教
教職 職課 課程 程科 科目 目「 「教 教育 育学 学原 原論 論」 」の のオ オン ンラ ライ イン ン授 授業 業化 化( (2 2) )
―「教育の基本的概念・歴史・思想」の学習の充実に向けて―
小林 昇光
岡山理科大学教育推進機構教職支援センター
1.本報告の目的 1-1 課題
本報告の目的は,教職課程科目「教育の基礎的理解に関する科目 :教育の理念並びに教育に 関する歴史及び思想」に位置づけられる「教育学原論 (2020年度秋学期 担当者:筆者 )」(以 降,当科目)における,筆者によるオンライン授業実践について報告していくことである1)。特 に,学生に対して,対面型,ハイブリッド型,VOD 型といった講義形式の評価に関する調査デ ータを基に,「教育の基本的概念・歴史・思想」の学習の充実に向けて,どのような取り組 みを進めたのかについて報告,振り返りを進めていく。
2020年4月から,COVID-19の感染拡大に伴い,全国各地の教育機関においてオンライン
授業が実施されてきた。当科目においても,2020年度前期から,オンライン授業を実施して きた。その後,2021年時点においてもCOVID-19の感染は未だ収まらない状況である。
前回の報告の内容は,2020年度春1学期におけるオンライン授業方法の構築,学生の受講 環境,意見交流を主としたものだった。また,2020年以降,全国各地で緊急事態宣言が繰り返 される中,各大学,各科目の事情に応じて対面授業とオンライン授業が混在しており,教員と 学生は感染拡大の防止,そして,学習内容に応じた効果的・効率的な講義形式を模索してい た。
本報告では,前回報告後の2020年秋学期において実施した当科目の実践について報告し ていく。当科目は「教育の基本的概念・歴史・思想」に分類される科目である。前回の報
告(小林 2021)では,学生による当科目への評価について詳しく伝えることはできていない
ため,アンケート調査を基にしながら報告していく。
1-2 前回報告の振り返り
まず,前回の報告内容と得られた知見を振り返りたい。前回報告は,以下のように概括で きる。
前回報告の目的は,「オンライン授業実践について省察していくこと」(小林前掲:191)と しており,「特に,受講学生を対象としたアンケート調査データ,毎回配付・回収を実施して
いるコメントカード等を用いた学生との意見交流を通じた授業づくり,改善の様相を記述」
(小林前掲:191)することであった。そのうえで,下記のような総括が提示されている。
第 1 に,コメントカードを利用した受講者間の交流で,学生とのコミュニケーションツー ルとして従来の対面授業以上の価値を持つことを指摘し,第 2 に,学生が作成した課題の共 有が容易になる点である(小林前掲:206-207)。そして,実践の課題として,通信回線の安定性 をはじめとした学生の受講環境を考慮して,ウェブ会議システムを活用したグループワー クを行わなかったため,対面授業とオンライン授業の併用方式の探究,ウェブ会議システム を用いることを課題としていた (小林前掲:206-207)。
1-3 本報告の構成
本報告は,次の構成をとる。第 1 に,筆者が行った実践の概要について記述し(2 節),第 2 に,筆者が実施した講義形式の評価に関する受講者アンケートの結果を確認していく(3 節)。 最後に今後のオンライン授業において,「教育の基本的概念・歴史・思想」をいかにして取 り上げるかについて方向性を述べる(4節)。
2.実践の内容―受講者と実施した授業方法の概要―
筆者は,2020年度秋学期において,2クラスを担当した。各クラスの受講者は,工学部,生物
地球学部,理学部が受講しており,理学部の学生が多数を占めていた。なお,本報告では受講 者数が比較的多いクラスB(履修登録者数63名)を主に取り上げる。
本稿で取り上げるグループ活動については,本学の感染対策ガイドラインに基本的に従 いながら進めた。講義計画は小林(前掲)にて記載しているため割愛するが,適宜,大学からの 通知,受講者や岡山県,岡山県の近隣県の感染拡大状況,学習内容に応じて,学生に希望調査 を行い,対面型,ハイブリッド型,VOD 型を使い分けた。これは,筆者の授業運営上の計画の みならず,広範囲から通学する学生,様々な居住地から出校する学生の要望も踏まえたうえ で進めたものである。
3.受講者を対象としたアンケート調査の結果 3-1 調査概要
では,当科目の受講者は,どのような講義形式及び講義内容を評価したのだろうか。調査 結果を確認していきたい。調査概要は,下記の表1に示す通りである。この調査は,全15回 の講義終了後に実施した。
表1 「教育学原論の講義形式及び講義内容に関するアンケート」調査概要 アンケート実施期間:2021/01/28(木) 14:15〜2021/01/31(日) 23:59
調査方法:Mylog「アンケート作成」を通してオンラインで実施 対象者:63 名(クラス B) 回答者数:33 名 回答率:52.4%
詳細な質問内容は,表2の通りである。
表2 「教育学原論の講義形式及び講義内容に関するアンケート」の質問内容 1. 当科目を受講してきた中で,自分が 1 番目に適していると思った講義形式はどれです
か。また,その理由を自由記述欄に回答してください。
2. 当科目を受講してきた中で,自分が 2 番目に適していると思った講義形式はどれです か。
3. 当科目を受講してきた中で,自分が 3 番目に適していると思った講義形式はどれです か。
4. 当科目を受講してきた中で,自分が 4 番目に適していると思った講義形式はどれです か。
5. 第2回~第15回で,1番興味・関心を持って受講できた講義回を1つ選んでください。
また,選んだ理由を自由記述欄に回答してください。
3-2 受講者はどの講義形式を評価したのか 設問順に,調査結果を確認していきたい。
表3 「1. 当科目を受講してきた中で,自分が1番目に適していると思った講義形式はど れですか。また,その理由を自由記述欄に回答してください。」の結果
VOD 講義と対面授業の割合がほとんど変わらず,この 2 つの次に,ハイブリッド型講義 (オンライン参加)が一定程度の割合を示している。当科目は,第1回~10回までを対面授業, 第11回~12回までをハイブリッド型講義,第13回~15回をVOD型講義として実施した。
設問1の自由記述において見受けられたのが,VOD型講義が受講者の時間の都合に合わ せて受講できること,ハイブリッド型講義では VOD 型講義と異なり,他の受講者とワーク の際に会話ができるとともに,感染対策について気にする必要がないことが一部書かれて いた。そして,対面授業に関しては慣れていることや聞き取りやすいことが挙げられていた。
これら自由記述から推察できるのは,学生が講義に求めるポイントである。VOD 型の学生 は理解促進,感染対策,学習時間の設定のし易さ,対面授業の学生は,グループワークのし易 さ等,講義内容の充実を期待している点,普段から慣れている形式であるため集中がしやす
いこと等が考えられる。次に,表5のデータを見てみたい。
表5 「2. 当科目を受講してきた中で,自分が2番目に適していると思った講義形式はどれ ですか。」の結果
今回の調査では,2番目に評価したデータも確認していきたい。その理由として,学生の中 でも「どの方法でも良い」,「どちらともいえない」等,講義形式に対して様々な受け止め 方が存在することが考えられるからである。データを見ると,4通りの形式に対して割合は 約20~30%の間で評価が分かれている。設問1の段階で,大きくVOD型,対面授業型に分 かれているため,設問2ではほぼ均等に評価が分かれたことが考えられる。
では,3番目,4番目に評価した講義形式は何だろうか。併せてみていくこととしたい。
表6 「3.当科目を受講してきた中で,自分が3番目に適していると思った講義形式はどれ ですか。」の結果
設問3の結果は,ハイブリッド型講義(教室参加),対面授業が割合として多かった。ハイブ リッド型講義(教室参加)が多く選ばれているが,ハイブリッド型にすることによってオンラ イン出席者が増えるため,教室の人員が抑制される。そのため,一定の割合が選択されたの ではないだろうか。また,設問も3番目のため,設問1,設問2で対面授業を選択しなかった 回答者が対面授業に流れたと推察している。
表7 「4.当科目を受講してきた中で,自分が4番目に適していると思った講義形式はどれ ですか。」の結果
設問4では,ハイブリッド型講義が4割を占める。そして,VOD型講義は設問1~3まで 一定の割合を占めていたため,設問4では9%に留まっている。
では,受講生は複数の講義形式で実施された当科目において,どの回を評価したのだろう か。表8において,結果を見ていくとともに講義内容を大まかに振り返りたい。
表8 「5.第2回~第15回で,1番興味・関心を持って受講できた講義回を1つ選んでくだ さい。また,選んだ理由を自由記述欄に回答してください。」の投票結果
この質問項目は,1人1回のみ投票可能にしている。なお,第1回はオリエンテーションの ため,選択肢からは除外している。
結果を一覧にしてみると,アンケート調査と講義終了期間があまり空いていない回であ る 14 回,15 回に数が集まっていることがわかる。また,ゼロ回答の講義回も幾つか見受け られる。なお,講義回によっては,予定していた回にすべての内容が終わらず,次回に跨いだ ものもあることを付言しておきたい。
第9回は,最多タイの選択数である。主に第9回で扱った内容は,「近世日本の教育」,「日 本における近代公教育制度史」,等である 2)。主に 4 回目以降は西洋の教育方法の歴史,教 育思想を中心に講義を進めてきたため,学生の関心の持続が難しかったかもしれない。しか し,第 9 回目からは日本教育史に入ったため一定程度の関心を持ちながら受講できたこと が推察される。
また,第14回は全体で2番目に数が多かったが,主に扱った内容は,「教師」についてであ る。例えば,「教師の仕事の特殊性」,「教員養成の歴史」,「社会の教師へのまなざしの変 化」等を取り上げることにより,教師を取り巻く諸問題,教師の立ち位置について捉え直す 機会を提供した。学生の自由記述からは,教師の行動分析を行うワークを行い,教師の職務 特性の理解を促進する機会を提供したため,投票数が多くなったと考えられる。
そして,第15回目は,学校制度・高等教育論及び振り返りを行った。教育学原論という科 目において,高等教育論はいくらか距離があるかもしれない。しかし,教育における歴史,思 想,概念も含めて幅広く教育について学んだため,自身の学びを振り返りながら,今後の教職 課程,学芸員課程での学び,学部学科での学びをどのようにつなげていくのかについて考え る機会になることを期待して設定した。これまでは,教育の本質や方法,子ども,制度,実践に 目を向けてきた。そのため,高等教育(大学)をテーマとしてあえて設定することによって, 結果的に学習者として,大学生としての自らの学びの目標等,今後の方向性について考える 機会になったことが推察される。
設問 4 の自由記述全体としては,概ね教育の歴史に関する講義回について言及するもの,
「子ども―大人」について,大学での学びについて,各種グループワークに関しての言及が 多かった。今日的な課題から歴史を遡ることを当科目では行っていたため,最新のキーワー ドや話題についても多く触れられていることを確認した。
以上のように,当科目では,「今日的テーマから教育の歴史・思想を辿る」を 1 つのテー マとして,最新の教育事象はもちろん,今日において前提視,自明視してきたものを捉え直し ていくにあたり,歴史・思想・概念を知ることを受講者と進めてきた。
4.まとめにかえて
本報告の総括を行う。前回報告の対象期間から半期しか時間が経過していないため,当科 目担当者の実践の改善が行き届いていない部分があった。この点については,今後も引き続 き改善を進めていきたい。
当科目の講義形式について,受講者が1番目に適していると考えた形式は,VOD型だった。
しかし,これは僅差で対面授業もほぼ変わらなかった点は興味深い。当科目は科目の性質上, 教員による講義が中心となることが多い。そのため,聞き逃した内容を繰り返し再生できる
とともに,場所や時間をそれほど選ばずに受講できる VOD 型が選ばれた一方で,集中力や 学習意欲の持続,他科目の履修との兼ね合いから対面授業を選ぶ学生も多かった。
本報告での検討を踏まえ,今後のオンライン授業の充実に向けた方策として,講義内容を 踏まえた講義方法の設定及びワークの設定を挙げたい。言うまでもなくこの点は対面授業 においても共通しているが,オンライン授業において学生が懸念する集中力,延いては内容 理解も含まれるかもしれないが,様々な問題をクリアしつつ,思想や概念についてウェブ会 議システムを用いたディスカッションを取り入れること等が考えられる。実際に第 12 回 目において,概念・歴史・思想ではないが,ハイブリッド型講義としてケースメソッド学習 も取り入れた。しかし,表8のデータからわかるように,高評価を確認できなかったため,今 後,オンライン,教室との議論の円滑化を図る等,概念・歴史・思想について理解を深められ るワークを探究していきたい。
また,今回の実践や調査で得た知見をもとに,現在のようなウィズコロナの状況から,沈静 化後においても柔軟に活用することを通して,学習者の多様なニーズを満たす授業方法に ついて探究していきたい。そして,今回の取り組みは,COVID-19 の感染拡大を1つの契機 として取り組んできたが,感染拡大が収束した後も,科目及び講義回の性質に応じた講義形 式が柔軟に選べるようにすることも検討する価値はあるのではないだろうか。
最後に,これは一人の教員の特定科目における実践であるため,一般化して議論すること は難しい。加えて,講義形式が変わることによって負担に感じる受講者,対応に苦慮する受 講者もいたかもしれない。今後も受講者との対話を通して,「教育の基本的概念・歴史・思 想」の学習充実に向けた教育方法の探究に努めたい。
注・参考文献
1) 筆者は過去に,「教職課程科目『教育学原論』のオンライン授業化-学生との意見交流を通じた授業づくりと改善
-」『岡山理科大学教育実践研究』第4号,pp.191-208.を報告している。
2) なお,第10回では主に大正自由教育を取り上げた。
謝辞:アンケート調査及び授業運営にご協力いただいた2020年秋学期「教育学原論」受講者の皆様に心より御礼申し 上げます。