• Tidak ada hasil yang ditemukan

【お問い合わせ】コミュニティ政策学会

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

Membagikan "【お問い合わせ】コミュニティ政策学会"

Copied!
35
0
0

Teks penuh

(1)

開催日時 : 2011 年 3 月 26 日(土) 午後 1 時~4 時 30 分

開催場所 : 名古屋都市センター 11 階ホール(金山南ビル内・金山総合駅南口すぐ)

〒460-0023 名古屋市中区金山町一丁目 1 番 1 号 TEL 052-678-2200 主 催 : コミュニティ政策学会

後 援 : 名古屋市、財団法人名古屋都市整備公社 名古屋都市センター

【お問い合わせ】

コミュニティ政策学会

〒471-8532 愛知県豊田市大池町汐取 1 愛知学泉大学コミュニティ政策研究所内 TEL 0565-35-7031 FAX 0565-35-702

E-mail [email protected] URL http://www.gakusen.ac.jp/commu/a-compol/

“行政内分権”から“地域内分権”へと住民自治の領域の拡大が進むとともに、地域の歴史や特徴を反 映して、多様な分権政策が見られるようになってきています。併せて、いくつかの事例の蓄積の中で、地 域内分権の目指すべき姿が何であるかを問うことができる段階にきたように思われます。それらは、行政 が公的な職務として行ってきた事業が、地域内分権の進展によって共的な活動と重なりはじめ、かつての 公私守備範囲論とは異なる局面で、行政の業務と地域の活動をどのように切り分け、補完するかを検討す ることが求められてきているということもできます。また、そのためには、地域内分権組織の意思決定(審 議)機能と執行機能の分離と統合を内包するコミュニティ団体のあり方について検討することが必然の課 題になっているということもできます。

今回のシンポジウムでは、名古屋市において昨年からモデル実施として始まり、現在、本格実施に向け て検討が行われている新しい住民自治の仕組み「地域委員会」を素材に、異なる方向性を持つ諸事例の経 験と付き合わせることで、上記の問題に迫ってみたいと考えています。

《シンポジウム内容》

(1) 基調講演 「地域内分権の進展の状況と目指すべき課題」

名和田 是彦 コミュニティ政策学会会長・法政大学法学部教授

総務省「新たなコミュニティのあり方に関する研究会」座長 (2) 名古屋市長挨拶

(3) 事例報告

①「名古屋市における地域委員会の取り組みについて」

渡邊 正則 氏(名古屋市総務局区役所改革等推進室長)

②「名古屋市名東区貴船地域委員会の取り組みについて」

鬼頭 和明 氏(名古屋市名東区貴船地域委員会委員長・貴船学区連絡協議会会長)

(4) 質疑・討論

コーディネーター 中田 實 コミュニティ政策学会理事・名古屋大学名誉教授 名古屋市「地域委員会研究会」座長

参加費(資料代として) 500 円 ※ 当日会場にて、徴収させていただきます。

(2)

第 10 回コミュニティ政策学会シンポジウムの記録 

2011.3.26    司会:それでは開会に先立ちまして、主催者としてコミュニティ政策学会会長の名和田是彦からご

挨拶をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。 

名和田:コミュニティ政策学会の会長を務めております法政大学法学部の名和田と申します。どう ぞよろしくお願いいたします。こうして会長として挨拶するのはなかなか慣れませんで、と 言いますのも昨年7月の第9回大会で中田先生の後に会長になったばかりです。コミュニテ ィ政策学会は主な行事といたしまして、7月の第1週、今年は第2週でございますけれども、

学術大会を行っております。それともう1つ、シンポジウムという形ですね。これは第 10 回を迎えますけれども、シンポジウムは最近では3月という忙しい時期にやっております。

いずれにしましても7月の大きな研究大会と、もう1つ、こういうテーマを定めたシンポジ ウム、この2つを大きな研究活動の柱にしております。 

        コミュニティに関する研究というのはたくさん行われているのですけれども、コミュニテ ィ政策に関する学会がないのではないかという、中田前会長の熱い思いで出来た学会でござ いまして、私もそれに大いに共鳴いたしまして、最初から参加をさせていただいております が、9年経ったところで会長になろうとは思いませんでした。せっかく会長になりましたも のですから、一所懸命やらせていただきたいと思っております。今日はみなさまの非常に関 心の高いテーマでありましたでしょうか、様々な地域からおいでいだたいているようであり ます。是非これを機会にコミュニティ政策についての関心と実践を進めると同時に、是非学 会会員になっていただいて、学会にご貢献いただければと思います。当学会は必ずしもアカ デミズムの学者のみではなくて地域の方、あるいは地方自治体の職員の方にもお入りいただ いております。多様な背景を持つ方が学会に入って、この学会の活動をますます盛んにして いきたいと思っております。今日は第 10 回という、節目として大いに議論をして参りたいと 思います。どうぞ今日は夕方まででございますけれども、よろしくお願いいたします。あり がとうございます。 

司会:続きまして、基調講演を行わせていただきますけれども、今、下がったばかりでございます けれども、当学会の学会長で法政大学法学部の教授である名和田是彦の方から、皆さん方お 手元のプログラムにある通り、「地域内分権の進展の状況と目指すべき課題」ということで 講演させていただきます。ではよろしくお願いいたします。 

名和田:今度は基調講演者という立場でやらせていただきたいと思います。法政大学法学部の名和 田と申します。基調講演をすることになったのは3月 11 日以前のことでありまして、3月 11 日で東北の風景が一変したような気がいたしております。私は法政大学の市ヶ谷キャンパ スの研究室におりまして、その後帰宅難民になりました。それほど大したことにはならず、

翌日に帰宅しました。別に歩いたわけでも何でもありません。ただ私たち、私は横浜に住ん でおりますが、横浜は計画停電程度の影響しか受けていないわけですけれども、本当に被災 地の方々、原発事故に直面された方々も含めてですね、被災地の方々には多大なご苦労と言 いますか、大変な災害ということで、大変な目に遭われていることを非常に何と申し上げて いいのか分からないぐらい心を痛めております。恐らくこのことに触れながらコミュニティ の問題について語らねばならないと思うのですが、ただ情勢も流動的でございますので、コ ミュニティ政策学会ではこの問題を学会として今後積極的に取り上げるということを予告い たしまして、今日は本来のテーマであります、名古屋の地域委員会を巡って、いわゆる地域 内分権というものについて、皆様方と一緒に考えていきたい、その基調講演をさせていただ くということであります。学者の常でややアカデミックな感じの話に時としてなってしまい

(3)

ますけれども、決して難しいことを申し上げるつもりはございませんので、是非一緒に考え ていただければと思います。 

        地域内分権、私は自治体内分権という言葉を普段は使っていますが、今日は地域内分権と いう言い方をさせていただきたいと思います。地域内分権というのは世界各国で見られる、

そういう意味で普遍的な制度であります。しかしそれぞれ国によって実情も違いますので、

いろんなヴァリエーションがある、ただ恐らく共通していると思いますのは、合併によって 基礎的自治体の規模が大きくなってしまうということに対する対応というのは共通している のではないかなと思います。まず、いわゆる平成の大合併の前後に試みられてきた日本の地 域内分権に注目して、その日本的な特徴と背景について分析してみたいと思います。これに よりまして問題の構図がはっきりして、名古屋の地域委員会の特徴もつかめるようになると 考えます。実は、日本の地域内分権を十分に認識するためには、平成の大合併前後にだけ着 目するのでは不十分なのでありまして、1960 年代末くらいからのいわゆるコミュニティに関 する政策についても、一定の認識が必要になりますが、それは時間が足りませんので、今日 は後で必要に応じて簡単に触れるだけにとどめさせていただきたいと思います。日本におけ る現在の地域内分権は、国際比較的に見ても、日本のコミュニティ政策の歴史の中に置いて みても、1990 年代後半から試みられている各自治体の地域内分権的な取組みによって、よく 認識できると思いますので、90 年代後半以降の状況を主に念頭に置いて分析をしてみたいと 思います。お手元に冊子があります、この中の基調講演のレジメが4ページと5ページに見 開きでございます。これをご覧になりながら聞いていただければと思います。 

1.日本における「地域内分権」の背景と特徴 

(1)例としての「地域自治区」制度の基本思想 

私の考えでは、現在の日本の地域内分権の試みは、1990 年代以降ある特徴的な性格を持っ ています。このような試みを背景に、国は、地方自治法を改正して、2004 年だったと思いま すが「地域自治区」という仕組みをつくりました。この仕組みの基本を制度設計しましたの は、第 27 次地方制度調査会答申、2003 年 11 月 13 日の答申でありました。この答申の該当 箇所を配布資料に引用しております。ご覧ください。 

「地域においては、コミュニティ組織、NPO 等のさまざまな団体による活動が活発に展開され ており、地方公共団体は、これらの動きと呼応して新しい協働の仕組みを構築することが求めら れている。」 

「地方分権改革が目指すべき分権型社会においては、地域において自己決定と自己責任の原則 が実現されるという観点から、団体自治ばかりではなく、住民自治が重視されなければならない。

基礎自治体は、その自主性を高めるため一般的に規模が大きくなることから、後述する地域自治 組織を設置することができる途を開くなどさまざまな方策を検討して住民自治の充実を図る必要 がある。また、地域における住民サービスを担うのは行政のみではないということが重要な視点 であり、住民や、重要なパートナーとしてのコミュニティ組織、NPO その他民間セクターとも協 働し、相互に連携して新しい公共空間を形成していくことを目指すべきである。」(2003 年 11 月第 27 次地方制度調査会答申) 

ここで先入観をもたれずに、「住民自治」という言葉に注目してください。この「住民自 治」という言葉は、この 10 年くらいの間に意味が非常に拡大されてきています。しかし、こ の答申で言われている「住民自治」とは、「団体自治」と対比させて述べられていますから、

地方自治法の教科書に書いてあるような、伝統的な意味です。つまり、自治体の意思決定を 民主的なものにしなければならないという原理です。住民の直接選挙によって市長や議会と いった自治体の機関を構成することをはじめとして、住民が一人一人投票権を平等に持ち、

また直接請求の権利なども持って、自治体の意思決定を住民の総意に基づくものにしていく、

というのが、ここでいわれている「住民自治」の意味です。 

(4)

現在多くの自治体で自治基本条例が制定されていると思います。この「住民自治」という 言葉は、自治基本条例の中でよく出てくる言葉で言いますと「参加」とか「参画」と言われ ています。この理念がここで言われている「住民自治」にあたると思います。身近な民主主 義を充実させることを意味しています。したがって地方制度調査会答申は、平成の大合併で 自治体が大規模化し、自治体の政治と意思決定が、住民から遠いものになっていく傾向に歯 止めをかけ、身近な民主主義を回復させるために、自治体の区域をいくつかに区分して、こ こに民主的な審議機関を置き、民主的意思決定の身近なレベルを回復する仕組み、ここでは 地域自治組織といっていますが、こうした仕組みをつくることを提唱しているわけです。後 でちょっとだけ触れようと思いますが、ドイツの地域内分権の仕組みの狙いはまさにここに あったといえます。そして、このドイツと比べてみるならば、実はこの「参加」「住民自治」

という面でも既に日本的特徴が現れています。ドイツでは、身近な民主的決定のレベルを確 保するために、合併前の町村の区域に「区」などと称するものが設置され、そこに公式に選 挙される住民代表組織がおかれ、法律の規定に基づいて、いくつかの公式の決定権が与えら れています。しかしこうした制度設計は、地方制度調査会答申では避けられています。身近 な民主主義の理念、自治基本条例でいう「参加」の理念は、不十分に終わっています。 

そしてこの答申は、この「住民自治」の理念、「参加」の理念とは別な、もう一つの政策 理念を、この「地域自治組織」に託しています。答申の中に「また」という並列の接続詞が 出てきますので、ここから述べられることは、身近な民主主義の再建、「住民自治」とは異 なるテーマが取り上げられていることがよくわかります。 

ではそれはどんなテーマでしょうか。それは、「協働」です。そして「協働」とは、この 答申でも述べられており、また多くの自治基本条例でもそのように定義されている通り、公 共サービスを行政と民間の諸主体との連携で確保していくことを意味しています。この「協 働」という政策理念は、例えばドイツの地域内分権には全く見られないものです。ドイツで は、公共サービスを提供するのは行政の役割ですから、民間の主体がこれに取って代わるな どということは、地域内分権の制度趣旨としては考えられていないのです。ここに日本の地 域内分権の大きな特長があると思います。 

(2)1990 年代以降の協働型コミュニティ政策 

1990 年代以降、バブル経済崩壊後の不況と財政危機の中で、住民の生活基盤である公共サ ービスを維持しなければならない、そこで行政だけでは限界があるので、民間の中の公共的 指向性を持っている諸主体にも頑張ってもらって、行政と連携して、公共サービスの質と量 を守っていこうという考え方、これが「協働」と言われる考え方です。財政が足りないから 行政が必要な公共サービスを提供できないというなら、住民の側が頑張らなくても、税金を 上げればいいのではないかと考えられる方もおられるかもしれません。まさにドイツの行き 方がそれです。数年前にドイツでは間接税の税率をまた上げています。しかし日本ではどう でしょうか。増税への国民的合意は全くできていないことは、先の参議院選挙で鮮やかに示 されました。 

(3)ドイツの都市内分権制度の「参加」型的特徴 

これに対してドイツの地域内分権ではどうであるかというと、高福祉高負担国家ドイツで は、公共サービスを提供するのは基本的に行政の役割であって、地域内分権の運用において も「協働」という考えはとっていません。たしかに 2000 年前後から、財政危機の中で「協働」

に類する政策が大々的に取り組まれつつあるのは大変興味深いところですが、これだけ国を 挙げてボランティア活動や市民活動を奨励してみても、市民社会側の反応は今ひとつなので す。 

私が定点観測的に調査していますブレーメン市では、このところようやく市内の地区を選

(5)

定して、年に2回ボランティアで市民たちが地区内を一斉清掃するという活動が行われ始め ました。これがドイツ流の「協働」の成果なのでしょう。しかしどうでしょうか、日本では、

こんなことは「協働」以前のことでないでしょうか。多くの地域で自治会を中心に毎週でも やってそうなことですよね。ことほどさようにドイツでは、例えば地域を清掃するといった 公共サービスは、基本的に行政の役割であるという国民的合意が強固であるわけです。それ を自分らがやらされるなどとはとんでもないことなのであって、それよりはより多くの税負 担に応ずる、という態度です。日本では逆でありまして、より多くの税負担をするくらいな ら、自分らでやりたいということでしょう。これはドイツと日本、あるいはヨーロッパとア ジアの国家への信頼感の差を示すものではなかろうかと私は思っております。したがって、

地域内分権も依然としてドイツでは「参加」の機能を基調とするものとして運用されており、

政党ベースで選挙で選ばれた代表者が、行政を監視し、行政はこの地域で何をなすべきかを、

明確な多数決の議決によって表明する、というのがドイツの地域内分権の役割なのです。 

昨年の2月に私はハンブルクのアルトナ区の地域内分権を調査しました。今、名古屋でや っておられる地域委員会にあたる、もっと区域は大きいですけど区集会 

(Bezirksversammlung)という名前の住民代表組織の、各党派の代表者に一人ずつインタ ビューいたしましたが、その際、すべての人が、「参加」と「協働」とを混同していました。

ドイツの「協働」というのはその程度と言うか、「協働」という考え方はあまりとっていな いということです。 

(4)「参加」と「協働」が車の両輪となる地域内分権の制度設計と実践を 

以上、まとめますと、日本の 1990 年代以降の地域内分権の試みは、ほとんどの場合、「参 加」と「協働」の両面が追求されているわけです。すなわち、身近なところに自治体の意思 決定に民主的な影響力を与えることができるような機関をつくろうという「参加」の狙いと、

身近な公共サービスを行政と地域社会との連携によって組織し、安心できる生活を今後も守 っていこうという「協働」の狙いであります。私は、現在のコミュニティ政策のなかで、こ の二つの政策理念、公共的意思決定を民主的なものにするという政策理念と、公共サービス を民間と行政の連携によってきちんとすると、この2つの理念が車の両輪のように追求され ていくことが大変重要であると考えております。 

さて、このように現在の日本の地域内分権の動向を整理いたしますと、名古屋の地域委員 会の試みの特徴も見えてまいります。名古屋市の地域委員会は、基本的に「参加」の政策理 念を追求するものであり、しかもその「参加」の中の一部である、地域で使われる予算の決 定に関わることを任務とする住民代表組織であります。現在の地域に必要な「協働」の機能 のほうは、引き続き学区連絡協議会をはじめとする地域の諸団体やNPO、企業によって担 われるべきものと考えられています。この構図の中で、決定機関である地域委員会が、地域 の中で十分な権威を持って機能できるのかどうかが、大きな課題ではないかと私は見ており ます。今、ずっと一般論を続けましたので、この辺りでもう少し細かく見ていくために、名 古屋市に特化したお話に移行してまいりたいと思います。 

2.名古屋市のコミュニティ政策と「地域委員会」の試み 

おそらくは、この中には名古屋市の方ばかりではないかと思いますが、名古屋市の方のほ うがよほど私よりもよくご存じのように、名古屋市には、かなり以前から「学区連絡協議会」

という、地域内分権の仕組みといってよいコミュニティの仕組みがありました。まずこれに ついて、基本的認識を確立しておかねばなりません。 

(1)先駆的だった学区連絡協議会制度 

(2)1980 年代コミュニティ政策の一般的特徴 

時間の関係で便宜上、(1)と(2)をまとめて話させていただきます。結論から言って、

(6)

学区連絡協議会は、この種のコミュニティ政策としては、きわめて早い時期の先駆的試みで あるといえると同時に、今日でも通用する優れた制度設計であったように思われます。名古 屋市の学区連絡協議会は、1968 年に始まったものと伺っております。この頃日本全体として は、例の自治省のコミュニティ政策、当学会でもそういう研究プロジェクトがありまして、

自治省のコミュニティ政策の検証が行われておりますけれども、自治省のコミュニティ政策 が打ち出された頃、これを受けて全国の自治体がコミュニティ政策に取り組み始めていまし た。その頃既に、学区連絡協議会という制度を名古屋市では作られていたということであり ます。 

この時期のコミュニティ政策は、私の見るところ、1970 年代にいくつかの先進自治体での 先駆的取組みを生み出しつつ、1980 年代に全国的にコミュニティ政策の標準形として広まっ たと思います。その基本的標準型の姿は、小学校区程度のコミュニティエリアにコミュニテ ィ・センターのような身近な集会施設をつくり、これを地元のコミュニティ組織が自主管理 をする、というものでした。したがって、名古屋市の学区連絡協議会の仕組みもこれと基本 的に同様の仕組みということができそうです。恐らく全国の半分ぐらいの自治体は、そうい うことをやったと思います。 

しかし、私が得ております乏しい知識と印象では、名古屋の仕組みは通常のコミュニティ

・センター自主管理を超える面を持っているようです。1980 年代に全国に広まったコミュニ ティ・センター自主管理型のコミュニティの仕組みは、今日から見ると、コミュニティの中 での「住民自治」や「参加」を促進するという効果は一般的に言うと持ち得ませんでした。

また、コミュニティの中の絆を回復したり、「協働」の取組みを行うという点でも不十分だ ったと思います。有り体に言うと、1980 年代は日本社会もまだ余裕があり、コミュニティ・

センターは、コミュニティの絆を回復するというよりは、貸部屋の集合体として、個人的な 趣味の活動の場であったと思います。もちろんそれが悪いというわけでもありませんし、ま たこうした評価を超えるような実践をされてきた貴重な事例もあることは無視してはなりま せんが、一般的にいうと、1980 年代のコミュニティ政策は、1990 年代以降の不況と財政危機 の下での厳しい状況に対応できるものではなかったといってよいと思うのです。 

「協働」の活動、すなわち地域社会の中の様々な活動力を集め、行政と連携しながら、地 域社会が必要とする活動を行なっていくことが、1990 年代以降は強く求められました。分か りやすくいうと、1990 年代以降のコミュニティ政策の基本的内容は、生涯学習的なものから、

地域福祉的なものに移行したといえると思うのです。名古屋の学区連絡協議会の仕組みは、

私の印象ではこうした 1990 年代的な政策的要請に十分応えることのできる制度であると思 います。この仕組みは、名古屋市以外の方だとピンと来ないかもしれないので、ちょっと別 な例を出しますと、私の感じでは1番伝わりやすいのは、もしお住まいのところに地区社協、

小地域社会福祉協議会がある方は、構成メンバーや趣旨からすると学区連絡協議会というの は地区社協、小地域社協のようなものだと、お考えになると当たらずとも遠からずではなか ろうかと思います。そういうところですので、何といっても、学区内で活動している諸団体 の連絡・協議を行うという仕組みであって、こういったものとして 1990 年代以降のコミュニ ティ政策の課題に対応できるものだと評価できると思います。名古屋市はこのような立派な コミュニティ政策の蓄積の上に、地域委員会というものを今回、構想されているわけです。

地域委員会がこのような蓄積の上にどのような新機軸を切り開くことができるのかというこ とをこれから考えていきたいわけですけれども、その前にもう一つ確認しておかなければな らない論点があります。 

(3)政令指定都市における区役所機能強化の文脈 

これもたぶん私よりも詳しい方がいらっしゃるのではないかと思いますが、この論点は名

(7)

古屋市がいわゆる政令指定都市であることに関連しています。政令指定都市においては、大 都市であるという、その諸機能の集積のメリットを生かして、効率的な行政システムができ ています。それは、裏面から言うと行政が薄いということを意味しています。それだけに、

詳しく申し上げる時間がありませんが、政令指定都市では、もっとも身近な役所としての区 役所の組織の仕方が非常に重要です。あまり目立ちませんが、政令指定都市の多くにおいて は、1980 年代から区役所機能強化が様々に取り組まれてきました。しかし、区役所には政治 的代表機関がありません。東京の 23 区のように、区議会があるというわけではないのです。

また、区長も公選ではなく、普通のお役人が市長に任命されて、区長として赴任するだけで す。区役所機能が強化されるということは、区役所限りで、区長限りで決められることが多 くなるということです。このことは、市長以下の行政組織の内部で、いわゆる決裁権の体系 のもとで行われているわけですが、ある程度以上に区役所の自律性が進みますと、民主主義 の上で重大な問題をはらむものとなります。 

つまり、こういうことです。市長もコントロールできないような区役所の自律性が生じて しまうと、区長は公選ではないわけですから、有権者としては打つ手がないわけです。市長 が気に入らないことをやっていると感ずる市民は、日本国民に与えられている権利を行使し て政治運動を起こし、気に入らない市長を選挙で落とし、気に入る市長を当選させることが できます。しかし、区長は公選ではないわけですから、気に入らない区長を持った市民は、

打つ手がない。民主主義上の問題というのはこういうことです。今日は時間の関係で詳しく 申せませんが、こうした限界から、区役所機能強化には一定の限界があるわけです。そして 現在、区役所機能強化は、もはや区議会や区長公選抜きにはこれ以上進展しない限界まで進 んできております。 

しかし、法律の方はこうしたことに対応していない。そこで、いくつかの政令指定都市で は、独自の取り組みによって、こうしたいわば区レベルの民主的正統性欠損、民主的な正当 性が十分調達されないまま区役所が肥大化しているという問題について、独自の取り組みで これを埋める試みが行われています。すなわち、区レベルに住民参加的な組織を置くという 貴重な取組みが、新潟市や川崎市によって行われています。新潟市の場合は、先ほど話題に した地域自治区制度を使っています。川崎市は、自治基本条例のもとに独自の「区民会議条 例」をつくっておられまして、「区民会議」という調査審議機関を区レベルに作るというこ とをやっておられます。これに対して、名古屋の地域委員会は、区レベルの仕組みではなく、

もっと身近な小学校区又は中学校区に民主的な参加の仕組みをつくるというものです。しか し、おそらく具体的に稼働していく段階では、どうしても区役所との関係が出てくるはずで す。今後区役所の活用の仕方も考えていかなければならないと思います。 

   

(4)地域委員会の試み 

さて、いよいよ地域委員会そのものについて語る段階に来ました。名古屋市及び日本のコ ミュニティ政策のこれまでの経過の中に置いてみる時、地域委員会にはどんな論点があるで しょうか。私の気づいたところを、レジュメにまず項目を列挙しております。 

・地域委員会の組織エリア、区割りの問題 

・地域委員会と区役所の関係の問題 

・地域委員会の事務局機能の問題 

・地域委員会の権限の範囲が予算に限定されている問題 

・交付金の使途のルールの問題 

・地域委員会の民主的正統性を調達するための投票制度の問題 

(8)

・地域委員会の決定を実践する民間側の態勢の問題 

この辺りが論点として、今後考えていかなければならない、あるいはモデル事業を検証し ていかなければならない着眼点ではなかろうかと思います。この論点を念頭におきながら3 に移ります。今、挙げました論点について、この中身の順番そのものではありませんけれど も、5つぐらいの論点を取り扱ってみたいと思います。以下、「3」のところに移りまして、

これらの論点について、時間の許す限り、私の考えるところを申し上げてみたいと思います。 

3.名古屋市地域委員会の諸論点 

(1)投票制度について  「国家権力の行使」を可能にする「連続した民主的正当化連関」

の構造 

難しげなことが書いてありますけれども、これはドイツの連邦憲法裁判所の判決の中に出 てくる言葉で、今日は時間がなくなってしまって説明できませんので無視してください。ま ず地域委員会の制度設計で最も注目されるのは、地域委員会のメンバーを当該地域の 18 歳以 上の日本国民たる住民による投票で選任するということでありましょう。このような、コミ ュニティ自治における民主的正統性の作り出し方は、よく知られておりますように、上越市 がその地域自治区制度の運用の中で果敢に試みたものであります。 

また、これを巡る問題群については、ドイツにおいてきわめて示唆に富む連邦憲法裁判所 の判決があります。ドイツの裁判所の判決は、単にドイツ固有の事情によるものではなく、

民主主義における権力行使の正統性に関わる普遍的な考え方を明らかにしたものといえるも のです。残念ながら時間がありませんので、この問題に関する詳しいお話はできません。こ こでは、二つだけ述べておきます。 

一つは、この地域委員会の投票制度の試みは貴重な実験であると思います。日本のコミュ ニティ・レベルにおいて、こうした民主的な制度の受け入れられ方を考えるための、重要な 実験であるということです。民主主義的な意思決定のためには、代表者を選挙で選ぶべきで ある、これは誰しも否定できないところです。しかし日本の地域内分権には、この身近な民 主主義を保障するという狙いのほかに、もう一つの別な狙いがありました。既に述べました ように「協働」の課題であり、身近な公共サービスを行政と連携しながら地域社会自身が行 っていく仕組みをつくる、という点であります。日本のコミュニティでは善し悪しは別にし まして、選挙で選ばれた人よりも地域で実際に住民が必要とする仕事をしている人の方が信 頼されるのです。このことは政令指定都市だとよくわかります。市役所では議員さんが威張 っているが、区役所では議員さんよりも連合自治会長さんの方が偉いのです。別に議員の方 を批判してこういうことを申し上げているのではなくて、日本のコミュニティにおいて、実 際に住民のために汗を流す人が信頼されるという傾向があるということです。そうすると日 本のコミュニティにおいては、投票で選ばれた代表者がどのくらい地域住民に権威を持ちう るのかということが問題になります。第 27 次地方制度調査会においても、また私自身参加い たしました第 29 次地方制度調査会でも、地域自治区における地域協議会の構成員を公職選挙 法による選挙によって選任できるようにしようという考え方が議論としては出ましたけれど も、結局のところ採用されませんでした。それにはいろいろな政治的理由がありますが、私 の考えでは、究極的には、投票で選ばれた人がコミュニティにおいて真に信頼されるかどう かについて、確信が持てなかったということがあると思います。 

さて、地域委員会のメンバーの投票による選任の仕組みに関して、もう一つ申し上げたい ことは、みんなで投票すれば民主的だというような単純な問題ではないということです。み んなで投票してできた決定機関はほかにもたくさんあるわけです。名古屋市議会、愛知県議 会、そして国会があります。これらの民主的に選任された決定機関との関係、地域委員会と これらの権限関係はどうなるのでしょうか。結局、選挙で作られた組織も含めて、国や自治

(9)

体の機関がどんな権限を持つのかは、憲法以下の法によって指定されているのです。もし地 域委員会の予算に関する権限が、議会の権限をも制約するような新たな権限を創出するもの だと意図されているのであれば、これはもう、公職選挙法をはじめとする法律の改正が必要 です。それは名古屋市限りでできることではありません。したがって、それは名古屋市の当 局もよく理解しているわけで、地域委員会の権限は名古屋市議会の権限を侵すものではあり 得ないわけです。したがって、地域委員会の決定はあくまで市長に提案して6月議会で承認 されて初めて有効になるというやり方をとっています。 

この説明を聞いて、率直に言って「なあんだ」と思いました。これも名古屋市の方に失礼 かもしれないんですが、分かりやすさのために大げさに言っているとご理解ください。実は この種のやり方はこれまで実に多くの自治体で行われています。むしろこれよりも大胆なこ とをやっている自治体もあるわけでして、例えば地域自治区採用自治体であります宮崎市や 上越市、いずれも議会から包括的な承認をもらった格好になっていて、それぞれの地域自治 区限りで、交付金の使途を最終決定できます。あとで議会の承認が必要というふうにはなっ ていません。上越市はこの問題を考え抜かれて、「柔らかな決定権」といった微妙な言い方 をされています。これにくらべたら、名古屋のやり方は現行法の中央線にのった真っ当なや り方というか、安全なやり方をしております。しかしこう考えますと、そもそも投票をやる 必要もないんじゃないか。最終決定権は議会にあるわけですから、単なる市長への提案を作 るのであれば、別に投票までする必要がない。また投票をやるのであれば、投票権を日本国 民に限ることもありません。同じ住民である外国籍市民にも投票を認めたらいいと思います し、場合によっては、18 歳以下の青少年、子どもたちにも投票を認めてもよい案件があるか もしれません。実はこういった投票権を広げる工夫というのは、既に別な仕組みにおいて、

多くの自治体によって試みられております。即ち自治基本条例の中で住民投票を規定してい るものが結構ありますが、あの中で住民投票の中で投票権を持つのは誰なのかということに ついて、かなり詳しい規定を置いている自治体もありまして、例えば外国籍市民も案件によ っては入ってもいい、あるいは子どもにも投票権を認めるとか、そういった可能性に言及し ております。これは皮肉な話ですけれども、住民投票の結果が最終決定ではないものですか ら、だったらいろんな人を入れていいじゃないかという話になるわけで、地域委員会の議決 も最終決定ではなくて、最後は議会が責任を持って決めるということであるならば、多様な 人が投票に参加しても良いのではないかということになるのではないかと思います。 

もちろん最終決定を行う投票にも、外国籍市民に投票権を認めるべきではないかという問 題、外国人参政権の問題ですね、こういう問題がありますが、これは別問題です。今日はそ れについてお話ししようとしているわけではありません。私は実は認めてよいと考えている 人間ですが、この講演でのテーマではありません。ここで申し上げたいのは、最終決定を行 うのはどの機関であるか、つまり市議会であるか、地域委員会であるか、という仕組みの正 確な構造を明らかにすることです。上越市の地域協議会や宮崎市の地域協議会は、事実上最 終決定を行う機関ですが、名古屋の地域委員会はそうではなく、あくまで市長に提案をする だけで、それを受けて市長が議会に提案し、議会は地域委員会の考えを尊重しながら最終決 定を行う、というようになっているわけです。 

(2)協働の活動といわゆる「実働部隊」 

現在コミュニティ・レベルの様々な生活課題に取組む仕組みをつくることが、コミュニテ ィ政策の最大の課題だと思います。そうした観点からは、いわゆる「協働」の仕組みをコミ ュニティに作ることに、地域委員会の仕組みがどのように貢献できるかということが、実質 的には恐らく地域委員会のもっとも重要な問題だと思います。地域委員会は、地域レベルに どんな生活課題があるのかを発見し、それを解決する方策を検討し、それに必要な予算を手

(10)

当てする決定を行うというわけです。つまり、「参加」の機能であり、「住民自治」の機能 を地域委員会が担うわけです。 

では、その決定を実行に移すのは誰でしょうか?これが、公共サービスの問題であり、「協 働」の問題です。おそらく一部は行政が実行するのでしょう。地域委員会の決定の実行は、

少なくとも一部は行政が行う。しかし行政だけではない。これが「協働」ということです。

つまり、民間の何らかの主体が、地域委員会の決定を実行に移し、実際に汗をかくわけです。

それはどんな主体でしょうか。日本の地域内分権の仕組みにおいては、この種の地域内分権 の決定機関の決定を受けて、それを誰がするのか、誰が実行に移すのかということについて、

三つの類型があるように私は思います。一つは、決定と実行が一体になった地域内分権の仕 組みが存在しているケースで、恐らく名古屋市のこれまでの学区連絡協議会もそうだと思い ます。このやり方は、独自の条例や独自の政策によって地域内分権の仕組みを作っている自 治体に広く見られます。「まちづくり協議会」とか「地域コミュニティ協議会」とか様々な 名称で、小学校区単位くらいに設置されるコミュニティ組織は、決定と実行とが一体となっ て取組まれることになっています。これには枚挙にいとまがないくらいたくさんの事例があ る。しかし、名古屋の場合はそうではないわけです。地域委員会は、決定しかしない、自分 では汗をかかない機関として制度設計されているからです。このように、決定だけを行う住 民組織という制度設計になっている仕組みは、他の自治体にもいくつか見いだされます。先 ほどちょっと触れました、川崎市の行政区レベルに置かれている「区民会議」などがそうで あります。区民会議条例によって、区民会議は、「調査審議」をするための機関として、そ の任務を限定されているのです。じゃあ誰が実働するのかというのは、これは例えばまちづ くり協議会という組織が担うんだというような議論もございます。この手の構図の中でもっ とも典型的なケースは、法律上の地域自治区制度を使っている自治体です。地方自治法の規 定によりまして、地域自治区の住民代表組織である「地域協議会」は、審議機関であるとさ れています。つまり決定をするだけなのです。その決定を実行するわけではない。じゃあ決 定を実行するのは誰でしょうか?それは「協働」という政策理念のもとでは、それは行政と 民間の双方である、と言うことになります。 

ではその「民間」の主体とは誰なのか。これにも二つのケースがあるようです。一つは、

宮崎市や飯田市等、多くの地域自治区制度採用自治体で見られるケースで、地域協議会の決 定を独占的に実行するもう一つ別な住民組織をつくるというやり方です。この場合、各地域 に名古屋同様、額は様々でありますけれども、一定額の包括的交付金が支給されますので、

このもう一つの住民組織は、交付金による補助事業を独占的に執行するわけです。したがっ てこの住民組織、宮崎市では「地域まちづくり推進委員会」、飯田市では「まちづくり委員 会」とよばれていますが、これらの「実働部隊」を、なるべく開放的な作りにして、地域へ の思いのある人にはみんな入ってもらう、そうした人材を地域で発掘する、というように運 用されます。独占的な組織を作る以上、それが閉鎖されていたら、それこそ許されざること ですので、独占的な実行部隊を作って、そこにどんな人でも入ってもらうということを通じ て地域活性化に向かっていくということです。このケースでは、地域協議会以外にもう一つ 住民組織ができることになります。私はこれを「地域自治区制度における住民組織の二重化」

とよんでいます。一見するとややこしいんですよね。住民組織が2つ出来るものですから、

さきの一つの住民組織で決定と実行を一体としてやっている制度から見ると、えらく複雑で 無駄なことをしているように見えるかもしれませんが、これはこれでメリットがあると私は 見ています。さて、決定機関とは別に実行機関があるという構図の中でもう一つのケースは 上越市のケースでありまして、地域協議会が各地域自治区で、区内の人たちに交付金を使っ た事業を公募しています。いわば手挙げ方式です。特に実行用の実働組織を別に作るのでは

(11)

なく、区の中に広く呼びかけて、「これだけお金があるから何か区内の地域のためにやって みませんか」と呼びかけて提案を募って、地域協議会が審査をし、予算の配分を決定すると いうことであります。以上三つの類型がある。実働部隊のやり方については、決定機関が同 時に実働するというケースと、決定機関とは別に独占的な交付金事業を行う団体を作るとい うケースと、決定機関が公募をして区内の人達に手を挙げてもらうケースの3つでございま す。どれでもいいと言うと身も蓋もないんですが、大切なことはどれがいいかということで はなくて、この困難な時代に当たって、協働の担い手を発掘し広げて行くことです。宮崎市 のやり方も上越市のやり方も、それぞれ、地域の中でまだ埋もれている活動力を掘り起すの に有効なやり方でしょう。そして、このことがもし大切なことだとしたら、地域の力が発掘 されやすく、その結果地域の生活課題が解決されやすいような制度と運用を考えることが重 要だということになります。 

宮崎市では、この交付金のための独自財源として「地域コミュニティ税」という税金まで 取っていた(今は廃止されましたけれども)関係で、どういう風にこの交付金を使うかとい うことについて、自覚的な考慮をたくさん払われてきました。コミュニティ税の使途委員会 という場で交付金の使い方のルールをしっかり地域の人たちと議論して作り上げ、また実際 の活動に合わせて見直してこられています。また、交付金を使うこと、消化することが自己 目的のようになってもいけません。私は上越にせよ宮崎にせよ、僭越ながら当初、果たして あれだけの額、数百万という巨額の交付金を地域で使い切れるだろうかという心配をしてい たものでした。実際にはかなり使い切っているのですが。それから使い方もいろいろあって、

イベントのような取組みが多い地域が多いわけですけれども、それをやりますと地域が疲れ てしまうという傾向もあろうかと思います。名古屋市の地域委員会研究会という、行政の審 議会のようなものかと思いますが、中田前会長が座長を務められました地域委員会研究会の 提言でも、地元の事業力量を考え予算を低額化したり、使いやすい制度にしたり、といった ことが考えられ提言されておりまして、これは適切なお考えであると思いました。額につい て言いますと、実際には3つ類型があって 500 万、1000 万円、1500 万円ですが、1000 万と いうのは一見すごそうに見えるんですけれども、確かにこの種の交付金の中でも飛び抜けて いますが、しかしこれで人が雇えるほどでもないのです。しかし、専従的な事務局やコーデ ィネータを雇うことなくして、これだけの事業をすることが可能でしょうか。何でもボラン ティアでやりなさいでは回っていかないのではないか。これが次の(3)事務局機能の問題 です。 

(3)事務局機能 

宮崎では交付金の額は数百万円程度ですが、この他にこれとは別枠で、宮崎市役所は各地 域自治区にその事務所を置いてそこに公務員を置いています。それから専属の嘱託の「地域 コーディネータ」を各区2人付けており、さらには、先に述べました実働部隊である「地域 まちづくり推進委員会」の事務局員のアルバイト賃金も別途予算を作って付けており、さら には、以前から地区社会福祉協議会には社会福祉協議会職員が一人勤務している、という具 合に、コミュニティ・レベルに事務局機能を担うだけの人材が豊富に配置されています。こ こまでコストをかけて初めて、「協働」「参加」が各地域でできているというわけです。 

現在のコミュニティにおける真の問題がどこにあるかということを考えるならば、学区く らいの単位がこれからの地域運営の基礎的な単位になっていくことが大事であろうと思いま す。上越市の使っておられる言葉をここでも使えば、学区連絡協議会であれ地域委員会でも いいのですが、それが学区レベルの「準自治体」、これは上越市が使われている言葉、「準 自治体」にならねばならない。つまり中央政府、自治体政府に準ずるコミュニティ政府にな らなければならない。それをすべてボランティアベースで行うのは、現代においては無理が

(12)

あると思います。そうするとどうしても、中央政府や自治体政府におけるような官僚組織ま では行かなくても、専従的な事務局が必要となります。そうすると 1000 万円という金額は一 見すごいけれども、実は事務局体制のことまで考えると、足りないとも見られます。今のこ のご時世でそんなにたくさんお金をつけられないということならば、少なくとも区役所の職 員による地域担当の配置等の工夫くらいは必要ではないでしょうか。この点も、地域委員会 研究会の提言で述べられていた通りと思います。 

(4)計画・企画機能 

次の(4)は、ごく簡単に触れますが、今述べましたように、地域の全般的な運営を考え るなら、事務局を活用しつつ、地域全体を運営する政府となることが必要で、その一環とし て、地域についての鳥瞰的全体的な考慮を系統的に記述した計画というものをもつことが今 後重要になってくると思います。えらく高尚なことを言っているようですけれども、別に今 や特別なことではなく、こういうことをやっている地域は結構あると思うんですね。カルテ を作ったり、長期ビジョンを作ったりということで、結構いくつかのコミュニティでやって おります。先ほどの地域委員会の座長を務められました当学会の前会長であります中田先生 の論文における「地区計画」の提唱がこうした考えに基づくものと思いますが、地域委員会 研究会の提言では消えているようです。しかし重要な視点だと思います。私のおります横浜 市では、地域内分権というのは目立った取り組みとしてはないんですけれども、実際には地 域福祉計画において地区別計画を作るという形で地域内分権の類似の機能が芽生えてきてお ります。やはり地区について、身近な地域について計画を作るということの大事さがもっと 認識されてしかるべきでないかという風に思います。 

(5)民間地域住民組織と公式制度の地域委員会 

さて、最後であります。これはやや大ボラみたいな話で、最後を飾るに相応しいものであ りますけれども。この問題は先に言いました、決定機関と実働部隊の関係にちょっと似てお りますが、やや別な論点です。先ほど私は、ドイツの地域内分権の取組みにおいて、「協働」

という理念がほとんど見られないことを述べました。自分で公共サービスの提供活動に取組 むくらいなら、より多くの税金を払って政府にやってもらう、という国民意識です。それだ け国家というものを信用しているのでしょう。これと比べるとどうでしょうか。日本人はよ くお上依存型だと言っていますけれども、私はちょっと違うと思っていまして、日本では政 府に税金を払うくらいなら自分でできる公共サービスは自分でする、という国民意識なので はないでしょうか。ですから国家に対する信頼度が低いという風に私は思うのですが、これ が大ボラ的部分なんですけど、やや大胆な仮説ですが、かつてコミュニティ政策学会の第4 回大会での基調講演で述べてみたことがあります。それはコミュニティ政策という雑誌の第 4号だと思いますが、そこに記録として載っております。 

その後、宮崎市や上越市、飯田市等等の、地域自治区制度の意欲的な運用をつぶさに観察 させていただき、またその他の自治体のコミュニティ政策の取組みを勉強させていただいて、

やはり国や自治体のつくる仕組みだけではなく地域社会の側に、つまり民間の側、市民社会 の側に、たしかな最後の砦のようなものを持ちたい、行政の力はもちろん大事だけれども、

最後の砦として自分たちの側にちゃんとした組織を持ちたいという意識が、日本の地域社会 にはあるのではないかとますます思うようになりました。 

このことを名古屋に即して述べてみたいと思います。学区連絡協議会は、1960 年代に発想 された当時は、新たなコミュニティ政策として、行政と地域住民組織とのインターフェイス として意味合いがあったであろうと思います。その意味では、市役所側がつくった公式の制 度であるわけです。しかし 40 年を経て定着し、学区連絡協議会の実態は、他の自治体に見ら れる連合自治会や地区社会福祉協議会のような民間地域組織としての様相が強いのではない

(13)

かとの印象を持ちます。私は少し見学等をさせていただきまして、そういう印象を持ちまし た。少なくとも、他の自治体でよくあるような、地域内分権の組織と連合自治会とが併存し ていて、「屋上屋」と言われるような事態にはなっておらず、連合自治会の代替物、しかも 自治会以外の地域の役の方々も集うし、さらにはテーマ型の方々も入る、というふうに連合 自治会よりもより高次の機能を持つ組織として、地域に定着しています。地域に定着した民 間組織だと思います。地域委員会は今のところ、地域の包括的な決定機関なのではなく、予 算に関する権限だけしか持っていませんが、たとえ地域委員会が、地域の意思決定機関、計 画・企画機関、あるいは第 27 次地方制度調査会の言葉を借りますと「協働の活動の要」とい う言葉なんですが、さきに引用しているところにはありませんけれども答申の中でそのよう に言った箇所があります、地域委員会がこの「協働の活動の要」として拡充され定着したと しても、これとは別に民間側にたしかな砦をもちたいというのが日本人の市民社会意識であ る以上、町内会も学区連絡協議会も必要とされ保持されていくのではないかと私は思います。

制度上の組織と民間側の組織の相乗効果によって、昨今見られる町内会の加入率低下、その 他の諸問題にも対応できていくのではないか。別に屋上屋ではなくて、そういう相乗効果が あるという風に私は予想しております。地域委員会のような公式の制度と、学区連絡協議会 や町内会のような市民社会側の地域組織とが、良好な連携関係を保って機能するような実践 が求められているというのが、現時点での私の考えです。 

早口で申し訳ありませんでした。何とか時間内に終わることができました。これをもちま して、今日の基調講演と言いますか、シンポジウムへの私なりの問題提起をさせていただき ました。ご静聴ありがとうございました。 

 

司会:ありがとうございました。いろいろご質問、意見もあろうかと思いますけれども、これは後 半戦の質疑の方に回させていただきまして。続きまして、後援をいただいております名古屋 市の方から、名古屋市長であられます河村たかし市長からご挨拶をいただきたいと思います。

市長、よろしくお願い致します。 

 

[河村市長挨拶]  

 

司会:市長、どうもありがとうございます。市長の方からも実は紹介していただきました。当シン ポジウムで、名古屋市地域委員会の事例を素材としてということで言うならば、いよいよこ こからは事例の話が始まっていくということで、事例報告をお二方にお願いしております。

最初の事例報告をしていただけるのは、名古屋市総務局区役所等改革推進室長の渡邊正則様。

名古屋市における地域委員会の取り組みについてということでご紹介いただけたらと思いま す。よろしくお願いいたします。 

渡邊:こんにちは。名古屋市の区役所改革等推進室長の渡邊と申します。地域委員会を担当して2 年やってきました。グッドなタイミングで市長がみえたので喋りづらいのところもあります が、2年間かけて市長と共に走り続け、今会場にも仲間がおりますけど、みんなと共に作っ てきたという、その流れと苦悩というものの一端を報告させていただきたいと思います。パ ワーポイントを使っておりますけれども、地域委員会という旗を作ったところからだんだん と我々の意識も高まってきたのかなと考えております。市長のマニフェストから始まったわ けですけれども、今日の報告も3つの段階に分けて報告しようと思っています。第1段階に ついては 21 年5月 12 日、市長がみえてから制度設計をして予算がついたところ、第2段階 については 21 年 12 月から 22 年の1月にかけて、そこからモデル実施が始まったわけですけ ど、22 年6月までかけて地域で地域委員会が各地で開催されて、8地域ですけれども、そこ

(14)

で予算を作ったという段階。それとその後、検証ということで、いろんな角度で検証してい ったということ、それが現在に至るまでという、その3つの段階に分けて報告していきたい と思います。 

        まず第1の 12 月までということですけれども、市長のマニフェストには骨が書いてござい まして、この頃にはまだアドバイザーという方がみえたので、そちらの方のアドバイスを受 けながらやってきた部分はありますけれども、先ほど市長が申し上げましたように、公選に 準ずる手続きということで選挙にこだわった形の制度設計をして欲しいと。後は予算の一部 の使い道を決定してくれと。この頃には予算についても、今、モデル実施では 1000 万という ことになっていますけれども、一億円という大きな数字も出ていたところでございましたけ れども、落ち着くところは税の1%相当ぐらいを地域で割ると 1000 万円ぐらいかなと。池田 市などを参考にしながら適正規模はどれぐらいなんだろうかと、そういうことを考えたわけ ですけれども、その 1000 万円の使い道を決定してくれと。使い道に特に限定はないと。これ も虐待であるとか、待機児童であるとか、スポーツ、文化であるとか、今までの地域でやら れていたこと以外の、地域でやられていたことと言いますのは、町内会・自治会でやられて いた、宮崎市の言葉を使いますと小さな自治ですが、そうではない大きな自治の方の活動に 対して、使い道を決めて欲しいなというようなことは申し上げておったところでございます。

市長は地域で決めたことはスルーパスとは言いませんけど、名古屋市は議会を通さないとい けないわけですから、その辺のところは自治法に基づくやり方をしておるところですけれど も、地域で決まったことはそのまま予算化しますよという、そのようなお話をさせていただ いていたところですけれども、予算の通った後は市の方でしっかりとやりますと。この辺の ところは後ほど、地域での混乱とか疑問とか課題とか、そのようにつながったということは ありますけれども、マニフェストではこのような粗々なことが書かれていたわけです。この 他に段階的に手順を踏んでやっていこうということですとか、対象地域を徐々に増やしてい くとか、そのようなことがマニフェストには書かれていたわけです。 

        一方、新しい仕組みをこの地域委員会に入れていこうという中で、これまでの地域コミュ ニティ、先ほど名和田先生の方からもありましたけれども、昭和 43 年から本市においては、

準則という形で、準則を示しまして地域で学区連絡協議会というものを作っていただいてお ります。265 学区、本市には学区があるんですけれども、2学区を除いてほとんどの地域で この学区連絡協議会というものが作られています。活動というのはまちづくり、まちづくり と言いましても町を美しくする運動や交通安全になりますとか、学区連協の組織されている メンバーを見ていただくと分かりますけれども、それだけの方々が寄り集まってまちづくり をしていこうという、そういった団体でございます。ここには書いてありませんけれども、

補助金という形で現在、1学区 60 万円の補助金を交付しております。この活動に対して 60 万円の補助金が出ているところが今回の地域委員会の設計においても、いろんな課題が出て きたと、そのような関係になるかと思いますけど、それは後ほどの話にさせていただきたい と思います。 

        学区連協がどういった部分になるか、ちょっと図が小さくて分かりませんけれども、学区 連協の中心メンバーとして区政協力委員という行政の協力制度、どこにでもあったんですけ ど、最近は少ないと言われていますけれども、それが本市においてはまだしっかりとした形 で残っております。学区連協の中心となるのはこの区政協力委員制度で、この方々と本市と の関係がこの地域委員会をどうしていくかということの鍵になっているという風に考えてお りますけれども、一方、こういった方々が今までやられていた活動に対する思い等々がこの 地域委員会制度を導入するにあたっていろいろな議論を醸し出したというように考えており ます。どこの地域でもやはり従来の団体と、こういった新しい仕組みを入れていこうとする

(15)

と、従来からの地域、地区等を束ねている方々との軋轢というか、思いの違いというのがあ るという風には聞いております。上越にしろ豊田市にしろ、その辺のところをどうご理解い ただくか、一緒にやっていくかということがいろいろ議論されたという風には聞いておりま すけれども、本市においてもご多分にもれずに、いろんな形で議論が沸騰したというか、最 終的には請願という形で我々の理解を得るまで地域委員会を進めてはいかんというような、

そのような請願というものも出たといった経過につながったと考えております。 

        そういった背景の中で検討が始まるわけですけれども、4月に市長の選挙があって5月に すぐ、今日ちょっとおみえになっていませんけれども、山田副市長をトップとして地域委員 会検討プロジェクトチームを立ち上げまして、まずコンセプトを作ろうということで、私た ちの地域のことは私たちが決めるという、そういうようなコンセプトで先ほど申し上げたマ ニフェストに従った形でどんなことが出来るのか、どういった仕組みがいいのかということ の議論が始まったわけです。10 月の制度設計、粗々のモデルの制度設計が終わるまで、8回 のプロジェクト会議を実施して、打ち合わせ会議を含めるともっと多いんですけど、市長レ クに至っては確か 20 回以上この会議をやって、どんなことがいいのかというようなことをい ろいろ議論したという風に思っています。そのコンセプト、中心をなすのは先ほどのアドバ イザーの考え方もありまして、近隣政府ですとか都市内分権でありますとか、なかなか我々 役所の中ではまだまだ馴染みのなかった言葉だったものですから、その研究から始まって、

一体どんなことがいいのかなということを日夜、考えたわけです。 

ちょっと話があれですけれども、私は区役所改革等推進室という職名なんですけれども、

その「等」というのが何なのかということで、元々、区役所改革ということをやっていまし て、不祥事があったり、区役所でいろんな事件が起きて、それを改革していこうというプロ ジェクトでした。それは前の市長が区役所の権限を強くしていこうと。予算と組織、定員、

そういったものを与えれば区役所もよくなるんじゃないかということで、前の市長の政策と して組織が作られ、私がおったわけですけれども、その後市長が代わられまして、区役所改 革というのはやはり庁内分権ということで、本庁と区役所だけだろうと。これからは地域へ 権限を渡すんだと、住民分権という言葉を使っていましたけれども、地域内分権の発想が出 てきて、そのような関係で私のところに仕事のお鉢が回ったんですけれども、これが良かっ たのかどうか分かりませんけれども、都合3年ということで今に至っているわけです。ちょ っと脱線してしまいますけれども、先ほど名和田先生が区役所の機能強化というお話されて いる中で、やはり我々も考えておったわけですけれども、区長に 1000 万円の権限を与えて、

今、そういうことをやっているわけですけれども、それ以外にも企画調整機能の強化という ことで、今、区にそういう部屋を設けて、今回の地域委員会の担当ということの位置づけを したと。ですので区役所改革と地域委員会というのは平行してやってきたという風に私共で は考えているところでございます。 

        アドバイザーと市長の思いをどう実現するかという中で、他都市の事例をいろいろ研究し ました。先ほど名和田先生の方からも出ていました上越市、池田市、豊田市、横浜市。上越 は公募公選制をやっているということで、市長が大好きな選挙はどうやってやるかという参 考にしました。豊田、池田、これは予算提案権ということで、豊田市の 2000 万、池田市の 700 万、この辺のところがどう使えるか、どう決めていかれるのかを検討の材料としました。

地域の方も池田市は小学校で、豊田市は中学校区ということで、モデルの段階では私共も小 学校か中学校か、どっちでもいいよという、そんなようなモデルにしまして、この辺のとこ ろは参考になったのかなという風に思っています。 

        半年もない中でどんなものが出来たかということで、モデル実施内容の公表という風に書 いてありますけれども、内容について簡単にですけれども、資料集の方の 19 ページからモデ

Referensi

Dokumen terkait

――林先生にとって「準備」とは何でしょう? 僕は「準備」の前に「覚悟」があるべきだと思います。 今は様々な情報に簡単にアクセスできる時代。自分がやりたいことを実現したいと思ったら、それと同じよ うなことを考えている人がどんな努力を重ねているのかを調べることができます。それを見て、果たして自分

9 八久保先生を偲んで が訪ねてきましたし、平井先生の部屋の前で会うことが多かったからです。