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光合成生物の仕組みとその光応答戦略 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 51, No. 10, 2013

光合成生物の仕組みとその光応答戦略

光を見て光を食べる

光合成と聞くと,光を浴びた緑葉が水分解に伴い酸素 を発生し,二酸化炭素から炭水化物を合成する過程を想 起するだろうが,光合成はもっと多様である.酸素を発 生しない,緑色でない,あるいは,水を分解しない光合 成生物も存在する.なかでも,最初にできた光合成は酸 素を発生せず,硫化水素から硫黄を発生するような光合 成であった.その後,2つの光化学系がつながり,水を 分解し,酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアが出 現した.それまでは硫化水素などが発生する局所的環境 でのみ生命が存在していたが,水分解に成功したこと で,生命は海全体へと生育環境を広げた.また,分子状 酸素が存在しない環境に適応していた当時の生命にとっ て,活性酸素種の発生要因となる酸素は毒性が高く,酸 素発生型光合成の出現により,絶滅の危機にさらされ た.そのような状況が,酸素を代謝する呼吸と真核生物 の誕生を促したと言える.さらに,放出した酸素により 形成されたオゾン層が紫外線を遮断することで,生命の 陸上進出が可能となった.このように,光合成は環境や 生命を劇的に変化させ,生命の生育領域を大幅に広げ た.光合成生物はこのような劇的な環境変化を生き抜 き,多様な環境に適応したため,それぞれの環境に対す

る応答戦略も多様化している.ここでは,光環境に焦点 を絞り,光合成生物の光応答戦略について簡単に紹介す る.

酸素発生型光合成は赤色光と青色光を主に吸収するク ロロフィルを反応中心にもつが,ほかの色素がそれ以外 の光エネルギーをクロロフィルに伝えることで,幅広い 光質を利用する光合成生物が存在する.つまり,光合成 生物の種類によって,光の色に対する好みが異なる.ま た,光合成にとって光は強ければ良いのではなく,光の 強さにも好みが存在する.光合成生物は光の色や強さを 感知する色素結合タンパク質(光受容体)をもち,それ らが自身に当たった光を情報として捉え,その光環境下 で効率良く光合成するために,自身の体を最適化する.

ここでは,研究が進んでいるシアノバクテリアと陸上植 物を例に,その光応答戦略を分子から細胞・個体レベル まで概説する.

まずは,光受容体を紹介する.陸上植物では,フラビ ンを結合した青色光受容体(フォトトロピン,クリプト クロム)と開環テトラピロールを結合した赤/遠赤色光 受容体・フィトクロムが存在する(1) (図1.陸上の光合 成生物のほとんどがクロロフィル以外の補助的色素をあ

図1光合成生物の光応答戦略 陸上植物とシアノバクテリアの光応 答戦略について,模式的に示した.

陸上植物は,均一な集団の中で光の 奪い合いをしており,赤色光と青色 光を感知して,葉緑体定位運動や避 陰応答などを制御している.一方,

シアノバクテリアは,多様な光合成 補助色素をもつ光合成生物のヘテロ な集団の中で光の奪い合いをしてお り,多様な光質を感知して,走光性 や細胞凝集などを制御している.最 近,多様な光質を感知するシアノバ クテリオクロムの結晶構造が決定さ れ(図中央右),フィトクロムの結晶 構造(図中央左)と比較することで,

多様な光質を感知する仕組みが解明 されつつある.

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今日の話題

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まりもたない緑色植物であるため,陸上植物の場合,均 一な集団の中で,クロロフィル同士が光を奪い合ってい ると言える.その意味で,クロロフィルが吸収する青色 光と赤色光を感知するシステムを陸上植物がもっている のは,非常に適応的といえる.

一方,シアノバクテリアには,フラビン結合型青色光 受容体とフィトクロムに加え,シアノバクテリオクロム という光受容体群が存在する.その色素結合領域はフィ トクロムと相同だが,青/緑色光,緑/赤色光など,多 様な光質に応答する光受容体が同定されている(2).これ は,シアノバクテリアが水圏に生息している場合が多 く,水圏においては,緑藻,紅藻,褐藻など多様な光合 成補助色素をもつヘテロな集団の中で光を奪い合ってい ることと関係するかもしれない.つまり,多様な光合成 生物との競合の中で効率良く光合成するために,多様な 光質を感知しているのだろう.最近,シアノバクテリオ クロムの色素結合領域の結晶構造が明らかとなった(3) 

(図1).フィトクロムの色素結合領域の構造と比較する ことで,多様な光質を感知する分子基盤が解明されつつ ある.

次に,感知した光に対する細胞・個体レベルでの応答 を紹介する(図1).陸上植物はほかの植物の陰に隠れ ると,茎を伸長させて陰から避ける(1).この避陰応答 は,赤/遠赤色光を感知するフィトクロムが制御してい る.ほかの葉の陰に入ると,クロロフィルによって赤色 光が吸収される一方,遠赤色光はあまり吸収されず,透 過光は赤色光に対する遠赤色光の割合が大きくなる.そ れにより,フィトクロムが遠赤色光を感知し,シグナル が伝達し,茎が伸長する.この現象は見るべき光質と,

光受容体が受容する光質が合致し,適応的な現象と言え る.

陸上植物の葉緑体は,強い光から逃避し,弱い光に集 まる性質をもち,そのような現象は葉緑体定位運動と呼 ばれる(1).この応答は,青色光を感知するフォトトロピ ンが制御している.つまり,弱い青色光が照射される と,そこに葉緑体が集合するのに対し,強い青色光が照 射されると,そこから葉緑体が逃避する.一方,赤色光 にはそのような応答を示さない.これは,フォトトロピ ンが赤色光は吸収せず,青色光を特異的に吸収するフラ ビンを結合しているからである.また,光の強さにより 応答が逆になるため,青色という光質だけでなく,光の 強さも感知している.

シアノバクテリアはクロロフィルがあまり吸収できな い緑色光や橙色光を吸収し,そのエネルギーをクロロ フィルに伝えるフィコビリソームという集光装置をも つ.ある種のシアノバクテリアは,緑色光を吸収する フィコエリスリンと橙色光を吸収するフィコシアニンを もち,光質に応じてその量比を変化させる(2).つまり,

緑色光下ではフィコシアニンを減らし,フィコエリスリ ンを増やして細胞は赤色を呈する.赤色光下ではフィコ エリスリンを減らし,フィコシアニンを増やして細胞は 緑色を呈する.このような現象を補色馴化と呼び,この 現象を制御する光受容体が同定され,緑色光と赤色光で 可逆的に応答する光受容体であった.この場合も,避陰 応答と同様,見るべき光質と,光受容体の受容光質が合 致し,適応的な現象と言える.

ある種のシアノバクテリアは,光に向かって正の走光 性を示す.この正の走光性を制御する光受容体が複数同 定され,そのすべてが紫〜青色光を受容する光受容体で あった(4).しかし,シアノバクテリアは橙〜赤色光に対 して,強い正の走光性を示すため,橙〜赤色光を感知す る未同定の光受容体が存在し,上記の光受容体群は紫〜

青色光に応答して,橙〜赤色光に対する正の走光性を抑 制すると示唆される.また,ある種のシアノバクテリア は低温光環境(通常の生育温度よりも低い温度で,通常 と同程度の光が照射されている環境)下で,青色光依存 的に細胞を凝集させる(5).低温光環境では,タンパク質 の酵素活性が低下することで,光合成の暗反応が律速す るため,低温光環境は光合成生物にとって強光と似た環 境となる.凝集により一細胞当たりの光照射量は減少す るため,細胞凝集は青色光からの積極的回避と解釈でき る.このように,上述した陸上植物同様,シアノバクテ リアにおいても,青色光は避けるべき光となっている.

進化的に遠いこれらの光合成生物において,なぜ青色光 は避けるべきなのだろう? それについて興味深い知見 がある(6).酸素を発生する光化学系II複合体は強光下で 光阻害を受けるが,その光阻害は二段階で進行し,最初 の段階は紫外〜青色光で誘導される.これは,酸素発生 中心のマンガンが紫外〜青色光を吸収し,それにより酸 素発生中心が壊れると示唆されている.つまり,酸素発 生型光合成は青色光によって損傷を受けやすく,そのた めに,これらの種において共通して青色光を避けるシス テムが構築されたと推察される.

このように,光合成生物は自身が適応した環境や周り

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の光合成生物に合わせて最適化した高度な光応答システ ムを備え,そのシステムは多様化している.そして,多 様化した中にも共通した機構の存在も示唆される.光合 成生物には,ほかにも黄色植物,紅色植物など非常に多 様なものが存在する.これらの生物についても,その光 応答システムが解明されれば,光合成生物の光応答戦略 についての俯瞰的な理解が進むであろう.

  1)  C.  Kami,  S.  Lorrain,  P.  Homitschek  &  C.  Fankhauser :   , 91, 29 (2010).

  2)  T. Ishizuka & M. Ikeuchi : , 7

1159 (2008).

  3)  R. Narikawa, T. Ishizuka, N. Muraki, T. Shiba, G. Kurisu 

&  M.  Ikeuchi : , 110,  918 

(2013).

  4)  R.  Narikawa,  F.  Suzuki,  S.  Yoshihara,  S.  Higashi,  M. 

Watanabe  &  M.  Ikeuchi : , 52,  2214 

(2011).

  5)  Y. Kawano, T. Saotome, Y. Ochiai, M. Katayama, R. Nari- kawa & M. Ikeuchi : , 52, 957 (2011).

  6)  N. Ohnishi, S. I. Allakhverdiev, S. Takahashi, S. Higashi,  M. Watanabe, Y. Nishiyama & N. Murata : ,  44, 8494 (2005).

(成川 礼,東京大学大学院総合文化研究科, 

科学技術振興機構さきがけ)

プロフィル

成 川  礼(Rei NARIKAWA)    

<略歴>2001年東京大学教養学部生命・

認知科学科卒業/2003年同大学大学院総 合文化研究科修士課程修了/2006年同大 学大学院総合文化研究科博士課程修了/同 年日本学術振興会特別研究員 (PD)/2007 年東京大学大学院総合文化研究科助教,現 在に至る.2011年よりさきがけ兼任研究 員<研究テーマと抱負>シアノバクテリア の光応答戦略を分子レベルから細胞・生態 レベルまで詳細に理解したい.また,現在 は理解した光応答システムを基に,その受 容光質や制御ターゲットを改変すること で,細胞を光で制御する応用研究にも携 わっている.入口と出口さえわかれば,応 用利用可能な場合が多いが,なるべくブ ラックボックスをなくし,詳細に理解した うえで応用研究に利用していきたい<趣 味>育児,読漫画,邦画鑑賞

Referensi

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