2008年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
「車に対する価値観の変化」
~団塊世代と団塊ジュニアからの考察~
A0542130 佐藤 寛晃 提出 2009年1月15日
車に対する価値観の変化
目次
1 はじめに
1.1 素朴な疑問 1.2 仮説 1.3 分析方法
1.4 国内自動車の現状
2 団塊世代と団塊ジュニア 2.1 団塊世代とは
2.2 団塊世代にとって車とは 2.3 団塊ジュニアとは
2.4 団塊ジュニアにとって車とは
3 分析
3.1 モデル数調査と分析 3.2 小売価格の変化と分析
3.3 団塊ジュニアの意識変化と分析
4 まとめ
参考文献
1 はじめに
1.1 素朴な疑問
最近国内において新車販売の低下が問題となっている。その原因の一つとして若者が車に 興味が無くなり、購入しなくなったからだと言われている。ではなぜ若者は車に興味が無くなっ たのか。著者自身は車に対して興味があり、様々な本を読んでいく中で昔の若者にとって車はス テータスだったという内容をよく目にした。しかし今の若者は車の話すらほとんどしないし、ま してやステータスだという話を聞いたことすらない。そこで車に対する価値観が変化したのでは ないかと疑問にもち研究対象とした。
1.2 仮説
メーカーの新車モデル数の増加により、車に対する価値観が変化したのではないかという仮 説を立てた。つまり同様の車があふれた為に、希少価値が下がり車に対する価値観が変化してい ったと推測する。
1.3 分析方法
団塊世代と彼らの子供である団塊ジュニアを研究対象とする。彼らを取り上げたのはまず 日本の人口面において最も出生数が多い世代だからである。また団塊世代は、戦後日本の代表産 業である自動車が発達した時代であり、彼らが若者の時に強い影響を受けているからである。ま た団塊ジュニアを取り上げる理由は、団塊世代と比較しやすいこと、また自動車販売数が低下し てくる90年代に若者として過ごして、親の世代と逆の環境で育ったからである。両世代の特徴 と車との関わりをまず分析する。
次に仮説の検証の為、90年代のメーカーの新車モデル数と小売価格を調査してみる。
さらに団塊ジュニアが90年代に車に対してどのような意識変化をしたか調査することで、車に 対する価値観の変化を分析してみる。
1.4国内自動車の現状
(1)国内販売の現状
図1 新車販売台数推移1
日本自動車工業会」より)
)
図2 保有台数の変化
(出所 「
台数は、508 万 2233 台となっており、前年比5.1%減となっている。(上記グラフに記載無し 乗用車は 321 万 2342 台、軽自動車は 186 万 9891 台となっている。このまた、グラフから日本国 内の自動車需要数は 1990 年以降総じて減少傾向にある。人口そのものの減少や自動車の普及率 の向上・飽和(携帯電話と同じ現象)などが原因とされている。
全国の保有台数(乗用車)の予測
42,365 42,747 40,762 40,218 39,592 12,617 16,228 19,364 19,813 19,681
0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000
00 05 10 15 20 (年度)
千台 軽自動車
登録乗用車
(出所「乗用車市場動向調査」より筆者作成)
保有台数は、乗用車系総数で 05 年度の 5,898 万台から 2010 年度まで増加し、その後やや減少 に
図3 新車需要の変化2
414 万台、
2
ラフより国内の保有数の変化が少なく、新車需要台数が減少していることから、現在保有して
2)10~20 代の車事情
若者の車離れが指摘されている。「車を持たない、乗らない、こだわらない」と言われて い
転じ、2020 年度には 06 年度実績と同水準となる見通し。また登録乗用車系は 05 年度から 20 年度までに 7.4%減少し、2020 年度には 3,959 万台となる見込み。一方、軽自動車は 05 年度か ら 20 年度までに 21%増加し、2020 年度に 1,968 万台となる見込み。
全国の新車需要台数(乗用車系)の予測
3,575 3,340 2,763 2,610 2,438 1,404 1,495
1,554 1,527 1,508
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000
00 05 10 15 20 (年度)
千台 軽自動車
登録乗用車
(出所「乗用車市場動向調査」より筆者作成)
乗用車系総数で、05 年度の 483 万台から減少が続き、10 年度に 432 万台、15 年度に
0 年度には 400 万台となる見通し。05 年度から 20 年度までに 17.3%の減少となる。登録乗用 車は 20 年度には 243 万台となる見込みで、05 年度から 25.5%の大きな減少率となる。一方軽自 動車は、20 年度に 151 万台と、05 年度とほぼ同じになる見込み。
グ
いる車を長く使用して新車を買うことを控えている状態であることが推測される。さらにこれら の現象は今後も長く続くと考えられ、国内においては新車に対する需要はさらに減少していくと 考えられる。
(
近年、
る若者であるが、実際に車に対してどのように感じ、使用しているのか調査してみた。
ここでは免許保持率、20代男女の車使用率、車に対する関心を取り上げてみる。
はじめに、若者(18~29 才男女)の免許保有率は、警視庁運転免許統計によると 2006 年時点で 免
図 4 18 から 29 歳男女の主運転者、専用車使用者
993 年 2005年 増減(05-93) 許保有率が男女合わせて平均で 77.9%となっている。また 90 年代後半からみても、若干の変 動はあるものの平均として70%後半を保っていることから、免許保有率は減少していないこと が分かる。
1
18~29 歳男女 主運転者率 専用車使用率
77.5 64.4
75.2 54.1
△2.3
△10.3 18~24 歳男性 主運転者率
専用車使用率
75.1 67.8
67.9 71.6
△7.2 3.8
25~29 歳男性 主運転者率 △
専用車使用率
81 64.1
77.3 49.2
3.7
△14.9 18~24 歳女性 主運転者率
専用車使用率
72.4 65.0
84.3 57.0
11.9
△8.0 25~29 歳女性
△ 主運転者率
専用車使用率
79.5 57.1
83.5 55.8
4.0 1.3 ( 出所「乗用車市場動向調査」より筆者作成
に男女の車使用率の変化についてだが、図より 2005 年の主運転者率(自宅に主に自分が運転す
男性)
)
次
る車がある人)が 75%、自分専用車使用率(自宅に自分専用の車がある人)が 54%となっている。
2008年における調査結果はないため正確な数値は言えないが、図の比率より 50%と約半数 の人が車を所有しているのではないかと考えられる。大学生から社会人、また地方や都心部を区 別せず作成しているため、二人に一人が所有しているのは実感しにくいかもしれないが、現在で も若者の多くが車を使用していることが分かる。つまり若者は車に乗らなくなっているのではな く、専用の車を持つ人が減っているのである。ここで根本的な問題を考えてみるが、若者は車そ のものに興味がないか調べてみた。
図 5 自動車に興味を持った時期(
(出所 ネットエイジアリサーチより)
男性の20代では約3割、女性(図無し)では4割近くの人が全く興味を持ったことがないと回 答しており、他世代に比べて若い人ほど興味が無くなっている事が分かる。特に男性に注目して みると、小学生低学年からコンスタントに車に興味を持つ人が増えていき、高校生の頃までには 約半数の人が車に興味を持ち始め、8割を超える人が興味を持っていると言える。また同調査に よると男女ともに興味を持ったきっかけは、父親の影響と友人の影響が高いことが分かった。
さらに同調査によると 20~30 代は父親の影響が非常に高く、40 代~50 代は友人の影響が大きい と言える。
購
経済的な状況、社会の変化が原因となり若者の車離れが起きていると言える。
者にも当てはまることである。上記でも記述したように、昔の若者の間では車の話題
った。そこで経済的な制約を越えてまで購入する理由、つまり車の価値観を考えていきたい。
こでは日本の人口で最も多かった団塊の世代。さらに 90 年代から新車販売の数が減ってきた とより、その年代の若者、世間一般で言われている団塊ジュニアの車に対する価値観を調べる
検証していきたい。
現代の若者の多くは車には興味あるものの、購入に至ってないと結論づけられる。ではなぜ 入しないのだろうか。もちろん他の製品と同様に興味があるからといって簡単に購入にいたる訳 ではない。車を購入に至らない理由はさまざまであるが、「最近の若年層は、車離れが進行して いると言われている。所得条件が十分でない人が多いことや昔のような安定した年功序列の賃金 体系が破綻し、将来への信頼が持てず、貯蓄志向が強まっていることもある。また携帯電話が必 需品となり、その通話料負担などが車への出費の支出の支障になっていると言われていることも ある。」3
このように
2 団塊の世代と団塊ジュニア
車はもちろん高級品の一種であるから簡単に買えるものではない。これは現代の若者だけでな く、昔の若
が多いだけでなく、車を持つことが自己自身の投影でもあった。つまり車はステータスの一種で あ
こ こ
ことで車が持つステータスの変化を
2.1 団塊の世代とは 図6 出生数の推移
(出所 「日本の将来推計人口」より)
戦後、 ら
年まで 生ま
団塊の 」
呼ば る
験に
団塊世代にとって、車とは単なるモノや道具ではない。彼らにとって車とは、光り輝く存在で
出会ったかによって、
っている名車トヨタ T、日産からはスポーツカーの代名詞でもあったスカイライン・ハコスカ、ホンダからは 等が発売された。また世界に目を広げると、1960 年代のラン
い道
(出所「HI-PANEL」より筆者作成)
日本の年間出生数が 200 万人を超えたのは、1947 年から 52 年までの6年間と、71 年か の 4 年間である。ここでは前者の6年間の中で最も人口が多かった 47 年から 49 万年 れた人達を団塊の世代、後者を団塊ジュニアと呼ぶことにする。
世代は 3 年間で生まれた数が 840 万人。その人数の多さから義務教育時代は「二部授業 れる教育体系、また高校受験や大学受験、就職試験といった、人生の各ステップにおけ おいては「受験地獄」や「狭き門」といった流行語も作られた。
74 に
と 試
2.2 団塊世代にとって車とは
ある。車に限らず、人にとってモノとの出会いは非常に重要である。特に男性は、車や電化製品 のような「機械もの」に、何歳で出会ったかは重要であり、その後の性格を左右する場合もある と言われている。なかでも車と男性は、その男性がいくつの時にどんな車と
車との付き合いも決定されることすらある。
ここで団塊世代が若者だった時、18 才から 24 才の時に各社から発売された車を挙げてみる。
トヨタからはスポーツ800・67 年に登場し未だに多くの人の印象に残 2000G
S800・N360、マツダからはコスモ
ボルギーニ・フェラーリ、AC コブラなどいわゆる「スーパーカー」が世に出回っており、団塊 の世代の車意識に影響を与えた 1960 年代は、未だに「黄金の 60 年代」と呼ばれている。この世 代にとって車は憧れであり、その後の人生に車が大きく関わることになる。
図 7 定年後の「消費」としてのお金の使
70 80
30 40 50 60
% 男性
女性
0 10 20
国内旅行 海外旅行 趣味 車
事実団塊の世代の退職金の使い道調査結果を見ると、男性の約4割の人が車に使いたいことが
分かる。 少年時
代に経験 りステ
ータスと
2.3
世代は、
戦後平等 ュニア
は、 た 学
生時代に も豊か
な時代に 分 選
ぶ」スタ
る。
グソーが代表的)4.ネスティング消費(気の会う仲間と自分たちだけの空間を作り、そのなか 楽しむ消費。クラブが代表的)5.ライブ感覚時間消費(何が起こるかわ
4 団塊ジュニア世代にとって車とは
男性は新しい人生を新しい車と歩みたいと考えている。その時思い出されるのが した車への憧れである。団塊の世代にとって車とは自分自身を表わす象徴、つま しての価値が非常に高いと言える。車そのものに価値を見出していると言える。
団塊ジュニアとは
ここでは 1971 年から 74 年に生まれた世代を団塊ジュニアと定義する。親である団塊の 主義を享受した時代で、夫婦平等で子供の意見を尊重する家庭であった。団塊ジ 親と暮らしながらも個性を重視し素直で自由に行動しながら育ってきたのである。ま はディズニーランドのオープン、高校時代にはバブル経済を経験するなど史上最 青春時代を過ごした。このような経験の中で「自分にとって、必要なものを、自 イルが身についたと言われている。
小
で
ここで団塊ジュニアの消費を5つに分類してみる4。
1.情報消費(商品の機能や歴史的背景、ストーリー性への共感を消費する。ホーキンスのブ ーツが代表)2.編集型消費(既存のライフスタイルにこだわらず、自己表現の為最適なパーツを 選び、新しい自分を創造する。BEAMSが代表的)3.合理的堅実消費(極めて主観的なこだわ りのものや、お金をかけるものとそうでないものを明確に区別する。製品を合理的に判断す ジ
でコミュニケーションを
からないエキサイティングなことをコミュニケーションで消費。ストリートバスケットが代表 的)
つまり団塊ジュニアは製品そのものだけでなく、製品の組み合わせや仲間と共有できる時間を 求めるため、製品を通じて得られる価値を求めて購買しようとしている。また製品に対しては他 人と違う個性的なモノを求めた。もちろんこの傾向は現代の若者にも当てはまると言える。
2.
彼らが青春時代を過ごした時には、モノや情報があふれ、個性が重視される時代である。そし て車は親世代と違って、車は家に当然あるもの、つまり車ありきであった。新しく買わなくても、
家の車を使えば外出、または友人達と遊びにいくことが出来た。では彼らは親世代と同様に、車 に対してステータスの価値を見出して購入しようとしたのか。
図 8 今後充実させたい消費分野
1 旅行関連費 41% 7 TV・DVD購入費 22%
2 趣味・教養関連 41% 8 パソコン購入 21%
3 食費 39% 9 交際費 21%
4 子供の教育費 32% 10 家電購入 20%
5 技術取得費 32% 13 自動車購入 13%
6 住宅関連費 24% 15 自動車関連費 7%
(出所 「乗用車市場動向調査 02 年度」より作成)
この図からも分かるように車の購入に費用を当てたいと思っている若者の割合はかなり低く っていることが読み取れ、代わりにTVやパソコンの購入にお金をかけたいと思っている人が い。団塊の世代の若い頃の消費分野の調査が無いため確実なことは言えないが、図から予測し 団塊ジュニアにとって車はステータスの価値があるモノである可能性は低く、さらに経済的な
っている。
ではな こ 意欲 くなっ のか るが か
らも読み取れ を通じた トの普 であ ばから、携帯電話やパ
ソコンの 及 急速に広まっていっ のため つ に友人達とコミュ ョ
ンを取れ 買い になった ため 移 要性を低下させ れ
ている。 実ネ 述べた団塊 アの 特 いる。車が無 、周
りの世界と繋がることができるようになった。
世間一般で言われているのがネットの 0年代から若 が無くなった 言われている。他にもレジャーの低下や貯蓄志向などの説があるが全て消費者側の行動の変化 な
多 て
制約を越えてまで欲しいモノでは無くな
ぜ のように車に対し購入 がな た 。さまざまな要因があ 一つは図 るようにパソコン ネッ 及 る。90 年代半
普 により た。そ い でも簡単 ニケーシ
、 物ができるよう 。その 車の 動を伴う必 たと言わ 事 ットは上記に ジュニ 行動 性に一致して くても
普及により9 者は車に興味 と
が主流である。ここからが本文の検証部分であるが、車の持つ価値が90年代になぜ変化したの かをメーカー側と消費者側の意識の変化から検証していきたい。
3 分析
3.1 モデル数調査と分析
団塊の世代にとって車とは、持つこと自体にステータスとしての価値を見出していることは説 明した。しかし90年代に入ってくると、車はステータスとしての価値が下がってきた可能性が 高い。そこでここでは下がってきた原因として、90年代に入って車の数が増えたため価値が下 がったのではないかを検証してみたい。新車のモデル数と小売価格を調査してみた。
検証方法
国内メーカーを対象とし、対象メーカーは 10 社(トヨタ・日産・ホンダ・三菱・マツダ・い ゞ・スバル・スズキ・ダイハツ・光岡自動車)を調査対象とする。また新車として発売された 対象とし、モデルチェンジされた車も新車として数える。車の区分は、セダン・ステー ョンワゴン・クーペ・ミニバン・ハッチバック・オープン・SUV・軽自動車とする。
9 モデル数の変化
(出所「自動車ガイドブック」より筆者作成)
8年間を対象としている。計956台販売された。90年代では、最高 す
モデルを シ
図
0 30 40 50 80 90
0 2 4 8 4 8
数
セダン 60 ステーシ
70 ョン
クーペ
90年から08年の1
で99年の年間80台、最低で93年の42台となっており年間平均56.7台となっている。
参考までに2000年代は43.2台となっており、ここから 90 年代が非常に毎年多くの新車 は販売されていることが分かる。
図10 モデル数の変化(セダン・ミニバン・ハッチバック)
0 5 10 15 20 25
90 92 94 96 98 00 02
04 06
08
モデル数 セダン
ミニバン ハッチ
10
9 9 9 96 9 00 02 0 06 0
年 20
モデ ル ミニバン
ハッチ
オープン
SUV
軽自動車
合計
上記の図では分かりにくい所もあるので、各社の主流販売であるセダン・ミニバン・ハッチバ クを取り上げた。60年代から主流であったセダンは、90年代になると急速に低下し98年 つまり90年代はセダンよりも 空間が大きい、もしくはコンパクトかつ空間が広い車が主流になっていった時代と言える。
ここまでをまとめると90年代は車のモデル数が増加し、さらにミニバンやハッチバックとい った大きな空間やスモールカーを中心としていった時代だと判明した。
ここで論文のテーマである車の価値の変化を探るため、団塊の世代・ジュニアの世代がそれぞ れ若者だった時のモデル数を見てみたい。ここでは一番販売モデルが多いトヨタの場合で検証し てみる。(検証方法は上記と同様)
図 11 トヨタにおける年代別新車モデル数
ク」より筆者作成)
ることが出来るようになった結果である。
、モデル数の大量増加により60年代に比
べて、 理化の
名の下に 化が難
しかく、 られる。
3.2
ここでは車 を購入す
ッ
から00年の間にミニバン・ハッチバックに追い抜かれている。
(出所「自動車ガイドブッ
0 20 60
年代
モデ
40 100 120 140
60 70 80 90
ル数 80
台
団塊ジュニアが20代だった90年代モデル数は、団塊世代が同様の年代だった60年代の約 11倍近くなっている。これは日本における自動車技術が上がり世界に比べて開発リードタイム が短くなったお陰で新車を短い時間で作
ここから読み取れることとして極論かもしれないが
車一台辺りの保有する価値が下がったのではないかと推測される。また各社とも合
、自社や他社のヒットしたモデルと同様な新車を次々と販売していったため差別 似たような車ばかりになってしまったため消費者を飽きさせたとも考え
小売価格の変化と分析
前章ではモデルの増加により、車そのものの価値が減ったということを検証した。
る際に重要な要因となる価格の変化を検証してみたい。
検証方法
トヨタを調査対象とする。区分はセダン・ミニバン・ハッチバックの3区分を調査対象とする。
価格はヤフー掲載価格を基準とし、標準モデル価格としている。車種が発売されていない年は、
他メーカー、前後の年の平均価格を対象とした。対象車種は79種、モデルチェンジも新車と
0 50 100 150 200 250 300
万円
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 年
セダン ミニバン ハッチバック
し 数える。
図 12 小売価格の変化(セダン・ミニバン・ハッチバック)
(出所「自動車ガイドブック」より筆者作成)
90年代の小売価格の変化を見ていくと、初頭はミニバン・セダン・ハッチバックの順に価格 ックの価格は下がり、96年 てくると、三車 一の価格帯で購 バックに消費者 ミニバンやハッ
車をより高価格 るが同じ価格だ してしまい、
初の一台が人生
め車そのものを 所有することは、自己のステータス
て
帯が設定されていた。しかし年数を経るごとにミニバン・ハッチバ
以降はセダンより価格が下がるという現象が起きる。つまり90年代後半になっ の値段が非常に近くなってきているのである。このような現象のなかでは、同 を考える場合、より多くの人や荷物を載せられるミニバンや燃費のいいハッチ 動くことが考えられる。若者にとってもよりお買い得感を与えてくれるのは、
バックである。
団塊の世代にとっては、「いつかはクラウン」の言葉通り自身の成長とともに にあげていくのが目標であった。しかし団塊ジュニアは、後述で詳しく説明す たらよりお得なミニバンやハッチバックに魅力を感じる。そのためそこで満足 の価格帯やグレードの種類が無いため車を乗り換えていく必要がなくなる。最 上がりである。
この3章の前半をまとめると、団塊の世代の若い頃は車のモデル数が少ないた 種
入 は チ
帯 っ 上 の
を表わすものであった。また価格も、自身の環境の変化に合 う価格が設定されていた。団塊ジュニアの若い頃は車のモデル数の増加、各社が似たような車種 販売の為、車そのものの価値は低くなった。さらに価格帯の変化により、より満足感を与えてく
3.3団塊ジュニアの意識変化と分析
3章の前半ではメーカーのモデル数・小売価格の変化から車の価値を検討して言った。ここで
ことで、意識の変化を調査。調査項目に対して、「非常にそう思う」「そう思 は、消費者側である団塊ジュニアの車に対する意識を調査してみたい。
調査方法
団塊ジュニアの大部分を占める25歳から29歳を調査(01年現在)。過去の同世代(93 年現在)と比較する
う」「そう思わない」「全くそう思わない」の4段階で回答してもらった。
図 13 団塊ジュニアの意識変化
団塊ジュニア 男性 団塊ジュニア 女性
「非常にそう思う」と「そう思う」の回答
93年調査→01年調査 93年調査→01年調査
車内のゆとりもよいスタイルの良い車 50 58 65.2 38.4
室内が豪華で贅沢な車 34.6 45.7 32 38.4
サイズが小さく、小回りのきく車 34.6 36.4 48 68.5
荷物スペースが広く、使い勝手の良い車 80.8 83.9 66.7 87.7
価格は高くても燃費の良い車 88.5 77.5 64 78.1
53.8 43 60 57.5
内装や装備は普通で、小さく価格の安い車
高性能エンジンのスポーツ車 53.8 34.3 52.2 32.8
耐久性があり、買い替えの必要が少ない車 84.6 68.3 79.2 65.7
多目的に使える車 70.1 78.5 65.1 54.8
自分の生活スタイルをアピールできる車 61.5 39.8 36 37.5
特別仕様車などの買得な車 34.6 44.8 37.5 52.1
10ポイ 以上増加 10ポイ 以上減少 ( 「JAM INE」02 年 号より
が憧れた 車に ては興味 なって
る にこだわる半面、燃 とい 経済面を重視している
と 、買得な車 ントが上がって、自分の生活スタ
ル が大幅に減っている である。 憧れの存 ら、生活
見合った
女性は男性と違って元々車で自分 タイ ール は考 えていなかった。そのため男性で目立った、生活スタイルをアピールできる車の項目の変化は少
ント ント
出所 AGAZ 7 月 )
団塊ジュニアの男性は、親である団塊世代 スポーツ 対し が低く い
。車内のゆとりよりもスタイル 費や価格 った こ
は変わらない。そして最も注目する点は のポイ イ
をアピールできる車のポイント こと 車が 在か に
車へとシフトしていると予測できる。
一方女性の方だが、 の生活ス ルをアピ しようと
な ルのよい 項目が大 減ってい とであ
そ の項目ポイントが増 ること かる。こ から考
ると、女性の多くがハッチバック形式の車の購入層であると考えられる。
以上、分析した8年前の同世代との比較結果 まえて考察してみると、団塊ジュニアにとっ て車は、それ自体に価値のあるものではなく、道 れ
る。
ここでなぜ意識変化したのかという疑問があげられる。3章の前半で検証したメーカー
ないかと考えられている。この年を転換点に 消費者側
い。注目するべき点はゆとりもよくスタイ 車の 幅に るこ る。
の半面、小回りや荷物スペース えてい が分 の調査 え
を踏
具の一つとして意識さ てきていることが分か
しかし
のモデル数の変化を踏まえると、ミニバンやハッチバックの増加の為に意識が変化したのかとい う仮説が浮かび上がる。また団塊ジュニアの意識が何らかの影響があって、それをマーケティン グしたメーカーによりスモールカーが大量発売されたのかどちらかが考えられる。一つの論とし て、94年にホンダから発売されたオデッセイが従来の車の価値観を全て壊し、若者から中年ま でを惹き付け、多くの人の需要を満たしたのでは
の心理が動き、車に対して外装より内装という空間という新しい購入基準が生まれ、9 9年のトヨタから発売されたウ“ィッツや01年ホンダから発売されたフィットへの成功へと繋 がったと一説で言われている。年ごとに調査していけばもっと正確な意識変化が検証でき、その 年のメーカー側の動きやその他の要因を組み合わせれば、団塊ジュニアの車に対する価値の変化 が分かるはずである。
4.まとめ
本論文では車に対する価値観の変化を団塊の世代・団塊ジュニアを比較することで検証してき
。さらに90年代のメーカーのモデル数・小売価格を分析することで、メーカー側が消費者側 どのような変化をもたらしたかを考察してみた。
団塊の世代にとって車とは、そのもの自体に価値があり、保有することはステータスシンボル 表わすに等しかった。その背景には黄金の60年代と言われた国内・国外を問わず各社からス ーツカーを筆頭に個性的な車が販売された時代を経験し、また車の数そのものが少なく希少価 が高く、高くて格好いい車を保有することが彼らの夢であった。いつかはクラウンの言葉の通
、新しい人生を歩むときは常に新しい車と歩みだし、定年後にも車を購入したい人が多い世代 あるのが事実である。
団塊ジュニアにとって車とは、そのもの自体に価値はなく、価格以上に得られる満足感、空間 な広さに新しい価値を見出していった。その背景には90年代に各メーカーから同様の車が大 希少価値や魅力が無くなり他者との差別化が難しくなった。また主流のセダンの価 にハッチバックやミニバンが近づき、同一価格ならよりお買い得感があるミニバンに移行して
があればより正確な結果を得られ、今の若者の車離れに通じる研究が きると考えている。
辻中俊樹 『団塊ジュニア 15 世代白書』 誠文堂新光社 1988 年 より た
に
を ポ 値 り で
的
量販売され、
格
いったと推測できる。意識の面からもより小さく、空間が広い車が好まれ、ハッチバックの普及 に広まっていったと考えられる。また最初の一台で彼らの需要を満たしてしまうため、次の新車 購入意欲が減少し国内市場の車減少に繋がっている。
ステータスの価値は時代とともに無くなり、若者の間で車に対する感心も年々低くなっている。
もちろん最初にも述べたように車はコストのかかる製品であるから、経済的な制約を受けやすい。
またネットの普及やレジャーの低下、都心部の交通発達など車に対する価値観が変化していった のは、多くの要因が関わっており一つの要因に決めることは難しい。この論文ではメーカー側に 比重を置き、推論になってしまうが消費者にどのような影響を及ぼしたかを考察してみた。
もっと多くの資料やデータ で
今後また誰もが車に対して夢や憧れを抱ける社会になることを心から願う。
1)軽自動車を含む
2)商用車を除くため図 2 と数値が異なる
3)「自動車ディーラー・ビジョン 2007 年」より引用 4)
参考文献
藤本隆宏 キム・B・クラーク「製品開発力」 ダイヤモンド社 1993 年 p96-p127
土屋勉男・大鹿隆・井上隆一郎「世界自動車メーカーどこが一番強いのか?」 ダイヤモンド社 2007
ア 15 世代白書』 誠文堂新光社 1988
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参考URL
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