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リゾチーム遷移状態アナログの設計に基づく反応機構の検証

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はじめに

ニワトリ卵白リゾチーム(hen egg white lysozyme; 

HEWL)は,1965年Phillipsらによってタンパク質とし ては3番目,酵素としては初めてX線結晶構造解析によ りその立体構造が明らかにされた(1).この発見以降,

HEWLは阻害剤との複合体構造解析などの多くの研究 が行われ,現在ではその反応機構が非常によく理解され て い る 酵 素 の 一 つ で あ る.そ れ に も か か わ ら ず,

HEWLの触媒機構に関しては50年以上もの長きにわた りさまざまな提案がなされ,いまだ議論の対象になって いることは興味深い.一般的に,酵素は基質の化学変化 をもたらすものであるので,酵素と基質の複合体は不安 定であり,それを直接的手段により観測することは困難 である.しかし,酵素の立体構造や反応機構(反応中間 体)に基づいて設計された競争阻害剤は,酵素の基質結 合部位で安定な構造をとることから,今日に至るまで酵 素反応機構を解明する強力な研究ツールとなってい

(2, 3).近年筆者らは,2種類のHEWL遷移状態アナロ

グ阻害剤を分子設計し,これらを用いてHEWL反応機 構について再検証したので紹介する.

リゾチームの特性

糖質加水分解酵素ファミリー 22に分類されるリゾ

チーム(EC 3.2.1.17)は細菌細胞壁多糖を加水分解して 細菌を溶解する(4).細菌の細部壁は,ペプチドグリカン と呼ばれる -アセチルムラミン酸(MurNAc)と -ア セチルグルコサミン(GlcNAc)が交互に重合する多糖 成分からなり,リゾチームはこの細胞壁ペプチドグリカ ンのMurNAcとGlcNAcの間の

β

(1→4)グリコシド結合 を 加 水 分 解 す る(5).ま た リ ゾ チ ー ム は,直 鎖 状 の

β

(1→4)GlcNAc結合ホモポリマーであるキチンをも加 水分解する(6).キチンは,菌界,動物界にわたり広く分 布している.リゾチームはその一次配列上の相同性か ら,ファージ型,グース型,ニワトリ型,細菌型,無脊 椎動物型,植物型の6つに大別される(4).ニワトリ型の リゾチームはCタイプリゾチームとも呼ばれ,ペプチド グリカンとキチンの両方を加水分解するという基質特異 性を有している.

HEWLは129個のアミノ酸残基からなる1本鎖ポリペ プチドで分子内に4つのジスルフィド結合を有してお り,その名のとおりCタイプリゾチームに分類されてい る.分子量は14,300のタンパク質で,分子の大きさは 45×30×30 Åである.HEWLの重要な構造的特徴の一 つが,酵素タンパク質の片面を横切って存在する触媒部 位を含む基質結合クレフトである.

セミナー室

糖質関連酵素の最近の進歩-2

リゾチーム遷移状態アナログの設計に基づく反応機構の検証

尾形 慎 *

1

,碓氷泰市 *

2

,梅本尚之 *

3

,大沼貴之 *

3

,深溝 慶 *

3

, 沼田倫征 *

4

*1福島工業高等専門学校物質工学科,*2静岡大学創造科学技術大学院,*3近畿大学農学部バイオサイエンス学科,*4産業技術総合研究所

(2)

HEWLの触媒機構とその歴史

HEWLのクレフト内に存在する基質結合部位には,

−4から+2と称された6つの糖残基が結合するサブサイ トがあり,Phillipsらは競争阻害剤であるキトトリオー ス[(GlcNAc)3]とHEWLとのX線構造解析で,糖3個 分にあたるA環(非還元末端)からC環(還元末端)が

−4から−2サブサイトに結合することを示した(7).こ の成果により基質の特異的な結合の様子や詳細な機構の 推定が行われるようになった.その後,この複合体構造 に基づき,6つのサブサイトに対して,キトヘキサオー ス[(GlcNAc)6]6糖がすべてのサブサイトを占める生 産性複合体構造のモデリングへと発展した(8).その結 果,結合した6糖単位は,−1と+1サブサイトに結合す るD環とE環の間でグリコシド結合が加水分解されるこ とがわかった(9, 10).一方,天然基質である細胞壁ペプチ ドグリカンがHEWLに結合した場合,MurNAc残基は B, D, F環の位置に結合する.これは,MurNAc残基が,

C3炭素に乳酸基を介して結合しているペプチド側鎖の 立体障害により−4, −2, +1サブサイトに結合できない ためであり,その結果,−1と+1サブサイトにはMur- NAc残 基 とGlcNAc残 基 が そ れ ぞ れ 結 合 し,

MurNAc→GlcNAc間の

β

(1→4)グリコシド結合が選択 的に加水分解される.

HEWLの触媒反応は,グリコシド結合の加水分解つ まりアセタールのヘミアセタールへの変換である.この HEWLの 触 媒 に2つ の 酸 性 ア ミ ノ 酸 残 基 Glu35と Asp52 が触媒基として必須の役割を演じていること が,特異的な試薬を用いてアミノ酸残基を修飾する方法 や部位特異的変異法などによって証明されている(11). Glu35とAsp52両残基はD環とE環の間のグリコシド結 合の両側に位置するように配置されている.また,

Glu35は裂け目の非極性領域にあるため,カルボキシ基

としては高いp a 6.7を示し,高いpH環境下でもプロ トン化されている.これとは対照的にAsp52は,極性 基に囲まれているのでp aは3.4程度の値を示す.この 2つのp a値の中間,pH 5付近でHEWLは最適に働く.

上述に基づく多くの知見から,HEWLに対して主に2 つの反応機構が基質のD環の構造変化を巡り提案され

ている(12〜14).1つ目はPhillips機構と呼ばれ,基質が

HEWLのクレフトにはまり込む際にD環が半イス型に 歪み,その後グリコシド結合開裂によって生じたオキソ カルベニウムイオン中間体がそのまま,Asp52のイオン 化したカルボキシ基によって,静電的に安定化されると する反応機構である(12, 15)(図1A).この場合,−1サブ サイトとD環とを適合させるには,歪み分だけエネル ギーを与えなければならない.この説を実証するため に,1972年Secemskiらは始めから中間体と同じような コ ン フ ォ メ ー シ ョ ン を と る キ ト テ ト ラ オ ー ス

[(GlcNAc)4]の還元末端を酸化した

δ

ラクトン体を競争 阻害剤として実験に用いた(16)(図2.この阻害剤は,

予想したとおりHEWLのA‒B‒C‒D環結合部位にD環 を半イス型にして結合することを当時のX線解析で実 証している.その一方で,基質の歪みはこの触媒能にあ まり関係しないのではないかとするいくつかの検証がな されている.たとえば,ChipmanとSharonは,いくつ かの基質アナログを用いてD環結合部位の結合親和性 を測定した.その結果,

δ

ラクトン体の−1サブサイト への結合はリゾチーム反応が歪みにより約40倍促進さ れるに過ぎず,この程度ではHEWLが無触媒のときの 108倍に及ぶ反応促進を補うには説明できないと彼らは 提唱した(17)

2つ目はKoshland機構と呼ばれ,D環は歪むことなく Asp52のカルボキシ基が脱離基に代わってC1と共有結 合しグリコシルエステル中間体となる.その後,水分子 の求核攻撃を受けて加水分解が完結する(図1B).すな

図1HEWLの触媒機構

HEWLで提唱されている触媒機構を図に示 した.上から,A.  オキソカルベニウムイ オン中間体経由型(Phillips機構),B. グリ コシル酵素共有結合中間体経由型(Kosh- land機構)を示している.

(3)

わち,Phillips機構が静電的に中間体を安定化させるの に対し,Koshland機構は共有結合性のグリコシル酵素 中間体によって安定化されるのである(13).しかしなが ら,長年この基質とHEWLとの共有結合が確認された という報告はなかった.その最大の理由は,共有結合中 間体ができる速さより壊れる速さのほうが大きく,その 寿命は極めて短いためである.2001年にWithersらは,

これらの問題を解決するためにグリコシル酵素中間体の 分解速度を極端に遅くする基質アナログを開発し,

HEWLの反応においてKoshland機構を強く支持する結 果を報告している(14).すなわち,基質グルコースのC2 位 に 電 子 吸 引 性 の フ ッ 素 基 を 導 入 し た フ ッ 化 糖

(GlcNAc-

β

(1→4)-2-デオキシ-2-フルオロ-

β

-D-グルコピラ ノシルフルオリド;NAG2FGlcF)を設計し,HEWLと の中間体形成およびその観察を行った(図2).その結 果,予想したとおりフッ化糖基質はグリコシル酵素中間 体の分解速度を低下させ,エレクトロスプレーイオン化 質量分析において,HEWLに対して合成基質1個分に相 当する分子量の増加が確認された.しかしながら,この NAG2FGlcFをもってしてもX線結晶構造解析を可能に するほど長時間の半減期をもつグリコシル酵素中間体は 得られなかった.そのため,HEWLの活性中心Glu35残 基をGlnに変えた変異体(E35Q)を用いることで,よ うやくグリコシル酵素中間体のX線構造解析に成功し,

−1サブサイトに結合した糖残基のC1原子とAsp52の カルボキシ酸素原子との間に期待した約1.4 Åの共有結 合が観察された.

以上の結果と,これまで蓄積された数々の実験的証拠 を踏まえ,WithersらはHEWLの反応機構はほとんど 矛盾なくKoshland機構によって説明できるとし,現在 では多くの保持型

β

-グリコシダーゼと同様にグリコシル 酵素中間体を経由して起こるという機構がHEWLの反 応機構として広く受け入れられつつある.一方で,長年 論争を繰り広げてきたこのHEWLの反応機構に対して,

一時的に共有結合中間体を経由するということを見事に 実証したWithersらの実験結果にも少なからず議論の余

地があると思われる.それは,NAG2FGlcFという極め て優れた脱離基をもった特殊な基質類似体を使用してい る点であり,実際の基質で同様の共有結合中間体が形成 されるかは定かではない.さらに,構造解析されたグリ コシル酵素中間体は,HEWLの一般酸/塩基触媒とし て作用するGlu35をGlnに変えた変異体(E35Q)を用い たものであり,実際の反応を反映していない可能性もあ る.これまでに,Withersらの報告以外にもリゾチーム のグリコシル酵素中間体に関する研究例はあるが(18, 19), 天然体のHEWLにおいてグリコシル酵素中間体の形成 を示した報告例はない.以降は,PhillipsとKoshlandの 両説が推定したHEWL反応機構に基づいて,近年筆者 らが合成した2種類の新規遷移状態アナログ(GN3Lお よびGN3M)とそれを用いて行ったHEWL反応の機構 検証について述べる.

新 規HEWL遷 移 状 態 ア ナ ロ グ(GN3Lお よ び GN3M)の合成

前述したPhillips機構に基づく遷移状態アナログであ る(GlcNAc)4

δ

ラクトン体は,水溶液中で容易に開環 しアルドン酸体に構造変化するため,必ずしも適切なア ナログとは言えない(16).そこで,新規アナログとして 半イス型様のコンフォメーションをとり,かつ構造の安 定な2-アセトアミド-2,3-ジデオキシジデヒドロ-グルコ ノ-

δ

-ラクトン(L)構造を末端に有する(GlcNAc)4の ラクトン体(GN3L)の合成を試みた(図2).近年,筆 者らはホウ酸存在下中性領域においてGlcNAcを加熱処 理することにより,モルガン‒エルソン法の色素原料と して知られるChromogen Iを含む主に3種類のヘキソフ ラノース誘導体を高収率で得ることに成功している(20). そこで,本法をキチンオリゴ糖に適用することで,還元 末端残基C2とC3を選択的に脱水後,酸化反応により

(GlcNAc)4から実に簡便に目的のGN3Lを合成した(21). また,GN3Lの末端L残基は

α

β

不飽和

δ

ラクトン構造を 有しC1が 2混成軌道で安定な半イス型様コンフォメー ションをもつ.

一方,Koshlandが提唱した遷移状態の新規アナログ として,1-デオキシノジリマイシン(モラノリン;M)

構 造 を 末 端 に 有 す る キ ト ト リ オ シ ル モ ラ ノ リ ン

(GN3M)を分子設計し,その合成を試みた(図2).す なわち,グリコシダーゼの競争阻害剤として知られてい るモラノリンの構造に着目し(22〜24),キチンオリゴ糖末 端のGlcNAc残基をモラノリンに置き換えれば,HEWL に対する遷移状態アナログになるであろうと着想した.

この作業仮説に従い,供与体(GlcNAc)4と受容体モラ

図2HEWLに対する遷移状態アナログおよび基質アナログ阻

害剤

(4)

ノリンを用いてリゾチームの糖転移反応によりGN3Mの 酵素合成を試みたところ,低収率ではあるがワンポット で高位置選択的に目的物質を得ることに成功した(25). 上述したGN3Lとは対照的に,GN3Mの末端M残基はC1 が 3混成であり4 1と呼ばれるイス型コンフォメー ションをとっている.また,GN3Mを合成する際に副生 成物として重合度の異なるGN2MおよびGNMが得ら れ,これら化合物も同様にHEWL阻害剤の構造活性相 関を評価するうえでの対象化合物として利用することが できた.

GN3LGN3MHEWLに対する結合様式

合成した各種酵素阻害剤のHEWLに対する結合能評 価は,50%阻害活性試験,阻害反応速度論解析および等 温滴定カロリメトリー(ITC)を用いた結合親和性解析 により行った.はじめに,各種阻害剤のHEWLに対す る 阻 害 活 性 お よ び 阻 害 様 式 を,50%阻 害 活 性 試 験

(IC50)と阻害反応速度論解析により評価した.IC50は,

酵素と阻害剤の共存下における基質(

菌体細胞壁)の濁度減少を450 nmの吸光度で 測定し,初速度を求めた後,Dixonプロット法にて算出 し た.結 果,GN3LとGN2MがHEWL阻 害 剤 で あ る

(GlcNAc)3と比較してほぼ同等の阻害活性を示したのに 対し,GN3Mは(GlcNAc)3と比較して26倍強い阻害活 性(IC50=0.57 

μ

M)を示した.また,阻害反応速度論解 析は(GlcNAc)5-

β

- NPを基質に用いて,その加水分解 速度を高速液体クロマトグラフィー法により評価した.

その結果,50%阻害活性試験で高い活性を示した3種の 阻害剤(GN3L, GN2M, GN3M)のHEWLに対する阻害 様式はLineweaver‒Burkプロットにてすべて拮抗型を 示した.さらにDixonプロットより阻害定数( i値)を 算出した結果,GN3L(3.51×10−5 M)とGN2M(2.01×

10−5 M)はほぼ同等の,そしてGN3M(1.84×10−6 M)

は最も強くGN2Mの約10倍の活性を示した.さらに,

ITCを用いた熱力学解析により,各種阻害剤とHEWL との結合親和力を求めた.測定はpH 7.0, 25 Cの条件で 行い,予想どおりGN3Mが一番高い結合親和力( d= 760 nM)を示し,これまで報告されているHEWL阻害 剤としても最も強い親和力を示した(25).これまでの研 究で,モラノリン自体が

α

-グルコシダーゼのような特定 のグリコシダーゼの−1サブサイトに強力に結合し反応 を阻害することが知られている(23, 24).しかしながら,

HEWLに対してはモラノリン単独では結合および阻害 活性は全く示さなかった.また,興味深いことにGN3M

とHEWLとの相互作用に伴うギブズ自由エネルギー変 化(∆ )にはpH依存性が確認された.一般にモラノ リン残基のp aは6.3から6.7と報告されている(24, 26). よって,今回の実験条件におけるモラノリン残基の環窒 素原子は正電荷を付与したプロトン化状態にある可能性 が十分に考えられ,これが結合親和性に大きく寄与して いると思われる.また,上述したように末端糖残基が半 イス型様コンフォメーションを取るGN3Lの結合親和力 はGN3Mよ り10倍 程 度 減 少 す る.こ れ ら の 事 実 は,

WarshelとLevittが,リゾチーム反応における基質D環 の遷移状態が安定化されるのは,静電的歪みによるもの であって立体的な歪みによるものではないという報 告(27)や,正電荷を糖ピラノースの環酸素やアノマー炭 素に相当する位置に配置した構造が保持型

β

-グリコシ ダーゼの反応中間体(遷移状態)を模倣した阻害剤にな

(28, 29)という過去の知見とも一致する.以上の結果を

まとめると,GN3MのHEWLに対する強力な結合親和 力は,HEWLの−4から−2サブサイトへの(GlcNAc)3

の安定な結合と,−1サブサイトへの正に荷電した環窒 素原子を有し4 1イス型コンフォメーションをとるモラ ノリン残基の結合とが,協同的に作用することによって 強い結合親和性を導くものと推測できる.

GN3MHEWLとのX線共結晶構造解析

GN3MのHEWLに対する結合をより明らかにするた め共結晶を作製後,Photon FactoryにてX線結晶構造 解析を行った.その結果,HEWLとGN3Mとの共結晶 の構造を1.2 Åの分解能で決定した.筆者らが予想した とおりHEWLの−4から−1サブサイトにはGN3Mに由 来する電子密度マップがはっきりと確認された(図 3A).GN3Mの 構 造 中 に 含 ま れ る(GlcNAc)3部 分 は,

これまでに報告されているHEWLに対する(GlcNAc)3

の結合位置−4から−2サブサイトと完全に一致した

(図3B).さらに,活性中心に位置するモラノリン残基 のコンフォメーションは4 1のイス型であり,その構造 はWithersら が 報 告 し た 不 活 性 型HEWL(E35Q) と NAG2FGlcFとの共有結合中間体構造と極めて高い類似 性を示した(図3C).特にC4, C5, C6, 環窒素(環酸素)

の4つの原子に関してはX線結晶構造が完全に一致し た(25).一般的に(GlcNAc)3や(GlcNAc)4は−1サブサ イトとのコンタクトを回避し,−4から−2サブサイト に結合することが知られている(30).これは,−1サブサ イトに対する基質の結合には,複合体形成にとって不利 な正の結合自由エネルギーが生じるためである(18).こ

(5)

のような観点からも,今回末端糖残基に選択したモラノ リン残基が−1サブサイトに対して強い親和性を有して いることがわかる.実際に,モラノリン残基の環窒素原 子には活性中心のAsp52を含む複数のアミノ酸残基と の水素結合の形成が確認された(図3B).

長い間HEWLの触媒機構は,リゾチームの構造や非

酵素的なアセタールの分解機構,さらには(GlcNAc)4

δ

ラクトン体を用いた相互作用解析などを実験的根拠 とすることで,遊離のオキソカルベニウムイオンが活性 中心においてそのまま静電的に安定化されているとする Phillips機構で進行すると考えられてきた.しかしなが ら,Withersらの報告によって状況は一変し,今日では HEWLの触媒機構は多くの保持型

β

-グリコシダーゼと 同様に共有結合中間体を経由して起こるというKosh- land機構が広く受け入れられつつある.しかしながら,

天然型HEWLのグリコシル酵素中間体の形成に関する 報告はこれまで存在しなかった.今回筆者らが合成した GN3Mは天然型のHEWLの活性中心に関するX線共結 晶構造解析を初めて可能にした遷移状態アナログであ り,共有結合中間体形成の新たな実証例を示したことに なる.

おわりに

グリコシダーゼに対する低分子阻害剤の開発は,酵素 の反応機構や立体構造の研究に役立つばかりではなく,

生理機能や病態現象の解明にも役立つと期待される.ま た,その薬理的な作用を利用することで糖尿病の治療薬 をはじめ,抗ウイルス活性など医薬として臨床的な使用 が期待されている.よって,酵素の基質結合部位の構造 と触媒機構に着目した本HEWL遷移状態アナログの設 計原理は,サブサイト構造を有する種々の保持型グリコ シダーゼに対して適用可能であり,今後のさらなる展開 が期待される.

文献

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図3HEWL‒GN3M複合体のX線結晶構造

HEWLとGN3Mとの複合体におけるX線結晶構造解析結果を図に 示した.上から,A. HEWLに結合したGN3Mのシミュレーテッド アニーリングオミットマップ,B. HEWLとGN3Mの結合様式,C. 

天然型HEWL(黄)とGN3M(シアン)および不活性型HEWL

(E35Q; 緑)とNAG2FGlcF(青)の重ね合わせを示している.

(6)

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プロフィル

尾 形  慎(Makoto OGATA)

<略歴>2003年玉川大学農学部農芸化学 科卒業/2005年静岡大学大学院農学研究 科修士課程修了/2008年岐阜大学大学院 連合農学研究科博士課程修了/同年静岡大 学農学部博士研究員/2010年同大学創造 技術大学院特任助教/2012年福島工業高 等専門学校物質工学科助教,現在に至る

<研究テーマと抱負>糖質や糖鎖にかかわ る ものづくり を通して,生化学的現象 の解明を目指しています<趣味>散歩,ド ライブ(助手席)

碓氷 泰市(Taichi USUI)

<略歴>1970年東北大学農学部食糧化学 科卒業/1975年同大学大学院博士課程修 了/同年オハイオ州立大学化学科博士研究 員/1977年静岡大学農学部助手,助教授 を 経 て1989年 同 教 授/2005年 同 農 学 部 長/2010年同大学理事(副学長),現在に 至る<研究テーマと抱負>糖質・糖鎖の分 子認識機序の解明に基づく生物機能素材の 創出に関する研究<趣味>歴史探索(旅 行),スポーツ観戦

梅本 尚之(Naoyuki UMEMOTO)

<略歴>2010年近畿大学農学部バイオサ イエンス学科卒業/2012年同大学大学院 農学研究科バイオサイエンス専攻修士課程 終了/現在,同大学大学院農学研究科バイ オサイエンス専攻博士課程3年在籍<研究 テーマと抱負>顕著な糖転移活性をもつソ テツ由来キチナーゼのX線結晶構造解析

<趣味>美味しいお酒を探すこと 大沼 貴之(Takayuki OHNUMA)

<略歴>2002年九州大学大学院生物資源 環境科学研究科遺伝子資源工学専攻博士課 程修了/同年イリノイ大学獣医学部博士研 究員/2003年カリフォルニア大学バーク レー校/米国農務省Plant Gene Expres- sion Center博士研究員/2006年農業生物 資源研究所植物・微生物間相互作用研究ユ ニット特別研究員/2008年近畿大学農学 部バイオサイエンス学科助教/2012年同 大学農学部バイオサイエンス学科講師<研 究テーマと抱負>糖質関連酵素,タンパク 質の構造と機能および利用.特にキチン質 の分解,修飾,合成にかかわる酵素や,植 物の生体防御関連のタンパク質に興味を もっている<趣味>海外旅行,読書 深 溝  慶(Tamo FUKAMIZO)

<略歴>1977年九州大学農学部農芸化学 科卒業/1983年同大学大学院農学研究科 博 士 後 期 修 了/1985年 近 畿 大 学 助 手/

1992年同大学助教授/1999年同大学教授

<研究テーマと抱負>キチンキトサン加水 分解酵素および関連タンパク質の構造と機 能<趣味>野山の散策

沼田 倫征(Tomoyuki NUMATA)

<略歴>2003年九州大学大学院生物資源 環境科学府博士課程修了/同年日本学術振 興会特別研究員PD/2004年東京工業大学 大学院生命理工学研究科博士研究員/2005

〜2006年同研究科特任助手/2006〜2009 年科学技術振興機構さきがけ研究員/2007 年産業技術総合研究所生物機能工学研究部 門研究員/2010年同研究所バイオメディ カル研究部門研究員/2012年同主任研究 員,現在に至る<研究テーマと抱負>生体 高 分 子 複 合 体 の 構 造 機 能 解 析.特 に,

RNAがかかわる基礎生命科学研究に興味 をもっており,RNAとタンパク質からな る分子装置の作動原理を明らかにしていき たい<趣味>ドライブ,音楽鑑賞 Copyright © 2014 公益社団法人日本農芸化学会

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中を動きにくくなることによる.植物は低リン条件に置 かれると,いくつかの戦略を用いてこれらの難利用性リ ンを可給化(吸収可能な形に変えること)する.その分 子機構を図1に示した.土壌中で無機化合物,有機化合 物にかかわらずリン酸はアルミニウム,カルシウム,鉄 などの金属イオンと結合して難溶性となりやすいが,こ れを可溶化するために根から有機酸トランスポーターを