Integration Attempt by Systematic Review—
1. 序論
中小企業は世界の近代経済の発展に不可欠な力となっているにもかかわらず(La Porta et al., 1999),管理会計研究は中小企業における管理会計実務に注目してこなかった.例えば,
Mitchell and Reid (2000)は,2000年以前の管理会計研究は中小企業における管理会計実務に,
ほとんど関心を持っていなかったと指摘している.また,Lavia L`opez and Hiebl (2015)は管理 会計研究では中小企業の管理会計実践の詳細について検討していないと述べている.その一方 で,中小企業が管理会計に取り組む意義について言及している研究も存在している.例えば,
Davila (2005)は,非公式な管理を公式なコントロール・システムへと移行させることが,成長
期の小規模企業が成功するために不可欠であると述べている.さらに,Mitchell and Reid (2000) は,中小企業は経営資源が不足しており大企業と競争するためには,適切な情報とコントロー ル・システムを使用して希少な経営資源を利用することが必要であると指摘している.
日本においても中小企業が全体の99.7%を占めており,日本経済の発展には中小企業の力が 不可欠である(中小企業庁,2018).しかしながら,中小企業の管理会計実践に注目した研究 は少ない.頼(2004, p.1)は,「中小零細企業で利用されている管理会計実務の研究はほとんど ない」と述べている.また,朝原(2008)や飛田(2015a)はそれぞれの論文の冒頭で,中小企業 の管理会計研究が少ないことを指摘している.飛田(2015a, p.155)では,「中小企業における管 理会計や財務管理実務は多様であること,ケーススタディだけでは普遍化された理論を導くこ とが難しく,個別具体的な企業の事例を述べるだけに留まる可能性がある」と説明している.
これらの先行研究は,Lavia L`opez and Hiebl (2015)が明らかにした海外における中小企業の管 理会計研究と同様に,日本における中小企業の管理会計研究が不十分であることを示唆してい る.しかし,日本の中小企業を対象とした管理会計研究を網羅的かつ系統的に整理した研究は 未だ行われていない.そのため,日本における中小企業の管理会計研究は,正確な現状が把握 されておらず,レビューによって確認することが必要である.本研究は,中小企業の管理会計 研究を整理することで現状を明らかにし,今後の研究機会を示すことを目的としている.その
ために,Lavia L`opez and Hiebl (2015)の方法に準拠し,日本における中小企業の管理会計研究に
ついてシステマティック・レビューを実施する.
本論文のレビューによって得られた結果は以下の3点である.第1に,Lavia L`opez and Hiebl
(2015)と同様に,日本においても中小企業を対象にした管理会計研究はわずかしか存在してい
ないことを確認した.第2に,中小企業における管理会計の採用要因やアウトカムについての 一般的な傾向を明らかにした研究は,ほとんどないことを示した.第3に,日本においても中 小企業は管理会計の利用によって多様なアウトカムを得ていることを確認した.本論文のレ ビューによって示唆された今後の研究方針は以下の3点である.第1に,日本における中小企 業の管理会計研究では実施されていない経時的な研究を行うことである.第2に,ケース・ス タディや実態調査から得られた知見を理論へと進展させることである.第3に,個別の管理会 計システム(Management Accounting Systems:以下MAS)の採用による業績への影響について 具体的に明らかにする必要性があることである.
本論文は次のような構成で議論を進める.第2節では,中小企業における管理会計研究のシ ステマティック・レビューを行ったLavia L`opez and Hiebl (2015)の内容を検討する.第3節で は,本研究の方法論を記述する.第4節では,レビューによって得られた主要な結果と今後の
研究機会を示す.第5節において,本研究の結論と限界を述べる.
2. 先行研究
本節では,中小企業の管理会計研究に対するレビューを実施した先行研究であるLavia L`opez
and Hiebl (2015)の概要と成果を検討する.広範な分野にまたがる中小企業の管理会計研究を
網羅的かつ系統的にレビューした最初の研究であるため,彼らの研究を参照する.彼らの研 究では,中小企業の管理会計研究を対象にシステマティック・レビューを実施している.牧
本(2013, p.20)はシステマティック・レビューを,「特定のトピックに関するすべての研究のう
ち,科学的根拠に基づく計画に沿った原著論文だけを対象にまとめたものである」と説明して いる.そのメリットとして,先行研究の選択基準をあらかじめ明示し,複数の一次研究結果を 総括的に検討・要約しているため,エビデンスレベルが高いことを挙げている(牧本,2013, p.20).Lavia L`opez and Hiebl (2015)は,「中小企業」に関連する用語と,「管理会計」に関連する 用語が,タイトル,キーワード,または要約に入っている論文をシステマティック・レビュー の対象とした.この手順により,中小企業の管理会計の特性を明らかにすることを目的とした 研究を抽出している.つまり,管理会計研究における仮説検証のためのリサーチサイトとし て,単に中小企業が選択された研究はレビューの対象に含まないことを意図している.また,
彼らのシステマティック・レビューは,経験的証拠を提供する論文に焦点を当てており,概念 的または理論的な論文は含まない.最後に,選択された論文が研究テーマに関連する論文であ るかを精査する.このような手順によって,中小企業の管理会計に焦点が当てられていない論 文をレビュー対象から除外していくという選定を行っている.その結果,彼らの研究では,73 本の論文がシステマティック・レビューの対象となった.システマティック・レビューの対象 となった論文では,47本が量的調査を実施しており,26本が質的調査を実施している.また,
12本と少数ではあるが,経時的な調査を実施した論文も存在している.彼らは,これらの論文 を中小企業が管理会計を採用する要因及び管理会計を採用することによって期待されるアウト カムについて言及している論文に整理している.
2.1 中小企業が管理会計を採用する要因
Lavia L`opez and Hiebl (2015)は,中小企業が管理会計を採用する要因を①企業規模,②環境要
因,③主要スタッフの特徴,④組織構造,⑤管理会計システムの組織化の5要因とし,これら の要因ごとにレビューを行った.
2.1.1 採用に影響を与える要因(1):企業規模
Lavia L`opez and Hiebl (2015)によってレビューされた論文の多くが,中小企業が大企業に比
べて,管理会計をあまり利用していない,あるいは未成熟な管理会計を利用していると述べて
いる.Mitchell and Reid (2000)は,中小企業の管理会計について検討するにおいて重要なこと
は,大企業と比較して中小企業が管理会計を集中的に使っているかどうかを検討することだと 主張している.これは,企業規模が大きくなると組織のトップ層がすべてを管理することが出
来なくなり,管理会計が必要となると考えられるためである.また,複数の研究において,企 業規模そのものが管理会計の導入の重要な要素であると考えられている(Askarany et al., 2010;
Barrar et al., 2002; Davila and Foster, 2005, 2007; El-Ebaishi et al., 2003; Elhamma, 2012; Gunawan et al., 2008; King et al., 2010; Marc et al., 2010; Neubauer et al., 2012; Odar et al., 2012; Phadtare, 2010;
Saccani et al., 2006; Tapinos et al., 2005). これらの研究では,企業規模が小さくなると,MASの 採用率が低くなることを示している.さらに,Askarany et al. (2010)は,小規模企業は大企業と 比較して,洗練されていないMASを使用する傾向があると主張している.
2.1.2 採用に影響を与える要因(2):環境要因
中小企業の管理会計に影響を及ぼす環境要因について,Amat et al. (1994)やReid and Smith
(2000)は,市場における企業間の競争が激しいほど管理会計の利用が増加することや市場の
不確実性に起因するキャッシュ・フローの危機や資金調達源の不足などの外部の不確実性が,
中小企業におけるMASの使用を増加させる要因であると主張している.また,Hopper et al.
(1999)とJoshi et al. (2003)の研究では,MASの利用に影響を与える外部の文化的要因の重要性
を主張している.例えば,日本企業などの終身雇用を特徴とする企業文化では,スタッフは経 営資源の最適化と企業の業績向上に関与しており,より洗練されたMASを開発して実装する ことができる(Hopper et al., 1999).これらの研究は,管理会計を採用する環境要因として,①市 場における競争の激しさ,②市場の不確実性,③外部の文化的要因の3点に整理することがで きる.
2.1.3 採用に影響を与える要因(3):主要スタッフの特徴
中小企業は大企業と比較して,経営資源が不足しがちであることが多いため,主要な従業員 の特徴が,管理会計の利用に大きく影響を与えるとする研究が存在する.例えば,財務・会 計担当の従業員への教育が不十分な中小企業では,MASの利用が減少する(Alattar et al., 2009;
Halabi et al., 2010; Ilias et al., 2010; Marriott and Marriott, 2000; Thomsen, 2008). さらに,中小企業 のマネジャーが会計の教育を受けていない場合,管理会計は銀行などの外部機関への情報提供 ツールとしてのみ利用されており,経営意思決定には利用されていないことが示されている (Halabi et al., 2010).一方で,Ritchie and Richardson (2000)は,管理会計の利用と事業に関心が高 いマネジャーが存在する中小企業では,MASの利用が増加することを明らかにした.これら の研究は,管理会計を採用する主要スタッフの特徴として,①従業員およびマネジャーの教 育,学習経験や知識,②マネジャーの管理会計に関する関心の高さの2点に整理することがで きる.
2.1.4 採用に影響を与える要因(4):組織構造
利用可能な経営資源の制限が,MASの使用を減らしていることに言及している論文も数 多く存在している(Brierley, 2011; Chand and Dahiya, 2010; Howorth and Westhead, 2003; Laitinen, 2011; Marriott and Marriott, 2000). 一方で,Davila (2005)やDavila and Foster (2005, 2007)は,ベ ンチャーキャピタルファイナンスや創業者以外の会計・経営の専門知識を保有している経営者 の関与によって,中小企業の資金的な制約や人材の制約が緩和され,MASの利用が増加する ことを示唆している.また,中小企業において分業化が進み,組織構造が複雑になると,MAS