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酵母におけるマイトファジーの 分子機構と生理的役割 - J-Stage

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オートファジーは,細胞質成分をオートファゴソームと呼ば れ る 脂 質 二 重 膜 で 非 選 択 的 に 包 み 込 み,内 容 物 を リ ソ ソ ー ム/液胞で分解・再利用する現象である.近年,オートファ ジーにはこの非選択的な取り込み以外にも特定のタンパク質 やオルガネラを選択的に分解する機構があることが明らかに な っ て き た.ミ ト コ ン ド リ ア を 選 択 的 に 分 解 す る オ ー ト フ ァ ジ ー は ミ ト コ ン ド リ ア オ ー ト フ ァ ジ ー(略 し て マ イ ト ファジー)と称され,過剰あるいは機能低下に陥ったミトコ ンドリアを選択的に分解することでミトコンドリアの品質管 理にかかわっていると考えられている.本稿では,主に出芽

酵母 におけるマイトファジーの分

子機構と生理的役割について解説する.

オートファジーとマイトファジー

オートファジーは,酵母からヒトまで真核生物におい て高度に保存された細胞内タンパク質・オルガネラの分 解およびリサイクル機構の一つであり,栄養飢餓・酸化 ストレス・細菌感染・炎症などさまざまなストレスに

よって誘導される.オートファジーが誘導されると,細 胞質内に隔離膜と呼ばれるカップ状の膜構造が出現し,

この隔離膜が伸展とともに細胞質成分を包み込み,最終 的に膜が閉じることによって二重膜のオートファゴソー ムが形成される.引き続き,オートファゴソームはリソ ソーム(酵母や植物では液胞)と融合し,そこで取り込 まれた細胞質成分は加水分解酵素の作用によってアミノ 酸・核酸・脂肪酸などの栄養素にまで分解される.生じ た栄養素は再び細胞質に戻され再利用される(1).最近の 研究から,オートファジーは栄養素のリサイクル機構と してだけではなく,発生,腫瘍の抑制,免疫応答,加齢 にも関与し,さらには感染,神経変性疾患,心筋症,糖 尿病などの疾病予防においても重要な役割をもつことも 明らかにされてきている(2).オートファジーの研究は,

最近20年間で大きく発展したが,最初のブレイクス ルーは,Ohsumiらによる出芽酵母のオートファジー関 連遺伝子( u opha y-related geneまたは 遺伝子)

の発見である(3, 4).初期に同定された 遺伝子は,

ほとんどが哺乳類にも保存されており,その機能解析が 現在のオートファジーの分子機構や生理的意義の理解に 結びついている.後に述べる選択的オートファジーに関

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

The Molecular Mechanisms and Physiological Role of Mitophagy  in Yeast

Kentaro FURUKAWA, Tomotake KANKI,  新潟大学大学院医歯 学総合研究科

酵母におけるマイトファジーの 分子機構と生理的役割

古川健太郎,神吉智丈

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するものも含めると,出芽酵母では40個の 遺伝子 が同定されている.

近年の研究によって,オートファジーは細胞質成分の 非選択的な分解(バルクオートファジー)だけではな く,特定のタンパク質やオルガネラを選択的に分解(選 択的オートファジー)することも明らかとなってき た(5).具体的な分解対象として,ミトコンドリア(マイ トファジー),ペルオキシソーム(ペキソファジー),リ ボソーム(リボファジー),小胞体(ERファジー),核 成分(ヌクレオファジー),脂肪滴(リポファジー),タ ンパク質の凝集体(アグリファジー),細胞内侵入病原 菌(ゼノファジー)などが知られている.また,酵母に おいてのみ報告されているCvt(Cytoplasm-to-vacuole  targeting)経路は,アミノペプチダーゼI(Ape1)や

α

-マンノシダーゼ(Ams1)などの液胞内加水分解酵素 をオートファジー様のプロセスで液胞へ輸送してい る(5).本稿では,細胞活動に必要なATPの大部分を産 生するミトコンドリアをオートファジーが選択的に分解 する現象,すなわちマイトファジーについて,酵母(特

に断りのない限りは出芽酵母 )

における分子機構と生理的意義について解説する.

酵母におけるマイトファジーの分子機構 1. マイトファジー特異的因子の同定

Takeshigeらは,窒素源飢餓後に液胞内にミトコンド リアが認められることを電子顕微鏡観察で示してい る(6).これは,酵母において,ミトコンドリアがオート ファジーで分解されることを示した最初の報告である が,当時は,オートファジーが選択的にミトコンドリア を分解しているかどうかや,その分子機構については全 く不明であった.その後,KissovaらやTalらが,ミト コンドリア移行シグナルを付したGreen Fluorescent  Protein(GFP)を発現させミトコンドリアをGFPで可 視化し,GFPが液胞内に蓄積することを指標にマイト ファジーを観察している.彼らはこの方法を用いて,そ れぞれUth1, Aup1というミトコンドリアタンパク質を マイトファジー関連因子として報告しているが(7, 8),い ずれもその後の研究でマイトファジーとのかかわりは否 定されている(9, 10)

Kankiらがマイトファジーと既知の 遺伝子との 関連を調べたところ,ほとんどの 遺伝子がマイト ファジーに必須であった.このことは,マイトファジー は基本的にオートファジーと同じ分子機構を利用してミ トコンドリアを分解していることを示唆している(11)

一方で,すでに選択的オートファジーとして知られてい たCvt経路やペキソファジーに必要であるが,バルク オートファジーには必要ない ,  ,  がマイトファジーにも必要であったことから,マイト ファジーも選択的オートファジーであると考えられた(11). その後,OkamotoらとKankiらの2つのグループによっ て酵母遺伝子破壊株ライブラリーを用いたマイトファ ジー不能株のスクリーニングが行われ,それぞれ30以 上のマイトファジー関連遺伝子が同定されたが,この中 に共通してマイトファジー必須遺伝子である が 含 ま れ て い た(12, 13). が コ ー ド す るAtg32は,

529アミノ酸残基からなり,1カ所の膜貫通ドメインを もつミトコンドリア外膜タンパク質である.Atg32は,

バルクオートファジーやそのほかの選択的オートファ ジーには関与しないため,マイトファジー特異的な因子 であった.また,Atg32はマイトファジー誘導条件下で 細胞質タンパク質Atg11と結合することが免疫沈降法 や酵母ツーハイブリッド法で示されており,Atg32がミ トコンドリア上のレセプターとして機能し,Atg11と特 異的に結合することでオートファジーの積荷としてのミ トコンドリアを選択していると考えられる(9, 12).さら に,Atg32は隔離膜形成に必須のAtg8と結合するモ チ ー フ(Atg8-family interacting motif(AIM) ま た は  LC3-interacting region(LIR))を有しており,Atg32‒

Atg8の結合もマイトファジー過程において重要な役割 を果たしていることが示唆される(12)

2. マイトファジーの引き金となるAtg32のリン酸化

Atg32特異的抗体を用いたウェスタンブロットによる Atg32のバンドパターンの解析から,Atg32はマイト ファジー誘導時にリン酸化されること,さらにその主な リン酸化部位がSer114とSer119の2カ所であることが 明らかとなった(14).特に,Ser114をアラニンに置換し たAtg32変異体は,Atg11との結合能がなく,マイト ファジーも全く誘導することができなかった(14).さら に,メタノール資化性酵母 のPpAtg32

(Atg32オルソログ)もSer114に相当するSer159残基を 有しており,この変異体においてもマイトファジーの誘 導は見られなかったことから,Atg32のリン酸化はマイ トファジーにおける重要な分子スイッチであることが示 唆される(15)

このようなリン酸化依存的な選択的オートファジーの 分子機構は,その後,マイトファジーだけでなくペキソ ファジーやCvt経路においても報告されている(16).ペキ ソファジーのレセプターであるAtg36のSer97のリン酸

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化や,Cvt経路のレセプターであるAtg19とAtg34のそ れぞれSer391, Ser394とSer383のリン酸化は,レセプ ターとAtg11との結合に必須であり,それぞれの選択的 オートファジーに重要な分子スイッチとなっている.

3. マイトファジー誘導シグナル経路

マイトファジーを正に制御するシグナル伝達経路とし て,細胞壁完全性に関与するSlt2と高浸透圧応答に関与 するHog1の2 つのMAPK(mitogen-activated protein  kinase)経路が報告されている.Slt2経路の上流にある 細胞壁の損傷などを感知する6つのセンサータンパク質

(Wsc1〜4, Mid2, Mtl1)の中でもWsc1が関連しており,

その下流のPkc1, Bck1, Mkk1/2を通じてSlt2に至るま でのシグナル経路がマイトファジーに重要である(17). しかしながら,Slt2の下流がどのようにマイトファジー に関与しているかについては明らかになっていない.

Hog1経路の上流にある2つの浸透圧センサーのうちの Sln1支経路がかかわっており,その下流のSsk1, Pbs2 を通じHog1までのシグナル経路がマイトファジーに重 要である.Hog1の下流の詳細はいまだ不明であるが,

遺伝子破壊株においてはAtg32のリン酸化がほ とんど見られなくなることから,この経路はAtg32のリ ン酸化を制御していると考えられる(18).酵母のプロテ インキナーゼの遺伝子破壊株を用いたスクリーニングに よって,カゼインキナーゼ2(CK2)がAtg32の

でのリン酸化に必須であることが見いだされた(18). CK2の変異株やCK2特異的な阻害剤を用いた解析に よって,CK2はAtg32‒Atg11の相互作用やマイトファ

ジーに必須であること,Atg32はCK2によって直接リ ン酸化されることが明らかとなった(18).これらの結果 から,Hog1シグナルに応じてCK2がAtg32のリン酸化 を制御していると予想されるが,その制御機構は明らか にされていない(図1

4. ミトコンドリアの分裂と小胞体ミトコンドリアの 接触部位

ミトコンドリアは分裂と融合を繰り返しており,これ らのバランスによってミトコンドリアの形態が変化して いる(19).マイトファジーによって分解されるミトコン ドリアは,オートファゴソームの直径(最大で500から 1,000 nm程度)よりも小さくなければならない.このた め,ミトコンドリアの分裂因子はマイトファジーに重要 だと推測される.実際,ミトコンドリア分裂因子である Dnm1やFis1がマイトファジーに必要であるという報告 が多い.たとえば Maoらは,マイトファジーに必須の Atg11がミトコンドリア分裂因子Dnm1と直接結合する ことで,ミトコンドリアの分裂とマイトファジーを協調 させていると報告している(20).しかしながら,ミトコ ンドリア分裂因子の欠損はマイトファジーにほとんど影 響しないという報告も少なからず存在し(21),今後さら なる検討が必要である.

細胞内小器官は単独で存在しているわけではなく,異 なる小器官どうしの接触部位を介した物質のやり取りが 細胞機能を維持するうえで重要であることが知られてい る.酵母の場合,小胞体とミトコンドリアの接触部位 は,Mmm1, Mdm10, Mdm12, Mdm34からなるERMES 図1出芽酵母におけるマイトファジーの分子機構

Hog1 MAPK経路がマイトファジー誘導シグナルによって活性化されると,その下流にあると推定されるカゼインキナーゼ2(CK2)が Atg32のSer114をリン酸化する.選択的オートファジーのアダプタータンパク質であるAtg11がリン酸化されたAtg32と結合し,オート ファゴソーム形成の足場であるPAS(pre-autophagosomal structure/phagophore assembly site)へとミトコンドリアをリクルートする.

隔離膜形成に必須なAtg8とAtg32の相互作用を介して隔離膜は伸長し,ミトコンドリアはオートファゴソーム内に包まれる.その後,

オートファゴソームは液胞と融合し,ミトコンドリアは液胞内加水分解酵素によって分解される.

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(ER‒Mitochondria Encounter Structure) と 呼 ば れ る 複合体によって仲介され,これらの因子のうちの一つで も欠損させた場合,マイトファジーが強く阻害されるこ とが報告されている(22).マイトファジーの誘導条件下 において,Atg32を含む複数のオートファジー関連因子 がERMESと共局在し,ERMESは小胞体からオート ファゴソーム形成のための脂質供給への関与,ミトコン ドリア分裂時の起点として機能していると推定されてい る(図2

5. そのほかのマイトファジー関連因子

そのほかのマイトファジー関連因子として,ストレス 応答やRas-プロテインキナーゼA経路において機能す るWhi2(21),定常期におけるマイトファジー誘導に必須 な因子としてゲノムワイドなスクリーニングで同定され たAtg33(13),マイトファジーを負に制御する因子として 同定されたBre5‒Ubp3脱ユビキチン化酵素複合体(23)な どが報告されている.いずれの因子も培養条件によって はマイトファジーに必須ではない場合があるが,逆に言 えば,マイトファジーはさまざまな条件に応じて特異的 な因子を用いて厳密に制御されている可能性がある.ま た,酵母を用いたマイトファジー研究では主に生育に必 須ではない遺伝子のみが解析されており,今後は生育に 必須な致死遺伝子についても温度感受性変異株やコン ディショナル遺伝子発現制御株を用いて検討する必要が ある.

酵母におけるマイトファジーの生理的役割

マイトファジーの生理的役割は,余剰なミトコンドリ アの分解・再利用に加え,機能低下に陥ったミトコンド リア除去によるミトコンドリアの品質管理だと考えられ ているが,酵母において後者を支持する証拠は少ない.

FoF1 ATP合成酵素のフォールディングに寄与する Fmc1やミトコンドリア内膜上で陽イオン交換に寄与す るMdm38の変異によって,ミトコンドリアの膜電位の 低下などによるミトコンドリアの機能異常が引き起こさ れ,マイトファジーを誘導することが知られている(24, 25). しかしながら,このマイトファジーの誘導レベルは栄養 飢餓時のものと比較すると非常に弱く,マイトファジー がミトコンドリアの品質管理に貢献しているという直接 的な証拠とはなっていないのが現状である.

一方で, 遺伝子の同定によって,酵母におけ るマイトファジーの生理的役割の一端が明らかになりつ つある.酵母におけるミトコンドリアの量は代謝経路の 状態に応じて絶えず変化している.エネルギー生産にミ トコンドリアを必要とする非発酵性炭素源培地で培養し た酵母は豊富なミトコンドリアを含有しているが,窒素 源飢餓にさらされるとマイトファジーによってミトコン ドリアが速やかに分解される.一方, 遺伝子破 壊株が同様の条件にさらされた場合にはミトコンドリア は分解されず,酸素呼吸の副産物として放出された活性 酸素がミトコンドリアに傷害を与えることによって,ミ トコンドリアDNAの欠失が生じやすくなる.この結 果,重篤なミトコンドリアDNA傷害はやがて完全に呼 吸能を失ったプチ変異をもたらすことが報告されてい る(26).分裂酵母 の静止状態

(G0期)において,プロテアソームの不活性化は活性酸 素の蓄積を引き起こすが,マイトファジーがミトコンド リアを分解することによって活性酸素の蓄積を最小限に 抑えていることが示されている(27).これらの結果から,

マイトファジーはミトコンドリア量を制御することに よって活性酸素の産生を最小限に抑えるのに必須な機能 であり,結果としてミトコンドリアの品質管理に寄与し ていることが強く示唆される(図3.最近の報告では,

いくつかのミトコンドリアマトリックス内のタンパク質 は,異なった反応速度でマイトファジーによる分解を受 けることが示されている(28).このことから,マイト ファジーの生理的役割はミトコンドリアの量をひとまと めに制御することや活性酸素を最小限に抑えることだけ でなく,マトリックス内の特定のタンパク質を優先的に 分解することによってミトコンドリアの品質維持に貢献 図2ミトコンドリア分裂因子と小胞体ミトコンドリアの接触

部位

マイトファジーが誘導されると,Atg32‒Atg11の相互作用を足掛 かりとし,ミトコンドリア分裂因子がAtg11によってミトコンド リアにリクルートされる.小胞体‒ミトコンドリアの接触部位は ERMES(ER‒Mitochondria Encounter Structure)複合体によっ て仲介され,小胞体からの脂質供給が隔離膜の伸長を促進させる と考えられている.

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している可能性も考えられる.

マイトファジーは経時老化した酵母におけるカロリー 制限や胆汁酸投与時の寿命延長において重要な役割を担 うことが報告されている(29).マイトファジー欠損株に おけるカロリー制限は,ミトコンドリア形態異常,酸素 消費量の低下,ミトコンドリア膜電位の低下,ミトコン ドリアからのチトクローム 放出量の増加,細胞内 ATP量の低下など,さまざまなミトコンドリアの機能 低下を引き起こす.このようなミトコンドリアの機能障 害の一因は,酸化的リン酸化能の低下や活性酸素の産生 量の増加であると考えられる.また,マイトファジー は,ミトコンドリア・小胞体・細胞膜における膜脂質の 恒常性維持にも重要であることも示されている.した がって,マイトファジーはカロリー制限下においてミト コンドリアの品質と細胞の脂質組成の維持に重要である ことが示唆される.さらに,マイトファジーがpalmi- toleic acidによって誘発される細胞死の一形態である liponecrosisを抑制していることから,マイトファジー は細胞死の制御にも何らかの役割があると考えられてい る(30)

哺乳細胞におけるマイトファジー

酵母においてはAtg32が唯一のマイトファジーレセ プターとして同定されているが,哺乳細胞では,Nix/

BNIP3L, BNIP3, FUNDC1, PINK1-Parkin, Optineurin,  NDP52, Bcl2-L-13など複数のミトコンドリアタンパク質 がレセプターとして報告されている.赤芽球から赤血球 へと成熟する過程で,脱核後にミトコンドリアが除去さ

れるが,これはマイトファジーによるミトコンドリア分 解である.Nix/BNIP3LとBNIP3は,赤血球細胞の成熟 化の際のミトコンドリアの除去に必要なマイトファジー レセプターと考えられている(31).FUNDC1は,低酸素 ストレスや酸化的リン酸化の阻害剤処理によって,LC3

(酵母Atg8オルソログ)やULK1(酵母Atg1オルソロ グ)との相互作用を介しマイトファジーに関与している と考えられている(32).ParkinとPINK1によるマイト ファジー制御機構は,哺乳細胞において最も研究が進ん でおり,これらの異常は家族性パーキンソン病の原因と なることが知られている(33).PINK1は脱分極したミト コンドリア外膜に集積し,ユビキチンをリン酸化する.

リン酸化を受けたユビキチンは,E3ユビキチンリガー ゼであるParkinを活性化させ,ミトコンドリア外膜に 移行させる.Parkinによるミトコンドリア外膜タンパ ク質のユビキチン化がマイトファジー誘導のシグナルと なる.また,OptineurinとNDP52は,PINK1依存的に ミトコンドリアに集積し,DFCP1, ULK1, WIPI1などの オートファジー因子をミトコンドリア近傍に集積させる ことでオートファゴソーム形成に関与していると考えら れている(34).Bcl2-L-13の過剰発現によってDrp1(ミト コンドリア分裂因子)非依存的なミトコンドリアのフラ グメント化とParkin非依存的なマイトファジーが引き 起こされ,逆にノックダウンによってミトコンドリア傷 害で誘導されるフラグメント化とマイトファジーの減衰 が観察されている(35).酵母の 遺伝子破壊株にお いてBcl2-L-13を発現させるとマイトファジーの回復が 見られるため,Bcl2-L-13はAtg32の機能的ホモログで あると考えられている.このように,哺乳細胞における 図3出芽酵母におけるマイトファジーの生理的 役割

窒素源飢餓などのストレスにさらされると,野生 株ではマイトファジーがミトコンドリアを分解す ることで活性酸素(ROS)の産生を最小限に抑え ることによってミトコンドリアの品質管理が行わ れている.一方,マイトファジー欠損株では分解 されないミトコンドリアがROSを産生し続けるた め,ミトコンドリアに酸化傷害が蓄積する(図中 の赤いミトコンドリア).最終的にはミトコンドリ アDNAの欠失が起こり,呼吸能を失ったプチ変異 が生じる.

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マイトファジーの解明も進んでおり,今後はマイトファ ジーレセプターを標的としたマイトファジー誘導剤また は阻害剤の開発を通じて,ミトコンドリア関連疾患の治 療法開発などへの展開を期待したい.

今後の展望

マイトファジーの特異的レセプターであるAtg32の 同定をブレイクスルーとして,マイトファジーの分子機 構が明らかとなってきたが,以下のような未解明な問題 点も多く残されている.第一に,Atg32はCK2によっ て直接リン酸化を受けるが,恒常的に活性化状態にある CK2がマイトファジーの誘導条件下においてのみAtg32 をリン酸化する制御機構は不明である.Atg32のリン酸 化にはHog1シグナル伝達経路が重要であることから,

CK2によるAtg32のリン酸化はHog1の下流で制御され ていると予想される.同様に,Cvt経路の特異的レセプ ターであるAtg19/Atg34 およびペキソファジーの特異 的レセプターであるAtg36も恒常的に活性を有する Hrr25によってリン酸化されることから(16),選択的オー トファジーのレセプターがどのように制御されるかを理 解することは極めて重要な課題である.また,Hog1だ けでなく,Slt2 MAPKもマイトファジーに重要である ことが報告されている.哺乳細胞においてもErk2と p38

α

の2つのMAPKがマイトファジーに必要であるこ とが知られており(36),MAPKとマイトファジーの関連 性については,酵母と哺乳類の共通したマイトファジー 制御機構が存在する可能性があり,さらなる研究が必要 である.

第二の問題点として,ミトコンドリアの形態がマイト ファジーの効率にどのような影響を及ぼすのかという点 である.ミトコンドリア分裂因子欠損酵母における チューブ状の形態のミトコンドリアがマイトファジーに よって分解されるという報告(21)が事実ならば,マイト ファジー誘導条件下においてのみ機能を発揮するような 未同定の分裂因子が存在する,あるいは分裂因子に依存 しないミトコンドリアのオートファゴソームへの取り込 み機構が存在する,などの可能性について検討する必要 がある.また,ミトコンドリア融合因子欠損酵母におい ては多数の断片化されたミトコンドリアが存在するにも かかわらず,マイトファジーの効率は野生株と同等であ ることが知られている.したがって,ミトコンドリアの 形態や大きさというもの自体がマイトファジーの効率に 直接的な影響を及ぼさない可能性も十分考えられる.

酵母におけるマイトファジーに関する最も重要な疑問

は,マイトファジーは多くのミトコンドリアの中から機 能低下に陥ったミトコンドリアのみを特異的に認識して いるかどうかという点である.この疑問は,酵母におけ るマイトファジーの生理的重要性と直接関連している.

近年,哺乳細胞において,機能障害のあるミトコンドリ アがマイトファジーによって分解されることの証拠が蓄 積しているが,酵母においては機能低下に陥ったミトコ ンドリアのみがマイトファジーによって分解される直接 的証拠は得られていない.酵母においてもそのような特 別な認識機構が存在すれば,その分子制御機構の解明 は,ヒトにおけるミトコンドリア関連疾患治療のための 知的基盤として貢献することが期待される.

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日本農芸化学会

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プロフィール

古川 健太郎(Kentaro FURUKAWA)

<略歴>2000年東北大学農学部応用生物 化学科卒業/2004年日本学術振興会特別 研究員(DC2)/2005年東北大学大学院農 学研究科応用生命科学専攻博士課程修了

(農学)/同年日本学術振興会特別研究員

(PD)/2006年スウェーデン・ヨーテボリ 大学ポスドク研究員/2009年同大学・上 級研究員/2015年新潟大学大学院医歯学 総合研究科特任助教<研究テーマと抱負>

酵母にしかできないアプローチによってマ イトファジーの分子機構を解明したい<趣 味>旅行

神吉 智丈(Tomotake KANKI)

<略 歴>1997年 九 州 大 学 医 学 部 卒 業/

2003年同大学大学院医学系研究科分子常 態医学専攻博士課程早期修了/同年同大学 病院検査部医員/2005年コロンビア大学 ポ ス ド ク/2007年 ミ シ ガ ン 大 学 ポ ス ド ク/2009年 九 州 大 学 病 院 検 査 部 助 教/

2012年新潟大学大学院医歯学総合研究科 テニュアトラック教授/2015年同大学大 学院医歯学総合研究科教授<研究テーマと 抱負>マイトファジーを使って病気を治す こと<趣味>楽しく研究すること<研究室 ホームページ>http://www.med.niigata-u.

ac.jp/mit/

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.266

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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4, 2013 である は,細胞膜上に存在する重金属トラ ンスポーターをコードする. は構造上,12 個のエキソン(アミノ酸に翻訳される部位)と11個の イントロン(アミノ酸に翻訳されない部位)から成り 立っている.興味深いことに,得られた3つの変異体は すべて,この構造遺伝子に変異が挿入されていたが,変 異の挿入に大きな違いが見いだされた.lcd-kmt1では