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環境ストレスを突破するための植物細胞の 成長制御機構

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はじめに

植物の発生学上の大きな特徴として,あらかじめプロ グラムされた成長に加えて,光・水・温度・土壌栄養素 などの外部環境に応答した柔軟な器官成長を行うことが 挙げられる.これは発芽した場所から移動することので きない植物が,自身の置かれた環境下で生き抜くために 発達させてきた高度な生存戦略である.これまでは成長 を促進する因子が注目を集めてきたが,近年あらゆる環 境ストレスを突破するためには成長を積極的に抑制する メカニズムも重要であることが見えてきた.本稿では,

シロイヌナズナにおける知見を中心に,胚軸と根毛を例 に環境に応答した植物細胞の成長制御機構を解説する.

細胞を伸長させる仕組み

器官や個体の成長は,細胞増殖とその後の細胞伸長に よって成り立つものあるが,植物の場合は分裂停止後の 細胞伸長が非常に顕著である.シロイヌナズナの場合,

根や胚軸といった器官では細胞が20〜1,000倍近くも伸 長することで器官成長が行われている.そこで,まずは 細胞を伸長させる仕組みについて解説する.

1. 植物細胞壁の構造

植物の細胞は安定した構造物である細胞壁に囲まれて

いる.細胞壁は主にセルロース,ヘミセルロース,ペク チンなどの多糖類,構造タンパク質,フェノール化合物 から構成されている.細胞壁の骨格となるセルロースは

(1→4)

β

-D-グルカン分子が束になった微繊維と呼ばれ る構造をとり,その微繊維にキシログルカンなどのヘミ セルロースが微繊維間を架橋するように接着しセルロー スとヘミセルロースで網状構造を形成している.ペクチ ンは水和したゲル状の構造を形成し,セルロースとヘミ セルロースの網状構造を包み込むように存在し,網状構 造を安定にする役割を担っている(1)

2. 膨圧による細胞伸長

植物細胞は上記のように強固な細胞壁に囲まれること で高い膨圧を維持しており,細胞の伸長はこの膨圧が駆 動力となっている.植物細胞の膨圧は0.3〜1.2 MPaを記 録しており,これは車のタイヤの空気圧と同程度であ る(2).そして細胞が伸長する際には,細胞壁が「ゆる む」ことで膨圧を駆動力とした細胞の伸長成長が進行す る.この細胞壁のゆるみとは,細胞壁の構造が再編され 力学的特性が変化することをいう.ただし,伸長によっ て細胞壁がもろくなるわけではなく,伸長の途中でも細 胞壁が一定の応力を維持するように細胞壁の構造変化と 新規合成が行われ,細胞壁の性質を維持したまま細胞は 伸長する.また,細胞伸長の方向も細胞壁の力学的特性 によって決定する.細胞壁は多糖類からなる網状構造を

日本農芸化学会

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セミナー室

植物の生存・成長戦略から見た環境突破力-6

環境ストレスを突破するための植物細胞の 成長制御機構

柴田美智太郎,杉本慶子

理化学研究所環境資源科学研究センター

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とっているが,伸長する細胞ではセルロースの微繊維が 平行に並び,微繊維の配向に対して平行の方向に力学的 強度が増し,垂直方向に対しては低下する.その結果,

膨圧によって伸長する細胞は,微繊維の向きに対して垂 直に伸長していく(1)

3. 細胞壁のゆるみを引き起こす因子

先述のように細胞が伸長するためにはまず細胞壁がゆ るめられることが必要となる.この細胞壁のゆるみを引 き起こす作用のある酵素として,EXPANSIN,キシロ グルカン転移酵素/加水分解酵素(XTH),endo-(1,4)-

β

-D-glucanase(セルラーゼ)が知られている.EXPAN- SINは ス ー パ ー フ ァ ミ リ ー を 形 成 し て お り,

α

-EXPANSIN(EXPA),

β

-EXPANSIN(EXPB),EX- PANSIN-LIKE  A(EXLA),EXPANSIN-LIKE  B

(EXLB)に分類され,シロイヌナズナでは,EXPAが 26種 類,EXPBが6種 類,EXLAが3種 類,EXLBが1 種類確認されている.これらのうち,EXLAとEXLB は配列が確認されているのみで,細胞壁をゆるめる作用 があるかどうかは不明である.また,EXPANSIN類は 陸上植物に広く保存されているほか,バクテリアや細菌 類にもexpansin-like family X(EXLX)と名づけられた EXPANSINが存在する(3)

XTHも,遺伝子ファミリーを形成する酵素であり,

シロイヌナズナでは33遺伝子が存在する.XTHはキシ ログルカン分子のつなぎ変え反応,または切断反応を触 媒し,細胞壁の構造変化に寄与する(4)

セルラーゼも,細胞壁をゆるめることで細胞伸長に寄 与する酵素と考えられている(5).シロイヌナズナのセル ラーゼはGlycoside hydrolase family 9に属し,ゲノム 上に25種類存在する.セルラーゼに関して詳細な分子 機構は未解明な点が多いが,KORRIGAN1(KOR1)(6)や GH9C1(7)などが細胞伸長に必要なことが報告されてい る.

オーキシンは細胞の伸長成長を促進する作用がある が,これはオーキシンがプロトンポンプをリン酸化する ことで活性化し,細胞壁のpHを低下させることで細胞 の伸長が促進されると考えられている(8).酸性条件下で 細胞の伸長が促進される現象は「酸成長」として古くか ら知られる現象であり,オーキシンによる細胞伸長もこ の酸成長に基づいて起こっていると考えられている.酸 性条件下で細胞伸長が起こるメカニズムの詳細は明らか ではないが,酸性に至適pHをもつEXPANSINの活性 の上昇がその理由であるという仮説が有力である(9, 10)

4. 核DNA量と細胞サイズ

植物細胞の多くは,細胞分裂が終了したのちM期を スキップしてS期を繰り返すエンドサイクルへと進行す る.エンドサイクルでは細胞分裂を伴わずにDNAの複 製を行うため,2C→4C→8C→16Cというように核DNA 量が増加していく.興味深いことに,この核DNA量は 細胞の大きさと強い相関があり,シロイヌナズナの場合 では根や葉の表皮細胞や胚軸の細胞でその関係がよく知 られている(11, 12).また,コルヒチン処理により作成し た4倍体のシロイヌナズナの細胞は2倍体の細胞と比較 して明らかに巨大化することから(13),核DNA量が増加 することで細胞伸長が誘導される仕組みが存在するよう である.

CELL CYCLE SWITCH PROTEIN 52 A1(CCS52A1)

はエンドサイクルへの進行を促進するAnaphase-pro- moting complex/cyclosome(APC/C)の活性化因子で あるが, 変異株はトライコームでエンドサイク ルが進行せず,トライコームが小さくなるという表現型 を示す(14).一方,GT2-LIKE1(GTL1)(15)という転写因 子は,トライコームが適切な大きさまで成長したときに の発現を抑制することでエンドサイクルの進 行を停止し,その結果としてトライコームの成長を停止 していることが明らかとなった(16).この結果は,エン ドサイクルの進行を制御することで細胞の大きさを調節 する仕組みが存在することを示している.

一方,暗所での胚軸伸長が起こらない

( )変異株などにおいてもエンドサイクルは野生株と 同じように進行していたことや(17),逆に細胞が巨大化 する26Sプロテアソーム機能欠損株( )では巨大 化細胞の核DNA量に増加が見られなかったことな ど(18),細胞の大きさと核DNA量が一致しない例も多数 あり,必ずしも相関があるわけでもない(19).現在のと ころ,核DNA量がどのようにして細胞の伸長を促すの かはよくわかっていない.

環境に応答した細胞伸長:胚軸

暗所で発芽した実生がいわゆる「もやし」になるよう に,胚軸は環境に応じた成長変化が顕著な器官である

(図1.胚軸の伸長は,主に細胞分裂ではなく細胞伸長 に依存するため(12),環境刺激に対する細胞伸長という 応答の研究に適したモデルとなっている.本章では胚軸 を例に外部刺激から細胞伸長へ至るシグナル伝達経路を 紹介する.

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1. 光による細胞伸長制御

光が胚軸の長さに与える影響は非常に顕著である.暗 所で発芽した個体は,胚軸の長さが促進され子葉の展開 が抑えられる.一方,光を感知すると,胚軸の伸長は停 止し子葉が展開していく.これは地中で発芽した実生が 地表に出るための成長であり,またほかの植物の陰に隠 れている場合に光を十分に受けられるところまで胚軸を 伸ばし,光エネルギーを優先的に使用するための戦略と なっている.この現象は避陰反応(Shade-avoidance re- sponse)と呼ばれ,植物の環境応答の典型的な例とし て古くから研究が進められてきた.

避陰反応はフィトクロムという赤色・遠赤色の光受容 体によって媒介される反応である.フィトクロムはシロ イヌナズナにはPhyAからPhyEまで5種類存在するが,

避陰反応は主にPhyAとPhyBが担う(20).フィトクロム は赤色光を受容すると構造変化が起こり,活性化型で  あるPfr型へ変換され,逆に遠赤色光を受容すると不  活性型であるPr型へと可逆的に構造変化を起こす.

PHYTOCHROME  INTERACTING  FACTOR(PIF)

は避陰反応を促進するbHLH型の転写因子であるが,赤 色光や白色光の下で活性化型となったフィトクロムは PIFをリン酸化する.そしてリン酸化されたPIFはプロ テアソームの系で速やかに分解され,細胞伸長をはじめ とする避陰反応が停止する(21).PIFサブファミリーに属 する転写因子は,シロイヌナズナゲノムに15種類存在

し,PIF同士のターゲットは大部分がオーバーラップす ることから,部分的に機能重複していると考えられ

(22, 23).またPIFは,「細胞を伸長させる仕組み」の章

で紹介した細胞伸長にかかわる遺伝子の発現を直接制御 しているものもあるが, などオーキシン合成に かかわる遺伝子の発現を上昇させることで,オーキシン を介した細胞伸長も促進する(24, 25)

2. 高温による細胞伸長制御

胚軸伸長は28度程度の穏やかな高温条件でも促進さ れる(26),興味深いことに,穏やかな高温条件では の発現が誘導され, 変異株では高温による胚軸伸長 が見られなかったことから,PIF4は高温による胚軸伸 長のシグナル伝達で機能する因子であることが示され た(27).また,オーキシンの感受性が低下する変異株 は熱ストレスに対して胚軸の表現型を示さず,さ らに 変異は 過剰発現による胚軸の表現型を キャンセルすることから,穏やかな高温条件による胚軸 伸長反応はPIF4を介したオーキシンシグナルによって 伝達されていると考えられている(27)

3. 概日時計による細胞伸長制御

植物の概日時計も胚軸の長さを制御する外部要因の一 つである.面白いことに,このシグナル伝達にもPIFが 登場する.周期性の維持に重要なタンパク質複合体であ る EARLY FLOWERING3(ELF3),ELF4, LUX AR- RHYTHMO(LUX)(ELF3-ELF4-LUX複合体)は と の転写を制御することで日中の胚軸の成長を制 御することが示されている(28).PIFは元々フィトクロム 結合タンパク質として単離された転写因子であるが,上 述のように光のみならず温度や概日時計のシグナル伝達 経路にも登場することから,さまざまな外部環境からの シグナル伝達経路におけるハブとして機能するようであ る.

4. 植物ホルモンによる細胞伸長

オーキシン以外に,ジベレリン,ブラシノステロイド も胚軸の伸長を促す植物ホルモンとして知られている.

近年,それぞれの植物ホルモンに対するシグナル伝達経 路が明らかになりつつあり,オーキシン,ジベレリン,

ブラシノステロイドのシグナル伝達経路が互いに交差 し,外部環境からのシグナルを調節するモジュールが存 在することが示唆されている.

ジベレリンについては,DELLAというタンパク質を 介した成長の制御機構が明らかとなってきた.DELLA 図1明暗条件下で生育させたシロイヌナズナ

明所で生育するシロイヌナズナの胚軸は伸長が抑制され,暗所で 生育するシロイヌナズナの胚軸は伸長が著しく促進される(上)下のパネルはPI染色した胚軸の蛍光顕微鏡画像.

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はシロイヌナズナゲノムには5種類存在するが,胚軸の 成長制御にかかわっているのはREPRESSOR OF GA

(RGA)であり,以下でDELLAという場合は専らこの RGAを指す.ジベレリンは胚軸伸長を促進する作用が あるが,DELLAは胚軸伸長に対して抑制的に機能す る.注目すべきことに,DELLAはPIFタンパク質と物 理的に結合し,PIFがDNAに結合することを阻害する.

一方,ジベレリン存在下ではジベレリン受容体である GID1と結合し,DELLAは速やかに分解,もしくは不 活性化される.その結果,PIFの活性阻害が解除され,

PIF制御下にある遺伝子の発現が上昇し細胞伸長が促進 される(29)

さらに,DELLAはブラシノステロイドのシグナル伝 達経路の中心的役割を担うBRASSINAZOLE-RESIS- TANT 1(BZR1)とも結合する.BZR1はPIFと結合す ることで細胞伸長を促進するが,DELLAと拮抗的に結 合するためジベレリン非存在下ではDELLAと競合して BZR1の機能は抑制される(30).加えて,最近オーキシン 応答タンパク質であるAUXIN RESPONSE FACTOR 6

(ARF6)もDELLAによって機能を抑制される転写因子 であることが報告された.ARF6はPIF4, BZR1と相互 作用し細胞伸長を促進するが,ジベレリン非存在下では DELLAと拮抗し相互作用が妨げられる(31)

以上のことを踏まえて,胚軸ではPIF, BZR, ARF,

そしてDELLAによるモジュールが存在することで,

光,温度,時計,植物ホルモンという複数のインプット を処理し,置かれた環境に対して最適な細胞成長をアウ

トプットするというモデルが考えられている(図2 この中でDELLAは抑制因子として存在するが,このよ うに正の因子と負の因子が存在することで,緻密な成長 制御が可能となっていると考えられている.

環境に応答した細胞伸長:根毛

根毛細胞もまた細胞伸長を研究するのに適した器官で ある.根毛は表皮細胞から分化した1細胞で構成されて いるため,器官成長はすなわち細胞の伸長成長と一致す る.根毛は根の表面積を増やし,効率的に土壌中の無機 栄養素や水分を吸収するための器官である.そのため土 壌中の無機栄養素の濃度に応じて根毛細胞の成長が制御 される(32).リン酸,鉄,マンガン,亜鉛などの無機栄 養素に影響を受けることが知られており,この中でリン 酸が最も根毛の長さに影響を及ぼす(33)(図3

ROOT HAIR DEFECTIVE-SIX LIKE 4(RSL4) は bHLHファミリーに属する転写因子で, 変異株は根 毛の伸長成長が抑制されるという表現型を示す.この RSL4に関して特筆すべきは,過剰発現することによっ て根毛の成長が著しく促進される点である.マイクロア レイ解析から の過剰発現によって根毛の成長に関 連する遺伝子の多くが発現上昇することが示され,

RSL4は根毛の成長を促進するマスターレギュレーター であると考えられている(34).興味深いことに, の 遺伝子発現はリン酸飢餓で誘導され,またオーキシン処 理でも発現が誘導される(34).この結果は,RSL4がリン 酸とオーキシンシグナルを調節するハブになっているこ とも示唆する.ほかの無機栄養素に対する の応答 はわかっていないが,もしかすると胚軸のように相互作 用するタンパク質が存在し,活性を調節しあっているの かもしれない.また,フィトクロムを介した光シグナル

図2胚軸の成長を誘導するシグナル伝達経路

PIF4, BZR1, ARF6はそれぞれ相互作用し細胞伸長にかかわる遺伝 子の発現を活性化する.一方で,DELLAはそれらの機能を抑制 することで,細胞伸長に対するブレーキとして機能する.破線で 囲まれた箇所が外部からのシグナルを統括するモジュールを示す.

モジュール内部の両矢印はタンパク質‒タンパク質間相互作用を示 す.GA: ジベレリン,BR: ブラシノステロイド.

図3通常のMS培地で生育させたシロイヌナズナ(左)とリ ン酸欠乏培地で生育させたシロイヌナズナ(右)

リン酸の乏しい培地で生育されたシロイヌナズナでは,主根の成 長が抑制され,側根と根毛の成長が促進される.

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が根毛細胞の分化と成長に影響するという報告があ

(35, 36),ひょっとするとこのシグナル経路にもPIFが

何らかの機能を発揮しているのかもしれない.

また植物ホルモンに関して,オーキシンのほかに根毛 の長さに影響する植物ホルモンとしてエチレンとサイト カイニンが知られており,いずれも根毛の成長を促進  する作用がある.ZINC FINGER PROTEIN5(ZFP5)

は,根と根毛細胞で発現するC2H2型転写因子であり,

変異株は野生株の根毛よりも数が減少し,長さも短 くなる.この転写因子の注目すべき点は,エチレンおよ びサイトカイニン処理に対して 変異株の根毛は野 生株のように長くならなかったことである(37).この結 果は,ZFP5はエチレン,サイトカイニン両方のシグナ ル伝達経路で機能する因子であることを示している.ま た,ZFP5が根毛細胞の成長の開始に重要な機能を担う

( )の遺伝子発現を直接的に上昇させる ことが示された(37).分子レベルでは証明されていない

ものの,CPCは ( )

の上流因子であると考えられており,図4に示すような 根毛の成長に至る遺伝子制御ネットワークが推定され

る.

おわりに

本稿では,胚軸と根毛に焦点を当てて細胞の伸長成長 の制御機構について解説した.いずれの器官もさまざま な環境要因,植物ホルモンに影響を受けるが,それぞれ のシグナル伝達経路が明らかになるにつれて,ハブとな る因子とシグナルを統括するモジュールが見えてきた.

このモジュールの存在によって,複数のインプット

(光,温度,無機栄養素など)を処理し,環境に適合し た器官成長をアウトプットすることが可能となってい る.また,DELLAはこのモジュールに対して抑制因子 として機能する.刻々と変化する環境に応答するために は,成長を促進するだけでなく,抑制する機構の存在も 必要不可欠である.DELLAはさまざまな環境応答遺伝 子を抑制することから,負のマスターレギュレーターと して非常に注目を集めている.本文で紹介したGTL1は エンドサイクルの進行を停止することでトライコームの 成長を停止していることを紹介したが,筆者らはこの GTL1がトライコーム以外の器官でも成長の抑制因子と して機能することを見いだしており,DELLAのように 負のマスターレギュレーターとして機能している可能性 がある(筆者ら,未発表).厳しい環境を突破するため には時として積極的に成長を抑制する分子機構が必要不 可欠であり,これからの研究では成長を抑制する仕組み にも着目していくことが重要であろう.

また,本稿は細胞が成長する仕組みと細胞成長を誘導 するシグナル伝達を分けて紹介した.現在のところ環境 からのシグナル伝達経路は明らかになりつつあるもの の,実際に細胞が伸長する分子機構まで直接つながって いる例は少ない.環境刺激から細胞の中で実際に起こっ ているイベントまでをすべて統括する一枚絵を描き出す ことがこれからの目標である.

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図4根毛の成長を誘導するシグナル伝達経路

ZFP5はサイトカイニンとエチレン応答のシグナル伝達経路で機 能する.RHD6は を直接転写制御する因子で,根毛 の成長を促進する.CPCとRHD6は直接的な制御関係にはないと 考えられるが,CPCの下流でRHD6は機能していると考えられて いる. はRHD6に転写制御されるが,それとは別のリン酸 シグナル経路およびオーキシンシグナル経路で機能することが示 唆されている.

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プロフィール

柴田 美智太郎(Michitaro SHIBATA)

<略 歴>2008年 神 戸 大 学 農 学 部 卒 業/

2014年総合研究大学院大学生命科学研究 科五年一貫制博士課程修了(理学博士)/

同年理化学研究所環境資源科学研究セン ター特別研究員<研究テーマと抱負>植物 の環境応答を細胞レベルで解明する<趣 味>写真撮影

杉本 慶子(Keiko SUGIMOTO)

<略歴>1993年国際基督教大学教養学部 卒業/1995年大阪大学理学研究科修士課 程修了/2000年オーストラリア国立大学 大学院博士課程(Plant Science)修了/

2000年英国ジョンイネスセンターポスト ドクトラルフェロー,日本学術振興会海外 特別研究員/2005年同研究所Department  of Cell and Developmental Biologyグルー プリーダー/2007年理化学研究所植物科 学研究センターユニットリーダー/2012 年同研究所環境資源科学研究センターチー ムリーダー/2009年東北大学農学研究科 准教授(兼任)<研究テーマと抱負>植物 の発生と再生を細胞レベルから解明するこ と<趣味>カントリーライフ<所属研究室 ホームページ>http://cellfunction.riken.jp/

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.117

日本農芸化学会

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く範囲は色鮮やかに写っているが,少し離れると色彩が 乏しく灰色の世界になることに気がつくであろう.これ は海水が赤色の光をより吸収しやすいためである.青色 から黄色にかけての色合いは離れていてもよく見える. この海水の性質が海洋発光生物の放つ光の色(波長)に 大きく関係している. 光は波長をもった電磁波の一部であり,可視光とは 400 nmから700