1
平成26年度 大学院人文科学府 修士課程 第1期入学試験問題
(日本語)
解答は、解答用紙に書くこと。その際、「問1-1」などと記し、どの問いに対する解 答かを明示すること。
問1. 次の文章を読んで、後の問いに日本語で答えなさい。
(A)「カタカナってさ、外人読めないんだってね」
最初は、何の話をしているのか、分からなかった。
「え?どういうこと?」私は聞き返した。
「だから、カタカナ。あるでしょ」あるよね。
「外人にたとえば、『チョコレイト』って書いて見せても、読めないらしいね」
(B)「…らしいじゃなくて、絶対に読めないよ」「(1)不思議だよね」
いや、不思議なのはあんただよ…私に、そんなことを聞いてきたのは、小学校に上がる 前の子供ではない。五十を過ぎた日本人男性。しかも、日本の大学を(2)卒業している。
ちなみに私は卒業していない。彼はさらに続けた
「だってさ、チョコレイトって外国から来ているわけでしょ。だったら、わかるでしょ」
「いや。そりゃ、声に出しながら『チョコレイト』て書いて説明すれば、中には「オ~、
チョコリット」のことかって、耳で分かってくれる外人はいると思うけど」
「でしょ。だから、わかるんじゃないの?カタカナ」
「いや、違うね、違うね。それは、カタカナが読めるんじゃなくて、耳から入って来る 音が分かるわけでしょ。たぶん、チョコレイトって言ってるって」
(C)「でしょ。だから、カタカナがわかってんじゃないの? 耳で」
「耳から聞こえているのは、カタカナじゃないから。カタカナっていうのはさ、書かれ た言葉なんだよ。書かれた言葉って言うのは、勉強しなければ読めないの。日本人でさ え、勉強しなければカタカナを読めないんだよ。日本人がほとんど字を読めるのは、み んな勉強してるからなの」
ついつい日本の(3)識字率の高さにまで言及してしまった。こういう相手に対して、もっ ともやってはいけないことであった。
「…でも不思議だよねえ、カタカナなのに外人読めないなんてねえ」
あらら、興味を失って、元の場所へ戻ってしまった。
どうする、どうしよう、落ち着け、冷静になれ、(4)俺… よし、もっと、具体的な話だったらどうだ?
「たとえば、僕たちが、アラビア語を目の前で書かれて読める?」(D)「…読めないね」
お、いいぞ、くいついてきた…なにか考えている。理解するまで待とう。待つんだ。次 にこの大卒の男が口を開くまで。お…口を開くぞ。
著作権保護のため、このWeb公開版では問題文を削除した。
引用文は以下のとおりである。
野田秀樹 AERA 09.6.22 No.79号 ひつまぶし連載より
2
「でも、例えば、スシってこう、カタカナで書いて外人さんに見せて、本当に分かんな いかね。スシだったら、わかる気がするんだけどね。簡単だし」
「いや、だからあ!(ちょっと目が血走ってきた)SUSHIってアルファベットで書いて あればわかるよ。或いは、その外人さんが日本語を勉強していたら、カタカナのスシっ て読めるよ」
(E)「ほら!でしょ、読めるでしょ」
なんだよ、ほら!って。おい、ほら!って何だ、ほら!じゃねえんだよ。ほら!
で、カタカナは読めねえんだよ!おら!表へ出ろ!
…いやいや、落ち着け、落ち着くんだ。スー…カタカナで深呼吸
「ねえ、さっきのアラビア語のたとえは、わかった?」
「…でも、アラビア語は難しいでしょ。誰にでも」
…だめだ。この男には「(5)視点」を変えて物を見るという能力がない。でも、日本の大 卒なんだよ。大丈夫か。日本の大学。日本語教育。
それから、一週間してから、この大卒の男が、また私に質問してきた。
「ねえ、アフリカの首都ってどこ?」
大丈夫でないのは日本語教育ばかりではなかった… 大丈夫か。日本の大学。日本の教育…。
(野田秀樹 AERA 09.6.22 No.79号 ひつまぶし連載より)
問1-1 下線部(A)~(E)のセリフは、それぞれ作者の発言か、作者の友人の男の発言
か、どちらであるか答えなさい。 (20)
問1-2 下線部 (1)-(5)の漢字のよみかたをひらがなで書きなさい。 (15) (1) 不思議
(2) 卒業 (3) 識字率 (4) 俺 (5) 視点
問1-3 次の単語の意味を簡単に説明しなさい。 (10)
(a) 識字率 (b) 大卒
問1-4 この文章に書かれている「作者の友人の男」は、どのような誤解をしている
か、わかりやすく説明しなさい。 (15)
3
問2. あなたの親友が日本への留学を希望していて、次のようなメールをある先生に 出したいと言っているとします。できるだけ適切な日本語のメールに書き直して
あげてください。 (40)
****************************************************************************
○○ 先生へ
はじめまして、突然なメールで失礼申し上げます。
私は中国·△△学院を卒業した×××と申します。先生の研究室に留学するため、先 生と相談させていただきますので、宜しくお願い申し上げます。そして、来年4月から、
研究生として日本に留学したいと企画しております。自分がこれから続けて興味深く勉 強、研究したい課題が先生の研究分野と近づいてあることを先生のHome Pageを通じて 知り、先生の著しい研究業績を詳しく拝見しました。そこで、学問の研究能力をあげる ため、先生のご指導のもとで勉強、研究することを真に希望しております。
先生のご多忙を存知ながらも、私の資料をメールに添付してお送りさせていただきま すので、私に対しご確認の上、ぜひとも留学のチャンスをいただけますようお願い申し 上げます。
では、先生のますますのご活躍をお祈りながら、ここで失礼致します。
****************************************************************************