【解説】
花成ホルモン・フロリゲンは,「日長変化の刺激により葉で 合成され,維管束を通って茎頂へと運ばれ,花芽形成を誘導 す る ホ ル モ ン」 と し て1930年 代 に 提 唱 さ れ た.そ の 後,長 い間その分子実体は謎であったが,2007年に筆者らを含むい くつかの研究グループから,シロイヌナズナFT/イネHd3a タンパク質がフロリゲンであることを強く支持する結果が出 さ れ た.し か し,茎 頂 へ と 運 ば れ たFT/Hd3aタ ン パ ク 質 の 細 胞 内 で の 役 割 は 不 明 で あ っ た.2011年 に わ れ わ れ は, Hd3aと そ の 受 容 体14-3-3と 転 写 因 子OsFD1か ら な る 複 合 体 の構造と機能を明らかにした.本稿では,フロリゲン活性化 複合体の研究を中心にその経緯を紹介し,構造解析から見え てきたフロリゲン機能の分子基盤について解説する.
花成とは〜栄養生長と生殖生長
多くの植物は発芽した後,栄養生長期に入り葉を盛ん
に作り大きくなっていくが,環境条件が変化し栄養生長 に適さなくなると,その変化を感知して生長を生殖生長 へと転換して花を咲かせ種子を形成する.環境条件の変 化のうち,日長の周期的変化に対して植物が反応し花芽 形成が誘導されることを光周性花成と呼ぶ.光周性花成 を誘導する日長条件は大きく2つに分類できる.一つは 24時間の明暗周期の中で明期の長さが植物種に固有の ある決まった長さ(限界日長)より短くなると花成が誘 導される短日植物である.もう一つは明期の長さが限界 日長より長くなると花成が誘導される長日植物である.
1936年にChailakhyanは,この日長変化を感知するの は葉であることを発見した.そして,花芽は茎頂で形成 されることから,日長感受により葉で作られた何らかの 物質が茎頂に輸送されて花成を誘起すると考え,そのよ うな物質をフロリゲン(花成ホルモン)と名づけた(1)
.
フロリゲン説の提唱後,その存在を支持する多くの生理 学的実験がなされたにもかかわらず,フロリゲンの分子 実体を明らかにする試みは近年に至るまでいずれも成功 しなかった.2007年になって,イネを用いた筆者らの グループやシロイヌナズナを用いた他の研究グループな どからシロイヌナズナFT/イネHd3aタンパク質がフロ花成ホルモン―フロリゲン―とその受容体の構造 解析からみえてきたフロリゲン機能の分子基盤
田岡健一郎 * 1 ,大木 出 * 2 ,辻 寛之 * 1 , 児嶋長次郎 * 3 ,島本 功 * 1
Molecular Basis of Florigen Function Revealed by Structural Analysis of Florigen Activation Complex
Ken-ichiro TAOKA, Izuru OHKI, Hiroyuki TSUJI, Chojiro KO- JIMA, Ko SHIMAMOTO, *1奈良先端科学技術大学院大学バイオ サイエンス研究科植物分子遺伝学研究室,*2奈良先端科学技術大 学院大学バイオサイエンス研究科生体高分子構造学研究室,*3大 阪大学蛋白質研究所機能構造計測学研究室
リゲンであることを強く支持する結果が出された(2, 3)
.
フロリゲン発見までの経緯の詳細については他の総説(4)などを参照されたい.
フロリゲンの構造
FT/Hd3aは,フォスファチジルエタノールアミン結 合タンパク質 (PEBP : phosphatidylethanolamine bind- ing protein) と高い類似性を示す(5〜7)
.PEBPは,フォ
スファチジルエタノールアミンと相互作用する可溶性塩 基性のタンパク質としてウシの脳から精製されたが,後 に多くの生物種に普遍的に存在することが明らかとなっ た.MAPキナーゼシグナル伝達経路における阻害因子 RKIP (Raf-1 kinase inhibitor protein) としても同定さ れ,さらにRKIP以外のさまざまな機能も報告されてい る(8).PEBPは,アニオン結合ポケットと考えられる小
さなくぼみをもつ,小さな球状タンパク質である(9, 10).
このくぼみに,フォスファチジルエタノールアミンのリ ン酸基部分が結合していると考えられている.フロリゲ ンの構造については,これまでにWeigelらのグループ がFT,筆者らのグループがHd3aの結晶構造を報告している(11, 12) (図
1
).FTとHd3aの大まかな構造は互い
に非常に類似し,PEBPにも類似している.ただし,PEBPのリン酸基認識に重要なチロシン残基(ヒト PEBPのY120)は,FT/TFLファミリーともに保存さ れていない.現在のところ,フロリゲンの花成機能と フォスファチジルエタノールアミンとの関連は不明であ る.
フロリゲン活性化複合体FACの構造
シロイヌナズナのフロリゲンFTタンパク質と相互作 用する因子として,2005年にシロイヌナズナFDが報告
された(13, 14)
.FDはbZIP型の転写因子であり,FTと
FDの両者の過剰発現により花芽分裂組織決定遺伝子の 一つである 遺伝子の発現が誘導される(13)
.しか
し,フロリゲンがどのようなメカニズムで下流の標的遺 伝子の発現を制御しているのかは不明であった.その制 御機構を明らかにするために,われわれは酵母ツーハイ ブリッド法によるHd3a相互作用因子の探索を行っ た(12).その結果,GF14c(イネ14-3-3) ,
OsFD1(シロ イ ヌ ナ ズ ナFDの イ ネ ホ モ ロ グ) な ど が 得 ら れ た.GF14cを除く相互作用因子のC末端には,FD‒FT相互 作用モチーフ (Thr-Ala-Pro)(14) に類似したSAPモチー フ (Ser-Ala-Pro) が共通して見いだされ,それはHd3a との相互作用に必須であった.ところが, での 相互作用実験では,Hd3aとGF14cの間の相互作用は検 出されたが,Hd3aとOsFD1の相互作用は検出できな かった.これらの実験結果と,SAPモチーフと14-3-3認 識配列 (Arg-X-X-Ser-X-Pro) の類似性,さらにGF14c にSAPモチーフがないことから,Hd3aとその相互作用 因子は14-3-3を介して間接的に相互作用していると考え た.酵母で観察されたHd3aとその相互作用因子の間の 結合は,酵母の内在の14-3-3を介した間接的なものであ ると説明できる.実際,OsFD1とGF14cは で相 互作用し,さらに変異解析によりSAPモチーフ内のセ リンのリン酸化が両者の相互作用に重要であることがわ かった.
Hd3a, GF14およびOsFD1の相互作用の詳細を調べる ため,われわれはこれら三者からなるタンパク質複合体 の立体構造解析を行い,結晶構造を2.4Å分解能で決定 することに成功した(12)
.結晶化にあたってOsFD1に
は,GF14との結合に必要十分なリン酸化S192を含むC 末端の9アミノ酸断片を用いた.得られた複合体構造で は Hd3a, GF14, OsFD1 それぞれ2分子ずつからなるW 字型のヘテロ六量体を形成しており(図2
A),ダイマー
図1■フロリゲンの構造(A) イネフロリゲンHd3aの結晶構造.PEBPファミリーの特徴で あるポケット構造が見られる.受容体14-3-3とは赤色で示した領 域で結合する.(B) シロイヌナズナフロリゲンFTと花成リプ レッサー TFL1の結晶構造と (C) 両者の重ね合わせ図.FTと TFL1はsegment Bによって形成されるループ領域で大きく構造 が異なっていることがわかる.
を形成したGF14のW字の底にあるくぼみにリン酸化さ れたOsFD1がはまり込み,その上側にHd3aが1分子ず つ左右対称に離れて結合し,Hd3aとOsFD1の間に直接 的な相互作用は見られなかった(図2B)
.この三者複合
体 を フ ロ リ ゲ ン 活 性 化 複 合 体 (Florigen Activation Complex ; FAC) と名づけた.14-3-3はリン酸化されたアミノ酸を認識することがよ く知られているが,GF14とHd3aの相互作用はリン酸 化非依存的である.両者の相互作用は,Hd3aの中央 ループ領域に存在する2つの突き出たアルギニン残基
(R64, R132) がGF14上部にある酸性のくぼみに錨のよ うにはまり込み,さらにHd3a本体はGF14のC末端へ リックスの間にある疎水性の溝と広く相互作用している
(図2B)
.
一方,OsFD1とGF14の相互作用は,OsFD1 のリン酸化されたS192がGF14の塩基性のリン酸化ペプ チド結合ポケットにはまり込み,さらにSAPモチーフ 全体も認識されており,典型的な14-3-3とリン酸化ペプ チドの結合様式に類似している(図2B).イネFACで
観察されたHd3a‒GF14, GF14‒OsFD1の相互作用部位は ともに高等植物で高度に保存されていた(12).FTと14-
3-3が相互作用すること(15) も合わせると,フロリゲ ン-14-3-3-転写因子の相互作用は,高等植物全般に共通 して存在する花成経路であると考えられる.イネ細胞内でFACは花芽形成遺伝子 (シ ロイヌナズナ ホモログ)などのプロモーター領域 に結合して,転写活性化を行っていると考えられる(12)
.
実際,シロイヌナズナ プロモーター上のC-box配 列 (GACGTC) を用いて,ゲルシフトアッセイによる FACとDNAの結合解析を行ったところ,プロモーター DNA上で安定なFACが形成された.このFAC-DNA複 合体中でのHd3aの位置づけを確認するため,既知の動 物 のbZIP転 写 因 子‒DNA複 合 体 構 造 を 基 に,FAC‒DNA複合体のモデル構造を作成した(図2C)
.このモ
デルでは,Hd3aはGF14とOsFD1をDNAに安定に保 持するように位置する.この配置はFACの安定化に貢 献しているのかもしれない.FACの形成機構
次にイネのプロトプラストを用いてFACが細胞内で 構築されるメカニズムを調べた(12)
.はじめにGFPなど
の蛍光タンパク質の融合によりFACの個々の構成因子 の細胞内局在を観察したところ,Hd3aは核と細胞質に,GF14bはほとんどが細胞質に,OsFD1は核にのみ局在 しており,複合体を形成するはずの三者の局在がそれぞ
図2■フロリゲン活性化複合体 (FAC) の構造
(A) Hd3a‒GF14‒OsFD1ペプチドからなる6量体の結晶構造 (B)
Hd3a‒GF14の相互作用面(上部)とGF14‒OsFD1の相互作用面
(下部).Hd3aとOsFD1の間には直接的な結合は見られず,GF14 を介した相互作用であった.(C) DNA上のFACの構造モデル.
Segment Bやアニオン結合ポケットはFAC-DNA外面に露出して おり,他因子(co-activatorなど)のアクセスが可能となってい る.
図3■フロリゲンによる花成制御
日の長さの変化が葉で感知され,フロリゲンタンパク質が作られ る.フロリゲンは維管束の篩管を経由して茎頂へと運ばれる.フ ロリゲンは,受容体である14-3-3と茎頂分裂組織(茎頂に位置す る幹細胞集団)の細胞の細胞質で結合し,さらに核内の転写因子 OsFD1と結合してフロリゲン活性化複合体 (FAC) を形成し,
などの花芽形成にかかわる遺伝子を活性化し,花成が 引き起こされる.
れ異なっていることがわかった.そこで次にHd3a‒
GF14b複合体の形成をBiFC法によって検討したが,こ の複合体は細胞質で観察された.しかし,そこにさらに CFP‒OsFD1を共発現させたところ,Hd3a‒GF14b複合 体がOsFD1依存的に細胞質から核へ局在を変え,3者 が 核 に 集 ま る こ と が 観 察 さ れ た.ま た,BiFC法 と FRETを組み合わせた3分子複合体の イメージン グ実験から,生細胞内においてもFACが形成されてい ることを強く示唆する結果を得た.このことから,14- 3-3は細胞質でHd3aと最初に結合するフロリゲン受容体 と し て 機 能 し,Hd3a‒GF14b複 合 体 が 核 移 行 し て OsFD1と相互作用していると考えられる(図
3
).
FACの機能
Hd3aの下流標的遺伝子として が報告され ている(16)
.そこで,Hd3a‒14-3-3‒OsFD1の三者の相互
作用が 遺伝子の活性化に関わっているかど うかを一過的発現実験によって調べた(12).
mRNA量は, および 発現ベクターがとも に導入された場合にのみ上昇した.しかし,14-3-3相互 作用欠損変異
,あるいは14-3-3相互作用欠損変異
を発現させた場合には, の発現上昇 はほとんど観察されなかった.さらに,14-3-3の発現を ノックダウンさせた場合にも, mRNA量は 減少した.以上の実験結果は,FACの形成が下流の標 的遺伝子の活性化に必須であることを示唆している(図 3).
さらに,多数の形質転換イネを用いた実験から,
FACの形成が実際に花芽形成に必要であることが明ら かになった(12)
.
を過剰発現する形質転換イネで は,その出穂は顕著に促進されるが(2, 7),14-3-3相互作
用欠損変異 では花成の促進機能が失われた.また の発現をRNAiで抑制したところ,シロイヌナ ズナ 変異体(13, 14) やトウモロコシ 変異体(17) と同 様に花成が遅延することがわかった.さらに,の過剰発現は花成に影響を与えなかったが,14-3-3と恒 常的に結合可能なリン酸化模倣変異導入 を過剰 発現させたところ,花成が促進された.このことは,
OsFD1のリン酸化も花成の制御要因の一つであること を示しているのかもしれない.
花成リプレッサーTFL1とFAC 花 成 リ プ レ ッ サ ー 遺 伝 子 (
) は,花成促進と花序の有限成長を示すシ ロイヌナズナ変異体から同定された(18)
.
変異体は早 咲きになり花序分裂組織が花に変換されるため頂端に花 が形成され有限花序となる. を過剰発現させると 逆に遅咲きになる.筆者らもイネ ホモログ の過剰発現が花成抑制に働くことを報告している(19).
つまり, / は,花成に関して / とは 正反対に働く.ところが,TFL1/RCNタンパク質は FT/Hd3aと同様に,植物PEBPファミリーに属する(6)(図1B)
.
これらの知見から,FT/Hd3aとTFL1/RCN は花成制御の共通した経路において拮抗的に働くと考え られてきた(6, 11, 20, 21).
と の機能差異の理由を明らかにするため に,2つのグループが独立に解析を行っている.Brad- leyらのグループは,アニオン結合ポケット周辺に位置 する FT Y85(Hd3aではY87,図1A)がFTサブファ ミリー内で,TFL1 H88がTFL1サブファミリー内で完 全に保存されていることに注目し,アミノ酸残基を置換 した実験を行った(20)
.その結果,FTのY85をHに置換
するとFT過剰発現体と比べて遅咲きとなり,逆に TFL1のH88をYに置換すると早咲きとなった.一方,Weigelらのグループは, , 遺伝子を7つの領域 に区画化し,それら区画を交換したキメラ遺伝子の花成 効果を網羅的に調べた(11)
.その結果,segment B領域
が両者の機能特異性をもたらす領域として同定された.Segment B領域は,FTとTFL1の結晶構造比較で大き く異なっているループ領域に相当する.これらの結果 は,アニオン結合ポケットやsegment B領域の違いが FTとTFL1の機能分化に重要であることを示唆してい る(11, 20)
.
われわれは,両グループの結果をFACモデルに組み 込むことで花成リプレッサーの機能をうまく説明できる と考えている(図
4
A).
すなわち,栄養生長期には FACのフロリゲンの位置にTFL1/RCNが入り込んだ花 成抑制複合体 (Flowering Repression Complex ; FRC)が形成され,花芽形成遺伝子の転写を抑制しているが,
フロリゲンが茎頂に到達すると,FRCのTFL1/RCNが フロリゲンと置き換わってFACへと転換し,花芽形成 遺伝子の転写が促進され花成誘導される,と考えてい る.アニオン結合ポケットやsegment B領域はFAC形 成には関与せずFAC表面に露出しているので(12) (図 2C)
,これらの領域に転写制御のco-activatorやco-re-
pressorが結合して花成遺伝子の転写制御が実行されて いる可能性が考えられる(21).このモデルを支持する知
見として,Hd3aにおいて14-3-3との結合に関わるアミノ酸残基は,TFL1/RCNサブファミリーにおいても高 度に保存されていること(12)
,シロイヌナズナやトマト
のTFL1が14-3-3と相互作用すること(15),TFL1が核内
で転写因子FD依存的に転写抑制に働いていること(21),
が報告されている.フロリゲンの多機能性とFAC
光周反応は,植物のさまざまな生理現象に関わってい る.その中でもジャガイモの塊茎(イモ)形成が短日条 件で誘導される現象は,先述のChailakhyanにより,葉 で合成される仮想の塊茎形成ホルモン(チューベリゲ ン)によって制御されるモデルが提唱されていた(22)
.
われわれは,イネフロリゲン やジャガイモ ホ モログをジャガイモで過剰発現させると,本来塊茎形成 が誘導されない長日条件下でも塊茎が形成されることを 見いだした(23).さらにこの効果は接ぎ木伝達性を示す.
このことは,フロリゲンが,チューベリゲンとしても機 能していることを強く示唆している.このように,花成 制御以外のフロリゲンの機能が最近の研究から明らかに され始めてきた.たとえば,トマトのフロリゲンSFT は,葉の形態を含めた,より一般的な形態形成制御因子 として機能していることが報告されている(24)
.さらに,
イネ がイネの分枝形成にも関わっていることが明 らかになりつつある(辻ら,未発表)
.
このようなフロリゲンの多機能性を産みだす分子機構 は次のように考えられる(図4B)
.すなわち,FACの
OsFD1部分が,14-3-3と相互作用できる別の転写因子に 置き換わることで異なる遺伝子の発現制御がなされてい ると考えられる.そのような転写因子には,14-3-3との 相互作用以外にFAC形成を規定している何らかの構造的特徴があるだろうと予想される.DNA上に形成され た完全なHd3a‒GF14‒OsFD1の構造が解明されれば,
FAC形成を規定する構造要因が明らかになるだろう.
おわりに
構造および機能解析の結果から,14-3-3タンパク質は フロリゲンHd3aの細胞内受容体として機能すると考え られる.すなわち,フロリゲンHd3aは葉で合成された 後,茎頂まで長距離移動し,茎頂細胞の細胞質で14-3-3 に受容され,Hd3a‒14-3-3複合体を形成する.それから Hd3a‒14-3-3複合体は核へ移動し,OsFD1とさらに高次 の複合体FACを構築して花芽形成遺伝子の発現をス タートさせると考えられる(図3)
.
そして,TFL1/RCNは,転写因子‒14-3-3複合体をフロリゲンと競合す ることでフロリゲン活性のバランス調節に関わっている と考えられる(図4A)
.最近になって,多年生植物の花
成抑制(25) やバラやイチゴに見られる四季咲き(26) の原 因遺伝子として ホモログ遺伝子が報告されてお り, ホモログの重要性が再認識されてきている.フロリゲンは,「花成」ホルモンではなく,ジャガイ モ塊茎形成を含むさまざまな形態形成を制御する多機能 性ホルモンとしてとらえなおされようとしている(図 4B)
.FACモデルを基盤としたフロリゲンの活性制御機
構の解明は,基礎研究としての重要性にとどまらず,作 物生産にとって重要な形質の改良にもつながるものと期 待される.文献
1) M. Kh. Chailakhyan : , 13, 79
(1936).
図4■FAC構成因子交換モデル
(A) FAC中のフロリゲンが花成リプ レッサー RCNに置き換わった形の花 成抑制複合体 (Flowering Repression Complex ; FRC) は花芽形成遺伝子の 転写を抑制しているが,フロリゲン とRCNが置き換わるとFACになり,
花芽形成遺伝子の転写を促進し花成 が誘導される.(B) フロリゲンが受 容体14-3-3を介して塊茎形成転写因 子上にFAC様の複合体を形成する と,塊茎形成遺伝子の転写が活性化 され塊茎ができる.
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貝沼 圭二(Keiji Kainuma) <略歴>
1959年東北大学農学部農芸化学科卒業/
大学卒業後,農林省に入省して、食品総合 研究所,農林水産技術会議事務局、国際農 林水産業研究センターに37年間勤務、こ の間博士研究員および客員准教授として二 度にわたり米国アイオワ州立大学にて澱粉 科学の Dexter French 教授に師事。研究 者としての略歴は本誌50, 208 (2012) に述 べさせていただいたので,本稿に関係する 略歴を中心に述べる.農林水産省退官後,
生研機構理事,総理府科学技術会議政策委 員および総合科学技術会議基本政策専門調 査会委員,農林水産省顧問,食品総合研究 所研究顧問,農業技術協会会長,農林水産 省農林水産技術会議委員,帯広畜産大学監 事(非常勤)などを務め,国際的には世界 最大の農業研究組織である国際農業研究協 議グループ (CGIAR) 科学理事会理事,ア ジア太平洋経済協力会議 (APEC) 農業技 術 協 力 部 会 議 長,経 済 協 力 開 発 機 構
(OECD) 新 食 品・飼 料 安 全 性 タ ス ク フォース副議長などを歴任,この間日本応 用糖質科学会会長,サゴヤシ学会会長,
IFT Japan Section 会長,澱粉研究懇談会
代表世話人などを務める.澱粉の基礎およ び応用研究に対して,AACC Internation- al より Alsberg-Schoch Memorial Award, 日本応用糖質科学会より二国賞などを受 賞,澱粉研究および研究行政に対して紫綬 褒章,瑞宝中綬章を受章<研究テーマと抱 負>現在研究室を離れていますので,研究 テーマはありませんが,日本食糧新聞社の 食品産業功労賞選考委員会委員長を務めて います.日本の食品産業の歴史,その発展 に寄与された方々の業績に学ぶところが非 常に大きいものがあります
笠原 正典(Masanori Kasahara) <略 歴>1980年北海道大学医学部医学科卒 業 /1992年 北 海 道 大 学 医 学 部 助 教 授 / 1998年総合研究大学院大学先導科学研究 科教授/2004年北海道大学大学院医学研 究科教授/2011年北海道大学大学院医学 研究科副研究科長,現在に至る<研究テー マと抱負>複雑精緻な免疫系がどのように して作られたのかを知ることに興味をもっ ています.ここ数年は,この小論のテーマ であるVLRの構造・機能解明に力を注い でいます.そのほか,マウスとヒトを主な
研究対象として,1) 主要組織適合遺伝子 複合体クラスI分子,特に非古典的クラス I分子に関する研究,2) NK細胞活性化リ ガンドに関する研究,3) 免疫ならびに胸 腺プロテアソームに関する研究を行ってい ます<趣味>植物栽培(特にバラ),音楽 鑑賞,読書(特に歴史小説),旅行,山歩 きなど
河 野 憲 二(Kenji Kohno) <略 歴> 1980年東京大学大学院農学系研究科博士 課程修了(農博)/同年国立基礎生物学研 究所助手/ 1989年大阪大学細胞工学セン ター助教授/ 1993年奈良先端科学技術大 学院大学教授,現在に至る.この間,1987
〜 1989年米国テキサス大学研究員<研究 テーマと抱負>非ストレス時における小胞 体ストレス応答活性化の生理的意義と真核 生物がなぜこのような巧妙な経路を発達さ せてきたのか,またオリジナルに開発した TRECK 法を再生医学研究に役立てること
<趣味>旅先の文化と食を楽しむ,ス キー,テニス