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ω3系脂肪酸の脳機能への影響と周産期(妊娠期 - J-Stage

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「油断大敵」という四字熟語の意味にはいろいろな説がある ようだが,戦国時代に明かりの油を絶やすことは敵の侵入を 許すことから, 注意を少しでも怠れば,思わぬ失敗を招く ので十分に気をつけるべきである という戒めとして用いら れている.しかし,現在は,昔とは少し異なり, 良質な油 を断ってしまうと,大きな健康上の問題を引き起こす とい う意味にも取れる.脂質のとり過ぎは肥満につながり,循環 器系疾患や糖尿病を引き起こすとして制限されてきたが,体 にはとらなければいけない脂質(必須脂肪酸)がある.この 必須脂肪酸について紹介したい.

脂質

「あぶら(油脂)」は,「油」と「脂」に分けられ,一 般的に,「油」は主に植物性油脂を指し,常温で液体の 大豆油,コーン油,菜種油,ごま油,オリーブ油などが ある.「脂」は動物性油脂で,常温で固体のバター,

ラード,牛脂などがある.しかし,植物性であるが常温 で固体のココナッツ脂やカカオ脂,動物性で常温液体の 魚油などが例外としてある.このように「油脂」と一言 で言っても性状が異なるのは,油脂を構成する脂肪酸の 種類が異なるためである.脂肪酸は,飽和脂肪酸と不飽 和脂肪酸に大別でき,不飽和脂肪酸はさらに一価不飽和 脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分類される(図

1

多価不飽和脂肪酸,必須脂肪酸

多価不飽和脂肪酸の

ω

3系脂肪酸と

ω

6系脂肪酸は,生 体内では生成できないため,食事による摂取が必要な必 須脂肪酸である(図1)

.生体内では,リノール酸(LA, 

18 : 2n-6)は,アラキドン酸(ARA, 20 : 4n-6)に,

α

-リ ノレン酸(ALA, 18 : 3n-3)はエイコサペンタエン酸

(EPA, 20 : 5n-3)やドコサヘキサエン酸(DHA, 22 : 6n-3)

に代謝していくが,これらは同じ代謝酵素で競合的に代 謝されるため,

ω

6と

ω

3の両者のバランスが重要となる

(図

2

ω

6系脂肪酸は必須脂肪酸であるものの,さま ざまな食材に多く含まれているので摂取不足を心配する 必要はないが,

ω

3系脂肪酸を多く含む食材は一部の植

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

The Role of ω3 Fatty Acids in the Brain Function: Let s Intake  ω3 Fatty Acid in Your Eating Habits

Akiko HARAUMA, Toru MORIGUCHI, *1 麻布大学生命・環境科 学部海洋素材機能解析研究室,*2 麻布大学生命・環境科学部食品 生命科学科食品栄養学研究室

ω 3系脂肪酸の脳機能への影響と周産期(妊娠期授乳期)での重要性

現代の「油断大敵」を考える

原馬明子 * 1 ,守口 徹 * 2

(2)

物油や魚介類に限られている.そのため,意識して

ω

3 系脂肪酸を摂取しなければ,

ω

6/

ω

3(理想値は2〜4)

が上昇して生体内の必須脂肪酸バランスが崩れ,慢性的 な

ω

3系脂肪酸不足状態となってしまう.

ω

6系脂肪酸のARAは生体内のあらゆる組織に存在 し,ARAカスケードによりプロスタグランジンやロイ コトリエンなどのエイコサノイドが産生され,炎症反 応,胃腸粘膜の保護,骨格筋の増大,骨代謝など,さま ざまな場所で生理作用に関与している.一方,

ω

3系脂 肪酸のDHAは,神経系組織に高濃度蓄積しており,脳 や視覚機能に対して有効であることが多数報告されてい る.たとえば,脳内DHA濃度は,記憶・学習などの脳

機能と正の相関があることが示されている(1〜5)

.近年で

は,若者のキレやすさや打たれ弱さ,不安状態の異常な 上昇などの情動にかかわる脳高次機能と

ω

3系脂肪酸の 関係に注目が集まっている(6〜9)

DHAは神経系組織に不可欠な脂肪酸であるにもかか わらず,成熟個体での脳組織へのDHA取込み速度は血 液や肝臓などに比べて緩慢で,十分な蓄積量に達するま でには長期間を必要とする(10)

.また,DHAの取込み時

期は,脳の発達・形成期である胎児や乳幼児期が重要 で,この時期のDHAの蓄積速度は成獣時よりも速いこ とが報告されている(11〜13)

.しかし,胎児,乳幼児の栄

養供給は母体に依存しており,加えて脂質の代謝酵素活

図1脂肪酸の種類

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

陸から生まれたリノール酸(

ω

6),海から生まれた

α

- リノレン酸(

ω

3

なぜ,

ω

3系脂肪酸を含む食材は,海産物に多いの

か? さまざまな動植物がもつ脂質がどのような脂 肪酸で構成されているかは,育つ地域や環境,種に よっておおよそ決まる.一般に,陸上の動植物には

リノール酸のような

ω

6系脂肪酸が多く,海洋の動植

物には

α

-リノレン酸やエイコサペンタエン酸,ドコサ

ヘキサエン酸などの

ω

3系脂肪酸が多く含まれている.

リノール酸の凝固点は−5℃,

α

-リノレン酸は−11℃

α

-リノレン酸のほうが6℃も低い.陸よりも環境温

度の低い海洋で生育するために,海洋の動植物が体

内に

α

-リノレン酸を蓄えるのは,エネルギー源として

の脂質が寒冷地で凝固することなく,効率良く利用 できるようにするためだと考えられる.また,植物

はリノール酸を

α

-リノレン酸に変換できる酵素をもっ

ており,自身で産生する脂肪酸を調節できる.これ

は,植物が根を張った場の環境変化に適応して生育 していくために,自身に油脂を円滑に循環させる目

的で,

ω

6から

ω

3への変換酵素を獲得したものと考え

られる.ヒトにもこの

ω

3系脂肪酸合成酵素があれば,

リノール酸から

α

-リノレン酸といったように,身体の

中で過剰な脂肪酸を不足している脂肪酸に作り替え ることができるのだが,残念ながら不可能である.

ヒトは,

ω

6と

ω

3を必須脂肪酸として,バランスを考

えながら食事から摂取しなければならない.陸上の

植物のなかでも,エゴマやアマニは

α

-リノレン酸を

50%以上含む珍しい植物であり,寒冷地で栽培されて いる.近年問題となっている地球温暖化がさらに深

刻化すると,これらの植物も

α

-リノレン酸を産生しな

くなるかもしれない.事実,熱帯のココナッツなど は,多価不飽和脂肪酸は産生せず,ほとんど飽和脂 肪酸である.人類は,自由に生活場所を移動できる 代わりに,この酵素の獲得を逃したとすれば,脂肪 酸の働きを理解して,油脂と賢く付き合っていく課 題を背負わされたのかもしれない.

コ ラ ム

(3)

性も低いので,母乳を介した直接的なARAやDHAの 十分な供給が必要である(14〜16)

.つまり妊娠,授乳期間

中の母体は,自身のためだけでなく,胎児,乳幼児への 必須脂肪酸の供給を考慮して食物をとらなければならな いのである.

日本においても現代の食生活では

ω

3系脂肪酸を摂取 する機会が減少し続けており(17, 18)

ω

3系脂肪酸の欠乏 状態に陥りやすい状況にある.これまでわれわれは,食 餌性

ω

3系脂肪酸欠乏マウスを用いて,

ω

3系脂肪酸とそ れに対応した

ω

6系脂肪酸の役割を,胎仔期から老齢期 までライフステージに合わせて検討している.本稿では これらの結果を紹介するとともに,

ω

3系脂肪酸の脳機 能への影響や,妊娠期,授乳期(周産期)での

ω

3系脂 肪酸の重要性について考えてみたい.

ω

3系脂肪酸の必要性:

ω

3系脂肪酸欠乏マウスを用 いて

1.

ω

3系脂肪酸欠乏マウスの作製

一般に,実験動物用飼料は,適切量のDHAを含む

ω

3 系脂肪酸を含有しているため,

ω

3系脂肪酸の作用を評 価するためには,まず

ω

3系脂肪酸を含まない特殊飼料 を用いて

ω

3系脂肪酸欠乏(

ω

3欠乏)動物を作製する必 要がある.また,通常飼育の動物は出生前から離乳まで の間に胎盤や母獣乳から十分なDHAを摂取しているの で,第1世代で目的とする

ω

3欠乏動物を作製すること は容易ではない.このことを考慮して,われわれは AIN-93GまたはAIN-93Mを基礎飼料としたALAをほと んど含まないLA豊富な

ω

3欠乏飼料で実験動物の飼育,

繁殖を行っている.通常飼料で飼育した離乳直後(3週 齢)と成熟期(7週齢)のマウスに

ω

3欠乏飼料を与え,

脳内ならびに血漿中のDHA量を10週間にわたって測定 し,その減少過程を見てみると,血漿中DHA量は,僅

か2週間で半減するのに対して,脳内DHA量の低下は,

ω

3欠乏飼料を10週間摂取しても正常マウスの約70%程 度にとどまっていた(19)

.これらのことを考慮してわれ

われは,離乳直後(3週齢)の雌性マウスに

ω

3欠乏飼 料を与えて飼育し,成熟させた後に交配を行うことで,

脳内DHA量が,正常飼料で飼育したマウスの約30〜

50%まで低下した第2世代の

ω

3欠乏マウスを作製して いる.

2.

ω

3系脂肪酸欠乏マウスの学習行動

モリス水迷路試験(Morris water maze)は,げっ歯 類の水からの回避行動を利用して,マウスを円形プール で泳がせ,周りの景色を手掛かりに水中に沈めたプラッ トホームを探させて,空間学習能や記憶力を測定する代 表的な行動実験である(図

3

A)

.したがって,記憶・学

習能が高いマウスほど,早くにプラットホームの場所を 覚え,たどり着き,その時間は日ごとに短くなる.これ までに,

ω

3欠乏動物を用いた空間学習試験については 多数報告されている.われわれも

ω

3欠乏飼料で継代を 重ねて飼育すると,第2世代よりも第3世代のほうが脳 内DHAは減少し,プラットホームにたどり着く時間が 遅く,学習曲線に顕著な違いが認められ,第3世代の学 習能の低下が著しいことを確認している(2)

ω

3欠乏による学習能の低下は,脳内のDHA減少を伴 う脂肪酸バランスが崩れていることに起因していると考 えられるが,再び,

ω

3系脂肪酸を摂取することで可逆 的に回復し,その程度は,より若齢時期から長期間摂取 するほうが有効であることもわかっている(5)

3.

ω

3系脂肪酸欠乏マウスの情動行動

喜怒哀楽と言ったような感情の動きは,情動行動とし てその変化を捉えることができる.情動行動にかかわる 図2多価不飽和脂肪酸(必須脂肪酸)の 代謝

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(4)

試験には,うつや不安を評価するものとして,強制水泳 試験(Forced swimming test)や高架式十字迷路試験

(Elevated plus maze test)

新 奇 環 境 摂 食 抑 制 試 験

(Novelty Suppressed Feeding paradigm)などが知ら れている.これらの試験は,抗不安や抗うつ薬のスク リーニングにも用いられているが,記憶・学習能が低下 している

ω

3欠乏動物の評価を考慮すると,認知要因の 影響を受けにくいものが好ましい.

高架式十字迷路試験は,高さのある十字型の装置を用 いる.4本のアームのうち1対のアームには壁があり

(クローズドアーム)

,もう1対は壁のない(オープン

アーム)構造になっており,アーム上に置いた動物の行 動から不安レベルを評価する試験である.不安レベルの 高いマウスは安全なクローズドアームでの滞在時間が長 く,オープンアームへののぞき込み回数や滞在時間が短 くなる(図3B)

ω

3欠乏マウスと正常マウスを用いて,

音のない静寂環境(非ストレス)で不安レベルを評価す ると両マウスの間に大きな行動変化はなかった.しか し,120 db(携帯用防犯ブザーレベルの音)の騒音環境

(騒音ストレス)で同様の試験を行うと,両群ともオー プンアームへののぞき込み回数や滞在時間が減少した が,

ω

3欠乏マウスは正常マウスに比べてより減少度合 いが顕著であった(8)

新奇環境摂食抑制試験は,一晩絶食したマウスを中央 に飼料を置いたオープンフィールドに入れ,その飼料を 摂食するまでの行動を観察する試験で,空腹状態とオー プンフィールド中央にまで出ていく恐怖との葛藤を利用 し不安レベルを評価している(図3C)(20〜22)

.したがっ

て,不安レベルの高いマウスは,飼料を摂食するまでの 時間が長くなる.今回の評価では,群飼育(非ストレ

ス)と個別飼育(慢性ストレス)環境下の

ω

3欠乏マウ スと正常マウスを用いて,試験時間内(5または10分 間)に飼料を摂食できた個体の割合(課題獲得率)を測 定した.試験開始から5分間の課題獲得率は,

ω

3欠乏 の群飼育と個別飼育の両マウスともに30%程度であっ たのに対して,正常の個別飼育マウスは50%,正常の 群飼育マウスでは90%以上とほとんどの個体が摂食し ていた.また,評価時間を10分まで延長し観察すると,

正常の個別飼育マウスや

ω

3欠乏の群飼育マウスの課題 獲得率は上昇したが,

ω

3欠乏の個別飼育マウスは全く 上昇しなかった(9)

.これは,正常マウスでも個別飼育す

るとストレスによる不安レベルが上昇するものの,

ω

3 欠乏マウスは正常マウスよりも明らかに不安レベルが上 昇しており,短時間では環境に順応できずに飼料を食べ ることができない状態であったことを意味している.

これら2つの試験結果から,脳内DHA量の減少を伴 う

ω

3欠乏マウスは,通常よりもストレスに対する閾値 が低下しており,騒音のような急性ストレスや個別飼育 のような慢性ストレスによって,過度の不安や興奮状態 に陥りやすいことが考えられた(23)

.これは,十分な食

餌性

ω

3系脂肪酸の摂取が,正常な情動機能を維持して 精神疾患のリスクを軽減する可能性のあることを示唆し ている.

4.

ω

3欠乏マウスの母性行動への影響(24)

妊娠,授乳期間である周産期の女性は,母性により児 への愛情が高まるが,妊娠や出産などの外因,または内 因的ストレスを受け,気分障害を呈する場合がある.こ れが重篤化すると産後うつ病にまで発展し,育児放棄や 虐待など児にまで悪影響を及ぼす可能性がある(25〜28)

図3行動試験の装置

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(5)

周産期の気分障害の治療は,胎盤や母乳を介した新生児 への影響を考慮して,薬物療法よりも食事による予防,

改善が望ましい.実際,魚介類を多く摂取する国ほど,

産後うつ病の有病率が低いという疫学報告もあることか ら(29)

ω

3系脂肪酸は,周産期における気分障害を予防 する可能性があると期待される.

ω

3欠乏または正常の妊娠マウスの妊娠後期から出産 後の行動を観察してみると,正常母獣は新生仔を出産し 通常どおり育仔したが,

ω

3欠乏母獣は食殺や育仔放棄 するものが30〜40%も観察された.また,出産以降,

正常母獣は新生仔への授乳のために大きく丈夫な巣を作 製していたが,

ω

3欠乏母獣の巣は小さく粗雑なもので,

育仔環境に大きな違いが見られた.

ω

3欠乏の食殺した 母獣に至っては,出産前からほとんど巣を作製しておら ず,出産の準備すらできていない状態であった.また,

巣から離した新生仔を回収する試験では,

ω

3欠乏母獣 は正常母獣よりも新生仔の回収や保温行動までに時間を 要し,新生仔への愛着が薄いことが考えられた.母獣の 脳DHA量では,

ω

3欠乏母獣は正常母獣よりも著しく低 下し,

ω

3欠乏の食殺母獣でさらに低下していた.さら にすべての母獣の海馬DHAとモノアミンを測定したと ころ,海馬のDHA量に対して,心身の安定や心の安ら ぎなどにかかわるセロトニン量には正の相関が認められ た.

周産期での

ω

3欠乏状態の母体は,出産に対して神経 過敏となり,母性発動の遅延や低下を引き起こすことが 推察されたことから,周産期の母親の気分障害の予防と 母子間の良好な関係の構築のために妊娠早期から十分な

ω

3系脂肪酸の摂取が望まれる.

マウス母乳中の必須脂肪酸量

乳幼児期は,脳や身体が大きく成長・発達する時期で あり,特に,DHAやARAの供給は重要である(30)

.乳

幼児の栄養供給は主に母乳から摂取しているが,近年の 魚食離れにより,母乳中の

ω

3系脂肪酸低下と,それに 伴う児への影響が懸念されている.そこで,

ω

3欠乏ま たは正常母獣の授乳中のマウス胃内容物を母乳として採 取し,脂肪酸組成の経日的変化と脳や身体の成長・発達 との関連性を検討した.

ω

3欠乏または正常の新生仔マ ウスの体重は,開眼する14日齢以降,正常マウスのほ うが

ω

3欠乏マウスよりもやや高値を示したが,脳重量 に差はなかった.正常マウスの胃内容物中(母乳)には DHA, ARAともに出生直後に高濃度含まれており,4〜

7日齢にかけて減少した.また,DHAとARAの含有量

を比較するとARAのほうが多く含まれていた.一方,

ω

3欠乏マウスの母獣乳中のARAは十分に含まれている ものの,DHAは,出産直後から極めて少ない量しか含 まれていなかった.これらの母乳で育ったマウス脳内 DHAやARAの蓄積量は,正常マウスでは7日齢から14 日齢で両脂肪酸共に急激に上昇し,それ以降は緩やかな 上昇が続いた.しかし,

ω

3欠乏マウスの脳内DHAは,

正常マウスよりも著しく少なく,代わりにDHAと同じ 炭素数22個の

ω

6系ドコサペンタエン酸(DPAn-6)の 蓄積が確認された.母獣乳の脂肪酸組成は,母獣の脂質 栄養状態を大きく反映しており,

ω

3欠乏または正常母 獣に授乳された新生仔脳の多価不飽和脂肪酸の総量は一 定に保たれているものの,

ω

3欠乏母獣の母乳を摂取し た新生仔は明らかなDHA欠乏状態となっていた.この ことから,母親の

ω

3系脂肪酸供給不足に基づいた乳幼 児期の脳発育への悪影響を避けるためにも,日頃から

ω

3系脂肪酸の積極的な摂取が望まれる.

おわりに

これまで,脳内DHA量の低下した

ω

3欠乏動物は,

細胞膜の流動性の低下や水迷路試験,受動的回避反応試 験による学習機能の低下など多く報告されているが,今 回,それに加えて,脳高次機能にあたる情動や母性行動 に着目し,

ω

3欠乏マウスの行動を観察した.

ω

3欠乏状 態では,ストレスに対する閾値が低下し,ストレス負荷 によりさらに情動が不安定になると考えられる.また,

周産期マウスでは,脳内DHA量とモノアミン量が相関 しており,脳内DHA量の低下が,不安レベルを高め,

母性の発動を阻んでいることもわかった.このように,

現代社会に生きるわれわれに

ω

3系脂肪酸は必須の栄養 素であるにもかかわらず,DHAを豊富に含む魚介類の 摂取量は年々減少しており,日本でも

ω

3系脂肪酸を継 続的に摂取することは容易ではない.妊婦においては,

魚介類に含まれる重金属の新生胎児の成長・発達への影 響が憂慮され,魚食摂取の慎重な指導が行われているの が現状である.多くの人々が

ω

3系脂肪酸の重要性を理 解し,積極的に摂取して食生活に取り込んで慢性的な摂 取不足が解消され,現代病とも言われる不安・うつなど の気分障害を起こしにくい社会環境になることを望んで やまない.

文献

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プロフィール

原馬 明子(Akiko HARAUMA)

<略歴>2001年京都工芸繊維大学繊維学 部応用生物学科卒業/2003年同大学工芸 科学研究科博士前期課程修了/同年湧永製 薬株式会社ヘルスケア研究所研究員/2008 年京都大学農学部応用生命科学科実験助 手/2009年日本水産株式会社生活機能科 学研究所研究員/2011年麻布大学生命・

環境科学部特任助手/2015年同特任准教 授,現在に至る<研究テーマと抱負>周産 期のω3系脂肪酸の重要性,げっ歯類の人 工飼育による乳幼児期の脂質栄養の発展<

趣味>紅茶の香りを楽しむ,読書 守 口  徹(Toru MORIGUCHI)

<略歴>1982年横浜市立大学文理学部卒 業/1982〜2008年湧永製薬株式会社ヘル スケア研究所研究員/1989〜1990年国立 がんセンター研究所(東京大学薬学部研究 生)/1993〜1997年東京大学薬学部受託研 究員,研究生/1997〜2000年米国国立衛 生研究所(NIH)客員研究員/2008年麻布 大学生命・環境科学部食品生命科学科食品 栄養学研究室教授,現在に至る<研究テー マと抱負>ライフステージにおけるω3系 脂肪酸の役割<趣味>マウスとの会話.音 楽鑑賞

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.553

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Referensi

Dokumen terkait

である3。 ここで言う「相互文化性」とは,個人それぞれ が異なる文化を持つ(同じ文化の個人は存在しな い)という前提のもと,自らのイメージ・解釈と しての「文化」に気づき,同時に,さまざまな 「文化論」の罠を乗り越えつつ,自己と他者が協 働して関係性を構築し,新しい創造的な世界を築 いていくというプロセスを指すものである。それ