使用済み自動車の適正処理の確保
慶應義塾大学経済学部
山口光恒研究会第 6 期 自動車廃棄物班 新井紫織 瀬川晋
白田要 前田陽一
目次
はじめに
自動車リサイクル法が必要となる背景とその対策 1. 外部情勢の変化とその対策
1. 1 外部情勢の変化とそれに付随する問題 1. 2 自動車リサイクル費用徴収の意味と概略
2. 使用済み自動車処理システム内部の問題とその対策
2. 1 使用済み自動車処理システム内部の問題 2. 2 自動車リサイクル法の素案による対策 2. 3 考察と改正案の提示
総論
はじめに
近年、使用済み自動車の不適正処理、不法投棄が進んでおり、それに対応す る自動車リサイクル法の法案審議が経済産業省と環境省において進んでいる。
自動車リサイクル法の素案では、不適正処理を解決するための方法として、
ELV
の処理にかかる費用を消費者から徴収することや、EPR
の概念を用いてメーカ ーにELV
の処理責任を負わせることなどが考えられている。しかし、我々は研究を進めていくうちに、現在審議されている自動車リサイ クル法案の素案では
ELV
の不適正処理の問題は完全には解決されないのではな いかという認識に至った。本書では、素案が必要となった背景を明確にするとともに、それに対応する と考えられている素案を検討し、評価する。その上で、リサイクル法の素案に 対する我々の見解を述べたいと思う。
自動車リサイクル法が必要となる背景とその対策
1. 外部情勢の変化とその対策
1.1 外部情勢の変化と付随する問題
従来、自動車の製造や処理に関わる関係事業者1は、旧通商産業省が平成9年
5
月23
日に策定した使用済み自動車リサイクルイニシアティブ(以下イニシア ティブ)に則り行動してきた。具体的には自主行動計画を立て、使用済み自動 車(以下ELV
)の適正処理・リサイクル率向上に取り組んできた。イニシアテ ィブでは、リサイクル率と有害物質の削減に関してそれぞれ数値目標を掲げて いる。特に、リサイクル率においては、2002
年以降85
%以上、2015
年以降95
% 以上という非常に高い目標を設定している。2001
年の段階では、75
〜80
%とい う高いリサイクル率を達成していた。また適正処理の面では、有害物質の削減 に取り組み鉛の使用量を減少させてきた。しかし近年、イニシアティブで掲げられたリサイクル率の目標達成を困難に させる状況や、イニシアティブでは対応できない問題が起きている。
それは、
ELV
の処理過程で発生するシュレッダーダスト(以下ASR
)の不適 正処理、不法投棄が増加していることと、フロン、エアバックの不適正処理が 増加していることである。ASR
の不適正処理、不法投棄が増加している原因は、鉄くず価格の下落と最 終処分場逼迫に伴う処分費用高騰により、ASR
が逆有償化したことである。フロンの不適正処理が増加している原因は、フロンが処理工程において逆有
1 関係事業者には、自動車製造事業者、輸入事業者、新車販売店、中古車販売店、解体事業者、シュレッダー事業者が 含まれる。
償化したことと、「特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保に関す る法律(フロン回収破壊法)」が成立し、それとの整合性が求められていること である。
エアバックの不適正処理が増加している原因は、エアバックを適正処理する ためには手間やコストがかかるためである。
以下で、それぞれの不適正処理が増加している現状を詳しく説明する。
まず、
ASR
の不適正処理の起こる要因をELVの処理工程(図1)を見なが ら、詳しく説明したい。(図1)
(出典 産構審第
12
動車リサイクル小委員会資料)ユーザーの手を離れた
ELV
は、そのうちの約95
%(台数)が新車販売店や中 古車販売店、整備事業者の手を経て、解体事業者に引き取られる。解体事業者 はELV
から取られる再使用部品2、再資源化部品3の販売代金と、必要な部品を
2 エンジン、ボディ部品、電装品など。ELVのうち、約20~30%(重量)が再使用部品である。
3 エンジン、触媒、非鉄金属、タイヤなど。ELVのうち、約15%(重量)が再資源化部品である。再使用部品との差 は、再使用部品がリユースされるのに対して、再資源化部品は、人が何らかの手を加えて、リサイクルされる。
取り除いた後の廃車ガラ4をシュレッダー事業者に販売することで収入を得るこ とができるので、
ELV
を有償で引き取る。シュレッダー事業者は、廃車ガラか らくず鉄を取り出し、それを販売して収入を得ることができるので、解体事業 者から廃車ガラを有償で引き取る。くず鉄を取り出した後のASR
は最終処分す る。この時、処分料金を最終処分場に支払う。以上が従来の
ELV
の処理工程とそれに伴う金銭の流れだった。しかし近年、一部のシュレッダー事業者は、解体事業者から逆有償で廃車ガラを引き取るよ うになった。その要因は、最終処分場の逼迫に伴い処分料金が高騰してきたこ と(図2赤線参照)、さらには、シュレッダー事業者の収入源であるくず鉄の価 格が下がってきたこと(図2青線参照)である。そのため、くず鉄を販売して 得られる収入を、処分料金が上回りつつあり、シュレッダー事業者の経営が圧 迫されている。これが逆有償の背景である。
(図2)
(出典 産構審第
12
回自動車リサイクル小委員会資料)逆有償で廃車ガラを引き渡すようになった解体事業者は、自身の経営を圧迫 される。そのため、一部の解体事業者はコストを削減するために、より安く引 き取ってくれるシュレッダー事業者に廃車ガラを引き渡すようになった。しか し、廃車ガラを安く引き取るシュレッダー事業者は、
ASR
を不適正に処理し処
4 エンジン、タイヤ等を取り外した後の外枠だけの状態。ELVのうち、約55~65%(重量)が廃車ガラである。
理料金を安く抑えている業者が多い。
不適正処理を行うシュレッダー事業者に廃車ガラを渡す解体事業者が増えて くると、優良なシュレッダー業者は処理料金が高いために、仕事が来なくなり、
駆逐されてしまう5。
このような状況が近年見られるようになり、また、この状況が悪化すると不 適正処理をするシュレッダー事業者が生き残り、
ELV
の適正処理、リサイクル は促進されない。結果的に、イニシアティブで掲げたリサイクル率の達成は危 ぶまれる。次に、フロン、エアバックの不適正処理が増加している要因を説明する。
フロンの適正処理を行う必要性はイニシアティブでも謳われていた6が、フロ ンの回収・処理を行う解体事業者はこれを積極的には実施していなかった。フ ロンを適正処理するためには、回収したフロンの処理費としてフロン処理業者 に
20kg
ボンベ当たり約15000
円7を支払う必要があったからである。その結果、フロンの回収率は
34%
8と大変低い状況である。しかし2001年6月に、業務用冷凍空調機器及びカーエアコンからのフロ ン類の回収・破壊を義務付ける「特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実 施の確保に関する法律(フロン回収破壊法)」が成立し、この法律と整合性を持 たせる必要が出たため、その対応が急務となっている。
エアバックに関しても、イニシアティブで適正処理を行う必要性は謳われて いたものの、フロン同様、適正処理には多くの手間、コストがかかるために解 体事業者は積極的には取り組んでいなかった。しかし、エアバックを適正処理 せずに廃車ガラをシュレッダー事業者に引き渡すと、シュッレッドする際にエ アバックが爆発してしまい、処理を行うのが危険なために、適正処理を行う必 要性が出ている。
1.2 自動車リサイクル費用徴収の意味と概略
こうした現状を打開するために、現在政府は、ASR、フロン、エアバック のリサイクル・処理費用を自動車ユーザーから徴収することを検討している。
そうなると、鉄スクラップ価格の変動、処理費用の高騰などの
ASR
を巡る経済 情勢に左右されることなく、適正処理、リサイクルへの取り組みが促進される。
5 その他にも、解体事業者によるELVの山積み問題の発生の懸念もされている。一部解体事業者は、シュレッダー事 業者への処理料金の支払いを避けようと、シュレッダー事業者にELVを渡さずに、自分の土地にELVを山積みにして いる。これらが適正処理されなければ、不適正処理、不法投棄されたことと同じである。
6 しかし、義務化はされていない。
7 大橋商店ヒアリングより
8 経済産業省産業構造審議会廃棄物・リサイクル小委員会自動車リサイクルWG資料
優良なシュレッダー事業者も駆逐されないで済む。その結果として、長期的に ASRのリサイクル及び処理が持続的に取り組まれ、リサイクルイニシアティ ブで掲げられたリサイクル率の達成が期待できる。
フロン、エアバックにおいても、適正処理のための費用を徴収できれば、適 正処理が確保できる。
こうして、自動車ユーザーから処理費用を徴収することにより、政府が最も懸 念している逆有償に伴う不適正処理や不法投棄は解決することができる。
2. 使用済み自動車処理システム内部の問題とその対策
不適正処理が増加した理由は、最終処分場の逼迫や鉄価格の下落といった外 部要因だけではない。リサイクルシステム内部の問題もあった。
2.1 使用済み自動車処理システム内部の問題 その問題とは、
① 再資源化事業者の統制がされていない
② 処理工程をチェックするマニフェストが機能していない の二点である。
では、それぞれの問題点とは何か具体的に説明する。
① 再資源化事業者の統制がされていない
従来
ELV
の処理業務を行う再資源化事業者は、行政からの許可を得る必 要が無かったので、行政は再資源化事業者の数や処理方法等を把握・統制で きていなかった。そのため、適正処理ができないシュレッダー事業者や解体 事業者も業務を行うことができ、生き残ることとなった。結果として不適正 処理が増えることになった。つまり、再資源化事業者の処理業務を把握し、統制を行うことが必要なのである。
② 処理工程をモニタリングするマニフェストが機能していない
マニフェストには、処理工程をモニタリングする機能があるはずだった。
しかし、行政がチェックを怠っているために虚偽の記述が可能であった上に 発行されるべき枚数の六分の一しか発行されていなかった。
マニフェストは形骸化していたのである。
2.2 自動車リサイクル法の素案による対策
以下で自動車リサイクル法の素案が上記の問題に対し、どのような対応を考 案しているのか見るとともに私達の考えを述べたい。
上記の二つの問題に対して、自動車リサイクル法案の素案で考案されている 解決手法は主に以下の2点である。
①再資源化事業者の統制
引き取り者、再資源化事業者を登録し、適正処理を行える事業者のみ存続 させる
②処理工程のモニタリング
マニフェスト制度を改正し、引き続き利用する。
以下に詳細を述べ、私たちの考えを述べる。
①再資源化事業者の統制
まず、処理業者の統制であるが、現在はその数や処理工程等、その実態はほ とんど知られておらず、行政の統制が利いていなかった。そこで、自動車リサ イクル法の素案では、再資源化事業者を都道府県知事に管理させること9を考案 している。
政府は環境負荷発生防止などのための処理、管理及び施設に関する登録基準 を定める。都道府県知事はその登録基準に従い、再資源化事業者を選別する。
これにより、適正処理が促進される。
ここで私達は、この登録制度が再資源化事業者を統制する機能を強く持つた めには、以下の二つの点が重要であると考える。
(1)登録基準を厳格にする
(2)登録された事業者を一定期間ごとにモニタリングする
まず登録基準を厳格にする点であるが、これは適正処理を確保するには必要 不可欠である。この登録基準に欠陥があれば不適正処理業者が生き残って引き 続き業務を行えるからである。政府は環境負荷防止の管理体制・施設が整備さ れているか厳格にチェックする必要がある。
次に一度登録を受けた事業者に登録後も継続して適正処理を行わせることが
9 引き取り者に関しても行政から登録を受けることが考えられている。ELV を引き取るものは、行政庁の登録を受け なければ最終ユーザーからELV を引き取ることができず、再資源化事業者へELVを引き渡すことができないことと なる。
必要である。そのためには登録時だけでなく、登録後も一定期間ごとに事業者 をモニタリングすることが重要であると考える。
②処理工程のモニタリング
処理工程のモニタリングであるが、政府はマニフェストを一部改正し、引き 続き使用することを考えている。
しかし私達は、マニフェストを引き続き使用することには疑問を抱いている。
なぜならマニフェスト制度を改正するのであれば、その制度の根本から変えな いとモニタリング機能を発揮しないと考えるからである。マニフェストの問題 点は、必要な枚数が発行されていない上に、行政がチェックを怠っているため に虚偽の記述が可能であることである。
2.3 考察と改正案の提示
私達は、マニフェスト制度を廃止し、国土交通省が管理している道路運送車 両法に基づく自動車抹消登録制度の改正案をさらに拡充して用いることを提案 する。
以下でまず、国土交通省が登録制度をどのように変更することを考案してい るのか、その変更によってどのような効果が期待されるのか考察を加える。
① 今までの登録制度
自動車を管理する手法として、国土交通省が管轄している登録制度がある。
自動車ユーザーは、購入時に道路運送車両法で定められた自動車の登録手続 きを行い、所有権を公証してもらう必要がある。国土交通省は所有者のデータ ベースを管理していた。
自動車ユーザーが使用を中止する際は、この登録を抹消しなければならない。
これにかかる制度を自動車抹消登録制度という。この自動車抹消登録制度には 一時抹消登録制度と永久抹消登録制度がある。
一時抹消登録制度は、登録を受けている自動車の使用を一時中止しようとす るときに登録を抹消する制度である。例えばユーザーが中古車販売店に自動車 を売る場合などに用いられる。自動車ユーザーは、ディーラーが発行できる抹 消登録証明書を陸運支局に持っていくことによって自動車を保有することでか かっていた税の停止、還付を行える。
永久抹消登録制度は、登録を受けている自動車が再び使用できない状態とな り、廃棄する際に登録を抹消する制度である。自動車ユーザーは、解体処理さ れる時点で発行される解体証明書などを陸運支局に持っていくことで登録を抹 消でき、自動車を保有することでかかっていた税の停止、還付を行える。
以上が抹消登録制度の概略であるがこの制度には内在的問題があった。それ は、一時抹消登録を受けた自動車がその後どう使われるか、あるいはどのよう に廃棄されるか把握できなかったことである。これは、二つの要因が相まって 起きた問題であった。
要因の一つは、一時抹消登録を受けた自動車に対しては、再び使用されるま での期間、自動車にかかる税金の納入義務が課されていなかったことである。
もう一つは、一時抹消登録を受けた車が廃棄される際、解体証明書は必要なく、
ディーラーが発行する抹消登録証明書があれば最終所有者は自動車を処理でき たことである。
そのため、一時抹消登録後、どのように自動車が使われようと政府が把握で きなかった。これにより一時抹消登録を受けた車が不法投棄されてもその所在 を把握することができなかった。
② 自動車抹消登録制度の改正案
このような登録制度の内在的問題を解決するため、政府は登録制度の改正を 考案している。改正のポイントは二つある。ひとつは、一時抹消登録10を受けた 自動車は、一定期間自動車にかかる税金納入を免除されるが、一定期間を過ぎ るとその保有者が税金納入の義務を負うことである。二点目は、最終所有者が 自動車を保有することでかかっていた税金を停止・還付するためには、解体証 明書が必要となることである。
この改正案が適用されると、ユーザーの使用後の自動車の所在が把握できる とともに、すべての自動車に解体証明書が発行されることで、どのように廃棄 されるかも把握できるようになる。もし、不法投棄をしてしまったら解体証明 書が発行されないため、税金の停止・還付を行えない。そのため、不法投棄の 防止にもつながる。
③ 考察
さらに、我々は、この解体証明書に処理工程をモニタリングする機能を持た せることを提案する。
現時点でも、国土交通省が提案している自動車抹消登録制度の改正案と自動 車リサイクル法の素案の考案している政府による再資源化事業者の統制により、
ある程度適正処理を証明することができる。それは、政府の定めた登録基準を 満たした再資源化事業者のみが、廃棄される全車両に対し解体証明書を発行す るため、その解体証明書が適正処理をある程度証明するからである。
10 改正案では、一時抹消登録を中古車登録と輸出車登録に分割することを考えている。しかしここでは重要な論点では ないので詳細は割愛させて頂く。
しかし、その解体証明書には処理を行った業者の判子が押されるのみでその 処理工程をモニタリングすることはできない。
そこで、解体証明書にモニタリング機能を持たせれば、全車両が適正処理さ れたことを証明することができる。
これが実施されると解体証明書一枚のみで適正処理を証明できるので、従来 マニフェスト制度にかかっていた莫大なコストを削減することができる。
適正処理の確保のために、そして自動車リサイクルシステムを効率的に運営 するためにも、是非とも実現して欲しいと思う。
こうして、素案で考案されている再資源化事業者の登録制度とその解体証明 書に処理工程をモニタリングする機能を持たせ、その二つを組み合わせること により適正処理が確保されるであろう。それは、行政は適正処理を行う再資源 化事業者にしか業務を行う許可を与えないからであり、優良な解体事業者のみ が解体証明書の発行権を持つからである。そして、解体証明書に適正処理を証 明する機能を持たせることで使用済み自動車の適正処理を確保できると私達は 考える。
(参考)リサイクルシステムの比較
再資源化事業者の統制 処理工程のモニタリング マニフェスト 解体証明書
素案以前 なし 使用 一次抹消(なし)
永久抹消(あり)
素案以後 行政による登録 使用 廃棄される全て
の自動車
我々の案 行政による登録 使用せず 必須
総論
自動車リサイクル法案の素案は、外部情勢の変化と既存のリサイクルシステ ム内部の欠陥により不適正処理が増加したことから必要となった。
外部情勢の変化とは、主に3つある。まず一つ目は、鉄スクラップ価格の下 落と最終処分費用の高騰である。これにより
ASR
が逆有償化し不適正処理が増 加した。二つ目は、フロンが逆有償化したこととフロン回収破壊法の成立であ る。フロンが逆有償化したことで不適正処理が増加した。また、フロン回収破 壊法の成立によりこの法律との整合性を持たせる必要が出た。三つ目は従来注 目されていなかったエアバック処理の危険性に世の注目が集まったことであっ た。リサイクルシステム内部の欠陥には二点あり、再資源化事業者の統制がされ ていなかったことと処理工程のモニタリングがマニフェスト制度でできていな いことであった。こうしたシステムの欠陥により不適正処理の増加を止めるこ とができなかった。
こういった不適正処理の増加を解決するために政府は解決策を主に三つ考案 している。一つは
ASR
、フロン、エアバックの処理にかかる費用を最終ユーザ ーから徴収すること適正処理を確保するという案である。二つ目は適正処理を 行う再資源化事業者のみを行政が登録し、統制するという案である。そして三 つ目は既存のマニフェストを一部改正して引き続き利用することで処理工程の モニタリングを行うという案である。しかし、私達は政府の考案した解決策の一つであるマニフェスト制度の利用 に対して疑問を抱いた。それは、マニフェスト制度の根本に問題があるためで ある。
そこで私達はその代替案として、国土交通省が管轄している自動車抹消登録 制度の改正案を拡充することで処理工程をモニタリングできないかと考えた。
自動車抹消登録制度は、一度使用されなくなった自動車を把握し、管理する ための制度であった。
しかし、この制度には内在する問題があった。それは、一時抹消登録を受け た自動車がその後どう使われるか、あるいはどのように廃棄されるか把握でき なかったことであった。一次抹消登録制度の欠陥により、抹消登録制度が本来 の機能を果たしていなかったのである。
そのため国土交通省は廃棄される全ての自動車に対して永久抹消登録を受け させることを提案し、本来の機能を取り戻そうとしたのである。
そこで私達が注目したのが永久抹消登録を受ける際に発行される解体証明書 である。登録制度の改正案が実現されれば、解体証明書は廃棄される全ての自
動車に発行される。この解体証明書に処理工程をモニタリングする機能を持た せることで全ての自動車が適正処理されたことを証明できると考えたのである。
さらに、これが実施されると解体証明書一枚のみで適正処理を証明できるの で、従来マニフェスト制度にかかっていた莫大なコストを削減することができ る。
こうして、政府が考案している
ASR
、フロン、エアバックの処理にかかる費 用の徴収と、再資源化事業者を統制することを実現することで適正処理はある 程度確保される。その上で、解体証明書に処理工程をモニタリングする機能を 持たせることで適正処理がさらに確保されるということで私達の結論とする。以上が我々のリサイクル法案の素案に対する提案であった。私達の提案が自 動車の適正処理を促進することに効果を発揮することを期待しこの論文を締め くくりたいと思う。
《現在の状況》
最終ユーザー
路 上 放 棄
登 録 制 度 で対応
解体事業者
シュレッダー事 業者
最終処分 埋立
有 用 部 品
・ 有 用 金 属 等 市 場 逆有償
シュレッダーダスト
使用済み自動車の流れ 金銭の流れ
極小化
自動車リサイクル 法で対応
不法投棄 ディーラー
中古車販売店
《リサイクル法案素案での使用済み自動車とそれに伴う金銭の流れ》
フロン・エアバック
引き取り リユース部品等
フロン・エアバック の回収料金
求めに応じた 金属等 ASRの引き取り
ASR リサイクル委託 金属等 最終ユーザー
引取者 登録
再 資 源 化 事 業 者 登録
解体業者
シュレッダ ー業者
ASR リ サ イ ク ル 業
有 用 部 品 市 場
・ 有 用 金 属 等 市 場 資金管理法人
極小化 使用済み自動車の流れ 金銭の流れ
最終処分 埋立
自 動 車 製 造 業 者 ・輸 入 業 者
新車ユーザー
《お世話になった方々》
一橋大学大学院経済学研究科 阿部新様
社団法人日本自動車工業会 環境統括部統括部長 今城高之様 株式会社大橋商店 代表取締役 大橋岳彦様
有限会社昭和メタル 代表取締役 栗原裕之様
日本自動車リサイクル部品販売団体協議会 顧問 竹内啓介様 一橋大学大学院経済学研究科 貫 真英
一橋大学大学院経済学研究科 平岩幸弘様 トヨタ自動車株式会社 環境部長 益田清様
株式会社自動車リサイクルリサーチセンター 代表取締役 山口徳行様
(五十音順)
《参考文献》
・ 産業構造審議会環境部会廃棄物・リサイクル小委員会自動車リサイクルワーキンググ ループ 第一回〜第十三回 配布資料並びに議事要旨
・ 中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会自動車リサイクル専門委員会 第一回〜第七回 議事要旨並びに議事録
・ 『メルセデス・ベンツに乗るということ』 赤池学 金谷年展 日経ビジネス人文庫
・ 三田学会雑誌 94 巻1号 「家電・自動車リサイクルシステムの日本・韓国・台湾比較 研究」 外川健一 村上理映 慶應義塾経済学会
・ 『循環型社会実行元年 法制度と3Rの動向』 2001年 財団法人クリーンジャパンセン ター
・ トヨタ自動車株式会社 『環境白書2000』トヨタ自動車株式会社環境部
・ トヨタ自動車株式会社 『環境白書2001』トヨタ自動車株式会社環境部
・ 『カーエアコン用フロン類の回収・処理の仕組み』 財団法人自動車リサイクル促進 センター
・ 使用済み自動車リサイクル・イニシアティブ 平成9年5月23日 通商産業省
・ 本田技研工業株式会社 『Honda環境年次レポート2001』
本田技研工業株式会社環境安全企画室
・ 「EPRに関するOECDガイダンスマニュアルについて」 山口光恒 三田学会雑 誌94巻1号
・ 『リデュース・リユース・リサイクル(3R)』 財団法人クリーンジャパンセンター
・ 『自動車とリサイクル 自動車産業の静脈部に関する経済地理学的研究』 外川健一 日 刊自動車新聞社
・ 「使用済み自動車処理システムへの提言〜認証機関と拡大生産者責任〜」 山口光恒
研究会第四期自動車パート
・ クオータリーてつげん 社団法人日本鉄源協会
・ 「自動車廃棄物班論文 Inspire the Future」 山口光恒研究会第五期自動車パート
・ 『自動車解体現場見学会報告書』
《インターネットリソース》
・ 経済産業省産業構造審議会環境部会廃棄物・リサイクル小委員会自動車リサイクルWG 配布資料並びに議事要旨
http://www.meti.go.jp/report/committee/index.html
・ 環境省中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会自動車リサイクル専門委員会議事要旨 並びに議事録
http://www.env.go.jp/council/03haiki/yoshi03.html#01
・ 日本自動車工業会
http://www.jama.or.jp/indexJ.html