赤い魚と子供 小川未明
川かわの中なかに、 魚さかながすんでいました。
春はるになると、いろいろの花はなが川かわのほとりに咲さ きました。木き が、枝えだを 川かわの上うえに拡ひろげていましたから、こずえに咲さ いた、真紅まっか な花はなや、またう す 紅くれないの花はなは、その 美うつくしい 姿すがたを水みずの 面おもてに映うつしたのであります。
なんのたのしみもない、この川かわの 魚さかなたちは、どんなに上うえを向む いて、
水みずの 面おもてに映うつった花はなをながめてうれしがったでありましょう。
「なんというきれいな花はなでしょう。水みずの上うえの世界せかい にはあんなに 美うつくし いものがたくさんあるのだ。こんどの世よ には、どうかして 私わたしたちは水みず の上うえの世界せかい に生う まれ変か わってきたいものです。」と、魚さかなたちは話はなし合あ っていました。
なかにも、 魚さかなの子供こ ど もらは躍お どり上あ がって、とどきもしない花は なに向む か って、飛と びつこうと騒さ わいだのです。
「お母か あさん、あのきれいな花は ながほしいのです。」といいました。
すると、 魚さかなの母親は は お やは、その子供こ ど もをいましめて、いいますのには、
「あれは、ただ遠と おくからながめているものです。けっして、あの花は なが 水み ずの上う えに落お ちてきたとて食たべてはなりません。」と教おしえました。
子供こども らは、母親ははおやのいうことが、なぜだか信しんじられなかった。
「なぜ、お母かあさん、あの花はなびらが落お ちてきたら、食たべてはなりません のですか。」と聞き きました。
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あし 新美南吉
二にひきの馬うまが、まどのところでぐうるぐうるとひるねをしていまし た。
すると、すずしい風かぜがでてきたので、一ぴきがくしゃめをしてめを さましました。
ところが、あとあしがいっぽんしびれていたので、よろよろとよろ けてしまいました。
「おやおや。」
そのあしに 力ちからをいれようとしても、さっぱりはいりません。
そこでともだちの馬うまをゆりおこしました。
「たいへんだ、あとあしをいっぽん、だれかにぬすまれてしまった。」
「だって、ちゃんとついてるじゃないか。」
「いやこれはちがう。だれかのあしだ。」
「どうして。」
「ぼくの思おもうままに歩あるかないもの。ちょっとこのあしをけとばしてく れ。」
そこで、ともだちの馬は、ひづめでそのあしをぽォんとけとばしま した。
「やっぱりこれはぼくのじゃない、いたくないもの。ぼくのあしなら いたいはずだ。よし、はやく、ぬすまれたあしをみつけてこよう。」
そこで、その馬はよろよろと歩いてゆきました。
「やァ、椅子いす がある。椅子がぼくのあしをぬすんだのかもしれない。
よし、けとばしてやろう、ぼくのあしならいたいはずだ。」
馬はかたあしで、椅子のあしをけとばしました。
椅子は、いたいとも、なんともいわないで、こわれてしまいました。
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あひるさんと時計 村山籌子
何な んでもかでも他人ひ との真似ま ねをしたがるあひるさんがありました。まだ 子供こ ど もでしたから無理む りもありませんが、大お おきなあひるさんたちが時計と け いを 持もっているのを見み て欲ほ しくて堪た まりません。お父とうさんにお願ねがいしました。
「お父さん、時計と け いを買かってください。」
お父さんは言い いました。「もっと大お おきくなったらにしよう。」
あひるさんは、すぐおばあさんのところへ行い きました。
「おばあさん、僕ぼ くに時計と け いを買か ってください。」
おばあさんはあひるさんをよく見み て言い いました。
「お前ま えはまだ小ち いさいから大お おきくなったらにしましょう。」
あひるさんは 涙なみだが出でて来きました。じだんだをふもうと思おもいました が、すぐに、大お おきな虫目鏡む し め が ねをおばあさんにわたして言い いました。
「おばあさんは目め が悪わ るいから、これでよく見み てください。僕ぼ くはとても 大お おきいんだから。」
おばあさんは虫目鏡む し め か が み
をかけてあひるさんを見直み な おしましたら、あひる さんはもうお父さんのように大お おきく見み えました。おばあさんは成程な る ほ どと 思おも
って財布さ い ふからお金か ねを出だ してあひるさんにやりました。
あひるさんはそれを持もって時計屋と け い やさんに行きました。
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