数 学
数学科の教育課程の編成 基本的な考え方
数学科の教育課程の編成に当たっては、地域、学校及び生徒の実態、課程や学科の特 色等に十分配慮するとともに、学習指導要領で示されている数学科及び各科目の目標、
各科目の性格などに留意することが大切である。
ア地域、学校及び生徒の実態の把握
地域住民や保識者の教育に対する意識や要望とともに、学校における教員の構成や 施設設備の状況、学科の特色等を十分把握する。また、生徒の一人一人の能力・適性、
興味・関心や進路希望等を的確にとらえる。
イ学校の数学科の具体的な目標の設定
学校の数学科の目標を定めるには、次の5点を視野に入れる必要がある。
㈹基礎・基本の重視
各学校の実態により、基礎・基本の内容は違ったものになるが、高等学校数学で は基礎・基本を、次の3つの側面からとらえることができる。
1 (1)
①知識・技能という側面からみた基礎・基本
②数学的な見方や考え方という側面からみた基礎・基本
③学び方という側面からみた基礎・基本
(イ)数学的な見方や考え方のよさの認識
「数学が構成されていくときの見方や考え方」と「数学を基にした見方や考え方」
の指導を通して、数学を学ぶよさや楽しさ、数学を学習する意義を認識し、数学へ の学習意欲や社会生活の実際の場面で数学を活用する態度を育てることができる。
㈲数学を活用する態度の育成
生徒の主体的な学習活動により、様々な場面で数学を生かそうとする意欲、ある いは活用する態度を育成することができる。高等学校段階での数学の活用には、次 の3つの場面が考えられる。
①数学の発展学習の場面での活用
②他の教科や総合的な学習の時間における学習場面での活用
③日常の生活や社会生活の場面での活用
㈲個性を生かす教育の充実
学習指導においては、基礎・基本の指導の上に、また、その過程を通して、生徒 の思考力、判断力、表現力などを伸ばすことが大切である。数学の学習指導の面か
ら、個性を生かす教育をとらえたとき、次の2つの面が考えられる。
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−H13数学 1−
①個に応じた指導方法の工夫改善
②個性や創造性を伸ばす指導
㈹論理的な思考力や直観力の育成
基礎的・基本的な知識・技能の習得を基にして多面的|こものを見る力や論理的な 思考力、想像力、直観力を育成することにより、知的創造力に結び付く創造性の基 礎を培うことができる。
ウ科目編成と履修させる学年の設定
各科目の目標や性格を十分踏まえ、履修する科目は全体として調和の取れたものと なるよう編成し、生徒の発達段階を十分考慮して、学習負担が過重にならないよう適 切に定める。
エ各科目の履修単位数の設定
各科目の標準単位数に基づいて、生徒の実態等に十分配慮するとともに、他教科等 との関連を図りながら適切に定める。
(2)配慮すべき事項
数学科の教育課程は、(1)の基本的な考え方に基づいて編成することになるが、具体的 な編成に当たっては、次の事項に配慮することが大切である。
ア「数学I」と「数学基礎」は、いずれか1科目を選択して履修する必履修科目であ るが、「数学基礎」については、他の科目との履修の順序が規定されていない。
イ「数学基礎」以外の科目は、履修順序は定められているが、履修学年については特 に規定されていない。
ウ各科目を履修させるに当たっては、それぞれの科目の内容相互の関連を図るととも に、学習内容の系統性に留意する。
エ必履修科目としての「数学基礎」及び「数学I」の標準単位数はそれぞれ2単位、
3単位であるが、「数学基礎」を必履修科目として履修させる場合には、1単位とする ことはできない。また、「数学I」を必履修科目として履修させる場合についても、
特別な事情のある場合を除いて標準単位数を減じることはできない。
オ「数学A」、「数学Ⅱ」及び「数学111」の標準単位数はそれぞれ、2単位、4単位、3 単位と定められているが、生徒の実態や必要に応じて、教科及び科目の目標を損なわ
ない範囲内で単位数を増加あるいは減少して弾力的に扱うことができる。
力「数学B」及び「数学C」の標準単位数は、いずれも2単位と定められているが、こ れらの科目の内容は、すべて4単位程度に相当するものからなっており、生徒の実態 や必要に応じて内容を適宜選択し、単位数を定めることができる。
キ学科の特性や生徒の特性等を考慮して、学習指導要領で各科目に示されていない事 項を加えて指導することができるが、その場合には、教科及び科目の目標や内容を逸 脱したり、生徒の負担が過重にならないようにする。
ク各科目の指導に当たって、必要に応じて、コンピュータや情報通信ネットワークな どを適切に活用し、学習の効果を高めるようにする。
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−H13数学 2−
特色ある教育課程の編成
必履修科目の選択に応じた例や学科の特色を生かした例について以下に示すが、実際 には各学校において独自に教育課程を編成することになる。
なお、編成例については、全日制課程で教科・科目の総単位数を各学年28単位程度と し、生徒が自由に選択できる科目の設置をできるだけ考慮している。(△印は、選択履修 科目)
ア「数学基礎」を必履修科目とする例
(3)
(7)中核となる科目として、「数学基礎」及 び「数学I」を配置している。
(イ)「数学I」は、単位数を増加して内容 を深めるようにしている。
(け第2,3学年では、選択科目のみとし、
進路希望に応じて柔軟に対応できるよう 配慮している。
(エ〉第1学年の「学校設定科目」としては、
イ「数学I」を必履修科目とする例
㈹中核となる科目として、「数学I」及び
「数学Ⅱ」を配蔵している。
(イ)第1学年では、「数学A」をすべての生 徒に履修させ、「数学I」と相互に補 完し合えるようにしている。
、第2,3学年では、選択科目を設定し、
進路希望に応じて他教科の科目との選択 の幅が拡大できるよう配慮している。
「高校数学入門」などが考えられる。
(エ)第3学年の「学校設定科目」としては、「代数学入門」、「幾何学入門」及び「解析 学入門」などのほか、理数科の「課題研究」のような科目が考えられる。
ウ専門学科で専門教科・科目に重点を置く例
、中核となる科目として、「数学I」を配
置している。
(イ)「数学I」は分割履修とし、単位数を 増加して内容を深めるようにしている。
⑰第3学年の「学校設定科目」としては、
「コンピュータと数学」などが考えられ
る。
指導計画の内容の取扱い 指導計画作成上の留意点
ア生徒の実態と習熟の程度を考慮した指導計画の作成
指導計画を作成するに当たっては、次の点に留意することが大切である。
2 (1)
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科目 1 2 3
計
数学雅礎
2 2数学I
△4 O~4数学11
△4 O~4数学111
数学A
△2 O~2数学B
△2 O~2数学C
学校設定科LI
1 1計
3 O~4 O~4 3~11科目 1 2 3
計 数学基礎
△2 O~2数学I
3 3数学11
4 4数学ⅡI
△3 O~3数学A
2 2数学B
△2 O~2数学C
△2 O~2学校設定科LI
△2 O~2計
5 4~6 O~5 9~16科目
1 2 3計 数学基礎
数学I
2 2 4数学11
△4 O~4数学111
数学A
△2 O~2数学B
△2 O~2数学C
学校設定科Ⅱ
△2 O~2計
2 2~4 O~6 4~12−H13数学 3−
(7)教科目標の達成に向けて、長期的展望に立った指導構想を持つ。
(イ)単元の指導計画を立て、指導内容の重点化を図る゜
㈲「関心・意欲・態度」、「数学的な見方や考え方」、「表現・処理」、「知識・理解」
のそれぞれの目標を明確にし、指導計画に適切に位置付ける。
㈲数学を学習することのよさや楽しさが分かるような教材の開発や指導方法の工夫 改善を行う。
㈹知識の修得や技能の習熟が十分行われるような指導順序、指導方法、時間配分を 工夫する。
(力)数学的に考察し処理する場面においては、十分な時間をとって、生徒が主体的に 取り組むことができるようにする。
㈲問題解決的な学習を取り入れた授業を重視し、生徒が自ら学び、自ら考えるよう にする。
(のコンピュータ等の教育機器や情報通信ネットワークの活用を工夫する。
イ個に応じた指導の充実を図る指導計画の作成
生徒一人一人は、習熟の程度、理解の早さや深さ、学習成果の保持、興味・関心、
知的な探究心、創造的な追究心、学習適性などにおいて違いがあり、様々な個性を持っ ている。さらに、生徒一人一人の中学校における選択教科としての数学や課題学習の 履修歴が異なることから,これらの違いを踏まえる中で、個性を生かし、生徒の特性 等に応じた多様な学習活動が展開できる指導計画を作成する必要がある。
一方、個性を生かす教育は、学習の遅れがちな生徒に対する対応だけのためではな く、優れた素質を持った生徒に対して、それを積極的に伸ばすための方策としても必 要であり、個に応じた指導の充実に配慰する必要がある。
ウ数学的活動を位置付けた指導計画の作成
数学的活動は今回の改訂において新たに用いられた言葉であり、この数学的活動を 指導計画に適切に位置付け、数学的活動を通して、数学への興味・関心を一層喚起す るとともに、論理的思考力、想像力及び直観力などの創造性の基礎を培うことが必要
である。
(2)指導計画の改善に生かす評価 ア指導と評価の一体化
学習指導における評価は、指導内容の理解の状況や指導目標の達成の状況を判断す るものであるが、教師にとっては、指導計画を改善する場であり、生徒にとっては、
学習態度や学習方法を振り返る場である。したがって、数学科の目標と評価は、相互 に関連し合って学習活動を支え合うものであり、生徒のよい点や進歩の状況などを種 極的に評価して指導の改善を行い、学習意欲の向上に生かしていくことが重要である。
イ個性を生かす教育の充実を図る評価
個性を生かす教育を充実させるためには、生徒一人一人に注目し、一人一人がどれ だけ成長したかという視点を重視して評価することが重要である。そのため、指導に 当たって、生徒一人一人の考え方や感じ方を尊重し、その個性に応じた指導をするこ とを通して、生徒一人一人が興味・関心や意欲を持ち、数学を学ぶことの必要性や楽
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−H13数学 4−
しきを味わい、数学のよさが分かり、進んで現実の問題を数学的な見方や考え方を用 いて解決しようとする態度を育成することが大切である。
なお、評価を行う際には、次の点を考慮する必要がある。
・生徒一人一人の個性、これまでの数学の履修歴、学習状態を十分に把握してい
るか。
・生徒の実態に応じて、個別指導やグループ別指導などの学習形態や進度は適切 であるか。
・教師の協力的な指導(ティーム・ティーチングなど)や生徒の学習内容の習熟の 程度等に応じた弾力的な学級の編成を実施する必要はないか。
・学習の遅れがちな生徒や進んだ生徒に適切に対応できるよう、時間配分を工夫
しているか。
・生徒が学習する目的を認識し、主体的に取り組んでいるか。
・生徒一人一人の考えが生かされ、集団として高め合い活発な授業展開になって
いるか。
ウ評価結果を基にした指導計画の改善についての留意点
評価を生かした学習活動という視点から指導計画を見直すとき、前述の「指導計画 作成上の留意点」を考慮するとともに、次のような観点から指導方法を工夫し、指導 計画を改善していくことが重要である。
・生徒の興味・関心や学習の理解の状態などを十分把握し生徒の学習段階に合っ た指導計画を作成する。
・生徒の実態に応じて場合によっては、数学の持つ論理性や系統性を踏まえつつ も、直観を主にしたり、あるいは、生徒の興味・関心を引き付けることを主に した指導方法を工夫する。
・身近な事例を取り上げたり、視覚的な教材・教具を活用したり、観察、操作、
実験などの活動を取り入れたりするなど、生徒が主体的に楽しく充実感を持っ て学習が進められるよう教材の開発や指導方法の工夫を行う。
・数学的に考察・処理する場面においては、身近な事象を数学化したり、思考過 程を振り返ったり、織成した数学的知識の意味を当初の事象に戻って考えたり するなどの活動に、生徒がゆとりを持って取り組めるようにする。
・数学の内容が創り出されてきた過程を追体験させるような指導方法を工夫す
る。
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−H13数学 5−
3質疑応答
問1「学校設定科目」を設置するに当たっての留意点は何か。
数学科においては、教科の目標に基づいて新たな科目を設け、生徒の習熟度や特性等 及び学科の特色に応じた教育が一層進められるようにすることができる。例えば、中学 校の内容の習熟と高等学校数学への導入を目的とする「高校数学入門」や発展的・拡充 的な内容を取り扱う「代数学入門」、「幾何学入門」及び「解析学入門」などのほか、「コ ンピュータと数学」や理数科の「課題研究」のような科目を設けることも考えられる。
その際、次のことに留意する必要がある。
・既存の科目を単に併せたものを「学校設定科目」とすることはできない。
.「数学I」の演習として「数学I演習」のように学習指導要領に示された各科目の内 容の演習を目的とするのは、「学校設定科目」ではない。それらは、各科目の中で単位 数を増加するなどして行うことが望ましい。
問21科目を2以上の年次にわたって分割履修をするに当たっての留意点は何か。
1科目を2以上の年次にわたって分割履修をする場合には、単に、単位数の数字合わ せの結果としてではなく、明確な理由のもとに行うことが重要である。その際、次のこ
とに留意する必要がある。
・指導計画の作成と内容の取扱いに示されているように、科目の履修に当たって、I、
11,1Ⅱを付した科目のように原則として順序性のあるものについては、例えば、Iを 付した科目を完全に終えてから、IIを付した科目を履修させることとなっている。そ のため、「数学I」を2か年にわたって分割履修させ、第2年次に「数学I」と「数学
Ⅱ」を並行履修させることはできない。
.「数学I」を1単位ずつ3学年に分けて履修させることは、学習の効率から考えて避 けること力塑ましい。なお、例えば、第1学年に「数学I」を3単位履修させた後、
第2学年で「数学Ⅱ」を4単位履修させ、さらに、第3学年に「数学I」を1単位履 修させるようなことはできない。
.「数学A」のような標準単位数が2単位の科目を分割履修させることも考えられる。
・単位の修得については、年次ごとにその科目について履修した単位を修得したことを 認定することとされている。その場合、それぞれの年次では、当該科目の一部の単位 数を修得できるにすぎず、当該科目に配当された全部の単位数を修得することによっ て、はじめて当該科目を修得したこととなる。
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−H13数学 6−