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酵素活性を引き出す隠し味 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 55, No. 11, 2017

酵素活性を引き出す隠し味

溶媒のひと振りで酵素活性は変えられる

酵素は化学反応を加速する触媒機能を有するタンパク 質である.多くの生命科学研究では,その機能が生命活 動とどのようにリンクしているのかを解明し,理解を深 めることに主眼が置かれる.一方で,触媒としてみたと きには,常温,常圧,中性pHのような,温和な環境で 化学反応を加速させる有用な物質と捉えることができ る.実際に,数十年にわたって実用化に向けた研究が積 み重ねられており,工業利用される酵素もある.しか し,一般的に言って,得られた酵素の多くは魅力的な機 能をもちつつも,実用化にまで至る例は少ない.その理 由には,1)酵素活性が低く,十分な生成物量が得にく い,2)酵素には特定の反応しか触媒できない高い分子 認識能(基質特異性)があり,われわれにとって都合の 良い反応を触媒できない,3)酵素自体の安定性が低い ものが多く,比較的短時間で活性を失ってしまう,4)

そもそも調製コストが高すぎる,などが挙げられる.

調製コストに関しては,実用化された酵素がある以 上,本当に有益な反応に利用できれば,十分に克服可能 な課題であると考えられるが,1)〜3)に関しては,酵 素自体の性質の改善なくして,克服することは困難であ る.従来,酵素機能の改善手法として用いられてきたの は,酵素のアミノ酸配列を変換する遺伝子変異導入法で ある.特に,酵素分子の立体構造が明らかになり,誰で も容易に構造データにアクセスができるようになったこ とや,どのアミノ酸が反応に重要なのかを視覚的に捉え られるようになったことで,酵素機能を狙ったように改 変しようとする部位特異的変異導入法が広く利用される ようになった.これは,合理的な設計手段として現在で も重要な機能改変技術の一つになっている.

そのほか,同じく変異導入による改変ではあるが,目 的の酵素にランダムに変異を導入した,大量の変異体群

(変異体ライブラリー)を作成した後,そこから,目的 の機能を有する変異体酵素を探し出す手法や,酵素に非 天然化合物を直接結合させる化学修飾により活性を改善 する手法,さらにはコンピュータシミュレーションによ る酵素自体の設計など,有用酵素を生み出すための基盤 技術が多数報告されている.

研究段階において実際にどの手法を採用するのかは,

各研究者の得意とする手法や酵素分子の性質などから決 められるが,いずれの手法についても共通している課題 は,各実験作業に時間がかかる割に,狙ったとおりの改 善にはつながらないことであり,最終的には試行錯誤を 避けられない点にある.そのため,より簡単に酵素機能 を改変できる手法が望まれている.

近年,容易に機能改変を実現できる可能性がある手法 として注目されはじめているのが,反応液中に本来の反 応,酵素活性とは直接関係のない化合物を添加すること で,酵素活性や基質特異性,立体選択性を変換する手法 である(1).個別の紹介については総説(1)を参照していた だきたいが,多くに共通する特長は,添加した化合物が 酵素と非共有結合により相互作用し,安定性,活性や基 質特異性を変換している点である.このような,化合物 と酵素の相互作用によってその酵素機能の変化が起こる 現象は,天然でもアロステリック効果としてしばしば観 察される仕組みである.したがって,現象自体は普遍的 なものであるが,天然の環境ではおよそ接触することも ないような化合物でも,同様に酵素機能調節に関与でき るということはたいへん興味深い.とりわけ,合成プロ セスで酵素を用いる場合には,非天然化合物と接触する 可能性は高く,酵素と小分子相互作用と活性や基質特異 性の相関を解明することは,実用化の観点でも重要な課 題と言える.

実際の合成プロセスのなかで,酵素が触れる可能性が 最も高い非天然化合物は有機溶媒分子であろう(必ずし も,非天然なものばかりではないが,酵素が機能する天 然環境とはかけ離れていることから,本稿では非天然と する).いかに,水溶性が低い非混和性の有機溶媒を用 いても,水層への分配を完全に抑制することができない ことや,水層‒有機層の液界面にも酵素は接近しうるた め,酵素と溶媒の相互作用は避けられないものと考えら れる.実際に,有機溶媒を用いた酵素反応は,長い間研 究の対象となっており,その活性や安定性に関する研究 例は非常に多い.しかし,その反応系は,水を排除した 高濃度有機溶媒環境であることが多く,酵素機能を改 変,調節できる添加分子として利用検討をする研究例は

少ない(2, 3).そこで,酵素機能を向上させる,添加分子

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として溶媒分子を利用し,酵素や基質の組み合わせを系 統的に解析することで,一貫した性質などを見いだせな いかと考え,研究を進めてきた.

対象とした酵素はアルコール脱水素酵素(ADH)で ある.複数の生物に由来するADHに対して,さまざま な溶媒,基質の組み合わせを検討したところ,実際に,

に由来する耐熱性 ADH に環状エーテルである1,3-ジオキソランを添加すると,

基質である2-ブタノールの酸化反応速度が3倍程度,加 速することを突き止めた.興味深いことに,同じ環状 エーテルでも,僅かに構造が変わるだけで,活性向上効 果が見られなくなったり,むしろ抑制されるようになっ たりするケースがあることも明らかにした.この,1,3- ジオキソランの添加によるアルコールの酸化反応の加速 も,よりアルキル鎖の長いアルコールを基質にした場合 では,阻害が見られる組み合わせもあることが明らかに なった(4).

以上の結果は,酵素反応に添加した溶媒分子が,状況 によってはわれわれにとって都合のよい機能変換をもた らしうることを示唆している.しかし,課題は多く,実 際にどのように溶媒分子が結合しているのか,いかにし て活性向上をもたらしたのか,などは解明には至ってい ない.最近,未発表ではあるが,シミュレーションによ る溶媒結合部位の推定を行い,酵素周りに存在する環状 エーテルの分布が明らかになりつつある(図1.同様 のシミュレーションを,活性が向上したさまざまな溶媒 で繰り返し,相互作用部位の分布について特定のパター ンなどが存在することを明らかにできれば,逆に,どの ような溶媒分子を添加すれば,活性向上や,基質特異性 変換ができるようになるかを推定できるようになる可能 性がある.当然シミュレーション自体には,一定の時間 を要するものの,活性が向上する溶媒,酵素,基質の組 み合わせの探索は,従来型の活性改善法と比較すれば一 実験に要する時間,コストを格段に削減できること,シ ミュレーションで指針が定まれば,最適化の過程も溶媒 分子の変換だけで行える可能性があることなどから,結 果的に効率的な活性改善手法になると考えられる.

しかし,工業的なスケールで考えると,少量の溶媒で あっても直接反応系に添加することが問題になることも あるだろう.たとえば,添加した溶媒のせいでプロダク トの回収効率が低くなってしまう可能性や,添加した溶 媒を除去するために新たなプロセスを導入しなければな

らなくなるような,コストに見合わないケースである.

シミュレーションで明らかにできる有機溶媒の分布は,

すなわち溶媒分子の結合しやすい部位を明らかにするこ とであり,そこに位置するアミノ酸を同定することにつ ながる.活性向上が見られる複数の有機溶媒分子を用い たシミュレーションによって,常に,溶媒分布が重なる 領域を見いだすことができれば,そこには,活性向上に 重要なアミノ酸が存在する可能性が高い.したがって,

その領域のアミノ酸に変異を導入し,擬似的に溶媒結合 状態を再現するような変異体を設計できれば,活性向上 のために溶媒を添加する必要はなくなる.これは,実用 化に向けた障害を克服できるだけでなく,有機溶媒分子 を活性向上に重要なアミノ酸を探索するプローブとして 利用することで,立体構造や反応機構からだけでは設計 できないような新たな活性向上変異体の設計法にもなる と考えている.

現段階では,用いる溶媒分子も混和性溶媒に限定され ているが,同様に活性向上を引き起こす分子には非混和 性溶媒分子なども含まれるものと思われる.これらの分 子を用いた実験的な活性向上の検証と,シミュレーショ 図1 ADH表面の1,3-ジオキソランの分布シミュレーション ADH(リボンモデル)と1,3-ジオキソラン(左上の分子構造)

共存下で5 nsの分子動力学シミュレーションを行い,溶媒の分布 を計算した.黄色で示した領域は,長時間溶媒が存在する領域を 表しており,その近傍は溶媒と相互作用しやすい構造になってい るのではないかと予想される(赤,青,水色,白の球で示された モデルは補酵素)

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ンを組み合わせることで,効率的な触媒の設計を目指し たい.

  1)  Y. R. Liang, Q. Wu & X. F. Lin:  , 17, 90 (2016).

  2)  K. S. Rabe, M. Erkelenz, K. Kiko & C. M. Niemeyer: 

5, 891 (2010).

  3)  T.  Gerhards,  U.  Mackfeld,  M.  Bocola,  E.  von  Lieres,  W. 

Wiechert, M. Pohl & D. Rother:  , 354,  2805 (2012).

  4)  N. Kawakami, Y. Hara & K. Miyamoto: 

5, 3922 (2015).

(川上了史,慶應義塾大学理工学部)

プロフィール

川上 了史(Norifumi KAWAKAMI)

<略歴>2009年広島大学大学院理学研究 科生物科学専攻修了,博士(理学)/同年名 古屋大学物質科学国際研究センター博士研 究員/2013年名古屋大学理学研究科生命 理学専攻博士研究員/2014年慶應義塾大 学理工学部生命情報学科助教/2017年同 専任講師<研究テーマと抱負>タンパク質 超分子化学や,微生物の実験室進化などの 研究も始めました<趣味>CGで遊ぶ

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.735

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Dokumen terkait

はじめに 触媒活性を持つ RNA(リボザイム)や RNA干渉の発見によ り,RNA が遺伝子の発現調節において重要な役割を担ってい ることが明らかになっている.これらの機能性RNA は,多く の場合RNA のみでは活性を示さず,タンパク質と複合体(リ ボ核タンパク質)を形成することにより機能している.従っ て,機能性RNA の作用機構を理解するためには,タンパク質