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製品開発の官能評価 - 化学と生物

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セミナー室

食品の官能評価法-3

製品開発の官能評価

分析型パネルと嗜好型パネルの違いについて

國枝里美

高砂香料工業株式会社研究開発本部

はじめに

官能評価技術に対する誤解を招いていることがあると すれば,それは,科学的根拠を示すための手法(手段)

が同じであるのにもかかわらず,この技術が適用されて いる分野,領域があまりにも広いために,対象となる試 料とパネル(評価する集団)が個々に設定されること で,適用される手法が同じであっても結果の読み方や結 論への導き方が異なるという点にあるのではないだろう か.官能評価実験の結果の妥当性に対する判断には,刺 激となる試料の物理的あるいは化学的特性はもちろんの こと,パネルの生理的あるいは心理的特性のどちらもが かかわる点,また,それらの結果の目安となる統計量へ の理解などから,官能評価を行う担当者がさまざまな知 識を要する必要がある.しかしながら,国内では近年,

産業界での利用が主となり,開発品の情報漏えいなどへ の危惧から,実験の詳細はノウハウとして明らかにされ ることが少なくなり,この技術に対する理解不足が否め ない状況にあると言える.本稿では,これから官能評価 に取り組もうとする読者のために,食品や飲料の製品開 発で実際に用いられている事例を紹介しながら,理解を 深めることにつなげたい.

製品開発における官能評価

官能評価は,企業のなかにおいて研究開発と品質管理 の両場面で重要な役割を担っている.たとえば,研究開 発においては,市場品や開発品の風味の特性の違いを分 析するための記述的分析法による官能評価が分析型のう ちでも専門性の高いパネルによって実施されているし,

それらの対象物に対する消費者の嗜好を把握するために さまざまな嗜好調査も実施されている.一方,品質管理 では,一定品質の原料の受け入れ,あるいは上市する製 品の品質を安定的に供給するために品質間の差を検出す るなど,機器分析とともに官能検査が日常的に実施され ている.いずれも分析型パネルは試料の特性を知るため の測定器の役割を担うことが多く,表現の統一,試料に 対する感覚量の統制のための訓練などの安定したデータ を得るための策が必要となる.このため,条件に適合す るパネルを選定し,育成するための時間を要する.分析 型パネルによる官能評価では,通常十分に訓練されたパ ネルが識別試験 (discrimination tests) あるいは記述的 分析法 (descriptive analysis) に参加する.特に,フ レーバーの特性に対する記述的分析法は,一般的には言 語表現しにくい試料の特徴をエキスパートパネルの評価 により,市場製品の香味特徴を視覚化することで開発に 携わるさまざまな人たちの間で共有され,次の開発の方 向性を検討することに利用されている.

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一方,好ましさなどの嗜好の実態を把握する,あるい は嗜好要因を探索するために実施される官能評価に参加 する嗜好型パネルは,実施される実験ですべきことを習 得する必要はあるが,基本的に訓練は必要としない.あ らかじめ想定される母集団から無作為に抽出された人が 評価に参加するという前提があることから,パネリスト 間のばらつきや検出力を考慮して,分析型のパネリスト 数が数名から数十名であるのに対し,嗜好型では数十名 から数百名のパネリストが対象となる.物理量と対応す る感覚量を測定する分析型パネルから得られるデータに 比べて,嗜好を形成する要因は仮説が立てにくい.直接 的に物理量と対応があるとも限らない.個人差の大きい

(ばらつきが大きい)データを扱うことが想定される.

このデータのばらつきがもつ背景を推察するために,パ ネリストの属性や嗜好をフェイスシートなどであらかじ め把握しておくことが評価結果の考察には有用となる.

特に,その対象物に対する知識や経験,興味の程度など を把握しておく必要がある.自社内のパネルで自社製品 に対する評価を行う際には,自社製品に対する知識や豊 富な経験からくるバイアスを十分に考慮しなければなら ない.また,消費者を対象とした調査では,目的とする 母集団のデータの構造によっては,必要に応じてデータ を分割して群間比較する必要もある.分析型パネルも嗜 好型パネルも特殊な条件を除けば,パネリストは健常人 が対象となる.いずれの場合のパネルに対しても,個人 の健康被害あるいは情報の流出など不利益を被ることの ないよう管理されなければならない.

製品開発や品質管理で用いられる識別試験(1, 2)

品質管理では,原料や製品について,一定の品質を維 持する目的から,わずかな特性の差の検出を主とする分 析型パネルによる識別試験が行われることが多い.ここ では,おもな識別試験の概要を示す.

1.  2点試験法 paired comparison test

2種類の試料X,Yをパネルに提示し,ある質問項目に 対する試料間の違いをパネルは判断する.試料に物理的 特性などによる違いがあらかじめ客観的な順序や優劣が 存在する場合,この方法でパネルの試料に対する識別能 力を調べることができる.品質管理では違いを識別でき る,ある一定水準の能力が必要とされるため,このよう な識別試験を行い,パネルを訓練する.2点試験法では 個人の識別能力を問うには一人に対して複数回の試験を 試行して個人の正答率を確認する必要があるが,パネル

全体の識別率を確認する場合には一人1回の試行を行い 複数人のデータを集めることが必要である.この2試料 のうちの一方を選ぶ方法では,選ばれる確率は =1/2 で,二項分布に従う.パネルの識別に対する客観的な差 異が存在することから片側検定を行う.

また,試料間の違いに客観的な順序や優劣が存在しな い場合であっても,その選好性を調べるためにこの方法 は嗜好型に対して適用されることがある.この場合は2 点嗜好法という.たとえば,塩分量だけが異なるスープ がある場合,塩分量の違いを識別する場合は2点試験法 であるが,美味しいと感じる試料を選ぶ場合は2点嗜好 法であり,前述は分析型,後述は嗜好型の官能評価とな る.2点嗜好法では嗜好が対象であるから一人1回の試 行で複数人のデータを得る必要がある.2点試験法と同 様に,選ばれる確率は, =1/2となり二項分布に従う が,パネルの判断に依存する2点嗜好法ではパネルがど ちらを選ぶか仮定することはできないので両側検定を行 う.

2.  3点試験法 triangle test

X,Yの2種類の試料の違いを判定させるために,2つ の同じ試料と異なる1つの試料の計3試料をパネルに一 度に提示し,その組み合わせのなかから異なる1つを選 別させる(逆に同種の2つを選定させることもある). これを繰り返すことで得られた正答率から,パネルに試 料に対する識別能力があるか,あるいは2種類の試料間 に違いがあるかを調べることができる.検定方法は,2 点試験法と同様であるが,3点試験法では,正答する確 率は =1/3となる.そのため, =1/3の二項検定を行 う.この方法も,嗜好型に対して嗜好を調べる目的で行 うことは可能であるが,実際に3点嗜好法として用いら れることはまれである.

3.  1 : 2点試験法 duo‒trio test

2種類の試料XとYの違いを判定させるために,あら かじめ2種類のうちの一方の試料を標準試料として選 び,パネルに見本として提示する.次に,試料Xと試料 Yを1つずつ提示して,先に提示されている標準試料と 同じものかどうかの判断をパネルに求める.この方法を 何度か繰り返し,どれだけ判断が正しいかを調べること によってパネルの識別能力を把握することができる.2 つの試料のなかから一方を選ばせるので,2点試験法と 同様に二項検定が適用される.このとき,どちらが選ば れるべきかがあらかじめ判断できるので片側検定とな る.この手法は,分析型を対象とした方法で,ほかの識

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別試験のように嗜好型に用いられることはない.

これらの識別試験法は,分析型パネルの選定のための 試験にも用いられており,食品や飲料によく使われる味 や匂い成分に対する識別能力を2点試験法や3点試験法 で確認し,また,濃度と感覚強度の順位の一致性を確認 する方法なども採られている(3) (表

1

.このような識別 試験は,試料間において,ある特定の物理的な特性の差 が小さなものに対して適用されるべきである.そのた め,試料の提示順による効果をできるだけ解消するため に,試料はその提示順と試料番号がランダマイズされて パネリストに提示される.試料間の差が明らかに大きく 誰もがすぐに識別できるものについて比較実験を行うこ とは,実験自体の意味が問われるべきである.

識別試験以外の試験法

順位法 (ranking) は3点以上の試料について提示され た評価項目について強度に従って順位づけする方法であ る.対象となる各試料を同時に比較して順位をつけるだ けで感覚強度に対するスケールはない.一度に多くの試 料を対象とできるとされるが,食品や飲料の風味特性を 評価する場合は,全試料を摂取しなければならず,現実 的には一度の比較評価では,5試料程度までを対象とし ている場合が多い.味覚や嗅覚を刺激する実験では,感 覚疲労や順応,化学物質間の相乗効果などの作用から,

視覚刺激や聴覚刺激に比べると一度に多くの試料を比較 するという時点で不利な方法であるとも言える.この順 位法も識別試験と同様に,試料の選定あるいはパネルの 選抜や訓練のためによく用いられる方法であるのと同時 に,嗜好型の試料に対する好みの順序づけにも利用され る.この方法においても複数試料を扱うことからパネリ ストごとに試料の提示順はランダマイズされるべきであ る.

順位法から得られた試料の特性からなる順位とパネル の評価からなる順位の関係については,これら2つの順 位間から計算される順位相関係数が指標とされる.順位 の優劣(大小)の関係に注目したケンドールの順位相関 係数と,順位の値を量的データとして扱い相関係数を計 算するスピアマンの順位相関係数があり,それぞれ統計 的な有意性について検定を行う.また,パネリストが3 人以上の場合,パネリスト間の評価にどの程度の共通性 があるのかを確認する指標として,スピアマンの順位相 関の考え方を拡張したケンドールの一致性の係数 (Ken- dallʼs coefficient concordance) が用いられる.このケン ドールの一致性の係数 は ; パネル数, ; サンプル 数として =12 / 2 ( 2− ) で計算される.

前述の識別試験や順位法以外にも,試料の特徴がどこ にあるかを明らかにするために,複数の評価項目につい て段階尺度を用いて評価するスコアリング法や,数人の パネリストの適正と同時に製品の良し悪しの順位を測定 し,格付け分類データを順位尺度と見なして解析する フィッシャーの評点法も製品の合否判定とともに検査員 の精度を確認できる方法として知られている(4).この手 法は一般的に用いられている評定法とは異なるもので,

パネルの教育や限度見本,標準見本を作成する際に用い られる.

分析型のパネルの選抜および訓練では,その実験に適 した感度と精度を保障できるパネルを形成することが目 的であるから,これだけの方法にとどまるのではなく,

適宜,方法の組み合わせなどで実験に適したパネルを保 持することが必要とある.たとえば,NaClの塩味に対 する増強効果を確認するための官能評価パネルの選定に おいて,NaCl濃度の異なる4試料について感覚強度で 順位づけを行い,その正解者に対してさらに4試料を提 示し,どのあたりの濃度であるかをスケール上にマーク した結果からそのパネルの精度を保障している実験もあ 表1フレーバーのパネル試験実施例.識別試験とその試料

嗅覚検査項目とその内容 検査に用いる試料

1) 匂いの識別

 各試料とも3点のうち1点だけ 違う匂いのものが含まれている.

その違うものを選び出す.

1) Maltol   /Ethyl maltol 2) iso-Amyl acetate /iso-Amyl butyrate 3) Butyric acid  /iso-Valeric acid 4) δ-Decalactone  /δ-Dodecalactone 5) Geraniol  /Citronellol 2)濃度差の識別

 各試料について,5%, 3%, 1%

に濃度調整したものを提示.濃度 の濃い順番に並べる.

1) Vanillin 2)γ-Undecalactone 3) Citral

4) Linalool 5) Leaf alcohol 6) Ethyl butyrate

(4)

る.この研究では,この4試料のうちの2試料はNaCl で,もう2試料はNaClにある物質を加えたもので,2つ のNaCl試料の濃度がスケール上で適合した場合にのみ,

NaCl+特定物質の試料のスケール値は採用される.こ のことで,パネルの塩味強度が正に塩味濃度に依存する ことを示しながら,加える特定物質の増強効果を示すこ とを試みている(5)

一方,食品や飲料の開発場面では,アロマとフレー バーを分けて,閾下,閾値レベル,閾上での弱いから強 いまでの段階尺度で評価した結果をパネルリーダーがま とめるフレーバープロファイル法や複数試料から2種ず つ取り出し,特性の違いを相対的に比較して導き出す一 対比較法も用いられる.一対比較法は複数個ある試料か ら2つずつ選んで対をつくり,その対試料について,あ る特徴の強さに対し,どちらがどの程度強いのかを評価 する方法である.試料が 個ある場合の組み合わせ数は

2=( −1)/2となる.これにさらに順序効果が考 慮されるため,試料が多くなると組み合わせ数も多くな る.たとえば,3種類の試料A, B, Cであれば,(A, B), 

(A, C), (B, C) の3つの組み合わせとなるが,これに順 序効果を考慮して (B, A), (C, A), (C, B) の3つの組み 合わせを足した計6組が実験対象となる(2).開発の場面 では,多くの試料について一対比較法を用いることは現 実的には難しく,できるだけ試料数を絞り込んでから実 施するほうが賢明である.

嗜好型の特性と嗜好調査の留意点

嗜好型パネルは,嗜好を測定する目的から,消費者の 代表として官能評価実験に参加することが多い.好き嫌 い,嗜好について判断,回答ができればよく,一般パネ ル,消費者パネルとも呼ばれる.食品の官能評価では,

嗜 好 型 に 定 量 的 記 述 分 析 法 (QDA : Qualitative Data  Analysis) に近い方法でデータを解析している事例が見 受けられるが,複雑な特性に対する感覚強度を確認する 分析的な評価を行うことは難しい.いくつもの香質表現 が必要となる場合には,分析型パネルでもそのための訓 練を重ねたエキスパートの能力が求められる.ここで,

嗜好型パネルとエキスパートパネルの匂いの質に対する 評価能力の違いについて検討した事例を示す.嗜好型パ ネルに21種類のスパイス・ハーブの匂いの特徴を表現 してもらい,用語として選定した後,改めて,エキス パートであるフレーバーリストと嗜好型パネルに,同じ スパイス・ハーブの匂いを嗅ぎ,同じ用語に対し,その 特徴があると感じた用語だけを選び出してもらった.そ

の結果を双対尺度法 (Dual Scaling) で解析した結果,

専門パネルによる結果では,それぞれのスパイス・ハー ブが適度にちらばり,その特徴を表す用語が近くに布置 され,スパイス・ハーブの香りの属性を一般的な用語で 把握できたことがうかがえた(図

1

.これに対し,エ キスパートのデータをもとに嗜好型の評価データを基準 化した解析結果では,エキスパートが評価したスパイ ス・ハーブの香り属性の位置(試料名が四角で囲まれて いる)に比べて,嗜好型パネルの評価した試料の位置

(●で示す)には強い中心化傾向が認められた(図

2

. 嗜好型パネルがスパイス・ハーブの匂いの特徴をつかみ きれずに曖昧な評価となっていることを示唆する(5).消 図1双対尺度法による専門パネルの評価結果

図2専門パネルの評価結果から見た一般パネルの評価の様子

(追加処理後に双対尺度法により解析)

(5)

費者が印象として挙げる表現から評価用語を選定した場 合においても,実際に,的確な香りの評価は難しい.風 味の特性を的確にとらえる表現は,モノとの対応ができ る必要があり,学習,訓練を欠かすことはできない.

その一方で,消費者の嗜好調査は製品開発を行ううえ での市場を分析する1つとしても重要な役割を担い,頻 繁に実施されている.嗜好データは,今現在のある特定 の消費者層の嗜好を反映している必要があるが,この結 果をそのまま製品開発に利用できるとは限らない場合も 少なくない.それは,詳細分析を行う解析担当者の力量 が頼りになるケースも少なくないためである.実際の製 品開発では,消費者の記憶にある印象を直接的にその製 品に反映するのではなく,消費者の属性を十分に把握し たうえで,結果を理解することが重要となる(6).特に,

フレーバー開発における消費者を対象とした調査および 評価では,匂いに対するとらえ方や香質表現についてき め細かい検討を重ねたうえで実行する必要がある.たと えば,筆者らが行ったフルーツに対する印象評定に関す る消費者の国際比較では,質問紙のみのフルーツに対す る印象と実際のフルーツの香りに対する印象の評定は必 ずしも同じにはならなかった.サンプルの選定と提示方 法,設問の設定の仕方によって,消費者の回答は変化す る.さらに,消費者がフルーツの喫食経験がなくとも何 かしらの情報をもっていれば,好ましさについて発言す ることは可能であり,想定される識別と嗜好の関係は崩 れてしまう.フルーツの香りを嗅ぐ場合にも,その香り がどんなフルーツか識別できなくても,特性や機能,さ らには嗜好の想起は可能である(7).それでもこのフルー ツの調査からは,「食べたことがある」「よく食べる」と いう具体的な食経験による親近性が,「知っている」と いう認知度に影響を与え,フルーツの嗜好度に関連づけ られ,それらの様子は,地域性,年代,性別により異な ることが示唆された.匂いに対する嗜好には,文化や食 生活などの経験や学習が大きく関与する.食物の匂いに

対する異文化間の比較を行った研究では,食物に対する 親近性が,匂いに対する識別や印象評定に影響すること が認められている.その一方で,好んで食べられないフ ルーツであっても,その匂いに対する良好な嗜好性を示 すものがあった.柑橘類の香りは,多くの国で高い嗜好 性を示すことが知られているが,特に,グレープフルー ツの香りが何の香りであるか判定できなくても良好な嗜 好性を示したことは興味深い(8) (図

3

匂いは他感覚への刺激との相互作用により,食欲や美 味しさの向上を図るための一助となりうることも示唆さ れている.味と匂いの相互作用により同じ糖酸量の水溶 図4主観的甘味強度に対するフルーツフレーバーの効果

図5主観的酸味強度に対するフルーツフレーバーの効果 図3フルーツフレーバーに対する 認知様式(東京とインド・ムンバイ の比較例)

嗜好型パネル100名の嗜好調査.棒 グラフは各フルーツの香りをブライ ンドで嗅いだときに好きと回答され た人数.棒グラフのうち斜線部は何 の香りであったかを判定できた人数.

(6)

液であっても,香りが影響することで味質に対する感覚 強度に差異を生じることがある.同じ糖酸量の水溶液に 異なるフルーツの香りを賦香した場合,ストロベリーや ピーチの香りはより甘味を強く感じさせるし(図

4

レモンの香りは酸味を増強させる(9) (図

5

.特に,嗜好 型パネルは分析的に事象をとらえる訓練を受けていない ため,この傾向にあり,このような香りの作用は日常的 に製品開発にも応用されている.

おわりに

ここでは,製品開発の視点から大きく分析型と嗜好型 の特性と用いられる試験方法からその役割の違いについ て説明した.しかしながら,測定器としての役割を求め られるパネルの精度は,分析型のなかでも,安定した感 度で識別が得意なパネルであれば良いのか,複雑な質の 違いを言葉で理解し,その程度を表現できる必要がある のかなど,求められる能力は目的により異なる.一般的 なヒトの感覚量や感覚の能力を数量化するためにはあえ て訓練されていない嗜好型が評価の対象となるべきこと もある.

また,実際,効率よく官能評価を行うには,ここでは 触れていない実験計画法の知識も必要である.実験計画 法とは,1920年代R. A. フィッシャーによって導入され た方法であり,具体的には,パネリストを実験群と統制 群,あるいは実験群と対象群に振り分け,ある因子(要 因)に関して実験操作を行い,それぞれの反応を測定す る.同じ条件であってもデータにはばらつきが生じるた め,この偶然変動による誤差を最小にするために,繰り 返し・無作為化・局所管理の原理に基づく乱塊法,ラテ

ン方格法,多因子要因計画などの方法が開発され,そこ から得られたデータは分散分析によって各種因子が検出 される.官能評価にもまた,仮説は必須であり,その仮 説を実証するためには,精度の良い実験を行うための工 夫とその実験から得られた結果を解析するための数理統 計が必要となる.

ただし,現象を読み解く手段の数理モデルは,あくま でもモデルであり,実際の現象とのズレが生じることが あることも認識すべきである.物性評価の際には,パネ ルの精度(性質)がどの程度であるか開示しておく必要 があり,逆にパネルの特性を示すためにはどのような性 質をもつ試料をどう提示したのかという情報が明らかに されるべきである.官能評価実験では,その担当者が,

ヒトとモノの両面の特性をよく理解し,さらにその関係 を熟考することが基本であり,かつ重要なことと考え る.

文献

  1)  日本官能評価学会編: 官能評価士テキスト ,建帛社,

2009, pp. 85‒100.

  2)  日科技連官能評価セミナーテキスト (2007).

  3)  國枝里美:アロマリサーチ,Vol. 1, 90 (2000).

  4)  浦 昭二:品質管理,8, (1957).

  5)  A.  Schindler  : , 59,  12578 

(2011).

  6)  國枝里美: 第21回日科技連官能検査シンポジウム発表報 文集 ,1991, pp. 237‒244.

  6)  土屋隆裕: 社会教育調査ハンドブック ,文憲堂,2005,  pp. 57‒60.

  7)  國枝里美:食品と技術,11 (2008).

  8)  國枝里美他: 第17回研究発表会講演集 ,2008,  pp. 101‒

109.

  9)  國枝里美:食品工業,Vol. 40, 57 (1997).

吉 田  健 一(Ken-ichi Yoshida)  歴>昭和62年京都大学農学部農芸化学科 卒業/平成元年京都大学大学院農学研究科 農芸化学専攻博士前期課程修了/平成2年 京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻博 士後期課程中退/平成2年福山大学助手

(工学部)/平成5年京都大学 博士(農学)

学位取得/平成8年フランス国立農業研究 所博士研究員/平成11年福山大学講師

(工学部)/平成14年農芸化学奨励賞受 賞/平成15年福山大学助教授(生命工学 部 )/ 平 成16年 神 戸 大 学 助 教 授(農 学 部)/平成17年文部科学省研究振興局学術 調査官(兼務)/平成19年神戸大学准教授

(農学研究科)/平成21年BBB論文賞受 賞 / 平 成21年 神 戸 大 学 教 授(農 学 研 究

科),現在に至る<研究テーマと抱負>微 生物ゲノム機能解析と逆遺伝学の応用,イ ノシトールの生理機能の解析など.常に新 しい発想で未知に望む挑戦者でありたいと 思っています<趣味>楽器演奏(フリュー ゲルホルン,ジャズギター),フランス家 庭料理(ワイン)

渡部 終五(Shugo Watabe) <略歴>

1971年東京大学農学部水産学科卒業/

1976年東京大学大学院農学系研究科博士 課程水産学専門課程修了/1977年東京大 学農学部助手/1990年東京大学農学部助 教授/1995年東京大学農学部教授/1996 年東京大学大学院農学生命科学研究科教 授/2012年北里大学海洋生命科学部教授,

現在に至る<研究テーマと抱負>筋生化 学,環境適応の生化学,水圏生物ゲノムの 機能解析,海洋生物資源の有効利用<趣 味>バレーボール

渡 辺  大 輔(Daisuke Watanabe) <略 歴>1999年東京大学理学部生物学科卒 業/2004年東京大学大学院新領域創成科 学研究科先端生命科学専攻修了/2004年 国税庁財務技官/2007年国税庁在外研究 員(コーネル大学食品科学部)/2008年

(独)酒類総合研究所研究員,現在に至る

<研究テーマと抱負>清酒酵母,発酵<趣 味>海外ドラマ鑑賞

プロフィル

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