色素依存性脱水素酵素の網羅的な機能と構造解析
米子工業高等専門学校物質工学科 里村武範
【目的】
色素依存性脱水素酵素は,糖・有機酸・アミノ酸など各 種生体成分から電子を取り出し,これを人工の酸化還元色 素に渡す.この反応を利用すれば,人工色素をメディエー ターとして,酵素反応と電極を直接結びつけることが可能 となるため,物質の濃度を電気化学的信号として簡便に検 出するバイオセンサー用素子や生体物質を起電力とするバ イオ電池用素子として利用できる1).また,色素依存性脱 水素酵素は生体内では電子伝達系の初発酵素としてエネル ギー獲得に重要な役割を果たしている.このように色素依 存性脱水素酵素は生命科学の基礎研究および応用利用の両 面から期待されている酵素の一つである.しかしながら,
従来から研究されてきた常温生物由来の酵素は総じて不安 定であり,機能性素子としての応用例はおろか酵素の機能 解析の報告例もほとんどない.
申請者は,超好熱菌から色素依存性脱水素酵素を発見 し,初めて詳細な機能解析に成功した2), 3).その結果,こ れら色素依存性脱水素酵素が非常に高い安定性を有しバイ オセンサー,バイオ電池用素子として有用性が高いことを 明らかにした4).しかしながら,現在までに超好熱菌由来 色素依存性脱水素酵素の報告例は少なくタンパク質の構造 や電子伝達様式などの知見はほとんど無い.そこで本研究
ではゲノム情報が明らかとなっている 3 種の超好熱菌
( , ,
) から色素依存性脱水素酵素候補を抽出し大腸 菌によるタンパク質発現系を構築し,発現タンパク質の機 能解析を進め,新規反応を触媒する色素依存性脱水素酵素 の発見を目的として研究を行った.
【方法】
, , のゲノム情報か
ら 23 種類の色素依存性脱水素酵素候補の抽出を行った (表 1).抽出した 23 種類の ORF について pET11a ベク ターに組み込み大腸菌によるタンパク質発現系を構築し た.これら機能未知色素依存性脱水素酵素候補の ORF を 含んだタンパク質発現ベクターを BL21 Codon Plus RILP に導入しタンパク質を発現させ,80℃ 10 分間熱処 理を行った.熱処理後,Q-セファロースイオン交換クロ マトグラフィーによって精製を行った.精製タンパク質に ついてはニトロセルロースメンブレンにタンパク質を固定 し,活性染色法により酵素の基質の同定を行った.酵素活 性検出のために行った活性染色法は人工電子受容体である フェナジンメトサルフェート (PMS) を介し -ヨードテト ラゾリウム塩 (INT) を還元して赤色のホルマザンを生成 する呈色反応を利用する方法で行った.また,基質の同定 行うとともに精製酵素を用いて酵素の結晶化条件の検討も 行った.結晶化スクリーニングには Hampton Research 社 の Crestal Screen I, II を用いてシッティングドロップ蒸気 拡散法で行った.
【結果と考察】
現在までに 4 種類の色素依存性脱水素酵素候補のタンパ ク質を可溶性画分に回収することに成功した (Pcal̲0127, Pcal̲1218, Pcal̲1655, APE̲1267.1).可溶性画分にタンパ ク質発現が確認できた 4 種類のタンパク質について基質を 検索したところ Pcal̲1218 は D-乳酸,Pcal̲1655, APE̲
1267.1 については L-プロリンであることが明らかとなっ た5).Pcal̲0127 については現在,基質の同定を進めてい
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FAD dependent oxidorecductase Pcal̲0537
FAD dependent oxidorecductase Pcal̲0127
アノテーション ORFI. D.
表
1 色素依存性脱水素酵素候補
APE̲0309.1
FAD dependent oxidoreductase Pcal̲1701
FAD dependent oxidoreductase Pcal̲1655
FAD-dependent pyridime nucleotide-disulphide oxidoreductase Pcal̲1390 D-lactate dehy drogenage (cytochrome)
Pcal̲121/8
putative oxidoreductase APE̲1820
putative oxidoreductase APE̲1361.1
putativephytoene dehydrogenase APE̲1336.1 putative oxidoreductase APE̲1267.1
D-lactate dehydrogenase APE̲0487
putative oxidoreductase
phytoene dehydrogenaserdlated protein SSO2242 hypothetical protein
SSO2233
oxidoreductase, putative SSO985
soxB-like; oxidoreductase, SoxB-like, putative SSO0021
SSO3163 gly colate oxidaseiron-sulfur subunit SSO3161
soxB-like; sarcosine oxidase, subunit beta SSO0187
oxidoreductase
SSO2829 oxidoreductase (flavoprotein) SSO2629
oxidoreductase SSO1577
gly colate oxidase GlcE subunit SSO3165
gly colate oxidase GlcD subunit.
図
1 APE1267.1 のタンパク質結晶.
る.さらに,APE̲1267.1 タンパク質発現産物については タンパク質の結晶化に成功した (図 1).
最後に本研究を遂行するにあたり,研究奨励金を賜りま した財団法人農芸化学会奨励会に深く感謝いたします.
参 考 文 献
1) 大島敏久,櫻庭春彦,川上竜巳,里村武範,津下英明.日 本応用酵素協会誌,43, 33 (2008).
2) Satomura, T., Kawakami, R., Sakuraba, H., and Ohshima, T.
., 277, 12861 (2002).
3) Sakuraba, H., Takamatu, Y., Satomura, T., Kawakami, R.,
and Ohshima, T. 67, 1470
(2001).
4) Tani, Y., Itoyama, Y., Nishi, K., Wada, C., Shoda, Y., Sato- mura, T., Sakuraba, H., Ohshima, T., Hayashi, Y., Yabutani T., and Motonaka. J., 25, 919‑23 (2009).
5) Satomura, T., Zhang, X. D., Hara, Y., Doi, K., Sakuraba H.,
and Ohshima, T., 89, 1075‑1082
(2011).
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リボソーム蛋白質が分解制御因子として機能する新規ポリアミン合成制御機構に関与するプロテアーゼの特性解明 山形大学大学院理工学研究科 高塚由美子
【背景と目的】
ポリアミンは,分子中にアミノ基を 2 個以上有する低分 子脂肪族アミン類の総称であり,すべての生体内に遊離の 形で存在し,核酸や蛋白質の合成促進・酵素活性の調節な ど多岐にわたる生理作用を発揮することが知られている.
ところが,反芻動物の第一胃 (ルーメン) の主要共生菌で
偏性嫌気性の 他,数種のグラ
ム陰性細菌においては,細胞壁ペプチドグリカン (PG) に,カダベリン,プトレシン,およびスペルミジン等のポ リアミンが共有結合して存在し,外膜の安定化に必須の役 割をもつ1).生体高分子に共有結合したポリアミンの新規 な生理機能の例であるとともに,細菌の表層構造安定化因 子としては通説であるムレインリポ蛋白質を欠くこれらの 細菌における,新規な表層膜安定化機構としてその詳細の 解明が期待されている.2010 年には新知見として,
の外膜主要蛋白質 Mep45 と PG 結合型カダ ベリンとの相互作用が本安定化機構に重要であることが解 明され2),さらに本菌ではカダベリンが PG 結合型ポリア ミンの分子種として,薬剤耐性や高温度での生育におい て,他のポリアミンでは置き換えられない機能をもつこと も証明された3).
一方, において PG 結合型主要ポリア ミンはカダベリンであるが,カダベリン生合成に必須な本 菌のリジン/オルニチン脱炭酸酵素 (LDC/ODC) は,既知 の原核生物酵素とは構造・性質ともに全く異なり,真核生 物オルニチン脱炭酸酵素 (ODC) と同起源を有する.さら に,本酵素蛋白質は菌体生育の定常期初期において急激に 分解される厳密な制御を受け,本分解機構には本菌のリボ ソーム構成蛋白質 L10[発見当初は 22 kDa 蛋白質 (P22)
と命名]が分解促進因子として機能することが明らかにさ
れた1), 4).L10 の本機能は,「原核生物には存在しない」
とされていたアンチザイム (真核生物 ODC 分解制御にお けるポリアミン誘導性の調節蛋白質) に類似しているが,
現在までに,他の蛋白質の分解に積極的に関わるようなリ ボソーム蛋白質の機能についての報告はないことから,本 新規蛋白質分解制御機構の解明は,リボソーム蛋白質の新 機能解明にもつながる可能性がある.これまでに本制御機 構および PG 結合型ポリアミンの機能について明らかと なっている事項を,図 1 に概説した.
の LDC/ODC 分解制御機構に関わるプ ロテアーゼについては,細胞質内に存在する ATP 依存性 セリンプロテアーゼであることが明らかにされている
が1), 4),その精製および特性解明には至っていない.本研
究では,生物で初めて見出されたリボソーム構成蛋白質 L10 が分解促進因子として機能する LDC/ODC 分解制御 機構の全容解明を目標に,まず本機構に関わるプロテアー ゼの特性解明を目的とした.
【結果および考察】
1. ATP
依存性セリンプロテアーゼ候補遺伝子の取得 これまで, から本プロテアーゼの精製 を試みてきたが,LDC/ODC 酵素蛋白質の分解を指標と する活性測定方法の煩雑さに加えて,精製過程において非 常に失活しやすい本プロテアーゼの性質から,成功してい なかった.そこで今回は,東北大学大学院農学研究科およ び NITE (独立行政法人製品評価技術基盤機構) との共同 研究によって,2009 年に決定された の全 ゲノム配列 (投稿準備中) を参考にしたアプローチによ り,本プロテアーゼの候補となる ATP 依存性セリンプロ テアーゼ遺伝子を取得することとした.のゲノム上に予測されていた 3,734 の open reading frames (2009 年 11 月時点) の中から,まず ペプチダーゼ候補遺伝子 123 件を抽出し,これらについて