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東日本大震災が我が国の対外取引に与えた 影響について - CORE

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東日本大震災が我が国の対外取引に与えた 影響について

市 川 哲 郎 本稿では、東日本大震災が我が国の貿易通商に与えた影響について貿易 収支の面から検討した。東日本大震災発生後、約1年強にわたる貿易赤字 基調への転換という貿易収支への影響は、実は震災自体は大きな影響は与 えなかったのではないかと考えられる。その一方、2008年のサブプライム 住宅ローン危機、2009年以降の欧州ソブリン債務危機の影響が日本円を増 価した状態に保ち、この日本円の増価を背景とした日本企業の海外への生 産拠点の移転の進行が東日本大震災の被害規模を限定的なものにし、従っ て貿易収支に対しても大きく影響を与えたと考えられる。

1.はじめに

2011年3月11日14時46分に三陸沖で発生した平成23年(2011年)東北地 方太平洋沖地震及び地震と共に発生した津波は、北海道から関東地域に およぶ広範囲に被害をもたらした。本稿では、東日本大震災が我が国の貿 易通商に与えた影響について貿易収支の面から検討する。

1―1.東日本大震災の被災地域

東日本大震災の被災地域については、被災による死者、行方不明者、重 軽傷者数に加えて地震及び地震に伴って発生した津波、地面の液状化現象 などによる被害を勘案して、図1の様に定義する

経済産業省の通商白書2011では、東北地方太平洋沖地震がもたらした人 的・物的被害、生産施設への被害やインフラストラクチャへの被害、地 震に伴って発生した津波および地面の液状化現象に加えて、東京電力福島 第1原子力発電所事故の影響に関して、青森県、岩手県、宮城県、福島県、

茨城県の5県を採り上げている。本稿では、被災地域としてこの通商白書 2011の定義を採用する。検討期間は、基本的に2010年1月から2012年6月

とする。

83

(2)

2.2010年1月から2012年6月までの貿易収支

2010年1月から2012年6月までの貿易収支は、グラフ1の通りである。

グラフ1が示すように、基本的に黒字基調であった貿易収支は、2011年 4月以降、赤字基調へ転落している。この貿易収支の劇的な変化が、東日 本大震災の地震及び津波が引き起こした生産施設やインフラストラクチャ への被害に起因するのか、あるいは他の何らかの要因に起因すると考える ことが妥当なのかに関して検討することが本稿の目的である。

東日本大震災が引き起こした被害のうち、地震および津波以外で経済活 動に長期間かつ広範囲に深刻な影響を与えている被害としては、東京電力 福島第一原子力発電所事故が挙げられる。更に、東日本大震災と相前後し て発生している経済的事件は以下が挙げられる。まず、2009年10月のギリ シャのパパンドレウ内閣成立を引き金としたいわゆるユーロ危機である。

国際金融面から見ればユーロ危機以降、日本円はアメリカドル、ユーロ、

スターリングポンドなどの通貨に対して一貫して高値基調であった。そし て、2011年7月から3ヶ月に掛けてタイのチャオプラヤー川流域およびメ コン川周辺で洪水が発生し、タイに進出している日系企業の事業所も甚大

図1 東日本大震災の被災地域

84

(3)

な被害を被っている

グラフ1 日本の月別貿易収支(単位:1,000ドル)

出典:財務省貿易統計から作成

85

(4)

43°136°

42°

41°

40°

39°

38°

37°

36°

35°

34°

43°

42°

41°

40°

39°

38°

37°

36°

35°

34°

137° 138° 139° 140° 141° 142° 143° 144°

136° 137° 138° 139° 140° 141° 142° 143° 144°

3 4 5弱 5強 計測震度

6弱 6強

生産施設の種類

:電機・情報

:素材・エネルギー

:自動車・機械

:生活・医療

3.東日本大震災で被害を受けた生産拠点

図2に東日本大震災で被害を受けた生産施設の分布を示す。

4.東日本大震災による主要企業の被災状況

表1に、東日本大震災発生直後から2週間までの主要企業の被災状況を 示す。

4―1.東日本大震災が引き起こした生産・流通・輸出への影響 東日本大震災により被災地域に立地する生産施設は生産を停止し、また 東北関東地域では電力供給の不足が生じたためにいわゆる計画停電が実施 された。これらの結果、2011年3月から4月にかけての日本の生産に与え

出典:生産施設の被災状況分析 清水建設(2011)

図2 東日本大震災で被害を受けた生産施設

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(5)

た影響は表2の通りである。

2011年3月の日本の鉱工業生産は、−15.5%の減少を記録した。この うち、輸送機械工業が−46.7%と最大の減少を見せた。しかし、2011年4 月以降は、一般機械部品の12.8%や精密機械工業の24.7%など回復の傾向 を見せている産業がある

4―2.東北地域および茨城県の2011年3月の業種別生産動向

東北地域および茨城県の2011年3月の業種別生産動向は表3および表4 の通りである。

表1 主要企業の被災状況

企 業 公表日 被 害 状 況

S O N Y 3月14日 東北地方の6ヶ所の生産拠点(宮城県4、福 島県2)の操業を停止。

キ ヤ ノ ン 3月18日 東北及び関東の物流センターで商品の被害が 発生。一部の設備に破損等の被害が発生。

富 士 通 3月14日 東北地方6拠点の工場・事務所で一部建屋お よび生産設備の損傷が発生し操業に影響。

日 産 自 動 車 3月12日 震災地域の工場、事務所6拠点で建屋や設備 の損傷などの被害。

ト ヨ タ 自 動 車 3月14日 トヨタ自動車および関係ボデーメーカーの工 場稼働を休止。

キ リ ン ホ ー ル

デ ィ ン グ ス 3月14日 仙台工場において全ての設備が被災し、津波 による製品在庫への影響が発生。

日 本 製 紙 3月13日 津波の被害により東北地方の5つの工場で操 業停止。

日 立 製 作 所 3月17日 茨城県の主な生産拠点で建屋の一部損壊。復 旧のめどが立っていない。

日 本 た ば こ 産 業 3月23日 営業所、流通基地、製造工場、材料品工場な どが被災し稼働停止。

出典:各企業の震災当時のプレスリリースを要約

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(6)

表2 全国の業種別生産動向

業 種

3月 4月

寄与度

(%ポイント)

前月比

(%)

寄与度

(%ポイント)

前月比

(%)

鉱工業全体 −15.50% −15.50% 1.00% 1.00%

輸送用機械工業 −8.00% −46.70% −0.20% −1.50%

(うち、乗用車) −4.80% −54.20% −0.50% −9.90%

(うち、自動車部品) −2.10% −42.10% 0.00% 1.40%

一般機械部品 −1.80% −14.50% 1.60% 12.80%

電子部品・デバイス工業 −0.70% −6.60% −1.50% −12.70%

(うち、IC(集積回路)) −0.50% −11.70% −0.50% −13.10%

食料品・たばこ工業 −0.70% −8.70% N/A N/A 鉄鋼業 −0.60% −10.20% −0.10% −2.00%

電気機械工業 −0.60% −10.20% 0.30% 4.60%

金属製品工業 −0.50% −10.70% 0.10% 2.30%

その他工業 −0.50% −9.40% 0.30% 6.00%

プラスチック製品工業 −0.40% −11.90% 0.20% 5.70%

非鉄金属工業 −0.30% −16.50% 0.00% 2.20%

情報通信機械工業 −0.30% −8.00% −0.60% −17.20%

化学工業 −0.30% −2.30% N/A N/A

(うち、化学工業(除医薬品)) −0.90% −11.20% −0.10% −1.40%

パルプ・紙・紙加工工業 −0.20% −8.30% 0.00% −0.40%

精密機械工業 −0.10% −12.90% 0.30% 24.70%

窯業・土石製品工業 −0.10% −5.10% 0.00% 0.50%

石油・石炭製品工業 −0.10% −12.30% 0.00% −0.40%

繊維工業 0.00% −1.80% 0.00% −0.60%

出典:通商白書2011

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(7)

表3 東北地域の業種別生産動向(2011年3月)

業 種 寄与度

(%ポイント)

前月比

(季節調整済み、%)

鉱工業全体 −35.0% −35.0%

電子部品・デバイス工業 −6.90% −28.50%

(うち、IC(集積回路)) −3.10% −33.00%

化学製品 −4.10% −47.10%

(うち、医療品・農薬) −3.00% −45.60%

輸送機械工業 −3.30% −43.80%

(うち、乗用車) −1.60% −56.60%

(うち、自動車部品) −1.60% −35.70%

食料品・たばこ工業 −3.20% −36.00%

一般機械工業 −2.70% −26.70%

情報通信機械工業 −2.20% −29.10%

鉄鋼業 −2.20% −65.60%

パルプ・紙・紙加工工業 −2.00% −59.30%

出典:通商白書2011

表4 茨城県の業種別生産動向(2011年3月)

業 種 寄与度

(%ポイント)

前月比

(季節調整済み、%)

鉱工業全体 −38.00% −38.10%

化学製品 −9.00% −52.30%

一般機械工業 −6.60% −38.70%

鉄鋼業 −5.80% −56.30%

食料品・たばこ工業 −4.00% −33.40%

電気機械工業 −2.80% −26.40%

プラスチック製品工業 −2.50% −37.10%

金属加工工業 −2.00% −35.90%

出典:通商白書2011

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(8)

東北地域では、化学工業(−47.1%)、輸送機械工業(−43.8%)など が大きく減少している。一方、茨城県では化学工業(−52.3%)、鉄鋼業

(−56.3%)が大きく減少している。

4―3.製品別の輸出の状況

一方、2011年3月から4月にかけての輸出の状況は表5の通りである。

生産の減少が著しいのが、乗用車−67.9%、鉱物性燃料(−46.1%)、

IC(集積回路)(−24.0%)、食料品(−22.9%)などである。この中で、

中間財と考えられる自動車部品(−14.8%)やIC(集積回路)(−24.0%)

といった品目の生産の減少は、グローバルサプライチェーンを通じて輸出 先で最終財に組み込まれることを勘案すれば、本震災が外国の生産にも影 表5 全国の品目別輸出動向

業 種

3月 4月

寄与度

(%ポイント)

前月比

(%)

寄与度

(%ポイント)

前月比

(%)

全体 −2.3% −2.3% −12.4% −12.4%

輸送用機械 −4.5% −19.1% −9.8% −43.2%

(うち、乗用車) −3.3% −27.3% −7.7% −67.9%

(うち、自動車部品) −0.2% −5.0% −0.7% −14.8%

電気機器 −1.1% −6.1% −2.3% −12.5%

(うち、IC(集積回路)) −0.3% −8.6% −1.0% −24.0%

その他 −0.1% −0.8% −0.5% −4.3%

食料品 0.0% 4.7% −0.1% −22.9%

原料品 0.1% 7.3% −0.2% −12.6%

鉱物性燃料 0.4% 26.7% −0.8% −46.1%

化学製品 0.7% 6.6% 0.8% 8.0%

原料別製品 0.9% 6.8% 0.2% 1.6%

一般機械 1.4% 7.0% 0.3% 1.5%

出典:通商白書2011

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響を与えたことが想像できる。

4―4.被災地域に所在する港(含む空港)からの輸出動向

2011年3月から4月にかけての東北地域および茨城県に所在する港(含 む空港)からの輸出動向は表6の通りである。

表6で示すように、東北地域および茨城県に所在する港からの輸出動向 から、地震と津波による物理的破壊で使用不能になった港は青森県から福 島県まで分布している。

全国の輸出入が東北地域および茨城県に所在する港への依存度は、表7

表6 被災地域に所在する港(含む空港)からの輸出動向

港 名 所在地 3月 4月

前年同月比(%) 前年同月比(%)

青 森

青 森

19.1% 15.9%

八 戸 −37.4% −90.6%

青 森 空 港

宮 古

岩 手

−100.0%

釜 石 −45.3% −98.4%

大 船 渡 −27.6% −5.4%

仙 台 塩 竃

宮 城

−48.2% −95.7%

石 巻 43.6% −100.0%

気 仙 沼 −88.1% −100.0%

仙 台 空 港 −49.6% −100.0%

小 名 浜

福 島

−31.2% −55.6%

相 馬 −48.7% −87.4%

福 島 空 港 −100.0%

鹿 島

茨 城

−23.1% −61.3%

日 立 −30.3% −68.6%

つ く ば −5.9% −9.3%

出典:通商白書2011

91

(10)

の通りである。東日本大震災が2011年3月に発生したので、2010年の被災 5県の貿易動向を参考する。2010年の貿易動向を基に検討をすれば、これ ら被災5県が占める金額は、日本全体の輸出額の2.04%、輸入額の4%と いうことになる。以上より、東日本大震災から直接もたらされる物流面か ら見た日本の貿易への影響は、比較的大きくなかったと考えられる。

5.東日本大震災による電力供給における問題と貿易収支 への影響

2011年3月11日に発生した東日本大震災において、東京電力福島第一原 子力発電所では、運用している6つの原子炉のうち運転中の1号機から3 号機で地震に対応して自動緊急停止が作動した後、発電所地下に設置され た原子炉緊急冷却用ポンプを作動させるための緊急用ディーゼル発電の諸 施設が地震の後発生した津波により故障、損傷あるいは流出した。この原 子炉緊急冷却機能の喪失により、2011年3月11日から15日にかけて1号機、

4号機および5号機が原子炉内の温度上昇により水蒸気爆発を起こし、セ 表7 被災5県の2010年の貿易動向

県 名

輸出 輸入

価格

(百万円) 全国比 価格

(百万円) 全国比 青 森 県 160,932 0.24% 143,031 0.24%

岩 手 県 18,888 0.03% 18,129 0.03%

宮 城 県 349,169 0.52% 568,153 0.94%

福 島 県 52,789 0.08% 412,283 0.68%

茨 城 県 794,849 1.18% 1,288,000 2.12%

被 災 5 県 合 計 1,376,627 2.04% 2,429,596 4.00%

全 国 67,399,627 100.00% 60,764,957 100.00%

出典:財務省貿易統計(2010度版)

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(11)

シウム、ヨウ素などの放射性物質が風に乗り広範囲に散布される事態を引 き起こした。

東京電力福島第一原子力発電所事故は、1960年に制定された「発電用原 子力設備に関する技術基準を定める省令」に基づいた現在日本に存在して いる全ての原子力発電所が、地震や津波といった自然災害に対して必ずし も頑健ではないことを証明した。グラフ2に示されるように、2010年まで の日本の一般事業用電力発電はその31%を原子力発電に依存していた。し かし東京電力福島第一原子力発電所事故の後、日本国内の各原子力発電所 は、商用運転から順次定期検査に入った後、ほとんどの発電所が再稼働を 行っていない8,。そして各原子力発電所の稼働が停止するにつれて、この 31%分の発電を、LNG(液化天然ガス)を燃料とする発電で代替してい る。グラフ3が2010年1月から2012年6月にかけての日本のLNG輸入額 である。このグラフ3から、2011年4月以降、LNG輸入が増加している ことが解る。

グラフ2 電力発電量の推移(一般事業用)

出典:エネルギー白書2011

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(12)

6.為替レートの推移

グラフ4に2008年1月から2013年2月下旬までの為替レートの増減価の 推移を示す。縦軸は2008年第1週の為替レートを1とした値である。縦軸 が正の方向に大きいほど減価が大きいことを示し、負の方向に大きいほど 増価が大きいことを示す10

グラフ4のように2008年から2012年までのアメリカドルを基準とした各 国の為替レートの増価率を見てみると、ユーロ、スターリングポンドが 2008年まで急激に減価した後2009年後期に増価したのちほぼ一定の水準を 保っているのに対して、日本円が東日本大震災直後に多少の減価が出たも のの一貫して増価の傾向にあることが興味深い。この時期に国際金融、ひ いては国際経済に影響を与えた事件としては、2008年に顕在化したサブプ ライム住宅ローン危機と、2009年から今日に至るまでの欧州ソブリン債務 危機が挙げられる。

6―1.サブプライム住宅ローン危機

サブプライム住宅ローン危機とは、アメリカ合衆国で返済能力に問題を グラフ3 液化天然ガス輸入金額(単位:1000ドル)

出典:財務省貿易統計(2010度版)

94

(13)

持つ層12に対して貸し付けた変動金利型住宅ローンを証券化し、国際的に 流通させた事に端を発する問題である。1990年代後半以降、低い市中金利 と海外からのアメリカへの資金流入からアメリカにおける融資条件が緩い 状況が続いていた中で、サブプライム層に融資を促進することで住宅需要 が刺激され、住宅価格が上昇し続けた。結果、アメリカの住宅市場は2006 年頃までバブルを形成した。この債権を回収する権利は証券化13され、世 界中の投資家に購入された。この住宅価格バブルは2007年頃から崩壊し、

サブプライム層の変動金利型住宅ローンの返済不履行が顕在化した。この 返済不履行は、不動産担保証券の評価の損失をもたらす。サブプライム住 宅ローン危機はアメリカの純資産を減少させ、アメリカの金融システムの 維持のために公的資金の注入を招くことになった。また、バブル発生時の 世界各国の投資家による不動産担保証券の購入と、サブプライム住宅ロー ン危機発生後の各国のアメリカ国債の購入等を通じてこの影響は世界中に 波及し、世界各国の金融市場の混乱を発生させ各国の保有資産への悪影 グラフ4 2008年1月から2013年2月下旬までの為替レートの増価率の推

11

出典:http://stooq.com

95

(14)

14を与えることとなった。これは、アメリカや諸外国の投資主体の保有 資産への悪影響は実需や雇用に間接的に悪影響をもたらしたと考えられる。

6―2.欧州ソブリン危機

ユーロは、同一の通貨を独立した財政運営を行う複数の国家が採用する という形態を採っている。ユーロを採用している諸国の中の一国の財政へ の信認に疑問符が付けられた時、ユーロを採用している他の諸国へ影響が 及ぶことを意味する。

ギリシャは2000年にユーロに加盟したが、2009年10月にパパンドレウ政 権に交代した際、その財政赤字が対GDP比3.7%としていたのが実は12.5

%である事を発表した。この発表が引き金となり、ユーロを通貨として採 用する諸国のうちポルトガル、アイルランド、イタリア、スペイン等の 国々15に対しての財政信任が喪失し、同じユーロ圏であるドイツやフラン スは欧州金融安定ファシリティ等々における債券保証などを通じて共に影 響を受けるという構図が続いている16。現在の状況の打開のためには、PI- IGSといった財政信認が喪失している国々の財政の健全化が必要だが、健 全化のプロセスでは税収の増加と政府支出の削減を行うことが不可避であ り、税収増加と政府支出削減は自ずと当事国の財市場や雇用状況に影響を 与えることになる。これらはまた、EUの域内やEUと経済関係がある諸外 国にも影響を与えることになる。

サブプライム住宅ローン危機と欧州ソブリン債務危機は、前者は住宅価 格バブル、後者は政府財政の信認問題という金融的問題である。しかし、

サブプライム住宅ローン危機と欧州ソブリン債務危機は、世界の雇用や実 需に負の影響を及ぼしている。興味深いのは、日本円建ての金融資産は相 対的にリスクが低いと見なされる傾向にあり、国際金融市場においていわ ゆる「円買い」が発生することである。日本の政府債務残高は2012年で対 GDP比で214%と世界中で突出した規模に達している。にもかかわらず、

日本円建ての金融資産は相対的にリスクが低いと見なされているが、これ に関する考察は別稿に譲る。

外国の経済問題、あるいは危機に対応して発生する日本円の増価は、日 本国内で生産される財の交易条件を悪化させる。これは、日本の産品と競

96

(15)

合度が高い東アジア諸国や、経済規模及び産業の成長が著しい東南アジア から南アジア地域の発展途上諸国との競争に非常に負担となるといえる。

更に1980年代後半以降、日本企業は輸出先の諸国との摩擦回避や、安価で 質が高い外国の労働力を求め、財の生産を日本での完成品製造からグロー バルサプライチェーンを通じた諸外国への分散化を進めてきた。そこで、

次に日本の対外直接投資について検討する。

7.為替レートと対外直接投資

2010年1月から2012年6月までの日本のネットの対外直接投資の推移は、

グラフ5の通りである。

グラフ5で示されるように、日本のネットの対外直接投資額とは、日本 から海外への直接投資額から海外から日本への直接投資額を引いた額で定 義されるが、2010年1月から2012年6月までの日本の対外直接投資は一貫 した流出傾向であった。この時期には日本政府および日本銀行は、円の増 価に対して積極的な対応政策を実施しなかった。円の増価状況が続く中で、

グラフ5 日本のネットの対外直接投資の推移(単位:1,000ドル)17

出典:財務省 国際収支状況(付表2 対外・対内 直接投資)

97

(16)

日本企業は生産拠点の海外移転を積極的に行ったと考えられる。日本企業 の生産が日本国内から海外に移転し、従来は国内生産していた製品が海外 の現地子会社からの生産に代替していったとすれば、これはグラフ1に示 す日本の貿易収支の推移と整合的であると考えられる。そして、日本企業 が生産拠点を日本国内に立地し生産・輸出するケースを考えれば、実は日 本企業が震災前から行っていた生産施設の海外移転は、東日本大震災の被 害規模を限定的なものにしたのではないかと考えられる。

8.まとめ

本稿では、東日本大震災が我が国の貿易通商に与えた影響について貿易 収支の面から検討した。北海道から関東地域までの太平洋岸から内陸部ま での広範囲を震度6から7の地震が襲い、地震と共に発生した津波が太平 洋沿岸に立地した生産施設に深刻な被害をもたらした本震災であったが、

その後約1年強にわたる貿易赤字基調への転換という貿易収支への影響は、

実は震災自体は大きな影響は与えなかったのではないかと考えられる。そ の一方、2008年のサブプライム住宅ローン危機、2009年以降の欧州ソブリ ン債務危機の影響が日本円を増価した状態に保ち、この日本円の増価を背 景とした日本企業の海外への生産拠点の移転の進行が東日本大震災の被害 規模を限定的なものにし、従って貿易収支に対しても大きく影響を与えた と考えられる。これらの考察に対する計量的分析は、今後の検討課題とし たい。

1 これを東日本大震災と称する。

2 警察庁緊急災害警備本部作成の「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地 震の被害状況と警察措置」の、被災による死者、行方不明者、重軽傷者数か ら見れば、北海道なども被災地域に含まれる。

3 道路・港湾設備、電気、水道、ガス、各種交通システムなど

4 本稿ではタイ洪水の影響については具体的には採り上げない。しかし現在 では、日本企業の生産が海外の現地法人へ移転する例が多数あり、後ほど採

98

(17)

り上げる。

5 通商白書2011では、比較可能な1953年2月以来、1995年の阪神淡路大震災

(2.6%減)や2008年の世界経済危機を超えていると指摘している。

6 電子部品・デバイス工業や情報通信機械工業は4月に入り生産の減少に拍 車がかかっている。

7 http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2011energyhtml/data/214-1- 6.xls

8 施設内の特に原子炉建屋の近くの活断層の存在の有無、東北地方太平洋沖 地震に類する巨大地震が再び発生した場合の、想定される津波の高さの見直 しなどが行われている。

9 2012年7月1日に関西電力大飯発電所3号機が運転を再開している。

10 為替レートに関してはサブプライム住宅ローン危機に触れるために、2008 年からの統計を掲載している。

11 「2008年1月の1ドルと交換可能な各国通貨の交換比率を1とした時の為替 レートの増価率」なので、各国通貨は各時点で増価率がマイナスであるほど ドルに対するその通貨の価値は上昇する。

12 以下、この層をサブプライム層と称する。

13 不動産担保証券と呼ぶ。

14 評価損が発生するはずである。

15 ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインを指してPIIGS と称する。

16 この状況は本報告を書いている2013年初頭に至っても同じである。

17 財務省 国際収支状況のネットの対外直接投資(円建)をジェトロドル建 て貿易概況中の月次円ドルレートを用いて導出した。

参考資料

平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の被害状況と警察措置 平成25年2月13日 警察庁緊急災害警備本部

〈http://www.npa.go.jp/archive/keibi/biki/higaijokyo.pdf〉

生産施設の被災状況分析/東北地方太平洋沖地震関連技術レポート 清水 建設

〈http://www.shimz.co.jp/theme/earthquake/enterprise.html〉

東北地方太平洋沖地震及び停電によるソニーグループへの影響について 2011年3月14日

〈http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201103/11-0314/〉

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「東北地方太平洋沖地震」の影響に関するお知らせ 2011年3月18日

〈http://cweb.canon.jp/ir/news/2011/0318.html〉

「東北地方太平洋沖地震」等の影響に関するお知らせ 2011年3月14日

〈http://pr.fujitsu.com/jp/news/2011/03/14.html?nw=pr〉

東北地方太平洋沖地震の弊社被害状況について(第3報)2011年3月12日 12時45分現在

〈http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2011/̲STORY/110312-02-j.

html〉

〈東日本大震災関連〉3月28日(月)以降の工場稼動およびお客様へのお 詫びとお願いについて 2011年3月24日

〈http://www2.toyota.co.jp/announcement/110324̲1.html〉

東北地方太平洋沖地震の影響に関するお知らせ 2011年3月14日

〈http://www.kirinholdings.co.jp/news/2011/0314b̲01.html〉

東北地方・太平洋沖地震による被害について 2011年3月13日

〈http://www.nipponpapergroup.com/contents/200122005.pdf〉

東北地方太平洋沖地震の影響および対応について(第2報)2011年3月17 日

〈http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2011/03/f̲0317h.pdf〉

東北地方太平洋沖地震による当社グループへの影響について(第2報)2011 年3月23日

〈http://www.jti.co.jp/investors/press̲releases/2011/pdf/20110323̲01.

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財務省貿易統計

〈http://www.customs.go.jp/toukei/info/index.htm〉

横浜税関 平成22年茨城県の貿易概況

〈http://www.customs.go.jp/yokohama/toukei/shoshotoukei/h22ibaraki̲

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平成22年 東北地域の貿易概況(Ⅰ)―税関

〈http://www.customs.go.jp/yokohama/toukei/kakutei/data/touhoku 2010-1.pdf〉

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資源エネルギー庁 エネルギー白書2011

〈http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2011/〉

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〈http://www.stooq.com〉

発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令

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小林正宏、大類雄司

世界金融危機はなぜ起こったか サブプライム問題から金融資本主義の崩 壊へ

東洋経済新報社 2008年

サブプライム危機の原因と特徴 滝川好夫

一般財団法人 郵貯財団 インターネット研究会 2010年7月

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日本財政政策金融公庫 国際協力銀行 外国審査部 ユーロ圏の弱点象徴するソブリンリスク 2010年2月7日

〈http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/2010-061/jbic̲RRJ̲2010061.

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政府債務残高の国際比較(対GDP比)

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財務省 国際収支状況(付表2 対外・対内 直接投資)

〈 http : / / www. mof. go. jp / international ̲ policy / reference / balance ̲ of ̲ payments/bp̲trend/bpfdi/fdi/D-0-4.csv〉

ジェトロドル建て貿易概況

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Referensi

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2 霧や靄が多く発生し、霞む大気と静謐な湖面が織りなす荘厳なグラデーションは、この 湖の景観を極めて特徴的なものにしている。「霞む景観」は、中国の南宗の水墨画などに 顕著に見られる景観価値の見立てであるが、南宋時代の都のあった杭州の西湖の景観と比 較しても、日月潭は決して劣らず、その茫洋たる霧の湖面と、対岸にほとんど人工物の見