慶應・清華環境学生会議
「 中 国 の 廃 棄 物 問 題と日本の経験」
山口研究会廃棄物パート 慶應義塾大学経済学部4年
黒崎美穂 中西心紀
Ⅰ章 中国の廃棄物問題
この章では中国の廃棄物問題の現状と問題点について述べる。本論文では中国における 固体廃棄物問題を都市生活固体廃棄物に対象を絞って議論を進める。特に中国の代表的な 都市である北京市の生活固体廃棄物の動向を参考にする。なお中国の廃棄物問題の現状に ついては『首届中国都市生活廃棄物態勢与対策学術研討論会論文集』中国生態経済学会区 域生態経済専門委員会(1999)を主として参考にした。
1. 中国の経済発展と都市化
本格的に廃棄物問題へ議論を移す前に、序論としてまず中国廃棄物問題の根本的な原因 であるマクロ経済、都市化の実態について述べることとする。
(1)中国マクロ経済の動向
改革開放政策による市場経済導入後、中国の経済成長はめざましく、右肩上がりの経済 成長を続けている。(図1)
2000年のGDPは8兆9404億元に達し前年度から8.0%の増加であった。この規模は改 革開放がはじまった1978年のおよそ25 倍である。また国民消費水準は78 年と比較して も増加をしている。これまでの中国の経済発展の特徴としては特に沿岸部の都市の経済が 発展していることが挙げられる。それに比べると内陸部の農村の経済水準は低い。図1か ら経済成長と連動して特に都市部の消費水準が上がっていることが分かる。経済規模の拡 大で国民の収入が増え、その結果消費が増えている。特に都市部ではこの傾向が顕著に表 れているといえる。
(2)今後の中国経済
2001年11月現在、中国はWTO加盟を直前に控えているところであるが、今後の中国経 済の動向はどう予測されているだろうか。
(財)エネルギー経済研究所『中国2030年の経済・エネルギー・環境に関する計量経済 分析』(李志東他1999年)によれば、中国のマクロ経済は2030年まで高い経済成長が続く という予測がなされている。また年平均のGDP増加率は6%台を維持することが可能と予 測している。中国は既に20年間高成長を維持しているが、中国の高成長がさらに20 年続 く可能性が高い。
高成長の継続期間は日本の26年間(47年から73年、9.7%)、韓国と台湾の33年間(62
年から95年、8.8%)を上回ることとなる。つまり今後も中国のGDPは増加し続け、国民 の所得及び消費水準もそれに合わせ増加することになると考えられる。
国民の消費水準の高まりが廃棄物問題に作用することは容易に想像可能である。
(図1)中国のGDPと国民消費水準の推移
0 2000 4000 6000 8000 10000
1996 1997 1998 1999 2000
GDP(単位:10億元)
都市部の国民消費水 準(単位:元)
中国全体の国民消費 水準(単位:元)
(『中国統計年鑑』各年度より作成)
(3)中国の都市化
経済の急激な成長、またそれによる大規模な工業の発展は都市化を急速に推し進め、都 市の数、規模、都市人口が増加し続けている。非農業人口が増加し、市場経済による開放 にともなって、農村の余剰人口が都市に流れているのが原因である。
図表2は中国の都市化率の推移を表したものである。これによると中国は建国以来、一 貫して都市化が進んでいるということがわかる。また2010年の予測値をみれば、将来にお いても都市化は進行し続けることがわかるだろう。このように都市化が相当進むことによ って、必然的に都市生活廃棄物の排出量も増加し、都市の衛生に重大な影響を与えている。
(図2)中国における都市化率の推移(単位:%)
0 10 20 30 40 50
1950 1970 1990 1994 1997 2010
都市化率(単位:%)
出所『中国の構造転換―環境―成長への制約となるか』 出版(1999)p210 より抜粋、加筆。1
1 (注)都市化率=都市人口/総人口。ただしこの場合の都市は、行政上の市域ではなく、国連人口局が 国連統計局とともに作成した都市圏でみた都市の人口推計に基づく。2010 年の値は予測値。
出所)United Nations, World Urbanization prospects:the1994Revision,1995 および the1997,1998)
(4)今後の都市人口と都市生活廃棄物
次に、具体的な都市化におけるデータの推移を検討する。
1978から1997年の19年間で都市数の増加は、改革開放以前の30年と比較して8.1倍 に増加した。1997年の都市数は1978年の3.67倍のである。毎年平均して25.6個の都市 が新しく増加している計算になる。
また1978年末から1997年の19年間で都市の人口は1億9744万人増加した。年平均増
加率は40.98%に上る。現在の都市化の動向を基に予測してみると、2010年、2030年、2050
年の都市人口の比重はそれぞれ43%、60%、76%になると推測される。2
2001年から2010年間の間に新たに279の都市ができ、平均すると毎年283の都市がで きる計算になる。2030年と2050年までには、大中小の都市の数を合わせるとそれぞれ1600、
1800に達すると予測できる。4
この50年間で中国の人口と都市化は最盛期を迎え、2010年、2030年及び2050年の都 市人口は6億、9.3億、11,99億に達するだろう。現在の都市一人あたりの生活廃棄物排出 量、440㎏(1997年)をもとに概算してみると2.64億トン、4.09億トン、5.28億トンに なる。(図3)
21世紀の前半は人口増加と都市化の双方が進行するとみられ、都市生活廃棄物も増加 する一方であると予測できる。都市化と廃棄物の間には重大な相関関係がある。
(図3)中国都市人口と生活廃棄物の増加予測
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
1997年 2010年 2030年 2050年
総人口(億人)
都市人口(億人)
都市生活廃棄物(億トン)
『都市生活廃棄物資源化潜力与対策探計』董鎖成より抜粋。(1997年の統計は『1998年中国統計年鑑』よ り。2010年、2030年及び2050年人口総量は『中国21世紀可持続発展新論』、チン西人民出版社(1999 年)、P76を参考に算出。都市人口は『中国設市予測与計画』知識出版社(1997)P140−166に基づき試 算したもの。)
2 『都市生活廃棄物資源化潜力与対策探計』董鎖成より
3 中国設市予測与計画課題組、『中国設市予測与計画』知識出版社(1997)P140−166
4 李成イン主編、『1996−2050年中国経済社会発展戦略』北京出版社(1997)P557より
2.廃棄物問題の現状
これまで中国経済の発展状況、都市化の進行状況等、廃棄物発生における根本的な要因 についてみてきた。具体的に中国の固体廃棄物問題について議論を進めることとする。
(1)固形廃棄物問題の分類と現状
固形廃棄物問題は、現在すでに中国における都市部の環境問題の中で大きな比重を占め ており、「四害」(大気汚染、水汚染、環境騒音汚染、固形廃棄物汚染)の一つとして扱わ れている。
中国では、都市ごみの中で住民の消費段階において発生する不要な廃物及び人間の新陳 代謝により排出されるし尿を「都市生活固体廃棄物」(以下「都市生活廃棄物」と省略)、
都市の各工業から生産過程において発生する不要な廃物を「工業固体廃棄物」と呼んでい る。
この論文では対象を「都市生活廃棄物」に絞り、議論を進めることとする。なぜなら後 半において、日本の一般廃棄物政策を紹介するという本論文の性格上、比較対照として日 本の一般廃棄物に相当する「都市生活廃棄物」を引き合いに出すことが相応しいと思われ るからである。また都市生活廃棄物はその規模、問題点において課題が山積みであり、研 究対象として意義があるといえる。
(2)都市生活廃棄物の現状
1997年における全世界の廃棄物産出量は4.9億トンであり、その中で中国は1.3億トン、
つまり全世界の26.5%を占めている。
1998年の中国における668都市の都市生活廃棄物産出量は1.4億トンでありそのうち処 理されているものは1.1億トン、処理率は78.6%である。無害化率はさらに低く、5%そこ そこである。
中国科学技術部の資料によると、都市生活廃棄物における一人あたりの排出量は 440 ㎏ であり一人あたりの食糧の1.16倍にもなる。また年平均8%から10%の割合で増加し続け ており、北京市の都市生活廃棄物の増加率は15%から20%に達するとみられる。
図4から排出量の増加に従って、処理量も年々増加していることがわかる。
現在中国には668の都市があるが、200以上の都市、つまり約3分の1の都市がゴミに 包囲されている。これは「ごみが城を囲む様相」と呼ばれている。
2001 年度の中国統計年鑑によると2000年における中国の都市廃棄物処理量は1.2億ト ン〜1.4億トンにまで達している。
北京市の年間、生活廃棄物は500万トン近くにのぼり、それによって約1300ヘクタール もの土地が占有されている。現在、野積みされている中国の都市生活廃棄物の堆積量は 60 億トンにも及び、およそ 5 万ヘクタールの土地が占有されている。工業固体廃棄物を合わ せると66億トンにのぼる。
10400 10600 10800 11000 11200 11400 11600
1996 1997 1998 1999
(図4)中国都市部の生活廃棄物処理量の動向
都市生活廃棄物の処理 量(万t)
(『中国統計年鑑』1996年〜2001各年度版より作成)
(3)廃棄物処理の現状
都市廃棄物処理については埋め立て処理が 70%を占める。また堆肥化による処理は 20%
以上であるが近年、農村による化学肥料の使用が増加しているため低下ぎみである。焼却 処理による処理はほんのわずかである。資金調達が困難であるが故に、埋立て以外の処理 方法が行えないというのが中国の現状である。ほとんどの地域では埋め立て以外の方法が とれないでいる。
(4)廃棄物汚染の実態
埋め立てや堆積に大幅に偏った中国の廃棄物処理方法は、大量の資源を浪費するだけで はなく、重大な環境汚染をも引き起こしている。汚染の問題点として主に次の5つが挙げ られる。
① 空気の汚染
廃棄物から硫化ガス等の有害なガスが漏れ出し、空気を汚染している。
② 水質汚染
廃棄物は病原体を含むのに加え、腐敗とともに大量の酸性とアルカリ性の有機物質を含 有し、廃棄物中の重金属を溶かす。有機物質、重金属、病原体は三位一体となって汚染源 となる。それらに雨水が混ざりこみ、液体は地表と地下水を汚染する。
③害虫の繁殖
廃棄物が不衛生に堆積されることで、害虫の住みかになるという問題がある。特に蚊、
蝿、ゴキブリやネズミの生息地となり、住民の健康、衛生面に問題を及ぼす。
④土地の浪費
既に述べたように1998年現在で668の都市のうちすでに3分の2が廃棄物に包囲されて いる。中国全土で廃棄物が占めている土地は15万ヘクタールにも及ぶ。
⑤爆発事故の発生
廃棄物中の有機物に含まれている物質の含量が高くなり、空気中に分散することで、爆 発しやすくなっている。少なくとも中国全土において30の都市において爆発による死傷
事故が起こっている。
このように廃棄物の汚染状況は現在深刻な状態にあるといえる。
都市生活廃棄物の増加の根本的な原因は、既に述べた経済成長による都市部の経済水準 の向上、都市化の進展である。このまま予測どおりに中国の経済成長が続けば、間違いな く廃棄物の量も順調に増加し続けていくことになるだろう。しかし廃棄物の処理技術は低 く、無害化率も低いため多くの廃棄物は放置されたままになっており、さらに汚染を悪化 させることになるだろう。なんらかの有効な政策を打ち出さない限り廃棄物による汚染は さらに広がる可能性がある。
(5)廃棄物の質の変化
経済発展に伴って、廃棄物は量だけではなく、質にも変化があらわれている。図5は1990 年、1995年、1998年における北京市の廃棄物における各廃棄物の種類の構成を示したもの である。この構成表を参考にすると以下の特徴が見て取れる。
第一に有機物が増加し、灰土等の無機物の構成が下降していることがわかる。また、紙 類、食品、金属、プラスチック、経済的に価値が高く直接回収可能な成分が増加している。
つまり、ペットボトル、プラスチックなどの資源回収可能な容器が普及しているという ことを表している。このような紙、プラスチック等の成分の伸びは「白色汚染」として脅 威になってきている。5
以上のように経済の成長、生活水準の向上によって以前とは生活様式が激変し、それに 合わせて都市生活廃棄物の内容物が変化していることがわかる。
(図5)北京市の廃棄物構成表(%)
成分 食品 灰、土 紙類 プラスチック ガラス 金属 織物 草木 瓦礫
1990 24.89 53.22 4.56 5.08 3.10 0.09 1.82 4.13 4.11
1995 35.96 10.92 16.18 10.35 10.20 2.96 3.56 8.37 1.56
1998 37.12 5.64 17.89 10.36 10.70 3.34 4.11 9.12 1.11 出所)北京市環境衛生管理局
また都市生活廃棄物の排出量の増加、構成の変化に従って、廃棄物の物理・化学的な性 質も大きく変化している。
まず単位あたりの重量が急速に下降している。10年前には1 あたり0.6〜0.8トンだっ たものが現在は1 あたり0.3〜0.4トンに下降している。6原因は容器等の廃棄物が増加し
5 1995年5月ビニール袋とポリスチロール製容器の販売と使用を制限する法令を公布。厚さが 0.025
㎜以下のビニール袋の販売・使用の禁止。布や紙などの再利用できる材料で作られた袋の使用を奨励して いる。また、駅やバス停、空港、観光地などでのポリスチロール製容器の使用が禁止されている。
6 『首届中国都市生活廃棄物態勢与対策学術研討論会論文集』中国生態経済学会区域生態経済専門委員会
廃棄物の種類が複雑化したのが原因と考えて問題ないだろう。
次に廃棄物に含まれる熱量が上昇していることが挙げられる(図6)。しかし、堆積や埋 め立て処理が主である中国では、先進国のサーマルリサイクルのような技術が困難であり、
現在は熱量が高い廃棄物資源を埋め立てによってひたすら浪費しているといえる。
(図6)北京市の都市生活廃棄物平均熱量値 単位:kj/kg
地区 双気ビル7 高級住宅 事業地区 病院 商業地区 平屋
1991 4527 8970 9894 7545 8159 2842
1997 8230 13924 10000 9332 13231 4701
出所)北京市環境衛生管理局
(6)廃棄物平均熱量値における先進国との比較
次に生活廃棄物における平均熱量値を先進国と比較することにする。
生活廃棄物の平均熱量値はアメリカ・ニューヨーク 11669kj/㎏ フランス・パリは
7752kj/㎏である。日本の場合は11723から12560kj/㎏である。(図7)
北京の廃棄物は6413kj/㎏と現在、先進国の廃棄物に比べて値は低いが徐々にその差は縮 まっている。中国の廃棄物も熱量値が高くなってきており、先進国型の廃棄物問題に近づ きつつあるといえよう。
ほとんどが埋め立て処理されている現在、熱量値が上昇している都市生活廃棄物のサー マルリサイクルによる潜在的な能力は高いといえる。
(図7)先進国と北京の廃棄物における熱量値の比較(単位;kj/㎏)
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
ニューヨーク パリ 日本 北京
熱量値(kj/㎏)
「UNDP/GEP推動中国廃棄物埋め立て気体回収利用」項目研究、1998より抜粋作成8
(1999);王維平(北京市環境衛生管理局)『中国都市生活廃棄物の対策と研究』より
7 中国の北方にある「ガス」と「暖気」の設備が備わったビル
8 日本の値については 12560kj/㎏を示した。
3. 中国の廃棄物政策
これまで述べてきたように中国の都市生活廃棄物は課題が山積みである。ここまで問題 が大きくなったのは、急速な経済成長と都市化が根本的な原因であるが、政府の政策、管 理体制にも原因が求められる。
以下において政府や自治体による政策や管理体制の状況、問題点について説明する。
(1)環境投資の状況
中国政府は環境問題の解決を国家の最重要事項とみなし、投資を行っている。
第十次五ヵ年計画(2001 年―2005 年)において中国政府は生態系整備と環境保護に 7,000 億元余りの資金を投入する計画である。これは、GDPの 1.3%前後を占める。第7回5ヵ 年計画当時におけるGDPの 0.7%と比較しても増加してきていることがわかる。
先進国における環境投資は一般にGDPの1%から2%である。例えばアメリカと日本 は 2%から 2.5%である。環境投資の額も先進国並になってきているといえるだろう。
北京市を例にとってみても北京の環境衛生における投資は第9次5ヵ年計画において 11 億元に達している。これは第7次5ヵ年計画期間の約 13.8 倍である。
このような環境投資によって環境保護産業の育成とともに、研究、技術面の水準を高め、
環境保護技術、製品を普及させる狙いがある。
技術投資についての例をあげると西安市は世界最先端のゴミ処理技術ECLIPSを導 入し、7億元の資金を投入して、西安に中国で初めての全面封鎖・無汚染のゴミ処理場、
西安ゴミ無害化処理場を建設している。
また北京等の指定都市による有料化政策、分別化政策も実験段階ではあるが、行われて いる。2010 年における都市生活廃棄物の無害化処理率は 85%から 95%にまで向上させるこ とが目的とされている。
(2)政策、管理体制の問題点
中国政府による廃棄物対策、管理の問題点も少なくはない。以下に列挙して説明する。
①現在の廃棄物の管理体制が市場経済に合わない。
現在の都市生活廃棄物体制は計画経済の体制をもとにした体制である。具体的に言うと 政府の一部門である建設部が主管し、各都市の環境衛生部門が都市生活廃棄物処理の監督、
運営にあたっている。これでは有効な監督と競争システムを運営することができない。
市場経済にあわせ、民間部門に運営を任せ、監督と運営を分割すべきである。
②資金が欠乏している。また資金調達制度が未発達である。
現在、対策の資金は全て国家の財政から支出されている。このシステム下においては適 当な経済手段と廃棄物処理の徴収制度が欠乏している。またそれにより一般市民や企業は 廃棄物問題への関心をもたないという結果も招いている。
③都市環境衛生管理法規が不健全である。
「固体廃棄物汚染環境防法」は都市廃棄物の管理の基礎を示した法である。その他にも「城 市市容和環境衛生管理条例」があり廃棄物管理の基礎として成り立っている。しかしこの ような法と実施細則が呼応しておらず管理が困難になっているという問題がある。健全な 法体系を再構築する必要性がある。
④廃棄物減量化を重視していないため資源を浪費している。
経済成長に伴い、特にホテルや飲食業において使い捨ての包装紙等の使用が増えている。
これは資源の浪費であり、プラスチック等の使用の増大によって「白色汚染」をも引き起 こしている。
⑤廃棄物の混合収集によって資源が浪費されている。また無害化処理が難しい。
都市の廃棄物が混合して収集されているため電池や廃油などの大量の有害廃棄物を含ん でおり、それが無害化処理を難しくしている。
⑥リサイクル物質の回収種類が減少し価格が下落しているため、都市の廃品回収率は低い。
リサイクルは資源の節約に有効な策である。しかし現在の中国のリサイクルは国民に義 務付けておらず9一種の商売の手段として成り立っているのみである。そのため金属、古紙 等の価値の高いものに対しては回収が集中するが、廃プラスチックやガラス製品、乾電池 にはまったく興味がなく、リサイクル可能な物質の回収効率を低くしている。
これまでのリサイクルシステムでは新しい回収需要に適応しておらず、回収の義務制度 も構築されていないといえる。
⑦ゴミ処理技術が低い、都市廃棄物資源化と無害化の水準が低い。
現在の廃棄物処理システムでは技術水準が低いため無害化率も不完全である。
⑧国民の環境意識が低い。
廃棄物問題において国民の意識は非常に重要な問題である。にもかかわらず中国ではか つてより向上しているとはいえ、まだまだ人々の環境意識は低い。環境意識が低いことが 企業による不法投棄や垂れ流しの原因となる。
4. 1章のまとめと日本の廃棄物政策紹介の意義
中国は未曾有の経済成長によって国民の生活水準が向上している。また人口増加及び都 市化も進行している。それらの動向に合わせて、都市生活固体廃棄物の量が増加し、質に も変化がみられる。これらは先進国型の廃棄物問題に近づいていることを示している。
さらに中国は今後も経済成長、都市化が継続すると予想されるため、都市生活廃棄物は 質、量ともに先進国と同じような傾向をたどることになると予測できる。
また廃棄物汚染等の問題が山積みになっているにもかかわらず、これまで政府は適切な
9 北京、上海、広州、アモイ、深セン、杭州、南京、桂林では 2000 年から都市生活廃棄物分別処理試行都 市に選定され、古紙、プラスチック、電池の回収の実験をしており一定の成果をあげている。しかし日本 のように市町村における各地域による徹底したレベルでの収集とまでは現段階では不可能である。
政策、管理システムをとれずにいるため政策がうまく機能していない。
このような状況下において、先進国による廃棄物政策の経験は、中国の先進国型の廃棄 物問題を解決していく上で非常に重要な資料となりえるといえる。
すなわち、処分場逼迫への対策、天然資源の節約を目指し、廃棄物の減量化、リサイク ルを推進の政策をとっている日本の事例が中国の廃棄物問題を解決する上で重要な示唆を 与えられるのではないか。
以上の着眼点から第Ⅱ章では日本の廃棄物政策の事例について検討することとする。
Ⅱ章 日本の廃棄物政策
この章では日本の廃棄物政策をEPR(拡大生産者責任)の概念を中心にして述べてい く。日本の廃棄物問題の背景とその廃棄物問題に対してとられた政策を述べ、その政策の 理念となったEPRについて法律の具体例を挙げながら詳しく述べていく。
1. 日本の廃棄物問題
日本の廃棄物問題の背景として、経済成長との関係が大いにある。1970年代、日本は目 覚しい経済発展を遂げ、そのことにより大量生産・大量消費・大量廃棄、という図式が出 来上った。この結果、次の3つのことが起こった。一つは、最終処分場の逼迫である。大 量廃棄により、一般廃棄物、産業廃棄物の総量が増加したことで、廃棄物の最終処分場が 徐々に逼迫していった。現在、処分場の寿命は一般廃棄物で12.1年、産業廃棄物で3.1年 となっている。
(図8)一般廃棄物総量の推移
4,300 4,400 4,500 4,600 4,700 4,800 4,900 5,000 5,100 5,200
62年 63年 元年 2年 3年 4年 5年 6年 7年 8年 9年 10年
ごみ総排出量(万 t/年)
(図9) 一般廃棄物処分場の残余容量と残余年数
0 50 100 150 200 250
62年 63年 元年 2年 3年 4年 5年 6年 7年 8年 9年 10年
0 2 4 6 8 10 12 14
残余容量
(百万m3)
残余年数
出所:図8、図9共に厚生労働省
二つ目には、天然資源の制約である。枯渇性資源の可採年数は現在、石油が約43年、銅が 約56年、鉛が約43年となっている。10最後に、ごみ内容の変化である。人々のライフスタ イルが変化するに連れて、便利さを追求してきたため、一般廃棄物に占める発泡スチロー ルやペットボトルなどのリサイクルしにくいごみが増加している。
以上のような背景から、日本がリサイクルを取り組む必要性が出てきたのである。
2、日本の廃棄物政策
ここでは、日本が取った廃棄物政策について、時代を追って順に述べていく。
表1) 日本の廃棄物政策の経緯
1967年以前 1967年以降 2001年現在
処理責任
地主
と自治体自治体
と生産者自治体と
生産者
法律 汚物掃除法 廃掃法 容器リサイクル法等
課題 責任が不明確なため ・埋立地の逼迫 ・生産者の反発 伝染病などが蔓延 ・資源の無駄使い ・消費者の意識改革 →処理責任の明確化 ・自治体の処理費用
増加
→処理責任を民間へ
10 通産省資料より
(1) 1967年以前
1967年、「廃棄物の処理及び掃除に関する法律」(以下、廃掃法)が施行される以前では、
廃棄物の処理責任は主に地主にあった。しかし、処理責任が実のところ不明確であったた め、廃棄物の野積みや汚水の垂れ流しが放置され、それがまた伝染病を蔓延させる原因の 一つにもなっていた。法律としては汚物掃除法(明治33年制定)が存在しており、廃棄物 処理の業務を自治体直営にすることを目指してはいたが、現実とは乖離していた。
(2) 1967年以降
1967年に廃掃法が制定された。この法律では、一般廃棄物と産業廃棄物の区別がなされ、
さらにこの責任を一般廃棄物は自治体、産業廃棄物は生産者にあると定められた。しかし、
「1.日本の廃棄物問題」の項にも述べたように、人々の生活水準が上がるに連れて、廃 棄物総量が増加し、埋立地の逼迫・天然資源の制約が起こった。そして、処理責任を自治 体にしたことで自治体の処理費用は増加していった。この問題は処分場の逼迫と連動し、
自治体の廃棄物問題を深刻化させていく要因となったのだ。
(3) 2001年現在
そこで、1991年、「再生資源促進法」が制定され、製造業者に対して資源の再利用への努 力とごみの減量を呼びかけたのだ。この法律をさらに実効性のあるものにするため、「資源 の有効な利用の促進に関する法律」として、2000年に国会に提出された。この法律では製 造、加工、修理などの各段階において、廃棄物の発生抑制、部品などの再利用、リサイク ルよる総合的な取組みを企業に義務付けている。このように、廃棄物の処理責任を自治体 から生産者へ移行する動きが進んでいった。
3、EPR
廃棄物の処理責任を自治体から生産者へ移行するという概念をEPR(拡大生産者責任)
11という。EPRとは「生産物に対する生産者の物理的及び又は金銭的責任が当該製品の廃 棄後まで拡大する」環境政策の手法である。EPRの目的は生産者に処理責任を移転する ことにより、生産者に廃棄物になりにくい製品設計、あるいは再使用・リサイクルの容易 な材料使用のインセンティブを与え、そのことにより最終処分量削減や再使用・リサイク ル率の向上を図ることである。つまり、生産者に処理費用を負担させるということは、廃 棄物の処理費用が製品の価格に影響を与える。生産者は製品の価格を抑えようと努力する ため廃棄物処理費用削減のインセンティブが働くのだ。したがって、廃棄物の減量化・資 源の有効利用を図ることが可能となり、かつ、廃棄物処理費用の社会的最小化を達成でき るのである。
次に、このEPRを導入した法律の具体例を述べる。
11 EPR:Extended Producer Responsibility
(1) 容器包装リサイクル法
①概要
この法律は 1995年に制定、1998年に施行された。この法律は、一般廃棄物に占める容 器包装廃棄物の割合が総容量で56%、総重量の23%となり、また、容器包装廃棄物は処分 場逼迫の主要因であることから、施行に至った。これまでの容器包装廃棄物の処理システ ムでは、消費者が混合排出したものを自治体がそのまま収集し、焼却・埋立てを行うとい う、一方通行の流れであった。
そこで、この法律では各主体に役割・責任を与えることで社会の中で容器包装廃棄物が 循環するシステムを作り出した。消費者には分別排出、自治体には分別収集・再商品化の 前処理・保管、生産者には再商品化という役割を与えた。特に生産者には自らの費用でリ サイクルを行うことを義務付けた。つまり、廃棄物処理の金銭的責任を負うこととなった。
このことから、容器包装廃棄物は部分的EPRと呼ばれている。しかしながら、生産者は 自社製品だけを再商品化するのは困難であり、かつ再商品化を行う技術を保持していない ため、容器包装リサイクル協会という指定法人に再商品化を委託し、効率的に再商品化を 行っている。指定法人は生産者から再商品化委託費用を受け取り、再商品化の技術を持つ 再商品化事業者を指定する役割を担っている。そこで指定された再商品化事業者は入札に より、再商品化物を自治体から受け取り再商品化を行っているのである。
②成果
生産者に再商品化の金銭的負担を負わせたことにより、廃棄物を削減し、資源化するイ ンセンティブが働いた。ここではペットボトルを例に挙げ、そのリサイクル率の推移と再 商品化委託単価を検討する。
(図10)ペットボトルにおける生産量とリサイクル量の推移
0 50000 100000 150000 200000 250000 300000 350000 400000
1995 1996 1997 1998 1999 2000
生産量 リサイクル量
出所:(財)日本容器包装リサイクル協会より
図10より、ペットボトルのリサイクル量は年々上昇している。リサイクル率は1998年
16%、1999年21%、2000年34%となっており、資源の有効利用が進んでいるといえる。
また、再商品化事業者が入札によって再商品化を行うことで市場による競争原理が働き、
毎年再商品化委託単価は低下しつづけている。つまり、生産者が再商品化の責任を負った ほうがリサイクルのコストをより安く済ませることが可能となるのだ。
しかしながら、リサイクル量が増えるに連れて、収集・前処理・保管という役割を担っ ている自治体の費用は増加する。この点が容器包装リサイクル法における問題点の一つで ある。もう一つは、リサイクルされた製品の需要が確保されないことである。この問題に 関しては、近年ペットボトルからペットボトルへのリサイクルが可能となり、解決への道 をたどっている途中である。
(2)家電リサイクル法
①概要
家電製品の適正なリサイクルを進めるために1998年5月に制定され、2001年4月に本 格施行となった。この法律では、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の4品目を対象とし てそれぞれに再商品化率を設定し12、生産者に再商品化の義務を与えたものである。廃家電 が一般廃棄物に占める割合は低い。しかし、自治体では処理が困難であるということ、ま た、有用な天然資源が多く含まれていることから法律が制定された。この法律の特徴とし て、家電製品を廃棄する際、小売店に引取り義務を負わせること、リサイクル委託費用を 消費者が支払わなければならないことにある。
法律が施行されるまでの廃家電の処理は、消費者が自治体か小売店に排出し、自治体が 処理する場合においても、小売店から処理業者に廃家電が渡り処理業者が処理を行う場合 にも、直接埋立てか一部の金属を回収した後に破砕処理・埋立てという流れであった。
そこで、家電リサイクル法では廃家電の減量を効率よく行うために、各主体に役割を与 えた。消費者から引取り要請のあった廃家電に対して、小売店・自治体・生産者全て引き 取る義務があり、小売店についてはそれを生産者に引き渡す義務を与え、自治体と生産者 には引き取った廃家電について再商品化の義務を与えることにより、家電製品が生産者か ら生産者へ循環するシステムになっている。
②成果
消費者が廃棄時支払いという形でリサイクル料金を支払い、さらに小売店・生産者に新 たな義務が付与されたことによって、どのような成果が生まれたのか。ここでは、自治体 が廃家電の処理を行った場合の処理費用と2001年から始まった生産者による処理の費用を 比較した。
12 エアコン60%、テレビ55%、冷蔵庫50%、洗濯機50%
(図11) 東京都と生産者の処理費用の比較
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
エアコン テレビ 冷蔵庫 洗濯機
東京都 (1999)
生産者 (2001)
出所:山口研究会4期生家電パート論文より
図より東京都で処理を行うより生産者に処理責任を与えた方が低価格で処理可能である と言うことがわかる。つまり、EPR の利点である「生産者に再商品化を物理的及び金銭的 に負担させることで、廃棄物処理費用削減のインセンティブが働いたのだ。しかしながら、
家電リサイクル法は今年4月に実施されたばかりであり、未だ解決できない問題も残され ている。一つは不法投棄の問題である。これは消費者が廃棄時の処理費用を逃れようとし て発生する問題である。もう一つは海外輸出の問題である。これは消費者が廃家電を小売 店に渡さず、中古品として売る場合に起こる。中古業者はリユースを目的として海外に輸 出している。しかしながら、その廃家電の全てが本当にリユースされているかどうかは疑 問であるし、また輸出先でのリサイクル処理が適切に行われていない場合も多数存在する。
Ⅲ章 まとめ
Ⅰ章で中国、Ⅱ章で日本の廃棄物政策について述べてきた。この章では日本の廃棄物政 策を中国に応用する場合について検討する。
日本の現在の廃棄物政策は処理責任を自治体から生産者に負わせる、EPR という方向に 転換してきており、その成果も現れている。EPRという概念はOECDで議論されているよ うに先進諸国の間でも現実の廃棄物政策として用いられており、さらにこれから世界各国 で廃棄物政策の基本理念として用いられていくことが予想される。
このEPRのように経済的なインセンティブを与える廃棄物政策は、中国に欠けている政 策であるので有効ではないだろうか。なぜならば、現在の中国における廃棄物政策の問題 点は、日本のEPRを組み入れた法律の施行以と同じ状況であるからだ。その状況とは環 境衛生局、つまり日本でいう自治体が監督部門と管理部門の二つを兼ねていて市場原理が 働いていない。また、中国は国家財政からの投資以外の資金調達システムがない。しかし、
日本のように企業や市民から資金を調達すれば、廃棄物処理費用削減のインセンティブに もなるため、このような点からもEPRを導入するメリットは十分にある。そして、中国で は海外から家電の中古品などが輸入されリユースの現場となっている。このような中古品 のリユースを適切に行うためにも、今後の廃棄物政策や法体系の整備が重要となってくる。
したがって、中国がこれから廃棄物政策を進めていく上で、EPR の「物理的及び又は金銭 的責任を企業に移す」という概念を政策に取り入れていくことを推奨する。
〔参考文献〕 (順不同)
・国家統計局『中国統計年鑑』各年版、中国統計出版社
・李志東他『中国2030年の経済・エネルギー・環境に関する計量経済分析』(財)日本エネルギー研究所
・2000年慶應・清華環境学生会議論文集『日本の廃棄物政策について−自治体から生産者へ−』(2000)
・井村秀文、藤原健『中国の環境問題』東洋経済新報社(1995)
・『日中環境協力情報資料集〈2000 年度版〉』社団法人海外環境協力センター(2001)
・『中国の構造転換―環境―成長への制約となるか』
・『首届中国都市生活廃棄物態勢与対策学術研討論会論文集』中国生態経済学会区域生態経済専門委員会
(1999)
・『中日固体廃棄物処理技術研討会論文集』中日友好環境保護中心、福岡大学、JICA 中国事務所、中国環 境科学学会固体廃棄物専門委員会(1997)
・山口光恒『EPRに関するOECDガイダンスマニュアルについて』三田学会雑誌 94 巻 1 号(2001)
・松田美夜子『本当のリサイクルが分かる本』KKベストセラーズ(2000)
・山口研究会 4 期生家電リサイクル法パート『家電リサイクル法〜施行を 3 ヵ月後に控えて〜』(2000)
・山口研究会 5 期生家電リサイクル法パート『家電リサイクル法〜中古市場に注目して〜』(2001)
・環境省『環境白書』(2000)
(ヒアリング先)
堀井一雄様(中日友好環境保護センター:環境技術専門家)
〔インターネットリソース〕
厚生労働省 http://www.env.go.jp/recycle/waste/ippan/h10_ippan.pdf 旧厚生省情報 http://www.env.go.jp/recycle/kosei_press/h000623a.html
財団法人日本容器包装リサイクル協会 http://www.jcpra.or.jp/01horei/index.html