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化学と生物 Vol. 52, No. 7, 2014
巻頭言
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日本農芸化学会が人材育成に果たすべきこと―関東支部の活動を例として
須貝 威
慶應義塾大学薬学部2012年秋,次期関東支部長をお引き受 けした際,何より大切だと感じたのは,教 育・研究を通じ人材育成に携わる大学,そ して学会の使命である.
まずは入口である.関東支部では高校生 を対象にバイオの魅力を伝える「夏休み体 験実験コース」を支援,たとえば日本大学 生物資源学部で開催されてきた「バイオサ イエンス・スクール」である.2013年度 も150名を超える参加者が本当にエンジョ イし,ネットや口コミで今後ますます希望 者が増えるだろう.熊谷日登美先生を中心 に長年ご尽力されてきた皆様に心から感謝 する.今年,PRを書く機会をいただいたので,
ここに抜粋する.「高校生の皆さん,日常 生活はエアコンが効く環境のなか,スマー トフォンやLINE,インターネット,ゲー ムがすべて??? と思っているかもしれ ませんが,ちょっと,衣食住や身の回りの 自然,生き物を感じてみましょう.グレー プフルーツの香りって,ミカンとは違いま すね.どういう成分が鼻に働きかけている のでしょう? プランターで大切に育てて いる植木に,毎日お水を上げても何となく 元気でなかったりしませんか.では,元気 になる土とは? 食べ物は,どうやって栄 養になるのでしょう.肉はそのまま筋肉に なる,それとも何かが働いて一度溶かされ るのかしら?
今から150年ほど前から少しずつ,日本 でも,当時のそんな興味に,科学の視点か らメスが入りました.日本のバイオサイエ ンス・バイオテクノロジーの誕生です.
〜中略〜これから大学に入ってバイオサイエンス やバイオテクノロジーを勉強してみたい,
将来は社会に出たら,バイオ分野で働い て,良い食べ物や薬を作ったり,生活の質 を高め,地球レベルの生態系に適応した環 境を作り,次世代が喜び,さらに増やせる 資源を作りたいなんて,ちょっと心の片隅 に,秘めた闘志をもつ方は,ぜひ,今日の 機会に,目と心を開いて,感じてくださ い.〜後略〜」
「夢」をもって入学してくる若者に,農 芸化学の心や技を体得させるよう,大学教 員は励むが,出口は大切である.2012年4 月号に,東北支部長(当時)桑原重文先生
が嘆かれた,学部・大学院学生諸君の就職 活動奮戦記はさらに激化している.「夢」
と,企業が求める人材・能力とのミスマッ チが「就活」長期化の大きな原因と考え,
関東支部では企業の研究所長クラスの方に 幹事をお願いし,就活学生・予備軍が,研 究・開発職として活躍する十年選手の方と 懇談する場を設けた.
こんな風に参加を呼びかけている.「皆 さん,高校生の頃からバイオに憧れ,大学 に入って講義や実験に目を輝かせた記憶が 昨日のことのようですね.あっという間に 卒業研究,大学院に進んで,今では目をつ ぶっても研究できるエキスパートでしょ う.だけど,今学んでいる知恵とスキルが 将来像にどう重なっていくのか,悩みが高 まってくる日々と思います.
バイオが大好きな皆さんが本当に活躍で きる場があります.学生の頃から頭脳と技 を磨いてチャレンジしてきた,企業の若手 研究者8名の方に,若者の未来をエンカ レッジする講演をお願いしました.
彼らの学生時代の取り組み,企業に入社 してから研究現場の中で培ってきた,チャ ンスとニーズを見逃さない姿勢,技術や商 品に育て上げる創造力,そして粘り強さを 語っていただきます.皆さんが現在できる こと,活かすことを知り,将来像を磨く チャンスを是非共有しませんか! 」今後 は,製造業やベンチャー企業で活躍する先 輩たちに広く声をお掛けしたいと思う.
産学連携は農芸化学の原点そのものだろ う.その連携によって,日本農芸化学会 が,どんな学協会よりも,人材育成を先導 できるはずだ.
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化学と生物 Vol. 52, No. 7, 2014 プロフィル須 貝 威(Takeshi SUGAI)
<略歴>1981年東京大学農学部農芸化学 科卒業(1984年大学院農学研究科中退)/
1984年 同 大 学 農 学 部 助 手(森 謙 治 教 授)/1988年慶應義塾大学理工学部助手/
1991年 か ら 一 年 間,Scripps研 究 所 に 留 学.帰国後,助教授を経て,2008年慶應 義塾大学薬学部教授,現在に至る<現在の 研究テーマと抱負>有機合成化学,応用微 生物学を相乗的に活用するモノづくりが一 生のテーマです.最近は農芸化学で学んだ 心,技術や知恵の魅力を,非専門や初学者 の方にも伝えようと,手描きイラストの研 鑽に励んでいます<趣味>日曜大工