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フレーバーホイール - J-Stage

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Academic year: 2023

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セミナー室

食品の官能評価法-5

フレーバーホイール

専門パネルによる官能特性表現

宇都宮 仁

国税庁

フレーバーホイールとは何か

ある飲料が与えられたとき,その味やにおいの質を言 葉で説明するには,どうすればよいだろうか? 味につ いては,甘味,酸味,塩味,苦味,うま味の5つの基本 味があり,口あたり(mouthfeel,  舌,歯茎および歯を 含む口内で知覚される触覚などの総合的感覚(1))とし て,カプサイシンなどの刺激と温感,メントールなどの 冷感,タンニンなどの収れん,粘性などがあるが,これ らの用語の数は少ない.一方,においについての表現は 多彩で,多数の用語が使用されるだろう.

においの表現には,「華やか」「新鮮」「さわやか」と いった情緒的表現,「甘い」「重い」「刺激的」といった ほかの感覚を用いた表現もあるが,具体的なものの名前 を使用して表現するほうが質感を共有しやすい.また,

さまざまなにおいを表現するためには,まず同質なにお いを大まかにとらえ,さらに詳細に違いを表現すること が行われる.果物を連想するにおいは「りんご」でも

「バナナ」でもとりあえず「フルーティ」としておき,

「りんご」に似たにおい特性が強ければ「フルーティ・

りんご」と表現する方法である.

酒類や香料の世界ではフレーバーホイール (Flavor  wheel) やフレグランスサークル (Fragrance circle) と いうにおいや味の記述語を丸く配列した図がよく使用さ れている(2, 3) (図

1

.フレーバーホイールによれば各用

語間の関係が理解しやすい.用語は,車輪のスポークの ように隣り合う特性は近くに配列されている.また,階 層構造をとり,中心に近いほど概念的で外側ほど化学物 質名など具体的な用語になっている.階層化ならホイー ルではなくツリー構造で表せばどうかという意見がある だろうが,ホイールの利点は用語の特性の類似性と階層 構造が一覧しやすいところにある.

酒類のフレーバーホイールは,最初にビールの記述的 試験法のための香味評価用語体系の一部として作成され た(1979年).この香味評価用語体系は,個々の用語の 定義や類義語を示した香味評価用語法 (Flavor termi- nology) および用語を理解するための標準見本 (Refer- ence standards) から構成されており,フレーバーホ イールについては,用語体系中の各用語の位置をわかり やすく表し記憶を補助するものであり,においと味の新 たな分類体系を意図したものではないと説明されてい る(3).そ の 後,ウ イ ス キ ー(4) (1979年),ワ イ ン(5)  

(1984年)と次々作成され,ワインは,においのみで味 は除かれているためアロマホイールという名称である.

また,酒類以外に,コーヒー(6),チョコレート(7),蜂 蜜(8)  などの食品においてもフレーバー(アロマ)ホ イールが作成されている.

(2)

専門パネルが使う用語の特徴

ここで一度フレーバーホイールから離れ,酒類を例に 専門パネルが使う用語の特徴について述べてみたい.た とえばワインの専門パネルは,ワインの色や香味に対し て感受性が高く,官能評価経験が豊富で,ワインの特徴 を表現できる能力を有している.さらに原料や製造・貯 蔵工程に関する知識が豊富でこれらと官能特性との関係 を説明することができる.彼らは,原料や発酵状態の評 価,ブレンドによる酒質調整,製品開発や改良などにお いて意見交換を行うため,共通に使用する用語を有して いる.

専門パネルの使う用語(9)  は,オフフレーバーに関す る表現が多い.アセトアルデヒド,ジアセチルなど化学 物質の名称を使う表現が最も多く,その次が製造工程に 由来する表現である.たとえば,焼酎では,蒸留初期に 見られる高揮発性の硫黄化合物,アルデヒド,エステル の混合した刺激的なにおいを「初留(しょりゅう)臭」, 蒸留末期に見られるフルフラールなどによる焦げたにお いを「末(すえ)だれ臭」という.化学物質の名称であ れば,試薬を標準見本とすれば正確な共通認識を構築す ることが可能である.しかし,工程に由来する用語で は,さまざまな質のにおいを指している可能性も考えら れる.「原料不良臭」,「熟成香」といった用語は,同じ 食品のなかでは通じるかもしれないが,食品が異なると

全く異なるにおいを指すことだろう.

さらに,オフフレーバーを表す表現は,オフフレー バーの存在だけではなく量的に過多または過少である意 味を有している.酢酸エチルはほとんどすべての酒類に 存在するが,多くなりオフフレーバーとみなされた場合 のみ「酢酸エチル(臭)」と呼ばれる.味においても,

「酸うく」や「乏酸(ぼうさん)」など経験に基づく適正 範囲から外れているといった意味の用語が使われること がある.専門パネルでは,一定の範囲を知っており良否 を判断できることが品質管理のうえから好ましい.しか し,彼らに特性強度を定量的に評価することを求める場 合には,その特性の良否イメージが過大または過小評価 につながる懸念がある.

専門パネルが使う用語も固定したものではなく,同じ 用語でも意味が変化する場合がある.「淡麗(たんれ い)」というと最近では味の用語として知られているが,

昭和初期までの清酒の評価では,「うすくてきれいな」

色の表現として使われていた.古くは,酒の味は「醇

(じゅん)」であることが尊ばれ,味のうすい酒は「醨

(り)」といって良い酒とは見なされなかった.しかし,

製造技術が向上すると,糖分や酸が少なく濃さはそれほ ど感じないがさっぱりとして好ましいと感じられる酒が 誕生し,これらの味の表現に「淡麗」が使われるように なった.したがって,用語は共通化するだけではなく意 味を定義しておくことが重要である.

製品の質が変化すればそれに対応する用語が必要にな る.一定品質のものを大量生産しているときには,製造 工程と密接に関連している欠点を修正するため,「製造 工程+臭」などのオフフレーバー表現が便利である.し かし技術の向上と嗜好の多様化により多品種製造が行わ れるようになると,それぞれの製品の特徴を的確に表現 できる新たな用語の必要性が増してくる.

においの表現と分類

ヒトは,体験を通じてにおいを記憶するが,長期的に 記憶するためにはにおいの特徴を示す記述語と連係して 覚えることが有効とされている.

一般的なにおいの記述語および類型については,斉藤 らによって98の記述語に対する日常生活臭の類型が行 われている(10).これらの記述語は,具体的な食品・草 木・薬品・悪臭・化学物質の名称である.彼らは,98 の記述語を一つずつカードに記し,25人の被験者にそ れらを複数のグループに2つの基準(基準1:グループ の数は自由,基準2:グループ数をできるだけ少なくす 図1ビールのフレーバーホイール(3)

(3)

る)で分類するよう指示した.計50回分の分類データ から,記述語の各対において異なるグループとされた割 合を非類似度としてクラスター分析を行い日本の日常生 活臭を4, 9, 12, 18, 19類型に分類している(表

1

.なお,

この研究に基づいて,12種類のにおいをマイクロカプ セル化した試験キット(嗅覚同定能力測定用カードキッ ト Open Essence)が販売されており,嗅覚障害の発見 や官能評価パネルの選定に使用されている.

食品のにおいについては箴島らの研究(11) がある.こ こでは,専門パネル21名および学生20名に対してアン ケート調査を行い,51の抽象的用語と54の具体的用語,

計105語の各々の組み合わせについて,似ているときは 1,似ていないときは0と回答した結果から類似度行列 を作成し,クラスター分析を行うことにより44の用語 を食品の基本的な用語として選定している.さらに,日 常性の高い一般的な食品53種を用いて,各食品のにお いに対して44語のなかから関係する用語を複数選択す る反応パターンの解析から,食品の基本的なにおい特性 を12としその構成用語を示している.

これらは,においの質の類似性による分類だが,分類 にはさまざまな視点が存在する.専門パネルの使用する においの記述語からフレーバーホイールを作成する場合 には,においの質の類似性に加え,一部に製造工程・由 来などに関連させた分類を加えたほうが適当と考えられ る場合がある.特に熟成工程におけるにおいや資材・環

境から移行するにおいである.専門パネルは,カビ臭と 青臭いにおいが類似していることより,カビ臭は資材・

環境から移行するオフフレーバーの一つであるという分 類のほうが,経験的に記憶しやすい.

清酒の官能評価用語の整理およびフレーバーホイー ルの作成

ここからは,筆者らが,実際に清酒のフレーバーホ イールを開発した際の方針,進め方を紹介する.(独)酒 類総合研究所において開発を計画したのは2001年で あった.それまで,清酒の専門パネルが使用する評価用 語は,佐藤らにより1957年に行われた用語の整理(12) が 基礎となっていた.この用語の整理では全国の専門家 325名にアンケートを行い,においについては表

2

の用 語が適切とされた.しかし,残念なことにそれぞれの用 語の意味は明らかにされていない.また,どちらかとい うと具体的なにおいの表現と考えられる「こうじばな」,

「バナナの香」,「アルデヒド臭」,「ダイアセチル臭」な どは当時の専門家の意見では適切さに疑問のある用語と されている.1990年頃から,吟醸酒,純米酒などの清 酒が個性を競うようになると,従来の評価用語ではこれ らのにおいや味の特徴の差を評価できないといった問題 が生じてきた.そこで清酒の香味を分析型評価法または 記述的試験法で評価するための標準的で教育可能な用語 体系を確立することを計画した.工程は,大きく分けて 表1(日本の日常生活臭)類型の数と記述語(10)

類型の数 4 9 12 18 19

類型の基準* 1 0.95以上 0.90以上 0.85以上 0.80以上 類型を代表する記述語 花・食品 甘いにおい 甘いにおい 果実・花 果実・花 甘い菓子 甘い菓子 カレー・コーヒー カレー・コーヒー コーヒー コーヒー

カレー カレー

刺激

ニンニク ニンニク ニンニク

風味 醤油 醤油 醤油

バター バター バター

悪臭 生ぐさ臭 生ぐさ臭 生ぐさ臭 生ぐさ臭

腐敗・硫黄 腐敗・硫黄 腐敗・糞便 腐敗・糞便

硫黄 硫黄

燃えるにおい・ほこり 燃えるにおい・ほこり ほこり ほこり 燃えるにおい 燃えるにおい

草木 草木 薬草 メントール メントール

線香 線香

化学的なにおい 化学的なにおい 化学的なにおい ガソリン・ゴム ガソリン ゴム シンナー シンナー

*類型間の相対的距離

(4)

①用語およびその意味の定義・分類,②香味の標準見本 候補物質または処理の選定,③標準見本候補物質(化学 物質)の閾値の測定,④標準見本候補物質の評価試験,

⑤記述的試験法の検討,⑥原案作成,⑦コメント募集・

調整・完成である.全体スケジュールを,図

2

に示し た.

①用語およびその意味の定義・分類

まず,開発にあたって業界団体の協力を得て専門家6 名によるワーキンググループ (WG) を組織した.WG では,過去の検討結果(9, 12, 13)  を用語ソースとして,あ らかじめ設定した基本方針に基づき合議により意味を確 認し整理する作業を行った.専門パネルへのアンケート

により用語を整理するのではなく合議を選んだ理由は,

エステルやアルデヒドなど馴染みのある用語については 意見が違わないだろうが,共通認識が低い用語,また新 たに定義する必要がある用語については標準見本を試し ながら合議するしかないであろうと考えたためである.

なお,用語整理の基本方針については,ビールの官能評 価法であるEBCおよびASBCによる官能評価法(国際 標準法)(14) ならびにBCOJ官能評価法(3) を参考にした.

さらに整理途中で合意した方針は後に補足事項として追 加した.

【基本方針】

・それぞれ個別に認知されうる香味特性には用語を対応 表2清酒のにおい表現(1957年)(12)

適切な用語 適切さに疑問のある用語

新酒ばな かめ臭 こうじばな おり臭

吟醸香 びん香 バナナの香 金属臭

果実香 酸敗臭 リンゴの香 大豆臭,アミノ酸臭

エッセンス臭 酸臭 はなが若い カラメル臭

エステル臭 酢酸臭 ふくみ香 薬品臭

熟し香 酪酸臭 四段臭,もち臭 コハク酸臭

甘酒臭 かび臭 味りん臭 ダイアセチル臭

甘臭 ゴム臭 山廃臭 アルデヒド臭

炭素臭 硫化水素臭 水あめ臭 フーゼル油臭

ろ過綿臭 附け香 青臭い 冷香,冷えこみ香

紙臭 袋香 ろ過臭,樹脂臭 冷蔵臭

木香 渋香 やにくさい 漬物臭,どぶ臭

うつり香 油臭 合成酒臭 ひなた香,ほこり臭

老香 粕くさい 糠臭 泥臭,土臭

焦臭 異臭 だれ香 ごみ臭

アルコール臭 コルク臭 つん香 かなけ

つわり香 腐敗臭 乳臭 うるし香

火落香 メタカリ臭,亜硫酸臭 たる香

石油臭 不快臭

脂臭 腐造臭

図2清酒のフレーバーホイールな どの作成スケジュール

(5)

させる.

・類似香味の用語はまとめて配置する.

・一つの香味特性には重複して名前をつけない.

・良い/悪い,若い(新鮮)/熟成した,調和/不調和 などの用語は排除する.

・可能な限り用語の意味は,容易に入手できる標準見本 で説明する.

・これらの香味特性は,現在共通認識が確立している,

または,標準見本を用いることで共通認識可能なもの とする.

・シェリー様など,酒の名称で用語を説明しない.

・英訳可能な用語を中心とするが吟醸香など清酒に固有 な用語は残す.

【補足事項】

・この用語体系は,研究成果に伴って改訂する.

・「雑味(ざつみ)」は,現在一般的に使用されている用 語だが,「苦味,うま味,渋味およびその他口あたり が不快な味」という複合的感覚および主観的感覚が強 いため,この用語体系からは除外する.

・「○○様」は,類似した特性をまとめた言葉と考えら れるため第1層までの使用とし,第2層では使用しな い.

・化学物質名については,たとえばジアセチルとし

「臭」を使用しない.

・臭・香については,良いにおいであるか悪いにおいで あるかでは使い分けず,現在使用されている用語とす る.

②香味の標準見本候補物質または処理による標準見本の 選定

香味の標準見本候補物質を添加した清酒や日光下に置 くなど清酒を処理した試料を提供し,各人の経験を基に ディスカッションを行った.また,並行してオフフレー バ ー や 貯 蔵 過 程 に お け る 変 化 に つ い て に お い 嗅 ぎ GC-MSによる成分の探索を行い,それまで,清酒のに おい成分としては報告のなかったトリクロロアニソー ル,ジメチルトリスルフィド,4-ビニルグアヤコールを 候補物質として加えた.

③標準見本候補物質(化学物質)の閾値の測定

清酒中のにおい物質や味物質では閾値が求められてい るものが少なく,また,少数のパネルで測定されている ものや測定方法が異なるものがあったため,候補物質を 標準的な清酒に添加し統一した手法で弁別閾値の測定を 行った.においはヒトにより感度が大きく異なり,特 に,あるにおい物質を継続して取り扱っていると感度が 極めて高くなる場合や低くなる場合がある.そこで16 名以上のパネルで繰り返し試験を行い90%認知閾値と

表3清酒の香味に関する品質評価用語体系(部分)

クラス コード 第1層 第2層 内容・定義・類義語 標準見本

一般的な用語 一般的な用語または標

準見本のある物質名 より分析的な用語または 標準見本のある物質名

1. 吟醸香 110 吟醸香 吟醸酒に存在するエステルに由来

 ・果実様 120 果実様 する果実様の香り

 ・芳香 121 バナナ

 ・花様 122 リンゴ

123 洋ナシ

124 メロン

125 イチゴ

126 柑橘

130 エステル

131 酢酸エチル 酢エチ臭,(セメダイン臭) 酢酸エチル

132 酢酸イソアミル バナナ (121) も参照 酢酸イソアミル

133 カプロン酸エチル リンゴ (122) も参照 カプロン酸エチル 140 アルコール

141 エタノール アルコール臭 エタノール

142 高級アルコール フーゼル油臭 イソアミルアルコール

150 花様 花の香様の香り

151 バラ フェネチルアルコール

2. 木草様 210 木香 杉樽香 樽酒

 ・木の実様 220 草様・青臭 草,葉,わらを連想する香り

 ・香辛料様 230 アルデヒド

231 アセトアルデヒド 木香様 アセトアルデヒド

232 イソバレルアルデヒド ムレ香 (521) も参照 イソバレルアルデヒド

240 木の実様 木の実を連想する香り,ナッツ様 粉砕したヘーゼルナッツ

(6)

なる濃度をプロビット回帰分析により求めこれを標準添 加量とする案を作成した(15, 16)

④標準見本候補物質の評価試験

においの標準見本候補物質および標準添加量が適当か どうかについて専門家79名により確認試験を実施した.

無添加の清酒を対照として異なるにおいが感じられる か,感じられる場合はそのにおいに対する経験の有無お よび通常使用している用語について回答を求めた.

試験結果から,予定した濃度では検知率が低い物質に ついては濃度の見直しを実施した.また,通常使用して いる用語の回答から,清酒が高温や長期間貯蔵で酸化・

劣化した際の「老香(ひねか)」と呼ばれるにおいは,

その主要成分として報告されていたソトロンよりジメチ ルトリスルフィドやエタンチオールなどの硫化物に近い においとしてとらえられているなど新たな知見が得られ た(17)

⑤記述的試験法の検討

さまざまな種類の市販清酒について,これらの用語を 利用した記述的試験法で十分な評価ができるか検討を 行った.

⑥原案作成

用語,用語の意味,標準見本,フレーバーホイールの 原案を作成した.

⑦コメント募集・調整・完成

原案をより多くの関係者に公開し,寄せられた意見に ついて検討し回答した.また,意見の多かった用語体系 の使用法について付加した.

完成した清酒の評価用語体系(18) では,86の用語を16 のクラスに分類し,さらにクラスのなかを2つに階層化 した.用語の意味を標準見本(化学物質または標準とな る処理など)で説明するため,第1層は一般的な用語ま

たは標準見本のある物質名とし,第2層はより分析的な 用語または標準見本のある物質名とした.また,用語の 定義やこれまで使用されてきた類義語も併せて表した

(表

3

.これら16のクラスと第1層の42個の用語からフ レーバーホイール(図

3

)を作成した.標準見本は,25 の用語に対し参照標準物質およびその標準添加量,18 の用語に対し化学物質以外の物質または処理を定めた.

基本方針から外れた部分については,例外として記載 した.類義語あるいは「上立ち香(容器から立ち上る香 り)」,「含み香(口に含んで感じる香り)」,「雑味」など については,習慣的に使用することは差し支えないが,

公表あるいは外部との情報交換を行う場合には,クラ

図3清酒のフレーバーホイール

図4清酒のかおり構造

(7)

ス,第1層および第2層に示した用語で置き換えること を推奨した.また,「老香」および「生老香(なまひね か,生酒の劣化したかおり)」という,清酒の貯蔵に関 するさまざまなにおいの変化を大きく酸化・劣化ととら えた用語については,個々のにおいの変化として別の評 価用語で表すことが可能であれば,使用しないほうが望 ましいとした.

さて,清酒のフレーバーホイールは完成したが,なぜ このような分類になっているのか説明する方法はないの か,専門パネル以外の人では同じように分類するのか,

という疑問が残った.そこで,清酒のにおいに先入観の ない大学生や主婦など52名をパネルとして,標準見本 ほか21種類の試料(「移り香」のクラスを除く)を提供 しグループに分けるよう依頼し,前述の斉藤らの方法に 準じて解析を行った(19).階層化クラスター分析の結果,

試料のにおいは,「りんご」,「バナナ」,「アルコール」,

「酢」,「醤油・焦げ」,「たくあん」,「米・麹」,「木・草」

に類別され,清酒のフレーバーホイールにおける類別と おおむね一致した.また,同時に収集したにおい表現の 回答から,イソバレルアルデヒドなど生活臭として馴染 みのないにおいに対する表現は難しいが,ほかはジアセ チルをヨーグルト,硫化物様をたくあん漬などとすれば 互いに理解することは可能だと考えられた.これらの結 果は,清酒のかおり構造(図

4

)として表し,消費者向 けに清酒のかおりの特徴を説明する際に活用している.

おわりに

フレーバーホイールを含む用語体系は教育に有効とは いえ,作ったからといってすぐに使えるわけではない.

教育プログラムが必要である.(独)酒類総合研究所で は,分析型官能評価ができる清酒の専門パネルを養成す るために4日間のカリキュラムを作成し,2007年から清 酒官能評価セミナーを実施している.受講生は現在まで 150名を超えており,清酒の官能評価用語については共

通理解が進んできた.

フレーバーホイールは,その食品に関係する業界全体 にとって知的財産として大きな価値があり,ビールやワ インが世界各地で生産され技術者が共通の言葉で議論で きるのもこのような共通基盤があるためだと思う.作成 には時間と労力がかかり,一社で作成するのは現実的で はなく業界団体の技術委員会などで取り組むべきテーマ であろう.食品全般を考えた際には,フレーバーに加え 粘弾性など物理的特性を表す用語を含むホイールを作成 することが期待される.多種多様な食品が存在し,香味 や触感の微妙な差を尊重する日本こそユニークなホイー ルを作成できると思う.

文献

  1)  日本工業規格:JIS Z8144 : 2004, 官能評価分析―用語   2)  川崎通昭,中島基貴,外池光雄: アロマサイエンスシ

リーズ21[6] におい物質の特性と分析・評価 ,フレグラ ンスジャーナル社,2003, p. 154.

  3)  ビ ー ル 酒 造 組 合 国 際 技 術 委 員 会(分 析 委 員 会) 編:

BCOJ官能評価法 ,日本醸造協会,2002.

  4)  M. K-Y. Lee  : , 107, 287 (2001).

  5)  A. C. Nobel  : , 38, 143 (1987).

  6)  Special  Coffee  Association  of  America : Coffee  tasterʼs  flavor wheel

  7)  Chocolopolis 社,Felchlin社など.

  8)  M. L. Piana  : , 35, S26 (2004).

  9)  大塚健一: きき酒のはなし ,技報堂出版,1992.

  10)  斉藤幸子,綾部早穂:臭気の研究,33, 1 (2002).

  11)  山野善正,山口静子編: おいしさの科学 ,朝倉書店,

1997, p. 129.

  12)  佐藤 信: 美酒の設計図 ,大日本図書,1974, p. 105.

  13)  灘酒研究会: 改定灘の酒用語集 ,灘酒研究会,1997.

  14)  Europe Brewery Convention :“Analytica-EBC,” Fachver- lag Hans Carl, 2005.

  15)  宇都宮 仁,磯谷敦子,岩田 博:醸協,99, 652 (2004).

  16)  宇都宮 仁,磯谷敦子,岩田 博:醸協,99, 729 (2004).

  17)  宇都宮 仁,磯谷敦子,岩田 博:醸協,105, 106 (2010).

  18)  宇都宮 仁,磯谷敦子,岩田 博,中野成美:酒類総合 研究所報告,178, 45 (2006).

  19)  宇都宮 仁,磯谷敦子,中野成美:日本味と匂学会誌,

13, 595 (2006).

Referensi

Dokumen terkait

– 106 – 本書は,早稲田大学提出の学位論文の一部をも とに公刊したものである。表紙おびコピーで「い ま日本語教育にかかわる人々,つまり,私たちが, どのような流れの先にいるのかを描く」と表現 されているところをみれば,いわゆる日本語教員 (第二言語,ないし異言語として「日本語」をま なぶ層のための人員)を軸とした日本語教育関係