形容詞的名詞構文が示す変異の連続的段階性について*
朝 賀 俊 彦
キーワード: 形容詞的名詞構文,形容詞的名詞の変異,名詞の形容詞化,連続的段階性
1. は じ め に
本稿では,形容詞的名詞構文において,形容詞的名詞が示す名詞と形容詞との中間的特性には,一元 的にはとらえることのできない連続的段階性(gradience)を示す変異がみられることを示した上で,範 疇変化を統語,形態,意味の各部門における変化の総体としてとらえる分析を提示する。
本稿の構成は以下の通りである。まず第2節で,形容詞的名詞構文の基本特性を確認した後,第3節 で,以下の議論に関わる同構文についての先行研究を概観する。第4節では,名詞の形容詞化にみられ る連続的段階性について確認する。第5節では,範疇変化を統語,形態,意味の各部門における変化の 総体とする立場から,形容詞的名詞の変異を形容詞化に基づいて分析する。第6節はまとめである。
2. 形容詞的名詞構文の基本特性
本節では,形容詞的名詞構文の基本特性を確認する。形容詞的名詞構文は,(1)の例が示すように
N1 of an N2の形式を持ち,通常の名詞句では統語的主要部の位置にあたるN1の位置に生起する名詞(形
容詞的名詞)が,意味的にはN2の修飾要素として機能するという特徴がある。1 名詞句全体の解釈では,
統語的には補部の位置に生起するN2が意味的な主要部となり,基本的に形容詞を含む(2)の形容詞を 含む名詞句と平行的に解釈される。
(1) an angel of a girl
(2) an angelic girl
また,形容詞的名詞構文の基本特性として,以下の例が示すように,形容詞的名詞は指示性を欠き,名 詞句の照応において先行詞になることができないことがあげられる。
(3) I met an angel of a girl yesterday. I fell in love with her/?*the angel/the girl at first sight.
(Ike-uchi 1986 : 44)
同様に,(4)の例では,hooligansを主要部とするmany idiots of football hooligans 全体のみがwhomの先 行詞として解釈可能であり,idiotsをwhomの先行詞として解釈することはできない。これは,通常の 名詞句である (5) で,several reviewsとmany booksの両方が先行詞となり得ることと対照的である。
(4) We saw many idiots of football hooligans, two of whom were English.
(Aarts 1998 : 143)
(5) We read several reviews of those books, only two of which were written in Japanese.
3. 先 行 研 究
本節では,形容詞的名詞構文の先行研究として,叙述分析,修飾句分析,語彙認可分析を概観する。
3.1 叙述分析
Bennis et al. (1998),den Dikken (1998)では,(1) の表現と (6) の小節との間に見られる解釈の平行 性に注目し,問題となる名詞句の解釈を,基底レベルにおける叙述関係に基づいて説明する分析が提案 されている。2 具体的には,(1) の表現に対して,概略 (7) のような基底レベルの構造を仮定し,(7) の 領域Xでは,N1を述部,N2をその主語とする叙述関係が成立しており,述部移動により表層の語順が 得られるとする。
(6) We consider [SC the girl an angel].
(7) [the . . . [X girl . . . angel]]
叙述分析によると,統語と意味の階層関係は基底では保持されており,形容詞的名詞の意味的従属は,
N1に対して統語的倒置操作が適用される結果として得られる表層現象として説明される。また,形容 詞的名詞が指示性を欠くことは,形容詞的名詞が (6) の述部名詞と同様に,叙述関係の述部であること により説明される。
3.2 修飾句分析
叙述分析に対して,Ike-uchi (2003)は,形容詞的名詞構文には叙述関係に基づいて説明することの できない特性がみられることを指摘している。まず,叙述分析では,N1は範疇的には名詞として分析 されるため,名詞の特性を持つことが予測される。通例,名詞は,(8) が示すように,veryによる修飾 や比較級,最上級の形式を許容しない。
(8) a. * Mary is the most angel that I have ever met.
b. *Mary is a more angel than Jane.
c. *She is a very angel.
(Ike-uchi 1997 : 534-535)
しかしながら,Ike-uchi (1997)によると,次の例が示すように,形容詞的名詞は,容認性がやや低下 するものの,これらの形式による修飾を許容し,名詞とは明らかな対比を示す。
(9) a. Mary is the most angel of a girl that I have ever met.
b. ??Mary is a more angel of a girl than Jane.
c. ??She is a very angel of a girl.
(Ike-uchi 1997 : 534-5)
また,N1は,形容詞との等位が可能である。
(10) a. a [scrawny], [sorry], [jackass of a] guy b. . . . a [gentle], [flower of a] girl.
(Ike-uchi 2003 : 106)
このように,英語の形容詞的名詞は,叙述分析の予測とは異なり,名詞ではなく形容詞に近い性質を 示す。
さらに,叙述分析に対する別の問題として,形容詞的名詞構文では,節の叙述にはみられない制限が N1とN2に課されることがあげられる。(11)が示すように,節では,主語の数に関わらず叙述関係は 成立する。これに対して,(12)が示すように,(アメリカ)英語の形容詞的名詞構文では,述部とされ るN1(と主語とされるN2)に複数形名詞は生起することができない。3,4,5
(11) a. We consider the girl an angel. (=(6))
b. We consider those girls angels
(12) a. *those angels of girls b. *those/that angels of a girl c. *those/that angel of girls
これらの事実に基づき,上で述べた叙述分析に対して,Ike-uchi (1986, 2003)では,[N1 of a(n)]の 語連鎖は,(13)のように統語的に修飾句を形成しており,(2)の前位形容詞のようにN2の修飾要素と して機能しているとの分析が提案されている。6 Ike-uchi (2003)は,当該の語連鎖は統語的に再構造化 された形容詞であるとして,N1の形容詞的特性をこの修飾要素の存在に基づいて説明する。
(13) NP Spec N´
a MP N´
brat of a N brother
この分析では,形容詞的名詞の意味的従属と指示性の欠如は,N1が再構造化の結果得られる修飾句の 一部に,統語的に格下げされることによりとらえられる。
Ike-uchi (1997, 2003)は,さらに,上でみた三つの特徴に関して,イタリア語は英語といずれの点で
も対照をなすことを指摘している。まず,イタリア語では,形容詞的名詞が副詞類により修飾される表 現は許されない。
(14) a. *il più fiore di ragazza ‘the most flower of a girl’
b. *un più fiore di ragazza ‘a more flower of a girl’
c. **... un molto fiore di ragazza ‘... a very flower of a girl.’
(Ike-uchi 1997 : 535-536)
また,N1は形容詞との等位が不可能である。
(15) a. *un (a) bella, fiore de ragazza a beautiful-fem. flower-masc. of girl-fem ‘a beautiful, flower of a girl’
b. *un bell’, angelo di bambino a beautiful-masc. angel-masc. of boy-masc.
‘a beautiful, angel of a boy’
c. Maria è una [bella], [simpatica] ragazza.
Maria is a beautiful charming girl ‘Maria is a beautiful, charming girl.’
(Ike-uchi 2003 : 106)
さらに,イタリア語ではN1に複数形名詞が生起可能である。
(16) delle pesti di bambini ‘some wretches of boys’
(Ike-uchi 1997 : 530)
これらの例は,イタリア語の形容詞的名詞構文では,英語の場合とは異なり,形容詞的名詞が名詞の特 性を保持していることを示している。
その上で,Ike-uchi (2003)は,当該の表現が,英語では再構造化により派生された形容詞を含む修 飾構造として認可されるのに対して,イタリア語では叙述関係により認可されるとして,英語とイタリ ア語の間にみられる構文特性の違いを説明している。
この分析では,英語とイタリア語の違いは,両言語の認可メカニズムの違いにより説明される。7 し かしながら,この分析では,N1の意味的従属と指示性の欠如という特性がイタリア語と英語に共通し てみられるにも関わらず,それぞれの言語では異なる認可メカニズムで説明されることになり,形容詞 的名詞構文を統一的に扱うことができない。
3.3 語彙認可分析
Asaka (2002, 2011, 2012)は,形容詞的名詞構文を句レベルの語彙項目である構文イディオムとする 提案を行い,これに基づいて,形容詞的名詞の基本特性をとらえる分析を提案している。8 この分析では,
統語的主要部と意味的主要部の不一致は,統語構造と概念構造の対応関係として語彙的に規定され,構 文の基本的な意味は,いずれの言語においても,修飾の概念構造により共通にとらえられる。また形容 詞的名詞の非指示性は,意味レベルにおける指示指標の欠如に還元される。
これに対して,言語間の差異は形容詞的名詞の統語特性の違いに還元される。この分析では,いずれ
の言語でも,構文の変異はN1に局所化されることになる。具体的には,英語の形容詞的名詞構文では,
N1の位置は素性[+N]のみが指定され,[±V]の素性は未指定とされる。
(17) 英語
[+N]max [+N] PP P DP Det NP
このことにより,形容詞的名詞は (18)に示すように本来的な名詞と本来的な形容詞のいわば中間的な 範疇特性を持つこととなる。
(18) 名詞 [+N, −V]
形容詞的名詞 [+N]
形容詞 [+N, +V]
これに対して,イタリア語では,形容詞的名詞の位置は,統語的に通常の名詞と同じ[+N, −V]の素 性指定を受けることで,その名詞的な特性が説明される。
(19) イタリア語
NP (=[+N, −V])
N (=[+N, −V]) PP P DP Det NP
このように,語彙認可分析では,N1の統語節点の統語素性に関する語彙指定により,英語の形容詞的 名詞の中間的な特性がとらえられる。形容詞的名詞構文にみられる言語間の差異は,統語レベルの語彙 指定に局所化されることになり,形容詞的名詞構文は,叙述と修飾という二つの異なる言語現象ではな く,言語間の差異に関わらず,語彙化された統語と意味の対応関係として,統一的に扱われることにな る。
4. 名詞の形容詞化における連続的段階性
前節では,形容詞的名詞構文の基本特性と,英語とイタリア語の間にみられる構文特性の変異に関す る先行研究を概括したが,イギリス英語では,(20)のような形容詞的名詞の複数形が許容される場合 があることが報告されている。9,10
(20) those fools of doctors
(Aarts 1998 : 118)
イギリス英語の形容詞的名詞は,形容詞に準じて副詞類による修飾を許容しながらも,名詞の特性であ る複数形を許容する点で,これまでにみたアメリカ英語,イタリア語のいずれの場合とも異なる特性を 示している。言語間にみられる形容詞的名詞のこのような差異は,形容詞的名詞を二者択一的に形容詞 または名詞とする分析ではとらえることができない。さらに,名詞と形容詞の間には,複数の異なる性 質を示す中間段階を認める必要があり,[+N] の統語素性により形容詞と名詞の中間段階を設定するこ とによっても,このことはとらえることができない。
イギリス英語の特徴は,上でみた先行研究における一元的な分析の下では例外として扱われることに なるが,ここでは,イギリス英語の事例を含め,これらの変異を名詞の形容詞化という視点から再検討 する。Denison (2010)は,名詞rubbishが形容詞的に用いられる以下の事例を用いてインフォーマント 調査を行い,その容認度に一定の幅が観察されることを報告している。Denison (2010)は,この観察 に基づき,名詞が形容詞に変化する過程は漸次的であると論じている。11
(21) A self-confessed “rubbish” golfer won a £15,000 car after flunking a hole-in-one.
(22) A totally horrible and rubbish gig which was the beginning of the end of the relationship between the singer and me.
(23) i know its [sic] rubbish but i need it to win the manufacturer’s race to win an older, rubbisher version.
(24) And today was rubbish. [...] It started off alright, [...][b]ut after that it started to get rubbisher.
(25) Because i like to take a lot of photos when i go out but the light on my V975 seems very rubbish.
(26) And the prize for rubbishest blogger in the world goes to... Me!
(27) and I can’t imagine Harry Hall’s selling anything rubbish.
(Denison 2010 : 107)
以下では,名詞の形容詞化という視点から,イギリス英語の事例は,例外ではなく,形容詞的名詞に 関する予測可能な変異の一形態として扱うことが可能となることを示す。
5. 分 析
名詞と形容詞の統語,形態,意味の各部門における基本特性は,それぞれ以下のように整理すること ができる。
(28)
名詞 形容詞 統語: 副詞類修飾 不可 可 形態: 複数形 可 不可 意味: 指示性 指示的 非指示的
ここで,Nishiyama (2010)にしたがい,言語変化は相互に独立した各部門の変化の総体であると仮定 すると,上でみた各言語の形容詞的名詞の特性は,名詞と形容詞の各特性の異なる組み合わせとしてと
らえられる。12 まず,イタリア語は,意味特性のみが形容詞化している事例である。これに対して,イ ギリス英語では,形容詞的名詞は意味特性に加えて統語特性が形容詞化しており,アメリカ英語は,さ らに形態特性の点でも形容詞化している。名詞,形容詞と上でみた形容詞的名詞の各特性の対比は以下 のようにまとめられる。13
(29)
名詞 形容詞的名詞
(イタリア語) 形容詞的名詞
(イギリス英語) 形容詞的名詞
(アメリカ英語) 形容詞
統語: 副詞類修飾 不可 不可 (可) (可) 可
形態: 複数形 可 可 可 不可 不可
意味: 指示性 指示的 非指示的 非指示的 非指示的 非指示的
形容詞的名詞にみられる変異は,(29)のように,いずれも名詞が本来持つ各部門の特性が,形容詞の 持つ特性に変化しているか否かの違いとしてとらえられることになり,各言語の形容詞的名詞が示す総 体としての特性は,以下のように,名詞から形容詞への連続的段階的な(gradient)変化が示すクライ ンの中で,相互に異なる中間的段階として位置づけられる。
(30) 名詞>形容詞的名詞(イタリア語)>形容詞的名詞(イギリス英語)>形容詞的名詞(アメリカ英語)
>形容詞
ここで注目すべき点は,形容詞的名詞はいずれも意味的に非指示的であり,論理的には意味的な形容詞 化が生じていないタイプの変異形が可能であるにもかかわらず,そのような変異が観察されていないこ とである。Denison (2010)は,範疇変化において,意味変化が統語変化に先行すると述べている(p. 118)。
形容詞的名詞の変異形は,いずれも意味的には非指示的という特徴を共有しており,ここでみられる変 異は,意味的変化が他の部門における変化に先行し,その上で,統語,形態の各レベルで変化が相互に 独立した形で生じることを示唆しており,Denisonの主張を裏付けるものである。14
6. ま と め
本稿では,言語変化は相互に独立した各部門の変化の総体であるとする立場から,形容詞的名詞構文 に見られる変異が,名詞の形容詞化におけるクラインの中で複数の異なる中間段階としてとらえられる ことを示した。形容詞的名詞構文における名詞の形容詞化は,Haspelmath (1998),Huddleston and
Pullum (2002),Aarts (2007)などの見解とは異なり,Denisonが主張するように語彙範疇から語彙範
疇への変化が存在することを示している。
また,統語範疇を一元的に規定する分析の下では,ある特定の範疇の諸特性は一律に変化することが 予測されるが,従来の研究で形容詞的名詞構文において観察されてきた形容詞的名詞にみられる変異は,
部門ごとに特性変化の有無が異なる事例であり,範疇変化が多元的な現象であることを示している。こ のように各部門の特性が自律的であり,そのことにより言語現象が多元的に規定されるとの見解は,並 列モデル(parallel architecture)の立場と整合する(Jackendoff 1997, 2002)。並列モデルの下では,語彙 項目は対応規則とみなされることから,総体としての語彙項目の特性変化は,既存の語彙項目において 各部門の特性が組み換えられることにより,あらたな対応規則が形成される過程としてとらえられるこ
とになる。構文特性として明らかにされた各部門の特性は,基本的に相互に独立しているとしても,形 容詞化においては意味レベルの変化が先行してみられることから,あらたな対応規則の形成過程で,統 語,形態,意味の各特性が相互にどのような関係を持つことになるか,また対応規則相互の関係をどの ようにとらえるかについては,さらに調査が必要となる。また,語彙項目の特性の組み換えに関わるメ カニズムの解明が今後の課題となる。
*本稿の研究は平成24〜26年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)課題番号
24520529「語彙認可アプローチに基づく名詞の範疇変化に関する研究」(研究代表者: 朝賀俊彦)による助成を
受けている。
注
1. 本稿では主に,アメリカ英語,イギリス英語,イタリア語の事例を取り上げる。その他の言語における形容詞的名 詞構文の概説がAlexiadou et al.(2007)にみられる。以下に,他の言語で報告されている事例をあげる。
(i) a. a stupida da Flora (Portuguese)
the stupid of+the Flora
‘that stupid Flora’
b. la tonta de Juana (Spanish)
the silly of Juana
‘that silly Juana’
c. un drôle de type (French)
a strange of type
‘a strange fellow’
d. (Wat) een ramp van een opvoering! (Dutch)
(what) a disaster of a performance
e. ta kretod zdravnika (Slovene)
this idiot of doctor (GEN)
f. (Mi) csoda egy nyelv (Hungarian)
(What) wonder a language
(What)‘ a wonder of a language’
g. tuo tohtori-n idiootti (Finnish)
this doctor-GEN idiot
(Alexiadou et al. 2007 : 439-440)
また,日本語の形容詞的名詞構文についての分析が,Ike-uchi (1997, 2003),菊地(2008)にみられる。関連する日 本語表現についてKageyama (2001),村木(2012)を参照のこと。
2. 叙述分析については,菊地(2008)も参照のこと。
3. N1を名詞(句)として扱うNapoli (1989),Kayne (1994),den Dikken (2006)の分析でも同様の問題が生じる。
4. 複数形名詞の生起についてはイギリス英語では許容される傾向がある。この点については,第4節で論ずる。
5. (12 b, c)の例については,N1とN2が数の一致を示していないことにより排除される可能性がある。
6. 形容詞的名詞構文に修飾句を仮定する分析については,Aarts (1998)も参考のこと。
7. Ike-uchiは,再構造化の可否は,究極的には両言語の前置詞の特性に違いに還元される可能性を述べている。
8. Booji (2002)では,オランダ語における当該の構文について構文文法に基づく分析が提案されている。
9. Ike-uchi (1986)では,現代英語以前の段階の例として,以下のように複数名詞が形容詞的名詞として生起してい
る事例が報告されている。
(i) those Chinese chopsticks of knitting-needles (1849-50)
(Jespersen 1949 : 341)
10. イギリス英語の形容詞的名詞構文にみられる別の特徴として,N1が補部を伴う形式が許容されることがあげられ
る。
(i) that destroyer of education of a minister
(Napoli 1989 : 128)
(i) の例はアメリカ英語では容認されない。また,イタリア語でも,次の例が示すようにN1に句レベルの表現が生起
することはない。
(ii)*Quel matto del vicino del dottore ‘that mad man neighbor doctor’
(Napoli 1989 : 177)
この特性は範疇横断的な句の投射特性に関わるものであり,範疇性とは区別して考えることが必要と思われる。投射 可能性を語彙指定する分析についてはAsaka (2012)を参照のこと。
11. Denisonは,容認可能を5,容認不可能を1として容認度を測っている。Denisonの調査でも形容詞性が要求され
る文脈である比較級((3), (4)),veryによる修飾 (5),最上級 (6)の事例で容認性の低下が報告されている。調査 結果の詳細については下の表を参照のこと。なお,本文の (21) から (27) の例文が,表1の例文番号1から7に対応 する。
表1 Acceptability scores for adjectival rubbish
Example 1 2 3 (i) 3 (ii) 4 (i) 4 (ii) 5 6 7
Form rubbish horrible and rub- bish gig
it’s rub-
bish rub-
bisher rubbish rub-
bisher very rub-
bish rubbish-
est anything rubbish
Mean 4.7 2.85 4.75 2.5 4.6 1.95 2.55 2.45 4.5
SD 0.571 1.2683 0.91 1 0.503 0.887 1.276 1.05 0.761
12. Nishiyama(2010)は,共格構造(comitative structure)から等位構造(coordinate structure)への言語変化を統語,
形態,意味部門の各レベルにおける特性変化の集合体としてとらえる分析を提案し,文法化の過程において一部の特 性のみが変化している中間段階がオーストロネシア語族の諸言語に存在することを報告している。
13. 統語の項の「(可)」は容認性が低下することを示す。修飾にみられるこのような容認性の低下は,統語レベルでの 形容詞化が完全ではないことを反映している可能性がある。
14. Nishiyama(2010)では,文法化の過程で統語,形態特性は変化しているが,意味特性は変化していない中間段階 も報告されており,言語変化のタイプと進行の過程との関係については,さらに調査が必要と思われる。
引 用 文 献
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(2014年10月10日受理)
On the Gradience of the Variation in the Adjectival Noun Construction ASAKA Toshihiko
In the adjectival noun construction, the hybrid nature exhibited by the adjectival noun shows a certain variation, which cannnot be captured unidimensionally. A closer examination of the variants of the adjectival noun in American English, British English and Italian reveals that they fit into the cline of adjectivehood from noun to adjective as different intermediate stages, respectively. Under the conception that a language change consists of several independent micro changes and that such a change is not an abrupt process, but a gradual one, the gradience observed in this construction is properly captured.