植物 ~ タンポポ編 ~
春になると、可愛らしい花を咲かせるタンポポ。校内でもいたるところで 見かけます。
《名前の由来》
タンポポは漢字で「蒲公英」と書きますが、これは中国語の名前をそのま ま使ったものだそうです。「たんぽぽ」という呼び名は日本で生まれたもの で、由来にはいくつかの説があります。花を横からみると鼓(つづみ)(の半 分)の形に見えるからというもの。昔の子どもは、鼓のことを、その音から
「タン、ポ、ポ」と呼んでいたので、そのまま花の名前になったと考えられ ます。また、タンポポの茎を切り取り、両端に細かく切り込みを入れて水に つけると、反り返って鼓のような形になることも、「タン、ポ、ポ」と呼ばれ るようになった理由かもしれません。その他、丸い綿毛の穂をたんぽ(布に 綿を丸く包んだもの)に見立てて「たんぽ穂」という説や、古名の「田菜」
にほほけた穂という意味で「たなほほ」から「たんぽぽ」になったという説 もあります。
《花のつくり》
ところで、上の写真には、タンポポの花がいくつ写っているでしょう か?3 つ?いえいえ、もっとたくさんあります。実は、1 枚の「花びら」
に見える部分が 1 つの花なのです。タンポポなどのキク科の花は、1 つ に見えて、たくさんの花が集まったもので、頭花(とうか)あるいは頭 状花序(とうじょうかじょ)とよばれます。
タンポポの 1 つの花をじっくりと観察してみましょう。まず、①のよ うに両手で花のつけ根の部分をもち、そのまま押しつぶします。そして 写真のようにゆっくりと引きさきます。そうしたら、②のように花のひ とつを取り出してみましょう。真ん中からのびて 2 つにわかれ、くるん、
と丸まっているものがあります。これがタンポポのめしべです。おしべ は、わかりにくいですが、めしべのねもとにあります。花のねもとには、
綿毛の原型(がく)がみえます。一番下のふくらんでいるところは、こ れからタネ(植物学的には果実)になるところです。(タンポポなどの キク科の果実は「そう果」とよばれ、うすい果皮と種皮が重なって全体
発 行 : 「理系大好き」 プロジェクト 発行事務 : 理数強化プロジェクト委員会 発 行 日 : 2022年 2 月15 日 第 14 号
…今回は『タンポポのお話』で す。
学校法人 啓明学園
1)タンポポ
2)茎の一部を切り取る 3)茎の端に切れ目で端がめくれる 4)松葉(ストロー)を茎に通す
…タンポポ水車です。
タンポポの 1 つの花をじっくりと観察する
③
① ➁
が種子のように見えます。)花びら(花弁)の先は 5 つにギザギザと分かれています。これは、もともと 5 枚だっ た花弁が合わさり 1 枚になったものです。③のように花の集まりを内側から順番に並べてみましょう。花がだんだ んと成長していることがわかります。内側の花は、まだつぼみですが、外側になるほど成熟していきます。
《タンポポの運動》
朝には開いていたタンポポの花が、夕方に閉じているのに気がついたことはありますか?日中の明るいひざし の下では咲いているタンポポですが、夕方や雨の降る暗い日には花を閉じます。
また、タンポポの茎は花が咲いているときには上に向かってのびていきますが、花が終わるといったん倒れます。
そして、綿毛になるころにふたたび起き上がり、さらに高く茎をのばします。なぜ、このようなふしぎな動きをす るのでしょうか。これは、花が終わったあとに未熟なタネが強風や動物に折られてしまわないようにするためだと 考えられています。しかし、花のときには受粉をたすけてくれる昆虫に目立ように、また、タネが成熟したときに は風で遠くに飛ばされるように、できるだけ高く茎をのばすのです。
《在来種と外来種》
ここまで「タンポポ」と表記してきましたが、実は、日本では 20 種類ほどのタンポポがみられます。黄色い花 を咲かせる種類には、エゾタンポポ、カントウタンポポ、トウカイタンポポ、カンサイタンポポがなどあり、花の 大きさなどの特徴が少しずつ異なります。関西地方から九州・四国にかけては白い花を咲かせるシロバナタンポポ もみられます。また、高山地帯にはミヤマタンポポやクモマタンポポが分布しています。これらのタンポポは、す べて、日本にもとから生息していた在来種です。
しかし、おそらく、みなさんが一番よく目にしているのは、ヨーロッパからやってきた外来種のセイヨウタンポポ です。セイヨウタンポポが日本にやってきたのは明治時代の初期頃といわれていて、しだいに全国に広まっていき ました。繁殖力が強く、高度経済成長期の大規模な開発と都市化とともに、あっという間に勢力を拡大していきま した。一方で、在来種のタンポポの生息していた場所は掘り返され、しだいに姿を消していっています。
なぜ、セイヨウタンポポは増えて在来種のタンポポとの何が違うのでしょうか。在来種のタンポポとセイヨウタン ポポは見た目が似ていて、ほとんど見分けがつきません。花のつけ根の部分、総苞片(そうほうへん)1 枚 1 枚が 重なり合っているのが在来種のカントウタンポポで、総苞片が反り返っているのがセイヨウタンポポという違い があるくらいです。
以上の特徴をまとめると、セイヨウタンポポは一年を通して種子が発芽し、すぐに育ちたくさんのタネを遠くに 飛ばすことがわかります。このようにして、セイヨウタンポポは爆発的に数を増やしています。
1990 年代後半になって、外見からセイヨウタンポポだと思っていたものの中に在来種のタンポポとの雑種が見つ かるようになりました。在来種の遺伝子を獲得した雑種は、在来種の生息していた環境にも進出、さらに勢力を拡 大しています。みなさんの身近に見かけるタンポポは、在来種のタンポポでしょうか。セイヨウタンポポでしょう か。それとも、雑種のタンポポでしょうか。春になったら、よく観察してみてください。(理科生物)
※園児や初等低学年では、読み解けないことが多数あります。保護者の方が読み聞かせをしたり、お子様がわかるよう にお話していただく、などのご協力をしていただけるとありがたいです。
《参考文献》
・一般財団法人自然環境研究センター(2019)『最新 日本の外来生物』平凡社
・高橋勝雄(2018)『野草の名前 春 和名の由来と見分け方』ヤマケイ文庫
・多田多恵子、田中肇(2010)『大自然のふしぎ 増補改訂 植物の生態図鑑』学研教育出版
・多田多恵子(2018)『美しき小さな雑草の花図鑑』山と渓谷社
・多田多恵子(2019)『したたかな植物たち あの手この手のマル秘大作戦』ちくま文庫
① セイヨウタンポポは成熟が早く、小さな個体でも開花する。
② 1 つの頭花のタネ(果実)の数が多く、花の時期も長い。
③ セイヨウタンポポの方がタネが軽く、遠くまで飛びやすい。
④ セイヨウタンポポの種子は一年中発芽することができる。
⑤ セイヨウタンポポは単為生殖(クローン)で増えることができるため、増殖スピードが速い。