pishi kozai no okure hakai ni oyobosu suiso no kyodo ni kansuru kenkyu
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(2) PC鋼材の遅れ破壊に及ぼす 水素の挙動に関する研究. 1996年3月 高井健一.
(3) 『四・●〃「. 目. 次. 第1章. 序論. 1. 本研究の目的. 1.2. 従来の研究. 1 n/﹄ワ﹄. 1.1. 1.2.1. 遅れ破壊の研究. 1.2.2. 遅れ破壊に及ぼす水素に関する研究. 1.2.3. 水素脆化のメカニズム. 14. 1.2.4. 遅れ破壊評価試験方法. 16. 1.2.5. 個中の水素分析. 17. 1.3. 本研究の概要. 参考文献. 3. 31. 第2章. 34. コンクリートポール中のPC鋼棒の遅れ破壊. 3. 2.1. 緒言. 2.2. コンクリートポール中におけるPC鋼棒の破壊. 40. 2.3. 実環境破壊形態と加速試験による破壊形態の対応 遅れ破壊を起こした鋼材の特徴. 43. 2.4. 38. 49. 2.4.1. 遅れ破壊を起こした鋼材の耐遅れ破壊特性. 49. 2.4.2. 遅れ破壊を起こした鋼材の破壊形態. 54. 2.4.3. 遅れ破壊を起こした鋼材の水素特性. 59. 2.5. 結言. 参考文献. 70. 二次イオン質量分析法による高強度個中の 水素トラップサイトの可視化. 3.1. 緒言. 3.2. 二次イオン質量分析法の測定方法. 3.3. SIMSによる水素トラップサイトの可視化. 1﹃/ 17 2 7 4 477 4 7. 第3章. 69. 3、3.1. 水素、重水素の吸蔵. 3.3.2. 水素、重水素の深さ方向分布. 3.3.3. 水素、重水素のトラップサイト. 76. SIMSによる水素放出ピークの固定. 85. 3.4 3.4.1. 真空加無法によるトラップサイトの推定. 85.
(4) m゛w−〃. w四I. 3.4.2. SIMSによる水素放出挙動の観察. 86. 6.2.3. Si添加PC鋼棒の破壊形態. 150. 3.4.3. SIMSによる水素放出ピークの同定. 91. 6.2.4. Si添加PC鋼棒の水素透過能. 153. 96. 6.2.5. Si添加PC鋼棒の水素吸戴特性. 153. 97. 6.2.6. Si添加PC鋼棒の遅れ破壊特性向上メカニズム. 157. 3.5. 結言. 参考文献. 6.3. 冷間伸線型のPC鋼線と熱処理型のPC鋼棒の 遅れ破壊特性の比較. 1︵/︶. 4 4. 99999905071014162324 1111111. 第4章. 緒言 供試材. 4. 3. PC鋼線とPC鋼棒の遅れ破壊特性の比較. 4. 4. PC鋼線とPC鋼棒の破壊形態の比較. 4. 5. PC鋼線とPC鋼棒の水素吸蔵過程の比較. 4. 6. 遅れ破壊に及ぼす水素放出ピークの同定. 4.7. PC鋼線とPC鋼棒の水素トラップサイトの比較. 4,8. PC鋼線の遅れ破壊特性に及ぼす組織因子および水素吸蔵特性. 4.9. 結言. 参考文献. 供試材. 158. 6.3.2. Ca添加PC鋼棒の遅れ破壊物性. 160. 6.3.3. Ca添加PC鋼棒の破壊形態. 161. 6.3.4. Ca添加PC鋼棒の水素透過能. 167. 6.3.5. Ca添加PC鋼棒の水素吸蔵特性. 170. 6.3.6. Ca添加PC鋼棒中の介在物の分散状態. 176. 6.3.7. Ca添加PC鋼棒の遅れ破壊特性向上メカニズム. 186. 6.3.8. SiおよびCa添加PC鋼棒の吸蔵水素量に汲ぽす応力の影響. 187. 6.3.9. 耐遅れ破壊特性に優れた鋼材の水素吸戴特性. 189. 6.4. 参考文献. 127. 緒言. 127. 5.2. 供試材. 127. 5.3. 耐遅れ破壊特性に及ぼす伸線加工率の影響. 132. 5.4. 伸線加工率の異なるPC鋼線の破壊形態. 134. 5.5. 伸線加工率の異なるPC鋼線の水素吸蔵特性. 134. 5.6. イ申線加工率が異なるPC鋼線の遅れ破壊特性に及ぼす支配因子. 143. 5,7. 結言. 143. 参考文献. 144. SiおよびCa添加PC鋼棒の遅れ破壊に関する検討. 145. 6.1. 緒言. 145. 6.2. Si添加PC鋼棒の遅れ破壊に関する検討. 147. 6.2, 6.2. 189 192. 結論. 194. PC鋼線の遅れ破壊特性に及ぼす伸線加工率. 5.1. 章. 結言. 125. の影響. 第6章. 158. 6.3.1. 第7章 第5章. Ca添加PC鋼棒の遅れ破壊に関する検討. 1. 供試材. 2. Si添加PC鋼棒の遅れ破壊特性. 147 148. 謝辞. 201. 研究業績. 203.
(5) ・肖゛−a〃が1. 第1章. 序. 論. 1、1. 本研究の目的. 高強度鋼は、通信用構造材料においても使用されており全国を結ぶ巨大 ネットワークを支えている。中でも通信用ケーブルを支えているコンクリ ートポールには高強度のPC鋼材(プレストレストコンクリート用鋼材)が 使用されており、コンクリートポールの強度を維持している。また、建築、 自動車業界でも高強度鋼は大量に使用されており、近年では省資源、省エ ネルギー、地球環境問題などの観点からさらなる高強度化に対する社会的 要請が増している(1)(2)。 ところが、鉄鋼材料を高強度化するほど遅れ破壊が顕著になり、構造材 料の究極的信頼性は遅れ破壊によって規定されるといっても過言ではない。 通信用構造材料においても、大量増設時の屋外通信用設備が20年以上経過 レ構造物の劣化が問題になっている。通信用コンクリートポールの一部 においても、中で使用されている高強度鋼が破断した例がみられる。この プレストレストコンクリートに用いる高強度鋼のPC鋼材には、主に熱処理 による強化を利用したPC鋼棒(JIS 用したPC鋼線(JIS. G. 3109)と、伸線加工による強化を利. G 3536)の2種類がある。特に、熱処理型のPC鋼棒にお. いて破断が見受けられる。この破断はコンクリートポールの強度を大きく 損なうにもかかわらず. 外 部から見つけられないため保全上問題となる。. さらに、コンクリートポールは全国に約1. 10 0万本以上あり、もしコンク. リートポールが折損すると、作業員の人身事故、近隣住民への社会的不安、 そしてケーブル切断による通信の信頼性喪失等全国において計り知れない 影響を与えることになる。そこで、安全性確保が最重要課題であり既設の コンクリートポールに対しては破断しやすいPC鋼材の選別、また新設のコ ンクリートポールに対しては経年的破壊を起こしにくいPC鋼材の開発が急 がれている。そのためには、実際どのような破断が起きているか明らかに I.
(6) にガラスのような脆性体の時間遅れ破壊現象について用いられたのが最初. しなければならない。 従来から、水素に起因する遅れ破壊の研究は数多く行われ、優れた解説 が報告されている(3)べ13へ. しかし、水素は元素の中で最も小さく軽く、. 鉄中で著しく遠く拡散するため、水素の分析は難しく装置も限られる。こ. であると思われる(15バ16)。その後、1950年代にCdめっきを施した航空機 用強カボルトの遅れ破壊以降広く用いられるようになった(17)(18へ 一般に、腐食環境下での静的時間遅れ破壊は、通常応力腐食割れ. のような理由で、遅れ破壊に及ぼす水素の挙動について総合的に検討した. (Stress. 報告は見当たらない。また、高カボルトなどでは、耐遅れ破壊特性に優れ. ば鉄地が溶解するアノード反応支配型のき裂形成(活性経路割れ:Active. た鋼材を開発するというより、引張強さ1200MPa以上は不可という限界を. Path. 設けることにより、遅れ破壊の危険性を消極的に回避してきた(14)。. き裂形成(水素脆性割れ:Hydro9en. したがって、本論文における第1の目的は、実際のコンクリートポール. Corrosion. Cracking:. SCC)と呼ばれる。この場合、厳密にいえ. Corrosjon:APC)と、水素を吸収して割れるカソード反応支配型の Embrittlement:HE)がある。しかし. アノード反応で生じた孔食の内部のpHが低下してカソード反応が支配的に. 中で遅れ破壊を起こしたPC鋼材の破壊形態、および水素の存在状態を明ら. なることもあるので、これらの区別は明確でない。一般に、高強度鋼の破. かにすることである。第2の目的は、PC鋼材に用いられている代表的な2. 壊が自然環境下で破壊を起こす現象は「遅れ破壊」、海水などの腐食環境. つの強化機構である熱処理強化鋼(焼戻しマルテンサイト組織)と加工強化. で割れを生ずる場合は「応力腐食割れ」などと呼ばれている(19)。また、. 鋼(強加エパーライト組織)について、水素の拡散過程、吸戴過程、トラッ. カソード反応支配型の水素脆性割れの中でも、主に3種類に分類されてい. プ状態を解析レ遅れ破壊特性と水素の挙動との関係を明らかにすること. る(2o).H2S等の環境において外力のない状態で、非金属介在物界面にブ. である。第3の目的は、先に得られた遅れ破壊特性に及ぼす水素の挙動の. リスターと呼ばれる割れが発生する現象を「水素誘起割れ」と呼び、ライ. 知見を基に、耐遅れ破壊特性に優れた鋼材を開発することである。第4の. ンパイプ等で使用されている600MPa級の低強度鋼において問題となって. 目的は、最近の分析機器の進歩に基づいて、新しい水素分析手法の確立で. いる。次に、やはりH2S等の環境でpHが中性に近い環境において割れが発. あり、高強度鋼中の水素を可視化することである。. 生する現象を「硫化物応力割れ」と呼び、油井管等で使用されている700. これらの目的を踏まえ、本論文では高強度鋼の遅れ破壊に及ぼす支配因. ∼1000MPa級の中強度鋼で問題となっている。最後に、自然環境下で外力. 子である水素に着目し、各種高強度鋼中の水素の挙動を総合的に明らかに. が負荷された状態で破壊が生ずる現象を「遅れ破壊」と呼び、高カボルト. する。. やPC鋼材等で使用されている1100MPa級以上の高強度鋼で問題となってい る。. 1. 2. 従来の研究. 1.2.2 1. 2.1. 遅れ破壊の研究. 遅れ破壊に及ぼす水素に関する研究. 遅れ破壊は、環境(水素)、材質、応力の3要因が相互に作用しあって起. 遅れ破壊とは、荷重が負荷されてからある時間経週後に突然破壊を生ず る現象で、時間遅れ破壊を略称したものである。この用語は、1940年代 2. こる現象であることはよ<知られている(21)。従来、それぞれの要因につ いて数多くの報告がなされてきたが(22)、ここでは本論文の中心でもある 3.
(7) 水素に着目し、水素の侵入過程、存在状態、拡散過程、トラップサイト. 面ではpH=8.4、電位は0.94V(NHE)から、クラック先端でpトら1∼2、電位. そして水素の転位への影響と一連の既往の研究を概観する。. は0、05V(NHE)まで大きく変化し、2ト打→. H2. 反応の起こる条件に近づい. ているリ8≒すなわち、Fi9.1.1のモデルと実験結果が一致することがわ かる。. (1)水素の侵入 一般には、金属中への水素の侵入量CはSievelts則で表わされ、次式に 示すように、水素ガス圧戸の平方根の関係が成り立つ。 C=C♂1/2exp(一己岬R7’). (1.1). IF / ‰︶. ロ亘和. ここで、乙μは金属中の水素の溶解熱(エンタルピー)、Rはガス定数、7'は. FeOOH膜. ごr←. −べy. 温度、らは定数である。 2H‘÷2e ̄一H,↑. FeCI,・4HIO. 引張応力のもとで、腐食により水素が侵入する機構は単純ではない。応. Fe2‘+2CI一一FeCI,↓. 力のかかっていない通常の条件下では、試料表面の電位(腐食電位)は2H゛ →. Fel゛+HIO→Fe(OHI‘+H‘. H2反応が起こる電位より高く、また、試料表面には多少なりと不備態. □河口 Fe一Fel‘+2e-. 皮膜があるので水素の発生は起こらないのであるが、引張応力をかけると 水素ガスが発生して試料中にも侵入するようになる(23)。この機構は、ま ず引張変形によって表面皮膜が破れて腐食孔を生ずる。これは、微小クラ. Fi9.1.1. Schematic. model. of crack(2s),. ック先端や結晶粒界などに生じやすいと考えられる。この中で、Feの溶解 と水和が起こり、その結果溶液の酸性化が起こる。 Fe→Fe2++2eFe2゛+H20. (1.2). -゛Fe(OH)・十H+. (1.3). (2)水素の存在状態 金属中に侵入した水素の電子状態について、VやNbの場合には3dバンド より低いエネルギー状態が現われることが理論的、実験的に見い出されて. こうして、クラックの中における電気化学的な条件は、外側とは非常に異. いる(29)。単純には、水素もls電子を伝導帯に参加させてしまい、水素自. なったものとなり、クラックの中での電位は負方向に変化して、クラック. 体はHtイオンとなっているという考え方がある。これをプロトンモデル. 先端を陽極とする局所的な電池セルが形成されると考えられているく24)−. (protonic. (川。その状態を模式的に示すとFi9.1.1のようになる。. 合性を考えると、水素はむしろH-のように電子を余分に伴う可能性をもっ. 実際、4340鋼を0.6kmol/m3. NaCI水溶液中に浸漬した場合、クラック先. model)と呼ぶ。一方、V、Nb金属の水素化物におけるイオン結. ている。これを、アニオンモデル(anionic. model)という(3o)。. しかし、. 端の状態はpH=3.8∼4.0、電位は、-0.4V(NHE)となっている(27)。同様の. ls電子が全て伝導帯に移らないで、かつそのまわりの金属原子の外側のp. 現象は、オーステナイトステンレス鋼においても認められ(27)、321鋼を. やd状態との混成軌道により結合性の強い状態となれば、かなり結合性の. o.lkmol/m3. 強い存在状態を作ることが可能である。水素を含んだTiやPdに対する理. KHC03 4-0.1kmol/m3 KCI水溶液に浸漬したときには、電極表 4. 5.
(8) 論計算ぐ匹や光電子分光の測定で見い出されたエネルギー状態はこの事情 に対応しているものと考えられている。. しかし、水素の溶解熱は、VやNb. が発熱型であるのに対し、Feでは吸熱型で事情が異なる。. Table. l.INumber. and slzc in laltice site.. Feについては. 固溶水素が微量なために測定が困難で、データもなくFeの水素脆性の理解. fcc. このような水素がFe中で固溶状態にあるときの存在サイトは、上記のい. O. Site Number. を妨げる原因の一つになっている。. Size. bcc. 1. T 2. 0.414. O 3. 0.225. T 6. 0.155. 0.2引. ずれのモデルをとっても、鉄原子半径に比ベイオン半径が非常に小さいた め格子間位置を占める。代表的な格子(fcc、bcc)についてそれぞれ4面体. Bastienら(33)は、水素による金属内の結晶面の乱れと、H・の位置につ. 位置(Tサイト)と8面体位置(Oサイト)をFi9.1.2に示す。また、格子間位. いて考察している。 bcc格子中の侵入型溶質原子の最近接原子数は平衡状. 置の数と隙間の大きさをTable. 態で最大でなければならないことにより、bcc格子中の水素の安定位置を. l.1に示す(32〉。. Tサイトと考えた。一方、fcc格子中の水素は中性子回折による研究から0 サイトにはいると推察している。 深井は(34)、fcc格子中では、ポテンシャルはOサイトとTサイトで谷と なり、前者の谷の方が深くなるため、固溶水素がOサイトを占めると考え、 上記の考えと一致している。一方、bcc格子中では、Tサイトはポテンシ ャルの極小になるのに対レOサイトは鞍点になる。これによれば、Oサイ. O. トは水素原子の安定位置になりえないことになるが、ポテンシャルの分布 は特に最隣接原子の変位によって著しく変化する。. Feに低温でD・を打ち込. んだ場合には周囲のFe原子が変位しDは常に〇サイトを占めると考えられ ている。すなわち、bcc格子中では、Tサイトの方が空間的に広いが水素 はOサイトにも存在することも出来る。 T. (3)水素の拡散 CC. bc,. 金属中の水素は、著しく速く拡散する。室温における拡散係数の値は、 Fe中のCに比べ12桁も大きい。このような速い拡散において、特にbcc金. Fi9.1.2. Sites of fcc and 6. bcc.. 属の方がfcc金属に比べ大きな拡散係数を持つことが実験により明らかに フ.
(9) IOjj. 匠駄. 一一. されている、この差異について、fcc金属中の水素原子の拡散は古典的な n). TemPerature. ドO. 竺L二匹L_. ユ00. 50. 20. 0 一一-. | 寸々. over-barrierジャンプ過程とさほど異なった様子を示していないが、bcc. Ailneal・d. speci。en. p. 4. ■. ll. 金属中の拡散は古典的な熱活性過程とは著しく異なり得るものと推察され. ゛k 拍. Asano. 一一. ているダ34三上述したように、fcc格子中のポテンシャルは、Oサイト、T. C。1,1 w。1・ked sl。cim。n. Z. HI・umjnn,・ljrimas UQS. サイトともに深い孤立した谷があり、波動関数はその中に閉じ込められて. ●Slross−Tnmkins. Eu. 7-Fe. いる。このような理由から、fcc格子中での水素原子のサイト間の移動は、. α−Fe. ●Eich。nluel・. el al. ・Jonson−Hill. 古典的なover-barrier過程と見かけ上達わない。一方、bcc格子中のOサ. U). ド. Q. oR。rk D. イトは比較的浅い谷でつながっており、波動関数はその方向へ張り出して. ・l al. Choi. o. Frank. e. Presenl. et aj work. ●Lard-Beshers. いる。その場合、量子論的な効果が拡散機構を支配する量子拡散現象を考. @●●● 聚 10. SelFdiffusion. える必要がある。まず、格子間水素原子は周囲の金属格子を歪ませること. S. によってエネルギーの低い状態(セルフトラップ状態)になっている。従来. 0. 3 岬/r(X勺. の古典論的考え方によれば、水素原子が隣の谷へ移動するには熱活性過程 によりポテンシャル障壁を越えなくてはならない。ところが、量子拡散現. 4. Fi9.1.3. Published. data for diffusion coefficient of hydrogen. in iron and. 象では、ポテンシャルの壁を突き抜けてトンネル過程が起こりうる。これ. steels.. は、特に低温で重要であり、またポテンシャルの壁の両側のエネルギー準 位が格子の熱振動によってたまたま一致したときに限られると報告されて. して8面体位置(Oサイト)と4面体位置(Tサイト)とを考え、低温では後者. いる。. が支配的であるが、高温では混合状態になるとするものである。これは曲. 次に、もう少しマクロに水素の拡散をみていくと、Fi9.1.3に示すよう. がりの発生の実験結果とかなりよくあうが(37)、573Kでは〇サイトの占有. にα鉄中の水素の拡散において折れ曲がりがみられる。すなわち、高温か. 率は2%程度であり(38〉、やはり低温におけるデータの大きなばらつきの. らの外掃値と比べて200℃以下の低温領域の拡散係数が異常に小さく、拡. 説明にならない。第三はH原子が転位などにトラップされることである。. 散の異常達延現象がみられる。この低温領域は遅れ破壊が発生する温度域. ト. ラップサイトの密度を2×1025m-3、Hとの結合エネルギーを33.5kJ/mol. とちょうど一致しており興味深い点である。この温度域(200℃以下)の遅. として計算すると、約570K以下で固溶度の変化が現われることになる(5)。. 延現象の原因として三つの機構が検討されている。―つは小野らが提案し. これまでのところ、低温における拡散の遅延現象は水素原子のトラップサ. た格子間原子としてH-H対の形成である(35)。この結合エネルギーは約. イトの存在に関係しているとの考え方が有力である。. 42kJ/molとされており、水素は動きにくい状態にあると考える。しかし H-C、N対の結合エネルギーはずっと小さく、また拡散係数の大きなばらつ きを説明するものではないという批判がある(36)。第二は格子間サイトと 8. (4)水素のトラップサイト 水素は鉄結晶中の格子間位置に入ると 9. 弾性相互作用によりまわりの結.
(10) 晶を歪ませ弾性エネルギーが増加するので、結晶格子の広がった所がある. 転位のトラップ効果は次式であらわされる。. とそこに優先的に入ることになる(34へ転位、微小き裂、界面等はそのよ. 心. =πΓe2. (1.4). ρ. うな場所に相当し、応力誘起拡散により水素が集まりやすい。鉄中におい. ここで、gdはトラップ密度、/っは転位密度、reは1本の転位が供給するト. て水素のトラップ効果を有するものは、①不純物原子、②結晶粒界、③小. ラップサイトの数に関係するパラメータで有効半径と呼ばれているもので. 空洞、④転位があげられる(39)。鋼においては上記の他に⑤析出物、⑥介. ある。実際に冷間加工を施した工業用純鉄におけるreを計算すると、. 在物も含まれさらに複雑になる。Table. re=5×10-lo. l.2に主なトラップサイトと水素. の結合エネルギー(治)を示す(3)。. m. と小さいが、このreの値は最隣接銀原子間の距離よりも大きいので、水素 は転位の芯の部分のみでなく転位線からある程度離れた領域でもトラップ. Table1.2. Binding energy. between. Trappingsite. trapping site and hydrogen.. されることがわかる。. Binding energy,HB(kJ/mo1). また、原子空孔についても2種類の結合エネルギーがあるといわれてい. 日-perfectlattice. 0. H-C. 3.3. H-dislocationcor (screw). 20∼30. 2個の結合エネルギーは大きく61kJ/molで、残りの3∼6個目はやや小さく. Hjislocationcor(mixed). 58.6. 41kJ/molと報告されている(41)。. H-gralnboundaly. 58.6. H,Fe3C. 84. H-TiC. 94.6. る。1個の空孔で水素原子を6個までトラップすることができ、最初の1∼. Leeらく42)は、純銀の結晶粒径、冷間加工率、欠陥密度を変えたサンプ ルを用いて、真空加熱法による水素放出プロファイルのピーク温度から水 素トラップサイトを推定している。その結果、385K付近の水素は結晶粒 界から放出される水素、488K付近の水素は転位から放出される水素、. まず、転位のトラップ効果については、転位と水素の結合エネルギーが. 578K付近の水素はマイクロボイドにトラップされた水素であると報告し. 27kJ/mol前後とする報告と、48∼60kJ/molとする報告もある。. ている。. Kumnick-. Johnsonは、これらの結果について転位は2種類のトラップサイトを有し. 次に、実際に水素のトラップサイトを可視化する方法として、トリチウ. ていると解釈している(4o)。低水素濃度の実験では、深いトラップの水素. ム透通電顕オートラジオグラフィ、およびマイクロプリント法が用いられ. を検出でき約59、6kJ/molの値が得られている。この深いトラップサイト. ている。斎藤ら(43)(44)は、SUS316L鋼の水素集積サイトを観察しており、. は、水素のトラップ密度が小さいことから転位の切り合いの際に生ずるジ. 結晶粒界面と母相との界面に沿った面状欠陥部分に帯状のトリチウムを確. ョグと考えられているが確証はない。一方、水素濃度の高い実験では深い. 認している。さらに、粒界析出物であるクロム炭化物(C「23C6」界面も水素. ト. ラップがまず埋まり水素透過曲線に影響を与えなくなり、26.9kJ/mol. 集積場所であることを観察している。また、Asaokaら(45)も、析出物-マ. の値が得られている。この浅いトラップサイトは、転位芯ではないかとい. トリックス界面、結晶粒界にトリチウムがトラップされているのを観察し. われている。. ている。また、マイクロプリント法により、Luppoら(46)はフェライト相 10. 11.
(11) に比ベパーライト相の方が水素を多くトラップしているのを観察している。 以上の可視化の報告は、いずれも分析までに時間を要するため、動きやす い拡散性の水素は観察できず、強くトラップされた非拡敵性水素を観察し. 水素ガス中では容易に解消される。 Fig.1.5には、よく発達した転位のからみ(セル壁)に真空中で一定応力 下で堆積していた転位群が、environmental. ていることになる。. ce目中への水素ガスの導入. に伴い、障害物であるセル壁の応力場を乗り越えて急激に勤き始める様子 を示している。この現象は、水素ガス中では、個々の転位の易勣度が増大. (5)水素の転位運動に及ぼす影響 遅れ破壊機構解明にあたり、鉄中の転位に及ぼす固溶水素の影響は非常. するばかりでなく、転位と転位、転位群と転位群の応力場の間の相互作用. に重要な問題である。この分野の研究は、Bernsteinら(47へBirnbaumら. も小さくなることを示しており、固溶水素が鉄の機械的性質におよぼす効. 大八49へ田端(5o)、木村(51へによってかなり明らかになってきた。. 果の本質を考える際に、非常に重要な要素となる観察結果である。また、. 田端はQ50j鉄薄膜を超高圧電子顕微鏡の試和室に設置した油圧式引張装 置に取り付けて変形させ転位の動きを解析した。その結果、Fig.1.4に示. 真空中では安定にからみ合ってセル壁を構成している転位も水素ガス中で はセル壁を離れてすべり始めるのが頻繁に観察されている(5o)。. すように水素添加により転位の速度が上昇することを観察している。. 6. ﹃ぐてI﹄、こ沢徊唄がー. 5. 4. 3. Csj 0. 0. Fig.1.4. 5 10 15 20 25 30 35 Envjronmental cell内水素圧力/kPa. Relationshipbetween hydro9en speedof screw dislocation.. pressure and. Fig.1.5. Dislocation behaviorin hydro9en. environment.. また、転位挙動に及ぼす水素の効果は、クラック先端部の塑性変形領域 得られた結果を要約すると、以下のようになる。 ∩)刃状転位の速度もらせん転位と同様、水素添加により上昇する。. でも現われ、転位の易動度を増大させ転位間の相互作用の程度を減少させ る。したがって、水素ガス中ではクラック先端部分での塑性変形も真空中. ∩〉転位の易動度の増大に伴い、転位源の活動も活発になり定応力下では. に比べてより低応力下で生じる。クラック先端部分での水素の鉄中への固. 真空中に比較して、より多くの転位が水素ガス中で増殖される。. 溶量は三輪応力場と密接に関係しており、一般にクラック先端部分での水. (iO真空中で比較的低応力下で移動するらせん転位に形成されるジョグは. 素濃度は場所によって異なる。. 12 13.
(12) 化説、内部応力説、水素と転位の相互作用説の順に解説する。. 以上のことと、Fig.1.4およびFi9.1.5に示したように、水素による鉄 の軟化度は転位芯近傍に形成される水素雰囲気の濃度が高い程著しいこと. (1)格子脆化説(Troiano、oriani)(5m53). から、クラック先端部分での塑性変形は、水素濃度の高い部分に集中して. 内部欠陥中の水素圧力そのものが脆化をもたらすのでなく、内部圧力は. 生じる。一度このような状況がクラック先端で形成されると、局所的に変. 欠陥とくに面状欠陥のまわり(先端)の格子の三軸応力を高め、三軸応力勾. 形が集中した部分には転位と水素の相互作用の結果、あるいは転位線に沿. 配によってもたらされる水素の応力誘起拡散により欠陥の先端部分に集ま. ったパイプ拡散の結果、さらに多量の水素が集散し加工硬化による内部応. った水素が格子の原子間凝集力を下げるとの考え方である。この原子間凝. 力の上昇分を打ち消し、変形が同一場所でさらに進行する。この過程をく. 集力を下げる機構として、水素は自分の電子を鉄の3d電子バンドに与えて. り返して、塑性変形がクラック先端部分の水素濃度の高い部分に集中して. (プロトン状態になり)鉄原子間の電子的相互作用による反発力成分を高め. 生じ、やがてマイクロネッキング等の破壊を著しく速める現象を引き起こ. ることにより凝集力を下げるのではないかと考えている。. す。その結果、固溶水素は鉄におけるクラックの伝播速度を著しく増大さ せる。従って鉄鋼材料中に応力下で周囲に応力場の不均一分布を生じるよ. (2)内部応力説(Zaffe-Sims、de. うな場所、例えば、介在物、水素ボイド等があり、その周辺に十分に高い. Kazinczy、Tetelaman-. Robertson)(54)-(56). 濃度の固溶水素があれば、水素の不均一分布により強さの異なる部分がで. 個中を拡散する水素が、結晶の欠陥によって形成される内部的な面状空. き、柔らかい部分に塑性変形が集中し始めて、やがて小さなクラックを生. 隙にやってくると分子状水素として析出し、大きなガス圧力を発生するこ. じる。一度クラックが形成されると、その先端部分で上述の過程がくり返. とが水素脆化の原因であるとの考え方である。. されてクラックの伝播が速められ、やがて破壊につながるのが鉄の水素肌 化の定性的な機構であると考えられている(5o)。. (3)水素と転位の相互作用説 (3-1)プロトンー転位相互作用モデル(Bastien.Azou)(57). 1. 2.3. 水素脆化のメカニズム. 転位が水素を運搬し欠陥に集積することが重要であり、塑性変形が水素. 遅れ破壊のメカニズムを明らかにするに当り、水素脆化のメカニズムを. 脆性の不可欠の要因であるとの考え方である。この考え方は、水素脆性の. 基本として発展させる試みがなされている。ところが、この水素脆化メカ. Kineticsを説明しようとするもので、直接メカニズムに触れるものでは. ニズムに関しては諸々のモデルが提案されており、その本質についてはま. ない。. だ解明されたとはいえない。そこで、ここでは主要なモデルの理論形成の 跡をたどりながら、それぞれの考え方を概観する。 まず、大きく分けてGriffithき裂から出発した脆性破壊の流れと、全 く別の観点から論じた水素と転位の相互作用説の二つの流れがある。脆. (3-2)容易すべりモデル(Beachem)(58) (A)水素はき裂先端の塑性すべりを容易にし、同時に(B)塑性すべりは き裂先端への水素流入を助けることによりそこの水素濃度を増やすとの考 え方である。(A)は(B)を促進し、(B)は(A)を促進するので、塑性すべり. 性破壊の流れにはさらに格子脆化説と内部応力説がある。以下、格子脆 15. t4.
(13) =ぶ鴎;. は著しく局所化する。き裂先端に塑性すべりが局所化し多量の水素が流入. −トが中性化した場合に近く、破壊形態およびクラックの状況も実際の遅. してきても特別なき裂進展の仕方をするのでなく、水素なしでも起こるは. れ破壊と対応していることが確認されている。さらに、水素の侵入が他の. ずであった3つの破壊形態(粒界破壊、へき界破壊、ディンプル破壊)のい. 溶液に比べ安定して吸蔵される。FIPでは、溶液の温度、濃度についても. ずれも助長する。すなわち、水素脱化という特別な材質変化とは考えてお. 検討し最適な条件を決定した。. らず、水素脱化より水素助長割れという言葉が実情を表わしているとして. De. Bondtは(6o几加速試験における荷重方式の影響について検討した。. 従来の鋼線の加速試験は曲げ荷重方式を用いていたが、これと車軸荷重方. いる。. 式との比較を行った結果について対数正規プロットを用いて比較した。試 1.2.4. 験片は鋼線(0.8%C八溶液はWyzomirski溶液(Ca(N03)けNH4N03)、およ. 遅れ破壊評価試験方法. 遅れ破壊の試験方法は、基本的には一定の荷重を与えて破壊するまでの. びNH4SCNについて検討している。まず、曲げ荷重方式と単軸荷重方式では、. 時間を計測するものである。ただし、実際に遅れ破壊が発生するまでの時. 寿命平均値には大きな差はないが、単軸荷重方式の寿命分布の分散が小さ. 間は、長いもので10年以上に及ぶものがあり、室内試験で遅れ破壊感受性. いので、De. を評価しようとする場合何らかの加速方法をとらなければならない。遅れ. べている。次に、試験溶液についても検討を加えNH4SCNは平均寿命を短縮. 破壊の場合は、水素の供給と応力条件が加速因子である。水素の供給方法. しかつ分散を小さくし、温度については298Kより323Kの方がやはり平均. は大気(湿気を含む八水蒸気、水、食塩水、希釈酸水溶液、硫化水素水溶. 寿命を短縮するので、323KのNH4SCN溶液を用いることを推奨している。. Bondtは後者の単軸荷重方式が試験法として優れていると述. 液、陰極チャージ(電流密度)の順に増大し、触媒毒が存在すると侵入量は. FIP試験方法は、323Kに保持した20%NH4SCN(チオシアン酸アンモニウ. いっそう増加する。この理由は、触媒毒の陰イオンが鉄の表面に吸着する. ム)水溶液中にPC鋼材をそのまま湯漬長200mmになるよう湯潰し、サンプ. と、鉄と化学吸着している水素との結合エネルギーをも下げる。そのため、. ルに定引張荷重を負荷して、破断までの時間を謂べる試験である。破断し. 化学吸着過程でのポテンシャルの谷が浅くなり鉄中へ固溶体として侵入し. ないときは、200hで試験を終了とする。. やすくなる。応力条件を厳しくするには、サンプルに切欠きをいれるか負 荷応力を高くする方法がある。応力の負荷方法としては、単軸引張、曲げ. 鋼中の水素分析. 高強度鋼の遅れ破壊機構解明にあたり、阻害因子である水素の分析は極. 等がある。 本研究においては、PC鋼材の遅れ破壊評価試験としてFIP(Federation lnternationale. 1.2.5. de. la. Precont. rainte : 国際プレストレストコンクリ. めて重要であり、これまで種々の分析が試みられてきた。従来、高強度鋼 の水素分析に用いられてきた主な手法は以下の通りである。. ート連盟)試験(59)を用いた。このFIP試験は、PC鋼材の耐遅れ破壊試験方. ①電気化学的透過法. 法としてFIPで標準化されたものである。. ②ガス透過法. FIPでは、①H2S04+カソードチ. ャージヽ②H2S、③H20、④Ca(OH)2、⑤NH4SCNの5種類の溶液を用いてPC. ③グリセリン置換法(JIS. 鋼材を評価した。その結果、⑤のNH4SCN水溶液はpH=5.0∼7.5とコンクリ. ④真空加熱法(JIS. 16. Z 3113). Z 2614) 17.
(14) W. ⑤不活性ガス融解法(JIS. をとる必要があり、現在のところ単一の測定方法のみによって測定するこ. Z 2614). ⑥トリチウムオートラジオグラフィ法. とは困難である。 第2の問題点は、鉄中の水素拡散は室温においても他に比べ著しく遠く、. ⑦マイクロプリント法 上記の①は電気化学的に水素を透過させ水素拡散係数と水素含有量を測. 拡散ジャンプ数は毎秒108回以上とされており、これにより、高温状態を. 定する方法、②は水素ガス圧力差を利用して水素を透過させ水素拡散係数. 室温に凍結して濃度分布を調べるという正統的な拡散実験は原理的に不可. を測定する方法、③は鋼中の拡敵性水素量を測定する方法、④は鋼を一定. 能であることである。また、内部摩擦のスネーク・ピークによる測定も、. の昇温速度で加熱し放出水素を質量分析計等で検出し、水素放出プロファ. ピーク温度が窒素の沸点以下となるので技術的に困難である。そのため、. イルから拡敵性水素と非拡敵性水素に分けて水素量を測定する方法、⑤は. 一般に行われている水素拡散係数の測定は、放出法、透過法などいずれも. 釧を溶解し全水素量を測定する方法、⑥はトリチウムにより露光したトラ. 間接的な方法によるもので、固体内部の純粋な拡散過程のみを検出するも. ップサイトの可視ィヒを行う手法、⑦は鋼表面にAgBrのエマルジョンコー. のでない。すなわち、水素拡散の測定といっても、拡散過程と表面反応過. ティングを施し、水素と反応したAg粒子からトラップサイトの可視化を行. 程との複合現象をみているわけである。このような実験から、拡散係数を. う手法である。以上を大別すると、①∼②が水素拡散係数を求める手法、. 評価するためには拡散方程式の解が必要であり、そのためには境界条件が. ③∼⑤が鋼中の水素量を求める手法、⑥∼⑦が水素トラップサイトの可視. 必要であり、表面状態に関する知識が不可欠となる。しかし、一般には測. 化を行う手法である。本論文では、水素拡散係数の測定方法として①の電. 定中の表面状態を正確に把握することは困難である。. 気化学的透過法、水素量の測定方法として④の真空加熱法、そして水素ト. 拡散係数の測定値は、適当な境界条件を仮定して算出された見かけの値に. ラップサイトの可視化の方法として従来適用されていなかったSIMSを用. すぎない。結局、拡散係数の測定値は境界条件の選び方によって大幅に変. いた。以下、各々の測定原理、測定方法、測定結果について述べる。. 化するので、今のところその絶対値としての意味においては疑問が残る。. したがって、通常の. ところが最近になって、鋼中の水素の透過曲線をイオン化電流として検 (1)電気化学的透過法. 出する方法が注目されるようになった。この電気化学的透適法も間接測定. (1-1)水素拡散係数の測定上の問題点. という点では従来の測定原理と同様に、表面効果を避けられないうえ、水. 鉄鋼中の水素拡散は、他の拡散に比べてその活性化エネルギーが極めて 小さいことにより、拡散係数の測定上2つの問題を生じる(61)。 第nこ、拡散係数の温度依存性が小さいので、測定温度範囲をかなり広 くとらない限り拡散係数の大幅な変化は期待できない。例えば、Fig.1.3. 溶液を用いるため測定温度がO∼100℃という狭い範囲に限定される。し かし、この測定領域は、トラップ効果が著しく遅れ破壊の発生する領域で もあるので、従来にない有力な手法と期待される。次に、電気化学的透適 法の特徴を述べる。. で示したように、温度を200℃∼900℃まで変化させることによって、炭 素や窒素の拡散係数は106倍ほどの変化をするのに対し、水素の拡散係数 は3∼5倍の変化をするのみである。したがって、極めて広範囲の測定温度 18. 19.
(15) W. (1・-2)電気化学的透適法の特徴. H. 本研究では、水素拡散係数の測定に電気化学的透適法を適用した。従来. →. H十. 十. e ̄. (1.5). のように水素原子1個あた引個の電子が放出されるので、水素の透適量が. から、高温における鋼中の水素拡散係数の測定には、ガス透適法がよく用. 電流値(水素透過電流)として測定できる。水素供給側で発生させる水素. いられていた。. 星谷)を瞬時に変化させると水素透過電流(j)も拡散による時間的な遅. しかレ鉄表面上での吸着水素分子の解離速度は温度の低. 下とともに急激に減少するので、水素ガス環境から鉄中への侵入反応を利. れをともないながら変化する。数学的には、鋼中の水素の透過はFickの. 用した通常のガス透過法では室温付近での測定を行うことは困難である。. 拡散方程式により記述される(62)(63)。. また、鋼中の水素拡散速度は室温付近でも大きな値を持つが、水素の固湿. Fickの第2法則を適用して、. 度すなわち単位圧力の水素ガスと平衡する固湿水素濃度は温度の低下とと. ∂司. ∂C 一 ∂1. ∂・ -. ∂X2. 一. ∂. 一. (1.6). もに急減するので、室温付近での個中の水素の透適量も小さい。これらの ため室温付近での鋼中の水素拡散係数の測定法には、水素分子の解離反応 を必要としない水素の導入法を利用して、水素侵入反応を容易にすること と、水素透適量の高感度の検出とが要求される。その点、電気化学的透過. 境界条件として、 r=0、0<x<z.、c=0 1>Oヽx’Oヽ. c=Q. x=1.、. C=O. 法は表面反応過程を制御できる。 以上より、電気化学的透過法の第1の特徴は、水素の検出感度が 1011atom/cm2secほどあり、従来のガス透過法に比べ104倍ほど感度が高 いことである。そのため、表面効果によるわずかな乱れを理論曲線からの ずれとして常に監視することが可能である。第2の特徴は、電流や電位に より表面状態を大幅に変化させることができることである。従来の方法で は自然の成り行きにまかせていた表面反応過程が制御できることは、境界 条件にともなう不確定さを除去できる。. (1.7) (1.8) (1.9). 条件(1.8)は測定中x=O面の吸着水素原子の被覆度が一定であること、す なわち陰分極電位が一定であることを意味する。Fig.1.6に示すように、 C=吋x、りは材料中の水素濃度、∂は水素の拡散係数、1.は試験片の厚さ、 Coは水素供給側での濃度である。 Laplace変換を用いて(1.6)式を解<と、. erfcl少;忌!ニ!ノ. Ea,り=らra6「fcづJWΞ一一. (1.10). 測定される陽分極電流(H→H゛e-)は次式で与えられるので、. かJF6. ∂C(x.t) 一. 几と. (1.11). (1-3)電気化学的透過法の原理 電気化学的透過法では、試験片の一方で水素を発生させ個中を透過させ、. (1.10)式をxで偏微分し、(1.11)式に代入すると、 皐=. 水素拡散係数および水素侵入面(供給面)での水素含有量が精度良く測定 できる方法である。水素供給面(χ=O)で生じた水素原子の一部は、金属 中に侵入し透過拡散して水素検出面(X元)に達する。この検出面を、下 記の反応が生じるのに+分な電位に保てば。 20. 仁二恚(一白e一(2n÷1)2ノ47. 万y/2ジ/2叫フ. (1.12). ここでヽ尚は水素供給側の濃度を変化させたときの時間rにおける透過電 流密度、j。=∂FCnZL、7-(=DtノL2バま無次元の時間である。(1.12)式の第1 項のみを用いると、 21.
(16) WI. 四−・│-−四│. W. J. 7. 2. e-1ノ4r. J...z71ノ2. rlノ2. (1.13) 1.0. 同様にFourier解析を用いて J. 一 一. /-2e一万「. ム。. (1.14) 0.4. j'/'f. となる。これらの式は無次元項のぐJtノJ]とrのみの関数となっているこ とに注目されたい。理論式(1.13〉バ1.14)と実測値との比較をFi9.1.7に. 0.21. 示す。理論式の第1項のみを使用したので、rの小さい範囲では(1.13)式、 0. rの大きい範囲では(1.14)式、その中間域では両者が一致する。この数 沁. 学モデルの解(理論解)と上記の実測データとを比較することにより水素 拡散係数が求まり、さらに水素含有量が求まる。従来使われてきたtime lag法では測定した曲線の1点のみを使用するが、本方法は曲線全体を理. Time. Fig.1.7. ]00. l (sec〉. Comparison of experimenlal date(○)with theoretical transients(−)and(…).. 論曲線と比較するので、かなり優れた手法といえる。 (1-4)電気化学的透適法の測定方法 電気化学的透適法による水素拡散係数および陰極表面直下の水素含有量 の測定方法について述べる。測定するサンプルは、直径5mmの先棒から切. ⑧−・. →H4+e’. り出した厚1×70×5mmの平板とした。この平板の両面を機械研磨した後、 塑性変形暦を除去するため約30μm電解研磨した。この理由は、機械研磨. Fi9.1.6. uo!le4ue uo eu 6o oQ JpAH. Cathode. により約10μmの塑性変形肩が存在し、この肩巾での水素拡散係数は2桁 ほど小さくなってしまうからである。次に、NiS04. ・ 6H20、NiC12. ・ 6H20、. H3B03から構成されるWatt浴にサンプルを浸潰し、電流効率を40%として 計算すると、室温においてlmA/cm2の電流密度で10min電気めっきを行う ことにより、0.05μm厚のNiめっき厚が得られることになる。測定は吉沢、. Ni. 山川の方法(62)(63)を用い、装置の概略をFig.1.8に示す。 Anode. x°O. variation concentration time by using hydro9en. xzL. of hydro9en in steel with permiation technique.. 実験条件は以下の通りである。陰極の水素供給側は、0.05kmol/m3 H2S04水溶液、陽極の水素検出側はl. kmol /m3. NaOH水溶液、液温度は298K. とした。陰極電流密度は120A/m2とレ陽極面における水素原子のイオン 化設定電位はート150mvvs.S.C.E.に保持し、拡散透過してくる水素原子を. 7つ ー−. 23.
(17) -一一. ’cQ﹄﹂n u3 o!le!al uJ ee 6d oJpAH. その面上でイオン化してイオン化電流から水素透過速度jを求めた。水素 拡散係数びm2/s八よ水素透過曲線上で無次元化した水素透過速度の定常値 JtノJ。=0,5となる時間t o.よs)から求めた。 ∂=. 7Q.。・12 t0.5. (1.15). ここでヽr∂、5は理論解の中に出てくる無次元化した時間(=0.138)である。 また、陰極表面直下の水素含有量ら(ppm)は次式から求めた。 ら=JI`沁-x7.27xぼ' F‘∂り. Time. (1.16). Fi9.1.9. ここで、JJま定常水素透過電流(A/m2)、1.は試験片板厚(m)、Fはファラデ. Permeation rate of hydro9en and electrode potentialat the plane of hydro9en charge.. ー定数[=965【】0(C/rnol)]、創ま検出面積(m2)である。 測定の手順は、水素検出側にlkmol/m3. NaOH水溶液を入れポテンショス. タットを作動させるとFig.1.9に示すように、めっきしたNiおよび被覆さ. れてない鉄試斜面の不備感化のため最初0.1μA/m2程度の電流が流れ、 徐々に減少しほぼ30mjn後には0.1nA/m2以下の定常電流値となる。これは、 Ni表面がNi00Hで覆われ不備態化したことによる。その後水素供給側に 0. 05kmo l /m3. のH2S04水溶液を満たし陰分極電流らを流すとしばらく経道. 後電流値が増加しやがて定常値丿肖に達する。さらに電流値をりに増加す ると同様の経過が観測される。得られた透過曲線から半対数グラフ用紙に (Jtムノ)対lo9 log. rを描く。. rの関係をプロットレもう一枚に理論曲線を隅八ノ⊇対 lo9. r=loq(DノL2)+lo9. rであることに注目して、両曲線. が一致するまでスライドさせ、一致したときのり。5の値を読み取る。乙。は 既知なので、(1.15)式より水素拡散係数∂が求まり、得られた∂を(1.16) 式に代入することにより陰極表面直下の水素含有量らが求まることになる。 以上の電気化学的透過法により求まる水素拡散係数および陰極表面直下 の水素含有量は、鋼材表面を研磨し応力を負荷していない状態のなので、 Anode. Specimen. 表面の効果、応力の影響を受けていない鋼材自身が持つ水素特性であると. Ni. いえる。第6章においては、この手法を用いて各種鋼材の水素特性を明ら かにした。. Fig.1.8. Electrical circuil of hydrogen. permeation. 24. 25.
(18) ¬−. W. (2-3)真空加熱法による活性化エネルギーの算出. (2)真空加熱法 (2-1)個中の吸蔵水素量の測定. 鋼中における水素トラップサイトは、それぞれトラッピングエネルギー. 鋼中の吸蔵水素量を測定する方法のうち最も簡易に測定できるのが、グ. が異なることが考えられる。真空加無法による測定においてサンプルの昇. リセリン置換法である。しかし、この方法はグリセリン中に湯漬したサン. 温速度を変化させると、ピーク温度が移動することに着目して、各トラッ. プルから放出される水素の体積を測定するため、測定できる水素は室温で. プサイトから水素が離脱する際の活性化エネルギーを導出することにした。. 放出される拡敵性水素のみで、トラップされた水素は測定できない。一方. 一般に金属内部に吸蔵されている水素が離脱する際の機構(64)としては、. 不活性ガス融解法は鋼中の全水素量を測定できるが、加熱が急激であるた. 概ね4つの段階を経ると考えられる。. め酸化被腹中に存在する水分が分解し、測定値にばらつきが生じやすい。. ①内部の欠陥に補足されていた水素原子あるいは水素イオンが補足サイ. その点、真空加熱法(TDS:Therma. l. Desorpt ion. Spect rometry)は鋼中の. 拡敵性水素からトラップされた水素まで分離して測定でき、しかも検出部. トから離脱する。あるいは、H2が水素原子またはイオンに解離し母相 に侵入する。. に四集権質量分析計を用いることによりppbのオーダまで水素量を高感度. ②水素原子あるいはイオンが結晶格子間を拡散し、表面に出る。. に測定できる。そこで、本研究では鋼中の吸蔵水素量の測定に真空加無法. ③水素原子あるいはイオンが表面で互に、あるいは外の原子ないしはイ. を適用した。. オン種と会合して、H2または水素化合物となる。 ④生成したH2または水素化合物が表面から離脱する。. (2-2)真空加無法の測定方法. したがって、鉄からの水素の離脱速度はこれら一連の過程のいずれかの. 真空加熱法は、真空中加熱ガス抽出一質量分析法により水素放出プロフ ァイルを作成し水素量を計算する方法である。加熱は200K/hの定連昇温 とし. 部は四重極質量分析計を用い. 温度範囲は室温∼1073Kとした。検出. た。 まず測定前に. サンプルを挿入する石英管の空焼きを行し. 石英管に. 進行の速度によって支配される。 一般に水素の鉄中における拡散は遠く、②の拡散過程が離脱の律速段階 として寄与しているとは考えられない。また④については、低温側で放出 される第1ピークにその可能性があるが、この第1ピークは転位あるいは空. 吸蔵されているガスを放出させ石英管からのガス放出の影響を最小限に抑. 孔と密接な関係があることから④が律速している可能性は否定される。し. える。また、新しい石英管の使用時には、日本鉄鋼協会標準試料GS-lcを. たがって、離脱反応が、①のトラップサイトから水素が1次反応に従って. 基準に校正し水素量を求めた。測定試料は約159前後とし、サンドペーパ. 離脱する過程か、③の表面において2つの水素原子が結合する2次反応が律. ーで表面の脱スケールを行い、アセトンで脱脂し冷風で乾燥後、石英管に. 速しているものと考えられる。. 挿入した。試料は測定まで-80℃に保管され、取り出しから測定までは. 解析は次のような式にしたがった。. 15minに統一した。. いま、試料単位重量、単位時間あたりにトラップサイトから離脱する水 素分子または原子の数が、この捕捉されている分子または原子の濃度(yの n乗に比例するとすると、離脱速度は(1.17)式で表わされる。 26. 27.
(19) 〃〃. W. dcy. (3)二次イオン質量分析法. 屹・(7n. dl. (1.17). (3-1)二次イオン質量分析法の特徴 ここでヽ1ヽらヽnはそれぞれ時間、速度定数、反応次数である。また、 試料を温度7、から一定の昇温速度βで加熱すると、温度γは(1、18)式で表. 二次イオン質量分析法(SIMS)は、固体表面の微量分析法として、優れ た特徴を有している。以下に、SIMSの特徴を示す(65几. わされる。 7'=γo+βt. (1.18). ①水素からウランまで全元素の分析が可能 よって、(1.17)式、(1.18)式より(1.19)式が導カヽれる。 d(7. dT. Kd. ②高感度であり、ppmからppbオーダの濃度の微量分析が可能 (7n. β. (1.19). また、らはアレニウスの式で表わされると仮定すると、(1.20)式が成. ③深さ方向の元素分析が可能 ④数μmの微小憩分析が可能 ⑤同位体の分析が可能. 立する。 Kd=りexp(-1∃d/Rγ). (1.20). ここでりヽEcj、Rはそれぞれ離脱の頻度因子、離脱の活性化エネルギー、. SIMSは非常に有力な手段となる。①からもわかるようにSIMSにに水素の. 気体定数である。 ところで、離脱反応が最大に逢する温度アを瓦とおくと、この温度では. ここでびm. a e゛p( ̄ ̄而 ̄). ような軽元素を測定できる数少ない分析装置のーつである。また、高強度 鋼は0.05ppmと極微量の水素量でも遅れ破壊を起こすことが知られており、. d2ら/d芦=Oが成立し、(1.21)式が導かれる。 a n・心rp-l 百゜つ ̄’″d. 高強度鋼の遅れ破壊に及ぼす水素分析において、これらの特徴を有する. ②からもわかるようにppmからppbまで高感度に水素を測定できる。さら (1.21). は脳こおける(yである。(1.21)式から最終的に(1.22)式が得. に、遅れ破壊試験後に表面の水素分析を行う場合、試料最表面の水素の拡 散放出、あるいは表面の研磨層、酸化物層、汚れの吸着等の影響が考えら. られる。. れるが、③の特徴により新鮮な内部の水素の情報を検出できる。また、高. ∂ln(β/石2) a ∂(1/抑 −一一  ̄ R. 強度鋼中の水素の分布は、均一でなく局部的に濃度の高いところと低いと. (1.22). (1.22)式の適用にあたり、n=1の場合には問題はない。n≧2の場合に は、全試料中の水素の初期濃度がほぼ一定で、cy. mが昇温速度に依存しな. ころがあるといわれており、④の特徴により平均の水素量でなく局部的な 水素の偏析も検出できる。そして、水素は大気中にも存在するが、⑥の特. いと考えると、離脱反応の正確な反応次数がわからなくとも、βおよびら. 徴から、自然の水素中に約1/7000しか存在しない水素の同位体である重. を知ることによって、離脱の活性化エネルギー£dを求めることができる。. 水素をトレーサーとして用いることにより、確実に重水素の存在位置を検 出できる。. 28. 29.
(20) W. ヽ・一一-. (3-2)二次イオン質量分析法の原理. lx°lpSKX. 77Cj. (1.23). SIMSは、一次イオンを固体試料に照射し、試料から放出される二次イ. ここでヽSはスパ`アタリング収率、Kjは二次イオン化率、クは二次イオン. オンを質量分離して試料表面の構成成分を元素分析するものである。一般. 利用効率(装置関数)、Cjは試料中に含まれる元素jの濃度である。この式. に、固体表面をイオンビーム(数∼数+kev)で衝撃すると、表面から二次. でヽSおよびだ」は ̄次イオン種ヽ一次イオンエネルギーヽ一次イオン照射. 電子、オージエ電子、X線、光の放出とともにスパッタリングに基づく固. 角、試料の種類および検出元素などによって決定される定数である。また. 体粒子の放出が起こる、スパッタされた粒子の一部はイオン化されており. 祠ま装置によって決まる定数である。. これが二次イオンである。. 本研究においては、高感度の水素分析が目的であるので、一次イオンと. スパッタリングにともなう二次イオン放出機構は現在のところ+分解明 されていない。 chemjcal. 定性的には、二次イオン放出過程を. kinetjc. processに分ける考え方があるく66几kinetic. process. してCs+を用いて負の二次イオンを検出することにより水素の高感度分析 と. processは、清浄. が達成できる。なお、水素は大気中に存在するためSIMS分析においてバ ックグラウンドレベルが高くなる。この真空中の残留ガスに起因するバッ. な金属に希ガスイオンを照射したときに支配的なものである。一次イオン. クグラウンドレベルは、残留ガスの分圧に比例し、また一次イオンによる. と金属原子との衝突により、試料中の金属原子が準安定状態M*として放. 試料のスパッタ速度に逆比例する。. 出され、試料表面近傍でオージエ型の遷移過程(M*→M゛+e)で正イオ. 素を分析する場合には、試料室の真空度が高い程、また、一次イオンの電. ンが生成される。 chemical. 流密度が高いほど、検出限界を下げることができる(フo)。. processは、酸素やアルカリ金属などの存在. したがって、本研究のような微量の水. 下で支配的になる過程である。これらの活性な原子の存在によって電子遷 移が促進され、kinetic process. の場合に比べて、二次イオン放出量が著. しく増加する。. 1.3. スパッタされた粒子のうち、イオン化されている粒子の割合は元素によ. 本研究の概要. 本論文「PC鋼材の遅れ破壊に及ぼす水素の挙動に関する研究」は、高. って異なる。傾向として、イオン化ポテンシャルの小さい元素ほど二次イ. 強度鋼のPC鋼材について水素の拡散過程、水素の吸蔵過程、水素の存在状. オン強度が大きい。正の二次イオン強度は、酸素イオンビーム(02゛、0-). 態を総合的に明らかにしたものである。特に、強化機構の異なるPC鋼材の. を用いると、希ガスイオンビーム(Arへ. 水素の挙動について検討し、遅れ破壊特性との関係について議論を進めた。. xeつに比べ1桁から2桁増加する. ことが知られている(m(68)。一方、イオン化ポテンシャルの大きい元素. また、SiおよびCa添加高強度鋼を作製し、耐遅れ破壊特性に優れる鋼材. は、電子親和力が大きく負イオンになりやすい。Cs゛イオンビームを用い. の開発を試みた。さらに、水素トラップサイトの可視化に向け、新しい水. ると負イオンが効率良く生成されることが知られており、近年SIMS分析. 素分析手法の確立に関する検討を進めた。本論文は7章から構成され、以. に用いられるようになった(69)。. 下に各章の概要を示す。. SIMSにおいて試料が電流らの一次イオン照射を受けたときの、試料に含 まれる元素jからの二次イオン強度は次式で示される。 30. 第1章「序論」では、研究の目的について説明する。また 31. 本研究の中.
(21) W. 心である遅れ破壊に及ばす水素について、まず水素の侵入、存在状態、拡. 一一. ることを明らかにする。. 散過程、トラップ状態、そして転位に及ばす影響に関する既往の研究を概 観する。また、遅れ破壊評価試験方法および水素の分析方法についての既 往の研究を概観する。. 第5章「PC鋼線の遅れ破壊特性に及ばす伸線加工率の影響」では、冷間 伸線型の耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼の開発を目標に、伸縮加工率の 異なるPC鋼線を作製レ伸線加工率の高い鋼材ほど耐遅れ破壊特性に優れ. 第2章「コンクリートポール中のPC鋼棒の遅れ破壊」では、実際のコン クリートポール申で起きたPC鋼棒の経年的破壊の解析について述べる。経. ることを明らかにする。さらに、破壊形態、水素吸蔵過程について解析す る。. 年的破壊には、アノード支配の活性経路割れとカソード支配の遅れ破壊が あり、実際のコンクリートポール中で起きた破壊は、カソード支配の遅れ. 第6章「SiおよびCa添加PC鋼棒の遅れ破壊に開する検討」では、熱処理. 破壊に対応することを示す。また、実際に遅れ破壊したPC鋼棒の特徴は、. 型の耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼の開発を目標に、Si量およびCa量. 遅れ破壊感受性が著しく高く、未使用のPC鋼棒に比べ約一桁以上多くの水. の異なるPC鋼棒を作製し、遅れ破壊特性を評価する。Si添加量が増すに. 素を吸蔵していることを明らかにする。. したがい、耐遅れ破壊特性は向上することを明らかにする。この鋼材の破 壊形態、水素の拡散挙動、水素の吸蔵過程について解析する。. 第3章「二次イオン質量分析法による高強度個中の水素トラップサイト. Si添加量が. 増すにしたがい、水素拡散係数は滅少し、水素含有量は増加することを明. の可視化」では、高強度個中の水素のトラップサイトを明らかにするため. らかにする。また、Si添加重が多いほど、破断に至る臨界水素量が高くな. の、従来遅れ破壊の研究に適用されていなかった二次イオン質量分析法を. ることを示す。また、Caを添加した鋼の中で1.5%Si-25ppmCa添加鋼にお. 用いた結果について述べる。高強度個中の水素トラップサイトの可視化を. いて、耐遅れ破壊特性に優れることを明らかにする。さらに、この鋼材の. 試み、二次イオン質量分析法(SIMS)により可視化が可能なことを明らか. 破壊形態、水素の拡散挙動について解析する。1.5%Si-25ppmCa添加鋼は. にする。あわせて水素集積比も実験的に明らかにする。また、真空加無法. 水素拡散係数が最大で、水素含有量が最小であることを明らかにする。さ. の水素放出ピークから推定していたトラップサイトをSIMSによる解析か. らに、耐遅れ破壊特性に優れている1.5%Si-25ppmCa添加鋼と2.0%Si添. ら固定する。. 加鋼は、耐遅れ破壊特性に及ぼす水素の吸蔵特性が異なることを明らかに する。すなわち、1.5%Si-25ppmCa添加鋼は破断に至る臨界水素量は低い. 第4章「冷間伸線型のPC鋼線と熱処理型のPC鋼棒の遅れ破壊特性の比較」. が、水素腹蔵速度も小さいため、破断までの時間も長いことを明らかにす. では、. 強化機構の異なるPC鋼線とPC鋼棒の遅れ破壊特性について述べる。. る。一方、2.0%Si添加鋼は水素吸蔵速度は大きいが、臨界水素量も高い. さら(、. 、両鋼の水素吸戴過程、水素トラップサイトを解析し、耐遅れ破壊. ため破断時間も長いことを明らかにする。このことから、炭化物および介. 特性との関係を論じる。また、真空加無法による第1ピークは遅れ破壊に. 在物を鋼中に微細分散させて水素の挙動をコントロールすることにより、. 悪影響を及ぼす水素、第2ピークは遅れ破壊に影響を及ぼさない水素であ. 耐遅れ破壊特性を向上させることが可能であることを明らかにする。. 32. 33.
(22) −−. W. ぐ19)松山晋作:. 第フ章「結論」では、第1章から第6章までの研究結果を総括して本研究. (20)櫛田隆弘,工藤赳央:第39回腐食防食討論会バ1992),p.391 (21)柴田悛央:. の結論について述べる。. 遅れ破壊,(1989),p.3,[日刊工業新聞社]. 鉄鋼材料の環境強度とその評価,(1981),p.13,[(社). 日本鉄鋼協会] (22)向井喜彦:. 鉄鋼材料の環境強度とその評価,(1981),p.171,[(社). 日本鉄鋼協会]. 参考文献 (1)敢正志:鉄鋼の高強度化の最前線バ1995),p.1,[(社)日本鉄鋼協会]. (23)深井有:. (2)木村利光,中村貞行:. (24)村田雅人:材料の破壊に汲ぽす環境効果,(1982).p.115,[日本. (3玖John P. Hirth:. 電気製鋼,65,(1994),p.31. Metall.Trans.,11A(1980),p.861. 日本金属学会会報,26(1987),p.208. 材料学会]. (4)南雲道彦:. 日本金属学会会報,21(1982),p.672. (25)M.Pourbaix:. (5)南雲道彦:. まてりあ,33(1994),p.914. (26)D.D.MCDonald. Hydrogen Degradation of Ferrous AIloys,(1985),p.603 : Hydrogen. (6)松山晋作:鉄と鋼,80(1994),p.679. (27)J.A.Smith,M.H.Peterson. (7)寺嫡室久長,大森靖也:. (28)A.A.S自ys,M.J.Brabers. 日本金属学会会報,22(1983).p.103. Degradation. of Ferrous. and B.F.Brown: Corr・sjon,26(1970),p.538 and A.A.vanHaute:. Corrosion,30(1974),p.46. (8)高野則之,寺崎富久長:材料システム。11(1992),P.19. (29)深井有:日本金属学会会報,24(1985),p.830. (9)寺崎室久長,高野則之:まてりあ,33(1994),p.922. (30)藤田英一:. 日本金属学会会報,18(1979),p.613. (1【】)中里福和:日本金属学会会報,21(1982),p.441. (31)H.Adachi. and S.lmoto:. (11)深井有:. (32)深井有:日本金属学会会報,24(1985),p.671. 日本金属学会会報,24(1985),p.597. (12)中里福和:熱処理,35(1995),p.133. (14)松山晋作:. 鉄と鋼,80(1994),p.679. (15)T.C.Bakerand p.170. p.1195. (35)K.0no. and. (36)R.A.0「iani:. (16)C.Gurney and S.Pearson : Proc. Physical Society, 62(1949),p.469 and A.R.Tr。iano : Trans. ASM,47(1955)。. p.892 (18)E.A.Steigerwald,F.W.Schaller. Compt,rend.,244(1957).. (34)深井有:拡散現象の物理.26(1988),p.116,[朝倉書店]. F.W.Preston : Jour. Appl ied Physics. 17(1946)。. (17)R.P.Fromberg,W.J.Barnett. J.Phys.Soc.Japan,4(1979),p.1194. (33)J.Plusquel lec, P.Azou and P.G.Bastien:. (13)櫛田隆弘,工藤赳夫:まてりあ,33(1994),p.932. A目oys,p.78. and A.R.Troiano : Trans. Met.Soc。. AIME, 215(1959),p.1048. L.A.Rosales:. Trans.TMS-AIME,242(1968),p.244. in Proc.Fundamental. Aspects Str白ss Corrosion. Cracking,甑CE, Houston,(1969),p,32 (37)K.Kiuchi. and R.B.MCLellan:. Acta Metall.,31(1983),p.961. (38)J.R.G.de. Silva, S.W.Stafford and R.8.MCLe llan: J. Less-Co・x)n. Metals,49(1976),p.407 (39)羽木秀樹:まてりあ,33(1994),p.1407. 34. 35.
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(24) ㎜│■I・ 〃│■四「|. W. 第2章. 2.1. コンクリートポール中のPC鋼棒の遅れ破壊. 緒言. -mould. 一般に鉄筋コンクリートは、鉄筋とコンクリートの双方の長所を生かし、 短所を桶い合う一種の複合材料である。すなわち、コンクリートは圧縮強. -PC. 几▽. 度は強いが引張強度が弱く、一方鉄筋は引張強度が強い。また、鉄筋は錆. steels mould. びやすいが、コンクリートはアルカリ性なので鉄筋防錆力を持っている。 通信を支えているコンクリートポールはこれらの長所を生かし製造されて. ぺ匹 prestress. freshly mixed concrete. いる山一(4几コンクリートポールは、鉄筋コンクリート製のテーパーのつ いたパイプであり、昭和20年代末頃から導入され、昭和40年代前半まで. へ prestress. は主に「遠心力締固めコンクリート」方式、その後は「遠心力締め固めお よびプレストレストコンクリート」方式のJIS製品が使われてきた。 Fi9.2.1に、「遠心力締め固めおよびプレストレストコンクリート」方式. Fig. 2.1. Compaction. concrete by using centrifugal force.. を用いたコンクリートポールの製造方法を示す。まず、型枠に生コンを注 入後、型枠ごと高速回転させて遠心力でコンクリートを締固める。これに より、材質が密で水や空気を通しにくく、かつ高強度のコンクリートが得. 【before. concrete. hardenin9】. られる。次に、PC鋼材に引張りの緊張力を負荷させた状態でコンクリート. 一 -. を硬化させ、脱型時に緊張力を解いて圧縮力(プレストレス)を付与する。 プレストレストコンクリートにおけるPC鋼材の許容引張応力度は、プレス トレッシング直後で引張強さの0.70倍あるいは降伏点の0.85倍のうち小 さいほうの値を限度と決められている(5几このプレストレス構造により、. →・-. PC 【afterconcrete. steel. concrete. hardenin9】 compression. stress. Fi9.2.2に示すように少々の荷重ではコンクリートにひびが生じにくく、 例えひびが生じても荷重を除去するとひびは閉じる。 ところが、一部のコンクリートポールにおいて中のPC鋼材に破断がみら れ、ポールの折損事故が危惧される。従来、コンクリート構造物は半永久 的なものと考えられていたため、コンクリート中のPC鋼材の破壊について 報告も少なく研究も進んでいないことから、発生機構がアノード反応に支 38. Fig.2.2. Effecl of preslressd 39. concrete. ,.
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