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細胞核の構造とエピジェネティック制御 - J-Stage

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【解説】

細胞が環境に対応して生命活動を維持するため,また個体が 発生分化するためには,DNAに刻まれた遺伝情報を時間的・

空間的に適切に選択して発現させることや,ゲノムを安定に 維持することが必須である.このようなゲノム機能に中心的 な役割を果たすエピジェネティック制御に,細胞核の構造形 成や,核構造とクロマチンとの相互作用が関与することが明 ら か に な っ て き た.細 胞 核 の 構 造 に 基 づ い た エ ピ ジ ェ ネ ティック制御機構の理解は,遺伝子発現やDNA修復の制御 機 構 の 解 明 に と ど ま ら ず,発 生・老 化 な ど の 高 次 生 命 機 能 や,がんなどの疾病や再生医療においても新規かつ重要な知 見をもたらすことが期待される.

細胞核(以下,核と略称)において,遺伝情報が刻ま れたDNAはヒストンと結合してクロマチンを形成し,

クロマチン構造の変換により遺伝子発現のエピジェネ ティック制御が行なわれる.また,DNAの複製や修復 にも,クロマチン構造変換が重要な役割を果たすことも 知られている.核内でのクロマチンの存在形態に注目す ると,クロマチンは特定の領域での核の構造に結合して おり,この核構造とクロマチンの相互作用もエピジェネ

ティック制御に重要な役割を果たしている.その制御メ カニズムの理解は,核構造やその分子構築の多様性も原 因して遅れていたが,最近の細胞イメージング技術やク ロマチン免疫沈降法などの手法を適用することによっ て,エピジェネティック制御における核構造の重要性が 次々に明らかにされている.

細胞核の構造と機能(図1 1.  核膜

核膜は核の範囲を規定してすべての核構造を内包する 構造体であり,核を細胞質と隔てる脂質膜を基本として いる.細胞膜とは異なり,核膜は外膜と内膜の二重の脂 質膜によって構成されている.細胞のがん化に伴う核の 形状やサイズの変化が古くから知られており,病理学的 にもがん診断の一つの指標として用いられている(1).ま た,このような核形態と細胞機能との関連性は,エピ ジェネティック制御における核構造の重要な役割を示し ている.

内外の核膜は筒状の高分子複合体である核膜孔複合体 

(nuclear pore complex ; NPC) によって貫かれており,

細胞核の構造とエピジェネティック制御

尾間由佳子,原田昌彦

Organization of the Cell Nucleus Required for Epigenetic Regula- tion

Yukako OMA, Masahiko HARATA, 東北大学大学院農学研究科

(2)

核と細胞質間の分子の移動はNPCを通じて行なわれて いる.NPCについては,次項で詳しく述べる.また,

核膜には多くのタンパク質が結合しており,これらは核 膜タンパク質と呼ばれる.代表的な核膜タンパク質とし て,SUN (Sad1-UNC-84 homology) ドメインタンパク 質が挙げられる(2).核膜内膜を貫通したSUNドメイン タンパク質はクロマチンに結合し,さらに核膜外膜を貫 通した KASH (Klarsicht, ANC-1, and Syne homology) 

タンパク質と結合している.KASHタンパク質は細胞 質のアクチンフィラメントやチューブリンフィラメント と結合しており,SUN-KASHタンパク質によって細胞 質の骨格構造とクロマチンとの間接的な相互作用が形成 される.この機構により細胞質の機械的な力が核・クロ マチンにも作用しており,これが核内での染色体配置・

ダイナミクスやゲノム機能に影響を及ぼしている(2)

2.  核膜孔複合体 NPC

NPCは,約30種類のタンパク質からなる120 MDaに 及ぶ巨大な複合体で,その構造は進化的に保存されてい る.分子量およそ40 kDa以下の分子については拡散的 にNPCを通り抜けて核‒細胞質間を移動することができ るが,それ以上の分子量の分子については,能動的に核 への移行あるいは核からの排出が行なわれている.この ように能動的に輸送される分子にはRNA,タンパク質 が含まれる.後述するように,NPCは物質輸送を介し て転写などのゲノム機能制御に関与するほか,NPCが 直接クロマチンに結合することによっても遺伝子発現や DNA修復を制御している.

3.  クロマチン

核膜に囲まれた核内部には長大なDNAが納められて

おり,DNAはヒストンなどのタンパク質とともにクロ マチンを形成している.クロマチンは特定の領域で核膜 タンパク質やNPCと結合している.出芽酵母では,核 膜やNPCに結合していないゲノム領域が,核内でダイ ナミックに移動しながらランダムに存在していることが 示されている.しかし,脊椎動物など,ゲノムサイズが 大きい細胞の核では,個々の染色体DNAが占める核内 の領域は限られ,空間的に固有の領域を占めていること が観察されている(3).このような個々の染色体DNAが 核内で占める領域は染色体テリトリー (chromosome  territory ; CT) と呼ばれている.CTをさらに詳しく観 察すると,遺伝子密度が高い染色体は核内の中心領域 に,反対に遺伝子密度が低い染色体が核の周辺部に配置 されていることが観察され,これはCTの放射状配置と 呼ばれる.しかし,このようなCTの放射状配置は固定 されたものではなく,たとえば細胞を血清飢餓の条件に 置くとCTの放射状配置に変化が観察される(4).また,

がん細胞ではCTの放射状配置が異常になっていること も観察され,この現象をがん組織の診断に適応できる可 能性も示唆されている(5).これらの観察結果から,CT の放射状配置は,環境対応や細胞機能維持に必要なエピ ジェネティック制御に関与していると考えられている.

4.  ヘテロクロマチン

ヘテロクロマチンは,CT内で特に遺伝子発現が強く 抑制されているクロマチン領域であり,DNA染色に よって核内で濃染される領域として観察される.ヘテロ クロマチンのヌクレオソームはDNA高メチル化,ヒス トンH3の9番目リジンの高メチル化などの特徴を有し,

また HP1 (heterochromatin protein 1) などのタンパク 質の集積が観察される.体細胞に比べ,多分化能を有す

図1脊椎動物の核の構造

それぞれの染色体DNAは,核内に不 連続な染色体テリトリーを形成して 収納されている(薄コバルト色).ク ロマチンの大部分は染色体テリト リー内部に含まれているが,一部の クロマチンファイバーはクロマチン 間領域にループ状に突出し,転写 ファクトリー,ポリコームボディー,

核膜孔複合体,核小体,SUN-KASH タンパク質などと相互作用している

(太線).このようなクロマチンの核 内空間配置は,協調的な転写制御や DNA損傷修復におけるエピジェネ ティック制御に関与している.

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るES細胞では上記のヘテロクロマチンの特徴は明瞭に 観察されず,一方で老化細胞では核内のヘテロクロマチ ンの増加が観察され,これは SAHF (senescence-asso- ciated heterochromatic foci) と呼ばれる(6).このこと は,核内のヘテロクロマチン形成が,発生・分化や老化 に関与する遺伝子群の時間的な制御にも関与することを 示している.

5.  クロマチン間領域

核内でCTが存在しない領域は,クロマチン間領域 

(interchromosomal compartment ; IC) と呼ばれる.IC では,核内のタンパク質やRNAが比較的自由に移動す ることができ,後述する核ドメインや核骨格は主にIC に存在する.また,転写活性化されたDNA領域がCT からICにループ状に突出して,他のいくつかの遺伝子 とともにICの特定空間領域に集合していることも観察 されている.このような領域には転写関連タンパク質が 核構造に結合して集積しており,たとえばRNAポリメ ラーゼIIは他の核内領域に比べて約1,000倍濃縮されて いる(7).この領域は転写ファクトリーと呼ばれ,転写関 連因子の効率的な利用や,遺伝子群の協調的な発現に寄 与している.これとは反対に,ポリコームボディーは複 数の遺伝子の協調的な抑制に関与している(3)

6.  核ドメイン

クロマチン間領域には,多様な核内構造体が存在して いる.細胞質内の構造体であるゴルジ体やミトコンドリ アとは異なり,これらの構造体は膜構造を伴っていな い.したがって,このような核内構造体は,タンパク質 や核酸のダイナミックな集合と離散によって形成および 解消されていると考えられている.一般的に,顕微鏡下 で最も顕著に観察される核内構造体は核小体であり,核 小体はリボソームRNAの転写およびリボソーム構築の 場として重要であるばかりでなく,細胞のエネルギー環 境やストレス対応にも重要な構造体である(8).哺乳類の 場合,核小体には複数のCTから突出したrRNA遺伝子 群がRNAポリメラーゼIなどとともに集合している.

核小体の周辺部ではRNAポリメラーゼIIによる転写は 抑制されている一方で,tRNA転写を行なうRNAポリ メラーゼIIIの集積が観察され,このような構造が細胞 の増殖環境に対応したrRNA, tRNAの協調的な転写制 御に寄与している可能性がある(3).その他にも,様々な 核内構造体が存在しており,代表的なものとして,

RNAプロセシングの場として機能する核スペックル,

転 写 制 御 やDNA修 復 に 関 与 す るPMLボ デ ィ ー,

snRNPの生合成に関わるCajal(カハール)ボディーな どが挙げられる.

7.  核骨格

核内にはクロマチンや核ドメインが高度な規則性を もって配置されており,またこれらが方向性をもった移 動をすることも観察されている.これらのことから,核 内での骨格構造の存在が示唆されている.しかし,細胞 質で観察される安定な骨格構造 (cytoskeleton) は核内 では観察されておらず,よりダイナミックな分子集合体 としての核内構造が予想されているが,その実体には不 明な部分が多く残されている.核内の構造体を表わす言 葉として用いられてきた「核マトリックス」は, 界面 活性剤などを用いて生化学的に核を処理した後に残る不 溶性の画分 として定義される.しかし,処理の方法に よって構成因子(タンパク質,RNAなど)が一定では ないなどの理由で,その分子構築や機能についてはいま だ明確にはされていない.

一方,Wilsonらによって最近提唱された「nucleoskel- eton(核骨格)」の定義では,核内の構造タンパク質群 とそのファミリー,およびこれらと結合するタンパク質 全体を核骨格として捉えている(9).この定義による核骨 格においては,ラミンに代表される中間径フィラメン ト,アクチンファミリー,スペクトリンなどのアクチン 結合タンパク質,ミオシンやキネシンなどのモータータ ンパク質,特徴的な分子集合体を形成するNuMA (nu- clear mitotic apparatus) などが核骨格形成に中心的な 役割を果たす.これらのタンパク質の機能的・機械的特 性,分子間相互作用のダイナミクス,クロマチンや RNAとの相互作用などによってダイナミックな核骨格 が形成されているという考え方は,以下に紹介するよう な最近の観察結果と一致する部分が多い(9)

核構造によるエピジェネティック制御の機構 以上で述べたように,核の構造と様々な生命機能・現 象との関連が観察されている.以降では,核構造がどの ような機構でエピジェネティック制御に関与するかを中 心に,最近の研究の進展について紹介する.

1.  核膜孔複合体 NPC

1  転写制御への関与

NPCは核‒細胞質間のタンパク質輸送を担うととも に,核膜上の最も顕著な構造体の一つでもある.このよ うな特徴によって,NPCはタンパク質輸送に依存した

(4)

機構と依存しない機構の両方で,エピジェネティック制 御に寄与している.前者の例として,神経細胞分化に際 して特異的なタンパク質輸送因子(インポーチン)が発 現し,このインポーチンによって神経細胞分化に必要な 一群の転写因子が核内に輸送されることで分化が進行す ることが挙げられる(10).一方,後者の例としては,

NPCがクロマチンと結合することで,クロマチンの構 造や機能に影響を与えることが示されている.出芽酵母 において,NPCに結合するゲノム領域を網羅的にChIP- chip法(クロマチン免疫沈降とジーンアレイチップを組 み合わせた方法)によって解析したところ,発現量が多 い 遺 伝 子 がNPCと 結 合 し て い る こ と が 示 さ れ て い る(11).また,出芽酵母のリボソームタンパク質遺伝子 が核膜孔複合体に結合しており,この相互作用が遺伝子 発現制御に関与することも見いだされている(12).さら に,ショウジョウバエやヒトでもNPCが転写活性機能 ドメインの形成に関わることが報告されている.このよ うなNPCによるエピジェネティック制御のメカニズム として,NPCにヒストンアセチル化複合体などが結合 して転写ドメインが形成されることや,NPCを足場と して遺伝子のループ構造が形成されることが寄与してい ると考えられている(図2-A)(13)

2  DNA損傷修復への関与

DNAは常に様々な損傷を受けており,それが適切に 修復されないと遺伝情報が正確に維持できず,がんなど の発症にもつながる.DNA損傷の中でもDNA二重鎖

切断 (DNA double strand break ; DSB) は重篤な損傷 である.最近,出芽酵母を用いて,DSBとNPCとの相 互作用がDNA損傷修復に関与することが示された(14). 出芽酵母のゲノム上の一個所を特異的なエンドヌクレ アーゼの発現を誘導することによって切断し,この DSBの核内配置を生細胞中で観察したところ,DSBの 核膜近傍への移動が観察された.さらに,クロマチン免 疫沈降法によって,NPCがDSBと結合することが示さ れた.このようなDSBの核膜近傍への配置の意義とし ては,NPCに結合したユビキチン化酵素がDSB周辺の タンパク質の分解を誘導することでDNA修復のプロセ スを促進することや,DSBをNPCに結合させることで 他のゲノム領域から空間的に隔離し,間違った組換えを 抑制するために機能することが示唆されている(図 2-B).

2.  核膜タンパク質

出芽酵母のSUNドメインタンパク質Mps3はクロマ チンに結合し,クロマチンを核膜近傍に配置する.テロ メアはMps3によって核膜近傍に配置される.この配置 によってテロメアの不必要な組換えが抑制されてテロメ アの構造が保たれ,細胞の老化が抑制されている(15). またNPCと同様に,Mps3はDSBにも結合することが 示されており,これはDSB修復のプロセスの進行に寄 与していると考えられている(16)

図2核膜孔複合体とクロマチンの結合によるエピジェネティック制御

クロマチンファイバーと核膜孔複合体の結合による遺伝子発現の制御 (A) およびDNA二重鎖切断修復 (B) の模式図.遺伝子発現におい ては,SAGA (Spt-Ada-Gcu5-acetyltransferase) 複合体によるヒストンアセチル化や遺伝子のループ形成がその制御に関与する.DNA修 復においては,SUMO依存性ユビキチン化酵素であるSlx5/8が,DNA損傷部位周辺に結合したタンパク質分解を促進することに加え,損 傷DNAを他のゲノムDNAから隔離することによって不必要な組換えを抑制する.

(5)

3.  核骨格

1  ラミン(中間径フィラメント)

ラミンは線虫・昆虫・脊椎動物などに広く存在するタ ンパク質であり,タイプAとBの2種類が存在する.ラ ミンは重合することで核膜内膜の内側で網目状構造を形 成し,さらに多くのタンパク質と結合することで核ラミ ナを形成している(図1).核ラミナはクロマチンの特 定領域と相互作用し,この相互作用によるクロマチンの 核周辺部への配置は転写の抑制に関与している.発生の 過程でクロマチンと核ラミナとの相互作用はダイナミッ クに変化しており,また多分化能をもつES細胞にはラ ミンAが存在しないことも知られている(9).これらの 観察結果は,核ラミナとクロマチンとの相互作用が,細 胞の多能性維持や分化に深く関与することを示してい る.また,核ラミナタンパク質の変異によってひき起こ される疾病が20以上も知られており,これらには筋ジ ス ト ロ フ ィ ー Emery-Dreifuss muscular dystrophy 

(EDMD) や,早老症として知られるHutchinson-Gilford  progeria syndrome (HGPS) が含まれる.これら患者の 細胞では核の形態異常も観察され,核ラミナとクロマチ ンとの相互作用や核構造の維持が高次生命機能発現に重 要な役割を果たすことを示している(9)

2  アクチンファミリー

長い間,アクチンファミリーは,骨格筋アクチンや細 胞質アクチンなどのアクチンアイソフォームだけで構成 されていると考えられていた.しかし1990年代の半ば にアクチンに30 〜70%程度の配列相同性を有する一群 のアクチン関連タンパク質 (actin-related protein ; Arp) 

の存在が示され,これによりアクチンとArpによって アクチンファミリーが構成されることが明らかとなった

(図3(17, 18).Arpはアクチンとの配列の相同性に基づい

てArp1からArp10のサブファミリーに分類されてお り,それぞれのサブファミリーの構造的な特徴や機能は 進化的に保存されている.Arpサブファミリーのうち,

Arp4 〜 9は核に集積して存在しており,これらは核内 Arpと呼ばれる(19).アクチンファミリーのメンバーの およそ半数が核に局在していることは,核機能における このファミリーの役割の重要性をうかがわせる.

a  アクチン

核内にも一定量のアクチンが存在しているが,細胞質 とは異なり,体細胞の核内ではアクチンフィラメントは 観察されない.核内アクチンの代表的な機能として,ク ロマチンリモデリング複合体やヒストン修飾複合体など のクロマチンリモデラーの構成因子となり,クロマチン 機能構造形成に関与することが知られている.また,ア クチンがRNAポリメラーゼなどの転写因子と相互作用 することも報告されている(20)

卵母細胞や卵細胞の核にはアクチンが多量に含まれて いる.たとえば,ツメガエルの卵母細胞の核では総タン パク質の6%を占めており,核内にアクチンフィラメン トも観察される.卵母細胞の巨大な核(卵核胞)内に体 細胞の核を移植すると遺伝子のリプログラミングが起こ り体細胞核が多能性を獲得するが,Miyamoto, Gurdon らによって,核内でのアクチンフィラメント形成がこの リプログラミングに必要であることが示された(21).従 来は,核と細胞質のアクチンを区別して解析することが 困難であったが,Miyamotoらは,ミネラルオイル中に 単離した卵母細胞核を解析することで,この問題を解決 した.この解析によって,転写因子との相互作用による アクチンフィラメントのクロマチンへの結合が転写制御 に関与することが示唆された(21).遺伝子のリプログラ ミング機構は,iPS細胞やES細胞の多分化能の理解や

図3アクチンとArpの立体構造 Protein Data Bankの構造情報を可視 化して示した.Fennら(24)によって 決定された出芽酵母の核内Arpであ るArp4の構造(右)を,アクチンの 構造と比較している.ATP結合部位 を矢印で示した.

(6)

再生医療への応用に必要であり,この機構への核骨格の 関与の解明が待たれる.

b  アクチン関連タンパク質 Arp

アクチンと同様に,核内Arpは多くのクロマチンリ モデラーの構成因子となっている(18).核内Arpはこれ らの複合体の構成因子として,転写制御に加えて,ゲノ ム安定性維持にも関与している(22).出芽酵母Arp4の生 化学的解析およびX線結晶構造解析により,核内Arp がATP結合能を有すること,ATP結合状態によりタン パ ク 質 間 相 互 作 用 が 変 化 す る こ と が 示 さ れ た(図 3)(23, 24).以上は核内Arpとアクチンに共通な性質であ るが,核内Arpはさらにヒストンに結合する性質も有 する(18, 25).この2つの性質に基づき,Arpがクロマチン リモデラーの機能制御に関与するモデルが提唱されてい る(図4(23, 26).このモデルでは,Arpはアクチンとと もにクロマチンリモデリング複合体のターゲッティング サブコンプレックスを形成するが,ATPが結合した状 態ではこのサブコンプレックスは解離している.ATP が解離した状態(あるいはADPが結合した状態)でこ のサブコンプレックスが形成され,Arpのヒストン結合 能によってクロマチンリモデリング複合体がクロマチン に結合する.すなわち,ArpおよびアクチンがATP結 合状態に応じたクロマチン構造変換の分子スイッチとし て機能している.

一方,クロマチンリモデラーに含まれないアクチンが 遺伝子リプログラミングに必要であったように,核内 Arpにもクロマチンリモデラー非依存的な機能が存在す る.たとえば,クロマチンリモデリング複合体に含まれ

ていない出芽酵母Arp6が遺伝子をNPCと相互作用させ ることで核周辺部に配置し,遺伝子発現の制御に関わる ことが示されている(12)

3  ミオシンファミリー

モータータンパク質の一つであるミオシンには多くの ファミリー分子が存在している.このうち,これまでに MYO1C, MYO5A, MYO5B, MYO6, MYO16Bが核内で 転写制御やDNA修復に関与することが報告されてい る(9).これらのミオシンファミリーのうちMYO1Cが最 も広く研究されている.特に 遺伝子のオルタナ ティブスプライシングによって16アミノ酸がアミノ末 端に付加されたアイソフォームは核に集積することが報 告されており,このアイソフォームはnuclear myosin 1 

(NM1) と呼ばれる.NM1は,核膜近傍や核小体に多く 存在している(27).NM1はアクチン,すべてのRNAポ リメラーゼ (I, II, III) やクロマチンリモデリング複合体 などと相互作用し,遺伝子発現制御に関与することが示 されている.さらにNM1の重要な機能として,核内で の遺伝子の空間配置を制御している可能性が示されてい る.Belmontらは,発現誘導可能な遺伝子を含むゲノム 領域をGFPで可視化してその挙動を生細胞中で観察し,

転写活性化に伴って遺伝子が核周辺部から中心部へ移動 することを示した(28).この移動には,NM1のモーター ドメインとアクチンが必要であった.また,細胞を血清 飢餓条件にすることで,核内の染色体テリトリー (CT) 

の放射状配置が変化するが,その変化にもNM1が必要 であった(4).これらの結果から,遺伝子の発現制御に必 要な核内での遺伝子の移動には,アクチンによって活性

図4核内Arpの機能モデル

クロマチンリモデリング複合体の酵素サブコンプレックスが常に安定である一方,アクチンおよびArpはATPを結合した状態ではこの複 合体から解離している.これらのアクチンサブファミリーがATP結合を失うと(あるいはADP結合状態になると),ターゲッティングサ ブコンプレックスを形成して酵素サブコンプレックスに結合し,さらにArpのヒストン結合能を介してクロマチンに結合する.これによ り核内のアクチンファミリーは,ATP結合状態に応じたクロマチン構造変換の分子スイッチとして機能する.KastとDominguezによって 提唱されたモデル(26)を,筆者らの報告(23)と合わせて一部改変した.

(7)

化されるNM1のモーター機能が関与していると考えら れている.

ゲノム上に二次元に構築されるクロマチン構造に加 え,核構造と結びついたゲノムの三次元空間配置もエピ ジェネティック制御に重要な役割を果たすことが次々に 明らかにされている.発生・分化・老化や,がんや早老 症などの疾病に関連した核の形態や構造変化も観察され ていることからも,これらの高次生命機能の理解や,再 生医療などへのエピジェネティックの応用には核の機能 構造の解明が必須であり,今後の研究の進展が期待され る.

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