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乳酸菌の腸粘膜への定着機構 - J-Stage

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乳酸菌は,哺乳類の小腸から大腸に広く棲息するグラム陽性 細菌である.乳酸菌を構成する最大の属である

属は,多岐にわたる有用効果が報告されており,近年では,

民間伝承的な健康増進効果にとどまらず予防医学への応用も 期待されている.一般に乳酸菌は積極的に摂取され宿主消化 管 で 定 着 す る こ と が 求 め ら れ る こ と か ら,複 雑 な 腸 内 フ ローラを形成する消化管において,摂取された乳酸菌がどの ようなプロセスを経て定着・共生することができるのか興味 深い点である.本解説では,乳酸菌の生存戦略の一つである 腸粘膜への付着に着目し,特にアドヘシン(付着因子)の細 胞表層への提示機構とその役割について解説する.

宿主消化管における乳酸菌の定着の場

哺乳類の消化管上皮には杯細胞が存在し,杯細胞から 大量の粘液(ムチン)が産生され,腸上皮を被覆する.

したがって,ムチンは乳酸菌の主要な定着の場であると 考えられる.ムチンは,重量比で約90%以上の水分を 含むため形態的に観察することは難しいが,凝固・脱水

固定を原理とする灌流カルノア固定により速やかに固定 を行うことで,薄いPAS陽性を示す粘液ゲル層(Outer  mucus layer)と濃いPAS陽性を示す上皮細胞に接した 高密度の粘液層(Inner mucus layer)の2層構造からな ることを形態的に観察できる(図1a).細菌は,粘液ゲ ル層までは入り込むことができるが,上皮細胞に接した 粘液層はムチンが密に結合しているため入り込めず,そ れにより上皮細胞への細菌の接触や侵入を防ぐ役割を果 たしている(1).このような2層構造の粘液層は大腸に特 徴的であり,ヒトでは大腸の粘液ゲル層の厚さは800〜

900 µmほどにもなる(2)(図1b).

ムチンは,ポリペプチド骨格のセリン,トレオニンお よびプロリンを多く含むタンデムリピート構造をもち,

リピート数の異なる多型を示すことが多い.ムチンの最 小単位であるモノマーがジスルフィド結合し,分子量数 十万からなる巨大なポリマー構造を形成する.ムチン

( )遺伝子は少なくとも20種類以上見いだされてお り,膜結合型と分泌型に分類されるが,小腸から大腸で は分泌型のMuc2ムチンが主である(1).図2aにヒト大腸 のMuc2ムチンに多く見られる -型糖鎖のコア3型構造 とそれに結合する糖鎖の例を示した.先に述べたタンデ

refer- ence

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● 化学 と 生物 

【解説】

Colonization  Properties  of  Lactic  Acid  Bacteria  to  Mucosal  Surface of the Intestinal Tract

Keita NISHIYAMA, Takao MUKAI, *1 北里大学薬学部微生物学 教室,*2 北里大学獣医学部細胞分子機能学研究室

乳酸菌の腸粘膜への定着機構

西山啓太 * 1 ,向井孝夫 * 2

(2)

ムリピート構造部分に -グリコシド結合により -アセ チルガラクトサミンが結合し,続いて -アセチルグル コサミンが

β

1→3結合したコア構造をとり(3),特に,非 還元末端に存在するフコースを含む血液型関連糖鎖や負 の電荷をもつシアル酸や硫酸基の修飾がムチン糖鎖の多 様性を生み出している.筆者らは,ブタの各消化管部位 の粘液組織を酸性糖の染色法である高鉄ジアミン・アル シアンブルー(HID/AB)染色により染色したところ,

消化管下部になるほどHID染色性は強くなり,硫酸化 ムチンの分布が消化管部位で顕著に異なることも確認し ている(図2b).また最近,腸粘液のフコシル化の有無 が腸内細菌の定着に影響することが報告されており(4), このようなムチンの糖鎖修飾のパターンの違いは,乳酸 菌の宿主腸粘膜との相互作用に影響を及ぼすものと推測 される.

一方,大腸とは異なり小腸の粘液ゲル層は1/10以下 と薄いことから(図1b),粘液層直下の上皮細胞,ある いは上皮細胞の表面に発現する糖衣(Glycocalyx)と呼 ばれる細胞膜結合型糖タンパク質も乳酸菌の受容体とな りうると考えられる.また,コラーゲン,ラミニン,

フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス(ECM)

タンパク質も乳酸菌の付着性を評価する際に用いられる が,ECMタンパク質の多くは基底膜側に存在し,特に 創傷部において表面に露出すると考えられることから,

乳酸菌がこれらの受容体と相互作用することが消化管で の定着性にどの程度の優位性を与えることができるか疑

問が残る.

消化管における乳酸菌の定着プロセス

非運動性の乳酸菌が流動性の高い腸内環境において一 定の細菌数を維持するには,乳酸菌が消化管に対して能 動的に付着し,増殖することが重要であると考えられ る.グラム陽性菌である乳酸菌の細胞表層は,厚いペプ チドグリカン層,テイコ酸およびリポテイコ酸などの多 糖類に加え,タンパク質性の物質から構成され,これら の一部が宿主への付着性を促進する付着因子(アドヘシ ン)として機能する.アドヘシンは,レクチンのように リガンドとその受容体が明確であり特異的な相互作用を 示すものや,特定の受容体をもたず非特異的な結合プロ セスを有するものまで多岐にわたる(図3a).多くの場 合,一つの乳酸菌においていくつかのアドヘシンが複合 的に機能することで,細菌と腸粘膜との間に多価的な結 合が生じ,流動性が高く刻々と環境が変化する消化管内 での乳酸菌の効率的な付着を可能にすると考えられる.

さらに,細胞表層の構成因子は,細菌同士の自己凝集 図1PAS染色による大腸粘膜の組織学的所見と消化管粘膜の

模式図

(a)マウス大腸粘膜のPAS染色像.(b)小腸と大腸の消化管粘膜 の模式図.L: Lumen, O: Outer mucus layer, I: Inner mucus layer を示す.   

図2ムチンの糖鎖修飾とHID染色による各消化管粘膜の組織 学的所見

(a)ヒト大腸のMuc2ムチンに多い -型糖鎖のコア3型構造に結 合 す る 糖 鎖 の 模 式 図.Fuc, Fucose; Gal, Galactose; GalNAc,  - acetylgalactosamine; Glc, Glucose; NeuAc,  -acetylneu raminic  acidを示す.コア3型構造とGalNAcの6位にNeuAcが結合した 構造を基本として,SO3, Fuc, NeuAc(青文字)がそれぞれの位 置に結合する(ただし,これらがすべて結合した異性体構造は存 在 し な い).シ ア ル 酸 は,[NeuAc] で 示 し た よ う に 内 部 の GalNAcあるいはGal残基にも分岐型として結合する.文献1と3 を参考にした.(b)ブタの各消化管部位の粘液のHID/AB染色 像.   

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(Self-aggregation)やほかの細菌との共凝集(Co-aggre- gation)を促進するものも存在し,これらは腸粘膜への 付着をより強固なものにする補助的な役割を果たすこと から,凝集因子も広義のアドヘシンとして考えてよいだ ろう.すなわち,乳酸菌の定着の過程は,①アドヘシン を介した初期付着,②菌体同士の凝集,③コロニー(細 菌叢)の形成といくつかのステップを経て成立すると考 えられる(図3b).

アドヘシンの細胞外への提示機構

先述のとおり,細胞表層に存在するさまざまな因子が アドヘシンとして機能するが,多くはタンパク質性の物 質である.グラム陽性細菌において,細胞外に分泌され るタンパク質は,細胞内で合成された後,いくつかの分 泌経路を介して細胞表層に提示される(図4.このよ うなタンパク質のN末端には,数十アミノ酸残基から なる分泌シグナル配列が保存され,シグナル配列の種類 により厳密に分泌経路が決定される.現在,

属のゲノム配列情報をもとに報告されている分泌経 路 は,Secretion(Sec) translocation, Competence de- velopment(Com) pathway,  ATP-binding  cassette

(ABC) transporter,そしてHolinである(5).一方,ほ か の グ ラ ム 陽 性 菌 で 広 く 保 存 さ れ るTwin-arginine  transporter(TAT)は見いだされていない.また,膜

貫通チャネル複合体SecYEGやATPase依存性駆動因子 SecAなどのSecトランスロコンの中心的役割を担う因 子は保存されるが,膜透過性を促進する膜タンパク質 SecDFやシグナル配列の認識に寄与するSecBは見いだ されておらず,分泌機構に関しては不明な点が多い.

一方,既知の分泌シグナルが保存されていないにもか かわらず何らかの分泌機構により細胞外へと移行するタ ンパク質が存在する.枯草菌での解析例を示すと,

 168株は,遺伝子総数約4,100であり,

プロテオミクス解析によると,250種類以上のタンパク 質の分泌が確認されており(6, 7),これは全タンパク質数 の約6%に相当する.しかしながら,分泌シグナル配列 に基づき分泌タンパク質を予測した結果では,プロテオ ミクス解析で検出されたタンパク質のおよそ半数に過ぎ ない.また, 属では,比較的ゲノムサイズ

の小さい でも遺伝子総数は約

1,700であるので,枯草菌の報告例に当てはめると,分 泌シグナル配列非依存的に分泌されるタンパク質が乳酸 菌においても相当数あるものと推測される.また,これ らの中には,アドヘシンとしてなど細胞内での本来の機 能とは異なる役割を示すものが存在し,特にムーンライ ト(多機能)タンパク質と呼ばれる(8).では,これらの タンパク質がどのように分泌されるのであろうか.乳酸 菌では,これらの分泌機構に関する研究例はほとんどな いが,近年,他の細菌種において興味深い報告例があ る.

α

-Enolaseは,N末端に存在する疎水性の 図3アドヘシンを介した乳酸菌の腸上皮への定着過程

(a)アドヘシンを介した乳酸菌の付着(Adhesion)と凝集(Ag- gregation)の模式図.(b)乳酸菌の腸上皮への経時的な定着過程 の模式図.①初期付着(Adhesion),②菌体同士の凝集(Aggrega- tion),③コロニー(細菌叢)の形成(Colonization)から成立す ると推測される.

図4 属のゲノム配列情報から推測されるタン パク質の分泌経路

Sec,  Secretion  translocation;  Com,  Competence  development  pathway, ABC, ATP-binding cassette transporter, Holinを示す.

膜小胞(Membrane vehicle)や溶菌(Bacteriolysis)による分泌 機構の存在も示唆される.文献5を参考にした.

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(4)

α

-ヘリックスを構成するアミノ酸領域を欠損すると分泌 されず,さらに

α

-Enolaseの分泌は溶菌でないことから,

特定の領域が分泌シグナルのような役割を果たすことが 示唆されている(9).また,

のSuperoxide dismutase(SodA)では, 変異株で は分泌が変化せず, 変異株ではSodAの分泌が著し く減少することから,SodAの分泌はSecA依存性であ ると結論づけている(10).また,この分泌には,SodAの N末端のアミノ酸残基が寄与することが示されている が,Secトランスロコンとの関連性については言及され

ていない.これら報告以外に, や

α

-Enolaseの膜小胞による細胞外への移行(11), では,SecA2依存性の溶菌酵素 による溶菌が分泌シグナル非依存的なタンパク質分泌に 間接的に寄与することが示されている(12).しかし,

属において膜小胞や溶菌がこれらのタンパ ク質の分泌経路として機能するかは不明である.このよ うに,これまで全く未知であった既知の分泌シグナル配 列をもたないタンパク質の分泌に特定の領域や分泌装置 が関与することが明らかにされつつあるが,これらは特 定のタンパク質や菌株における報告であり,その全貌解 明には今後のさらなる研究が待たれる.

次に,細胞外に分泌されたタンパク質がアドヘシンと しての機能を発揮するためには,細胞表層にアンカリン グされる必要がある.分泌シグナルを有する多くのアド へシンは,NあるいはC末端に保存されるアンカリング モチーフを介して細胞表層に固定される.LPxTGモ チーフはSortase(SrtA)の作用により細胞壁に,リポ ボ ッ ク ス モ チ ー フ は,Prolipoprotein diacylglyceryl  transferaseとSignal peptidase IIの作用により細胞膜に 共有結合により固定される.また,Lysineモチーフ

(LysM)やS-layer-proteinドメインは非共有結合により 細胞壁に固定される.一方,アドヘシンとしてのムーン ライトタンパク質の細胞表層における局在様式は明確に されていないが,Glyceraldehyde-3-phosphate dehydro- genase(GAPDH)や Enolase,  Elongation  factor  Tu

(EF-Tu)は,等電点以上の緩衝液で菌体を処理すると これらのタンパク質は上清に遊離することから,負の電 荷をもつリポテイコ酸に静電的に結合することで細胞表 層に維持されるという説が最も有力である(13, 14)

ムチンに対するアドヘシンの結合特性とその役割 これまで 属で報告されるタンパク質の さまざまな提示機構に関して述べてきた.本稿では,細

胞表層に提示されたタンパク質がアドヘシンとして実際 にどのような機能を発揮するか,ムチンを受容体とする アドヘシンに着目し,特に近年盛んに研究が行われ新規 な知見が得られているものを中心に述べる.

1.MubMucus-binding

属で見いだされているアドヘシンのなか で,N末端にSec依存性分泌シグナル配列,C末端に LPxTG配列もつアドヘシンは最も報告例が多い.Roos らにより,  1063株において上記の 特徴をもつ分子量358,000からなる巨大タンパク質Mu- cus-binding(Mub)がムチン付着因子として報告され た(15).Mubは,Mub1とMub2と呼ばれる2つの特徴的 な領域をもち,183〜206アミノ酸残基からなる領域の 繰り返し配列(Mubリピート)が,保存されている

(図5a).その後の研究により,複数の にお いてMubと推測されるタンパク質が確認され,菌体の 凝集性との関連性や抗Mub抗体を用いた阻害試験によ りムチンに対するアドヘシンとしての役割が示されてい る(16)

また,Mubリピートは, で報告さ れていたMucBP(Mucin-Binding Protein; PF06458)ドメ インとアミノ酸配列の類似性が認められることから,ほ かの菌種でもMucBP相同タンパク質が調べられた.そ の結果,10菌種以上でMucBPドメインと類似したアミ ノ酸配列をもつ細胞表層タンパク質が見いだされた が(17),これらのアドヘシンとしての役割に関してはほ とんど検討されていなかった.しかし,最近,これらの 付着性に関する報告が立て続けに発表された.  

JCM1112株においてMubリピートのパターンが異なる 新規なMubとしてLar̲0958が見いだされた.

変異株を用いた試験により,Lar̲0958がムチン付着性と 細胞凝集性に寄与することが菌株レベルで明らかにされ た(18).また, から精製したMubを用いた組 織学的解析により,Mubの受容体がムチンのシアル酸 を含む糖鎖部位であることが示唆され(19),徐々にMub のアドヘシンとしての特徴が明らかにされている.

2.Spa線毛

 GG(LGG)株のSpa線毛も,

Mubと同様にN末端にSec依存性分泌シグナル配列,C 末端にLPxTG配列をもつタンパク質であり,付着性に 関する知見が多くの研究者によって報告されている.

Spa線毛は, と の2つのクラスターが 存在し,それぞれの線毛を構成する各サブユニットが重

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合することで線毛構造を形成する(20)(図5b).ヒトをモ デルとしてSpaCBA線毛の役割を評価するため,LGG 株 と ク ラ ス タ ー が 欠 失 し た   LC705(LC705)株を用いて,それぞれの菌株を摂取し た際の糞便中の菌数変化を,各菌株に特異的な遺伝子を 指標として測定した.その結果,LC705株は摂取後14 日目以降に検出限界に達したが,LGG株は21日まで検 出され,LGG株の腸管定着におけるSpaCBA線毛の寄 与が報告された(21).その後,各サブユニットの組換え タンパク質を用いた解析により,SpaCとSpaBサブユ ニットがムチンへ結合に寄与することが示された(20, 21). 特に,SpaCサブユニットは,線毛の先端に位置し,さ らにその結合性は塩基性タンパク質の添加により阻害さ れないことから,特異性のある結合様式が存在すると考 えられた(21).そこで筆者らは,SpaCサブユニットと複 合糖脂質との相互作用を評価したところ,非還元末端が ガラクトシル基の糖鎖構造に対して特異的に結合するレ クチン様の性質をもつことを見いだした(22).また最近,

緑色蛍光タンパク質を導入したLGGの 変異株をマ ウスに投与し,近位空腸のムチン層におけるLGGの局 在を組織化学的に評価する試みが行われており,LGG 野生株と比較し 変異株のムチン層への付着性が顕 著に低下することから,SpaCサブユニットのアドへシ ンとしての役割が でも確認されている(23)

3. ムーンライトタンパク質

アドヘシンとしてのムーンライトタンパク質は,ムチ ンに特徴的な糖鎖プローブを用いて糖鎖特異的な結合性 を示すものが報告されており,乳酸菌のアドヘシンの分 類として欠くことはできない.一方,その多くはハウス キーピング遺伝子であることから変異株の取得は困難で あり,菌株の付着性への関与は,カオトロピック試薬に よる剥離処理前後での付着性の違い,あるいは抗体を用 いた付着阻害といった間接的な評価が多い.

ムチンに高い付着性を示す菌株として選抜された  LA 318株の細胞表層画分から アドヘシンの候補としてGAPDHが同定された(24).ム チン糖鎖にはABO式血液型抗原が高頻度に見られるこ とから,血液型糖鎖プローブに対するGAPDHの結合性 を評価したところ,特にA型とB型抗原に高い結合性を 示すことが示され,血液型糖鎖に対するアドヘシンとし て報告されている(25).その後の研究で,ABCトランス ポーターの構成因子の一つである分子量29,000のシステ イン結合タンパク質(Lam29)も血液型糖鎖に結合する ことが報告されている(26)

EF-Tuは,  NCC533(La1)株 において,メンブレンオーバーレイ法により腸上皮細胞 に対するアドへシンとして同定された.さらに,EF-Tu 組換えタンパク質を用いた実験により,特に弱酸性条件 下で培養細胞だけでなくムチンに対しても結合性を示す ことが報告されている(27).一方,筆者らは,ムチンが 高度に硫酸化されていることに着目し(図2b),硫酸化 ムチンと共通する糖鎖構造をもつスルファチドをプロー ブとしてアドヘシンの探索を行ったところ偶然にも EF-Tuを同定した(14).先の報告と同様に,EF-Tuは弱 酸性条件で硫酸化糖鎖に高い結合性を示したため,静電 的な相互作用であると思われたが,硫酸基と同じく負の 電荷をもつシアル酸を含む糖鎖にはほとんど結合せず,

硫酸化糖鎖に特異的なアドヘシンとして報告している(14). また近年,硫酸化ムチンが や

属の受容体として注目され,硫酸化ムチンへ付着 性を示す菌株が次々と見いだされている(28, 29).これら のいくつかの菌株ではEF-Tuの細胞表層での局在が確 認できることから,EF-Tuが幅広い菌種あるいは菌株 でアドヘシンとして機能すると考えられている(14, 29)

ECMタンパク質に対するアドヘシンの役割 冒頭でも述べたように,ECMタンパク質に対するア ドヘシンに関する報告は, の実験系で得られた 図5Mucus-bindingMub)とSpaCBA線毛の模式図

(a) 1063由来Mubを構成するMubリピートを示した.

Mubリピートは,Mub1とMub2領域から構成され,Mub1は1〜

4, 5〜6, Mub2は1〜8の相同領域の繰り返しからなる.文献15と 18を参考にした.(b)  GG由来SpaCBA線毛の各 サブユニットの重合パターンを示した.基軸となるSpaAに対し SpaCが1 : 2の割合で存在する.SpaBは,線毛の基盤あるいは途 中に存在する.文献20と21を参考にした.

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ものがほとんどであり,これらが粘液で覆われた腸上皮 において乳酸菌の定着性にどの程度寄与するか不明な点 が多い.そこで,最近,筆者らが取り組んできたECM タンパク質に対するアドヘシンの解析例を中心として,

生体内における役割とその応用例について紹介したい.

Aggregation-promoting factor(APF)は,その名の とおり細胞凝集性にかかわるタンパク質として

 4B2株で同定され,NあるいはC末 端に LysM配列と高い相同性を示す配列が保存されている(30)

 4B2由来APFの相同タンパク質は,

の近縁種あるいは で

見いだされ,菌種によりAPF1とAPF2の2つのホモロ グが認められる.APFは,細胞凝集や形態維持にかか わることから(30),長らく間接的なアドヘシンであると 考えられていた.しかし近年,  NCFM 株や  NCIMB 8826株の 遺伝子変異株 が作出され,ムチンや種々のECMタンパク質に対する 付着性への関与が示された(31, 32).また,ごく最近の筆 者らの研究により,  SBT2055(LG2055)の APF1は凝集性と付着性にかかわるが,APF2はいずれ の表現型にも寄与せず,APF1とAPF2では機能が異な ることが示された.さらに,組換えタンパク質を用いた 速度論的解析から,APF1は,ECMタンパク質の一つ であるフィブロネクチンに対するアドヘシンであること が見いだされた(33)

さらに筆者らは,LG2055のAPF1を介したフィブロ ネクチン結合性を利用することで病原細菌の で の競合阻害を試みている(33, 34).すなわち,病原細菌の 受容体に付着する乳酸菌を作用させることで,病原細菌 の感染を競合的に阻害することができると考えた.この ような仮説に基づき,腸内での定着の際にフィブロネク チンとの相互作用が知られている

の感染阻害を検討した.LG2055  欠損株を用いて白 色レグホーンの新生雛とヒト腸上皮細胞における感染阻 害を試みたところ,LG2055野生株および 欠損株で の感染抑制効果が認められたが, 欠損株 ではその抑制効果は顕著に低下した.また,組換えタン パク質を用いた同様の試験においても,APF1タンパク 質でのみ抑制効果が認められた.次に,薬剤耐性マー カーを指標に新生雛におけるLG2055の定着を評価した ところ, 変異株でのみ顕著に低下した.これらの結 果は,フィブロネクチンに対するアドヘシンAPF1が LG2055の生体内での定着に寄与することを強く示唆す るとともに,乳酸菌の付着特性を利用した病原細菌の競 合排除の有用性を証明した試みといえる(33)

と の 付 着 部 位 の 競 合 現 象 か ら 推 測 さ れ る よ う に,

LG2055の腸管定着の際にフィブロネクチンが受容体と して寄与すると考えられるが,その一方で,生体内で非 運動性細菌である乳酸菌とECMタンパク質との実際の 相互作用は十分に説明できない点もあり,組織学的な手 法を用いて乳酸菌の局在性を評価するような視覚的な解 析法の重要性がさらに増していくだろう.

おわりに

本解説では,アドヘシンの細胞外への提示機構をはじ め,細胞表層でのそれぞれの機能に関して述べた.ここ 数年間で乳酸菌の付着性に関する研究が飛躍的に進み,

さまざまなアドヘシンを細胞表層に保持することで,宿 主受容体を巧妙かつ厳密に認識し付着する機構をもつこ とが分子レベルで明らかになってきた.これにより,

刻々と変化する腸内環境でほかの微生物と競合し生存す るための乳酸菌の生存戦略を垣間見ることができたと思 われる.一方で,ムーンライトタンパク質のように,そ の細胞表層提示機構やアドヘシンとしての機構解明が不 十分なものも多く,本研究分野の残された課題の一つで あるといえよう.乳酸菌は,プロバイオティクスとして さまざまな分野で活用が期待されており,現在も新たな 機能性をもつ菌株の選抜が精力的に行われている.乳酸 菌の付着特性を見いだし積極的に研究することで,病原 細菌の競合排除など科学的根拠に基づいたさらなる利用 価値を引き出すことができると期待される.

謝辞:本稿で紹介しました筆者らによる研究内容の相当部分は,北里大 学獣医学部細胞分子機能学研究室で行われたものです.山本裕司博士を はじめとしたスタッフの皆様および共同研究者の皆様に深く感謝いたし ます.また,紹介しました筆者らによる研究の一部は,JSPS 24580397,  15K07709の助成を受けたものです.

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プロフィール

西山 啓太(Keita NISHIYAMA)

<略歴>2010年北里大学獣医畜産学部動 物資源科学科卒業/2012年同大学大学院 獣医畜産学研究科修士課程修了/2015年 同大学大学院獣医学系研究科博士課程修 了/同年同大学薬学部助教,現在に至る

<研究テーマと抱負>乳酸菌の宿主消化管 への定着機構の解明<趣味>自転車,登 山,実験

向井 孝夫(Takao MUKAI)

<略 歴>1985年 東 北 大 学 農 学 部 卒 業/

1990年同大学大学院博士課程後期修了

(農学博士)/同年北里大学獣医畜産学部助 手/1992年 同 講 師/2004年 同 助 教 授/

2006年同教授/2007年同大学獣医学部教 授現在に至る<研究テーマと抱負>「乳酸 菌やビフィズス菌と宿主の相互作用の解 明」特にこれらの細菌が糖鎖を認識するこ とで巧みに腸上皮に付着していることに興 味 が あ る<所 属 研 究 室 ホ ー ム ペ ー ジ>

http://d.hatena.ne.jp/bunshi/<趣味>スポー ツ観戦,食べ歩き

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.471

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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- - この一年も、私たちは限りなく「出会い」を続けてきました。そして、お互いが知り合い、対 話し、理解しあう中からコミュニティを創りあげていくことの大切さを知りました。 どの地域にも豊かな歴史とそこに息づく人々の営々としたくらしがあります。そのくらしの営 みは時に「稗史」と呼ばれ、特別なことでもなく、ごくごく「あたりまえ」に存在するものな