【令和元年度 日本保険学会全国大会】
シンポジウム「保険法10年の経験と今後の課題」
報告要旨:遠山 優治
1
保険法制定後の監督規制の動向と私法上の課題
-生命保険実務の立場から-
日 本 生 命 保 険 相 互 会 社 遠 山 優 治
1 . は じ め に
保 険 法 で は 、 保 険 契 約 者 等 の 保 護 の た め の 規 定 の 整 備 や モ ラ ル リ ス ク 等 の 防 止 の た め の 規 定 の 新 設 が 行 わ れ た が 、 金 融 審 議 会 に お い て も 保 険 法 改 正 へ の 対 応 に つ い て 検 討 さ れ て お り 、 ま た 、 保 険 法 制 定 後 も 継 続 的 に 問 題 点 の 検 討 が 行 わ れ 、 保 険 業 法 の 改 正 等 が 行 わ れ て い る 。 そ の 中 に は 、 保 険 法 で は 対 応 が 見 送 ら れ た 論 点 に 関 し て 新 た な 規 制 を 設 け る も の が あ り 、 さ ら に 、 翻 っ て 私 法 領 域 に 新 た な 論 点 を 提 示 す る も の も 存 在 す る 。 そ こ で 、 保 険 法 制 定 後 の 生 命 保 険 会 社 の 実 務 を 巡 る 監 督 規 制 の う ち 、 ① 傷 害 ・ 疾 病 保 険 に 関 す る 規 定 ( 不 妊 治 療 保 険 )、② 生 命 保 険 お よ び 傷 害 疾 病 定 額 保 険 に お け る 保 険 給 付 の 内 容 と し て の 現 物 給 付 ( 直 接 支 払 い サ ー ビ ス )、 に 関 す る 議 論 の 状 況 に つ い て 振 り 返 る と と も に 、 私 法 ( 保 険 法 ) の 観 点 か ら そ の 現 状 と 課 題 に つ い て 検 討 す る 。
2 . 不 妊 治 療 保 険 ( 傷 害 ・ 疾 病 保 険 の 定 義 )
保 険 法 で は 、 い わ ゆ る 傷 害 疾 病 保 険 に 関 す る 規 定 を 新 設 し 、 人 の 傷 害 や 疾 病 に よ っ て 生 ず る こ と の あ る「 損 害 を て ん 補 す る 」も の を 傷 害 疾 病 損 害 保 険 契 約 、 生 じ た 損 害 に 関 係 な く 「 一 定 の 保 険 給 付 を 行 う 」 も の を 傷 害 疾 病 定 額 保 険 契 約 と し て 規 定 し て い る(2条 7号 、9号 )。た だ し 、「 傷 害 」や「 疾 病 」の 定 義 は 定 め て い な い 。
日 本 生 命 で は 、2016 年 10 月 に 出 産 サ ポ ー ト 給 付 金 付 3 大 疾 病 保 障 保 険 を 発 売 し て い る 。特 定 不 妊 治 療 給 付 金 の 支 払 事 由 は 、「 被 保 険 者 が 所 定 の 特 定 不 妊 治 療 ( 被 保 険 者 の 妊 娠 を 直 接 の 目 的 と し た 、 体 外 受 精 ・ 顕 微 授 精 の 治 療 過 程 で 受 け た 採 卵 ま た は 胚 移 植 ) を 受 け た と き 」 と さ れ て い る 。
保 険 業 法 で は 、 原 因 が 特 定 で き な い 場 合 の 不 妊 状 態 等 に つ い て 、 こ れ を 「 疾 病 等 に 類 す る 事 由 」 と し て 施 行 規 則 で 定 め る こ と に よ り 、 保 険 業 の 対 象 と な る こ と を 明 確 に し た が 、 一 方 、 こ れ ら を 対 象 と す る 保 険 に 関 す る 契 約 が 、 保 険 法 上 の 傷 害 疾 病 定 額 保 険 契 約 に あ た る か 否 か が 問 題 と な り 得 る 。 こ の 点 、 保 険 契 約 者 等 の 保 護 の 観 点 か ら 保 険 法 は 広 く 適 用 さ れ る よ う 解 す べ き で あ り 、 保 険 業 法 に お け る 「 疾 病 」 と は 異 な り 、 保 険 法 に お け る 「 疾 病 」 に は 広 く 、 原 因 が 特 定 で き な い 場 合 の 不 妊 状 態 等 も 含 ま れ 、 こ れ ら を 対 象 と す る 保 険 に 関 す る 契 約
【令和元年度 日本保険学会全国大会】
シンポジウム「保険法10年の経験と今後の課題」
報告要旨:遠山 優治
2
は 、 保 険 法 上 の 傷 害 疾 病 定 額 保 険 契 約 に あ た る と 解 す べ き も の と 考 え ら れ る 。
3 . 直 接 支 払 い サ ー ビ ス ( 現 物 給 付 )
保 険 法 で は 、 生 命 保 険 契 約 お よ び 傷 害 疾 病 定 額 保 険 契 約 に つ い て 、 保 険 給 付 の 内 容 を 金 銭 の 支 払 に 限 定 し て い る (2 条 1号 )。
一 方 、直 接 支 払 い サ ー ビ ス は 、「 保 険 会 社 が 特 定 の 財・サ ー ビ ス を 提 供 す る 提 携 事 業 者 を 顧 客 に 紹 介 し 、 顧 客 が 提 携 事 業 者 か ら の 財 ・ サ ー ビ ス の 購 入 を 希 望 し た 場 合 に 、 保 険 金 を 受 取 人 で は な く 当 該 事 業 者 に 対 し て そ の 代 金 と し て 支 払 う も の 」 と さ れ る が 、 そ の う ち 、 保 険 業 法 上 、 情 報 提 供 や 体 制 整 備 が 義 務 づ け ら れ る の は 、「 保 険 募 集 時 に あ ら か じ め 直 接 支 払 い サ ー ビ ス を 受 け る こ と が で き る 旨 及 び 当 該 財 ・ サ ー ビ ス の 内 容 ・ 水 準 に つ い て 説 明 し 、 顧 客 の 保 険 契 約 締 結 の 重 要 な 判 断 材 料 と な る 場 合 」 と さ れ て い る 。
現 在 、 生 命 保 険 会 社 が 行 う 直 接 支 払 い サ ー ビ ス と し て 、 先 進 医 療 給 付 金 の 医 療 機 関 へ の 直 接 支 払 い サ ー ビ ス が あ り 、 ま た 、 少 額 短 期 保 険 業 者 の 中 に は 、 葬 儀 保 険 ( 死 亡 保 険 金 ) に つ い て 提 携 事 業 者 ( 葬 儀 社 ・ 埋 葬 事 業 者 ) へ の 直 接 支 払 い サ ー ビ ス を 行 う 会 社 が あ る 。
直 接 支 払 い サ ー ビ ス に お い て 、 財 ・ サ ー ビ ス を 提 供 す る の は あ く ま で も 提 携 事 業 者 で あ る こ と か ら 、 保 険 会 社 は 、 提 携 事 業 者 に 関 す る 紹 介 者 の 責 任 を 負 う 可 能 性 は あ る も の の 、 当 該 財 ・ サ ー ビ ス 提 供 の 「 当 事 者 と し て 」 債 務 不 履 行 等 の 責 任 を 負 う こ と は な い と 考 え ら れ る 。 金 融 機 関 の 提 案 型 融 資 に お け る 紹 介 者 責 任 に 関 す る 判 例 1の 枠 組 み に よ れ ば 、 直 接 支 払 い サ ー ビ ス に お け る 保 険 会 社 の 責 任 に つ い て は 、 保 険 業 法 上 、 保 険 会 社 に 情 報 提 供 義 務 が 課 せ ら れ て い る こ と に 加 え 、 保 険 会 社 と サ ー ビ ス 提 供 事 業 者 と の 間 に 提 携 関 係 が あ る 一 方 、 保 険 事 故 の 発 生 に は 偶 然 性 が あ り 、 か つ 、 保 険 事 故 の 発 生 や サ ー ビ ス の 提 供 が 保 険 契 約 の 締 結 か ら 一 定 期 間 経 過 後 と な る こ と 、 ま た 、 保 険 事 故 発 生 時 に 改 め て 保 険 金 の 受 け 取 り を 選 択 す る こ と が で き 、 そ の 旨 の 説 明 が 改 め て 行 わ れ る こ と を 踏 ま え 、 個 別 事 案 に お い て 、 保 険 会 社 が サ ー ビ ス 提 供 に ど の 程 度 積 極 的 に 関 与 し た と 評 価 さ れ る か 、 ま た 、 保 険 業 法 上 の 情 報 提 供 義 務 が ど の よ う に 果 た さ れ た か な ど の 事 情 が 総 合 的 に 判 断 さ れ る こ と と な る と 考 え ら れ る 。
4 . お わ り に
以 上
1 最 判 平 成 15年 11月 7 日 裁 判 集 民 事 211号337頁 、最 判 平 成 18年6月12日 裁 判 集 民 事 220 号403頁 。