選択問題:次の [4] ∼ [11] の8問中の2問を選んで解答せよ.
[4] Cを複素数体とし,nを1以上の自然数とする. GLn(C)で,Cを成分とするn次正則行列(す なわち可逆な行列)の集合をあらわす.
(1) GLn(C)が積について群になるかどうか,群の公理を全てあげて判定せよ.
(2) A=Cnをn次元縦ベクトルの空間とし,Aの任意の二元x,yに二項関係∼を x∼y⇔x=λyとなるλ∈Cが存在する
で定義する.∼が同値関係とならない理由を示せ.
さて,(2)で定義した二項関係は,Aから零ベクトルを除いた集合A\ {0}においては同値関係とな ることが知られている.対応する同値類の集合を
Pn−1= (A\ {0})/∼
であらわし,(n−1)次元射影空間という.xが属する同値類を[x]であらわし,射影空間の点とい う.M ∈GLn(C)をとると,写像
p(M) :Pn−1→Pn−1, [x]→[Mx]
が定義される.
(3) Bij(Pn−1)で,Pn−1からそれ自身への全単射の集合が合成に関してなす群をあらわす.
p:GLn(C)→Bij(Pn−1), M →p(M)が群準同型であることを示せ.
(4) pの核kerpを求めよ.
(5) 群準同型定理を用いて,pの像をGLn(C)の商群として記述せよ.この群をP GLn(C)という.
(6) C成分の横ベクトルa= (a1, a2, . . . , an)=0に対して,
{[x]∈Pn−1|ax=a1x1+· · ·+anxn= 0}
[5] 本問では自然数とは1以上の整数のこととし,その集合を記号Nであらわす.Nの部分集合 S⊂Nが加法について閉じているとは,任意のn, m∈Sに対しn+m∈Sが成り立つこととする.
自然数n, mに対し集合n, m を
n, m :={nx+my |xとyは0以上の整数で,x=y= 0ではない} と定義する.
(1) 自然数nとmが与えられたとする.加法について閉じているNの部分集合Sで{n, m}を含 む最小のものはn, m であることを示せ.
(2) 2,7 に含まれない最大の自然数を求めよ.また5,9 に含まれない最大の自然数を求めよ.
(3) 自然数nとmの最大公約数はdであるとする.整数XとY をうまく選べばnX+mY =d とできることを示せ.
(4) 自然数nとmの最大公約数はdであるとする.Nがnmより大きいdの倍数であれば,自然 数xとyをうまく選べばnx+my =Nとできることを示せ.なお,(3)の結果は証明なしで 使ってもよい.
(5) 空でないS⊂Nが加法について閉じているとし,Sの元全体の最大公約数がdであるとする.
このとき,ある自然数N0が存在して,N0より大きいdの倍数は全てSに含まれることを示 せ.なお,(4)の結果は証明なしで使ってもよい.
以下,n1, n2, . . . , nr とは加法について閉じているNの部分集合で{n1, n2, . . . , nr}を含む最小の ものであると定義する.
n1, n2, . . . , nr ={n1x1+n2x2+· · ·+nrxr |x1, . . . , xrは0以上の整数で,一つは0ではない} が成り立つ.(これは示さなくてもよい.)
(6) S ⊂Nが加法について閉じているとする.このとき有限集合{n1, n2, . . . , nr} ⊂Sが存在し て,S=n1, n2, . . . , nr となることを示せ.
[6] R2 から原点を抜いた集合をX:=R2\ {(0,0)}で表し,R2の標準的な位相から決まる相対位相 を入れる. また,X 上の同値関係を
v∼w⇔ ∃c= 0 :v=cw
で定義する. 位相空間X を同値関係∼で割って得られる商集合をRP1:=X/∼で表し,自然な射 影π:X →RP1から決まる商位相を入れる. さらに, [x:y] :=π(x, y)とし,
Ux:={[x:y]∈RP1|x= 0}, ϕx:Ux→R: [x:y]→ y x, Uy:={[x:y]∈RP1|y= 0}, ϕy:Uy→R: [x:y]→ x
y と定義する. 以下の問に答えよ.
(1) 集合Ux がRP1 の開集合である理由を説明せよ. (2) 写像ϕxが well-definedであることを示せ.
(3) RP1 には, 局所座標系{(Ux, ϕx),(Uy, ϕy)} によってC∞級多様体の構造が定まる. この局所 座標系に対して,座標変換がC∞級であることを確認せよ.
(4) 次で与えられる f :RP1→M2(R)が well-definedであることを示せ. ただしM2(R)は2×2 実行列全体の成すベクトル空間である:
f([x:y]) = 1 x2+y2
x2 xy xy y2
.
(5) 写像f がC∞級であることを示せ. ただしM2(R)は R4 と自然に同一視する.
(6) 写像f がはめ込みであること,すなわち, 各点でのJacobi行列の階数が1 であることを示せ. (7) O(2)を2 次の直交行列の成す群とする. 各g∈O(2)に対して,
RP1→RP1 →
[7] 以下の問(A)(1)-(5)および(B)(1)-(4)に答えよ.
(A)球面S2={(x, y, z)∈R3|x2+y2+z2= 1}に関する以下の問に答えよ.
(1) S2の部分空間S+2 :={(x, y, z)∈S2|z ≥0}は円板D2 ={(x, y)∈R2|x2+y2 ≤1}と同相 であることを証明せよ.
(2) D2が可縮(すなわち,1点とホモトピー同値)であることを証明せよ.
(3) S+2 のZ係数ホモロジー群H∗(S+2)を求めよ.
(4) S2のZ係数ホモロジー群H∗(S2)を求めよ.
(5) S2上の自己同相写像f(x, y, z) = (x, y,−z)に対し,fが誘導する準同型写像f∗:H∗(S2)→ H∗(S2)を求め,fがS2上の恒等写像にホモトピックでないことを証明せよ.
(B)単位円S1={z∈C| |z|= 1}と閉区間I= [−1,1]の直積A:=S1×Iをアニュラスと呼ぶ.次 の問に答えよ.
(1) Aの基本群π1(A)を求めよ.
(2) AからAへの連続写像gで,Aのどの点の逆像も2点となるようなものを1つ構成せよ.ま た,そのgが誘導する準同型写像g∗:π1(A)→π1(A)を求めよ.
(3) 点p:= (1,0)∈S1×Iに対して,空間X :=A− {p}の基本群を求めよ.
(4) Xはある向き付け不可能な閉曲面M からn個の点を除いて得られる空間とホモトピー同値で ある.このようなM とnの例を挙げよ.
[8] 以下の問に答えよ.
(1) n= 0,1,2, . . . に対し,
C
cosz
zn dz を求めよ.ただし,Cは複素平面C内で原点を中心とし 半径1で正の向きに1周する円である.
(2) coszはC上で有界であるかどうか調べよ.
(3) 集合{cos(x+iy)| 0< x < π
2, y∈R} を複素平面上で図示せよ.
(4) f をC上の有界な連続関数とするとき,n= 2,3,4, . . . に対し
Rlim→∞
CR
f(z) zn dz= 0
を示せ.ただし,CRは複素平面C内で原点を中心とし半径Rで正の向きに1周する円である.
(5) (4)を用いて,C上の有界な正則関数は定数に限ることを示せ.
[9] f をR上のルベーグ積分可能な実数値関数とし,gをR上の有界かつ非負なルベーグ可測関数 で
Rg(y)dy= 1 を満たすものとする.またR上の関数列{hn}∞n=1を hn(x) =n
Rg(n(x−y))f(y)dy で定める.このとき,以下の問に答えよ.
(1) f はR上で連続とする.このとき任意のR >0に対してtlim→0 R
−R|f(x+t)−f(x)|dx= 0が 成り立つことを示せ.
(2) f はR上で連続とする.このときtlim→0
R|f(x+t)−f(x)|dx= 0が成り立つことを示せ.
(3) 非負で連続なR上の関数列{fn}∞n=1が存在して,R上で
[10] 確率変数 X は繰り返し回数n,成功確率 pの二項分布に従っているとする. ただし,二項分布 の確率密度関数は,nCx を二項係数とすると,
f(x|p) =
nCxpx(1−p)n−x (x= 0,1, . . . , n)
0 (その他)
である. このとき, 以下の問に答えよ.
(1) X の平均と分散を,pと nを用いて表せ. (2) pの最尤推定量をpˆM とおく. ˆpM=X
n となることを示せ.
(3) pはパラメータa,b (a, b >0) をもつようなベータ分布に従うとする. ただし,ベータ分布の 確率密度関数は
g(p) =
⎧⎨
⎩
pa−1(1−p)b−1
B(a, b) (0< p <1)
0 (その他)
であり,ベータ関数B(a, b) = 1
0 ua−1(1−u)b−1duはガンマ関数Γ(x) = ∞
0 ux−1e−uduを 用いて
B(a, b) = Γ(a)Γ(b) Γ(a+b) と書ける. このとき,pの平均と分散をaと bを用いて表せ.
(4) X とpの同時確率密度関数をh(x, p) =f(x|p)g(p)とする. このとき,X の周辺確率密度関数 q(x)を計算せよ.
(5) pの事後確率はπ(p|x) = h(x, p)
q(x) で定義される. このとき,事後確率を確率密度関数としたと きのpの平均pˆB を求めよ.
(6) pの推定量pˆに対して, L(ˆp)を L(ˆp) =
1
0
n x=0
(ˆp−p)2h(x, p)dp
で定義する. このとき,L(ˆpM),L(ˆpB)を求め,L(ˆpM)> L(ˆpB)となることを示せ.
[11] R上の連続関数qに対し,常微分方程式
(∗)q x(t) +q(t)x(t) = 0 (t∈R)
は,t0, α, β∈Rに対し,t=t0における初期条件x(t0) =α,x(t0) =βを与えるごとにR上のC2級 の解xがただ1つ存在することはよく知られている. このとき,以下の問に答えよ.
(1) 正数ω に対し,qが次で与えられるときの(∗)q の一般解を求めよ.
(a) q(t) =−ω2 (t∈R).
(b) q(t) =ω2 (t∈R).
(2) R上の関数ϕとψがR上で1次独立であることの定義を書け.
(3) ϕとψを恒等的に0ではないR上のC2級関数で微分方程式(∗)qを満たし,ϕ(0) =ψ(0) = 0 を満たすとする.このとき,ϕ(0)= 0, ψ(0)= 0を示せ.またϕとψはR上で1次従属で あることを示せ.
(4) xj (j= 1,2)をR上の連続関数qjに対する微分方程式(∗)qj の解とし, z(t) =x1(t)x2(t)−x1(t)x2(t) (t∈R) とおく. zをq1,q2,x1,x2を用いて表せ.
(5) (4)のx1,x2は区間I= [t1, t2] (t1< t2)上で正でありかつx1(t1) =x2(t1),x1(t1)≥x2(t1)を 満たすとする. もしq1,q2がq1(t)< q2(t) (t∈I)を満たすならばx1(t)> x2(t) (t1< t≤t2) となることを示せ.