生産物賠償責任保険約款 生産物賠償責任保険約款
の課題 の課題
2016 年 2 月 20 日
研究の目的 研究の目的
• 日本の賠償責任保険は 1957 年に営業開始。
• 立案者竹田晴夫氏
o 約款・料率とも米国を範とした。
o 賠償問題解決の基盤が十分でない日本の状況に配慮した。
o 今後の営業経験と各方面からの批判を得て逐次整備していきたい。
• その後どのような改善指摘があったのか。
• いかに実務対応されたのか。
• 米国の ISO 約款と比較して,なお残る課題を明らか
にする。
生産物賠償責任保険約款 生産物賠償責任保険約款
• 賠償責任保険普通保険約款+生産物特別約款
• 2010 年施行の保険法への対応のための改訂まで大
きな改訂なし
生産物特別約款
生産物特別約款 (東京海上,旧約款) (東京海上,旧約款)
(当会社のてん補責任)
第1条 当会社がてん補すべき賠償責任保険普通保険約款第1条(責任の範囲)の損害は,次に掲 げる損害に限ります。
(1)被保険者の占有を離れた保険証券記載の財物(以下「生産物」といいます。)に起因して保険期間 中に生じた損害
(2)被保険者が行った保険証券記載の仕事(以下「仕事」といいます。)の結果に起因して,仕事の終 了(仕事の目的物の引渡を要するときは引渡)または放棄の後保険期間中に生じた損害
(免責)
第2条 当会社は,被保険者が次の賠償責任を負担することによって被る損害をてん補しません。
第2条 当会社は,被保険者が次の賠償責任を負担することによって被る損害をてん補しません。
(1)生産物または仕事のかしに起因する当該生産物または仕事の目的物の損壊自体(生産物または 仕事の目的物の一部のかしによる当該生産物または仕事の目的物の他の部分の損壊を含みます。)
の賠償責任
(2)被保険者が故意または重大な過失により法令に違反して生産,販売もしくは引き渡した生産物ま たは行った仕事の結果に起因する賠償責任
(3)被保険者が仕事の行われた場所に放置または遺棄した機械,装置もしくは資材に起因する賠償 責任
(普通保険約款との関係)
3
わが国の
わが国の PL PL 環境 環境
期間 黎明期 1957 年
~
1975 年
生産物賠償責任保険発売 製造物責任法要綱試案 成長期 1975 年
~
1995 年 製造物責任法( PL 法)施行
成熟期 1995 年 PL 法施行以降
指摘事項(黎明期)
指摘事項(黎明期)
• 日本損害保険協会賠責専門委員会( 1971 )
① 生産物の損壊自体の免責 当該生産物の使用不能損害は免責?(新車不調の 休車補償)
② 回収費用の不担保 回収費用は免責?
③ 被保険者の範囲 小売業者等追加被保険者の一般業務まで入ってし まうのでは?
まうのでは?
④ 一回の事故の定義 同一原因の一連の事故は一回の事故?
⑤ 適用地域 海外で起きた事故も対象?
⑥ ビジネスリスク 効能不発揮損害も対象?
⑦ 保険期間の適用 保険期間内に何があれば補償対象?
⑧ 被保険者の所属する団体 企業等の損害は対象?
指摘事項(黎明期)
指摘事項(黎明期)
• 本間( 1972 ) ISO1966 ポリシーと比較して
⑨ 保証違反担保 保証(
representation or warranty
)違反担保の規定 なし⑩ 「生産物危険」「完成作業 危険」の定義
定義がない。
完成作業危険の完成時期などで問題が生じないか。
指摘事項(成長期)
指摘事項(成長期)
• 日本保険学会( 1980 )で共通論題
• 松島( 1981 )フランスの制度と比較
• 落合( 1993 ) PL 法立法を控えて PL 補償のあり方検討
⑪ 使用不能損害賠償金
PL
法を見据え,損壊していない財物の使用不能損 害担保を検討すべき(落合)害担保を検討すべき(落合)
⑫ 回収費用担保 回収措置費用の一部は対象とすべき(亀井)
⑬ 法令違反免責の見直し 法令違反免責は削除すべき(松島,落合)
⑭ 直接請求権導入 被害者保護をより強化するため(落合)
指摘事項(成熟期)
指摘事項(成熟期)
• PL 保険の研究は少なくなった。
• 大羽( 2001 )( 2008 )
• 鴻上( 2012 )
⑬ 法令違反免責の見直し 免責事由など法律と約款の不整合のある部分(大 羽)
羽)
⑮ リコール保険の定型的契 約方式
リコール増加が予測されるため,定型的契約方式を 策定すべき(大羽)
⑯ テールカバーの必要性 日本の賠償請求ベースの約款は,無期限のテール カバーを提供すべき(鴻上)
実務対応 実務対応
• 生産物特別約款追加特約条項を自動付帯
• 次の指摘事項に対応
• ②回収費用の不担保
o
回収措置義務,回収費用不担保を規定• ④ 1 回の事故の定義
o
同一原因の一連の事故は一事故とみなすo
同一原因の一連の事故は一事故とみなす• ⑤適用地域
o
日本国内で発生した身体障害・財物損壊に限定,日本国外の裁判所に提起 された訴訟を除外• ⑦保険期間の適用
o
保険期間中に発生した身体障害・財物損壊を対象実務対応 実務対応
• 保険法対応約款改訂
o
①生産物の損壊自体の免責に対応o Itselfの使用不能損害も免責であることを明記
• 生産物回収費用保険(リコール保険)発売( 1990 年)
o
⑫回収費用担保に対応• 商工 3 団体中小企業 PL 保険制度にリコール特約導入( 2007
• 商工 3 団体中小企業 PL 保険制度にリコール特約導入( 2007 年)
o
⑮リコール保険の定型的契約方式に対応• 実務未対応指摘事項は以下の通り。
o
③被保険者の範囲,⑥ビジネスリスク,⑧被保険者の属する団体の損害,⑨米国
米国 ISOCGL ISOCGL 約款の対応 約款の対応
• 最新約款は, 2013 フォーム
• ⑬法令違反免責の見直し
o
米国約款には,法令違反免責は従来からない。• ⑭直接請求権導入
o
米国約款でも対応していない。• 他の指摘事項に関しては,日本が参考にすべき規定を有し
• 他の指摘事項に関しては,日本が参考にすべき規定を有し
ている。
指摘事項
指摘事項 16 16 の対応状況および の対応状況および重大性 重大性
① 生産物の損壊自体の免責 保険法対応約款改訂で対応
② 回収費用の不担保 生産物特別約款追加特約条項で対応
③ 被保険者の範囲 実務対応されていないが問題としては軽微
④ 一回の事故の定義 生産物特別約款追加特約条項で対応
⑤ 適用地域 生産物特別約款追加特約条項で対応
⑥ ビジネスリスク 米国の範囲を超える免責となっており,課題
⑦ 保険期間の適用 生産物特別約款追加特約条項で対応
⑧ 被保険者の所属する団体の損害 実務対応されていないが問題としては軽微
⑧ 被保険者の所属する団体の損害 実務対応されていないが問題としては軽微
⑨ 保証違反担保 実務対応されていないが問題としては軽微
⑩ 「生産物危険」「完成作業危険」の定義 実務対応されていないが問題としては軽微
⑪ 使用不能損害賠償金 米国では担保されており,課題
⑫ 回収費用担保 リコール費用保険発売で対応
⑬ 法令違反免責の見直し 米国には同様の免責はなく,課題
米国
米国 ISOCGL ISOCGL 約款の対応 約款の対応
(
( 11 )使用不能損害 )使用不能損害
• 「物理的に損傷を受けていない有体物の使用不能損害」も財 物損害( Property damage )に該当することを規定している。
17. 「財物損害」とは次に掲げるものをいう。
a. 有体物の物理的損傷(当該財物の使用不能損害を含む。),
(中略)または
(中略)または
b. 物理的に損傷を受けていない有体物の使用不能損害。(略)
米国
米国 ISOCGL ISOCGL 約款の対応 約款の対応
(
( 22 )法令違反 )法令違反免責 免責
• 規定なし
米国
米国 ISOCGL ISOCGL 約款の対応 約款の対応
(
( 33 )ビジネスリスク )ビジネスリスク免責 免責
•
指摘事項の⑥ビジネスリスクは,1966
ポリシーの効能不発揮免責を意識している が,当該免責の最新形は減損財物(Impaired Property)免責。• Section Ⅰ Coverage A 2.Exclusions
m.「減損財物」または物理的に損傷していない財物への損害
次の事由に起因する「減損財物」または物理的に損傷していない財物の「財物損害」
(1) 「あなたの製造物」または「あなたの仕事」の欠陥,不備,不適合または危険な状態
(2) あなたまたはあなたのために行動する者による契約または合意を条件通りに遂行することの遅 延または失敗
この免責は,「あなたの製造物」または「あなたの仕事」が意図された使用に置かれた後に「あなた この免責は,「あなたの製造物」または「あなたの仕事」が意図された使用に置かれた後に「あなた の製造物」または「あなたの仕事」に生じた急激かつ偶発的な物理的損傷に起因する他の財物の 使用不能損害には適用しない。
8.「減損財物」とは,「あなたの製造物」または「あなたの仕事」以外の有体物で,次の理由により,
使用不能または使用価値減少が生じ,
a. 欠陥,不備,不適合または危険であることが判明した「あなたの製造物」または「あなたの仕事」
を組み込んだため,または
b. あなたが契約または合意の条件を充足できなかったため
かつ,「あなたの製造物」もしくは「あなたの仕事」の修理,交換,調整もしくは除去またはあなたが 契約もしくは合意した条件を充足することにより修復して使用できるものをいう。
米国
米国 ISOCGL ISOCGL 約款の対応 約款の対応
(
( 44 ) )テールカバー テールカバー
• Section Ⅴ –Extended Reporting Periods ( CG 00 02 04 13 )
• 次の場合に提供される。
o
この保険が解約・非更改のとき,またはo
保険者によってこの保険の遡及日よりも遅い遡及日の保険もしくは賠償請求 ベースでない保険に更新されたとき• ショートテールカバー(基本延長報告期間)
• ショートテールカバー(基本延長報告期間)
o
追加保険料不要o
最後の保険の終期以前,遡及日以降に発生した事故(オカレンスなら対象)o
報告した事故は5
年の延長期間,報告していない事故は60
日の延長期間• ロングテールカバー(追加延長報告期間)
o 200%
以内の追加保険料を条件に新たなてん補限度額を提供生産物賠償責任保険の課題 生産物賠償責任保険の課題
(
( 11 )使用不能損害 )使用不能損害
• 1957 年当時の財物損害の定義
o 米国 injury to property →後に非損傷財物の使用不能損害も対象であることを明確 化(1973ポリシー)
o 日本 「財物の損壊」→非損傷財物の使用不能損害まで補償が広がることはなかった
• 1995 年施行の製造物責任法
o 第3条「製造業者等は,製造物の欠陥により他人の生命,身体又は財産を侵害したとき は,これによって生じた損害を賠償する責めに任じる」
は,これによって生じた損害を賠償する責めに任じる」
o 非損傷財物の使用不能損害にも責任が及ぶ
o PL法立法当時の学界議論では,責任範囲と補償範囲を一致させるべきとの議論が あったが,現在まで,普約,特別約款レベルでは実現していない。
• 外資系保険会社は製造業 E&O 保険を発売
o 非損傷財物の使用不能損害を補償するため
• 米国では通常の CGL , PL 保険で対象となる。
• 財物損害の定義を見直し,非損傷財物の使用不能損害も補
生産物賠償責任保険の課題 生産物賠償責任保険の課題
(
( 22 )法令違反免責 )法令違反免責
• 「被保険者が故意または重大な過失により法令に違反して生 産,販売もしくは引き渡した生産物または行った仕事の結果 に起因する賠償責任」
• 1957 年当初より免責であり,現在も変更なし。
• このような免責規定は,米国,フランスにおいてもない。
• 免責とした理由
• 免責とした理由
o
賠償責任保険開発時に,商法641条の「保険契約者または被保険者の悪意 または重過失」免責を片面的強行規定と捉え,重過失は担保するとした際に,安全確保面でのモラルハザードが懸念されたために,安全確保法令が整備さ れている生産物・昇降機特別約款にこの規定が盛り込まれたものと推測。
• 賠償責任保険導入から 60 年が経過し,その内容・役割が認
生産物賠償責任保険の課題 生産物賠償責任保険の課題
(
( 33 )ビジネスリスク免責 )ビジネスリスク免責
• 日本では,保険法対応約款改訂で, itself 免責が大幅に拡 大され,完成品全般が免責となった。
• 米国では,この分野の免責規定は, itself 免責+ Impaired Property (減損財物)免責となっている。
o
完成品が免責となるのは,欠陥ある生産物の除去等により元の状態に修復で きる場合に限られる。きる場合に限られる。
o
元の状態に修復できる場合でも,生産物に生じた急激かつ偶発的な物理的 損傷に起因する場合は,他の財物の使用不能損害にこの免責は適用されな い。• 日本の免責範囲は格段に広く,ビジネスリスク免責としては行 きすぎである。
• 広すぎる免責範囲を見直し,米国のような減損財物免責規
定を導入すべき。
生産物賠償責任保険の課題 生産物賠償責任保険の課題
(
( 44 )テールカバー )テールカバー
• 中小企業 PL は全件,一般 PL 保険は一部の契約で,賠償請 求ベースで引き受けられるものがある。
• テールカバーは,次のような内容で提供されている。
o
賠償請求の原因となる事実を知ったときは,60
日以内に書面で通知。o
当該事実に起因して,保険期間終了後5年以内になされた賠償請求は,保険 期間終了日になされたものとみなす。• この規定では,次のような場合に対応できない。
o
保険期間終了時に被保険者が認知できない事故(被害者が被保険者に事実を伝えていない,被保険者が苦情を請求に至ると までは考えなかった等)
o
通知済みでも5
年を超えてなされる賠償請求(加害者を発見するのに時間を要した場合等)
参考文献 参考文献
• 大羽宏一(2001)「製造物責任法と賠償責任保険の役割」『現代保険論集-鈴木辰紀先生古希記念-』,成文堂。
• 大羽宏一(2008)「訴訟から見た製造物責任法の課題と損害保険の役割」『保険学のフロンティア』第13章,慶應義塾大学 出版会。
• 落合誠一(1993)「PL保険の現状と課題」『保険学雑誌』540号。
• 亀井利明(1980)「生産物賠償責任保険の諸問題-問題提起-」『保険学雑誌』489号。
• 小林秀之(1998)責任編集『新製造物責任法大系Ⅱ[日本篇]』新版,弘文堂。
• 鴻上喜芳(2012)「損害賠償請求ベース約款におけるテールカバー・遡及カバーのあり方」『保険学雑誌』616号。
• 志田慎太郎(1985)「商品製造者の責任と保険」田辺康平,石田満編『新損害保険双書』3新種保険,文眞堂。
• 竹田晴夫(1958)「賠償責任保険について」『保険学雑誌』402号。
• 東京海上火災保険株式会社編(1965)『新損害保険実務講座』第9巻新種保険(下),有斐閣。
• 1965 9
• 日本損害保険協会(1971)「S46.7.9 賠責専門委員会議事録(’71-7)」
• 藤井一道(1996)「PL保険管見」『損保企画第631号』。
• 保険毎日新聞社(1988)『賠償責任保険の査定実務』。
• 本間靖敏(1972)「日本の生産物賠償責任保険の問題点」『損害保険研究』第34巻第1号,損害保険事業総合研究所。
• 本間靖敏(1980)「生産物賠償責任保険の契約実務上の諸問題」『保険学雑誌』489号。
• 松島恵(1981)「生産物責任に対する補償制度-わが国およびフランス生産物賠償責任保険制度の比較研究-」『経済研究』
第62号。
• 吉澤卓哉(2014)監修『新・賠償責任保険の解説』保険毎日新聞社。
• Donald S. Malecki(2013)“Commercial General Liability Coverage Guide”10th Edition, The National Underwriter Company.
• Doherty, Neil A. (1991), “The design of insurance contracts when liability rules are unstable. ”,“Journal of Risk and Insurance”, Jun 1, 1991.