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加水分解酵素を用いる不斉合成反応の新展開 - J-Stage

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384 化学と生物 Vol. 54, No. 6, 2016

加水分解酵素を用いる不斉合成反応の新展開

異分野との融合

リパーゼは本来,脂質のエステル結合を加水分解する 酵素であるが,有機溶媒中でも同等の高い活性とエナン チオ選択性を示す.この特性は,ラセミ体のカルボン酸 やアルコールの速度論的光学分割に汎用されている.し かし,当然,生成物の収率は最大で50%となる.反応 しなかったエナンチオマーを回収し,何らかの方法でラ セミ体に戻して光学分割を行う操作を何度も繰り返せ ば,収率は100%に近づいていくが,これはたいへんな 労力を要する作業である.光学活性体をラセミ化させる 触媒をリパーゼと同時に用いて,一つのフラスコ内で速 度論的光学分割とラセミ化を同時進行させることができ れば,光学的に純粋な化合物が収率100%で得られる.

本法は動的光学分割(dynamic kinetic resolution,以下 DKRと略す)と呼ばれる(1, 2).このように,酵素触媒化 学に金属触媒化学などの異分野を融合することで,全く 新しい不斉合成法が生まれる.本稿では,筆者らが最近 開発したリパーゼとバナジウム触媒を併用するDKRを 中心に,この領域の最先端を紹介する.

DKRを高収率で達成するためには,いくつかの要件 を同時に満たさなければならない(詳細は総説(1, 2)参 照).なかでも最大の難関は,リパーゼとラセミ化触媒 の共存性である.リパーゼの表面には多数の反応性官能 基が存在するために,両触媒が反応して互いに失活する ことが多い.また,リパーゼが触媒活性を維持するため に表面に抱えている多数の水分子によってもラセミ化触 媒が失活することがある.

リパーゼとラセミ化触媒を併用するDKR法の成功例 は1990年代の後半から報告され始め,主にパラジウム やルテニウムなどの後周期遷移金属錯体が利用されてい る.たとえば,ルテニウムによるラセミ化は,酸化還元 反応で進行する(図1A).ルテニウムとリパーゼとの共 存性は概ね良好であり,多くの応用例が報告された(1)

一方,筆者らはラセミ化触媒にオキソバナジウム

7a7b)を利用することで,従来とは全く異なるDKR 法を開発した.すなわち,オキソバナジウムは水酸基の 1,3-転位反応を伴いながらラセミ化を起こし,4種の異 性体[( )-4, ( )-4, ( )-5, ( )-5]の間で動的平衡を生 じる.同時に,リパーゼはその混合物のなかから( )-4

を高選択的にエステル化することでDKRが達成され

(3, 4)(図1B).それぞれの触媒を単独に用いては,こ

の成果は得られない.また,本法ではアルコール45 を等価な原料として利用できる.これは,ルテニウム錯 体を用いる図1Aの反応には無い,合成化学上の大きな 利点である(その応用例は後述).しかし,これらのオ キソバナジウム(7a7b)はラセミ化活性が十分とは言 えず,生成物の収率や光学純度が低い場合があった.一 方,オキソバナジウムの反応性を高めるとリパーゼとの 共存性が悪化した.

筆者らは,オキソバナジウムをメソポーラスシリカ

(以下MPSと略す)の細孔内部に固定化したV-MPSを 創製し,これらの問題点を一挙に解決した(5, 6).シリカ

(二酸化ケイ素)のみで構成されているMPSは,均一で 規則的な細孔を無数に有する(図1B).2〜50 nmの範囲 で細孔径サイズが異なる種々のMPSを入手できるが,

本DKRには細孔径約3 nmのMPSを利用し,細孔内部 表面のシラノールにバナジウムを共有結合したV-MPS を調製した.分子量1,000程度以下の小分子有機化合物 はV-MPSの細孔に簡単に出入りすることができるが,

巨大なリパーゼは細孔に入ることができない.このよう にして反応場を物理的に分離するというコンセプトであ る(図1C).調製したV-MPSは,従来の触媒(7a7b

よりもラセミ化活性が10倍以上高く,また,V-MPSを ラセミ体(45)のDKRに使用すると,光学活性体6

(95〜99% ee)が90%以上の収率で得られた.さらに,

反応後にリパーゼとV-MPSの混合物を回収し,再利用 することもできた. 

筆者らのDKR法の応用例として,抗菌剤(+)-タニ コライドの不斉全合成を示す(図2A).反応系中で水酸 基の1,3-転位を伴う利点を生かし,安価なエノンから合 成した第3級アルコール5aをDKRの基質とし,光学的 に純粋な( )-4aを高収率で得た.通常,光学活性な環 状アリルアルコールの不斉合成には対応するエノンの不 斉還元が汎用されるが,そのためには,酸化状態が一つ 高い基質が必要となる.一方,筆者らのDKRでは酸化 状態が変わらないことや,4と等価な基質として5が使 えるために,より安価で入手容易な原料の選択,全工程

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の短縮,全収率の向上,廃棄物の削減などの利点を有し ている(5).今後,工業的な利用が期待される.

筆者らは一方で,DKRによって導入されたアシル基 を環状分子構築の部分構造として有効利用する研究も並 行して行っている(7).たとえば,活性オレフィン部位を 組み込んだアシル化剤9を用時調製し,これにニトロン

を有するラセミ体アルコール11をリパーゼと共に反応 させると,生成する光学活性エステル( )-12は直ぐさ ま分子内(3+2)環化付加反応を起こし,多数の不斉炭 素を有する環状化合物13を一挙に不斉構築できた.こ の変換を鍵工程として,市販のラセミ体ヒドロキシアミ ン10から全4工程で天然物(−)-ロスマリネシンの不斉

図2天然物の不斉合成への応用

(A)(+)-タ ニ コ ラ イ ド の 不 斉 全 合 成,(B)

(−)-ロスマリネシンの不斉全合成.

図12種類の動的光学分割法(DKR)とラ セミ化の反応機構

(A)ルテニウム錯体を用いるDKR.(B) V-MPS を用いるDKR.(C) MPSの細孔を利用した反 応場の分離の概念図.

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全合成が達成された.合成途中で保護基を一切用いず,

また,原料のカルボン酸8(赤色)とアルコール10(青 色)の構成原子が最終化合物に効率的に組み込まれてい る.このように,リパーゼを活用すると原子効率に優れ た不斉合成法が創製できる(8)(図2B).

上記のように,リパーゼ(生体触媒)とオキソバナジ ウム化合物(金属触媒)という異質な触媒を1つのフラ スコ内で同時に用いることにより,入手容易なラセミ体 アルコールを1つの光学活性体にほぼ定量的に変換する ことが可能になった.さらに,無機多孔質材料の細孔を 活用すれば,両触媒の共存性を劇的に高めることもでき る.このような異分野融合によって,それぞれの触媒を 単独に用いては為し得ない複雑な化学変換が可能にな る.

最近,リパーゼと金属触媒を一つの細孔内部に固定し た新触媒の開発(9)や,酵素と,金属触媒や有機触媒を同 時に用いる反応開発(10)など,さまざまな異分野融合が 進んでいる.酵素という精緻な触媒に,ほかの触媒を用 いて ひと味付ける ことで,従来類を見ない変換法や 人工触媒が開発できる可能性は大きい.

  1)  O. Verho & J.-E. Bäckvall:  , 137, 3996  (2015).

  2)  S. Akai:  , 43, 746 (2014).

  3)  S. Akai, K. Tanimoto, Y. Kanao, M. Egi, T. Yanamoto & 

Y. Kita:  , 45, 2592 (2006).

  4)  S. Akai, R. Hanada, N. Fujiwara, Y. Kita & M. Egi: 

12, 4900 (2010).

  5)  M. Egi, K. Sugiyama, M. Saneto, R. Hanada, K. Kato & S. 

Akai:  , 52, 3654 (2013).

  6)  K. Sugiyama, Y. Oki, S. Kawanishi, K. Kato, T. Ikawa, M. 

Egi  &  S.  Akai:  ,  Ahead  of  print  (2016).

  7)  S. Akai, K. Tanimoto & Y. Kita:  ,  43, 1407 (2004).

  8)  H. Nemoto, K. Tanimoto, Y. Kanao, S. Omura, Y. Kita & 

S. Akai:  , 68, 7295 (2012).

  9)  K. Engström, E. V. Johnston, O. Verho, K. P. J. Gustafson,  M.  Shakeri,  C.-W.  Tai  &  J.-E.  Bäckvall: 

52, 14006 (2013).

10)  C.  A.  Denard,  J.  F.  Hartwig  &  H.  Zhao:  , 3,  2856 (2013).

(赤井周司,大阪大学大学院薬学研究科)

プロフィール

赤井 周司(Shuji AKAI)

<略歴>1982年大阪大学薬学部製薬化学 科卒業/1987年同大学大学院薬学研究科 博士後期課程薬品化学専攻修了(薬学博 士)/同年日本学術振興会特別研究員/

1989年 大 阪 大 学 薬 学 部 助 手,准 教 授/

2005年静岡県立大学薬学部教授/2013年 大阪大学大学院薬学研究科教授,現在に至 る<研究テーマと抱負>生体機能を制御す る化合物の合成,酵素触媒不斉合成法,

フッ素化法などの新規合成法の開発,短寿 命高活性ベンザイン類の反応制御と応用

<趣味>野菜作り

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.384

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