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日本の観光政策をめぐる論理・倫理・立地の 基本的整理

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要旨

経済のグローバル化や人口減少を背景に,日本は観光政策によって観光客数と消費額 を増大させる,観光の基幹産業化を目指してきた.その「論理」は,観光経済振興がも たらす社会的リスクを慎重に評価すべきという「倫理」の面で批判されてきた.

一方,宿泊業・旅行業・娯楽業等の観光産業の「立地」を分析すると,大都市圏では 観光産業の絶対数は多いが,第 3 次産業全体の発達が高次であるため観光産業には特化 しない.他方で地方圏では絶対数は少ないが,第 3 次産業の発達が一般に低次なため結 果的に観光産業に特化している.

こうした観光産業の量的および質的な地理的不均衡は,観光振興があまねく地域に経 済振興をもたらすとは限らず, 地域間の経済格差を構造的に再生産することを示唆す る.今後はその検証とともに,COVID-19を機に,これまでの観光政策に対する「立地」

の観点からの地理学的批判が必要である.その方向性について,COVID-19以前から進 行してきた,サービス経済化と情報社会化による先進国社会そのものの時空間的再編の 観点から考察した.

キーワード:観光政策,観光産業,地域格差,新型コロナウイルス感染症,地理学 Keywords: Tourism policy, Tourism industries, Regional disparities, COVID-19, Geography 論 文

日本の観光政策をめぐる論理・倫理・立地の 基本的整理

―― 観光政策の地理学的批判とCOVID-19 ――

福井 一喜

(2)

Ⅰ はじめに

観光は人口減少時代の日本の社会経済の救世主と目されてきた.観光政策において,観 光は新たな基幹産業として,また失われゆく定住人口の補填手段として期待されている.

国土交通省の「国土形成計画」が示すように,人口減少社会における農山漁村の維持 には,都市との間の様々な「対流」が不可欠とされ,人を対流させる観光はその重要な 手段と考えられてきた.とりわけ地方圏の農山漁村では人口減少を国内外の観光客から 得られる消費や税収で補うために,観光消費の喚起や,企業や地域の諸主体による観光 産業の育成が奨励されてきた.

新型コロナウイルス感染症(COVID-19) によって状況は一変した. 感染を抑え込 むための「外出自粛 」 は観光をほぼ不可能にし, 観光とその関連産業は窮地に立たさ れている.2020年 4 月の産業別倒産件数は, 宿泊業等を含むサービス業が最多であ

( 1 ),歴史のある宿泊施設や飲食店の廃業が取り沙汰されている.投資家のウォーレ

ン・バフェットは自身の投資会社の株主総会で「世界は変わってしまった」「 3 , 4 年 後,人々が昨年と同じぐらい飛行機に乗るのかどうか分からない」と述べた( 2 ).仮に COVID-19の封じ込めに成功し以前のような観光が可能になっても,状況は不可逆であ る.廃業した老舗の宿泊施設や飲食店,解雇された熟練労働者たちは戻ってこない.

本稿は,いわゆる「コロナ時代の観光」といった,COVID-19が観光に与える影響そ れ自体を論じるものではない.その検証も必要だが,COVID-19は,観光に依拠した地 域社会や経済の維持方策は,それが「一時的な人の移動」に依存するがゆえの不安定性 を本来的に抱えていることを, 改めて我々 に呈示しているのである. すなわち COVID-19の影響は観光の深部構造に根ざしている.その構造的な問題を把握しなけれ ば,「コロナ時代の観光」論も今後の観光政策の議論も,表層的な水準に留まってしま う.我々は日本の観光政策の在り方そのものを再検討する必要がある.

地域への観光客や観光消費を増大しようとする観光政策の論理は,日本に限らず社会 学などの立場から問題が指摘されてきた.後に整理するようにそれは,観光振興が経済 振興という利益と引き換えに様々なリスクを社会や地域にもたらすとする倫理的な問題 である.他方で筆者は,地域の多様性に留意する地理学の観点から立地論的な疑念を抱 いている.つまり,観光政策はあまねく地域の経済振興に結びつくのだろうか.

その具体的な論証は別稿で準備を進めているが,本稿ではそれに先立つ基本的な作業 をする.すなわち日本の今日の観光政策がどのような論理を持ち,そこにどのような倫

( 1 ) https://www.tsr-net.co.jp/news/status/monthly/202004.html(最 終 閲 覧 日2020年 6 月 29日)

( 2 ) 朝日新聞2020年 5 月 3 日より.

(3)

理的性質が見出されるのか,その論理と倫理に対して現実の観光産業はいかなる特徴と 立地分布を示すのかを分析することで,日本の観光政策を地理学的に批判検討するため の基本的な整理を行うことが,本研究の目的である.

用語の定義として「観光振興 」 はある地域における観光客数や観光消費額の増大と し,「経済振興 」 はある地域における事業所数や従業者数や付加価値額の増大とする.

観光振興による経済振興を適宜「観光経済振興」と呼ぶ.

以下,Ⅱでは先行研究の整理と日本の観光政策文書の解析から,日本の観光政策をめ ぐる議論やその特徴を整理する.Ⅲでは日本の観光産業の特性と立地パターンを分析す る.Ⅳではそれらを総合し,日本の観光政策をめぐる論理と倫理と立地に関する論点を 整理し,今後の研究課題を指摘する.

Ⅱ 日本の観光政策をめぐる論点

1 .観光政策をめぐる論理と倫理

「我が国は,自然・文化・気候・食という観光振興に必要な 4 つの条件を兼ね備え た,世界でも数少ない国の一つであり,これらの豊富な観光資源を真に開花させるこ とにより,裾野の広い観光を一億総活躍の場とすることが可能である.観光は,まさ に『地方創生』への切り札,GDP600兆円達成への成長戦略の柱.国を挙げて,観光 を我が国の基幹産業へと成長させ,『観光先進国』という新たな挑戦に踏み切る覚悟 が必要である(明日の日本を支える観光ビジョン構想会議 2016)」

首相官邸の政策会議による「明日の日本を支える観光ビジョン」冒頭部の抜粋である.

さて,「自然・文化・気候・食という観光振興に必要な 4 つの条件を兼ね備えた」国 が本当に「世界でも数少ない 」 のかは地理学者として疑問だが( 3 ), それはともかく,

観光は日本経済の新たな基幹産業になるべく期待されてきた.観光が注目されるのは,

観光が「裾野の広い 」 産業であり, 経済波及効果が大きいと考えられているからであ る.『観光学評論』の麻生(2015)は次のようにまとめている.

「観光振興策により域外から宿泊客を誘致し,彼らから観光消費を引き出すことで 地域内に資金の循環が生まれ,それが域内での投資を誘発し,経済波及効果の下で所 得や雇用,税収の増加をもたらし,地域経済は活性化する.特に,観光産業は複合的 であり,地域内に与える経済波及効果は他の産業に比べて大きい(麻生 2015, p119)」

( 3 ) 「自然・文化・気候・食という観光振興に必要な 4 つの条件」を兼ね備えていない国が 世界に存在するというのだろうか.

(4)

つまり,ある消費者が観光地に滞在した際の経済効果は,観光地の宿泊業や飲食サー ビス業や娯楽業だけでなく,それらに中間財を提供するクリーニング業や卸売業,各種 設備の製造業,食材を提供する農業,運輸業やエネルギー関連業,観光をプロモーショ ンするための広告業など,観光に直接関係しない諸産業に広く波及すると考えられてい る.国土交通省(2018)が「賑わいの創出,雇用の創出,経済の活性化等観光のもたら すメリットは大きく,観光はまさに『地方創生』の切り札となっている」というよう に,観光政策論では観光の需要と消費を増大させれば広範な経済振興が期待できるとさ れ,いかに観光振興を成功させるかが論点とされる( 4 )

こうした観光の国家政策における位置づけは時代によって変化しており,今日の観光 政策はその延長線上に存在する.例えば川上(2011)によれば,国土計画において一全 総, 新全総の時代には, 産業の生産性向上を目標に, 労働者である国民のレクリエー ション(気晴らし)のために観光が奨励された.四全総の時代には,内需拡大のための 国内リゾート開発とともにアウトバウンド観光が奨励されたが,これには当時の貿易摩 擦の中で国際経常収支の「黒字減らし」という目的もあった.本格的に観光を産業とし て捉え地域振興に活用しようという位置づけが進んだのは,経済のグローバル化とバブ ル経済の崩壊が進んだ21GD(21世紀国土のグランドデザイン)や国土形成計画の時代 になってからである.

四全総までの国土計画の観光施策が主に日本人の国内観光振興だっ たのに対し,

21GD以降は日本人よりも外国人のインバウンド拡充による経済振興を重視している.

とりわけインバウンドは客数だけでなく観光消費額の増大が目標値として強調されるよ うになった.こうした変化には,地域振興の主要手段だったハード型の公共事業が困難 になったことにより, その代替手段として観光を位置づけるようになった側面もあ る(川上 2011;辻 2018).

国家政策だけでなく各都道府県もそれぞれ観光政策を策定しているが, その目的は

( 4 ) ただし,こうした期待が本当に実現するかは厳密に検証されるべきである.例えば観 光庁(2019)は,観光関連業自体の生産や付加価値に加えて,経済波及効果として,①原 材料の仕入れや営業・一般管理費の中間投入,②それらにより生じる雇用者所得による家 計消費,③それがもらたす他産業の生産誘発までの,「生産→所得→消費→生産という一 巡(同 p325)」を含めると,日本の観光の付加価値効果は4.1兆円(GDP の0.8%)に達す るとする(同 p340).素朴な疑問として,再生産過程まで含めた付加価値額が GDP のど れだけを占めるかを議論するには,例えば自動車産業など他産業の再生産過程までを含め た付加価値額と比較しなければ意味がないのではなかろうか.これは結局「観光」をいか なる概念と考えるかという問題に帰結するのであり,それが未解決である限り,観光が現 実にもたらす本当の経済効果を他産業と比較のうえで把握することは困難であるように思 われる.

(5)

「観光客の誘致,消費の場作りと付加価値の創出,域内産品や域内人材の育成など(塩 谷 2013)」といった経済振興になっている.また日本交通公社(2019)が指摘するよう に,都道府県の重点施策・政策は,最も多いのが「情報発信」すなわち観光プロモー ション,次点が「観光資源のソフト整備」や「営業販売」が続き,他方で「住民向け事 業」つまり観光に関する住民への「理解促進のための広報や説明会の開催」「観光を体 験する機会の創出」などは全く重視されておらず,市町村においても同様である( 5 )

このように日本の政策において観光は,かつては国民のレクリエーションのためだっ たものが,21GD以降は外貨獲得手段として,あるいはハード型の公共事業の代替手段 として,経済振興をもたらす新たな成長産業としての役割が強調されるようになってい る.つまり観光政策は近年になってから,国民や住民の福祉よりも外国人誘致による経 済振興を重視するようになった.

こうした背景のもと,近年の観光学分野では原(2015)や矢ケ崎(2015)のように,

主に地方圏の地域の諸主体に,地域の雇用創出のために地域文化の商品化やマーケティ ング等への一層の自助努力を要求する論調がみられる.さらには外国人富裕層向けの地 域づくりの徹底を主張する論者も出現している.

「地方の旅館には,地域の生活文化のショーケースとなり(中略)インバウンドに よる外需を地域経済に循環させる核となることが期待される(中略).これまでの経 営のあり方を見直し,商習慣を適正なものに変革していくことを期待したい(矢ケ崎 2015,p34-35)」

「観光立国が『効果』としてこだわらねばならないのは,『いかにしてお金を落とさ せるか』ということなのです(アトキンソン 2015,p154)」

「富裕層を他の観光客とは別扱いにし,より積極的に取り入れ,より多くの消費を 行わせる政策を推進していくべきである(戸崎 2019,p73)」

ここでは,これらの提言や主張の妥当性を直ちに評価するわけではない.とはいえ観 光は多様な人々の来訪という観光負荷を必然的に地域にもたらす以上,マーケティング や富裕層の獲得によって,できるだけ少人数の来訪者から効率的に消費を引き出すべき

( 5 ) この日本交通公社(2019)の調査では,各県は「住民向け事業」は市町村に主導的な 役割を期待していることも明らかとされるが,実際に「住民向け事業」を重点施策,政策 とする市町村はわずか1.0%にすぎないことも示される.つまり結果としてほぼ全ての地方 公共団体が「住民向け事業」を重視していないことになる.

(6)

という考え方には,一定の支持があってもおかしくない.観光を経済振興の道具として 見るならば,観光マーケティングへの注力による地域文化や空間の商品化や,それによ る外国人富裕層獲得への専念は,政策の選択肢の一つになりえよう.

しかしながら,そうした動向への批判ないし慎重な見解もこれまで提示されてきた.

場所の記号的価値の差別化による観光経済振興は,日本に限らず先進国共通の政策課題 でもある.社会学者のジグムント・バウマンがいうように,現代の先進国では,以前よ りも遥かに移動が容易になったことで,逆説的に,誰もが行きたがる,あるいは大切に 守るべき「特別な価値」をもった確固たる場所が消滅してしまう.

「あらゆる空間へ,いつでも行けるとするならば,そこへある決まった時間までに 行かなくてはならない理由はないし,そこに行くための資格をえる心配をしなくても よい(中略).どこにでも簡単に行け,興味や『時流』にあわせて,場所をかえるこ とも簡単なのだから,空間の維持・管理,土地の管理・耕作に,永遠の支出をつづけ る理由はないのである(バウマン 2001,p154)( 6 )

地理学者のデヴィッド・ハーヴェイ(1999)や神田孝治(2012)が指摘するように,

グローバリゼーション下において時間と空間が圧縮され世界が「均質化」「フラット化」

し,移動が容易になった現代先進国では,その裏返しとして,グローバルな資本投下を 得るために場所の魅力を高める空間の価値上昇が求められており,場所や地域の観光資 源化や観光地化はその一手段を担っている.よく知られているように,ハーヴェイは現 代資本主義のこうした構造を以前から厳しく批判してきた.また移動の社会学を提唱し たジョン・アーリは,移動が高度化した現代社会の行く末を,気候変動や安全保障,自 由と民主主義の退潮などの視点から悲観的に論じてきた.

「移動は(中略),リスク,事故,病気,密売,テロリズム,監視,とりわけ地球規 模の環境破壊を引き起こしている.現代の動的な世界は,動的なリスクに満ちた生活 の新たな機会はもとより,人や場所,環境に対する並外れた危険と規制をもたらして いるように思われる(アーリ 2015, p24)」

「私は, 消費とレジャ ーのための場所が, どのようにしてオフショアを発展させ,

新自由主義の時代の最中に重要なものとなったのかを考察する.過去半世紀にわたっ て,娯楽のためのオフショアリングは,オンショアの法律や規範を,まったくか,あ

( 6 ) ただしバウマンはここで,必ずしも空間的な移動だけを問題にしているわけではな く,立場や価値観の移動なども含めた議論をしている.

(7)

るいは部分的に無効にさせている.多くの訪問客が,自国での法律や規範から逃れる ために, 楽しく自由な場所へと旅立つ誘惑にかられてきたのである(アーリ 2018,

p121)」

アーリのいう「オフショア」とは「地平の向こうにあって見えず,何かと問題の多い プロセスやメタファーのこと(p4)」であるが,つまり,自由な移動を謳歌する一部の 特権階級だけが利益を享受できる,外界から区別され一般市民には知ることのできない 空間やシステムのことを指している.そして彼は,そうしたオフショアが観光の拡大に よって成長し, 同時に見えにくくなっていると警鐘を鳴らすのである. またアーリが

「病気」に言及していることは今,注目すべきだろう.アーリ(2015)ではSARSにし ばしば言及される.

こうした,観光の拡大=人の移動の活発化がもたらす,空間や場所や文化が商品化さ れ外来者がそれらを消費するというシステムの矛盾は,国内の論者からもしばしば批判 的に論じられてきた.

「『いかにして観光客にお金を落とさせるか?』あるいは『観光振興は外国人観光客 の懐頼り』という発想に拘泥するような知恵の浅はかさでは,百年先・二十二世紀に 生きる子どもたちに対してわがまちや,さらには日本の観光を伝え続けていくことは 決してできないのである(井口 2018,p8)」

「観光社会学は(中略 ), 観光地社会の変容へ批判的視点を広げていった(中略 ).

観光者の消費行動の変化,およびその結果として起こる地域のリアリティ変容や,そ れがもたらす政治性を抜きにしては,現代の観光を語ることはできない.観光者の消 費行為(中略)に対する,観光社会学に引き継がれてきた批判的,反省的視点を欠落 させたまま, 観光地地域『開発 』 のノウハウとその成否だけを問題にして来たので は,観光社会学はその要諦を見落としてしまうであろう(須藤 2010, p113-114)」

こうした議論が問題視しているのは,観光の多様な側面を捨象し,それを経済振興の 道具としてのみ見做す枠組みである.そしてその枠組みは,近年の日本の観光政策や観 光学分野の政策論者の,「地方の旅館には,地域の生活文化のショーケースとなり……」

「いかにしてお金を落とさせるか……」,「富裕層を他の観光客とは別扱いにし……」と いった主張を形作ってもいる( 7 )

以上のように,近年の日本の観光をめぐる政策的議論には通底する論理がある.経済

( 7 ) それぞれ順に,矢ケ崎(2015)アトキンソン(2015)戸崎(2019)から引用.

(8)

のグローバル化や世界の「フラット化」の状況下では,外国人を含む地域外部の住民に 向けて「地域の魅力」を高めることで外来者を獲得し,そこでの消費を促進することで 地域の人口減少や産業の空洞化といった問題の解決が図られるという論理である.とり わけ政府や観光政策の推進論者は,観光を経済振興の有用な道具とみなし,そのポテン シャルを最大化するためには,より積極的に地域の商品化や富裕層を含む外国人の獲得 に一層邁進すべきと考える( 8 )

そしてそれへの批判者は,こうした考え方には次のような倫理的な問題があると考え る.つまり観光振興を経済振興の道具とする場合,その対象となる地域は経済振興を得 る代償として,代替不可能な地域文化の商品化や,それによる地域のリアリティの喪失,

一部の特権階級とその他との格差の再生産,テロや犯罪や「オフショア化」,あるいは 観光公害など様々な意味でのリスクを引き受けなければならなくなると危惧される.

すなわちここにあるのは,観光経済振興とそれによるリスクとの間のトレードオフの 関係である.仮に観光経済振興は是としても,それによるリスクとのバランス判断をど う考えるかというのが基本的な枠組みである.

2 .日本の観光政策のキーコンセプト

前節で見たように,今日の日本の観光政策は経済振興策としての性質を強く帯びてい る.その趣旨を量的および視覚的に把握するために,ここでは観光庁が公開している観 光計画書に対する計量テキスト解析を行う.

観光政策は「基本計画」等の形で,主に文章で質的に表現されるが,計量テキスト解析 ではテキストマイニングの手法によって,文書内に頻出する単語や,文や段落内での単語 間の関係を量的および視覚的に把握できる.観光計画書にいかなる単語がどのように頻出 するかを把握すれば,観光政策の性質を量的・視覚的に理解することができる.

分析対象は「観光ビジョン推進プログラム2019」 と「観光立国推進基本計画 」 であ

( 9 ).両計画書には,その基本的な方針をまとめた冒頭文に続き,今後推進が必要と

される諸施策が,その意図や必要性とともに列記されている.ここでは冒頭文を除き,

その諸施策の記述部分を分析対象とした(10)

まず分析対象テキストの総単語80,625単語から名詞を抽出した.ここからサ変名詞は

「実現する」のように行政文書用語が頻出するので「観光」と「旅行」以外を排除した.

同様に「取組」や「事業」などの行政文書用語も排除した.続いて複合語を検出した結

( 8 ) ここでいう「地域」には日本全体から集落レベルまで多様なスケールが想定される.

( 9 ) それぞれ,観光立国推進閣僚会議(2019),観光庁(2017).

(10) 冒頭文を分析対象としないのは,全体のなかに占める分量が少なく,また諸施策の列記 部とは文章表現が異なることから,施策の列記部と同列に分析することは好ましくないと 判断したためである.

(9)

果,例えば「外国人」が「外国」「人」に別れるなどしたので,機械的に判読困難な重 要概念を強制的に一単語として抽出した(11).以上の操作によって抽出された18,315単語 を解析対象とした.

表 1 は出現回数の上位50単語である.最上位は「観光」「地域」「旅行」といった基本 的な単語が占めるが,それらの他では「外国人」が425回と最多で,それに「訪日」が 続く.これは計画書内で,一貫して訪日外国人観光者向けの諸施策が多く記述されてい ることを表している.ほかには上位に「魅力」「環境」「コンテンツ」「プロモーション」

「産業」「効果」などが位置することは,訪日外国人観光者の獲得や受け入れに向けて 様々な地域資源を訴求しようとする諸施策が記述されていることを意味している(12)

上位の主要単語がどのような文脈で使用されているのかを把握するために,各単語の 前後 5 単語内に頻出する単語を集計した(表 2 ).文書全体での頻出単語が多いが,例

(11) 強制抽出したのは「外国人」「外国語」「インバウンド」「訪日」「地方公共団体」「地方 創生」である.

(12) 「環境」は「受入環境の整備」などの文脈で使用されることが多かった.

表 1  観光計画書に頻出する抽出語

注: 「観光ビジョン推進プログラム」および「観光立国推進基本計画」をもとにKH Coderで解析し て作成.

,

(10)

えば「観光」は「日本」「政府」や「産業」と同じ文章で使用されており,政府による 観光振興や観光産業育成などの文脈にある.このように解釈すると,「地域」は「魅力」

「資源」「活性」「経済」など地域資源を生かした経済的な地域活性化の文脈で使用され ている.また「外国人」について「地方」での「受入」を進めることへの期待や,「日 本」の「政府」が国内の魅力や文化を海外に発信しようとする意図も読み取れる.

こうした外国人観光客に関する単語が頻出する一方で,例えば「住民」の出現回数は 18回(182位 ) にすぎず, これは「タクシー」 や「ピザ 」 などと同じ回数で,「アジ ア(25回)」や「グローバル(21回)」よりも少ない.また「地域住民」の出現回数は10 回である. さらに「地域 」 の前後 5 単語以内で「住民 」 が出現した回数は12回で,

「DMO(28回 )」 や「経済(22回 )」 のほか「交通(14回 )」 や「文化財(14回 )」「訪 日(13回)」よりも少ない.

また「観光ビジョン実現プログラム2019」では,実施すべきとされる施策が主要施策 と関連施策に分けてリスト化されている.この施策511件(13)のうち,「外国人」「訪日」

「インバウンド」のいずれかを含む施策は全体の44.0%(225件)を占める.単純に言え ば,同文書が提示する観光施策のうち少なくともおよそ半分は外国人のための施策なの である.

ここでは上記の事実をもって,日本の観光政策が地域住民を軽視していると主張する わけではない.しかしその政策が多分に,国民の手軽な国内観光やそれによる精神的な 安らぎの創出などよりも,外国人観光客の誘致や消費の拡大,滞在の快適化等の方策,

およびそれらによる経済振興に重点を置いていることが量的に明らかになった.

(13) 文書内での再掲施策を含む.

表 2  観光計画書の主要単語の前後 5 単語内に頻出する単語

注: 「観光ビジョン推進プログラム」および「観光立国推進基本計画」をもとにKH Coderで解析して 作成.

(11)

図 1 は,解析対象テキスト中の各段落内で,どのような単語が共通して出現している かという共起関係を表したものである.大きな共起関係は,「観光」や「地域」を中心 としたaと,「訪日」「外国人」が中心のb,「日本」「海外」を中心としたcである.a は,歴史や芸術や文化財などの文化を資源として利用して地域の魅力を構成して観光に 結びつけようという文意が現れているといえる.以下はその一例である.

「国内外からの観光旅行者の地方への流れを戦略的に創出し,観光による地方創生 を実現していくためには,観光に関する各種データの継続的な収集・分析,明確なコ ンセプトに基づいた戦略の策定,KPIの設定等により,地域ならではの景観形成,『食』

や体験型コンテンツの提供,宿泊施設やガイドの質の向上,歴史的資源・自然環境の 保全・活用,二次交通の充実,人材の育成等を総合的にマネジメントし,各地域の

『稼ぐ力』を引き出す観光地域づくりに取り組むことが重要である(『観光立国推進基 本計画』より)」

注: 「観光ビジョン推進プログラム」および「観光立国推進基本計画」をもとにKH Coderで解析して 作成.

図 1  観光計画書のキーワードとその共起関係

(12)

そしてこうした観光の取組みに結び付けられるのが訪日外国人(b)であり,そのため に日本政府や地方公共団体は海外にプロモーションを行う(c)という観光政策の大意を 図 1 からは読み取れる.

こうした文脈を踏まえると, 政府主導による外国人観光客の誘致と消費の拡大をキー コンセプトとした現在の日本の観光政策は,次のように位置づけられよう.すなわち経 済のグローバル化を背景として製造拠点の海外移転が進み, その一方では人口減少によ る地域社会の維持困難と内需の縮小が進むなかで,観光は,これらを解決する有力な産 業として期待され,その経済振興が図られているのである.そして観光政策において観 光は,従来のような国民福祉の手段ではなく,地域の経済振興の手段たる基幹産業や,公 共事業として捉えられている. 観光政策がその対象としてより注目しているのは地域住 民ではなく外国人観光客であり,「文化財」「公園」「空港」「MICE」といった地域の諸資 源や諸空間をいかに商品化し,その商品価値をいかに高めるかに力を注ごうとしている.

Ⅲ 日本の観光産業の特徴と立地

政策の一方,日本の観光産業はいかなる性質を有するだろうか。ここでは「経済セン サス(活動調査)」に基づき,観光産業の事業所数と従業者数にみられる特徴と,立地 分布のパターンを分析する.

1 .観光産業の事業所と従業者

観光産業の定義は多様である.ここではその基本的な動向を把握する目的で,観光の 成立に直截に不可欠な産業に絞り込む.すなわち産業小分類の「旅館,ホテル」「簡易 宿所」「旅行業」「興行場(別掲を除く),興行団」(14)「公園,遊園地」を対象とする.こ れら 5 業種を本研究ではまとめて「観光 5 業種」と呼ぶ.

観光 5 業種の特性は,第 3 次産業全体の数値と比較しながら分析する.第 3 次産業全 体の数値からは「医療・福祉」を除いておく.超高齢社会において「医療・福祉」が第 3 次産業全体の諸数値を押し上げているため,それを含めて観光 5 業種と比較すると,

観光 5 業種の事業所数や従業者数の多寡を解釈しにくいからである.

まず観光 5 業種の事業所の特性について,事業所数とその増減数(表 3 ),経営主体 および経営形態別の構成比と増減率(図 2 )をまとめた.2016年の観光 5 業種の事業所

(14) 「興行場(別掲を除く),興業団」とは「演劇,音楽,舞踊,落語,見世物,野球,相 撲,ボクシングなどの娯楽を提供する興行場及び契約により出演又は自ら公演し,これら の娯楽を提供する興行団」とされる.具体的には劇場,寄席,コンサート・ツアー業,プ ロサッカー団などが含まれ,競輪,競馬,陸上競技場などは含まれない.

(13)

表 3  観光 5 業種と第 3 次産業の事業所数の変化(2012~2016年)

注 1 :経済センサス(活動調査)により作成.

注 2 : 「単独」は「単独事業所」,「本社」は「本所・本社・本店」の略,「支社」は「支所・支社・支 店」の略.

注 3 :「第 3 次産業」は「医療・福祉」を除く.

注 1 :経済センサス(活動調査)により作成.構成比は2016年の数値.増減率は2012年と2016年の比較.

注 2 :「第 3 次産業」は「医療・福祉」を除く.

図 2  観光 5 業種と第 3 次産業の経営主体および経営形態別の構成比と増減率

数は54,366で(表 3 ),第 3 次産業全体の1.39%を占める.図 2 の経営主体別構成比では,

観光 5 業種は第 3 次産業全体と比して個人経営の占める割合が小さい.また経営形態別 では単独事業所がより多く,支社がより少なくなっており,法人事業所に限っても同様 である.つまり観光 5 業種は第 3 次産業全体と比較して著しい違いはないものの,法人 経営の単独事業所がより多い.

増減については,全体では観光 5 業種も第 3 次産業全体も減少しているが,減少率は 観光 5 業種の方が大きい.その理由として観光 5 業種は個人事業所と単独事業所の減少

(14)

率がより大きく,かつ支社事業所の増加率が小さい.そして法人事業所も第 3 次産業全 体では増加したのに対し観光 5 業種では減少している.観光 5 業種では,もともと比較 的少なかった個人事業所がさらに減少していること,法人事業所が増加しなかったこと から,事業所数全体がより減少している.

続いて従業者数について, 増減数と就業上の地位別構成比(表 4 ), 増減率(図 3 ) を示した.先に用語を解説すると,「雇用者」とは自らが従業している組織から報酬を 得ている者で,「出向・派遣」は出向元や派遣元から報酬を得ているものである.「臨時 雇用者」と「正社職員以外」は,一般的な表現で言えば,それぞれ日雇い労働者と非正 規労働者などである.

2016年の観光 5 業種の従業者数は849,928人で,第 3 次産業全体に占める割合は2.25%

である.従業者の97.5%が雇用者で,その84.9%が「常用雇用者」である.「常用雇用者」

のうち「正社職員」は48.4%である.

第 3 次産業全体と比較すると,事業所数と同様に観光 5 業種と第 3 次産業全体との間 に顕著な差は見られないものの,「個人業主」の比率がやや小さく「臨時雇用者」では やや大きい.また「常用雇用者」の内訳は,観光 5 業種では「正社職員」の方が「正社 職員以外 」 よりも少ないが(各48.4%,51.6%), 第 3 次産業全体では逆である(各 55.0%,45.0%).観光 5 業種は,第 3 次産業全体と比較して日雇い労働者や非正規労働 者といった労働力に,より頼っているといえる.

増減については, 従業者数全体では観光 5 業種は-1.1% の減少, 第 3 次産業全体は 0.8%の増加である.その要因については,観光 5 業種において顕著に減少しているカ テゴリーは,もともとの構成比が2.5%にすぎない「出向・派遣」以外には見当たらな い.しかし観光 5 業種では各カテゴリーの減少幅がより大きく,増加幅がより小さい.

このことが蓄積して,全体として観光 5 業種では減少,第 3 次産業全体では増加という 結果になったと解釈できる.

また,観光 5 業種では「臨時雇用者」が40%以上の大幅な減少率を示したのに対し,

「常用雇用者」は「正社職員」「正社職員以外」のいずれも第 3 次産業全体と同水準で増 加している.さらに観光 5 業種では「個人業主」「無給家族」「有給役員」といった「常 用雇用者」以外のカテゴリーが第 3 次産業全体よりも減少している.これらのことから 観光 5 業種では第 3 次産業全体よりも「常用雇用者化」が進んでいると解釈できる.

先の事業所数における観光 5 業種の「法人事業所化 」 を踏まえると, 観光 5 業種で は,個人事業所や「個人業主」「無給家族」といった,よりインフォーマルな性質をも つ事業所や従業者が減少している.観光 5 業種の中心は法人事業所や「常用雇用者」な どよりフォーマルな事業所および従業者へと遷移している.その意味で,観光 5 業種の 労働環境は「フォーマル化」している.

(15)

表 4  観光 5 業種と第 3 次産業の従業者数の変化(2012~2016年)

注 1 :経済センサス(活動調査)により作成.

注 2 : 「出向・派遣」は「他からの出向・派遣」,「無給家族」は「無給の家族労働者」,「正社職員」は

「正社員・正職員」の略.

注 3 :「第 3 次産業」は「医療・福祉」を除く.

注 1 :経済センサス(活動調査)により作成.

注 2 :「第 3 次産業」は「医療・福祉」を除く.

注 3 : 「出向・派遣」は「他からの出向・派遣」,「無給家族」は「無給の家族労働者」,「正社職員」は

「正社員・正職員」の略.

図 3  観光 5 業種と第 3 次産業の従業者数増減率(2012~2016年)

(16)

2 .観光産業の立地分布

観光 5 業種は全国に均等に立地分布しているわけではない.図 4 から各都道府県にお ける事業所数と従業者数をみると,大都市圏では概してどの県でも比較的多く,また地 方圏では北海道や長野県,沖縄県では相対的に多い.他方それらを除いた地域では分散 している.特に山陰や四国では,人口規模を反映する形で事業所数と従業者数ともに比 較的少数である.また,事業所あたり従業者数が多いのは東京圏,名古屋圏,大阪圏の 都府県や宮城県と福岡県といった大都市圏である.それに対して事業所数の多かった長 野県のほか,山梨県,新潟県,和歌山県,高知県,島根県,鹿児島県といった大都市圏 から離れた地域では,事業所あたり従業者数は少ない.観光 5 業種の立地分布は,大都 市圏への集中傾向を示している.

さらに,表 5 に全国に占める地方圏と三大都市圏および東京都の観光 5 業種の構成比 を示したように,観光 5 業種は三大都市圏の10都府県に,事業所数で全体の35.2%,従 業者数で45.8%が存在する.三大都市圏内では名古屋圏よりも大阪圏に,大阪圏よりも 東京圏に集中し,東京圏が全国に占める構成比は事業所数が18.3%,従業者数が26.2%

である.従業者数でいえば全体の1/4が東京圏の 1 都 3 県に立地している.第 3 次産業 全体ほどの集中傾向ではないものの,観光 5 業種の立地分布は大都市圏の中でも東京圏 への集中傾向を示している.

一方,県域スケールでは,図 5 に全国に占める各県の第 3 次産業と観光 5 業種の構成 比を示した.第 3 次産業も観光 5 業種も,事業所数と従業者数ともに東京都,大阪府,

愛知県,千葉県,神奈川県,福岡県といった大都市圏の比率が大きい.他方でその他の 地方圏の各県の構成比は,北海道や長野県を除くと 2 ~ 3 %程度に留まっている.そし て,各県の観光 5 業種と第 3 次産業全体の数値を比較すると,各県の構成比は,一般に 大都市圏では「第 3 次産業>観光 5 業種」で,地方圏では「第 3 次産業<観光 5 業種」

である.

それに関して図 6 は観光 5 業種の第 3 次産業に対する各県の特化係数(COS)を示し ている.事業所数と従業者数ともに,特化係数は主に大都市圏で 1 未満(観光に特化し ない),地方圏で 1 以上(観光に特化)を示す.大都市圏の周辺部では特化係数が1.5以 上の地域も多く見られる.

観光 5 業種が大都市圏に集中するにも関わらず,特化係数は地方圏で高くなるのは,

地方圏では観光以外の第 3 次産業一般の発達が低次なため,各県内で観光 5 業種が重要 な産業になっているためであり,大都市圏では逆のことが起きているからだと解釈でき る.そして大都市圏周辺部で特化係数が特に高いのは,大都市圏の巨大人口を観光市場

=観光産業の顧客にできる立地優位性があるためであろう.すなわち観光 5 業種は,① 第 3 次産業全体の発達が高次であり観光 5 業種の重要度が相対的に低い大都市圏,②特 化係数が特に高い大都市圏周辺部,③特化係数が高いその他の地方圏という, 3 重の同

(17)

注:経済センサス(活動調査)により作成.

図 4  各都道府県における観光 5 業種の事業所数と従業員数(2016年)

表 5  観光 5 業種と第 3 次産業の地域構成(2016年)

注 1 :経済センサス(活動調査)により作成.

注 2 : 東京圏は,東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県.名古屋圏は,愛知県,岐阜県,三重県.大阪圏 は,大阪府,兵庫県,京都府,奈良県.

注 3 :「第 3 次産業」は「医療・福祉」を除く.

(18)

心円構造を示している.

以上のように,観光 5 業種の事業所数と従業者数は,全国スケールでは,大都市圏と りわけ東京圏に集中し, 大都市圏では事業所あたりの従業者数も多い. しかし県域ス ケールにおいては,各県内の地域経済において観光 5 業種がより重要なのは第 3 次産業 全体の発達が低次な地方圏だと考えられる.観光 5 業種にはこうした,立地分布の地理 的偏在に基づく空間的な不一致が存在する.

注 1 :経済センサス(活動調査)により作成.

注 2 :「第 3 次産業」は「医療・福祉」を除く.

図 5  全国に占める各都道府県の第 3 次産業と観光 5 業種の構成比(2016年)

(19)

注 1 :経済センサス(活動調査)により作成.

注 2 :「第 3 次産業」は「医療・福祉」を除く.

図 6  各都道府県の観光 5 業種の特化係数(2016年)

Ⅳ おわりに

本稿では, 今日の日本の観光政策をめぐる論理, 倫理, 立地の基本的な整理を行っ た.

①日本の観光政策は,観光を,経済のグローバル化を背景とする産業の空洞化や人口 減少による地域社会の劣化や内需の縮小を解決しうる,新たな基幹産業として位置づけ てきた.近年の観光政策では,観光客や観光消費の増大が日本経済や地域経済の振興に つながるとされ,その手段として富裕層を含む外国人観光客の誘致による外貨獲得を重 視すべきとされてきた.このような「論理」の他方で,かつての観光政策にあった国民 の気晴らしといった視点は後退している.

②こうした観光の在り方への批判者たちは,観光振興を経済振興の道具とする場合,

観光地や一般市民は経済振興と引き換えに,文化や地域の商品化や地域のリアリティの 喪失,社会的格差の再生産,テロや環境破壊や監視社会化といった様々なリスクを引き 受けざるを得なくなると批判してきた.それゆえ批判者たちは,観光政策は観光経済振 興とリスクとのバランスをごく慎重に評価すべきという「倫理」の重要性を強調する.

③「論理」と「倫理」が相克する他方,現実の観光 5 業種は労働環境が「フォーマル 化」している.立地分布や第 3 次産業との関係をみると,観光 5 業種の事業所数と従業

(20)

者数は,大都市圏とりわけ東京圏に集中している.しかし大都市圏では観光 5 業種以外 の第 3 次産業も発達しているため,各都府県内で観光 5 業種が主要産業である例は見ら れにくい.他方で地方圏では第 3 次産業全体の発達が低次なので,観光 5 業種は絶対数 は少ないものの各県内で重要な産業になっている.観光 5 業種には,こうした立地分布 の地理的偏在に基づく,「観光 5 業種が集中する大都市圏・東京圏」と「地域内で観光

5 業種が重要である地方圏」との空間的な不一致が認められる.

このように観光 5 業種の立地分布に地理的偏在が認められることをふまえると,観光 経済振興は,大都市圏と地方圏,東京とその他という日本の東京一極集中構造やそれに よる地域経済格差に内包されているか,それを再生産している恐れがある.その場合,

観光客数や観光消費の増大による観光振興が経済振興をもたらすという観光政策の論理 は,必ずしも全ての県で成立するとは限らない.観光政策は,場合によっては地域間の 観光客や観光消費の奪い合いの激化を煽ったり,その結果として東京や大都市圏を上位 に置く既存の地域格差を再生産しかねない.

観光経済振興にこうした構造が存在するならば,観光の基幹産業化やそれによる外国 人観光客の誘致による外貨獲得,富裕層の優遇といった,観光を経済振興の道具とする 観光政策が真に日本や地域を豊かにするのかは,慎重に検討せねばならない.それは社 会学者らが指摘してきた観光政策をめぐる「倫理」以前の,根本的な「立地」の問題に なりうる.

はたして観光振興による経済振興は,あまねく地域で生じるのだろうか.そこには,

量的ないし質的な地域差や構造的な格差があるのではないだろうか. もしあるとした ら,その原因や理由は何だろうか.

地域差は近年の観光政策論で注目されつつあり,地域における観光客数や観光消費額 と人口や産業構造との関係などが若干ながら分析されはじめている(山田・柿島 2016;池口 2015など).政府の言うように今後も観光が「地方創生の切り札」であり,

「観光産業を我が国の基幹産業へと成長させていく」(15)ならば,観光経済振興にいかに 地域差が存在し,いかに地域格差を生み出しうるかは,観光政策論における重要な論点 になるはずである.そしてそれは地理学が得意とする分野である.

その具体的な検討は今後の課題だが, 若干ながらその道筋を筆者の既存研究をもと に,COVID-19にも留意しつつ述べる.第一には,観光をサービス業として捉えること,

第二にはICT(情報通信技術)との関係に注目することである.

1 )サービス経済化と観光

第一の点について,筆者の群馬県草津温泉における宿泊業の分析では,宿泊サービス は貯蔵ができないので「『今日の空室』を明日売ることはできない」という商品特性を

(15) 引用はそれぞれ,明日の日本を支える観光ビジョン構想会議(2016),観光庁(2017).

(21)

持つため,草津温泉では宿泊施設経営におけるオンラインマーケティングの導入を通し て,中小宿泊施設を中心に,空室を避けるために東京のオンライン予約サイトの運営企 業に依存せざるを得なくなっている構造を指摘した(福井 2015, 2017, 2020).

商品を貯蔵できないことは,観光に限らずサービス業全般の重要な特性である.経済 地理学会の『経済地理学の成果と課題 第VIII集』でまとめられているように,経済 地理学ではこうした特性に注目したサービス経済に関する研究が進んでいる(土屋・池 田・新名 2018).

商品を貯蔵できなければ,輸送もできない.観光では地域の自然や文化や歴史といっ た地域環境は,経済価値をつけられない地域固有の自由財として観光商品の一部を構成 するが,一般にはそれらもまた,農作物や工業製品のようには輸送できない(16).この 特性を温泉集落のようなローカルなスケールではなく,都道府県のような広域なスケー ルに応用した場合,観光産業の立地分布や観光経済振興の地域差へいかに作用するのか の考察が必要であろう.

観光をサービスとして見る際には, 大都市における第 3 次産業とりわけ観光以外の サービス業の集積立地との関係にも留意が必要である.筆者は以前,美術館・博物館の 立地を分析し, 著名な施設や展覧会の所在地や会場が東京一極集中である要因につい て,顧客となる巨大人口や交通インフラのほか,展覧会の主催者や協賛者となるマスコ ミ大企業との調整のための近接立地といった,大都市特有のサービス業の集積立地との 関係から考察した(福井 2019b).本稿の分析でも指摘したように,地方圏と比較して 大都市圏では,観光産業だけでなく第 3 次産業一般が高次に発達している.大都市圏に おける第 3 次産業とりわけサービス業の集積立地は, 同地に立地する観光産業に対し て,サービス業に特有の何らかのコストを縮小する外部経済を生じて,立地優位性をも たらす可能性がある.その立地優位性とはどのようなもので,いかなるコストを縮小す るのかを検討する必要がある.COVID-19による観光不況や観光による感染も,こうし た立地優位性・不利性を抜きには正確な理解が難しい.

2 )情報社会化と観光

第二のICTとの関係については, 輸送のできない観光は「事前体験 」 ができないた め, 観光情報の空間性は観光の空間性に大きく影響する. 現代の観光はICTなくして 成立しない.ICTは距離の制約を超えて様々な場所の情報を多様な主体間でやりとりす ることを可能にするため,一見,ネット上にはあらゆる場所の情報が均質に蓄積される ように思われる.しかし現実には都市部の消費地や人気観光地など,より多くの事業者

(16) 地域の自然や文化や歴史は,特産品などの形で貯蔵し輸送できると考られるかもしれな い.しかしここでは,それらが特定の地域内に存在する状況としての「環境」に絞って考 えている.

(22)

や来訪者が存在する地域ほど観光情報は多く発信され,蓄積される.それゆえネット上 の情報の量と質には地域差があり,それは場所の観光情報の取捨選択において,情報の 価値判断に敏感な若者たちからも重要視されている(福井 2019a, 2020).つまり観光経 済振興には観光地や観光事業者による情報発信が不可欠だが,それも,ネット上の情報 環境やその地域差から影響を受けるのである.

いまやネッ ト上の情報環境は複雑化しており, 観光情報は検索サイトやSNSの AI(人工知能)によって選別されて消費者に到達するが,そのアルゴリズムはほとん どの消費者や観光事業者にとってブラックボックスである.とりわけ,ICTの専門業者 が少ない地方圏の観光事業者や自治体にとって,AIの向こう側にいる消費者に観光情報 を思い通りに届けることは容易ではなく,地方圏の観光振興にも大都市圏や海外のICT 事業者(例えばGAFAMやBig Techと呼ばれるGoogle,Apple,Facebook,Amazon,

Microsoftなど)が必要とされるかもしれない.またCOVID-19の影響で,感染対策やコ スト削減のために観光でのICT利用はさらに進むだろう. こうしたネット上の観光情 報流通をめぐる空間性は,観光産業の立地分布とどのような関係があり,それらは観光 経済振興の地域差にいかなる影響を与えるのだろうか.

そもそも観光やレジャ ーは, 余暇時間の使用方法の一つにすぎない. しかしICTの 利用拡大とともに,すでに現代先進国の観光やレジャーをめぐっては,ゲームやSNS,

動画サイトや音楽配信サービスなど,ネット上での娯楽や「暇つぶし」を含めて,様々 な産業やサービス間での「時間の奪い合い」が激化している.例えばCOVID-19の影響 で家庭用ゲーム機が品薄で高騰していることは,ICTの利用拡大による時間の奪い合い という意味で,観光と無関係ではない.

Google社CEOのスンダー・ピチャイは2020年 4 月28日の会見で,「(COVID-19の) 緊 急事態が終わっても,世界は以前と同じような姿ではないだろう」「オンライン上での 仕事,教育,医療,買い物,娯楽は今後も増えていく」と言及した(17).CEOとしてオ ンラインサービスを提供する同社の経済的意義を強調する発言ではあるが,ネット上の 消費や娯楽のさらなる拡大が,先進各国や日本の国際・国内観光にどのような影響を与 えるかは注視すべきであろう. またテレワークの急速な進展は, すでにICTの利用拡 大によって進んでいた労働時間と余暇時間,労働空間と余暇空間の曖昧化を,大都市圏 やその郊外ではさらに進めると予想できる(18). このようにICTをめぐって細分化し多 様化した時間の中で,観光という「時間の使い方」がいかなる位置を占めるのかという 視点が必要である.

(17) 朝日新聞2020年 4 月29日より.

(18) テレワークに関しては東京一極集中を緩和するかという期待に議論が集まりがちだが,

その検証も必要であろう.

(23)

こうしたサービス経済化と情報社会化による時空間の再編は,COVID-19以前から進 んでいた,現代先進国社会の宿命である.ではその中で,従来型の時空間における観光 経済振興を目指す観光政策は,果たしてどれだけ有効なのだろうか.

1 日が24時間しかないことは人間生活の前提であり, そのなかで現代の観光・ レ ジャーはいかなる時空間で成立するのかを検討すべきだろう.そして,その時空間の在 り方には地域差や地域格差があるはずである.今後はサービス経済化や情報社会化をめ ぐる時空間の再編を考慮に入れて,現代先進国の観光・レジャーの生産・流通・消費の 地域差を論じる必要がある.

以上は単なる予察にすぎず,精密な論証や関係諸研究との間の位置づけが不可欠であ る.ただ,これら「サービス」と「ICT」という 2 つの着眼点の基底にあるのは,観光 政策は「観光」の枠組みだけで論じられないという疑念である.サービス経済化や情報 社会化といった,より大きな枠組みで観光を捉えた場合,観光政策には,地域経済格差 の再生産など新たな側面を見出すことができる可能性がある.COVID-19を機に,日本 の観光政策は大きな転換を迫られる.その検討のためにも,今後の地理学では「観光」

の枠組みを超えた視点から,観光政策を批判的に研究する必要がある.

付記

本研究はもともとCOVID-19を意識した研究ではなく,観光振興と経済振興の関係の 純粋な空間構造の解明を目指し,まず各県の観光振興と経済振興の基本状況の把握を進 めていた(2020年 1 月より研究開始).

しかし分析の途上でCOVID-19の社会的・経済的影響が世界的に拡大し,先進各国の 観光政策や観光の在り方そのものが根本的な方向修正を余儀なくされた. 本稿執筆時 点(2020年 6 月)では,COVID-19自体が今後どうなるかも,今後いかなる影響が顕在 化するのかも見通せない.観光についても政府の「Go To キャンペーン」は注目され 批判も集まった.

ただ,Ⅰ章で述べたように,重要なのは観光自体の深部構造を改めて把握し,その見 地から従前の観光政策を批判的に再検討することだというのが,現時点での筆者の立場 である.そのため,本稿で検討したのは観光産業の立地分析のごく基本的な結果である が,まずそれを観光政策の検証や批判と接合して本稿を執筆することにした.本稿で触 れた観光政策による地域格差の構造的再生産については別稿での検証を進めている.

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Referensi

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