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国産カンキツ類に多いβ-クリプトキサンチンと機能性食品の開発

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はじめに

β-クリプトキサンチンは日本のウンシュウミカン(以 下,ミカン)に特徴的に多く含まれているカロテノイド 色素である.近年の欧米人を対象にした疫学研究から,

β-クリプトキサンチンはカロテノイドのなかでも特に肺 がんリスクの低減効果が認められたとする報告が相次ぐ など,β-クリプトキサンチンに際立った新たな生体調節 機能がいくつか報告されるようになってきた.当研究部 門では,ミカンの摂取がどのような生活習慣病の予防に 役立つかを明らかにするために,国内有数のミカン産地 である静岡県三ヶ日町の住民を対象にした栄養疫学調査

(三ヶ日町研究)を平成15年度から行ってきた.本稿で は,β-クリプトキサンチンの生活習慣病予防効果に関す る三ヶ日町研究の知見と機能性表示食品としてのミカン の有用性について紹介する.

カンキツに含まれる機能性成分

カンキツ類は生薬の原料として用いられることからわ かるように,生体調節機能を有する成分に富む果実と云 える.これまでさまざまな物質がカンキツ類から単離同 定され,種々の機能性評価が行われてきた(図1.カ ンキツ類に由来する化合物類には,①事実上,カンキツ 類にしか見いだされない化合物群があること,②その化

合物群はカンキツ類に特有ではないがカンキツ類に特有 で特殊な化学構造を有していること,③カンキツ類を特 徴づける化合物群があること,などの特徴がある.

1. フラボノイド

カンキツ類には,①ルチン・ケルセチンのような一般 的なフラボノイド,②ヘスペリジン・ナリンギンのよう なカンキツ特有のフラバノン,③ほかの野菜や果実には 見られないタンゲレチン・ノビレチンのようなポリメト キシフラボノイドがある.②のグループに分類されるヘ スペリジンの毛細血管強化作用や抗酸化作用,がん細胞 の増殖阻害作用,循環器系疾患予防作用,抗炎症・抗ア レルギー作用が報告されている.また近年の研究から,

③のグループに分類されるポリメトキシフラボノイドに はがん細胞の浸潤・転移を抑制する作用,がん細胞のア ポトーシスを誘導する作用が明らかとなっている.

2. カロテノイド

カンキツ類は,β-カロテン,β-クリプトキサンチン,ゼ アキサンチン,ビオラキサンチンをはじめ多種類のカロ テノイドを含んでいる.特にβ-クリプトキサンチンはミカ ンに圧倒的に多く含まれ,最近ではEBV活性化抑制試験 による発がんプロモーションの抑制効果がカロテノイド の中ではトップクラスで,β-カロテンよりも強い活性が認 められている.さらに動物実験では,皮膚・大腸・肺な

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

セミナー室

機能性農産物開発-4

国産カンキツ類に多いβ-クリプトキサンチンと機能性食品の開発

生鮮物で初めての機能性表示食品

杉浦 実

農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門

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どでの発ガン抑制作用が認められている.

3. クマリン

カンキツクマリン類は野菜・果実類に多く含まれ,こ れまで解毒酵素の誘導作用と原発がん物質との拮抗作用

による代謝活性化抑制作用により発がんのイニシエー ション段階を抑制することが明らかとなっている.一 方,カンキツ特有のクマリン類はこれまでに検討されて きたクマリン類に比べて多様な構造を有しており,特に オーラプテンが解毒酵素の誘導作用と活性酸素産生系の

図1カンキツ類に含まれる主要な機能性成分

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日本人にとって昔から最も馴染み深い果物といえ ばウンシュウミカン(以下,ミカン)ですが,以前の ように冬場はこたつにミカンという光景があまり見 られなくなりました.ミカンの生産量も最盛期だっ た70年代に比べると4分の1ほどまでに減少していま す.「ミカンが色づくと医者が青くなる」ということ わざがありますが,ミカンにはビタミンCが豊富で,

昔から風邪の予防にいいと言われています.ミカン が橙色に色づくのはβ-クリプトキサンチンというカロ テノイド色素によるもので,たくさん食べると手が黄 色くなるのはこの色素が皮下脂肪に溜まりやすいた めです.近年,β-クリプトキサンチンにはプロビタミ ンAとしての働き以外にも,がんや循環器系疾患,

糖尿病などの生活習慣病に対する予防効果など,新 たな生体調節機能が次々と明らかになってきました.

一方,2015年4月より,消費者庁において「新たな食 品の機能性表示制度」が始まりました.本制度ではミ カンなどの生鮮物にもその科学的根拠を示せれば事 業者の責任で機能表示が可能になります.今後,生 鮮物の消費拡大のための大きな起爆剤になることが

期待されます.生鮮物としてのミカン,あるいは果 汁飲料などの一次加工品については,これまで得ら れた研究データにより,本制度への申請が可能にな ります.今回の表示制度では当初からミカンが最も 可能性の高い生鮮食品と期待されており,JAみっか びでは早くから申請に向けての準備が行われました.

そして2015年9月8日には生鮮物では初めて機能性表 示食品として消費者庁に登録されました(受付番号 A79).同シーズンの早生ミカンから,段ボールなど の包装資材に「本品にはβ-クリプトキサンチンが含ま れています.β-クリプトキサンチンは骨代謝の働きを 助けることにより骨の健康に役立つことが報告され ています」と表記して販売が開始しています.現在,

JAみっかびを含めて4農協が機能性表示食品として 受理登録されています.ミカンで表示している機能 性はまだ骨関係のみですが,今後,三ヶ日町研究の 10年後調査の論文を科学的根拠として,骨だけでな く糖尿病や肝機能など,さらに幅広いヘルスクレー ムが可能になり,本表示制度を活用することで,今 後さらにミカンの消費拡大につながることが期待さ れます.

コ ラ ム

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抑制作用の複合的な作用により発がんが抑制されること が明らかになっている.

4. テルペン

カンキツ類にはリモネンをはじめとする多くのモノテ ルペンを含み,カンキツ特有の芳香はこれらのテルペン 類によるものである.リモネンなどによるカンキツ系の 香りはアロマテラピーの面から注目され,鎮静化作用や ストレスの軽減効果などが明らかにされている.リモネ ンの発がん抑制効果についても多くの検討が行われてい る.

5. リモノイド

カンキツ中には配糖体として存在しており,果汁飲料 の苦味成分としてのみ認識されてきたが,近年では発が ん抑制効果が明らかになり注目を集めている.DMBA/

TPAによる発がん誘発系を用いた検討から,肺・胃・

口腔内での腫瘍形成を顕著に抑制し,その作用機序とし て解毒酵素の誘導促進作用が明らかになっている.

これらカンキツ類に含有される機能性成分のなかで も,近年,β-クリプトキサンチンの生体調節機能に関す

る研究が進展している.β-クリプトキサンチンは日本の ミカンに特徴的に含まれるカロテノイド色素であり(図 2,近年の欧米人を対象にした疫学研究から,肺がんや 糖尿病に対する予防効果など新たな生体調節機能が数多 く報告されるようになってきた.しかしながらミカンを 食べる習慣を有さない欧米人のβ-クリプトキサンチン摂 取量は日本人に比べて極めて微量である.本稿では,農 研機構果樹茶業研究部門がミカン産地の住民を対象にし て現在取り組んでいる栄養疫学調査(三ヶ日町研究)で 得られた,血中β-クリプトキサンチンレベルと疾患リス クとの関連についての知見を紹介する.

日本人の血中β-クリプトキサンチンレベル

カロテノイドは果物・野菜に多く含まれている天然色 素成分で,これまでにおよそ750種類が単離同定されて いる.ヒトは普段の食生活においてさまざまな食品から カロテノイドを摂取しているが,血中に存在する主要な カロテノイドには,リコペン・α-カロテン・β-カロテ ン・ルテイン・ゼアキサンチン・β-クリプトキサンチン の6種がある.このうち体内でビタミンAに変換される のはα-カロテン・β-カロテン・β-クリプトキサンチンの 3つでる.

ヒト血中に存在する主要なカロテノイド6種のうちβ- クリプトキサンチンの生体調節機能に関する研究につい てはβ-カロテンやリコペンなどに比較して著しく遅れて いる.β-クリプトキサンチンは日本のミカンに高濃度で 含まれるが,わが国のようにミカンを日常的に食す習慣 がない諸外国では血中や母乳中のβ-クリプトキサンチン 濃度が低く,ほかのカロテノイドほど重要視されなかっ たのではないだろうか.わが国ではミカンが最も消費量 の多い国産果樹であるが,β-クリプトキサンチンの摂取 量や血中濃度の高い人が諸外国とは比較にならないほど 図2カンキツ果実中のβ-クリプトキサンチン含有量

図3ミカンの摂取量と血中β-クリプトキサンチ ン濃度−ミカン産地住民と他の地域との比較

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多いと考えられる.そのため,β-クリプトキサンチンが 日本人の健康維持・増進に大きく貢献してきたのではな いかと推察される.

われわれはミカン産地の住民を対象にした調査から,

血中β-クリプトキサンチンレベルがミカンの摂取頻度に 依存して著しく上昇することを報告した(1)β-クリプト キサンチンはミカンに特徴的に多く含まれているが,オ レンジにはミカンの10分の1程度以下しか含まれていな いため,ミカン産地住民の血中レベルは欧米での報告に 比べて極めて高い(図3.さらにわれわれは血中β-クリ プトキサンチン濃度の年内季節変化と食生活習慣との関 連について1年間にわたり調査したところ,血中β-クリ プトキサンチン濃度に影響する要因は食品ではミカンの みであること,またミカンの摂取量以外の要因では,年 齢・性・喫煙習慣・飲酒習慣・肥満度が影響しているこ とを明らかにした(2).また2カ月前のミカン摂取量も有 意に影響していることから,β-クリプトキサンチンの体 内における半減期が極めて長いことが推察された.

三ヶ日町研究からの知見

三ヶ日町研究は2003年に開始した第1次調査と2005 年から開始した第2次調査からなるコホートで,総計 1,073名の協力者からなる.これまでの調査開始時に収 集したベースラインデータを用いた横断解析の結果か ら,ミカンをよく食べ血中β-クリプトキサンチンレベル が高い人では,①飲酒による肝機能障害のリスク(3)

②高血糖による肝機能障害リスク(4),③動脈硬化のリス ク(5),④インスリン抵抗性(インスリンの働きが悪くな る状態)のリスク(6),⑤閉経女性での骨粗しょう症のリ

スク(7, 8),⑥メタボリックシンドロームのリスク(9),⑦

喫煙・飲酒による酸化ストレスのリスク(10)などが有意 に低いことが明らかになっている.これらの研究は,結 果(病気の有無)と原因(ミカンや血中β-クリプトキサ ンチン)を同時に調査解析しているので,結果が先なの か原因が先なのかは不明であり,ただ相関が確認された に過ぎない(横断研究の限界).そのため,β-クリプト キサンチンが病気を予防したのかを明らかにするために は,次に縦断研究により検討する必要がある.つまり健 康な人だけを選び出し,その後何年間も追跡調査を行 い,その人たちの病気の発症率がミカンをよく食べてい た人とそうでない人とでどのような差がでるかを比較検 証する必要がある.三ヶ日町研究では開始当初から10 年間の追跡調査を目標にして,ベースライン調査以降も 協力者の健康状態の変化を毎年調べるという作業を繰り

返し取り組んできた.そして10年間の追跡調査から 数々の新たな知見が得られた.

1. 閉経女性での骨粗しょう症の発症リスクとβ-クリプ

トキサンチンの関係

三ヶ日町研究の横断研究から,血中β-クリプトキサン チンレベルが高い閉経女性では有意に骨密度が高いこと がすでに判明している(7, 8).そこでベースライン調査の 時点で骨粗しょう症を有さない人だけを対象に追跡調査 を行ったところ,血中のβ-クリプトキサンチンが高濃度 のグループにおける骨粗しょう症の発症リスクは,低濃 度のグループを1.0とした場合0.08となり,統計的に有 意に低い結果であった(図4.またこの関連は,ビタ ミンやミネラル類の摂取量などの影響を取り除いても統 計的に有意であった.同様にβ-カロテンにおいても血中 濃度が高いグループほど発症リスクが低くなる傾向が認 められたが,有意な結果ではなかった(11).またβ-クリプ トキサンチンによる骨粗しょう症の発症リスク低下には ビタミンC摂取量の関与も大きいことが判明した(12)

2.2型糖尿病の発症リスクとβ-クリプトキサンチンの 関係

インスリン抵抗性はインスリン分泌低下とともに,糖 尿病の発症や状態に大きくかかわっており,特にインス リン非依存型糖尿病(2型糖尿病)患者で重要な病態で ある.現在糖尿病でなくてもインスリン抵抗性が高い人 ではそうでない人に比べて糖尿病に罹る率が高くなるこ とが近年の疫学研究から明らかとなっており,またイン スリンの過剰な分泌は血圧の上昇や脂質代謝の異常も引 き起こし,動脈硬化を引き起こす原因にもなる.これま で三ヶ日町研究の横断研究から,血中β-クリプトキサン チンレベルが高い被験者ではインスリン抵抗性のリスク

図4血中β-クリプトキサンチンレベル別に見た4年間での骨

粗しょう症発症リスク

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が有意に低いことが明らかになっている(6).そこで調査 開始時にすでに糖尿病(空腹時血糖値が126 mg/dL以 上)であった被験者を除き,調査開始時の血中β-クリプ トキサンチン値と2型糖尿病の発症リスクとの関連につ いて調べたところ,血中β-クリプトキサンチン濃度が高 かったグループでは低かったグループに比べて2型糖尿 病の発症リスクが約57%低くなることがわかった(13)

(図5

果物はその甘さゆえに高糖・高カロリーと誤解される ことが多く,糖尿病には良くないと捉えられることが多 いが,実際には大半が水分であり,むしろ低カロリー食 品と言える.β-クリプトキサンチンの豊富なミカンを積 極的に食べることで糖尿病の予防につながるかもしれな いたいへん貴重な知見と言える.

3. 肝機能異常症の発症リスクとβ-クリプトキサンチン

の関係

これまで三ヶ日町研究の横断研究から,血中β-クリプ トキサンチンレベルが高い被験者では,飲酒が原因によ る血中γ-GTP高値のリスク(3),および高血糖者での血中 ALT値高値のリスク(4)が有意に低いことがこれまでに 明らかになっている.そこでベースライン調査の時点で 肝機能が正常な被験者を対象にその後10年間にわたり 追跡調査を行った.その結果,ベースライン時の血中β- クリプトキサンチンレベルが高かったグループでは,肝 機能異常症(血中高ALT値)の発症リスクが約49%低 下することが判明した(14)(図6

4. その他の知見

上記以外にも,ベースライン時に血中β-クリプトキサ ンチンレベルが高かった者では,上腕‒下肢動脈間の脈 波速度で評価した動脈硬化の発症リスク,また脂質代謝

異常症の発症リスク等が有意に低下することが明らかに

なった(15, 16)β-クリプトキサンチンの豊富なミカンの摂

取は,これら生活習慣病の発症リスク低下に有効である 可能性が示唆された.

機能性表示食品としてのミカン

平成27年4月より,消費者庁において「新たな食品の 機能性表示制度」が開始された.本制度ではミカンなど の生鮮物にもその科学的根拠を示せれば事業者の責任で 機能表示が可能になり,今後,生鮮物の消費拡大のため の大きな起爆剤になることが期待されている.

本制度のガイドライン(機能性表示食品の届出等に関 するガイドライン平成27年3月30日制定(消食表第141 号) 平 成28年3月31日 改 正(消 食 表 第234号)) で は(17),「サプリメント形状の加工食品を販売しようとす る場合は,摂取量を踏まえた臨床試験で肯定的な結果が 得られていること,また,その他加工食品及び生鮮食品 を販売しようとする場合は,摂取量を踏まえた臨床試験 又は観察研究で肯定的な結果が得られている必要があ る.ただし,観察研究については原則として縦断研究

(前向きコホート研究や症例対照研究等)のみを対象と する.観察研究のうち,横断研究については因果の逆転 が生じやすいため,横断研究を用いる場合は原則とし て,機能性関与成分による臨床試験との組み合わせ等に より機能性を実証することが求められる.」とされてい る.つまり果物・野菜などの生鮮物では疫学研究で肯定 的な結果が得られていれば,機能性表示食品として販売 できることになる.生鮮物としてのミカン,あるいは 100%果汁などの一次加工品については,これまで蓄積 されてきた数多くの科学的知見により,本制度への申請 が可能になる.今回の表示制度では当初からミカンが最

図5血中β-クリプトキサンチンレベル別に見た2型糖尿病の

発症リスク 図6血中β-クリプトキサンチンレベル別に見た肝機能異常症 の発症リスク

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も可能性の高い生鮮食品と期待されており,静岡県浜松 市のJAみっかびでは早くから,「骨の健康維持に役立 つ」というヘルスクレームでの申請に向けて準備が行わ れた.

1. ミカン中のβ-クリプトキサンチン含有量

興津早生および青島温州ミカン中のβ-クリプトキサン チン含有量について,特秀・秀・優・良の4等級を分析 した結果,いずれもβ-クリプトキサンチン含有量は正規 分布を示した.等級の高いミカン程糖度は高く,またβ- クリプトキサンチン含有量も有意に高いことがわかった

(表1.糖度とβ-クリプトキサンチン含有量の相関分析 を行ったところ,有意な正相関を示した(図7 =0.687, 

<0.001).現在,多くのミカン産地では光センサー非 破壊選果機が導入されているが,光センサーによる糖度 選別はβ-クリプトキサンチン含有量を全数検査すること にほぼ等しいと考えられ,光センサー選果機による選果 がβ-クリプトキサンチン含有量の保証に有効であること が判明した.

現在,全国の主要な産地におけるミカン中のβ-クリプ トキサンチン含有量について調査を行っているが,ミカ ンであれば品種にかかわらずどの産地のミカンでも一定 量以上のβ-クリプトキサンチンが含まれること,またそ

の重量当たりの含有量(mg/100 g)は糖度と高い相関 関係にあり(相関係数 =0.7242,  <0.001),果実の大き さとは有意に関連しないことも明らかになった.そのた め,糖度が一定基準より低いミカンを規格外として除外 することにより,機能性表示の対象となる商品のβ-クリ プトキサンチン含有量を担保することが可能になる.

JAみっかび産の興津早生および青島温州を機能性表 示食品として消費者庁に申請するため,1日当たりどれ くらいの量のミカンを摂取すれば骨代謝への効果が期待 できる3 mgのβ-クリプトキサンチンを摂取できるかに ついて検討したところ,最もβ-クリプトキサンチン含有 量の低い興津早生の良品でも可食部として270 g(中心 階級のMサイズをおよそ3個)摂取すれば3 mgのβ-ク リプトキサンチンを摂取できることがわかった(表2 興津早生の良品よりも糖度の高い等級(優・秀・特秀), および青島温州(すべての等級)にはいずれもより多く のβ-クリプトキサンチンを含有していることから,JA みっかび産のすべてのミカン(興津早生および青島温州 のすべての等級)を機能性表示食品として申請可能であ ることがわかった.

通常,生鮮農産物中の機能性成分含有量はその栽培条 件や収穫時期,産地で異なり,また貯蔵・流通段階でも 変動することが予想され,その含有量を保証することは 極めて難しいことが予想される.ミカン中のβ-クリプト キサンチンのように,機能性関与成分の含有量が非破壊 センサーなどで推定できる指標と相関する場合は含有量 の保証も比較的容易であるが,そうでない場合であって も一定量のサンプリング検査を実施することで統計学的 にその含有量を保証することは可能である.農林水産省 のホームページ上で,農林水産物の機能性表示に向けた 技術的対応として,サンプリング検査の方法について詳 細な解説が公開されているので参照されたい(18)

2. 生鮮物では初めての機能性表示食品として受理 JAみっかびから申請した「三ヶ日みかん」が,2015 年9月8日に生鮮物では初めて機能性表示食品として消 費者庁に登録された(受付番号A79).2015年の早生ミ カンから,段ボールなどの包装資材に「本品にはβ-クリ 表1興津早生のβ-クリプトキサンチン含有量

等級 含有量(mg/100 g) 糖度(Brix)

特秀 平均 1.80 12.5

標準偏差 0.15 0.5

平均 1.68 11.4

標準偏差 0.16 0.4

平均 1.54 10.9

標準偏差 0.22 0.6

平均 1.29 9.8

標準偏差 0.14 0.4

図7β-クリプトキサンチン含有量と糖度との関係

表2興津早生ミカン270 g当たりのβ-クリプトキサンチン含有

量と95%下限値

特選品 秀品 優品 良品

平均値 4.85 4.54 4.17 3.49 標準偏差 0.19 0.19 0.25 0.16 95%下限値 4.57 4.22 3.75 3.22

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プトキサンチンが含まれています.β-クリプトキサンチ ンは骨代謝の働きを助けることにより骨の健康に役立つ ことが報告されています」と表記して販売が開始してい る.また加工品についても(株)えひめが開発したβ-クリ プトキサンチン高含有ミカン果汁「POMアシタノカラ ダ」も機能性表示食品として登録された(受付番号 A105).その後,各産地での取り組みも広がり,2017年 6月の時点で,生鮮物のミカンではJAみっかび以外に もJAとぴあ浜松,JA清水,JA南駿が受理登録されて いる.また100%果汁飲料で2件,サプリメント形状の 加工食品では2件が受理登録されている.本表示制度を 活用することで,今後さらに,機能性を有する生鮮農作 物の消費拡大につながることが期待される.

おわりに

現在,各産地におけるミカン中のβ-クリプトキサンチ ン含有量について調査を行っているが,産地間および品 種間において多少の差は認められるものの,早生および 晩生品種であればミカン3個程度で十分な量のβ-クリプ トキサンチンを摂取できることが明らかとなり,いずれ も機能性表示食品として申請できることがわかってき た.糖度が低い極早生品種については優品などの等級の 高いミカンに限り申請が可能と考えられる.光センサー 選果機による選別を行うことでβ-クリプトキサンチン含 有量を保証することが可能であり,光センサー選果機が 導入されている産地のミカンであれば機能性表示食品と して申請が可能であると考えられる.また光センサー選 果機が導入されていない産地でも,一定量のサンプリン グ試験を行えば機能性表示食品としての申請は十分に可 能と考えられる.また三ヶ日町研究の10年後調査から,

骨粗しょう症以外にも糖尿病や肝機能異常症,脂質代謝 異常症,動脈硬化症などについてもリスク低下が明らか になっており,今後さらに幅広いヘルスクレームが可能 になると期待される.本表示制度を積極的に活用するこ とで,今後さらにミカンの消費拡大につながることを期 待したい.

文献

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15)  M.  Sugiura,  M.  Nakamura,  K.  Ogawa,  Y.  Ikoma  &  M. 

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16)  M.  Nakamura,  M.  Sugiura,  K.  Ogawa,  Y.  Ikoma  &  M. 

Yano:  , 26, 808 (2016).

17)  消費者庁:機能性表示食品の届出等に関するガイドライ ン,平成27年3月30日制定(消食表第141号)平成28年 3月31日改正(消食表第234号).

18)  農林水産省技術会議:農林水産物の機能性表示に向けた 技術的対応について,http://www.s.affrc.go.jp/docs/ki- nousei̲pro/reference.htm

プロフィール

杉 浦  実(Minoru SUGIURA)

<略歴>1990年京都工芸繊維大学大学院 繊維学研究科蚕糸生物学専攻修士課程修了 後,民間企業において天然物からの生理活 性物質の探索研究に従事/1999年農林水 産省果樹試験場カンキツ部研究員/組織改 変により,現在,国立研究開発法人農業・

食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部 門カンキツ研究領域カンキツ流通利用・機 能性ユニット長/1996年薬学博士(東京 大学)<研究テーマと抱負>健康に良いと 考えられる食品の生体調節機能を分子レベ ルからヒト集団レベルまで多面的な検討に より明らかにすること<趣味>読書・魚料 理・スキー・剣道(五段)

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.566

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Dokumen terkait

学における教員養成に携わってきた。とはいえ前 任校(地方の短期大学)では,文学部系の,教員養 成以外の授業も数多く担当した。赴任当初は,大 学でありながらいわゆる「荒れた」教室で,授業 が始まってもカードゲームが続いているような環 境であった。教師あるいは大人すべてを憎んでい る,そう感じられるような学生たちの言動に心が 潰されそうになる毎日であった。なぜ荒れるのか