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ロシアによる上訴:以下のパネル判断を覆すよう求める(AB:5.38)。

- パネル判断(P:8.1.d.iv):2014年2月7日から同年9月11日までに,EUはロシアに対し て6条3項の下で,EU域内(ASF発生4ヶ国を除く)にASF清浄地域が存在し,かつそ のような状況が継続する見込みである旨を客観的に証明した。

- パネル判断(P:8.1.e.vii):少なくとも2014年9月11日時点で,EUはロシアに対して6条 3 項の下で,エストニア,リトアニア,ポーランドに ASF 清浄地域が存在し,かつその ような状況が継続する見込みである旨を客観的に証明するのに必要な証拠を提供した。

- パネル判断(P:8.1.e.ix): ロシアは,ASF発生4ヶ国におけるSPS上の地域特性に応じて,

またロシア国内における SPS上の地域特性に応じて,措置(ASF発生 4ヶ国それぞれか らの関連産品の輸入禁止)を調整しなかった。更に,ロシアは ASF発生4ヶ国における SPS上の地域特性を決定するための危険性評価を実施しなかった。故に,ASF発生4ヶ国 それぞれからの関連産品の輸入禁止は6条1項に違反する。

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EUによるその他の上訴:ロシアは6条2項に従ってASFに関して病気の清浄地域の概念を正し く認識したとのパネル判断(P:8.1.d.iii, 8.1.e.iv)を覆すよう求める(AB:5.44)。

1. 63

上級委員会判断:以下では6条3項を巡るパネル判断についてのロシアによる上訴-すなわち,

パネルは(i)同条項では輸入国が依拠する科学的・技術的証拠も考慮されると解釈しなかった,ま た(ii)同条項では輸出国が提供する証拠を輸入国が評価・検証するための「合理的な期間」が設 けられると解釈しなかった-が,それぞれ検討される(AB:5.45)。

(a) 63項では輸入国が依拠する証拠の検討が求められるか

当事国の主張:ロシアによれば,6条 3 項の検討に際してパネルは,輸出国が提供する証拠に加 えて,輸入国が依拠する科学的・技術的証拠,そして同国による(ALOP を考慮した)証拠の分 析についても考慮するよう求められている。これに対してEUは,6条3項で問題となるのはEU がロシアに提供した証拠が同条項の要件を満たすか否かであり,故にパネル手続中にロシアが提 供した証拠は考慮の対象とはならない(AB:5.67-5.69)。

上級委員会判断:6 条 3 項は輸出国の義務を定めるのみで,輸入国の義務への言及はない。輸入 国の義務はむしろ 1項・2項で規律される。輸出国から清浄地域の認定が要請されれば,輸入国 は,輸出国から提供された証拠や現地調査等を通じて得た証拠を含む「関連するすべての証拠」

を考慮し,それに基づいて清浄地域の有無を決定することが求められる。従って 3項におけるパ ネルの任務は,EUがロシアに提供した証拠が,ロシア当局がEU域内における清浄地域の有無を 決定するのに十分な内容,量,質であるかについて検討することである。なお,ここでパネルは,

輸出国が提供した証拠によって「清浄地域が存在し,かつそれが継続する見込みである旨」が客 観的に立証されたかを判断することは求められていない(AB:5.70-5.72)。

他方でパネルは,6条3項の下ではEU域内においてASF清浄地域が存在し,そしてそれが継 続する見込みである旨が客観的に証明されたかについて,パネル自身が判断できるかの説示を各 箇所で行った。もっともパネル判断全体を眺めると,3 項におけるパネルの審査は,輸出国の提 供する証拠が清浄地域の有無を輸入国が決定するのに十分なものであったかに限定されると正し く認識されている。故にこの点においてパネル判断に誤りはない(AB:5.73-5.75)。

(b) 合理的な期間

当事国の主張:ロシアによれば,エストニアでのASF発生は 2014年9月8日であり,それに関 するEUからの証拠提供は同年9月11日であったが,パネルは審査対象の時間枠を同年9月11日 と設定することで,EU からの証拠をロシアが検証するのに必要な期間を考慮することなく,そ の日を軸として EUが 3項の義務を果たしたと誤って結論付けた。これに対してEUは,病気の

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発生から輸入再開まで一定の時間が必要となることは疑いないが,それは6条3項ではなく5条 7項によって確保されていると反論する(AB:5.76-5.78)。

上級委員会判断:輸出国における清浄地域の有無を決定するために,輸入国はすべての関連する 証拠を考慮するが,そのためには一定の期間が必要となる。同様に,措置の調整に際しても国内 手続を経るために一定の期間が必要となる。ただし,証拠の評価の問題は6条3項とは無関係で あるし,また上述した一定期間の必要性は6条1項・2項との関係で検討されるべき問題である。

そして,そのような期間は輸入国に無制限に認められるべきではなく,8 条及び附属書 C(1)(a)の

「不当な遅延」を構成しない範囲で同国に与えられることになる(AB:5.79-5.82)。

なお,パネルはロシアに対して2014年9月11日までに(EUによる証拠提供から3日間で)証 拠を評価するようには求めておらず,むしろロシアは証拠評価のために十分な期間を与えられて いた。またパネルは,ロシアによる審査手続の実施と8条及び附属書C(1)(a)の整合性を検討する 際に,EU が提供した証拠をロシアが評価・検証するのに必要な期間について考慮に入れた。更 に,実際にはパネルは2014年9月11日以降に提出された証拠についても審査の中で検討を行っ た。以上から,6条3項の解釈を巡るパネル判断に誤りはない(P:5.83-5.86)。

2. 61項と3項の関係

当事国の主張:パネルによれば,EUは「ASF発生4ヶ国内におけるASF清浄地域の存在」を客 観的に証明するのに必要な証拠をロシアに提供したが,ラトビアに関してのみ「清浄性が継続す る見込み」を客観的に証明する証拠を提供しなかった。そこでロシアは,パネルが「3 項の義務 を輸出国が果たさない場合でも,1 項違反は認定され得る」と解釈することで,対ラトビア輸入 禁止についても誤ってロシアが調整義務を果たしていないと結論付けたと主張する。他方で EU は,かかるロシアによる 1 項と 3 項の関係を巡る主張は上級委員会の立場に反すると反論する

(AB:5.88-5.89, 5.93-5.95)。

上級委員会判断:ここで問題となるのは,6条 3項違反との判断が同条1項との整合性の判断に どのような影響を与えるかである。両者の関係については印・鳥インフルエンザ事件で上級委員 会が「1項違反は輸出国が 3項の義務を果たした場合にのみ生じるわけではなく,輸出国による 必要な証拠の提供がなくても 1項違反と認定され得る」と説示したところである。そのような例 として,(i)輸入国の国内制度が地域認識を妨げる構造となっている場合,(ii)病気の清浄性以外の SPS 上の地域特性が問題となる場合,(iii)国際機関が作成する規格又は指針に基づく調整が行わ れる場合が挙げられる。更に「調整義務は措置の採用時に生じる」との自らの説示も,3 項とは 無関係に1項違反が認定され得ることを示している(AB:5.96-5.99)。

他方で本件パネルは,ラトビアにおける特定地域の清浄性が継続する見込みである旨を客観的

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に証明するのに必要な証拠を EU が提供しなかったと判断したところ,それが対ラトビア輸入禁 止に関するロシアの調整義務の履行にどのように影響するか(なぜ EUは3項を満たさないのに,

それでも 1条違反を構成し得るのか)を説明すべきであった。従って,ロシアは対ラトビア輸入 禁止について同国内の特性(ASF 清浄地域)に応じた調整を行わなかったというパネル判断

(P:7.1028)は誤りである(AB:5.100-5.103)。

他方でパネルは,ロシアが自国内の地域特性に応じた措置(対ラトビア輸入禁止)の調整を行 っていない点も 6条1項違反の根拠としており,故に上記の判断はかかるパネルの結論全体を覆 すものではない(AB:5.104-5.108)。

3. 62

当事国の主張:EUによれば,本件パネルは,2項において輸入国は既存の規制枠組みを通じて地 域概念を「抽象的に」認識することが求められるのみと誤って解釈したが,2 項は地域概念の認 識方法については定めておらず,かかる認識は様々な手段(既存の規制枠組み,問題となる SPS 措置そのものを含む)を通じて可能なはずである。他方でロシアによれば,6 条 2項では清浄地 域という概念の明示的認識を求めるのみであり,問題となるSPS措置での地域主義の具体的な適 用を扱うものではない(AB:5.109-5.110, 5.130-5.133)。

上級委員会判断:6 条 2 項において輸入国は,自国内の清浄地域の存在を主張する輸出国に対し て,そのような主張を行うための「効果的な機会(effective opportunities)」を提供し,それによ って地域主義の概念を機能させるよう義務付けられる。故に,パネルが「2 項は 1 項と比べて

『より厳格でない』義務を定めており,故にここでは『抽象的な理念(abstract ideas)』という形 で地域の認識が求められる」と述べた点は同意できない(AB:5.135)。

また,本件パネルは「地域概念の認識に関する具体的な事例は 1 項の検討対象であり,2項で 検討されるべきではない」と誤って判断した。両項は別個の規定ではなく,1 項の「地域の SPS 上の特性」の中に,2 項の「病気の無発生・低発生地域」が含まれる。故に,地域概念の認識の 有無についての具体的な事例の検討は両条項との関係で行われ得る。そもそも地域概念の認識は,

(i)規制枠組みにおける条項,(ii)問題となる SPS 措置,(iii)慣行を通じて行われ得るが,ここでは

すべての関連する要素が分析の対象とされることになる(AB:5.136-5.137)。

以上から,2 項は 1 項よりも寛容な義務を定めており,故に地域主義の概念として「抽象的な 理念」の認識が求められるのみとするパネル判断には同意せず,また 2項の文脈で具体例の検討 を排除した点でパネルは誤りであった。従って,ロシアはASFについて病気の清浄地域という概 念を認識しており,故にロシアによるEU全域からの輸入禁止,及びASF発生国からの輸入禁止 は2項の義務に違反しないとしたパネル判断を覆す(AB:5.138)。