大災害の歴史・可能性と生保経営

【平成18年度日本保険学会大会】

共通論題「大震災と保険」

報告要旨：山本 信一

大 災 害 の 歴 史 ・ 可 能 性 と 生 保 経 営

立 命 館 大 学 山 本 信 一

日 本 は 、 少 子 高 齢 化 が 続 く 過 程 で 、 東 京 一 極 集 中 を 強 化 し つ つ あ り 、 大 災 害 や テ ロ の リ ス ク は 、 予 想 外 に 高 ま っ て い る よ う に も 思 わ れ る 。 ミ ュ ン ヘ ン ・ リ ー が 公 開 し て い る リ ス ク ・ イ ン デ ッ ク ス （ 巨 大 都 市 の リ ス ク の 大 き さ を 、 ① 危 険 の 発 生 ② 危 険 が 発 生 し た 場 合 の 脆 弱 性 ③ 危 険 に さ ら さ れ て い る 経 済 価 値 の ３ つ の 積 で 表 し た も の ） を み る と 、 東 京 ・ 横 浜 は 、710 点 （1 位 ） で 、 サ ン フ ラ ン シ ス コ 地 区（167 点 で ２ 位 ）や ニ ュ ー ヨ ー ク（42 点 で 6位 ）を は る か に 上 回 り 、世 界 一 で あ る 。

こ の よ う に リ ス ク が 現 在 高 ま っ て い る 日 本 に お け る 大 災 害 の 歴 史 を 調 べ る と 、 一 般 に 知 ら れ て い る 関 東 大 震 災（1923年 、死 者 14万 ３ 千 人 ）よ り も 、ス ペ イ ン ・ イ ン フ ル エ ン ザ （1918 年 、 死 者 45万 人 ） の 方 が 、 死 者 は 多 か っ た よ う で あ る 。 そ れ で は 、 今 後 考 え ら れ る 大 災 害 に お け る 想 定 被 害 状 況 を み て い こ う 。

ま ず 、地 震 に つ い て 紹 介 す る 。2005年 に 政 府 の 中 央 防 災 委 員 会 は 、首 都 圏 直 下 型 地 震（M.6.9）が 起 こ っ た 場 合 、1万 1千 人 が 死 亡 す る 可 能 性 が あ る と 発 表 し た 。 一 方 、 Ｒ Ｍ Ｓ(Risk Management Solutions)社 の 調 査 で は 、 日 本 で 1000人 以 上 が 死 亡 す る 地 震 の 年 間 発 生 率 が 3.7％ と し て お り 、1万 人 以 上 が 死 亡 す る 地 震 の 年 間 発 生 率 が 0.42％ と し て い る 。Ｒ Ｍ Ｓ 社 が 想 定 す る 中 で 被 害 額 が 大 き い シ ナ リ オ は 、 Ｍ8.0 の 地 震 が 関 東 地 方 を 平 日 午 後 5 時 に 襲 っ た 場 合 で 、 死 者 想 定 が 2 万 5 千 人 、 生 命 保 険 金 の 支 払 総 定 額 は 4千 億 円 と な っ て い る 。

次 に 、小 型 核 爆 弾 に よ る テ ロ が 決 行 さ れ た 場 合 、Ｒ Ｍ Ｓ 社 の 分 析 で は 、最 大 30 万 人 程 度 が 死 亡 し 、４ 兆 円 の 保 険 金 が 支 払 わ れ る と し て い る 。核 テ ロ（ グ レ ア ム ・ ア リ ソ ン（ 元 米 国 政 策 担 当 国 防 次 官 補 ）著 、日 本 経 済 新 聞 社 ）に は 、「2001 年 10 月 に 、ブ ッ シ ュ 大 統 領 は 、『 ア ル カ イ ダ の テ ロ リ ス ト が 10ktの 小 型 核 爆 弾 を ロ シ ア よ り 入 手 し 、ニ ュ ー ヨ ー ク に 搬 入 し た か も 知 れ な い 。こ の 爆 弾 は 、最 低 で も 100 万 人 を 殺 傷 す る 能 力 が あ る 。』と い う 報 告 を 受 け た 。ア ル カ イ ダ が 核 兵 器 を ワ シ ン

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【平成18年度日本保険学会大会】

共通論題「大震災と保険」

報告要旨：山本 信一

ト ン に 持 ち 込 ん だ 恐 れ も あ っ た た め 、 ブ ッ シ ュ 大 統 領 は チ ェ イ ニ ー 副 大 統 領 に 対 し 、 首 都 を 離 れ て 秘 密 の 場 所 に 行 き 、 そ の 後 数 週 間 を そ こ に 滞 在 す る よ う に 命 じ た 。 こ れ は 、 連 邦 政 府 を 機 能 不 全 に 陥 ら せ る 攻 撃 が 発 生 し た 場 合 に 、 政 府 の 継 続 性 を 確 保 す る た め に 定 め ら れ た 手 続 き で あ る 。」 と い う 衝 撃 的 な 記 述 も あ る 。 最 後 に 、 伝 染 病 に つ い て は 、 近 年 、 人 々 は 、 鳥 イ ン フ ル エ ン ザ の 大 流 行 を 懸 念 し て い る 。Ｒ Ｍ Ｓ 社 の 予 想 に よ れ ば 、新 型 イ ン フ ル エ ン ザ に よ り 、97 万 5千 人（ 何 ら 対 策 が 打 た れ な い 場 合 ） あ る い は 51 万 人 （ タ ミ フ ル に よ る 対 応 が 有 効 に 図 ら れ た 場 合 ）が 死 亡 す る と さ れ て い る 。51 万 人 が 死 亡 し た 場 合 、生 命 保 険 で 6兆 円 強 の 支 払 が 生 じ る と 試 算 さ れ て い る 。

生 命 保 険 業 界 は 、 東 京 一 極 集 中 が 進 む 中 で 、 上 記 の よ う な 災 害 発 生 リ ス ク に 直 面 し て い る 。Ｒ Ｍ Ｓ 社 に よ れ ば 、2001年 9月 11日 の テ ロ で は 、3000人 が 死 亡 し 、 25 億 ド ル の 生 命 保 険 金 が 払 わ れ た と の こ と で あ る （ １ 人 １ 億 円 程 度 ）。 個 人 生 命 保 険 ・ 団 体 生 命 保 険 の 重 複 と ワ ー ル ド ト レ ー ド セ ン タ ー に 高 額 の 生 保 加 入 者 が 集 中 し て い た 結 果 と 考 え ら れ る 。

日 本 の 生 保 業 界 に お い て も 、 核 テ ロ 等 の 可 能 性 を 考 え た 場 合 、 昼 間 に ビ ル 単 位 で ど れ だ け の 付 保 が さ れ て い る か を 試 算 し て お く 必 要 も あ ろ う 。 東 京 都 の 昼 間 人 口 調 査(2000 年)で は 、 皇 居 も 含 め た 千 代 田 区 の 昼 間 人 口 密 度 は 7 万 ３ 千 人/km² と な っ て お り 、 皇 居 を 除 い た 人 口 密 度 は 一 層 高 く 、 丸 の 内 再 開 発 で 、 極 度 の 集 中 化 が 一 層 進 み つ つ あ る 。

こ れ へ の 対 応 策 と し て は 、

① ビ ル 単 位 で 、 再 保 険 へ の 出 再 を 検 討 す る 。

② 約 款 の 保 険 金 支 払 免 責 条 項 に 、 テ ロ ・ 地 震 を 戦 争 そ の 他 の 変 乱 と 同 様 に 、 保 険 金 削 減 の 対 象 で あ る 旨 、 明 記 す る 。

な ど が 考 え ら れ る が 、 そ れ 以 外 も 含 め た 集 積 リ ス ク の 検 討 が 必 要 で あ ろ う 。

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