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一酸化窒素還元酵素の結晶 構造と呼吸酵素の分子進化 - J-Stage

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【解説】

一酸化窒素還元酵素の結晶 構造と呼吸酵素の分子進化

日野智也 * 1 ,松本悠史 * 2 ,當舍武彦 * 3 杉本 宏 * 3 ,永野真吾 * 1 ,城 宜嗣 * 3

脱 窒 は,嫌 気 性 微 生 物 の 呼 吸 の 一 種 で あ り,硝 酸 イ オ ン NO3を順次還元し,最終的に窒素N2に変換する生物プロセ スである.その変換過程において中間体として生成される一 酸化窒素NOは,ラジカル分子であり,タンパク質などの生 体物質に損傷を与えるため,微生物はNO生成後速やかに 無毒化する一酸化窒素還元酵素NORを有している.この膜 結合性NORの結晶構造が世界で初めて解かれた.これによ り,微生物によるNO無毒化の反応機構を明らかにし,呼吸 酵素の分子進化を解明できる手がかりが得られた.

はじめに

一酸化窒素NOはラジカル気体分子である.NとOの 結 合 距 離 は1.154 Åで あ り,窒 素 分 子N2 三 重 結 合 の 1.18 Åと酸素分子O2 二重結合の1.06 Åの中間の値を示 す.ラジカル分子であるがゆえに,非常に反応性が高 く,たとえばO2 と反応して容易に二酸化窒素NO2 に,

またスーパーオキサイドO2とも反応してパーオキシナ イ ト ラ イ トONOOに 変 化 す る.NO, NO2とONOO  は,タンパク質,脂質,核酸などの生体物質と反応し,

それらの構造を変化させてしまい,細胞毒性が強いこと が知られている.NOは金属への配位力も強く,金属酵 素の機能を阻害する.その一方で,このような化学的性 質をもつNOを積極的に産生し,また消去するシステム が生体内には存在している(1).本稿では,これらNO産 生系(一酸化窒素合成酵素と亜酸化窒素還元酵素)と NO消去系(一酸化窒素還元酵素)について概観し,特 に,最近になって筆者らが報告した一酸化窒素還元酵素 の結晶構造に関して,呼吸酵素の分子進化との関係で詳 細に解説する.

生体における一酸化窒素の産生

生物には,NO産生系が2つ存在している.一つは,

哺乳動物の血管上皮細胞,白血球,神経細胞に発現して い る 一 酸 化 窒 素 合 成 酵 素 (NOS : Nitric Oxide Syn- thase) である.NOSはヘム(鉄‒ポルフィリン錯体)を 含む酸素添加酵素ドメインとフラビンを含みNADPHが Structures of Bacterial Nitric Oxide Reductases Provide Insights 

into Molecular Evolution in Respiratory Enzymes

Tomoya HINO, Yushi MATSUMOTO, Takehiko TOSHA, Hiroshi  SUGIMOTO, Shingo NAGANO, Yoshitsugu SHIRO, *1鳥取大学大 学院工学研究科,*2九州大学防御医学研究所,*3理化学研究所

(2)

結合する還元酵素ドメインからなっており,2回の酸素 添加反応でアルギニンArg側鎖の窒素原子をNOに変換 している(L-Arg+2O2+4H+3e→シトルリン+NO

+2H2O)(2).NOSが産生したNOはNO受容体である可 溶性グアニル酸シクラーゼ (sGC : soluble Guanylate  Cyclase) のヘム鉄に配位し(3),それに伴ってsGCは GTPをcGMPに変換する.cGMPはセカンドメッセン ジャーとして機能し,結果的に血管の拡張,殺菌,血小 板の凝固阻止,神経伝達(記憶や学習)といった生理反 応が現れる.

もう一つの生体NO産生系は,微生物の嫌気呼吸の一 種である脱窒denitrificationに関係している亜硝酸還元 酵 素 (Nir : Nitrite Reductase)  で あ る.脱 窒 は 硝 酸 NO3 あるいは亜硝酸NO2 を順次還元することにより 窒 素 分 子N2を 生 成 す る 生 理 反 応 (NO3→NO2

→NO→N2O→N2) である.窒素固定により大気より地 表に取り入れられた窒素原子を大気へと還流させる生物 学的反応であり,地球規模での窒素循環において重要な 役割を担っている.脱窒の各ステップは金属含有酵素が 触媒しているが,Nirは細胞質中に存在する水溶性タン パク質であり,Cu含有型(4) とチトクロム 1 (Fe) 型(5) 

の2種類の酵素が知られている.両酵素ともに,NO2  の一電子還元反応 (NO2+2H+e→NO+H2O) を 触媒する.

生体系での一酸化窒素の消去

NOSは生体内で多くの制御を受けて局所的にNOを産 生している.一方のNirの反応は脱窒という生体エネル ギー獲得系と共役しているので,無制御に多量にNOを 産生しており,このようなNOは速やかに消去されない と,先述のように,多くの生体物質と反応してしまい,

結果的に高い細胞毒性を示す.そのために,脱窒微生物 は,NO消去系として一酸化窒素還元酵素 (NOR : Nitric  Oxide Reductase) を有している.脱窒カビ(真核生物)

と脱窒菌(原核生物)の2種類のNORが知られており,

両 酵 素 と も に 同 じ 反 応 (2NO+2H+2e→N2O+ H2O) を触媒する.ただし,その反応機構は異なってい る.脱窒のほかの反応が,N‒O結合を開裂して水分子 H2Oを作る反応であるのに対して,NORの反応はN‒O 結合の開裂と同時にN‒N結合の生成を含んでいる点が 化学的には非常に興味深い.

脱窒カビのNORは水溶性タンパク質であり,カビが,

酸素添加酵素であるチトクロムP450(ヘム鉄を含む酵 素)の遺伝子を水平移動で細菌から獲得し,NORに構

造機能変換したものである(6).一方の,脱窒菌NORは 細胞膜貫通型のタンパク質 (integral membrane pro- tein) であり,ヘム鉄と非ヘム鉄からなる複核錯体を活 性中心としている.脱窒菌NORは,一次構造の比較か ら,酸素を利用した呼吸(好気呼吸)の鍵となる酵素で あ る チ ト ク ロ ム 酸 化 酵 素 (COX : Cytochrome Oxi- dases) と共通の祖先を有していると考えられてきた.

筆者らのグループは,脱窒カビと脱窒菌の両NORの結 晶構造解析に成功し,それらの構造を基盤にNORの酵 素としての化学的性質について議論してきた.以降で,

近年,構造情報を得た脱窒菌NORについて(7, 8),呼吸 酵素の分子進化と関連づけて詳細に述べる.

一酸化窒素還元酵素とチトクロム酸化酵素 細菌には3種類のNORが知られている.チトクロム サブユニットをもつcNOR,ヘム がなくメナキノール を電子供与体とするqNOR,それとヘム の代わりに銅 を有するqCuANORである.先の2つのNORが細菌の NO還元活性の大部分を占めており,cNORは主に脱窒 菌に存在し,qNORは真性細菌と古細菌にも存在し,脱 窒菌のみならず病原菌などの非脱窒菌にも存在する.筆

者らは,  cNOR と 

 qNOR  の結晶構造を得ることに成 功した.その構造の特徴を,COXと比較して示す.

1.  全体構造

cNORはヘム を含むNorCサブユニットと,2つのヘ ム と非ヘム鉄を含むNorBサブユニットからなってい た(図1(c)).NorCサブユニットは,ヘム を含む親水 的な球状ドメインと1本の膜貫通へリックスからなって いた.NorBサブユニットは2つのヘム と非ヘム鉄を 含む12本の膜貫通ヘリックスからなっていた.一方の qNORは1本のペプチド鎖からなっており,cNORの NorCとNorBサブユニットをつなぐヘリックスが1本余 分にある以外は,その全体構造はcNORと類似であった

(図1(d)).両NORの全体構造,特にこの膜貫通の疎水 性へリックス領域を,好気呼吸のA型とB型のCOX

(図1(a)),微好気呼吸のC型COX(図1(b))の構造と 比較してみると(9〜12),非常によく似ていた.これらの 呼吸酵素が進化的に非常に近い関係にあり,「ヘム−銅 酸化酵素スーパーファミリー」を形成することの構造的 な裏づけが得られた(13, 14)

しかし,親水性ドメインは各酵素で特徴的の構造を有 している(cNORに関しては図1(c) の水色の部分).A

(3)

およびB型COXでは,CuA 二核錯体を含む 

β

 シートの 多いキュプレドキシン類似のフォールド(図1(a) の水 色の部分)であるのに対し,C型COXとNORの親水性 ドメイン(図1(b) の水色の部分)は 

α

 へリックスの多 いチトクロム 類似のフォールドをしている.C型COX とcNORはヘム を有しているが,qNORはヘム の替 わりにいくつかの芳香環が存在し,チトクロム フォー ルドの構造安定化に寄与しているようである.このこと は,分子進化における構造変換に関連あるかもしれな い.

2.  活性部位の構造

NORの活性部位は,ヘム と非ヘム鉄からなる二核 鉄の錯体(複核錯体)である(図2.筆者らは,酸化 休止型 (oxidized-resting state) の構造を得たが,この 状態では,ヘム鉄には第五軸配位子としてヒスチジン Hisのイミダゾール基が配位し,第六配位座は非ヘム鉄 と架橋するための酸素原子 (

μ

-oxo) が占めていた(図2

(c)).非ヘム鉄は,この酸素原子に加えて,3つのヒス チジンHisのイミダゾール基と,一つのグルタミン酸 Gluのカルボキシル基が配位した三角形両錐型配位構造 をしていた.両鉄間の距離は3.8 Åであった.これらの 配位アミノ酸,すなわち4つのHisと一つのGluはすべ

ての脱窒菌NORで保存されている.

COXも複核錯体を反応中心として有するが,非ヘム 金属は3つのHisが平面三配位した銅である.配位子の うち一つのHisはチロシンTyrフェニル基と共有結合し ているのもCOXの反応中心の特徴の一つである.ただ し,AおよびB型COXとC型COXでは,このTyrの位 置が異なっているのが興味深い.COXとNORの複核錯 体のこの配位構造の相違が,両呼吸酵素の反応性の違い に対応しているのは明確であるが,「なぜ?」という問 いにはいまだ答えられないのが現状である.

3.  NOR反応の分子機構(作業仮説)

COXによるO2 還元の反応機構はたいへんよく研究さ れてきたのに対して,NORによるNO還元(N2O産生)

の分子機構はいまだ確立していない.COXでは,1分子 のO2 が複核中心で還元されるのに対して,NORには2 分子のNOが何らかの形でこの複核活性部位に配位しな ければならない.以前から,この2分子NO結合型が反 応サイクル内に現れる短寿命反応中間体と考えられ,3 つの推定配位構造(図3)を基盤にした反応機構が提案 されてきた(1).筆者らは,ジチオナイトNa2S2O4 で完全 還元したcNORとNO溶液とを混合した後0.1 〜1秒以内 に液体窒素で凍結し (rapid-freezing),  その反応生成物 図1呼吸酵素の全体構造とヘリックス配置図

(a) B型の好気呼吸酵素 cyt  3 oxidase, (b) C型の微好気呼吸酵素 cyt  3 oxidase, (c) 嫌気呼吸酵素    由来 cNOR, (d) 嫌気呼吸酵素    由来qNOR.酸化還元中心であるヘムを赤で示している.cNORでは,緑が NorB,水色がNorCサブユニットを示している.qNORは一本のペプチド鎖でできている.(c) cNORの水色の部分には,ヘム(赤色)が 存在しているのに対し,(d) qNORの対応する部分にはヘムはない.

(4)

の凍結溶液のESRスペクトルを測定した(15).その結果,

1分子のNOはヘム鉄に結合( g=2.0に窒素の核スピン に由来する3本に分裂したシグナルを観測)し,ほかの 1分子のNOが非ヘム鉄に結合( g=4にシグナル)し たスペクトルを得ることに成功した.この結果は,

-機構(図3(a))を支持しているように思われる.

ただし,NORの活性中心の構造は非常に狭く,2分子の NOが配位する空間的余裕があるのか? は疑問であ り,今後,反応機構を議論するうえで,配位子結合型 NORの構造情報が必須である.

筆者らが作業仮説として提案したNO還元の分子機構 は, -機構を基盤にしており,ヘムおよび非ヘム鉄 のFe2+‒NOは,分子内の電子移動によりFe3+‒NO へ と変化した後,不均化反応によりハイポナイトライト 

ON‒NO を生成,その後,プロトンH の付加により N‒O結合が開裂してN2OとH2Oが生成する(16〜18).しか し,最近,BlombergとSiegbahnは,筆者らの構造を基 盤とした量子化学計算を行い, -heme  3(図3(c))

を反応中間体とする分子機構がエネルギー的に最も可能 性が高いと報告している(19).いずれにせよ,短寿命の 反応中間体の構造情報もより多く蓄積する必要がある.

4.  電子移動経路

触媒反応に必要な電子は,cNORの場合は,水溶性チ トクロム あるいは銅タンパク質であるシュードアズリ ンから,NorCドメインのヘム が電子を受け取り,低 スピン型ヘム を経てヘム鉄/非ヘム鉄複核中心に電子 を流す.一方,qNORの場合は,メナキノールの結合部 位は,その類似体が結合した酵素の結晶構造から決定で きた.これらの酸化還元中心の配置は,チトクロム酸化 酵素と非常によく似ていた.ただし,NORとC型COX のヘム および 3のプロピオン酸にはCa2+ が配位して おり,AとB型COXでは2つのArgの側鎖が同じ部位 に存在し,電子伝達経路の構造を保持しているように見 られる.

5.  プロトン移動経路

呼吸酵素によるプロトン輸送は,生物の「呼吸」の本 質にかかわる問題である.COXによる好気呼吸の特徴 は,O2 還元反応に共役して,細胞内(あるいはミトコ ンドリアマトリクッス)から細胞膜を挟んで,細胞外へ プロトンの能動輸送を行うことである(プロトンポン プ).形成されるプロトンの濃度勾配はATP合成酵素に よるATP合成に用いられる.この際,触媒プロトンと 輸送されるプロトンは,COX内部に存在するKチャネ ル,Dチャネルと呼ばれる水分子ならびにアミノ酸側鎖 図3NOR反応の反応中間体において,推定されているNO

配位構造

(a)  -機構,(b)  ‒FeB機構,(c)  ‒Heme  3 機構の反応中 間体.

図2呼吸酵素の触媒活性中心の構造

(a) B型の 好気呼吸酵素 cyt  3 oxidase. (b) C型の微好気呼吸酵素 cyt  3 oxidase. (c) 嫌気呼吸酵素 cNOR. (d) 嫌気呼吸酵素 qNOR. 

(c) のcNORではヘム鉄 (Heme  3) と非ヘム鉄 (FeB) は,酸素原子を仲立ちにして結合している (μ-oxo). (d) のqNORでは,本来非ヘム 鉄であるべき部位が亜鉛 (ZnB) に置き換わっていた.大腸菌で発現させた酵素の調製中に置換されたと考えられる.

(5)

の水素結合によって形成される経路を通じて,活性中心 を経て細胞外に運ばれるとされている(20).これに対し てNORはプロトンポンプ機能をもたないとされてい る(21)

cNORの結晶構造から,2つのヘムのプロピオン酸残 基の近傍には水分子がクラスターを形成していることが 観測され,この水クラスターと細胞膜のペリプラズム側 の溶媒の水とは水素結合ネットワークにより連結されて いた.分子動力学シミュレーションによれば,この水素 結合ネットワークが,触媒反応時にcNOR活性中心にプ ロトンを輸送する経路である(22).しかし,酵素活性中 心から見て細胞膜のサイトプラズム側のタンパク質構造

は非常に疎水的であった(図4.一方のqNORでは,

ペリプラズム側には水素結合ネットワクークは観測され ず,サイトプラズム側に水分子を多く含むチャネルが観 測された.すなわち,cNORとqNORともに,細胞内外 をつなぐチャネルをもたず,NORがプロトンポンプ活 性をもたないことと一致している.しかし,触媒プロト ンは,cNORはペリプラズム側から,qNORはサイトプ ラズム側から供給されることを示唆している(23).同じ NO還元活性をもちながら,cNORとqNORではプロト ンの供給経路が異なっているのである.cNORの結果 は,以前の生化学的な実験とよく一致していたが,

qNORでは生化学的な実験結果が今までは少なく,今後 図4一酸化窒素還元反応に使われるプロトンの輸送経路

(a) cNORの全体構造を示す.シアン色(チャネル1),マゼンダ色(チャネル2)の部分は,活性中心(赤で示したヘム)と酵素外部ペリ プラズム側をつなぐ水素結合ネットワーク部位.青の点線は,チトクロム酸化酵素のプロトン輸送経路(Kチャネル)が存在部位に対応す る領域.(b) (a) のプロトン輸送経路部分を拡大.チャネル1,チャネル2と疎水性のチャネル(黄色)も示す.(c) qNORのKチャネル部 位.赤丸の水分子が多数存在している.(d) cNORのKチャネル部位.疎水性のアミノ酸のみが存在している.

表1チトクロム酸化酵素と一酸化窒素還元酵素の構造の特徴を比較

好気呼吸 cyt  3 酸化酵素 微 好 気 呼 吸 cyt  3 

酸化酵素 嫌気呼吸 cNOR 嫌気呼吸 qNOR

疎水へリックス構造 ヘリックスの配置は一致

親水ドメイン構造 キュプレドキシン型の

フォールド チトクロム 型の

フォールド チトクロム 型の

フォールド チトクロム 型のフォー ルドだがヘリックスが 1本多い.ヘム は含 まず,替わりに多数の 芳香環が存在

ヘム の有無 CuA ヘム ヘム

酵素活性 O2還元活性 O2還元活性わずかに

NO還元活性 NO還元活性わずかに

O2還元活性 NO還元活性わずかに O2還元活性

活性部位構造 ヘム Fe, CuB ヘム Fe, CuB Tyrの位

置が異なる ヘムFe, FeB ヘムFe, FeB(ZnBの 構造)

Caの有無 2つのArg Ca2+ Ca2+ Ca2+

プロトン輸送チャネル サイトプラズム側から

K-チャネルを通して サイトプラズム側から

K-チャネルを通して ペリプラズム側から サイトプラズム側から K-チャネルを通して

(6)

の研究が待たれる.

COXとの比較で興味深いのは,qNORの水チャネル の位置がCOXのKチャネルの位置と同じであることで あ る.qNORの 水 チ ャ ネ ル を 鋳 型 に し て,COXのK チャネルができあがった可能性も考えられる.qNORは cNORと比べて生化学的な実験が少なく,今までプロト ン供給経路に関して明確な議論はなかったが,今後はよ り詳細な機能解析の必要性を示している.

呼吸酵素の分子進化

以上のように,2つのNORの構造が明らかになった ことにより,呼吸酵素の分子進化を,構造を基盤に議論 できるスタートラインに立てた.特に,親水性ドメイン の構造,Ca2+ 結合,複核錯体の構造(特に非ヘム金属 の配位子),プロトン輸送経路などの構造の詳細な比較 が,重要なポイントであることが明確にできた.しか し,これらのポイントをA 〜 C型COXとcNOR, qNOR と比較すると(表1,単純な経路で進化したとは思わ れない.一方,プロトン輸送経路のみに注目すると,

qNORとcNORが融合してCOXのプロトンチャネルが 形成されたと考えられる.今後は,より詳細なデータを 蓄積することにより酵素反応の分子機構を確立すると同 時に,変異導入によりNORをCOXにできるか? また その逆も可能か? などのテーマにも挑戦できる下地が できた.

おわりに

ここで紹介した化学と進化の分野からの議論だけでは なく,NORは環境科学と医科学の側面からも注目され ている.それは,NOR反応の生成物であるN2Oが,二 酸化炭素CO2 の約300倍の温室効果を示すと同時に,21 世紀にはオゾン層破壊の主原因ガスであり,地球規模で のN2O発生の約7割はNOR反応によるとされているか

らである(24, 25).また,いくつかの病原菌はNORを有し

ており,ホスト中での生き残りのために,マクロファー ジが産生する殺菌ガスNOを無毒化しているからであ る(26).NORに特異的な阻害剤の開発は,これらの分野 にも大きな効果があるであろう.

文献

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(7)

プロフィル

日野 智也(Tomoya HINO)    

<略歴>1997年名古屋大学理学部物理学 科卒業/2003年同大学大学院理学研究科 物質理学専攻博士後期課程修了/同年理 化学研究所播磨研究所協力研究員・基礎 科学特別研究員/2007年科学技術振興機 構ERATO岩田ヒト膜受容体構造プロジェ クト研究員/2011年鳥取大学大学院工学 研究科講師,現在に至る<研究テーマと抱 負>構造生物学によるヒトの温度感知メカ ニズムの解明<趣味>音楽鑑賞

松本 悠史(Yushi MATSUMOTO)  

<略歴>2006年東京工業大学大学院博士 後期課程修了/同年理化学研究所博士研究 員/2009年九州大学生体防御医学研究所 研究員

當舍 武彦(Takehiko TOSHA)    

<略歴>2003年京都大学大学院工学研究 科分子工学専攻博士課程修了,博士(工 学)/同年自然科学研究機構岡崎統合バイ オサイエンスセンター博士研究員/2006 年米国オークランド子供病院研究所博士研 究員/2009年理化学研究所博士研究員/

2010年理化学研究所研究員/2012年より 現職(理化学研究所専任研究員)<研究 テーマと抱負>金属タンパク質の構造機能 相関を原子・電子レベルで理解する<趣 味>テニス・海釣り

杉 本  宏(Hiroshi SUGIMOTO)    

<略歴>1995年北海道大学大理学部高分 子学科卒業/2000年米国コロンビア大学 博士研究員/2001年北海道大学大学院理 学研究科博士後期課程修了/同年理化学研 究所研究員/2004年同研究所専任研究員

<研究テーマと抱負>金属イオンの輸送メ カニズムの構造生物学的解析<趣味>旅行 永野 真吾(Shingo NAGANO)    

<略歴>1996年京都大学大学院工学研究 科分子工学専攻博士後期課程修了/同年 慶應義塾大学医学部助手/2000年日本学 術振興会海外特別研究員/2004年理化学 研究所播磨研究所研究員/2009年鳥取大 学大学院工学研究科教授<研究テーマと抱 負>生理活性物質の生合成酵素の構造生物 学<趣味>写真,釣り

城  宜 嗣(Yoshitsugu SHIRO)    

<略歴>1980年京都大学工学部石油化学 科卒業/1985年同大学大学院工学研究科 石油化学専攻博士後期課程修了/同年日本 学術振興会特別研究員/1987年理化学研 究所研究員/2000年理化学研究所主任研 究員<研究テーマと抱負>生体内の金属元 素の機能や動態を,分子・原子・電子のレ ベルで明らかにしたい<趣味>音楽鑑賞,

スポーツ鑑賞,ジム通い,木工細工

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Waddington) は,このことを元に発生の機構 の視点から「エピジェネティクス」という語を使った. その後,この語は,遺伝子の塩基配列を変えずに遺伝子 発現のパターンが変化することを経て受精卵が特定の細 胞に分化し,分化した後に細胞が分裂しても遺伝子発現 のパターンが継承される機構を説明する語として使われ るようになった.すなわち,世代を越えて受け継がれる

(図11)が示しているようにアミロペクチンが分子内で均等 に枝分れしているならば,X線回折で結晶構造を示す規則正 しい分子配列は得られないのではないか?」というもので あった.Meyerは有機化学的な方法によって α-1, 4グルコシ ド結合と α-1, 6グルコシド結合の比を求めていたが,これは 分子全体の平均的な値と思われた.筆者は基質特異性が明確