(OC1 −やH202など不対電子を持たない)、およびラジカルであるがアニオ ンとして重要な働きを示す02-などがある。  他方、実験学的に活性酸素を生体内に生じさせる方法としては、本研究でも採 2 用した電離放射線(X線、7線、α粒子)照射や水浸拘束などによる物理的酸化 ストレスやパラコート薬剤投与などによる化学的酸化ストレスを動物に施す方法 かおる。電離放射線は、国際放射線単位および測定委員会(【nternationaI Comm-ission on Radiation units and Measurements (ICRU))は、Report 19 (1971 年)において直接電離粒子と間接電離粒子とに分類している。前者は衝突(クー ロンカ)によって電離を起こさせる粒子、従って電子線、陽子線、α粒子などの 荷電粒子がこれに属する。後者は、核反応を起こすことができるか、前者を発生 させることのできる非荷電粒子、従って中性子線、光子(電磁波)などがこれに 属する。光子で電離能力を持つのは、X線、7線および紫外線の範囲である。X 線と7線は物理的性質を同じくするものであるか、用語上は、7線は原子核内か ら生じる電磁波、X線は原子核外で生じる電磁波として区別されている。水浸拘 束は、02-などの活性酸素を胃粘膜に発生することによる障害(胃潰瘍)モデル として多用されている。パラコート(H心-ぐづづ-CIlj)は、ビピリジリウム化 合物であり、除草剤として有名である。殺草機構は、パラコートフリーラジカル 形成一→酸素による酸化−→酸素の1電子還元による02-である。パラコートに より細胞内に02-を発生させる系として多用されている。 (2)活性酸素による生体内酸化傷害  活性酸素は、その反応性の高さにより種々の生体構成成分と反応し、それら分 子の損傷を引き起こす。  核酸は活性酸素により、リン酸エステル鎖の切断、チミンの切り出し、チミン グリコールの生成、塩基の不飽和二重結合へのラジカル付加、塩基の環開裂、脱 フミノ、N-オキシド生成、メチル基の酸化、糖酸化、DNA鎖切断、DNAと蛋白と のクロスリンクなどが生じ、遺伝的障害が生じると考えられている。  生命活動に重要な働きをしている酵素などの蛋白質も活性酸素により損傷を受 ける。アミノ酸残基の酸化修飾、SH基の酸化、芳香族アミノ酸の消失、ペプチド 鎖および水素結合の切断などにより、結果的に重合体、フラグメント化、脱アミ ノ、脱炭酸などの反応が生じ、高次構造に変動を生じ、クロスリンクなどを起こ して酵素蛋白は失活する。  脂質は種々の生体膜の主成分として必須であり、膜の構造保持および膜結合酵        −3−

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素による膜機能発現に関与している。生体膜の脂質に多く含まれる多価不飽和脂 肪酸は活性酸素による過酸化を受け易いため、リン脂質の過酷化か生じ、結果的 にリン脂質の崩壊、生体膜の物理化学的変性が生じ、脂質依存性の高い膜結合酵 素が失活して膜機能障害を生ずる。酸素存在下で一度ラジカル反応が脂質に生ず ると、ラジカル連鎖反応により次々と脂質が過酸化され、損傷が拡大する。  その他にも種々の生体構成成分が活性酸素により酸化的に損傷を受け、細胞お よび組織の傷害を引き起こし、上記の損傷などと共に、炎症、老化、発癌、動脈 硬化症などの病因、病態に関与する。 (3)化学的生体防御機構  生物は生体防御系、代謝系、ホルモン系、並びに神経系により自己の恒常性  (ホメオスタシス)を維持している。この内、外来の異物や自己由来の不用成分、 異物的成分を適切に処理するという立場からの維持を生体防御と呼んでいる。こ の生体防御機構を時間軸で観ると、初期防御系と免疫系に大別される。  初期防御系は、血液中の細胞性防御因子の場合、免疫系が関与せずに作動し、 異物の侵入後2∼3日までの防御の主役となり、ホルモン系や神経系と共に、日 常の健康維持の防御系となる。免疫系は、異物侵人後の4∼6日後まで主役を務 める系と7日以後に主役を務める系とがある。この初期防御系に関与する体液性 因子には、凝集素群、殺微生物因子群、補体など多くのものが含まれる。また、 細胞性因子には、異物粒子を取り込み消化する好中球、単球およびマクロファー ジである食細胞、化学活性物質(イヒ学メジエーター)を分泌して作用を発揮する 好酸球や好塩基球、ガン細胞やウイルス感染細胞に結合して直接的に細胞傷害作 用を発揮するnatural killer(NK)細胞が含まれる。次に例えば、高等な哺乳 類では、初期防御系に免疫系が積み重ねられているので、初期防御系と免疫系と の役割分担が可能である。即ち、異物が生体内部へと侵入すると、生体側は初期 防御系から免疫系へと展開する連続的バリアで対応する。相手によって連続バリ アーは変化するが、基本骨格は共通している。例えば、細菌が侵入した場合、生 体内部では、補体活性化→好中球→マクロファージ→免疫防御へと連続バリアー が展開する。さらに初期防御系は、免疫系以外の要素であり、即応能力に富む。 また、増幅能力は低いが、病原性の低い微生物群や老廃した自己細胞や、過剰な 4− 自己産物などの処理はできる。他方、免疫系は、4∼7日間の分裂・増殖のため の期間が必要なので、即応能力には欠ける。 しかしリンパ球の分裂・増殖によっ て戦力を増大できるので、増幅能力には富む。従って、初期防御系の壁が破られ た場合、免疫系による集中攻撃が行われる。  化学的生体防御機構は、主に初期的防御を担っている。次にこの化学的生体防 御機構について、もう少し詳しく述べる。  化学的生体防御機構は、生体内に生じた過剰な活性酸素を消去したり、また損 傷を起こした分子を修復したりして、結果的に生ずる障害を防御する幾重にも連 なった機構である。第1番目の防御機構は、活性酸素の変生を抑制するむので、 予防的抗酸化物質(preventive antioxidants)と呼び、SOD、H202を消去する catalase(Cat)、およびperoxidase、H202および脂質過酸化物を消去する glutathione peroxidase (GSH ・ PX)などがある。 2番目は、それでも生成して くる活性酸素を捕捉して安定化するもので、ラジカル捕捉型抗酸化物質(radical scavenging antioxidants)と呼び、vitamin C(vit.C)、vit.Eおよび尿酸な どがある。 3番目は、生じた傷を修復し、または再生するむので、修復・再生機 能(repair ・de novo)と呼ぶ。別の観点で整理すると、酵素的にはSOD、Catお よびGSH ・ PXなどかあり、・OHおよび 102の消去酵素は存在しない。非酵素的 には、メタロチオネイン、vit.C、vit.E、glutathione(GSH)、フラボノイド、 ユビキノン、フェノール類、フェリチン、ビリルビン、トランスフェリンなど多 くの消去物質がある。また、細胞内では活性酸素生成部位は局在するが、防御物 質もそれぞれに応じて分布していると推測されている。  このように、生体では上記の活性酸素消去物質などが働いていて、生理的に発 生する活性酸素は障害を引き起こさないように防御されている。しかし、何らか の原因で生理状態が変化することにより細胞内活性酸素が増加すると、上記の消 去機構が誘導合成される可能性がある。さらに、活性酸素によって生じたDNA損 傷を修復するシステムもSOS応答反応として、あるいは適応応答の結果として、 活性酸素に誘導される可能性がある。 ″ J

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1.3 研究の構成  本論文は、第1章から第6章より構成されている。  第2章では、老化や発癌の代表的な原因であり生体防御機能を検討する上でも 重要な02-などの活性酸素種に対するSODなどの抗酸化物質の特性、即ち化学的 生体防御機構の特性について、次の内容を検討する。まず代表的な活性酸素種に よるplasmid DNAの損傷、およびこれに対する各種抗酸化物質による阻害作用の 程度について検討する(第1節)14)。次に各種生体膜における代表的な脂質過酸 化反応、およびこれに対するSODの阻害作用の程度について検討する(第2節) 15)。さらに代表的な活性酸素病である自然発症高血圧ラット(spontaneous hypertensive rat:SHR)に対する血管内皮指向性SOD(heparin-binding-SOD:HE SOD)による高血圧症の改善効果の程度について検討する(第3節)1o。  第3章では、少量活性酸素による化学的生体防御機構の活性化の有無について 次の内容を検討する。まず低線量X線照射によるSODの誘導機構について遺伝子 レベル(SODmRNAの発現量)での解析により解明する(第1節)17)。同様に、低

線量X線照射によるheat shock protein (HSP)70およびheme oxygenase (HOX)の 誘導について検討する(第2節)18)・19)。さらに水浸拘束およびパラコート投与 によるHSP70、SODおよびHOXの誘導について検討する(第3節)19)。  第4章では、少量活性酸素による生体膜の構造と機能の変化について、次の内 容を検討する。まず低線量X線照射による特異的アミノ酸残基およびNa゛ 、K゛− ATPase活性の変化について解明する(第1節)2o)。次に培養細胞における脂質 過酸化反応に対する低線量X線照射およびvit.Eの影響について検討する(第2  第5章では、少量活性酸素による生体内酸化傷害の緩和の有無について、次の 内容を検討する。まず低線量7線胸部照射によるSHR血圧の降圧作用について解 明する(第1節)22)。次に低線量7線事前照射によるアロキサン糖尿病の緩和 について解明する(第2節)23)。さらにラドン(α線)吸入による高血圧、糖 尿病および疼痛関連の血中物質の変化について検討する(第3節)24)。他方、 低線量X線照射と水浸拘束の過剰酸化ストレスによるHSP70とHOXのmRNA発現量 および胃潰瘍の変化についても検討する(第4節)18‰  第6章では、本研究の結論と今後の課題についてまとめる。 6

第2章化学的生体防御機構の特既

第1節 各種活性酸素種に よるDNA損傷と各種抗酸化物質によるその阻害 1.1  要 約  SODなどの抗酸化物質によりDNA損傷、特に1本鎖切断が抑制され、その結果 突然変異頻度の減少による発癌抑制の可能性のあることが、以下の知見より示唆 できた。

(1)02−、・OH、およびOCI − によるplasmid DNA の損傷は、いずれも1本鎖切 断を示すopen circle DNA の生成が主であった。

(2)活性酸素の初期過程に生成する02−によるDNA損傷に対し、Cat、diethy1-enetriaminepentaacetic acid (DETAPAC : Feキレート剤)、desferroxamine( Desfera1 : Feキレート剤)、N、N’ -dimethylsulfoxide (DMSO : ・ OH消去剤)およ びethano1(EtOH:ラジカル消去剤)を事前投与すると、いずれも60-80%阻害し SODは100%阻害した。  なお生体には上記の活性酸素消去剤の内、SODとCatが含有されている。 1、2 はじめに  発癌はDNA損傷に伴う突然変異に起因する可能性が高いことから、DNA損傷と SODなどの活性酸素消去剤との関係を明らかにすることは、化学的生体防御機構 の特性を検討する上で重要と言える。このため、各種活性酸素種を人工的に生成 し、それによるplasmid DNA の損傷程度を測定・解析する。また、これらのDNA 損傷に対する各種活性酸素消去剤を事前添加した時の阻害の効果について検討す る。 1.3 材料と方法 1.3.1 試料調製法 1)plasmid DNA の精製  本実験に供するplasmid DNA は、全塩基配列などの構造と機能が良く知られて いるpUC19を用いた。このplasmid DNA はニッポンジーン㈱より購入し、大腸菌        一了一一

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に形質変換して大量培養した後、精製して実験に用いた。なお本法には従来の方 法に比べ、短時間で精製でき、また超遠心分離器という特殊な大型機器を使用し ないという特徴がある。以下に手順を記す。  pUC19 plasmidを大腸菌HB101へ形質転換し、アンピシリンを含んだプレート に植菌した。プレートに形成された1コロニーを2 m1のアンピシリンを含む培養 液(レBroth)へ植菌し、37°C、6時間培養後、アルカリ抽出法にてプラスミドの 入っていることを確認し、200m1あるいは400m1の培養液で37°C、24時間培養し た。その後、170μg/m1のクロラムフェニコールを加え、更に12時間培養した。 菌体を集菌し、5m1の緩衝液(10mMグルコース、1mM EDTA、10mM tris-HC1)中に 懸濁した。これに10mlアルカリ性sodium dodecylsulfate (SDS)溶液(0.4N NaOH:2%SDS=レ1))に懸濁し、O°C、5分開静置した。 7.5m1 CH3C00Na(pH 4.8)を加え混和した後に0℃、30分開静置した。遠心分離(8、000rpm、10分)後、 上流を50mlコニカルチューブヘ移し2-プロパノールを13.5m1加えて、室温で10分 開静置した。遠心分離(10、000 rpm、10分)後、上浦を除去し得られた沈涜を70% EtOHで洗浄し、乾燥させた。乾燥した沈活を400μ1のTEに溶解した。これに 1600μ1の5M LiC1 と30μ1の染色用10μg/m1臭化エチジウム(エチジウムブロ X I へ ド)を加え、O°C、5分開静置した。遠心分離(5、000rpm、5分)後、上浦を カラムにかけた。 plasmidの分画に当量のブタノールを加え混和後、遠心し水圏 (下層)とブタノール層(上層)とに分離し、上層を捨てた。この分離操作を繰 り返した。水圏に2倍量のEtOHを加え、-20 °Cで1時間以上静置した。遠心分離  (15、加orpm、10分)後、上浦を捨て沈涜をEtOHで洗浄し乾燥後、200μ1のLO を加えて溶解し分光光度計(吸光度260nm)によりplasmidを定量した。  前述のカラムは、Cellulofine GCL-2000-m (生化学工業㈱)を使用した。シリ コン製グラスウールを10m1シリンジに平らになるよう一杯に充填した。緩衝液状

の0、4m1 LiC1、20mM tris-HCI 、および1mM ethylenediaminetetraacetic acid (EDTA)(pH 8.0)を2カラム容量流して、このカラムに試料を流入した。最初の

0.8m1は捨て、残りを0.4mlずつ分画して採取した。これから10μ1ずつ分取し アガロース電気泳動によってplasm-idの採れている分画を確認した。

Fig.2-1 Metabolism of s【】meActive Oxygens

2)活性酸素種の生成、plasmid DNA との反応、および抗酸化物質の添加  Fig.2-1に実際に生体内で生じる代謝経路の内、本研究で用いた3つの活性酸 素種に関する経路を示した。即ち、その活性酸素種はX-XOD反応系により得られ る02-、Fenton反応(H202十Fe2゛→・OH十Fe3゛十〇H-)により得られる・OH、お よびH202にC1-を加えることにより得られるOC1-である。  次にplasmid DNA 1 μgの入った反応液に上述の各種活性酸素種を濃度を変え て反応をさせるとともに経時的に反応を止め、電気泳動を調べることでDNA損傷 の量を測定・解析した。更に、これらの反応系においてSOD、Cat、DETAPAC、 Desfera1、DMSOおよびEtOHの活性酸素消去剤を添加することでDNA損傷がどの程 度、阻害されるかを検討した。 1.3.2 試料測定法  本実験ではアガロースゲル電気泳動法25)を用いDNA量を測定した。アガロー スゲルはアガロース緩衝液の懸濁液を溶解し、スロットと呼ばれる矩形の溝のつ

いたガラス板に流して作った。この緩衝液はtris Borate EEDTA緩衝液(TBE)を用 い、アガロースの濃度は0.7%とした。これを電気泳動の箱に入れ、ゲルの両端

に両電極がゲルの溝と平行になるように置いた。次にゲルを緩衝液に完全に浸し

(11)

得られたDNAの試料を薦糖を含む電気泳動用緩衝液に溶解して溝の底に沈むよう に置き、0.5μg/m1を含む8%アガロースゲルで50 V、2時間の電気泳動を行っ た。この際、電流を流しDNAをゲル中で泳動させるか、アガロースは分子ふるい の働きをするので、中性でマイナス電荷をもつDNAは大きさに従って、陽極に動 く。長さの既知なDNAマーカーを隣の溝で泳動させることによって標準曲線を作 り、分析するDNAの大きさを決定した。このマーカーはλDNAを制限酵素Hind l目で切断したものである。電気泳動されたアガロースゲルは、ネオパンSSフィ ルム(ASA100)を用いて、紫外線光下DNAを検出し、写真撮影した。即ち、DNA はゲル中のエチジウムブロミドと結合し、紫外線によって励起され、明るいオレ ンジ色の蛍光を放ち分離したバンドを形成する。フィルム現像後、Nikonフィル ムスキャナーLS-3510FによりApple社Macjntosh Quadra900 に取り込みそのネガ フィルムを「NIH lmage 」ソフトを用い画像解析することによりバンドを定量化 しDNA損傷の割合を検出した。なおアガロースゲル上でのDNA量はエジチウムブ ロミドの蛍光量と相関性があり、簡単に定量できる。損傷の無いプラスミドはね じれ型(highly twisted:HT)であるが、1本紙切断を受けると円形型(open cレ rcle)また2本紙切断が起こると直線型Oinear)になり電気泳動上の移動度が 異ることで簡単に識別できた。  即ち、Fig.2-2左に示すようにアガロースゲル電気泳動上ではplasmid pUC

19DNAを損傷の程度に応じ、泳動原点に近い方からopen circle 、1inear、HTの

順に泳動度で簡単に見分けることができる。同図右にHT DNA、open circle DNA

および1inear DNA の概念図を示した。

1.4 結 果

1.4.1 各種活性酸素種によるplasmid DNA の損傷

1)02-(X-XOD反応系)によるDNA損傷

 Fig.2-3にX-XOD反応後におけるDNA損傷の経時変化を示す。即ち、予備実験

で明らかにした最もopen circle DNA を増加させた濃度である100m uni ts/m1 の

XODにより得られる約10μM/分の02-に伴い生じるDNA損傷の程度を求めた。同 図上にはアガロースゲル電気泳勤像を、下はこの像より算出した各々のDNA量を 示す。これより1inear DNAの生成は120分の培養後でも認められなかった。しか 10  Open、 Linear二j    HT−; C I ● - ● ・ - ・ | ・ L _ . -・

‘i石S

;,

S.j=41L,

+6K)nd llt; 14)nd Open Linear

◎次力HT

円g.2-2 DNA Forms of Plasmid and their Electrophoretic Mobilities

しHT DNAは時間と共に減少し、それと並行してopen circle DNA の生成は120分 後にはHT DNAを上回る勢いで増加していることがわかった。

2)・OH(Fenton反応系)によるDNA損傷

 Fig.2-4に・OHに伴うDNA損傷の経時変化を示す。本実験では30μM H202と予 備実験で明らかにしたFe2゛の影響度の少ない10μMのFe2゛の反応による損傷の程

度を求めた。これより1inear DNAの生成は認められないこと、反応直後にHT DNA 量が少し滅少し、open circle DNA が少し増加しただけでそれ以降は大きな変動 は無いことからDNA損傷の程度は強くないことがわかった。

(12)

な に べZ︵︷ ・・・一一● ●I’“ ゛‘-● −・・一 ・・ 一一 。 ■・−== =    ㎜㎜        ・ミ唇皿jll=RI      Tjmp ljrh・「02 (;。nerating lmin) 2 0 0 田0 へ △

匹。

○ o岫●●●−●-‘−● 0 50 HT O匹n  hneal・ ○△ ● 1 0 0

│・iml, allll・I・02 (;eneralinM lmin,

--・こ

−Open −Linsar

-一一HT

Fig.2-3 Time Dependent Enhancelent of DNA Da咄ge by Superoxlde    Generating System.Used xOD 脆s 100 muni t/m1. Upper panel    shows the pattern of dalaged DNA distribution in agarose    gel electrophoresis. HT,hiRhly twisted DNA; Open, open    circle DNA: Linear,1inear DNA.

3)0臼−によるDNA損傷

 予備実験で明らかにしたopen circle DNAが増加した100μMのOC1 −による DNA損傷の経時変化をFig.2-5に示す。これよりOC1 − 処理直後では、時間と共 にHT DNAが急激に減少し、それに並行してopen circle DNA が増加することがわ かった。しかし反応1分後から、速やかにopen circle DNA も減少に転じている

二とがわかった。

4.2 各種抗酸化物質によるDNA損傷の阻害

Fig.2-6に02-([XOD]=100 1U/ml 、反応120分後)、・OH(10μM FeS(h十

30μM H202、反応120分後)およびOCI −([OCド]=100μM、反応5分後)        勺2-ぼ ″ ‘ VN二 --一一-一一一一 0 0.25 0.5 1  10 60 2闘 公遠 k 1 0 0 A 90 120 0 │’II11,・;114,・I・・(111(;lヽ111・I・;ihIUい111111 0 l l ・

/c ̄o寸こ

ふ●-●.1 /● 】 m l ’ i l l t l ・ 5 0 1 0 0 OH(。;,・nlヽI・。¶.inμlmln ←Open 4−Linear ←HT

Fig.2-4 Time Dependent Enhancement of DNA Damage hy Hydroxy1     Radical Generating System(Fenton reaction,10μM FeS0,     and 30μM H202),HT,highly twisted DNA; Open, open     circular DNA: Linear,linear DNA.

のそれぞれの活性酸素種により生じるplasmid DNA 損傷に対して10 U/mL 圓D、 100U/m1 Cat 、1mM DETAPAC 、1mM Desfera1、140mM DMSOおよび170mM[StOHをそ れぞれ事前に添加することにより、どの程度、損傷を阻害するかの解析結果を示 す。ここで各種活性酸素種の生成条件は実験により、最も活性酸素を発生させる 条件を選定した。また各種活性酸素消去剤の濃度はそれぞれが活性酸素を最も消 去すると報告されている値を用いた。同図より以下のことが明らかとなった。 1)02-によるDNA損傷に対しては、Cat、DETAPAC、Desfera1、DMSOおよび EtOHのいずれも60-80%の阻害作用が認められたが、特にSODにおいては完全に (100%)阻害作用を示した。 2)・OHによるDNA損傷に対しては、SODに 13 よる阻害は少ないが、CatやFenton

(13)

t″﹂  y

凹0

0 0.2S 0.5 0.751 2 3 4 5

 111im,・ aftr・1・0(.j G,・nl・1・atingimjnl

1 削 )

  

旺/八yハ

o;,;ごこ..ふ1..

0 2 6 8 Tim,ヽaft,・r{}CCI’ GI・nl,rating lmln ←Open ←HT Q狛

Flg,2-5 Tlme Dependent Enhancement of DNA Damage by    Hypochlori te. The concentration of NaOCl was    100μM. 反応の際のDETAPACやDesfera1によるFeイオンのキレート化によって強く阻害さ れることがわかった。またDMSOやEtOHによって、ほぼ完全に阻害された。 3)OC1−によるDNA損傷に対しては、SODやCatによる阻害は少なかったか、 Feイオンの午レート化やEtOHによってほぼ完全に阻害された。 1.5 考 察 1.5.1 活性酸素と発癌との関係  活性酸素による発癌の可能性については、既に長い研究の歴史かおるが、実際 に実験的に証明されたのは、ごく最近のことである。関連する報告として、正常       ベト 1 0 0 0   0 只︺  rり %Ojua︵。︷ VN(i Jo uo !1 !q!L{ul 40 20 0 ㎜   ♂ ‘ W ㎜  l   U  ̄H   W ぎ ご j 惣 1 ヽ j j -│ i , ∼ ? ミ フ り − 戸 Sヽ ひ 肖 Jq 9 j j ヨ 呂 ∃ X 呂 ∃ K § 《 E K 万 ヨ ) 02 ・OH OCj l{eac・tiveoxygen Specjes   S(・avいnμcly 回SOD(10 u面s ml`I ocatalasら100 1川面mn ロDETΛE)A01mNn 口Desrcraレ1 「巾 □DMSO(140 m昿 囚1{thanold70 11ふU

Fig.2-6 Effect of various Scaven2ers on DNA Damage lnduced by    Active Oxygens and Radicals. Dalaged DNA was quantitated    at 30 min,5 min, and 5 min for x-XOD,・0}l and OCI-.    respectively.Concentrations of various scavengers were    described in figures.

肝眸上皮細胞培養系を調製し、ferric nitrilotriacetate (Fe-NTA)で処理して 細胞の重なりや凝集などの癌化を示唆する変化の誘導に成功し、この変化がSOD により抑制されることが明らかにされた26)。またFe-NTAをWistar系ラットの腹 腔内に注射し、高率に腎腺癌を発生させることができたとの報告もある27)。こ れらのことは活性酸素が発癌と関係し、その初期反応の解消にSODが大きく寄与 し、発癌抑制に働くことを意味する。即ち、何らかのストレスなどにより生体内 で初期の段階に生成する活性酸素は02-である。この02-を消去することは、そ れ以降の段階で生成する・OHやOCI − の量を阻害することに関係するため、S()D が発癌抑制の観点からも重要視されている。  、我々は、低線量のX線や適量のラドン(α線)により各種臓器や組織において 15−

(14)

四 1 1 ■ 聞D活性が高まること8J-10J を既に明らかにしている。このことは低線量放射線 か発癌抑制の効果を生じる可能性を示唆している。活性酸素によるDNAの不可逆 的変化と細胞応答の可逆的変化は、互いに影響しあいながら、細胞をいくつもの 段階を経ながら癌化の方向に長い時間をかけて押し進める働きをしている。発癌 に至る機序には、直接DNAに作用する遺伝子突然変異のみならず、誘発される染 色体欠損の原因となる染色体突然変異因子の生成、および膜の変性を介して DNAに変化をもたらす経路がある。これらの経路の内、DNA宝鏡に作用して1本 鎖切断、または2本紙切断をもたらしこのことを通して広範囲な染色体欠損や転 座につながる染色体突然変異が重要と言われている。  DNAは核膜に結合しており、DNA合成の開始には核膜が関与する。膜脂質の過 酸化の最終生成物であるmalondialdehyde(MDA)がDNAに結合し、DNA合成を阻 害することや突然変異を起こすことなどが明らかにされている。膜の損傷あるい は変化により、DNA合成および蛋白質の合成が極度に低下し、DNA合成および鏡 切断の再結合が阻害される。膜損傷は、それ自身が DNA合成などの細胞増殖に 不可欠な反応を阻害するなどの影響を及ぼしDNA修復能を低下させる原因ともな っている。発癌の多くはDNA損傷によって誘導されることから、言わばこの膜介 在DNA損傷は、結果として発癌につながる可能性が高い。これに対し、膜流動性 とDNA修復能の間にかなりの相関性のあることが認められている。即ち、膜が適 当な流動状態にある場合、DNAの修復能を最大限に発現させる要因になると考え られる。これに関連して我々は、低線量のX線や適量のラドン(α線)により過 酸化脂質が抑制され8)-lo)、しかも適度に膜蛋白質の流動性が尤進する9)。10) こ とも既に明らかにしており、この観点からも低線量放射線による発癌抑制の可能 性のあることが示唆できる。 1、5.2 活性酸素によるDNA損傷と抗酸化物質によるその阻害  ラジカルによる発癌は、DNA損傷によるものが中心である。事実、02-やFen-tonなど種々の反応によって形成されるH202によるDNA損傷が明らかにされ、そ の危険性は種々のラジカルスカペンジャー系のモデル実験により明らかにされて いる“)。この解析を行うため様々な方法が用いられてきたが、多くは分離した DNAに対する酵素的並びに非酵素的な活性酸素の作用の解析であった29)、so)  ○        -16-ニれらの研究の中には抗腫瘍剤として作用するadriamycinのDNA損傷作用に関す るもの29)、重金属との作用を見たもの“’などもあるが、多くはFeイオンが関 与した・OHによるものと考えられる現象であり、生成される損傷DNAについては 大腸菌のDNAを用いた研究により5-hydroxy methy1-2` -deoxyuridine(HMdued) やcis-thymidine glyco1(dTG)の形成などが明らかにされている。本研究で用レ たplasmid DNA による解析は活性酸素作用の研究に適したものと考えられるが、 これを使用した研究は余り多くなくデータの蓄積が期待されていた3口。これま での研究の多くは・OHによるDNAの1本領切断に関するもので、plasmid DNA の 構造的特性を利用した研究は、未だ充分に行われていないのが現状であった。本 研究により得られた知見を以下に示す。  02-によるDNA損傷に対しては、SODをはじめCat、DETAPAC、DMSOおよび EtOHいずれも阻害作用を示したことから、この反応が・OHラジカル及びFeイオン に依存していることが示唆できた。切断はSODやCatによって阻害されるが、Fe イオンを除くと切断量が減少することなどからHaber-Weiss反応(02一十H202→ ・ OH十〇H 一十〇2`)で生成する・OHが切断の原因であることがわかった。この 知見は、同一条件下では・OHの解離定数(pKa=11.85)が他の活性酸素種(OC1 −  (pKa=8.54)、02-(pKa=4.88))に比べて大きいことからも裏付けられる。他 方、化学発癌物質もDNAの化学的修飾や主領切断など、様々な形でDNA損傷に関 係する。そして化学発癌物質の作用が変異原性と相関をもつことがわかっている が、活性酸素との関連で調べられた例は今までほとんどない。Catを共存させて おくと、DNA切断は顕著に阻止され、SODもCatほどではないが、阻害効果かお る。EtOHなどの・OH消去剤が有効であることから考えて、やはりDNA切断の原因 は・OHであり、またフリーなDNAの系での切断にFeイオンが必須なことから見て H202、02-およびFe2゛の3者により・OHを生ずるFenton型Haber-Weiss反応に由 来するものと考えられる。前述の通り生体内では活性酸素代謝の初期段階で発生 する 02-を多く消去すること、このためにSODが多く存在することが結果とし て・OHの生成を阻害することにつながり、領切断を少なくすることになる。なお

OC1 −濃度が10μMより100μMの間の条件でopen circle は増加し、それ以上

の濃度の条件下では減少しだのはOC1`による損傷が大きいために高濃度では DNAが容易に断片化され、アガロースゲル上では観察されなかったためと考えら

(15)

れる。  DNA 1本紙切断の大部分は、比較的短時間に修復されてしまう性質のものであ る。しかし、ラジカル結合体の場合のようにDNAに結合した状態で、ラジカルが 活性酸素生成に与かるとすれば、1本紙切断は容易に2本紙切断となり、修復の 困難さは極めて大きくなるはずである。これに関連して促進期における活性酸素 の関与は細胞膜レセプターに特異的に結合する発癌補助剤12-O-tetradecanoy1-phorboト13-acetate(TPA)で詳しく調べられているが、ここでもSODはTPAの変 異促進を抑制することが明らかになっている。  活性酸素による2本紙切断を示す報告としては、ラジカル開始剤である2、2’ -Azobis(2-aminopropane)Dihydrochloride(AAPH)をplasmid DNA に添加するこ とで得られた例がある。このAAPHは、実際の生体内では発生しない活性酸素種で あり、この場合でも2本紙切断の量は1本紙切断の量の最大1/6程度でDNA損傷 の多くは1本紙切断であった。また哺乳類細胞に高線量X線を照射し細胞内に活 性酸素を発生させた場合、概ね2本紙切断は1本領切断に比べ5-10%の割合で生 じると言われている。 18 第2節 生体膜の脂質過酸化反応とSODによるその阻害 2.1  要 約  以下の知見より、生体膜においてFe3゛やX-XOD反応により生じた活性酸素に 伴い脂質過酸化反応が促進され、この内X-XOD反応に対しSODによる阻害作用が 認められた。しかも、この現象はvit.E欠下で顕著であることがわかった。 巾vit.E欠の赤血球ゴースト膜においてFe3゛やX-XOD反応で脂質過酸化反応が促 進された。またX-XOD反応やFe3゛十X-XOD反応に対しSODは80-90%も強く阻害 された。 (2)vit.E欠の肝ミトコンドリア膜においてFe3゛のみで脂質過酸化反応が促進され た。またX-XOD反応に対しSODによる阻害作用が認められた。次に同じ膜を熱処 理した場合、Fe3゛を含むComplete系では反応時間に依存して脂質過酸化反応が促 進された。これに対しSODによる阻害は認められなかった。 2.2 はじめに  脂質過酸化反応については、その基質となる不飽和脂肪酸が多く分布している こと、過酸化反応に伴って験の構造や機能に大きな障害がもたらされる可能性か おること、そして生命現象に不可欠な様々な機能をもつ脂質二重層であることな とがら対象部位として生体膜に注目した。生体膜については特に高線量放射線照 射による脂質過酸化とその影響に係る研究が多くなされている赤血球、およびミ トコンドリアの生体験について検討する。生体内で生成される02’は、生体膜の 脂質過酸化反応を促進する初期活性酸素である。 しかも、それがSODにより消去 可能なことも知られている。しかし生体験の脂質過酸化反応は生成される02-と その消去により形成されるH202との反応でいわゆるHaber-Weiss反応32)による ・OH形成が脂質過酸化の直接の原因と考えられている。これに対する防御として はH202を消去して水と酸素に変えるCatや・OHを消去するGSH ・ PXなどが存在す る。また生体験にはvit.Eなどの抗酸化物が存在するが、02-がどのように脂質 過酸化に関与し、SODがその消去をどのようにして行うかについては系統的な検 討は行われていない。このため、本節では以下の項目の検討を行う。 19

(16)

①X-XOD反応などで生成される02-がFe3゛触媒下・OHを生成し、それが赤血球ゴ ースト膜およびミトコンドリア膜の脂質過酸化反応を促進するか。 ②その反応はvit.E欠ラットで、さらに促進されやすいか。 ③その反応に対しSODがどの程度、阻害するか。 2.3 材料と方法 2.3.1 実験材料の選定と調製法 O vit.E欠ラット  本実験には、正常およびvit.E欠の雄性Wistarラットを用いた。 vit』欠ラッ トはMachilinらの方法に準じて920gのvit.Eの含まれていない原料(オリエンタ ル酵母㈱製)に80m1のstripped corn oi1 と430m1の湯水を混合して調製した飼 料を5∼7過酷のラットに与え、2ヶ月間の給餌により飼育することで得た。 2)赤血球ゴースト  赤血球は、細胞質に含まれるヘモグロビンで02を運ぶ作用があるため、活性酸 素による影響は大きい。その上、脂質過酸化を受け易い不飽和脂肪酸を多く含ん だ形質膜をもつ。従って、早くから酸化に伴うストレスを研究する際のモデル細 胞として使われており、本実験でも用いた。  ところで生体膜の脂質過酸化反応を検討する場合、ヘモグロビンや赤血球内に 含まれる種々の物質、酵素類を充分に取り除くことが必要であり、過酸化反応の 阻害や促進作用を示す物質のない生体膜とすることが要求される。また正常な赤 血球にはかなりの量のvit.Eが存在し、それが脂質過酸化反応を阻害するため vit.E欠ラットの使用も望まれる。これらを満たす膜を赤血球ゴースト膜と呼ぶ が、これをvit.E欠ラットを用いて調製した。 3)肝ミトコンドリア こへ トコンドリアの脂質は電子伝達系の保護作用をしており、それが過酸化され ると活性酸素が生じ、過酸化脂質量の増加する可能性が高くなる。このことから ミトコンドリアも検討対象とした。  肝ミトコンドリアの調製を次の通り行った。テフロンホモジナイザーを用い、        -20− 0.25M原糖液、5mM tris(hydroxymethyDaminomethane(tris)緩衝液(pH7.5)、 および0.1-0.5 mM EDTA で肝臓を20%希釈してホモジネートした。このホモジネ ート液を遠心分離し、ミクロソームとミトコンドリアを分画した。次にミトコン

ドリアの各過酸化脂質量をthiobarbituric acid (TBA : 詳細は後述)法33)によ

り測定するため、tris緩衝液(pH7.4)で3回洗浄し、実験条件に合わせて処理・ 調製を行った。  またSODだけの作用を検討するためには、ミトコンドリアに内在する脂質過酸 化反応を阻害する酵素(Mn-SOD)も失活させる必要がある。このため、常法に従 し ゛へ トコンドリアをKCI-tris塩酸緩衝液で希釈した後、100 °C、10分間熱処理 し酵素活性を失活させた。 2.3.2 実験方法 1)脂質過酸化反応の誘導およびSODの投与  赤血球ゴーストおよび肝ミトコンドリアについてはX-XOD反応およびFe3゛の添 加により02-、H202および・OHを発生させ、37°C、60分間で脂質過酸化反応を誘 導した。同様に、脂質過酸化反応の誘導時に投与したSODの濃度は、200U/m1と した。 2)過酸化脂質量の測定  脂質の抽出手順は、Folch分配法に従った。  過酸化脂質量は、TBA法により求めた。測定手順は、過酸化脂質を酸性下で加 熱することにより生じるmalondialdehyde(MDA)に、TBAを添加する。この操作 により沈澱する赤色の生成物を、n-ブタノール・ピリジン(15:1)により溶媒抽出 し、日立製分光蛍光光度計650-10S(励起波長515nm、蛍光波長532nm)により過酸 化脂質量を測定した。  また過酸化脂質量は蛋白重量当りで求める必要があるため、過酸化脂質測定用 試料の一部を分取し、蛋白定量を行った。この定量法にはbicinchoninic acid (BCA)法34)と呼ばれ、PIERCE社か開発した簡便で精度良く測定できる方法があ り、試薬A中のBCAと試薬B中のCu2゛により生成されるBCA-Cu2゛錯体の量を日本 分光製分光光度計UVIDEC-220B(吸収波長562nm)で定量することにより、蛋白       -2レ

(17)

− − Mt 十Fe3十 十X-XOD 十SOD 2.5  考 察 2.5.1 生体膜における脂質過酸化反応  vit.E欠ラットの赤血球ゴースト膜では、X-XOD、Fe3゛あるいは、その両方の 存在で脂質過酸化反応が促進されたが、この内、Fe“に関与する効果が大きかっ た。これは前述のFe-O錯体の生成によるものと考えられる。他方、vit.E欠ラッ トの肝ミトコンドリアについても、Fe3゛のみで脂質過酸化反応がかなり進むこと から、ミトコンドリアの酵素的脂質過酸化反応はFeイオンの存在に強く依存し、

電子伝達系(NADH oxidase )が関与していると考えられる。vit.Eは脂溶性が高

       -23−

Fig.2-8 Effects of SOD on Lipid Peroxidation of

   Liver Mitochondrion 量を評価した。 2.4 結 果 2.4.1 赤血球ゴーストにおける脂質過酸化反応とSODによるその阻害  Fjg.2-7にvit.E欠ラットの赤血球ゴースト膜における脂質過酸化反応とこれ に対するSODの作用に関しての測定結果を示す。これより過酸化脂質量はX-XOD 反応により2.1倍と増加し、この増加に対しSODは91%とほぼ完全に阻害するこ とがわかった。またX-XOD反応およびFe3゛を同時に添加した場合、5.5倍と最も 高い過酸化脂質が形成され、しかも、この増加に対しSODは81%阻害することが わかった。以上より、vit.E欠ラットの赤血球ゴースト膜において、X-XOD反応 およびFe3゛の添加で発生した02-により脂質過酸化反応が大きく誘導され、これ に対しSODが大きく阻害することが明らかにできた。 Tヨこ四EペーoEΞsleAe1 SHVgf 0.180 0.150 0.120 0.090 0.060 0.030 0.000 ghost Rhost 十X-XOD ghost 十X-XOD 十SOD ghost 十Fes+ +X-XOD ghost 十Fe3十 キX-XOD 十SOD

円g.2-7 Effects of SOD on Lipid Peroxidation of RBC Ghost

22 2.4.2 肝ミトコンドリアにおける脂質過酸化反応とSODによるその阻害  Fig.2-8にvit.E欠ラットの肝ミトコンドリア膜における脂質過酸化反応とこ れに対するSODの作用に関しての測定結果を示す。これより、Fe3゛のみの添加で 2.2倍の脂質過酸化反応が促進し、X-XOD反応とFe3゛の添加でさらに2.6倍に促 進することがわかった。またSODはX-XOD反応によって促進された分の66%を阻 害することもわかった。なおFe3゛のみの添加に対してはSODが脂質過酸化を阻害 する効果は認められなかった。 Tsa四EこoE三のI〇ンo一のy﹂くm’[ 1.200 0.800 0.400 0.000 Mt Mt 十Fe3十 Mt 十Fe3十 十X-XOD

(18)

いため脂質過酸化反応の現場とも言うべき細胞小器官の膜に非特異的に分布して いる35J 。そして膜に分布したvit.Eは局所で生じた活性酸素の連鎖反応停止剤 として効率よく働き、活性酸素種による脂質過酸化を直接防護している。従って vit.Eが欠乏していない生体膜では、vit.Eが脂質過酸化反応を阻害するため反 応が進まないと考えられる。本実験結果でも、vit.E欠下での脂質過酸化反応に 関しては、赤血球ゴーストおよび肝ミトコンドリアにおいては程度の差はあれ反 応か促進されていることが指摘できた。 2.5.2 SODによる脂質過酸化反応の阻害  前述の通り、生体内での活性酸素の主な生成には4つの系があり、いずれかの 系で02-などが生成される。これらの活性酸素種は単独では生体膜の脂質過酸化 反応を開始する因子にはならないが、反応の阻害を効果的に行うためには、これ らの活性酸素種を消去するSODなどの存在が重要である。本実験結果からSODに よる脂質過酸化反応に対する阻害作用について以下の事項が考察できる。  vit.E欠の赤血球ゴースト膜においては、02-に依存した脂質過酸化反応に対 するSODの阻害効果が比較的高いことがわかった。他方、vit.E欠肝ミトコンド リアにおいては、Fe3゛の存在下でX-XODによる脂質過酸化反応が促進した場合に SODがその分、阻害作用を示した。  ところで、生体細胞は老化を防止するために、様々な環境因子により生体内に 発生される活性酸素などのラジカルに対し、SODなどの酵素の誘導を行って消去 し、細胞を維持しようとする機構をもっている。この維持機構が時間の経過とと もに衰え、発生する活性酸素種に対し、それに見合う活性酸素種消去のための酵 素誘導がしだいに起こりにくくなってきた時、過酸化脂質が蓄積し始め、その量 も増加し、細胞の機能が失われてくる。この状態が老化であると言われている3  6)。このように老化と過酸化脂質の蓄積とは関係が深く、また脂質過酸化反応 を抑制する可能性のあるSODなどの抗酸化物質が注目される所以である。また vit.Eは通常、経口摂取により供給される物質であるのに対し、SODは生体内に 元々内在している物質であり、異る。即ち、低線量放射線照射などによるvit.巳 の誘導合成はないが、SODは酵素誘導(活性増加)の可能性が示唆できた。 24 第3節 HB-SODによる高血圧症の改善 3.1  要 約  血管内皮指向性SOD(HB-SOD)は自然発症高血圧ラット(SHR)37)に対してのみ 降圧作用を示すこと、従って本態性高血圧は活性酸素病である可能性か、以下の 所見より示唆できた。またHB-SODの有効性について組織化学的にも確認できた。 巾SHRにHB-SODを投与した場合、血圧が投与直後から30分間程度、通常の180mm Hgから140-150mmHgまで降圧した状態が続き、60分後には、ほぼ元の血圧に戻る ことがわかった。 (2)対照用のWKYにHB-SODを投与した場合、通常の血圧である110 mmHgのままの状 態で変化しないことがわかった。 (3)HB-SOD投与1分後には、既に降圧作用の場である紬動脈内皮細胞のHB-SODの分 布が認められ、投与30分後には動脈組織内部に広く分布することが組織化学的に も確認できた。 3.2 はじめに  三朝ラドン温泉地での療法は、高血圧症、動脈硬化症および糖尿病をはじめと する代謝疾患など、いわゆる慢性退行性疾患である成人病に有効であることを示 す根拠が、臨床医学的に得られている。慢性リウマチ病、慢性消化器病および成 人病の三疾患が、ラドン温泉の主たる適応症と言われており、高血圧症もその一 つとみなされており、その機構の解明が期待されている。ラットに低線量のX線 照射やウサギに少量ラドン(α線)吸入を施した場合、週齢や臓器・組織により 放射線応答性に違いはあるもののSOD活性が増加することを、我々は既に明らか にしている8)-lo)。このため、SHRなど にHB-SODを投与し、高血圧血圧がどの 程度に改善(降圧)されるかなど種々、検討する。これより、老化の主役組織で ある血管の機能に及ぼすSODの抗酸化物質としての作用などの特性が明らかとな り、上記機構の解明に役立つ。 25

(19)

3.3 材料と方法

3.3.1 自然発症高血圧ラット(SHR)

 本実験では、日本SLC社製のSHRと対照用にWistar Kyoto Rat (WKY、いずれ

も雄性)を8週齢で購入し、1ゲージあたり3匹に分配し、9週齢(体重200g) まで繁殖用飼料(オリエンタ酵母工業社製NMF)と飲料水(塩酸4∼6 ppm を添加 した上水)を自由摂取させた。本ラットは病原微生物の制御されたバリアーシス テム飼育環境(SPF)下で管理した。飼育室の温度は25土1 °C、湿度は60士10%と した。  本実験でSHRとWKYを選定した理由は、以下の通りである。血圧は年齢と共に 高くなり、血圧の異常な上昇は老人性と言われている各種疾患につながる重要な 危険因子である。成人の高血圧の原因は、5%が腎障害性、5%が他の疾患に付 随したものであり、残りの90%は自然老化に伴う本態性高血圧と言われている。 この本態性高血圧の主要な原因は末梢微細血管の抵抗性の増加によるものと考え られており38)、その増加は大血管に発生する動脈硬化性病変と関係していると 考えられている。なお本態性高血圧の原因としては他に、レニンーアンジオテン シン系が関与している可能性が示唆されているがレニン分泌腫瘍による高血圧や 腎血管性高血圧などを除くと、この系だけでは高血圧病態を説明することは難し い。またNaと関連して高血圧の発症に係る遺伝因子を有することも本態性高血圧 の原因として考えられているが、Na感受性との関係を調べる生化学的手法は今の ところない。このため、ヒトの本態性高血圧に最も近い特性を持つモデルラット と評価されているSHRを用い、本態性高血圧の発症機構を解明することが有効な 方法となる。対照用ラットとしてはSHRと遺伝的素質が類似し、正常な血圧を示 すWKYを用いた。 3.3.2 HB-SODの投与と血圧の測定  無麻階下のSHRに0.2ml生理的食塩水(0.9%NaCI溶液、対照)、あるいは 10mg/kg体重のHB-SOD39)を静脈内に1回投与した。 WKY についても、同様の方 法で生理的食塩水あるいはHB-SODを投与した。天然のSODを投与した場合には、 その大部分が腎臓から尿中に速やかに排泄されるために、血中で有効な酵素作用 を示さない。このため本研究では血管内皮に特異的に集中分布して血管局所で酵        -26-素作用を示すHB-SODを用いた。  血圧測定は、理研開発PS-200A型の測定器を用い、無麻酔・無拘束下で尾にカ フを装着させ、圧変換ポンプの作動により、尾動脈の血圧を計測した。血圧(収 縮期圧と拡張期圧の平均)測定は各々連続5回行い、その平均値を血圧の値とし た。また日内変動を考慮し、血圧測定は午後1時前後に行った。  1実験条件あたり11-15匹のラットを用いた。また得られた血圧の測定値は、 いずれもMean土SEMで表した。有意差検定は、非照射群に対してStudent‘s t testを用いて行い(以下同じ)、関係する各図表に示した。 3.3、3 組織化学的解析  動脈組織を以下の免疫組織化学法により4o)試料調製し、倍率382倍の光学顕 微鏡(オリンパス社製)撮影を行った。  HB-SOD投与1分後、10分後、30分後、および対照用として生理的食塩水を投与 した各々のラットから腹部大動脈を切除して、液体窒素で凍結した。得られた大 動脈を抗ヒトCu/Zn-SODの特異的抗血清と抗ウサギ免疫グロブリンG抗体に結合 した西洋ワサビ過酸化酵素を用いて免疫染色を行い、顕微鏡撮影用試料とした。 3.4 結 果 3.4.1 HB-SOD投与後の血圧変化  Fig.2-9に、SHRとWKYの各々に、生理的食塩水(対照)とHB-SODを静脈内投 与してから5、10、20、30、40、50および60分後の血圧を測定した結果を示す。 同図より以下の事象を明らかにすることができた。 O高血圧症ラットの血圧変化  SHRに生理的食塩水を静脈内投与しても、血圧(180mmHg)は有意な変化はし なかった。一方、HB-SODを同様の方法で投与した場合は、投与直後から血圧が下 がり、140-150 mmHgの降圧状態が30分間程度、有意に(P<0.01)持続し、60分後 には、ほぼ元の高血圧の状態に戻ることがわかった。即ち、SHRに対しては一定 時間、HB-SODによる降圧作用が認められた。この所見は、血管組織局所のSOD活 性が増加すれば、高血圧が改善される可能性を示唆する。 27

(20)

︹浙︷EE 」 a.lnssald Poo一如 22D 2閣 180 160 1仙 120 1凶 8 0 →−SHR HB−SOD −o− SHR Saline (Conlro1) 一番−WKY HB−SOD 心WKY Saline(Conヒro1)

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 Time after Administralion 〔min〕

5 0 6 0

FIK.2−9  Tlme Depeldelt Changes in Blood Pressure of SHR and WKY Rats         afterAdministration of HB−SOD. The data represent the Mean         少S.E.M‥゛゛P<0.01by t test,N=11--15. 2)正常ラットの血圧変化  SHRの対照となるWKYにHB-SODを同様の方法で投与した結果、通常の血圧( 110 mmHg)のままの状態で経過し、WKYに対してはHB-SODによる降圧作用が認め られなかった。 3.4.2 HB-SOD投与後の組織化学的解析  Photo 2-1 に10mg/kg体重のHB-SODをラットに投与し、に10、30分後の動脈 組織での分布様相を免疫組織学的に解析したものを示す。同PhotoよりHB-SODを 投与していない対照群に比べ(Photo 2-1 a)、投与1分後から既にHB-SODが動 脈内皮細胞に結合集積し(同b)、10分後にはさらにこの像が強くなると同時に 28−

(21)

血管深部にもHB-SODが分布していること(同c)、さらに30分後には勤脈内平滑 筋層にまで分布している(同d)ニとがわかった。 3.5 考 察  SODは抗炎症作用を有し、分子量(33、000)が小さく、蛋白化学的安定性も高 いことから、抗酸化防御酵素の中でも最初にrecombinant(組換え体)が開発さ れたものである。しかし、その分子量が糸球体濾過限界値(50、000)よりも小さ いため、投リされたものの大部分が末分解のまま腎臓から尿中に速やかに排泄さ れ、[frL中で有効な酵素作用を発現できない。このため、in vitroの実験系では SODが有効な細胞保護作用を示すにもかかわらず、in vivo では有意な作用が認 められないことが多い。一般に、腎臓での糸球体濾過は分子量、表面荷電(一般 に負荷電粒子は通過しにくい)、および分子形態などにより規定される。従って 糸球体濾過の阻止により血中半減期を延長させる最も簡単な方法として、血管内 皮細胞に特異的に結合させるHB-SODを用いた。  本節の結果、血管内皮細胞のヘパラン硫酸に親和性を有する塩基性ペプチドを レ末端に有するHESODが、無麻酔・無拘束下のSHRに対してのみ血圧を特異的に 低下させ、正常ラットの血圧は変化させないことを明らかにできた。また、この 事象については、組織化学的解析によりHB-SODが動脈組織内部に広く分布してい ることを明らかにすることで強く示唆することができた。 HB-SODの生理作用、即 ち、何らかの原因により生体内に活性酸素が必要量以上、発生した場合その過剰 分を消去して調整する働きがあることと、本実験の結果を考え合せることにより 本態性高「飢圧が”活性酸素病”である可能性が示唆できた。  本節では、HB-SODが血管内皮細胞に特異的に集積し、そこにおける02-を局所 的に不均化することにより高血圧病態を改善することを明らかにし、本病態が活 性酸素病である可能性を示唆した。一方、生体に高線量放射線を照射することに より、本態性高血圧が誘発される41)ことが知られている。この高血圧の原因と なる細動脈壁の硬化性病変も、血管局所の活性酸素が関与する可能性かおる。従 ってヽ血管組織局所における活性酸素消去酵素の活性は血管機能を左右する重要 な因子と考えられる。他方、血中過酸化脂質の増加は、プロスタサイクリンの生 成を抑制しヽ血小坂凝集を促進するので、末梢血管抵抗を高める。これに対し低       づ卜 線量放射線の場合は、血清中の過酸化脂質量が減少することが明らかにされてい る8)。  従って、低線量照射により血管組織自身のSODが誘導されれば、血管の収縮病 態である高血圧状態が緩和する可能性が考えられる。加齢に伴う高血圧病態の進 展は血管抵抗性の増加に大きく依存しているので、これについては第5章の第1 節および第3節において検討することとする。 −31

(22)

W 「 第3章 少量活性酸素による化学的生体防御機構の活性化 第1節 低線量X線照射によるSODの誘導 1.1  要 約  低線量放射線の照射により組織レベルでのSOD活性が増加することは、臓器に よるSODの種類や応答性の違いはあるものの、賦活化ではなく酵素誘導によるこ とが、以下の知見より示唆できた。 巾肺臓Mn-SOD活性は照射に伴う有意な変化を認めなかったが、Cu/Zn-SOD活性は 0.25Gy照射4時間後に非照射群に比べ有意に増加した。これに対し、照射に伴い Mn-SODmRNAの発現量は微増程度であったが、Cu/Zn-SODのそれは0.25Gy照射4時 間後に70%の増加を示した。 (2)照射4時間後の胎児肝臓において、Mn-SODおよびCu/Zn-SODいずれも、特に1 Gyの照射線量でSODmRNAの発現量の増加を示した。これにほぼ対応する形で両者 の酵素活性も増加した。 1.2 はじめに  低線量照射によるSOD活性の増加がSOD蛋白の誘導合成によるか、SOD酵素の 賦活化によるかを検討することは、機構解明を行う上で重要である。他方、これ までSODなどの酵素活性の増加は、遺伝子レペル、即ちmRNAの発現が関与するこ とは確認されていなかった。本節では、まずmRNAの分離・精製の方法を改良する ことにより、mRNAの発現を高感度に解析できるよう検討する。次に、改良した northern blotting法を用い、低線量照射によるMn-SODおよびCu/Zn-SODのmRNA の発現量を調べ、誘導合成の有無を検討する。 1.3 材料と方法 1.3.1 試料調製法  本実験では、通常のラットに加え、放射線感受性の高い胎児も検討の対象とす るため、SPFの日本SLC社製の雄性、22週齢(以下、便宜的に成熟ラットと呼 ぶ)と妊娠満期のWistarラットを用いた。まず成熟ラットの臓器については、主        づ2-要な免疫機能を司る肺臓を用いた。しかし胎児の肺臓については小さく充分に摘 出できないため、これに代わる適当な臓器を選定する必要があり、本研究では SOD研究で多く検討されている肝臓を用いた。ラットに島津製SHR250M-2X線発 生装置により、0.25、0.5、1.0、2.0、5.0および10.0GyのX線を全身均等1 回照射した。このX線発生装置による照射条件は、最大定格出力管電圧が180kv 管電流が20mA、線量率が0.20 Gy/minである。 1.3.2 SOD活性の測定

 SOD活性はelectron spin resonance (ESR)法42)に従い測定した。測定手順 は、DETAPACの溶媒に一定量のhypoxanthine(HPX)とXOD試薬を混合し、これに より発生した02−にスピントラッピング剤であるDMPOを加えて生成されたラジ カル付加生成物(スピンアダクトと呼ぶ)の量を測定する。共存するSODの量に よって02-由来ESRシグナル強度が変化するため、濃度既知のSOD溶液を用いて 対ESRシグナル強度の検量線を作成すれば、未知試料である上清中のSOD活性を 測定することができる。本実験では日本電子製JES-FEIXG装置を用い、得られた 試料のSOD活性を測定した。  またSOD活性は蛋白重量当りで求める必要があるため、SOD活性測定用試料の 一部を分取し、第2章第2節と同様にBCA法31)に従い、蛋白定量を行った。 1.3.3 SODmRNAの解析 O northern blotting 法  RNAの発現量を解析する方法の一つとして、northern blotting 法かおる43)。 44)。この方法は、まず全細胞または細胞質からのRNAを抽出し、ホルムアミド を含む緩衝液で加熱変性する。これはRNAが二次構造をとり易いため、移動度の 測定の際、二次構造をとりにくくするための変性が必要だからである。電気泳動 中も変性状態を保つために、ゲル中に水素結合を不安定化させるホルムアルデヒ ドを入れる45)。電気泳動後、RNAをニトロセルロースまたは他の担体に移し、 適当なプローブを用いてハイブリダイズする。ニトロセルロースまたはナイロン 製のオートラジオグラム上のシグナルの位置と分子量マーカーRNA(本実験では 28S、18S(S:sedimentation constant: 沈降係数)をRNAの分子量のマーカー

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