政治経済学 I
——4. 資本の形式 ——
4.1 資本とは何か
政治経済学では、資本を次の二点によって定義する。
• 姿態変換
商品や貨幣はそれ自体としては資本ではない。資本とは、商品や貨幣といった様々な形態(姿 態)を採る運動体である。
• 価値増殖
資本の運動は、使用価値の獲得を目的とする商品流通C−M−Cとは異なり、価値を増やす ことを目的とする。
資本とは、価値増殖する運動体、すなわち、
M−C−M′ である。
4.2 資本の三形式
4.2.1 商人資本形式
資本のもっとも単純な形式は、商品を安く買って高く売ることである。すなわち、商人資本形式 M−C−M′
である。ここで、M’はM+∆Mである。売買差額∆Mを利潤と呼ぶ。商人資本形式とは、商品の 時間的・場所的価格差を利用して利潤を獲得する資本形式である。
資本の運動の目的は価値増殖であるが、そのために資本は利潤率の増進に努める。資本の利潤率 は、次のように表わされる。
利潤率= ある期間の利潤総額 期首の資本額
ある期間の利潤総額は、1回転ごとの利潤額と期間内の回転数によって決まる。したがって、商 人資本が利潤率を高めるためには、より大きな売買差額を獲得するだけでなく、回転を早めること も求められる。
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4.2.2 金貸資本形式
他の資本の価値増殖に寄生することで価値増殖を果たす資本形式がある。金貸資本形式 M . . . M’
↓ ↑
M — C — M’
である。金貸資本形式とは、他の資本M−C−M′に貨幣を貸し付け、一定期間後に利子とともに 貨幣を回収することによって利潤を獲得する資本形式である。
4.2.3 産業資本形式
商人資本形式と金貸資本形式は、いずれも流通のなかで行なわれる資本の運動である。これに対 し、流通の外部にある生産を利用することによって価値増殖を果たすのが、産業資本形式
M−C(L,MP)…P…C′−M′
である。ここで、Lは労働力、MPは生産手段(原料、機械など)を、またPは生産(資本)を表 わす。産業資本形式とは、購入した労働力と生産手段を用いて、できるだけ安く生産し、できるだ け高く販売することによって利潤率の増進を図る資本の形式である。
商人資本や金貸資本は、資本主義以前の市場にも存在した。しかし、この2つの資本は、生産に 直接関与していないがゆえに、社会的再生産にとっては外的なものにすぎなかった。産業資本形式 を通じて生産部面に資本が浸透し、社会的再生産を包摂することによって、はじめて資本主義が成 立する。
産業資本形式は労働力商品化を前提とするが、そのためには二重の意味で自由な労働者がすで存 在している必要がある。支配・隷属関係から自由である(第一の意味の自由)と同時に、生産手段 からも引き離され(第二の意味の自由)、自らの労働力を売る以外には生活しえない労働者群が歴 史上の一時点に大量に出現したことが、産業資本形式を可能にし、さらには、資本主義という新た な社会システムをもたらしたのである。
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