【令和2年度 日本保険学会全国大会】
第Ⅱセッション(法律系)
報告要旨:泉 裕章
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疾 病 医 療 過 誤 に 係 る 傷 害 保 険 責 任 の 一 考 察
~ 国 民 の 健 康 の 維 持 ・ 向 上 に 資 す る 保 険 法 ・ 医 事 法 の 交 錯 ~
住 友 生 命 保 険 相 互 会 社 泉 裕 章
Ⅰ. は じ め に
本 報 告 は 、 医 師 が 、 医 療 過 誤 に 対 す る 責 任 追 及 を 危 惧 し て 保 守 的 ・ 防 御 的 な 行 動 を 取 っ て し ま う と い う 一 部 の 傾 向 は 、 国 家 や 生 命 保 険 業 界 に と っ て の 重 要 利 益 で あ る 国 民 の 健 康 の 維 持 ・ 向 上 を 阻 害 し か ね な い と い う 問 題 意 識 に 基 づ き 、 そ の 問 題 の 改 善 に わ ず か で も 貢 献 す べ く 、 疾 病 医 療 過 誤 に 係 る 傷 害 保 険 責 任 の あ り 方 に つ い て 考 察 す る こ と を 目 的 と す る 。
Ⅱ. 医 事 法 の 領 域 に お け る 議 論 状 況
こ の 問 題 に 関 し 、医 事 法 の 領 域 で は 、医 療 契 約 関 係 に あ る 患 者 と 医 師 と の 間 に は 、 本 来 、 信 頼 に 基 づ く 協 調 的 関 係 が 存 在 す る が 、 ひ と た び 医 療 過 誤 が 発 生 す れ ば 、 損 害 賠 償 責 任 を 巡 っ て 、 両 者 は 対 立 的 関 係 に 転 じ る 旨 が 指 摘 さ れ て い る 。
こ う し た 問 題 を 踏 ま え 、そ の 改 善 提 案 の 例 と し て 、医 療 事 故 補 償 制 度(損 害 賠 償 責 任 制 度 に 代 わ る 事 故 保 険(傷 害 保 険 型 保 険)制 度)の 導 入 可 能 性 が 議 論 さ れ て い る が 、 具 体 的 な 制 度 設 計 の あ り 方 等 の 問 題 が 指 摘 さ れ て お り 、 制 度 導 入 に 向 け た ハ ー ド ル は 決 し て 低 く な い よ う で あ る 。
Ⅲ. 疾 病 医 療 過 誤 に 係 る 傷 害 保 険 責 任 の 議 論 状 況
本 報 告 に お け る 主 な 考 察 対 象 が 生 命 保 険 会 社 の 取 扱 い に 係 る 傷 害 保 険 で あ る 以 上 、 原 則 と し て 疾 病 は 有 責 と な ら な い 。 一 方 、 疾 病 医 療 過 誤 に 係 る 傷 害 保 険 責 任 を 巡 り 、 過 去 の 下 級 審 裁 判 例 は 、 大 き く 、 ① 疾 病 医 療 過 誤 を 無 責 と す る 傷 害 保 険 約 款 の 捉 え 方 を 貫 徹 す る も の 、 ② 疾 病 医 療 過 誤 を 有 責 と す る 例 外 的 事 情 を 認 め る も の 、 の 2類 型 に 整 理 す る こ と が で き る が 、 ② に い う 例 外 的 事 情 は 、 ご く 狭 い
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報告要旨:泉 裕章
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範 囲 に 限 定 さ れ て い る の が 現 状 で あ る 。 し か し 、 分 類 項 目 や 除 外 項 目 に 依 拠 し な い 傷 害 保 険 約 款 の 存 在 等 を 踏 ま え る と 、 解 釈 論 と し て 、 こ う し た 例 外 的 事 情 を 広 く 捉 え る 余 地 が あ る の で は な か ろ う か[さ し あ た り の 私 見]。
Ⅳ. 傷 害 保 険 責 任 の あ り 方 に 係 る 解 釈 論 的 考 察
医 事 法 の 領 域 に お け る 知 見 ・ 議 論 を 参 考 に 、 疾 病 医 療 過 誤 を 下 表 の よ う に 分 類 し た と き 、 私 見 と し て は 、 最 大 限 、 網 掛 け の 類 型 が 傷 害 保 険 有 責 の 範 囲 に な り 得 る と 考 え る が 、 そ の 保 険 給 付 が 損 益 相 殺 の 対 象 と な ら な い 以 上 、 こ う し た 解 釈 論 は 、 医 師 が 患 者 側 と 協 調 的 関 係 を 維 持 す る た め の イ ン セ ン テ ィ ブ と な ら な い 。
a.医 療 技 術 上 の 過 誤 b.説 明 義 務 違 反
医 療 過 誤
(1)加 害 行 為 a-(1) b-(1)
(2)(1)以 外 行 為 a-(2) b-(2)
(3)健 康 悪 化 せ ず a-(3) b-(3)
非 過 誤 (4)不 良 転 帰 a-(4) b-(4)
Ⅴ. 傷 害 保 険 責 任 の あ り 方 に 係 る 制 度 論 的 考 察
そ こ で 、 次 に 制 度 論 を 検 討 す る 。 具 体 的 に は 、 あ る 疾 病 医 療 過 誤 に つ き 、 傷 害 保 険 有 責 と す る 場 合 、 こ れ を 請 求 権 代 位 の 対 象 と す る も の の 、 生 命 保 険 会 社 は そ の 請 求 権 を 行 使 し な い 旨 の 手 当 て を 行 う 。 こ れ に よ り 、 当 該 疾 病 医 療 過 誤 に 係 る 事 実 解 明 に 対 し て 、 患 者 側 と 医 師 の 利 害 が 一 致 し 、 協 調 的 関 係 が 生 ま れ る 。
こ う し た 制 度 論 に は 、生 命 保 険 会 社 の 事 務 的 ・ 金 銭 的 負 担 を 増 大 さ せ る 等 の 批 判 が あ り 得 る が 、 国 民 の 健 康 の 維 持 ・ 向 上 に 向 け た 全 体 最 適 実 現 の た め の 一 助 と し て 、 必 ず し も 無 益 で な い も の と 考 え る 。
Ⅵ. ま と め - 本 報 告 の 結 論 と 今 後 の 課 題 -
本 報 告 は 、以 上 の よ う な 制 度 論 を 提 案 す る 。も っ と も 、傷 害 医 療 過 誤 と の 平 仄 、 患 者 側 と 医 師 と の 対 立 的 関 係 残 存 の 可 能 性 等 、 今 後 の 課 題 が 残 さ れ て い る 。