総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成22年度)
テーマ3 小課題番号3.1-3
*
復興住宅の基礎の高耐久化に関する実験
コンクリート 住宅基礎 圧縮強度 海原 則之*1 花野 克哉*2 中性化 コア中性化 型枠・配筋精度 高橋 大祐*3 阿部 道彦*4
1. はじめに
本研究では、復興住宅の基礎に用いるコンクリートを 対象とし、計画供用期間60年を確保し、さらに100年を 目指した高耐久コンクリートを開発することを目的とし、
設定した調合および施工条件で鉄筋が腐食せず、コンク リートが有害なひび割れ等を生じないことを実物件に打 ち込まれたコンクリートを用いて実験的に確認すること とした。本報告では実験概要と経過を示す。
2. 実験概要
2.1 基礎の形状・配筋
基礎の立上がり部は、幅16cmと14cm、高さ30cmで、
設計かぶり厚さは外側75mm、内側62mmで、最小かぶ り厚さは外側、内側とも40mm(JASS5-2009)である。また、
図1は基礎の配筋とかぶり厚さの測定箇所である。
2.2 コンクリートの品質
コンクリートの圧縮強度は、設計基準強度24N/mm²、
耐久設計基準強度24N/mm²、呼び強度30 N/mm²である。
目標スランプは12cm、目標空気量は4.5%、水セメント比 は50%以下、単位水量は170kg/m3以下を目標とした。
2.3 コンクリートの受け入れ時の試験
フレッシュコンクリートの品質はそれぞれ、スランプ、
空気量、塩分量およびコンクリート温度についてそれぞ
れJIS A 1101、JIS A 1128、JIS K 0029、JIS A 1159に準じ て行った。
2.4 圧縮強度試験
(1)管理用試験体による試験
圧縮強度試験は、JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試 験方法)に準じて行った。供試体は100φ×200mmのほか、
75φ×150mmも用いた。養生方法、試験材齢、本数は、い
ずれも現場封かん養生が材齢2日、4日、1週、4週、13 週で、標準養生が材齢28日、本数は1条件で3本とした。
試験は建材試験センターで実施した。また、図2は模擬 基礎とコアの採取位置である。
(2)模擬基礎のコアの供試体による試験
基礎の立上がり部と同じ断面で長さが40cmの模擬基礎 を鋼製または木製型枠を用いて現場で各物件5体作製し、
脱型後材齢4日で工学院大学八王子校舎の敷地内に曝露 した。封かん養生は、それぞれ材齢2日、4日、1週、4 週および13週まで行った。コアは材齢1週、4週および 13週で採取し、圧縮強度試験は、JIS A1107(コンクリート からのコアの採取方法及び圧縮強度試験方法)に準じて行 った。ただし水中浸漬は2時間とし、コアの直径は75φ とした。
2.5 中性化試験
(1)標準養生供試体による中性化試験
建物内部 建物外部
測定箇所
タテ筋D10
@250 主筋D13 型枠
型枠
図1 基礎の配筋とかぶり厚さの測定箇所 図2 模擬基礎とコア採取位置
*1 東日本ハウスCS推進部部長 *2 東日本ハウス商品開発部係長 *3 建材試験センター浦和試験室長 *4 工学院大学建築学科教授
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* 中性化試験は、JIS A 1153(コンクリートの促進中性化試 験方法)に準じて行うこととし、供試体100×100×400mm とした。供試体は、材齢1日で脱型し、材齢4週まで20℃
水中養生を行い、その後、材齢8週まで20℃60%R.H.の 恒温恒湿室で乾燥させ、その間エポキシ樹脂で供試体の 上面・下面・両端面を塗布して、材齢8週から促進中性 化(20℃60%R.H. CO₂濃度5%)を開始し、材齢1週、4週、
9週、16週および25週で測定を行った。
(2)コアによる中性化試験
コアの中性化は、封かん養生を2日、4日、1週、4週、
13週行った各模擬基礎から、材齢13週に採取したコアを
用いて、20℃60%R.H.の恒温恒湿室で1週乾燥させ、エポ
キシ樹脂を供試体の側面に塗布して、材齢14週から促進 中性化(20℃60%R.H. CO₂濃度5%)させて9週および25週 で各材齢3本中性化の測定を行った。
2.6 乾燥収縮試験
乾燥収縮試験は、JIS A 1129-3(コンクリートの長さ変化 試験方法―第3部:ダイヤルゲージ方法)に準じて行い、
供試体は、100×100×400mmとした。供試体は、材齢1日 で脱型し、材齢1週まで20℃水中養生を行い、その後、
20℃60%R.H.の恒温恒湿室に保存して、長さ変化と質量を
測定した。乾燥材齢は、1週、2週、4週、8週、13週、
17週、21週および26週とした。
2.7 シーズン・打込み日
打込み日のシーズンは夏(6~8月)・秋(9~11月)・冬(12 月~2月)とし、1シーズンに高耐久仕様3物件、一般仕様 は秋季~冬季に 3 物件を調査することとした。住宅の建 築現場は、東京および神奈川である。
3. 実験結果と考察
3.1 フレッシュコンクリートの品質
表1にフレッシュコンクリートの品質を示した。夏シ ーズンでは、スランプ、空気量、塩分量およびコンクリ ート温度は4棟目を除きすべてJIS A 5308の規定を満た していた。4棟目は、打設時期が猛暑だったため、コンク リート温度は規定を満たしていたが、スランプがJIS A 5308の規定より小さくなった。秋、冬シーズンでは、す
べてJIS A 5308の規定を満たしていた。7棟目は一般仕様
の物件である。
写真1 模擬基礎の暴露試験
表1 調合とフレッシュ性状
物件 呼 び 強 度
目 標 SL (cm)
W/C
(%)
s/a
(%)
単位量(kg/m3)
実測 SL
(cm)
空気量
(%)
塩分量 (kg/m³)
温度 (℃) 水
セ メ ン ト
細 骨 材
① 細 骨 材
② 粗 骨 材
① 粗 骨 材
② 混 和 剤
1 棟目 30 12 49.0 45.0 160 327 614 205 1013 3.27 9.5 4.2 0.05 26 2 棟目 30 12 49.0 46.3 173 353 611 204 958 3.88 10.0 3.6 0.06 30 3 棟目 30 12 47.0 44.2 167 355 771 1003 3.91 12.5 5.8 0.04 34 4 棟目 30 12 50.5 45.5 171 339 554 238 982 4.07 7.0 6.0 0.05 35 5 棟目 30 12 51.5 43.4 171 332 773 518 522 1.33 14.5 4.8 29 6 棟目 30 12 46.0 43.0 165 359 596 149 1013 3.59 12.0 5.5 0.04 24 7 棟目 24 18 60.0 48.0 180 300 422 437 478 481 1.20 16.5 5.1 20 8 棟目 30 12 46.0 43.0 165 359 596 149 1013 3.59 13.0 5.5 18 9 棟目 30 12 49.0 46.8 169 345 626 209 958 3.10 10.5 3.7 16
写真2 コアの促進中性化試験
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* 3.2 圧縮強度
図 3 は、コアの位置(下から 5cm、15cm および 25cm) と圧縮強度の関係を示したもので、これによると、高さ 25cmの位置のコアの強度が低い傾向が認められた。この 傾向は、ほぼすべての供試体で確認できた。また、図示 していないが、密度が低いコアと密度の高いコアの圧縮 強度を比較すると、後者の方が強度の大きい傾向が認め られた。これより密度が高いと圧縮強度も大きくなる傾 向が確認できた。なお、図 4 に示すように養生日数によ る圧縮強度の差は確認できなかった。
3.3 中性化
(1)標準養生供試体の中性化
図 5 は、促進材齢と中性化深さの関係を四つの物件に ついて示したもので、今回の条件と類似する既往の実験 結果も併せて示した。促進材齢16週では、10mmを超え る供試体はなく、最大で約7mmであった。1棟目は、
既往の研究の値より小さく、2~4棟目は、既往の研究の値 と同程度であった。これは、一棟目のコンクリートの圧 縮強度が、2~4棟目のものより高かったためと考えられる。
(2)コアの中性化
図 6 は、二つの物件について養生日数とコアの中性化 深さの関係を示したものである。これによると、模擬基 礎の上の方が中性化深さが大きく、下になると小さくな る傾向が認められた。中性化深さの最大値は、9 週時で
11.72mmであった。このため、25週時でも20mm以下に
なると推測される。また、コアの中性化は(1)の中性化に 比べ、値が大きく、中性化の進行が速いことが確認でき た。原因として考えられるのは、標準養生供試体に対し て、模擬基礎は封かん養生のためコンクリート中の水分 が逸散しやすく、表層部では水和反応が十分にできてい ないことが考えられる。
0 10 20 30 40 50 60
2d 4d 7d 28d 91d
圧縮強度(N/mm2)
養生日数(日)
1棟目 91日 28日 7日
0 10 20 30 40 50 60
2d 4d 7d 28d 91d
圧縮強度(N/mm2)
養生日数(日)
2棟目 91日 28日 7日
0 10 20 30 40 50 60
2d 4d 7d 28d 91d
圧縮強度(N/mm2)
養生日数(日)
3棟目 91日 28日 7日
0 10 20 30 40 50 60
2d 4d 7d 28d 91d
圧縮強度(N/mm2)
養生日数(日)
4棟目 91日 28日 7日
0 10 20 30 40 50 60
2d 4d 7d 28d
圧縮強度(N/mm2)
養生日数(日)
5棟目 28日 7日
0 10 20 30 40 50 60
2d 4d 7d 28d
圧縮強度(N/mm2)
養生日数(日)
6棟目 28日 7日
0 10 20 30 40 50 60
2d 4d 7d 28d
圧縮強度(N/mm2)
養生日数(日)
7棟目 28日 7日
0 10 20 30 40 50 60
2d 4d 7d 28d
圧縮強度(N/mm2)
養生日数(日)
8棟目 28日 7日
0 10 20 30 40 50 60
2d 4d 7d
圧縮強度(N/mm2)
養生日数(日)
9棟目 7日
図4 養生日数と圧縮強度
2d 4d
7d 28d
91d 標準養生28日
0 5 10 15 20 25 30
0 20 40 60
コア抜き位置(cm)
圧縮強度(N/mm2) 1棟目
0 5 10 15 20 25 30
0 20 40 60
コア抜き位置(cm)
圧縮強度(N/mm2) 2棟目
2d 4d
7d 28d
91d 標準養生28日
0 5 10 15 20 25 30
0 20 40 60
コア抜き位置(cm)
圧縮強度(N/mm2) 3棟目
2d 4d
7d 28d
91d 標準養生28日
2d 4d
7d 28d
91d 標準養生28日
0 5 10 15 20 25 30
0 20 40 60
コア抜き位置(cm)
圧縮強度(N/mm2) 4棟目
0 5 10 15 20 25 30
0 20 40 60
コア抜き位置(cm)
圧縮強度(N/mm2) 5棟目
2d 4d 7d 28d
0 5 10 15 20 25 30
0 20 40 60
コア抜き位置(cm)
圧縮強度(N/mm2) 6棟目2d 4d 7d 28d
0 5 10 15 20 25 30
0 20 40 60
コア抜き位置(cm)
圧縮強度(N/mm2) 7棟目
2d 4d 7d 28d
0 5 10 15 20 25 30
0 20 40 60
コア抜き位置(cm)
圧縮強度(N/mm2) 8棟目
2d 4d 7d 28d
0 5 10 15 20 25 30
0 20 40 60
コア抜き位置(cm)
圧縮強度(N/mm2)
9棟目2d 4d 7d
図3 圧縮強度とコア抜き位置
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
4W 13W 13W②
中性化深さ(mm)
養生日数(日)
1 棟目
模擬基礎(上) 模擬基礎(中) 模擬基礎(下)
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
2d 4d 1W 4W 13W
中性化深さ(mm)
養生日数(日)
2 棟目
模擬基礎(上) 模擬基礎(中) 模擬基礎(下)
図6 コア中性化 養生日数と中性化深さ(9週時) 0
24 6 8 10 12 14 16 18 20
02468101214161820222426
中性化深さ(mm)
促進材齢(√週)
WC50%濃度5%水中4週 WC50%濃度5%養生0日 WC50%養生5日濃度5%
1棟目平均 2棟目平均 3棟目平均
4棟目平均
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0 2 4 6 8 101214161820222426
中性化深さ(mm)
促進材齢(√週)
図5 促進材齢と中性化深さ
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* 3.4 乾燥収縮
乾燥収縮については、測定上の問題により一部ばらつ きが認められたため本稿では割愛することにした。
3.5 基礎の配筋精度
基礎の型枠は、物件により、鋼製型枠と木製型枠が使 用されていた。表2 と表3は施工時の基礎幅と配筋時の かぶり厚さの測定結果を示したものである。
基礎幅の測定結果は、測定値と設定値の差が、鋼製型 枠では、8物件の平均で 2.2mm、木製型枠では、9.7mm、
であった。この結果、鋼製型枠の精度が木製に比べ高い ことが確認された。かぶり厚さでは、測定値と設定値の 差は、鋼製型枠で 5.1mm、木製型枠で 5.4mmであった。
このため、かぶり厚さには型枠の種類はあまり影響して いないといえる。かぶり厚さはすべての物件で最小かぶ り厚さを満たしていた。
4. まとめ
復興住宅を想定してそのコンクリート基礎を対象に、
コンクリート強度、中性化および基礎の幅と配筋精度等
について実験的検討を行った結果は次のようにまとめら れる。
(1) コア強度は基礎の上の方ほど圧縮強度が小さく、また 密度も同様に小さかった。密度と強度の相関が高いこと を確認できた。
(2)コアの中性化は、基礎の上の方ほど大きくなる傾向が 認められた。ただし、中性化深さは 9 週時でも最大約 12mm以下であり、現段階では、最小かぶり厚さを超える 可能性が少ないことが確認できた。
(3)基礎の幅の精度は、鋼製型枠の方が木製型枠に比べ高 かったが、かぶり厚さについては、両者に差が認められ なかった。かぶり厚さの標準偏差の平均は、7mmであっ たが、13mmを超えるものも認められた。
謝辞
本実験は、工学院大学、東日本ハウスおよび建材試験 センターの共同研究により実施したものである。実験の 実施に当たり本学4年の秋山大志君および大貫信悟君の 協力を得ました。記して謝意を表します。
表2 基礎幅の測定結果
型枠種類 棟数
測定数 19 7 41 6 34 10 24 7 32 5 30 7 26 4 50 8 23 6
基礎幅 W160 W140 W160 W140 W160 W140 W160 W140 W160 W150 W160 W140 W160 W140 W160 W140 W160 W140 平均 162.0 141.5 161.3 139.8 171.2 148.2 160.1 135.1 160.6 150.6 159.9 142.1 160.3 135.0 160.8 145.8 160.4 140.0 設計値 160 140 160 140 160 140 160 140 160 140 160 140 160 140 160 140 160 140 最大 164 143 166 144 183 160 161 136 165 153 163 147 162 135 165 153 162 142 最小 160.5 140 139.5 133 160 140 160 135 158 150 152 135 160 135 159 138 160 138 標準偏差 0.97 0.96 3.72 3.58 5.96 7.43 0.27 0.35 1.50 1.20 1.92 5.41 0.68 0.00 1.17 6.10 0.57 1.15
9棟目
鋼製型枠 鋼製型枠 鋼製型枠 鋼製型枠
5棟目 6棟目 7棟目 8棟目
鋼製型枠 鋼製型枠 木製型枠 鋼製型枠 鋼製型枠
1棟目 2棟目 3棟目 4棟目
表3 かぶり厚さの測定結果 かぶり厚
さ
設計かぶり厚さ 外側75mm、内側62mm 最小かぶり厚さ 外側・内側40mm
型枠種類 鋼製 鋼製 木製 鋼製 鋼製 鋼製 鋼製 鋼製 鋼製 打込み日 6月7日 7月15日 7月27日 8月5日 10月15日 10月22日 11月9日 11月25日 12月16日
棟 1棟目 2棟目 3棟目 4棟目 5棟目 6棟目 7棟目 8棟目 9棟目 測定数 43 72 49 33 39 47 41 59 32
平均 76.9 73.7 69.6 72.6 78.9 71.2 82.9 62.3 72.9
設計値 75 75 75 75 75 75 75 75 75 最大 86 88 87 79 105 82 93 92 85 最小 65 63 52 66 53 60 69 30 65 標準偏差 5.9 4.1 8.0 3.3 13.1 5.7 5.4 13.6 4.8