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モノボディを介した酵素機能の改変 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 55, No. 5, 2017

モノボディを介した酵素機能の改変

酵素工学の新たなアプローチ

産業用酵素の歴史は今からおよそ150年前,仔牛の胃 から抽出されたプロテアーゼ(キモシン)がチーズ製造 用に世界で初めて商業化されたことから始まった.それ 以降,さまざまな生物から多種多様な酵素が次々と発見 され,商業化されることで酵素産業は大きく拡大してき た.現在では,哺乳動物の組織のみならず,植物,微生 物も供給源とするさまざまな酵素が,食品,医薬,診 断,化粧品,繊維,製紙,洗剤,環境浄化など,多くの 産業分野で利用されている(1)

酵素は優れた触媒と言われるが,それは常温常圧で進 む高い反応効率,特定の物質だけに作用する基質特異 性,一つの反応だけを進める反応選択性といった触媒機 能による.これらの機能は無機触媒では達成しがたく,

したがって,酵素の産業分野における利用価値を高めて きた.一方,近年の酵素利用分野の拡がりに伴い,用途 もより複雑なもの,高度なものへとシフトしてきてい る.酵素も万能ではないため,用途によっては基質特異 性などが不十分で実用化に至らないケースも少なくな い.そのため,酵素の触媒機能の改変は産業利用におけ る重要な課題である.

酵素の触媒機能を人工的に改変することを酵素工学と いう.酵素工学にはいくつかのアプローチが知られてい るが,そのなかでも理論設計と進化分子工学が広く用い られている(2, 3).理論設計は,酵素の立体構造と反応機 構の情報をもとに目的とする触媒機能の達成に有効と思 われる部位を予想し,その部位に狙ってアミノ酸変異を 導入することで改変を行う(2).一方,進化分子工学は立

体構造情報には依存せず,ランダム(無作為)に変異を 導入した数万〜数百万の変異体ライブラリーを構築し,

その中から目的とする触媒機能をもつ変異体をハイス ループットアッセイ法によって選別する(3).いずれも多 くの研究者による長年の努力によって技術基盤がよく確 立されており,多数の成功例が報告されている.ところ が,これらのアプローチはすべての酵素でうまくいくと は限らない.特に産業用酵素においては,理論設計で鍵 となる立体構造情報が得られていないものがいまだに多 い.また,進化分子工学では膨大な数の変異体を作製・

評価するため,異種宿主(特に形質転換能の高い大腸 菌)による活性をもつ酵素の発現とハイスループット アッセイ法が鍵となるが,多くの場合,封入体形成や複 雑な反応系のためにそれらの確立が難しい.したがっ て,理論設計や進化分子工学といった従来のアプローチ だけでは,産業用酵素の触媒機能の改変は難しいのが現 状であった.

われわれは最近,従来とは根本的に異なる新しいアプ ローチによって酵素触媒機能の改変に成功した(4).具体 的には,酵素には手を加えず,人工結合タンパク質の一 つであるモノボディを活性中心近傍に結合させることで 基質特異性を改変するというものである(図1.モノ ボディとは,フィブロネクチンIII型ドメイン(FN3)

を鋳型とする約90アミノ酸からなる人工結合タンパク 質である.FN3ドメインは免疫グロブリンフォールド

(抗体様の構造)の極めて安定な構造をもち,構造表面 に露出した部位(ループや

β

-ストランドの溶媒露出部

図1基質特異性を改変するモノボディ

(a)モノボディの立体構造.アミノ酸配列を 多様化した部位を球体で示す.文献5図1よ り改変.(b)活性中心近傍に結合するモノボ ディ.活性中心を塞ぐ位置に結合するモノボ ディは活性を阻害する(上).活性中心を塞 がないモノボディは活性を阻害せず,基質特 異性を改変する(下).文献4図1より改変.

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位)における多数のアミノ酸変異に耐えうる(図1a). その構造表面のアミノ酸配列を多様化したコンビナトリ アルライブラリーから,ファージディスプレイ,酵母 ディスプレイによる選別を経て,ターゲットに特異的に 結合するモノボディを効率的に創り出すことが可能であ る(5).本アプローチの優れた点として,以下のものを挙 げることができるだろう.まず,モノボディは活性中心 のような機能性部位に好んで結合するため,酵素の立体 構造情報がなくとも活性中心近傍に結合するモノボディ を容易に取得できる(6).そして, 活性中心近傍に結合 するが、(適宜な簡易アッセイによって)活性は阻害し ない ことを指標に選別することで,基質特異性を改変 するモノボディを選択的に濃縮できる(図1b).つま り,この選別によって評価候補となるモノボディの数を 大幅に絞り込むことができるため,ハイスループット アッセイ法が必ずしも必要ではなくなる.さらに,改変 対象となる酵素には手を加えないため,異種宿主による 遺伝子発現を必要としない.

実証研究として行った 由来

β

-ガラ クトシダーゼ(BcBgaD)の基質特異性の改変では,本 アプローチの有効性を見事に示すことができた(4).BcB- gaDはラクトース分解活性に加え,ガラクトースをほか の糖に転移するガラクトース転移活性(ガラクトオリゴ 糖合成活性)をもつ.特にガラクトオリゴ糖の合成活性 に優れ,短いもの(2糖)から長いもの(10糖)まで多 様なオリゴ糖を生成する酵素である(7)(図2,左).ガラ クトオリゴ糖は整腸作用などのプレバイオティクスとし ての機能をもつが,特に3糖にその機能の高いことが報 告されているため(8),BcBgaDによる4糖以上のオリゴ

糖の生成を抑制し,3糖の生成を高めるような基質特異 性の改変が望まれていた.しかしながら,BcBgaDの立 体構造情報は長年明らかになっておらず,また,オリゴ 糖合成活性を評価するハイスループットアッセイ法はい まだ確立されていないため,その改変は実現していな かった.実証研究の詳細については引用論文を参照され たいが,われわれはまず,BcBgaDの基質結合部位は一 般的な糖分解・転移酵素のように複数のサブサイトから 構成されていると想定し,特定のサブサイトへのモノボ ディの結合によって4糖以上のオリゴ糖の生成を抑制す るというモデルを考えた(図2,右).このモデルに従 い,BcBgaDの活性中心近傍に結合するが,ラクトース 分解活性は阻害しないモノボディを選別した.20個の モノボディについてオリゴ糖合成活性への影響を評価 し,その中から,4糖以上のオリゴ糖の生成を抑制し,

3糖の生成を高めるモノボディを見いだすことができ た.この20個という評価数はほかのアプローチで必要 な評価数よりも格段に少なく,そのため,ハイスルー プットアッセイ法は必要とされなかった.つまり,立体 構造情報もハイスループットアッセイ法も使うことな く,目的とする基質特異性の改変を達成することができ た.もちろん,BcBgaDには手を加えずに,である.

先にも述べたが,理論設計と進化分子工学を主なアプ ローチとしてきた酵素工学はこれまでに多くの成功例を 示してきた.一方で,その有用性は限定的なところもあ り,従来のアプローチでは難しく,触媒機能の改変が諦 められていた酵素は少なくない.今回われわれが示した のは,そのような酵素でも改変を可能にするアプローチ である.言い換えれば,酵素工学の有用性を大幅に拡げ 図2モノボディによるBcBgaDの基質特 異性の改変

想定したサブサイトを−1, +1, +2, +3, 触媒 反応の起こる活性中心を赤三角(−1と+1 の 間) で 示 す.(左)BcBgaDは2糖 か ら10 糖までのガラクトオリゴ糖を合成する.(右)

サブサイトの一つ(+3)に結合するモノボ ディが,アクセプターとなる糖を制限し,4 糖以上のガラクトオリゴ糖の生成を抑制す る.一方,−1と+1に結合するラクトース の分解活性は阻害しない.文献4 graphical  abstractより改変.

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るアプローチでもある.今後,われわれの示したアプ ローチが,酵素の触媒機能の改変と産業分野への実用化 に貢献できることを期待している.

  1)  M. Ghaffari-Moghaddam, H. Eslahi, D. Omay & E. Zaki- pour-Rahimabadi:  , 4, 341 (2014).

  2)  W. S. Mak & J. B. Siegel:  , 27, 87  (2014).

  3)  H.  Xiao,  Z.  Bao  &  H.  Zhao:  , 54,  4011 (2015).

  4)  S.-I.  Tanaka,  T.  Takahashi,  A.  Koide,  S.  Ishihara,  S. 

Koikeda & S. Koide:  , 11, 762 (2015).

  5)  A. Koide, J. Wojcik, R. N. Gilbreth, R. J. Hoey & S. Koide: 

415, 393 (2012).

  6)  F.  Sha,  G.  Salzman,  A.  Gupta  &  S.  Koide:  ,  published online, DOI:10.1002/pro.3148 (2017).

  7)  D. P. M. Torres, M. P. Gonçalves, J. A. Teixeira & L. R. 

Rodrigues:  , 9,  438 

(2010).

  8)  F.  Depeint,  G.  Tzortzis,  J.  Vulevic,  K.  I anson  &  G.  R. 

Gibson:  , 87, 785 (2008).

(田中俊一*1,小出昌平*2,3,*1 天野エンザイムUSA,

*2 ニューヨーク大学医学部生化学分子薬理学科,*3 パー ルムッターガンセンター)

プロフィール

田中 俊一(Shun-ichi TANAKA)

<略 歴>2005年 大 阪 大 学 工 学 部 卒 業/

2009年同大学大学院工学研究科博士課程 修了(工学博士)/2009年同大学大学院工 学研究科博士研究員/2010年天野エンザ イム株式会社入社,フロンティア研究部研 究員/2012〜2016年シカゴ大学客員研究 員(小出昌平教授)/2016年天野エンザイ ムUSA出向,現在に至る<研究テーマと 抱負>酵素工学による新しい触媒機能の創 造を通して,酵素産業の発展に貢献する

<趣味>バスケットボール,磯釣り<企業 ホームページ>http://www.amano-enzyme. 

co.jp/aeu/

小出 昌平(Shohei KOIDE)

<略歴>1991年東京大学大学院博士課程 修了(農芸化学)/1991〜1995年米国スク リプス研究所(HFSP博士研究員)1995〜

2002年ロチェスター大学医学部(Assis- tant and Associate Professor)2002〜2016 年 シ カ ゴ 大 学(Professor)2016年〜

ニューヨーク大学(Professor)<研究テー マと抱負>タンパク質の新規機能のデザイ ンと医薬・産業への応用<趣味>スキー,

美術館巡り<研究室ホームページ>www.

koidelab.org

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.303

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7, 2013 群,Saccharomyces/Kluyveromyces 群のいずれにも属 していないことが明らかになった(図1).つまり, はこれまでにゲノムが解読された酵母とは,遺伝 的に比較的離れていることが示唆された.また, ゲノム (14.6 Mb) の 解析の結果,本酵母に はアミノ酸長60以上として推定した遺伝子が8,646個あ