7.2 剰余価値率
資本主義においては、労働力によって新たに作り出される価値(新価値)は、労働者と資本と の間で分配される。この分配の割合は、可変資本と剰余価値の比率、すなわち、剰余価値率 m
v に よって表わされる。
また、剰余価値率は必要労働と剰余労働の比率(労働力の搾取度)に等しい。すなわち、社会の 総労働時間をT、労働者の生活手段の物量をB、生活手段1単位に対象化された労働時間をtとす ると、
m
v = T−Bt Bt となる。
7.3 剰余価値率の増進
必要労働と剰余労働の比率を表わす式は次のように変形できる。
m
v =T −Bt Bt = T
Bt −1
剰余価値率は、T、B、tの三つの要因によって規定されるが、この式からそれぞれの要因が剰 余価値率に及ぼす影響を見て取ることができる。すなわち、いまかりにBが一定であると仮定す ると1、
• Tの増加
• tの減少
の2つの方法によって剰余価値率を増進させうることが分かる。
7.3.1 絶対的剰余価値の生産
Tの増加、すなわち、労働時間の延長(または労働の強度を高めること)によって剰余価値率を 上昇させることを絶対的剰余価値の生産と言う。この方法は、労働力商品の本源的弾力性、すなわ ち、労働力の価値とそれが生み出す価値との間の関係の弾力性に基づいている。
もっとも、労働時間の延長や労働の強化には、物理的・生理的限界に加え、社会の規範や習慣の ような歴史的・文化的限界がある。そのため、この方法による剰余価値率の増進は、決して無際限 に行いうるものではない。
7.3.2 相対的剰余価値の生産
生活手段に対象化された労働時間tを減少させるためには、生産方法の改良によって、労働生産 性を高めてやればよい。このような剰余価値率の増進方法を、相対的剰余価値の生産と呼ぶ。
ここで注意すべきなのは、相対的剰余価値の生産は、個別資本にとっては、あくまで意図せざる 結果であるということである。個別資本は、相対的剰余価値の生産のためではなく、自分が得られ
1このような仮定は恣意的なものに見えるかもしれない。確かに、労働者の生活水準は不変のものではないが、その変 化には長い時間がかかるものであり、それゆえ、短期的には、労働者の生活手段の物量Bは一定と見なすことができるの である。
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る超過利潤を求めて生産方法の改良に努めるのであるが、結果的には、社会全体の剰余価値率を上 昇させるのである。
また、生活手段部門の生産性を高めることによってだけではなく、生産手段部門の生産性を高め ることによっても、生活手段に対象化された労働時間を短縮することができる。いかなる部門の生 産方法の改良も、社会の剰余価値率の上昇につながるのである2。
2但し、生産手段にも生活手段にもならない商品、すなわち、奢侈品における生産性の上昇は、例外的に剰余価値率に影 響しない。
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