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キノコの不凍タンパク質の分子構造と不凍機能のメカニズム

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10 化学と生物 Vol. 52, No. 1, 2014

キノコの不凍タンパク質の分子構造と不凍機能のメカニズム

氷結晶と強く結合する新しい分子構造

氷は水溶液のなかにできた小さな氷結晶に水の分子が 次々と付着することによって成長する.氷結晶は成長し ながら集合し,やがて氷塊となる.この凍結のプロセス において,水以外の溶質は氷から排除され非凍結の部分 に濃縮されていく.この現象は凍結濃縮と呼ばれ,凍結 によって水を含む物質の構造が不可逆的に破壊される原 因の一つである.また,氷塊内の氷結晶の粒は時間の経 過とともに徐々に大きくなっていく.これは氷の再結晶 化と呼ばれ,凍結濃縮と同様に凍結物の劣化を引き起こ す.

不凍タンパク質は寒冷地に生息している魚類や昆虫,

植物,細菌などから見いだされている,氷結晶の表面に 特異的に結合するタンパク質である.不凍タンパク質が 氷結晶に結合することによって,水の分子が氷結晶へ付 着することが抑制される.そのため,氷結晶の自由な成 長が阻害され,通常とは異なる形状となって成長する.

また,氷が成長し始める温度(凝固点)が低下し,氷が 融け始める温度(融点)との間に温度差が生じるように なる.これは熱ヒステリシス現象と呼ばれ,塩類などを 水に添加した際に起こる凝固点降下とは異なる現象であ る.また,不凍タンパク質の存在下では,氷結晶の粒径 が通常よりも小さく保持され,凍結濃縮や再結晶化が抑 制される.これらの不凍タンパク質の性質は,体液や組 織の凍結による損傷を低減することによって生物の耐凍 性を向上させていると考えられている.また,産業分野 においても,一般的な方法では冷凍保存が困難な食品な どを高品質に冷凍保存することができる新たな技術とし て応用できると考えられている.米国では魚類由来不凍 タンパク質を添加したアイスクリームが市販されてお り,国内では不凍タンパク質を含むカイワレダイコン抽 出液が冷凍食品への添加用として開発されている.

これまでに,アミノ酸配列,分子量,立体構造が異な る数多くの種類の不凍タンパク質が知られている.それ ぞれの不凍タンパク質の氷結晶に結合する部位の立体構 造,結合する氷の結晶面の種類や不凍活性の強弱などに 関しても幅広いバリエーションがある.これらのことか ら,それぞれの不凍タンパク質は氷結晶に結合するとい う共通した性質をもつように別々の祖先タンパク質から

分子進化してきたと考えられている.したがってさまざ まな不凍タンパク質が氷に結合するメカニズムを解明す ることは,生物の耐凍性獲得についての知見を得ること だけではなく,産業的な用途に応じて最も適した不凍タ ンパク質を選択する際にも有用な情報となる.

近年,新たな種類の不凍タンパク質として,キノコ や,ケイ藻,細菌などの幅広い微生物に共通して存在し ている不凍タンパク質が見つかっている.これらの微生 物不凍タンパク質のなかで,キノコの一種である担子菌 イシカリガマノホタケ ( ) 由来の 不凍タンパク質は最初に報告されたものである(1).この キノコ(図

1

)は寒冷で積雪のある地域に生息し,積 もった雪の下の牧草や芝生,コムギなどの葉に寄生して 枯死させる.このイシカリガマノホタケの菌糸体の培養 液に分泌される不凍タンパク質(以下Tis不凍タンパク 質)は223残基のアミノ酸で構成され,分子量が約 23 kDaである.Tis不凍タンパク質のアミノ酸配列は,

魚類や昆虫などの既知の不凍タンパク質と類似性がな い.また,Tis不凍タンパク質の不凍活性は魚類の不凍 タンパク質よりも高く,六方晶系の氷結晶の基底面やプ リズム面などの複数の結晶面に対して結合することがわ かっている.

筆者らの研究グループは,Tis不凍タンパク質の立体 構造をX線結晶構造解析法によって決定した(2).Tis不 凍タンパク質の大部分は 

β

-ストランドによって構成さ れていた(図

2

(a)).これらの 

β

-ストランドはらせん状 に巻きついて平行 

β

-シートとなり,

β

-ヘリックス構造と 呼ばれる大きな構造を形成している.また,この 

β

-ヘ リックスの断面は三角形であり,ヘリックスの1回転あ たりの残基数が図2(a)の下にいくにつれて多くなって いる.そのため,分子全体は洋梨を半分に切ったような 下膨れの形状となっている(図2(b)).Tis不凍タンパ ク質と同様な 

β

-ヘリックス構造は昆虫由来の高い不凍 活性をもつ不凍タンパク質からも見いだされている.昆 虫の不凍タンパク質では,ヘリックスの一周を単位とし た同一のアミノ酸配列が多数繰り返されている.そのた め,分子表面には特定のアミノ酸残基が規則的に整列し ている.一方,Tis不凍タンパク質にはこのような特徴

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化学と生物 Vol. 52, No. 1, 2014

はなく,分子表面に規則的に配置されたアミノ酸残基も 見いだされなかった.このことから,Tis不凍タンパク 質の立体構造は既知の 

β

-ヘリックス不凍タンパク質と は異なる特徴をもっていることが明らかとなった.

Tis不凍タンパク質が氷の結晶と結合する部位は,分 子表面のアミノ酸残基への変異導入実験によって決定さ れた.その結果,

β

-ヘリックスの一つの側面が氷結晶結 合部位であることがわかった.この部分は6本の平行 

β

- シートによって形成されており,分子の表面のなかでは 最も平坦な部分である(図2(b)).ほかの不凍タンパク 質でも分子表面の平坦な領域で氷結晶に結合することが

知られている.Tis不凍タンパク質の氷結晶結合部位で は 

β

-シートに垂直な方向に溝状の部分が形成されてい る.この溝状のなかには,水和水が一列に並んでいた

(図2(c)).この水分子は,分子表面の凹凸を埋めるこ とによって,氷の基底面やプリズム面との一致性を高め る役割を果たしているとともに,氷結晶の表面にある水 分子と一体化することによって不凍タンパク質と氷結晶 を結びつけていると考えられる.

Tis不凍タンパク質は平坦な氷結晶結合部位をもち,

氷結晶の基底面とプリズム面の両方に結合することがわ かった.高い不凍活性をもつ不凍タンパク質はどれも基 底面とプリズム面の両方に結合できることが知られてお り,Tis不凍タンパク質も同様な性質をもっている.し かし,Tis不凍タンパク質の氷結晶結合部位はほかの高 活性型不凍タンパク質とは異なり,特定の繰返し配列や 規則的に整列したアミノ酸残基が存在していなかった.

このことから,Tis不凍タンパク質は新たなメカニズム によって氷結晶と強く結合していると思われる.また,

Tis不凍タンパク質と類似性を有するほかの微生物不凍 タンパク質もTis不凍タンパク質と同様の骨格構造を有 していると考えられる.また,Tis不凍タンパク質はイ シカリガマノホタケの培養によって得ることができるた め,イシカリガマノホタケを供給源とすることで新たな 応用技術の開発につなげることが可能であると考えられ る.

図2Tis不凍タンパク質の立体構造

(a) リボンモデル,(b) 表面モデル.赤で塗られている領域が氷 結晶結合部位である.(c) 氷結晶部位を正面から見た場合の表面 モデル.氷結晶結合部位に水和している水分子を青色の球で表し ている.

図1イシカリガマノホタケ 左:子実体を拡大したもの・中:牧 草に生えた子実体・右:葉の上にで きた菌核(菌糸のかたまり)

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今日の話題

12 化学と生物 Vol. 52, No. 1, 2014

  1)  T. Hoshino, M. Kiriaki, S. Ohgiya, M. Fujiwara, H. Kondo,  Y.  Nishimiya,  I.  Yumoto  &  S.  Tsuda : , 81,  1175 (2003).

  2)  H.  Kondo,  Y.  Hanada,  T.  Hoshino,  C.  P.  Garnham,  P.  L. 

Davies  &  S.  Tsuda : , 109

9360 (2012).

(近藤英昌,津田 栄,産業技術総合研究所生物プロ セス研究部門,北海道大学大学院生命科学院)

プロフィル

近藤 英昌(Hidemasa KONDO)    

<略歴>1997年北海道大学大学院理学研 究科生命科学専攻博士課程後期修了,博士

(理学)/1998年通商産業省工業技術院北 海道工業技術研究所研究員/2001年産業 技術総合研究所研究員(改組)/2005年よ り同主任研究員,2010年より北海道大学 生命科学院生命融合科学コース連携大学院 客員准教授,現在に至る<研究テーマと抱 負>タンパク質のX線結晶構造解析を通 じて,バイオプロセスを用いた物質生産の 促進を目指しています<趣味>スポーツの 観戦

津 田  栄(Sakae TSUDA)   

<略歴>1988年北海道大学大学院理学研 究科博士課程中退/1992年同大学大学院 理学研究科,理学博士取得/1995年通商 産業省工業技術院北海道工業技術研究所主 任研究員/2001年産業技術総合研究所研 究グループ長(改組・職名変更)/2003年 より北海道大学生命科学院生命融合科学 コース連携大学院客員教授,2012年より 産業技術総合研究所上級主任研究員,現在 に至る<研究テーマと抱負>専門は核磁気 共鳴 (NMR) 法によるタンパク質の構造 機能解析.不凍タンパク質の可能性を明ら かにすることを目指しています<趣味>ス ポーツ,アウトドア

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