道 の い ち ねん
外国語学部英語英文科3年藤田 勇二
風がそっとわたしたちを撫でた
この道は人々の出逢いでうめつくされ
誰もが何色もの芽生えに気づいていた
あるひとは花の色に染まり
またあるひとは空の青にあこがれた
風は水のように颯爽とわたしたちを洗った
この道は人々の期待でうめつくされ
誰もがどこかへ旅立ちたがっていた
あるひとは北にひろがる草原にあこがれ
またあるひとは南の浜辺に夢を見た
風はわたしたちに豊かな恵みを知らせた
この道は人々の黄色い予兆に満たされ
誰もがその予兆を静かにみとめた
あるひとは涙を見せまいとただよい
またあるひとは涙を探してただよった
風はわたしたちを情なく吹きつけ乾かした この道は人々の不在感に満たされ
誰もが過ぎ去るすべてに目を閉じた
あるひとはそのままうつむいて目を閉じ続け
またあるひとはまっすぐな眼差しを受けとめた
やわらかな風が一年ぶりに吹いた
この道は誰にも知られることなく
あなただけの道であり続けている
解説本作品は神奈川大学横浜キャンパスのとある道
をモチーフにしています。道は概念として人の人生
の意味をもちますが、この作品の「道」は頭の中の
道ではなく、実際にある道を思いながら書いたもの
です。
私たちが毎日歩くこの道は、それ自体個人的な、
かつある意味歴史的なものです。それを意識して歩
くことはあまりないと思います。しかし誰もが、何 かを考えながら、または感じながら歩くという行為
をするはずです。それは好きな人のことかもしれな
いし、夕飯のおかずのヤマかもしれません。人がそ
れぞれに思いを巡らせながらその道を歩いているの
です。そのように考えれば、身近にありすぎて気づ
かない「道」のもつ潜在的な色彩は、意識さえすれば、
実にカラフルで胸を打つものとなって私たちに気づ
きを与えてくれるのです。そのような発見を形に残
す手段として、詩という形式を今回は選びました。
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道のいちねん