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フグは毒を何に使うのか? - 化学と生物

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Academic year: 2023

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「河豚は食いたし命は惜しし」との ことわざにあるように,フグは,われ われ日本人にとって,その毒の危険性 があるがゆえに神秘的で,食欲や知的 好奇心をかき立てる生物である.その 一方で,フグを食用とする国は世界的 に極めて少ない.フグ食文化をもたな い国々の人々からすると,命を失うリ スクを冒してまでフグを食べようとす る気持ちを理解できないのであろう.

わが国では,縄文時代の貝塚からフグ の骨が出土することから,少なくとも この時代からフグを食べていたことは 確実であると考えられている.その 後,豊臣秀吉の朝鮮出兵時にフグを食 べて死者を出したことからフグ食の禁 止令が出され,これは明治時代になっ て山口県下関市で解禁されるまで続い た.その昔,フグが危険な生物である ことは,科学的な裏づけのない時代に おいても経験的に認識されていたので ある.

このフグ毒の本体は周知のとおりテ ト ロ ド ト キ シ ン (TTX)  で あ る.

TTXは,2 mg程度で成人を死に至ら しめる強力な神経毒である.1907年 にはこのフグ毒の実体がTTXである ことが明らかにされていたが,構造決 定は難航していた.1964年,日米の3 グループが同時にTTXの構造決定を 行い,その化学構造が明らかにされ た.しかしながら,このTTXが何に 由 来 し,そ し て フ グ がTTXを 何 に 使っているかについては,長らく不明 なままであった.その理由としては,

フグ食文化をもつ国が極めて限定され ること,フグ食文化をもつわが国にお いては,食品としての観点から,主と して疫学的・公衆衛生学的研究が行わ れてきたことにあるのかもしれない.

そのため,TTXの生物学的意義につ いては,現在でも不明な点が多く残さ れている.

その後の研究で,TTXはフグ科魚 類のみならず,ヒモムシやヒラムシ,

ヒトデ,巻貝類,タコ,甲殻類,ハ ゼ,イモリなど比較的広範な分類群の 動物で見いだされることが明らかとな り, 属などの海洋細菌がその生 合 成 を 行 う こ と が 報 告 さ れ て い る(1, 2)

.これら細菌群によって生合成

されたTTXが,食物連鎖を通じてフ

グなどの有毒生物に蓄積されるとの考 え方が一般化しつつある.事実,配合 飼 料 の み を 与 え た 養 殖 ト ラ フ グ は TTXを保有しないことが報告されて いる.一方,このフグ毒を生合成する とされる 属細菌のフグの腸内 細菌全体に占める割合は,ごくわずか で,0.1%にも満たない(3)

.そのため,

フグが積極的にTTXを摂取・蓄積し たとしてもその量はたかが知れてお り,フグのもつTTXの量を説明でき ないと考える研究者がいるのも事実で ある.このように,生態系も含めてフ グの毒化機構については不明な部分が 多く残されているのが現状である.

これまで述べたように,フグの毒化 機構に関しては不明な点が多く,ま

フグは毒を何に使うのか?

トラフグ属の生存戦略

表1トラフグ属魚類の組織別毒力*

最大毒力**

卵巣 精巣 肝臓 皮膚 腸管 筋肉 血液

クサフグ ● ○ ● ◎ ● ○

コモンフグ ● ◎ ● ◎ ◎ ○

ヒガンフグ ● ○ ● ◎ ◎ × ×

ショウサイフグ ● × ● ◎ ◎ ○

マフグ ● × ● ◎ ◎ ×

カラス

メフグ ● × ◎ ◎ ◎ ×

ムシフグ ● × ◎ ◎ ×

ナメラダマシ ● × ○ ○ ○ ×

アカメフグ ◎ × ◎ ◎ ○ × ×

ナシフグ ◎ × ◎ ◎ ○ ×

トラフグ ◎ × ◎ × ○ × ×

シマフグ ◎ × ◎ × ○ ×

ゴマフグ ◎ × ◎ ○ × ×

サンサイフグ ● ◎ ● ◎ ◎ ○

*文献2より抜粋.

**×:<10 MU/g;○:10 〜100 MU/g(弱毒);◎:100 〜1,000 MU/g(強毒);

●:>1,000 MU/g(猛毒),―:データなし.

(2)

た,「なぜフグは毒をもつのか?」と の命題についても,明確な答えが得ら れていない.フグは遊泳能力が低いた めに毒をもつことで外敵から身を守る との説や,生体防御のために毒をもつ

との説もあるが,いずれも具体性に乏 しく,推測の域を出ていなかった.ま た,産卵期のクサフグを対象とした研 究 で は,TTXが オ ス を 誘 引 す る 性 フェロモンとして作用するとの報告が

ある(4)

.しかし最近の研究で,性成熟

していないトラフグでもTTXに誘引 されることが報告されており(5)

,その

機能はトラフグ属の種によって異なる ことも否定できない.

このような状況の下,筆者が最近実 施してきた研究の中で,興味深い結果 が得られつつあるので紹介する.ま ず,クサフグの産卵期の成熟個体で は,雌雄間でTTXの組織分布が大き く 異 な る こ と が 明 ら か と な っ て き た(6)

フグ類の組織別毒力表(表

1

) に示されているように,トラフグ属で は,すべての種が卵巣と肝臓にTTX をもっている(2)

.また,卵巣と精巣の

ように雌雄でTTXの局在が大きく異 なることは容易に判断できるが,その ほかの組織でもTTXの局在に雌雄差 が認められたのである.このTTXの 局在の雌雄差が,フグが毒をもつ謎を 解き明かす鍵の一つになるのかもしれ ない.

さらに最近の研究で,トラフグ属の メスでは,肝臓に蓄積したTTXを卵 巣に送り込み,そして最終的には孵化 する仔魚に与えることで,生活史の中 で外敵に対して最も弱い時期を乗り越 えることを可能にしていると考えられ る結果を得ることができた(7)

.すなわ

ち,孵化した直後のトラフグあるいは クサフグの仔魚を被食者とし,養殖種 苗のヒラメやマダイのほか,クサフグ の産卵場所に生息し捕食者となりうる メジナやイソギンポなどのような無毒 魚を捕食者として捕食実験を行ったの 図1トラフグ仔魚を対象とした捕食実験

トラフグ仔魚は被食者として用い,捕食者にはヒラメおよびスズキを用いた.(1) 捕食前;

(2) トラフグ仔魚が捕食者の口腔に導入された瞬間;(3) および (4) 捕食された仔魚(矢 じり)が,直後に吐き出される過程.各パネル右上の数値は,捕食された瞬間を0.00秒と した場合の経過時間を表す.文献7を一部改変.

(3)

である.その結果,フグの仔魚1尾に 含 ま れ るTTX量 (0.096 〜 0.107 ng) 

が,捕食者の致死量にははるかに及ば ないほど少ないにもかかわらず,フグ の仔魚は吐き出され(図

1

,すべて

の個体が生残した(表

2

.このとき,

メダカの仔魚やアルテミアの成体など をフグの仔魚の代わりに用いると,こ れらは一瞬で飲み込まれ,吐き出され ることはなかった.

フグの仔魚は,微量のTTXしか保 有していないにもかかわらず,なぜ捕 食者に飲み込まれずに吐き出されたの か? その謎を解く鍵が仔魚における TTXの使い方にあるのではないかと 考え,これら孵化直後の仔魚における TTXの局在について調べた(7)

.孵化

直後のトラフグおよびクサフグの仔魚 の組織切片を薄切した後,抗TTXモ ノクローナル抗体を用いて免疫組織化 学的染色によりTTXの分布を調べた ところ,成魚の粘液細胞に相当する細

胞にTTXが局在していた(図

2

.魚

類は,微量のTTXを味蕾で感知でき ることが報告されていることから(8)

フグの仔魚は,母親から譲り受けた TTXを極めて理にかなった方法で利 用していると考えることができる.仮 にこのTTXを親の場合と同様,肝臓 などの臓器に蓄積していたとしたら,

捕食者から身を守るための防御物質と はなりえないのではないかと考えられ る.しかし,この考え方もすべての研 究者に受け入れられているわけではな い.

この研究論文は,2013年12月にア メリカの大衆紙USA Todayに紹介さ れたが(9)

,その中で,このフグの仔魚

が捕食者に吐き出されたのは,TTX ではなく別の物質によるのではないか との指摘を受けた.TTXを保有する ヒョウモンダコの幼生が捕食されてし まうことから,TTX以外の忌避物質 を保有している可能性があるというの

である(10)

.しかし,ヒョウモンダコ

の幼生はTTXを保有してはいるもの の,それを唾液腺中に格納しているた め,捕食された際,あるいはその直前 に十分量のTTXを捕食者に提示でき なければ,吐き出されずに飲み込まれ てしまうであろう.この点がフグの仔 魚の場合とは大きく異なる点であると 考えている.また,別の研究者から は,フグの仔魚のもつTTXは,母親 由来ではなく細菌由来ではないかとの 指摘も受けた.しかし,捕食実験に使 用したフグの仔魚は,生まれた直後,

すなわち,口すら開いていない個体で ある.たとえ環境中に存在する細菌の 多くがTTXを産生したとしても,そ れを瞬時に自らの体に取り込む可能性 は 考 え に く い た め,仔 魚 の 体 表 の TTXは,母親由来と考えるのが妥当 であると考えている.

このように,トラフグ属に分類され る魚種は,体サイズの違い,そして TTXの局在する組織の違いこそあれ,

いずれの種も肝臓および卵巣にTTX を局在させており,TTXを少なくと も外敵からわが子を守るために使用し ているのは確実であると思われる.こ のようなTTXの使い方が今日におけ るトラフグ属の多様な種分化を可能に しているのかもしれない.分子系統学 的研究においては,トラフグ属は260

〜530万年前に爆発的に種分化し,今 日まで多様な種を維持していると考え られている(11)

「なぜフグは毒をもつのか?」との 表2フグの仔魚,卵および無毒生物に対する捕食者の反応*

捕食者

被食者の生残率(%)

TTX保有魚 無毒生物

トラフグ クサフグ メダカ 

仔魚 アルテミア  仔魚 仔魚 成体

ヒラメ 25 100  ―**

スズキ 45 100

イソギンポ  5 100 0 0

メジナ  6 100 0 0

アゴハゼ  6 100 0 0

メジナ 14 100

*文献7より引用.

**試験せず.

(4)

疑問に対する答えについて考えると,

「食う‒食われる」の関係に行きつく.

毒を保有する生物は,自らの身を守る ため,わが子を外敵から守るため,効 果的に捕食するため,など常に「食

う‒食われる」の関係の中で毒を利用 してきた.フグは,食物連鎖を通じて 体内に蓄積した毒で自らを守り,そし てわが子を守る.ヒトの出現以前か ら,自然界においてこの営みが続けら

れてきた.しかしながら,われわれ人 間は(特に日本人は)

,経験的に,そ

して科学的にフグの毒がどこにあるの か,どの部分であれば食べることがで きるのかを明らかにしてしまった.ま た,毒は薬としても利用できることに 気づいてしまった.これは,すなわち フグが毒をもっているがために,その 身を亡ぼすことにつながりかねないこ とを示唆している.フグは,その身 を,そして種を守るために毒を利用し てきたのであろうが,その存亡は,わ れわれ人間の手にかかっているのかも しれない.

  1) T.  Noguchi  : , 94,  625 (1987).

  2) T. Noguchi  : , 1, 145 (2006).

  3) A.  Shiina  : , 1, 128 (2006).

  4) K.  Matsumura : , 378,  563 

(1995).

  5) K.  Okita  : , 60

386 (2013).

  6) S.  Itoi  : ,  60,  1000 

(2012).

  7) S.  Itoi  : ,  78,  35 

(2014).

  8) K.  Yamamori  : , 45, 2182 (1988).

  9) USA  Today : http://www.usato- d a y . c o m / s t o r y / n e w s / n a - tion/2013/12/24/pufferfish-poison- japan/4051565/

10) B.  L.  Williams  :   , 21, 131 (2011).

11) Y.  Yamanoue  : , 26, 623 (2009).

(糸井史朗,日本大学生物資源科学部)

図2トラフグ仔魚におけるTTXの局在

TTX,抗TTX抗体で処理した仔魚;NC, 陰性コントロール;HE, ヘマトキシリン‒エオシ ン(HE)染色;FS,ホルマリン固定の仔魚.抗TTX抗体の陽性反応は,赤色を呈してい る(矢じり).陰性コントロールは,抗TTX抗体の代わりにマウスIgGで処理した.HE染 色で組織構造を観察した.スケールバーは0.5 mm.文献7より引用.

(5)

プロフィル

糸井 史朗(Shiro ITOI)   

<略歴>1998年日本大学農獣医学部水産 学科卒業/2003年東京大学大学院農学生 命科学研究科博士後期課程修了,博士(農 学)/同年同大学大学院農学生命科学研究 科学術研究支援員/同年科学技術振興事業 団重点研究支援協力員(水産総合研究セン ター中央水産研究所)/2004年日本大学生 物資源科学部海洋生物資源科学科助手/

2008年同大学専任講師/2013年同大学准 教授,現在に至る<研究テーマと抱負>フ グ毒の生物学的意義に関する研究,海洋環 境由来の乳酸菌に関する研究,水生生物の 分子生態学<趣味>ツーリング

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◆本人支援 支援者と1対1の関係を築き、そこから、少しずつ安心できると思える人間関係を広げてい きます。ひきこもりからの回復した方で「ひきこもっているときは、24時間自分を責め続けて いて苦しかった」と、ご自身の体験を語ってくれた方がいました。そのような生活で支援者と 出会っても、すぐには、人をなかなか信用できないという難しさはあります。