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ファイトケミカルがもつoff-target効果の意義 - J-Stage

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(1)

ポ リ フ ェ ノ ー ル な ど の フ ァ イ ト ケ ミ カ ル(phytochemical

は植物の二次代謝産物で多彩な生理機能性を示す化合物群で ある.近年,ケミカルバイオロジーを基盤とした研究手法の 開発によって,これらの標的分子が多数,明らかにされ,作 用機構に関する分子レベルの知見が集積されつつある.その 一方で近年,私たちは,生体タンパク質に対して非特異的に 結合するファイトケミカルの例を見いだし,さらにそれが機 能性の発現に寄与するという,ユニークな現象を明らかにし つつある.特異的および非特異的な特性の両面から作用機序 を解析することは,「そもそもファイトケミカルがなぜ機能 性を示すのか?」という本質的な命題を解く鍵でもあり,ま た安全性を議論するうえでも重要であると考えている.

はじめに

抗酸化能をもつポリフェノール類は代表的なファイト ケミカル(phytochemical, 植物二次代謝産物)の1種で あり,多彩な生理機能性を示す.しかし,それらの作用 機構において抗酸化作用が重要な役割を果たしているか

否かについては議論の余地がある.なぜなら,生体への 吸収効率が極めて低く,抗酸化作用を示す血中濃度に達 することは希だからある.一方,個々の機能性に関する 遺伝子発現や,それらを制御する上流のシグナル分子群 に対する調節作用も数多く報告されてきた.しかし,こ うした知見の多くはファイトケミカルの間接的な効果が 反映された結果に過ぎないと指摘できる.このように,

薬剤と異なり食品機能性成分の作用機構については不明 な点が多い.ところが2004年,Tachibanaらは,緑茶 成分(−)-epigallocatechin-3-gallate(EGCg)の細胞膜 受 容 体 を67 kDa laminin receptor(67LR) と 同 定 し,

生理活性を発現する引き金とも言える標的分子の一つを 発見した(1).これ以降,機能性を担う結合タンパク質に 関する知見が相次いで報告され,作用機序を分子レベル で理解することが可能な時代を迎えている.

ところで,EGCgと67LRの関係ように,本来,植物 自身が環境ストレス適応の目的で生合成したファイトケ ミカルが,動物の生体タンパク質に対して高い親和性を 示す事実は単なる偶然なのだろうか.たとえば分子進化 的な考えに則し,動物が長年にわたり植物を摂取してき た過程で,これらを受容するタンパク質を優先的に生合

【解説】

The Significance of Off-Target Effects of Phytochemicals from  the Viewpoints of Their Physiological Functions and Potential  Side-Effects

Akira MURAKAMI, 京都大学大学院農学研究科

ファイトケミカルがもつoff-target効果の意義

機能性と潜在的副作用の観点から

村上 明

(2)

成してきたと想像することもできる.いずれにせよ,こ うした化合物は分子量も小さく比較的単純な化学構造を もつことから,細胞内に取り込まれた場合,タンパク質 などの生体機能分子に対して非特異的に相互作用する可 能性が考えられる.しかし,これまでに,ファイトケミ カルの非特異的な作用性に関する知見は乏しく,また,

筆者が知る限り,その意味や役割に関する報告はなかっ た.

本稿ではファイトケミカルの作用機構の理解に必須と 考えられる,標的分子に関するいくつかの研究例に加 え,私たちが最近見いだした,非特異的相互作用に基づ いた機能性発現機構について解説した.さらに,ファイ トケミカルを生体異物と捉えることで浮き彫りとなる,

安全性の問題についても考察を加えた.

特異的な標的分子の例

上述した67LRの発現を低下させたがん細胞では,

EGCgの増殖阻害作用が減弱した(1).したがって,67LR はEGCgに対して単に高い親和性を示すだけでなく,そ の抗がん活性の発現機構において重要な役割を示すと考 えられる.また本受容体は,幅広い臓器や組織で発現し ているが,興味深いことに,特に悪性度の高いがん細胞 での発現レベルが高いことから,67LRを標的とした,

がん細胞選択的な増殖阻害効果が期待されている.さら に,EGCgやその類縁体の既知の生理機能性のうち,抗 アレルギー作用(2)や抗炎症作用(3)の発現機構においても 67LRが重要な役割を果たしている.一方,ほかの研究 グループもフラボノイドを中心とした標的分子の探索研 究を行っている.たとえば,Koらはアフィニティーク ロマトグラフィーと質量分析法を駆使して,quercetin

(タマネギなど天然に広く存在するフラボノイド)の結 合タンパク質の一つをheterogeneous nuclear ribonu- cleoprotein A1(hnRNPA1)と同定した(4).hnRNPA1 は,細胞質から核へのシグナル分子の輸送に関与してい るが,quercetinは本タンパク質に結合することでcellu- lar inhibitor of apoptosis protein-1の核移行を抑制し,

アポトーシスを誘導した.一方,Limらは,大豆やアル ファルファなどに含まれるメチル化イソフラボンのbio- chanin Aが,mixed-lineage kinase 3に直接結合し,こ れがUV照射によるcyclooxygenase-2(COX-2,  炎症反 応亢進タンパク質)の誘導抑制機構として重要であると している(5).上記の研究例では,まず特定のファイトケ ミカルに着目し,その標的分子を探索するというアプ ローチであった.しかし,これとは逆に,あらかじめ重

要な鍵タンパク質に着目し,それに結合するファイトケ ミカルを同定するという方向性の研究例もある.たとえ ばLiuらは,細胞増殖を促進するcasein kinase 2(CK2)

に対して特異的に結合する天然化合物の究明を試み た(6).まず,化合物の純度や起源などを考慮して化合物 ライブラリー 14万種類からあらかじめ120種に絞り込 み,その後,結合評価試験によってcoumestrol(アル ファルファ,豆類,芽キャベツなどに含まれるイソフラ ボノイド)を同定している.本化合物はCK2のATP結 合部位に結合することでその機能を阻害し,肺がん細胞 A549などの増殖が顕著に抑制されることを実証した.

ポリフェノール類に並び,天然に広く分布するテルペ ノイドも多彩な生理活性を有する.トリテルペンの1種 であるursolic acid(UA)は構造異性体のoleanolic acid とともに,さまざまな炎症モデル実験系で抗炎症作用を 示すことで注目されてきた.たとえばUAは,リポ多糖

(lipopolysaccharide; LPS)で刺激したマクロファージ

(M

ϕ

)からの炎症関連メディエーターの産生を顕著に抑 制する.これに対して私たちは以前,無刺激状態のM

ϕ

をUAで処理した場合の細胞応答性に興味をもち,いく つかの実験条件でM

ϕ

を刺激した.その結果,炎症性サ イトカインの1種であるM

ϕ

 migration inhibitory factor

(MIF)やinterleukin-1

β

(IL-1

β

)の産生が増加する現 象を見いだした(7).すなわちUAは炎症刺激を加えた M

ϕ

においては抗炎症的に働くが,無刺激状態では逆作 用を示すというユニークな二面性を明らかにすることが できた(図

1

.次に,表面プラズモン共鳴法や遺伝子 欠損マウスなどを用いて,その分子機構の解明を試み た.その結果,UAは細胞膜表面のCD36(異物貪食に 関与するスカベンジャー受容体の1種)に結合すること で活性酸素の生成やmitogen-activated protein kinase

(MAPK)経路の活性化を促し,炎症性サイトカインの 産生を促進することが判明した.興味深いことに,添加 したUAは培地中で凝集し,この凝集体が炎症反応の惹 起に関与する.また,OAを含むUAの構造類縁体には 同様な作用が認められなかったことから,トリテルペン の中でもUAに特徴的な現象だと考えている.上記の知 見はICRマウスの腹腔M

ϕ

を用いた実験で得られたが,

C57BL/6JやDDYマウス由来のM

ϕ

はIL-1

β

産生能が弱 く,さらにC3H/HeマウスM

ϕ

やRAW264.7細胞(株化 M

ϕ

)では炎症応答は全く観察されなかった(8).そこで,

これら一連の異なる細胞種に関して,炎症反応にかかわ る主要なシグナル伝達分子のmRNA発現プロファイリ ングを行った.その結果,UAによるIL-1

β

産生に対し て特に必要なタンパク質は,CD36および活性酸素の産

(3)

生に関与するgp91phoxであると示唆された.

次に,生体防御機構において中心的役割を果たし,ま た多くのファイトケミカルの標的分子として注目されて いるKelch-like ECH-associated protein 1(Keap1)につ いて述べる.ストレス負荷が弱い定常状態において,

Keap1は転写因子NF-E2-related factor 2(Nrf2)と結合 し,プロテアソーム(proteasome)依存的な分解を促 進することから,Keap1はNrf2の抑制因子と言える.

しかし,活性酸素や求電子性物質によってKeap1のcys- teine thiol基が酸化あるいは修飾を受けるとNrf2との結 合能が失われ,生体防御遺伝子群の転写が始まる(図

2

.代表的なNrf2の標的遺伝子としては,glutathione

(GSH)抱合により生体異物を解毒するGSH- -transfer- ase(GST)などの代謝酵素群やsuperoxide dismutase

(SOD)を含む抗酸化酵素群がある.環境中の化学発が ん物質の多くはNrf2依存的な代謝酵素群によって不活 性化されるため,Nrf2の活性化は発がんに対して抑制 的に機能する(しかし,がん細胞のNrf2活性を増加さ せることはストレス耐性の増加につながるので諸刃の剣 とも考えられている).

このように,Keap1は細胞や組織を酸化ストレスや異 物による傷害から保護するためのストレスセンサーとし て機能している.したがって,ファイトケミカルも異物 であることからKeap1によって感知されても不思議で はない.事実,アブラナ科植物に含まれるisothiocya- nate(ITC)類の共通官能基(‒N=C=S)は強い求電

子性を示し,Nrf2を活性化することがよく知られてい る.代表的なITC類の1種であるsulforaphane(ブロッ コリーなどに含まれる)は,げっ歯類において強い発が ん予防作用を示すが,その作用機序はNrf2依存的な防 御遺伝子群の誘導作用と理解されている.同様に,求電 子性の

α

,

β

-不飽和カルボニル基を有するファイトケミカ ルの中にはKeap1へ付加することでNrf2を活性化する ものもある.また,catechol構造をもつポリフェノール 類は -quinone体に酸化されると求電子性を示し,同様 な特性を獲得する.さらに,こうした求電子性物質が GSHへ付加することにより,あるいはミトコンドリア 電子伝達系の阻害作用によっても活性酸素が生成し,

Nrf2の活性化に至る例も報告されている.

私たちは以前,東南アジア産野菜類の発がん抑制活性 ス ク リ ー ニ ン グ を 行 い,ハ ナ シ ョ ウ ガ(

 Smith)の根茎からセスキテルペンのzerum- boneを単離した.本化合物は

α

,

β

-不飽和カルボニル基を 有し,thiol基の求核付加を受ける可能性がある(図

3

また,げっ歯類の皮膚や大腸などにおいて強い発がん抑 制および抗炎症作用を示すが,その作用機構について は,Nrf2活性化作用(9)とCOX-2抑制作用(10)の2つが重 要だと考えている.M

ϕ

をLPS刺激した際のCOX-2発現 シグナル伝達経路における作用点を解析した結果,

zerumboneはCOX-2 mRNAの安定化段階を選択的に阻 図1マクロファージ(Mϕ)に対するウルソール酸(UA)の

二面性

LPS(lipopolysaccharide: リポ多糖)は,TLR4(Toll-like receptor  4, 病原体に特異的な分子を認識するtoll様受容体の1種)を介して Mϕにおける炎症反応を惹起する.UA(ursolic acid)は,この反 応を抑制し抗炎症性を示すが,無刺激のMϕに対しては,その受 容体であるCD36(スカベンジャー受容体の1種)に結合し,逆に 炎症反応を惹起する.

図2Keap1-Nrf2システムによる生体防御遺伝子の発現機構 Keap1のSH基が求電子性物質の付加を受け,また酸化されると Nrf2が遊離し,リン酸化を受けた後,核内へ移行する.その後,

転写共役因子sMaf(small Maf proteins)とヘテロ複合体を形成 しさまざまな生体防御遺伝子の発現を活性化する.

(4)

害することが示唆された(11).また,求電子性を消失さ せたzerumbone誘導体は抗炎症活性を全く示さなかっ たことから,この化学的特性はNrf2の活性化だけで  なく抗炎症機能にも必須である.次に,Keap1への結合 を確証するために,biotin基を導入したzerumbone誘  導 体 を 合 成 し た.COX-2抑 制 作 用 の 評 価 に 用 い た RAW264.7 M

ϕ

をLPSで刺激した際に活性化,あるいは 不活性されるタンパク質を選択し,avidinビーズに結合 したタンパク質量を無処理の細胞における発現量と比較 した.その結果,評価したタンパク質総計28種の中で はKeap1に対して最も高い結合活性を示すことがわ かった.さらに,zerumboneによるheme oxygenase-1

(抗酸化酵素)などの発現増強作用がNrf2欠損マウスで は顕著に減弱していた(12).したがって,zerumboneは Keap1への結合を介してNrf2を活性化し,抗酸化・解 毒作用を発現すると考えられる.その一方で,zerum- boneのbiotin誘導体は炎症関連遺伝子のマスター転写 因子であるNF

κ

B(nuclear factor 

κ

B, p65)へも顕著に 結合した.しかし,zerumboneはNF

κ

Bの転写活性に は影響を与えない(9)  ことから,この結合は抗炎症作用 には寄与しないと推察している.以上から,Keap1は zerumboneの生体防御分子発現機構における主要な標 的分子の一つであると結論づけた.その一方で,この結 合がCOX-2などの発現抑制作用に関与しているか否か については今後の課題として残されている.

非特異的な相互作用

上述した実験手法では,あらかじめ想定したタンパク 質との結合活性は評価できるが,未知の標的を発見する ことは不可能である.そこで,zerumboneへthiol基が 付加した部分構造を特異的に認識する抗体を作製し,新 たな標的分子の究明を試みた.まず,マウス肝臓がん細 胞Hepa1c1c7にzerumboneを添加し,本抗体を用いた ウエスタンブロットを行ったところ,付加体に由来する ラダー状のバンドが時間依存的に増加した(13).また,

zerumboneをSepharoseビ ー ズ に 固 定 し た ア フ ィ ニ ティーゲルを調製し,細胞溶解液中の結合タンパク質を CBB染色した場合にも同様な結果が得られた.一方,

本 ビ ー ズ を 用 い て -ethylmaleimideと の 競 合 試 験 を 行った結果,Keap1などとの結合活性が顕著に減少した ことから,タンパク質のthiol基への共有結合性が確証 できた(14) (図

3

.さらに,zerumboneで30分間処理し た細胞を付加体抗体で免疫染色すると,細胞質や核など の 広 い 範 囲 で 陽 性 染 色 が 観 察 さ れ た.以 上 か ら,

zerumboneにはKeap1という主要な標的分子が存在す る一方で,細胞内の多数のタンパク質と非特異的に共有 結合するという新たな特性が明らかとなった.

果たして,このランダムな結合が意味するところは何 であろうか.生体タンパク質への軽微な結合は,生理的 な意味をもたないのかもしれない.しかし,それらの機 能を損なうまでに付加反応が亢進すれば,タンパク質ス トレス(proteo-stress)を与えるものと推察できる.生 体タンパク質の立体構造が損なわれると,protein disul- fide isomeraseやheat shock proteins(HSPs)などの分 子シャペロン群が構造修復を試みる.こうしたタンパク 質品質管理(protein quality control; PQC)機構は,変 性タンパク質の生成が引き金となって活性化する場合が あり,その機序は次のように考えられている(図

4

. 通常,HSPの転写因子であるheat shock factor-1(HSF- 1)はHSP90と結合し不活性化されている.しかし,細 図3タンパク質チオール基によるゼルンボンへの求核付加反

図4変性タンパク質の生成を引き金とする熱ショックタンパ ク質の誘導機構

細胞内で生成した変性タンパク質はHSP90と結合し,構造修復機 構へ送られる.このプロセスはHSP90からのHSF1の遊離反応と 共役している.転写因子HSF1は三量体化とリン酸化を経て活性 化し,さまざまなHSP分子群の遺伝子発現を増加させタンパク質 の品質を維持しようとする.

(5)

胞質内で変性タンパク質が生成するとHSP90を奪い,

HSF-1が遊離する.次いで,HSF-1は三量体化やリン酸 化を経て活性化され,さまざまなHSPの遺伝子発現量 を増加させる.タンパク質ストレスが軽度な場合は,構 成型あるいは誘導型HSPの構造修復機能によってタン パク質の恒常性は維持される.しかし,ストレスが熾烈 な場合や何らかの理由で修復機能が低下すると変性タン パクの蓄積が起こる.しかし,その選択的分解系が機能 すれば排除可能である.たとえば,CHIP( -terminus  of Hsc70 interacting protein, ubiquitin E3 ligaseの1種)

は変性タンパク質を特異的にubiquitin(Ub)化し,プ ロテアソームにおける分解へと導く.変性ストレスがさ らに強くなるとタンパク質の凝集も起こるが,凝集体は Ub-プロテアソーム系では分解できない.その場合でも なお,Ub標識された凝集タンパク質はp62/SQSTM1に 認識され,オートファジー(autophagy)によるバルク 分解を受けクリアランスされる.このように,細胞がタ ンパク質変性ストレスに暴露されても,その程度に応じ たPQC機構が備えられており,非常に高度な恒常性維 持機構であることは特筆に値する(図

5

次に,zerumboneに修飾されたタンパク質の細胞内 での運命について検討した.まずHepa1c1c7細胞を zerumboneで処理したところ,CHIP依存的なUb化タ ンパク質が多数検出された一方で,アグリソーム(ag- gresome,  タンパク質凝集体)の形成も観察された(15). 次に,zerumbone付加タンパク質が熱変性タンパク質

と 同 様,HSP90に 認 識 さ れ る か 否 か を 評 価 し た.

Zerumboneで処理した細胞溶解液を抗HSP90抗体で免 疫沈降したところ,沈降物中のzerumbone付加タンパ ク質量はzerumboneの添加濃度依存的に増加した.ま た,HSP90とzerumbone付加タンパク質の結合によっ て起こる細胞応答について解析したところ,HSF-1の活 性化やHSF-1依存的な誘導型HSPの発現増加が確認で きた.以上の結果から,細胞をzerumboneで処理する ことで生成する付加タンパク質は熱変性タンパク質と同 様に認識され,熱ショック処理時と同様な細胞応答が起 こることがわかった.さらにzerumboneは,プロテア ソーム活性やその主たる構成因子である

β

5などの発現,

また,p62/SQSTM1を含む多種のオートファジー関連 遺伝子の発現も増加させたことから,異常タンパク質分 解系も活性化できると考えている(15).非常に興味深い ことに,PQC機構は,がんやメタボリックシンドロー ムをはじめとするさまざまな生活習慣病の進展に対して 抑制的に機能していることが近年,明らかにされつつあ る(16) (図5).したがって,zerumboneを含むファイト ケミカルがPQC機構を活性化することで既知の生活習 慣病予防効果を発現している可能性も想定できる.

次に,zerumboneで処理した培養細胞や線虫(

)の形質変化を評価した.過酸化脂 質 分 解 物 の4-hydroxy-2-nonenal(HNE) は,lysine残 基やcysteine残基へ付加することでタンパク質毒性を示 すことが知られている.そこで,細胞をzerumboneで 前処理すればPQC活性の増加によってHNEの毒性が緩 和できると考えた.その予想どおり,HNEによる肝臓 細胞毒性はzerumboneの前処理でほぼ完全に抑制でき,

さらにこの細胞保護効果はp62/SQSTM1依存的であっ た(15).また,線虫にzerumboneを投与するとHSP16.41 のmRNA発現が強く誘導され,熱ショックによる線虫 の個体死は顕著に抑制された(15).植物成分のzerum- boneは,動物にとっては「タンパク質ストレスを与え る不要な異物」という一面がある.しかし同時に,その 用量が適度であればPQC機構を活性化し,逆にタンパ ク質ストレス耐性を賦与することも事実である.このよ うな現象は,ある種のトレーニングとも表現でき,たと えばマイルドな熱処理によって熱ストレス耐性が賦与さ れるのと同義であろう.

ところで,上記したユニークな性質がzerumboneに 限定されるのか,それともほかの食品成分にも認められ るかを見極めることは重要である.そこで,16種の栄 養素(糖,アミノ酸,ビタミン,ミネラル)および8種 の フ ァ イ ト ケ ミ カ ル を 無 作 為 に 選 び,そ れ ぞ れ の 図5タンパク質品質管理機構の概略

変性タンパク質は分子シャペロンによって構造修復可能であるが,

変性ストレスが強い場合はCHIP( -terminus of Hsc70 interact- ing protein)によるユビキチン化を受けプロテアソームにおけ  る分解機構へと導かれる.その一方で,タンパク質凝集体は p62/SQSTM1による標識を受け,オートファジーによってクリア ランスされる.興味深いことに,最近の研究結果では,こうした 品質管理機構の活性化は,がんやメタボリックシンドロームのな どの生活習慣病の発生に対して予防的であるとされている.

(6)

HSP70誘導活性を調べた(13).その結果,栄養素ではall-  retinoic acidとzinc chlorideだけが誘導活性を示 したのに対し,後者の試験では,curcumin, phenethyl  ITC, UAなど半数以上の被検試料に有意な活性が認め られた.より高頻度でファイトケミカルが誘導活性を示 した結果に必然性はあるのだろうか.積極的に体内に吸 収される栄養素とは対照的に,ファイトケミカルは異物 である.事実,これらの化合物群は,体内への吸収効率 が低く,また,ごく微量に取り込まれた場合も,抱合反 応などを受け速やかに排泄される.したがって,これら が「招かれざる客」であるからこそ,ストレス応答分子 であるHSPの誘導が高頻度で起こったと解釈するのが 妥当ではないだろうか.

高用量ポリフェノールの害作用

一般的に,ファイトケミカルは「体に良い(体に優し い)」物質だと考えられている.しかし,上述のように 生体異物であることを踏まえると,これは原則的には 誤った概念であろう.私たちは以前,EGCgがヒト大腸 がん細胞において,活性酸素の生成を介してpro-matrix  metalloproteinase-7(proMMP-7, がん転移酵素)の産生 を増加させるという逆作用を報告していた(17).そこで 次に,マウス大腸二段階発がん試験によって,ポリフェ ノール類のほかの害作用の有無について検討した.緑茶 ポリフェノール混合物(green tea polyphenols; GTP)

を0.01〜1%という幅広い用量で混餌投与した結果,低

〜中用量のGTPは大腸における炎症性サイトカイン

(IL-1

β

やMIF)の産生を抑制したが,0.5%を超える高 用量において,それらの産生量は対照群よりも増加して いた(18).また,マウスの個体差が大きく統計学的有意 差はなかったが,用量依存的に大腸発がんを増加させる 傾向も見られた.同様に,マウス急性大腸炎モデルにお いても,低用量では抗炎症作用を示した一方で,高用量 では,肝臓と腎臓の機能低下や酸化ストレスマーカーの 増加が認められた(19).さらに,これらの臓器における 抗酸化酵素やHSPの発現レベルが低下していたことか ら,高用量のGTPは種々のストレス耐性機能に影響を 与えるものと考えている.重要なことに,いくつかの疫 学研究グループも高用量における緑茶関連試料の害作用 を 指 摘 し て い る.た と え ば,Mazzantiら は,1999〜

2008年に公表された関連論文のメタアナリシスで,36 編の副作用報告(肝臓障害による死亡例を含む)があっ たとし,サプリメントなどによる過剰摂取に対して警鐘 を鳴らしている(20)

ホルミシスの概念

ストレスは,しばしば悪く表現される.しかし,その 程度が軽度であれば適応応答が活性化し,結果的にスト レス暴露前より耐性が強化する場合もある(図

6

.本 現象はホルミシス(hormesis)と呼ばれ,1888年,ド イツの薬学者Schulzが毒物で刺激された酵母の生育が 促進したのを観察したのが端緒とされている.ホルメ ティックな作用を引き起こす代表的な環境ストレス要因 としては,化学物質,活性酸素,紫外線,微生物などが 挙げられる.また,たとえば,運動,日光浴,入浴など の日常的な行動や精神活動についても,負荷の強さがメ リットとデメリットを分けるという点で共通しており,

ホルミシスが関係しているのかもしれない.興味深いこ とに,上記したGTPに関する私たちの研究例と同様,

ファイトケミカルのホルミシス効果を示唆する現象がい くつか報告されている.たとえば,curcuminは,1〜5 

μ

M の濃度範囲では濃度依存的にオートファジー誘導活性を 増加させたが,それ以上の濃度では阻害作用に転じ た(21).また,ラットに対する混餌投与実験において,

25 mg/kgの用量のresveratrolは心臓保護作用を示した が,100 mg/kg体重では有害であったという(22)

このように,ファイトケミカルが高用量で害作用を示 す現象を逆に捉えると,毒性物質も低用量では機能性を 示すという可能性が想起される.事実,毒物として有名 なsodium azideは,5%の高濃度では線虫の寿命を短縮 恒常性維持機能(機能性)

問題無

ストレス(用量)

適応・対抗 破綻

図6ホルミシス曲線

生体はさまざまなストレスの暴露を受けるが,その程度が取るに 足らない場合は何も問題は起こらない.また多少のストレスを受 けても,原則的にそれに対する防御機構が備わっており適応でき る.そして,それにとどまらずこうした適応機構の活性化によっ てストレス暴露以前よりも防御能が強化される場合があり,この 現象はホルミシスと呼ばれている.しかし,自己の許容力を超え たストレスを浴びた場合は適応することはできず,さまざまな害 作用が顕在化する.

恒常性維持機能(機能性)

問題無

ストレス(用量)

適応・対抗 破綻

(7)

させるが,驚くべきことに0.5〜2%では有意な長寿効果 を示したという(23).これと同様に,有機溶媒のdimeth- yl sulfoxideは,10 mMの濃度では線虫に熱耐性を賦与 している(20 mMでは効果なし)(24).さらに,一酸化炭 素(CO, 環境基準は10 ppm以下)は1,000 ppmを超える と致死量だが,興味深いことに,250 ppm付近では実験 動物において抗炎症作用を示した(25).これらの毒物が 低濃度で機能性を発現するメカニズムは完全には解明さ れていない.しかし,sodium azideとCOの場合は,と もにミトコンドリアに存在するcytochrome   oxidaseの 阻害作用との関連性が示唆されている.すなわち,本酵 素の阻害によって生成する活性酸素がKeap1‒Nrf2系を 活性化し,ストレス耐性や抗炎症作用をもたらしたと  推察されている.重要なことに,これらの毒性自体も cytochrome   oxidaseの阻害作用によって起こる.した がって,本酵素の阻害作用の強弱が機能性と毒性を決定 する可能性が高い.これに関連して,16世紀のスイス の医師のパラケルスス(Paracelsus)が「すべてのもの は毒であり,毒でないものはない.投与量のみが毒か否 かを決定する」という金言を残したことを指摘しておき たい.この「毒か否か」という部分を「機能性成分か否 か」と置き換えれば,異物であるファイトカケミカルが 機能性を示す本質的な理由を理解するうえでの一助とな るのではないだろうか.

おわりに

ファイトケミカルの作用機構は部分的にしか解明され ておらず,未知の機構が数多く潜んでいることに疑いの 余地はない.たとえば最近,miRNAを介したユニーク な分子機構も発見されているが,これを10年前に予見 できた食品機能研究者は一人もいなかったであろう.一 方,薬剤に関しても,想定した標的だけに作用している と考えるべきではない.たとえば最近,MEK(MAPK  kinase)の選択的阻害剤が,標的分子への結合を介さな い機構で細胞内カルシウム流入を阻害し,norepineph- rineの放出を抑制するという予期せぬ作用特性が報告さ れた(26).また,estrogen受容体のアンタゴニストであ り,乳がん抑制機能をもつtamoxifenには,近年,酸性 ceramidaseの阻害によって前立腺がんの転移を抑制す るという新しい側面も明らかにされている(27).このよ うに,比較的選択性の高い薬剤でもoff-target効果が見 られる事実を鑑みると,化学構造が単純で,かつ動物タ ンパク質に対する親和性が担保されていないファイトケ ミカルが,細胞内で非特異的に振る舞っても不思議では

ないであろう.

上述した私たちの研究成果は,「生体タンパク質への 非特異的な相互作用を介した新たな作用機構の可能性」

を提示する(図

7

.その妥当性や普遍性の検証は今後 の課題であるが,「タンパク質ストレスを介したホルミ シス」という特性に着眼し,本機構を「プロテオホルミ シス(proteo-hormesis)」と称している.また,ファイ トケミカルの摂取によって適応応答性を鍛えることは

「ケミカルトレーニング(28) 」と表現できよう.ところ で,sulforaphaneが抗酸化酵素や解毒酵素を誘導すると いう現象は,この機能性成分が「体に良い」からであろ うか.むしろ,生体にとっては酸化ストレス源であり,

また不要な化学物質だという側面が反映した結果と捉え るべきであろう.こうしたファイトケミカルを適量摂取 すればストレス抵抗性が強化できるかもしれないが,効 果的な摂取量の決定は決して容易ではない.いずれにせ よ,ホルミシスの概念に則して考えれば,生体異物であ るファイトケミカルが機能性を示す根本的な理由や過剰 摂取による副作用の原因が合理的に説明できる(図6). さらに,このような視点で植物性化学物質と動物細胞と の相互作用を解析すれば,たとえば「ヒトがなぜ野菜を 食べてきたのか」という壮大な謎を解くための材料を提 供できるかもしれない.

図7ファイトケミカルの主な作用機構の概要の分類

(1)活性酸素消去などの抗酸化作用によって機能性が説明できる 場合.(2)ファイトケミカルの標的分子は不明だが,それに対す る結合過程の下流で起こるイベントは判明している場合.(3)特 異的相互作用:生理活性の引き金とも言える標的分子が同定され ている場合.(4)非特異的相互作用:生体タンパク質とのランダ ムな相互作用に対する適応応答としてタンパク質品質管理機構が 活性化し,その結果として生理機能性の発現に寄与している可能 性(Ub, ユビキチン).タンパク質ストレスに対するホルミシスと いうことを踏まえ,筆者らはこの現象を「プロテオホルミシス」

と称している.

(8)

謝辞:本稿で言及した筆者らの研究成果は,研究室の入江一浩教授をは じめ,多くの共同研究者の皆様のご指導やご協力によって生まれたもの です.とりわけ,当該研究課題の主たる研究者として真摯な姿勢で成果 を上げてくれた大西康太博士(現 名古屋大学・日本学術振興会特別研究 員)に感謝致します.また,農研機構生研センター「イノベーション創 出基礎的研究推進事業」および日本学術振興会の研究助成に対し厚く御 礼申し上げます.

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プロフィル

村 上  明(Akira MURAKAMI)

<略歴>1987年京都大学農学部食品工学 科卒業/1989年同大学大学院農学研究科 修士課程食品工学専攻修了/1992年同博 士 後 期 課 程 修 了(京 都 大 学  博 士・農 学)/同年同大学教養部非常勤講師/1993 年日本学術振興会特別研究員/1994年近 畿大学生物理工学部生物工学科助手/2002 年京都大学大学院農学研究科食品生物科学 専攻助手/2007年同助教,2015年兵庫県 立大学環境人間学部教授,現在に至る<研 究テーマと抱負>植物成分がなぜ体に良い のか? 難しい研究課題ですが,多様な視 点で可能な限り突き詰めてみたい<趣味>

多趣味ですが,今はオヤジバンドと特異的 に相互作用しています(ドラム)<個人の ホームページ>http://sftnetts.jimdo.com/

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